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「二人三脚でやり直そう 〜第四十七話〜(GS)」

いしゅたる (2007-12-01 20:51)
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「あれ? 銀ちゃん?」

 試験会場の武道館内。
 かおり、魔理、愛子に詳しい話をするため、昼食も兼ねて食堂へと向かう道すがら、横島は進行方向に見慣れた人物がいたのに気付いた。
 小奇麗なスーツ姿の女性が一人と、その他数名の男。そんな一団に囲まれて何事か話していたのは、近畿剛一――銀一だった。

「お……」

 そして、向こうもこちらに気付いたようだ。

「それじゃ、あとは打ち合わせ通りに……」

「はい。ではまた後で」

 ちょうど、会話の切りが良いところだったのだろうか。彼らは早々に会話を切り上げ、別れる。
 そして銀一は、去って行く彼らを尻目に、横島たちの方へと向かってきた。

「横っち! 美神さん!」

「銀ちゃん、今のは?」

「テレビ夕日のスタッフたちや。ワイドショーの特集で取材に来たらしくて、運悪く鉢合わせしてもーてな。こっちはオフ取っといたんやけど、拝み倒されて特別出演することになってもーた」

「売れっ子も大変やなぁ」

「まったくや。オフ返せっちゅーねん」

 苦笑する横島に、銀一も苦笑で返す。
 ――と。

「ちょうど良かったわ」

 笑い合う二人に、横から美神が近付いて来た。

「私たち、今から昼食がてらこれからのこと話し合うんだけど、一緒に来る?」

「あ、お供させてもらいます」

 美神の提案に、銀一は快く頷いた。


「……そう。そんなことに……」

 横島と美神の説明を聞いたかおりは、沈痛な面持ちでうなだれた。
 窓際に配置された6人掛けのテーブルには、窓際から銀一、美神、横島、対面する席には魔理、かおり、愛子の順で座っている。ちなみに愛子の机は、通路側に置かれていた。この構図は、事情を知る者と知らない者とで、見事に線引きされている形だ。
 テーブルの上に並べられた料理も、話し手側の料理は全てなくなっているのに対し、聞き手側の料理は半分以上が残っており、なおかつそこから食を進めようという気配はない。

「ねえかおり、さっきの人……」

「あ……そういえば……」

 一通り話を聞き終えた愛子が、うなだれるかおりに話しかける。その言葉に、かおりは何かに気付いたかのように愛子の方に視線を返した。

「どうかした?」

「いえ、さっき私を除霊しようとした受験生がいたって話したと思うんですが……」

「その方、白龍会の所属なのです」

「そういえば、一次試験の時におキヌちゃんの傍にいたような……」

 美神の言葉に、愛子、かおり、魔理が口々に答えた。

「まさか、あれが魔族などの手下だったなんて……」

 かおりのぼやきに、魔理が「道理で目つきの悪い不良面してたわけだぜ」などと舌打ちする。
 だが、「背が低い」「マザコン」など、その人物の特徴を聞いた横島はというと――

「あーそりゃ雪之丞だな」

 彼女らが会ったというその人物に当たりをつけ、気楽な口調で告げた。

「知ってるんですの?」

「ああ。名前は伊達雪之丞。性格は……そうだな。一言で言えばバトルジャンキーって奴だ。メドーサの手下になったのも力を欲してってところだろうけど、根は悪い奴じゃないぜ。あいつなら、上手くすれば『こちら側』に引き込めるかもしれないけど……」

 言った後で、「実際、香港では仲間になってたしな」と胸中でこっそりと付け足す。

「なあ、横っち。バトルジャンキーって……やっぱりアレなんか? 真剣勝負で殴り合ったら和解するとか、そういうの」

「そーやなぁ。なんやかんやで単純な奴やし、どっちかっちゅーと集○社寄りのキャラやし」

「なるほど。っちゅーたらやっぱ、倒せば仲間になりたそうな目でこっちを見るんか?」

「そりゃエ○ックスやろ。確かにデザインは集○社系やけど。それにアイツにそんな目をされたら、思わず殴り倒すと思うぞ、俺」

「あ、あの、近畿くんに横島さん、そういう会話は……」 

 少々会話が危険な方向に向かい出した大阪出身の馬鹿二人。かおりが冷や汗をかきながら二人を止めた。

「ま、この二人の駄弁はほっといて、今のところ問題なのは、おキヌちゃんがなんで奴らに手を貸しているかってことよね。もし何かの弱味を握られていたとしたら、下手な動きは事態の悪化に繋がりかねない」

「迂闊には動けないってことですか……」

 横の二人を無視して話を進める美神の言葉に、愛子が真剣な表情で頷く。

「そう。今の状態で出来ることといえば、私と小竜姫さまが外側から白龍会を調べつつ、横島クンがおキヌちゃんたちの様子をさりげなく観察……そんなところね」

「うーん……俺なんかに出来るかなあ? さりげなくってあたり、特に」

「あんた、そういうのは不器用そうだしねぇ……でも他にいないし」

「しゃーないなぁ」

 その言葉に、横島は「たはは」と苦笑した。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第四十七話 誰が為に鐘は鳴る! 一日目・後編〜


 ビィィィィィッ!

『時間です! 選手たちが入場してきました』

 試験開始の合図であるブザーが鳴り響き、会場に選手128名が入場する。
 各々、自らの除霊スタイルを現す霊衣を身に纏い、その様相はまるで仮装大会である。統一感のないその集団の中には、横島は元より、タイガー、カオス、ピート、鬼道、白龍会のメンバーといった顔ぶれも、しっかりと混じっていた。

『第一試合は128名、64試合が行われます。今回の審判長・晴野氏、組み合わせを決める『ラプラスのダイス』を振ります!』

『ラプラスのダイスはあらゆる霊的干渉をよせつけず、運命を示すサイコロある。このサイコロで決められたことは、絶対公平かつ宿命あるね』

 山伏の格好をした審判長がサイを振る横で、実況の枚方と解説の厄珍がそれを説明する。それを右から左に聞き流しながら、横島は気の抜けた顔でぼーっと突っ立ってた。

『……横島。何を呆けている?』

 そんな横島に、心眼が声をかける。

『試合の組み合わせがもうじき決まる。気を引き締めておけ』

「気を引き締めておけって言われても……最初の試合って、カオスのおっさんだろ? 避け続けてれば、すぐに銃刀法違反じゃねーか。今はそんなことより、おキヌちゃんの方が気になるわい」

『何を阿呆なことを言っている』

 何の気も無しに口にした台詞に、心眼はさも呆れた様子でツッコミを入れた。

『今の説明を聞いていなかったのか? ラプラスのダイスは、運命を決めるものだぞ? 今回は逆行前とは状況が違い過ぎる。お前の実力は今の時点で、既に香港の事件の時を越えているし、ミカ・レイもいなければ逆におキヌ殿が出場している。ダイスが示す運命は、変わって当然のものと思え』

「……マジか?」

『嘘を言ってどうなる』

 心眼の説明に、当てが外れたといった表情になる横島。
 やがて組み合わせが決まり、横島の手に収まった紙には『3』の数字。

「3番コート……」

『だから言ったであろう。この時点で既に変わっているぞ。おキヌ殿のことはとりあえず置いておき、今は目の前の試合に集中しろ。母上殿も見ていることだしな』

「え? 来てんