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「光と影のカプリス 第124話(GS)」

クロト (2007-12-04 20:31)
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 横島は勝つ見込みもないのにタンカを切ったわけではない。シメサバ丸は自分だけでは動けないから、まず式神に麻痺ガスを浴びせて動けなくした後、手首を叩いて刀を取り落とさせてやればこちらの勝ちだと踏んでいたのである。
 煩悩で霊力をアップさせてブレスの威力を上げ効果範囲を広げれば、いかにシメサバ丸が強くて素早かろうと通じるはずだ。それが横島の皮算用だったのだが、結界が消えて防御力が大幅ダウンしてしまってはなけなしの勇気が消し飛ぶのは当然のことであった。
 ただし結界の機能は無くなってしまったわけではない。駄神鞭で特殊なダメージを受けていたところへ横島が「吠えろよ俺の煩悩玉!」と強烈なパワーをかけたため、一時的な機能不全を起こしただけである。しかしさすがはパンドジニウム、恐るべき失敗誘発効果であった。
 まあ竜珠は「横島の体」だから放っておいてもそのうち治るのだが、このままダメージを受け続ければあるいは修復不能になるかも知れない。生身の人間の自然治癒力に限界があるのと同じように。

「ええい、いつまでも逃げてないで、おとなしく拙者のサビにならんか!」
「なってたまるかああ!」

 という事で、横島は思い切り敵に背を向けて逃げまくっていた。
 とにかくブレスをぶつけさえすれば勝てるのだが、それには相手に顔を向けねばならない。しかしシメサバ丸の動きが速い上に部屋もそう広くないので、なかなかそんなチャンスはめぐって来ないのである。空中にいるピートも2人の追いかけっこが目まぐるし過ぎて援護射撃ができないでいた。

(くっ、このままじゃまずい。考えろ、考えるんだ俺……!)

 こうして逃げ回っているだけでは、いずれシメサバ丸に斬り倒されるのは明らかだ。しかし彼が横島1人を標的にしている状況ではカリンを呼んでいるヒマもなければ、宙に浮かんでも加速がつく前に追いつかれて斬られそうな気がして怖かった。
 実は今の横島は肉体を破壊されても死なないのだが、痛みは普通に感じる。妖刀に斬られるなんて絶対に嫌だった。
 そこでとりあえず自分の状態を調べてみると、「結界」と「術の強化」はダメになっていたが、他の機能は問題なく使えるようだった。これで何とかシメサバ丸を出し抜くしかあるまい。

「……って、わーーっ!」

 考え事をしている内に足の動きが鈍っていたようだ。横島はシメサバ丸に追いつかれかけ、後ろからの袈裟切りの一閃が背中にかすってひと筋の裂傷をつくった。

(痛ってぇぇぇ……ちくしょー、考える暇もやらんってか? くっそー、ここがドジ城だってんなら、シメサバ丸の方だって足滑らせて転ぶくらいのドジしてくれたってえーやんか)

 それは気持ちとしてはもっともだが、現実には起こりそうもない妄想である。しかし一応は竜神である横島にはそれを可能にする手段があった。

(いや、これだ! 部屋の湿気を水に変えて床を濡らせばいいんだ)

 以前カリンが「温泉の湯を湯気にして覗きを邪魔する」というようなことを言っていたが、その逆だって然りだろう。この部屋は地下で換気も良くないせいか空気が湿った感じがするので、足を滑らせる程度の水はつくれるはずだ。
 その瞬間に風をつくってぶつけてやればなおいいだろう。うまく行けばまた襦袢がめくれてくれるかも知れないし。

「おおっ、何だかやる気がわいてきた! ようっし、いっちょやったるかー!」

 横島は相変わらず現金な性格をしていたが、戦意が戻って来たのは良いことである。横島はまず壁にそって部屋のすみまで最速でダッシュすると、壁を手で押して90度右に曲がった。
 シメサバ丸は二刀流、つまり両手がふさがっているが足で押すことはできる。見事な重心移動で90度のカーブを果たしたが、なぜかその足元が濡れていた上につむじ風が吹いていたため、シメサバ丸は足が地面についた瞬間に滑って体勢を崩した。

「うむっ!? ゆ、床が濡れておるだと!?」

 どう考えても有り得ない現象だが、事実は事実である。ぶざまに転倒するほどシメサバ丸はのろまではなかったが、しゃがみ込んでしまった体を起こしている間に横島に部屋の真ん中まで逃げられてしまったのは、彼にとって痛恨のミスであった。

「ピート!」
「は、はいっ!」

 部屋のすみという最も動きが不自由な場所に誘い込まれたシメサバ丸に、再び霊波弾の雨が降ってくる。

「うぬ、こしゃくなマネを!」

 右に逃げるか左に逃げるか。シメサバ丸は一瞬迷った後、いったん距離を取るため右に駆け出そうとしたが、その刹那に右の足首辺りが重くなるのを感じた。

「しまった……!」

 それに気を取られて動きが止まった隙に、式神が霊波弾をまともに脇腹にくらってしまった。式神がどうなろうとシメサバ丸自身は痛痒(つうよう)を感じないのだが、彼女(?)がダメージを受ければ動きは鈍くなる、つまり戦闘力が下がってしまうのだ。
 それは困る。シメサバ丸は念波を振り絞って横島の術を破ると、ピートの攻撃には構わずに予定通り右に向かって跳んだ。
 それで何とかピートの攻撃からは逃れたものの、式神は霊波弾を5発ほども食らっていて、もはや彼らと互角に渡り合うのは無理のように思われた。

(こうなればやむを得ん……横島に拙者を持たせるしかない!)

 どうにかして横島の手に刀の柄を握らせれば、それでシメサバ丸は横島を操ることができる。横島を斬れなくなるのは残念だが、二兎を追う者は一兎をも得ないと言うし、それ以外にシメサバ丸が勝つ方法はなかった。
 そうと決まれば、とシメサバ丸は楕円の軌道を描きつつ横島めがけて突進した。直線コースで特攻しないのはさすがにそんな単純なやり方では通じないと判断したからだろうが、そのスピードはやはりさっきまでより一段遅くなっており、横島が対応できない速さではなくなっていた。色仕掛けを使えば別だったかも知れないが、おそらくは男と思われる人斬りマニアにそういう発想法を望む方が酷であろう。

「横島さん!」
「わかってる!」

 横島とシメサバ丸が近づきすぎると、ピートは霊波弾による支援はできない。2人の動きが速いだけに横島に当たる恐れがあるからだが、横島の方はここで自分がやるべきことを十分に理解していた。

「くらええーーっ!」

 と渾身の霊力をこめて麻痺ガスを吹き出す。シメサバ丸は驚いて回避しようとしたが、突進を迎撃する形でブレスを吐かれては避け切れるはずがなかった。とっさに顔を腕でかばえただけでも上出来な方であろう。

「うぬ? こ、これは一体……!?」

 シメサバ丸自身はもともと自分で動く能力を持たない「物体」だから何のダメージもなかったが、式神の方は動きがますます鈍くなっていた。どれだけ念波を送っても、まるで体力を使い果たした老人のように体が言うことを聞かないのだ。

「やった、効いた!」

 式神の動きが止まったのを見て、横島は勝利を確信した。
 だが油断してはいけない。ここはやはり計画通りシメサバ丸を式神の手から叩き落として、次は彼の念波に操られないよう遠くに蹴飛ばしておくべきだ。そうしたら動けなくなった美人式神を存分に堪能することができよう。

「んじゃ見せつけてやる、俺の自慢の煩悩をォッ!」

 妖刀や式神相手にスケベ心を見せつけてどうするつもりなのかは不明だが、とにかく横島はシメサバ丸に向かって慎重に歩み寄った。

「てい」

 と横島はまず式神の右手首に手刀を入れてシメサバ丸を取り落とさせると、左手首を叩いて駄神鞭も放棄させる。
 そしていよいよ美人式神の肢体をたっぷり味わおうとその襦袢の襟に手をかけた瞬間、なんと式神はぼんっと煙を上げて元の紙切れに戻ってしまった。

「うーん、妖刀から離れたせいでパワーが切れてしまったんですかね? 結構ダメージ受けてましたし」

 ピートがようやく戦いが終わったことに安堵したのか、ややのんびりした口調で意見を述べる。シメサバ丸が操っていた式神が最初に現れた鳥たちよりはるかに強かったのは、彼が何らかの力を与えていたか、式神の基本性能を越えて酷使していたからだろうし。
 しかし横島はそんな解説など聞いていなかった。さっき蹴飛ばした妖刀のもとへ跳躍し、横向きに転がった刃をぐりぐりと踏みつける。

「てめー、人をさんざん痛めつけたあげくご褒美タイムの直前でパワー切れとはどーゆー料簡だ! ぜってー許さん、おまえがッ、泣くまで、殴るのをやめないッ!」

 と横島が竜気をこめた拳で刀の鍔(つば)を殴りつけると、さすがに痛かったのかシメサバ丸は哀れっぽい声で言い訳を始めた。

「待て少年、式神が紙に戻ったのはお主が拙者をはたき落としたからぐおっ!」

 シメサバ丸の台詞は一応事実だが、横島にとって納得できることではない。だって刀を捨てさせなければ、それこそいつ斬られるか知れたものではないのだから。
 というわけで、横島は怒りをこめた第2撃を容赦なく叩きつけた。鍔にびしりと深い亀裂が入る。
 そしてとどめの3発目でシメサバ丸の鍔は砕け散り、そこに浮かんでいた眼と口が消えてただの金属片に成り果てた。


 鍔がなくなったシメサバ丸からはまったく霊気を感じなくなっていたが、成仏したとは言い切れない。横島はまず刀を鞘におさめると、着ていたジャケットで駄神鞭といっしょに固く縛りつけた。これでもし復活して誰かを操ったとしても、ジャケットをほどくまでの間に取り押さえることができるはずだ。

「はあ、疲れた……ところでピート、せっかくだからあの戸棚の中調べとくか?」

 横島はさっきは「変なお宝なんかどーでもいい」と言っていたが、もらえる物ならもらっておきたいと思うのは当然の人情である。魔鈴の言葉を信じるならシメサバ丸と鳥たちは宝の番人なのだろうから、あの戸棚の中にはきっと何かお宝があるはずなのだ。

「そうですね、見てみましょうか」

 ピートとしても唐巣へのみやげになるようなものがあれば喜ばしい。魔鈴はここにあるお宝を持ち帰るのが悪いことだとは言ってなかったし、遠慮することはなかろう。
 同行者の同意を得た横島はさっそく戸棚を開けてみたが、期待に反してそこにあったのはおそらくシメサバ丸が使ったのであろう式神ケント紙らしき紙の束と、それを押さえている重石(おもし)代わりの文鎮だけだった。
 横島は少し落胆したが、その文鎮は竜の形をしているだけでなく黄色っぽい光沢まで放っており、なかなかの値打ち物、というかお札を書く時に使ったら気分が乗ってきそうである。

「へえ、これは琥珀ですね。なかなか綺麗な細工じゃないですか」

 さすがピートは700年も生きているだけあって、宝石の類にも多少は目が利くようだった。ちなみに琥珀とは樹脂が土砂に埋もれて化石になったもので、植物でありながら宝石として扱われている珍しい物質である。

「じゃあこれって宝石なんか。そっか、ちょっとはまともな物も置いてあるんだな」

 カリンにやったら喜びそうだな、と軽い気持ちで手に取ってみた横島だが、彼の認識力はやっぱり曇っていた。この重石「琥珀のドラゴン」は強大な魔力がこめられた魔法の品でありながら、一般人にはそのパワーが感じられないため文鎮としてしか使われなかった非業のアイテムなのだ。
 むろん竜の形をしているのも伊達や酔狂ではない。そしてそこにこめられたドラゴンの魔力が横島の体内にある同種の力と共鳴して輝き始め、まるで所有者と認めたかのように彼の腕の中に流れ込んでくる。

「おおっ、こ、これは……!?
 なじむ! 実に! なじむぞ!
 フハハハハ、フフフフフハフハフハフハ!!」

 ぼりぼりと頭をひっかきながら、気持ち良さそうに高笑いする横島。どうやら「琥珀のドラゴン」から流れ込んでくる魔力がよほど心地良かったらしい。
 だがすぐに正気に戻り、なぜかちょっとばつ悪そうな顔でピートの方を顧みた。

「ああ、すまんピート。これはおまえがやるべきネタだったよな。横取りしてすまんかった」
「いえ、僕はそういう悪っぽいのはちょっと……」

 と額全体に縦線効果を入れながら答えるピート。どうやら横島のパフォーマンスはあまりお気に召さなかったらしい。

「それより戦いも終わったことですし、カリンさん呼んだ方がいいんじゃないですか?
 横島さんが結界使えなくなった理由とか、あの刀と棒のこととか、彼女に聞いてみた方がいいと思うんですけど」
「……そーだな。怒られそーだけど仕方ないか」

 ピートの話題変えはかなり露骨なものだったが、横島としてもいつまでも遊んではいられないし、結界を使えない今身の安全を保つには彼女の力を借りるしかない。
 そして横島の頭上に現れた影法師娘は、彼の傍らに降り立つと思い切り白っぽい眼で煩悩少年をねめつけた。

「……。ついさっき『あまり心配させるな』と言ったばかりだろう。もう忘れたのか?」
「……」

 じっとりとして、それでいてしつこい視線に横島はだらだらと冷や汗を流したが、さいわいカリンは今は深く追及する気はないようだった。

「今は長話してる場合じゃないから何も言わないが、帰ったら小一時間ほど説教だからな。まったく何が不足で……。
 それでおまえとピート殿の聞きたいことだが」

 とカリンはそこでいったん言葉を切った。どう話すべきか考え込んでいる様子だったが、すぐに普段通りの顔で説明を始める。

「おまえが結界を使えなくなったのは、あの棒で妙なダメージを受けたところへ、『吠えろよ俺の煩悩玉!』などと過大な負荷をかけたから煩悩玉が機能不全を起こしたんだ。生身の体にたとえるなら、手首を捻挫して動かなくなったというところかな。
 まあそれだけなら明日か明後日には直ってたんだが、その文鎮から来た魔力のせいで完全に壊れた。もう2度とあの結界と術の強化は使えない」

 術の強化と結界は元が禍刀羅守や剛練武から与えられた武器と防具なので、横島自身が体得したリジェネレーションや小竜姫からの授かり物である竜気貯留機能に比べると壊れやすいのだった。令子が妙神山の試練のときに「このままじゃせっかくの鎧もダメになる」と言っていたように。
 もっとも一部の機能が壊れたからといって他の機能に悪影響はないし、横島の竜珠は普通の生物や機械とは違うから治療とか修理をする必要はないのだが。

「え゛……!?」

 横島の顔がさーっと青ざめる。術の強化は煩悩全開とかで補えるからまあいいとして、今まで頼りまくってきた結界が2度と使えないなんて、これは霊能者として致命的な事態ではないか!?
 カリンは「こんな場所でよその女にうつつを抜かしてるからこういう事になるんだ」と言わんばかりだったが、ピートの前だからかあえて口には出さず、逆に横島にとって救いになる事実を話し始めた。

「まあ悪いことばかりじゃないがな。それこそドラゴンのように頑丈になったし、体力も上がってる。
 ……そうだな、ブラドー島で吸血鬼になった時と同じくらいかな? もしかしてドジの城で変なネタに走ったせいかも知れんな」
「……ほっといてくれ」

 カリンは一応力づけてくれたようだが、横島にはあまり励ましにはならなかったらしく、壁に向かって体操座りしてしくしく泣いているままだった。いくら頑丈になっても攻撃を受ければダメージゼロではない以上、完全にブロックしてくれる結界の方がいいに決まってるから。
 カリンはやれやれと両手を腰に当てて、

「まったく……おまえに結界がついたのはついこの前のことなんだから、元に戻ったと考えればそんなに悲しむほどの事じゃないと思うが。
 それにほら、私にプレゼントをくれるつもりだったんだろう? そんな顔でよこされてもうれしくないぞ」
「…………」

 横島は基本的にはお調子者だし女の子には弱いから、恋人にここまで言われれば多少の元気はわく。のろくさと起き上がってもう1度文鎮を取りに行ったが、途中でぴたっと足を止めた。

「……って、あれにさわって大丈夫なのか? またエネルギーが来て残った機能まで壊れたらシャレにならんぞ」

 さすがに横島も数々の失敗にかんがみて慎重になっているようだが、カリンは逆に平然と、

「いや大丈夫だ。魔力は残っているが、こちらに流れ込んでくるようなことはもうない」

 と顔の20センチくらい前に浮かんでいる極薄の液晶板のようなものを見つめながら答えた。それにはくだんの文鎮が映っており、その脇には何やら小難しそうな表やらグラフやらが表示されている。

「……?? 何だそれ?」

 と横島が横から覗き込みながら訊ねると、少女は恋人の方に顔を向けて、

「私の霊視能力だが、こうして映像として投影できるようになったんだ。
 どうやらおまえにドラゴンの肉体的なパワー、私に神秘的な側面が流れ込んできた、という構図みたいだな。私の方にマイナスの影響がなかったのはそのせいかも知れん」
「へええ……」

 ディスプレイには確かに「危険なし」と緑色の文字が表示されている。横島は一応安心して、それでもおずおずと手を伸ばして文鎮をつまんでみたが、影法師娘の言葉通り怪しいことは何も起こらなかった。
 ただこれを今ここでカリンに渡してもダンジョン探索の邪魔になるだけである。横島はとりあえず、文鎮をズボンの前ポケットに押し込んだ。
 一方その間にピートがシメサバ丸と駄神鞭を指差して、

「カリンさん、あれの方は分かりますか?」

 ともう1つの懸案について訊ねていた。するとカリンは首を軽く横に振って、

「いや、あれは私にもよく分からない。シメサバ丸にはもう霊気は残っていないが、美神殿だってあの時そう思ったはずだからな。放っておいたらまた復活する可能性はある。刀身も柄も粉々にしてしまえば確実に往生するだろうが。
 棒の方は何か得体の知れない霊具だな、正直言って理解できない。持った人間が操られるとか呪われるとか、そういう事はないと思うが……」

 どうやらパワーアップした霊視能力にも限界というものがあるようだ。カリンはそこで言葉を区切ると、処置の仕方のほうに話題を移した。

「しかしここで壊している時間もないし、持って行って魔鈴殿か小竜姫殿に鑑定してもらうのが1番だろうな。シメサバ丸は刃先をおキヌ殿が包丁にしていたくらいだから、他の部分も美神殿が引取っていたのかも知れないし」
「そうですね。じゃ、僕が持って行きましょう」

 とピートが女性に気を使ったのか荷物持ちを申し出たが、その時にはすでに横島が刀も棒も式神ケント紙も全部かかえて持っていた。

「いや、荷物運びなら俺に任せろ。美神さんとこで慣れてるからな。
 そのかわりバトルは頼んだぞ!」
「「……」」

 煩悩少年の見事なヘタレっぷりに影法師娘と半吸血鬼は激しく脱力したが、カリンは彼ともっとも身近な関係にあるだけにすぐ立ち直ると、じろりとひと睨みして釘をさす。

「今はそれでいいが、魔鈴殿たちと合流したらちゃんと護衛を務めるんだぞ。
……それじゃずいぶん時間を取ってしまったことだし、早いところさっきの場所に戻ろうか」

 カリンはそう言って天井を見上げたが、なぜか少し困ったような顔をした。横島が不思議そうに、

「どうかしたのか? カリン。あ、もしかして天井に何か魔法が仕掛けられてるとか」
「いや、そうじゃない。さっきので瞬間移動(テレポート)もレベルアップしたんだが、今の能力じゃ壁は越えられないんだ」

 要するに帰還に使うとき以外は視界範囲内にしか移動できないという事である。実は霊視も肉眼で見える範囲しか視ることができないからヒャクメ辺りと比べるとかなり不便だが、この辺りは今後の成長に期待というところだろう。
 もっともカリンだけなら壁抜けして行けるのだが、それでは横島とピートを連れて行くことができない。

「なら天井壊して行けばいーんじゃねーか? どーせ落とし穴だったんだし」

 と横島はひどい目に遭っただけに攻撃的な反応を示したが、モラリストのピートも今回はあまりこだわっていられなかったらしく、

「そうですね。じゃ、僕が」

 と頷いて、さっき自分たちが通った天井にダンピール・フラッシュを放つ。天井はそれなりに頑丈に作られてはいたものの、霊波弾による集中攻撃までは想定していなかったようで、あっさり破壊されて人が通れる程度の穴がすぐにできてしまった。落ちたルートを逆方向に移動して、ようやく元の場所への帰還を果たす。
 こうして横島たちは何とかルール違反のペナルティを乗り越えたのだが、開き直って堂々と女の子と同行することにした以上、この先の道も決して安全とはいえないのだった。


 ―――つづく。

 横島君はよりドラゴンっぽく、カリンはよりセイ○ュートっぽくという方向で行ってみました。しかしカリンがこのまま成長するとヒャクメが用無しになるようなw
 ということでまたスペックを挙げておきます。

○横島忠夫
 霊圧 :110マイト
 スキル:竜珠(竜気の貯留、天候操作、飛行、お裾分け機能つきリジェネレーション)、麻痺ガスのブレス、煩悩全開(通常版及び竜気共鳴版)、陰陽術(金縛りの術、破術の法、霊能アイテム作成)、霊的格闘(三流)、復活(ギャグ)、人外キラー、悪運、商才
 解説 :幽体離脱すると九頭竜の姿に変身することができます。また軽めながら妙神山の地脈に括られており、彼の霊体は日本国内では常時霊力の供給を受けられます。肉体的にも原作3巻で吸血鬼になった時と同じくらい強靭です。

○カリン
 霊圧 :横島と同じ
 スキル:ブレス(火炎、熱線ビーム)、霊視(一流、ただし視界範囲内のみ。映像として投影できる)、瞬間移動(帰還/視界範囲内、他人を同伴できる)、超加速(共鳴中のみ)、陰陽術(横島と同じ)、剣術(一流)
 解説 :人間の姿と竜の姿を自由に使い分けられます。竜の姿になると飛行速度やブレスの威力など身体能力が向上しますが、サイズが大きくてパワーも強い分消耗も大きくなります。

○タマモ
 霊圧 :400マイト
 スキル:幻術、変化の術、狐火、各種お揚げファイヤー、横島との人狐一体、お揚げ道(ぉ
 解説 :猿神の修行を経て大幅にパワーアップしました。

○小竜姫(本名:敖凛明(ごうりんめい))
 霊圧 :8万マイト
 スキル:剣術(超一流)、超加速、瞬間移動(帰還のみ)、ヒーリング、お札作成、断固仏罰剣
 解説 :人界での再修業と横島との婚約によって大きく成長しました。成竜になり、竜の姿になっても理性を保っていられます。

○令子、キヌ、魔鈴、ヒャクメ、冥子、エミ、愛子、唐巣、ピート、雪之丞、鬼道、峯、弓、ブラドー
 原作の「サバイバル合コン」編直前と同じです。

○美智恵
 原作のひのめ出産後と同じです。

○朧(地球での名乗りは月詠 朧)
 霊圧 :200マイト
 スキル:ヒーリング、寿司調理(伝説級)

○神無(地球での名乗りは月詠 神無)
 霊圧 :200マイト
 スキル:剣術(1.5流)、寿司調理(伝説級)

○シロ
 原作のフェンリル編後+霊波刀投げの技を使えます。

 ではレス返しを。

○遊鬼さん
>シメサバ丸
 刃先の方はおキヌちゃんが持ってますのでw
>パンドジニウム
 すごいけど間抜け、そんな城を目指してます。
>横島君らしい戦い方
 外付け理性装置も保護対象もいませんからねぇ。むしろこれが本性なのですよーw
>女性陣
 次回は峯さんや魔鈴さんのどじっ娘ぶりを輝かせてやりたいものです。

○ねこさん
 そのあほを極めるのが煩悩魔人の生き方なのです!

○Tシローさん
 ご祝辞ありがとうございますー。
 この城には確かにすごいアイテムが眠ってますが、たいていロクでもない副作用がついてますw
>ヒトキリ丸
 このSSでは折られてないので、残念ながら出て来ませんですorz

○なぎささん
 話の進みが遅いのはこのSSのデフォなのですorz
>横島
 奥さんズがいないとこんなもんですw

○whiteangelさん
 変なことばかりすごいのが横島君の真骨頂ですからねぃw
 他にどんなアイテムが出て来るかは先をお待ち下さいませー。

○zamzamさん
>炎の狐
 そう言えばそんなのもありましたねぇ。横島君の非人間的な魅力に惚れ込んでましたし、出て来る可能性高そうですな(ぇ

○KOS-MOSさん
>駄神鞭
 小竜姫さまが保有することになったら横島君とヒャクメさんは大ピンチですw
>横島
 彼もまだ17歳ですからねぇ。たまにはバカをやりたいのではw

○紅さん
>横島君
 99%くらいまでは自業自得のような気もしなくはないですけれど(^^;

○ばーばろさん
>それで欲情しなかった
 そんな、もったいない<マテ
>ピンクの突起で
 シメサバ丸のこだわりっぷりが光ってるのですw
>シメサバ丸
 当初は中編で終わる予定だったのがこんなに延々続いてる代物なので、展開に節操がないのですよー(ぉ
>駄神鞭
 だからこそパンドジニウムなんぞに奉納されてるのでありますw
>ドジっ娘大暴走
 次回こそはorz
>漢のロマン
 確かにもっとも相応しい色ではありますよねぇ(何が)。

○Februaryさん
>男女別の理由
 実は本当にお風呂があるという展開を考えてたりしなかったり(ぉ
 でも洋風の城なので湯船の風呂は変だし……うーむ。
>マヌケ扱い
 令子さんの策にはまって折れちゃったわけですからねぇ。
>すばらしいお仕置きアイテム
 というか、ダ女神専用になってしまうのですがーw

○gaさん
 そこはそれ、横島君にはそれを拝むだけの幸運度がなかったということで(酷)。

○風来人さん
>漢ですな
 スケベのために生きてる男ですからねぇw
>シメサバ丸の昔の主
 また斜め下な展開を考えておりますが、使うかどうか悩んでるところであります。
 姫様と顔合わせる可能性もありそうですし(w
>駄神鞭
 むしろ効かない神様の方が少ないようなw

○スカートメックリンガーさん
>ロボット犬
 むう。確かに彼もマヌケでしたが、カオスがいないこのSSで出すのはかなりの問題が(悩)。
>何故だかデメリットばっかりなのが実に横島らしいです
 おお、言われてみればまさにその通りですね。さすが横島、不運度で右に出る者はいないって感じですな(酷)。

○cpyさん
 私の拙文で原作を読み返す気になったとは光栄であります。
 仰る通り、横島君は珍しく男とのコンビでがんばりました。
>懐かしい敵
 GSはおまぬけなキャラが多いですからねぃw

○山瀬竜さん
>駄神鞭
 わざわざそんな敵にぶつかってしまう辺りが彼の運の悪さを象徴しております。
 まあ女性陣が戦ってたら死人が出かねない強敵なので、むしろ良かったとも言えるんですが、その辺りも横島君なのです(酷)。
>見境が…、無いから妖狐に影法師に竜神が恋人なんですよね
 ザッツラーイト!!!
 普通の人なら彼女にしようとは思わない相手ばかり選んでますからw
>GSの世界じゃ物に事欠かないんじゃ
 持ち帰りきれないほどの収穫が見込めそうですな。
>横島君が死した後、この万ドジ殿に奉納される煩悩玉
 思いっ切りあり得そうで笑えますなwww
 玉座のすぐ脇とかに飾られてるのに誰も持って行こうとしないとか(酷)。
>女性組
 次回こそはorz

○通りすがりのヘタレさん
>駄女神の後釜を継ぐことになる?
 たぶん奥さんズが愛にかけて阻止するかとw
>男性陣
 中世ですから罰則も厳しいのですよー。
 横島君は……勝ちはしましたがいろいろとダメージが大きいようです。
 ピートは善人なので無傷でしたけどw

○読石さん
 ねぎらいのお言葉ありがとうございますー。ほかの作者のみなさまも触発されてペースアップして下さると嬉しいのでありますが。
>横島君
 まったく、3人も彼女がいる男がやることとは思えませんw
>タダスケ
 それはあまりにタダスケが可哀そうなのではw

○モリケンさん
>シメサバ丸
 残念ながら逆に横島君の逆鱗に触れて倒されてしまいましたorz

○チョーやんさん
 ヒドいw
 横島君ってもともとこんなヤツなのにww

○エのさん
>そういえば横島って駄目神だったなぁ
 は、実はそうだったのでありますよー。
>ピートに竜神化がばれる事は無かったけど
 彼はあれが駄神鞭だと知ってたわけじゃありませんからねぇ。単に妙な霊力がこもった棒ぐらいにしか認識できないわけです。
>女性陣
 次回をお待ち下さいませorz

○とろもろさん
 楽しんでいただけてるようで幸甚であります。
 しかし本当にGSはアレな終わり方をしたアイテムが多いですな。というかあの石像はシャレにならないような(^^;
>横島君
 カリンが復帰したので、次からはちょっとはまともになってくれるかと思います(^^;
>某駄女神が自分に使われるから、こっそり隠したに違いない
 なるほど、その説は信憑性が高いですな。そして回収されてしまったことを知って号泣する、と(ぉ
>横島君の結界が張れなくなったのは
 こういう顛末でありました。

○鋼鉄の騎士さん
>ドジ城
 本命のどじっ娘たちの活躍はこれからですので、ぜひご期待下さいませ<マテ
 アイテムもいろいろ発掘する予定ですよー。
>横島流石だ
 は、これが彼の本領でありますw
>ちょいえっち
 ではその方向で(ぇ

○UEPONさん
>式神に破術使えば一撃のような気がしますが
 まったくその通りなのですが、横島君はやりたがらないどころか考えもしませんでしたw
 原作アシュ編では3姉妹にいきなり文珠をぶつけたりもしてましたが、ここでは頑張れば勝てそうなだけにスケベ方面にばかり頭が回ったわけであります。
>式神の方
 あれって壊れると紙に戻っちゃうんですよねぇ、残念にも。
 横島君は式神製作に興味を持つかも知れませんが、問題は奥さんズをどうだまくらかすかですな。
>駄神鞭
 本当に小竜姫さまに献上されそうで、ヒャクメさん大ピンチですw
>横島君はホント好き勝手やってますね
 カリンにバレることは承知してるのですが、それでも突っ走るのが横島君ですから。
 しかしここまでやっといて搾り取ってもらえるとしたら恐ろしいまでの果報者ですなヾ(´ー`)ノ
>強い悪霊は襲ってくるので掃除で浄霊は無理かと思います
 確かにそうですねぇ……でもそれだと魔鈴さんが当面は除霊できた事実が説明できませんし、何か防御技でも使ったんでしょうか。
 それとも原作で出て来たアレはザコだったとか?

○ぞらさん
 うーん、違和感ありましたか。パンドジニウム編は初めからこういう構想で書いていたのですが、小説は難しいですね。
 ここの横島君はシリアスでも自動再生できるのですが、一応限界はあるのでこんな流れになりました。
 もしかしたら前回より違和感あるかも知れませんorz

   ではまた。

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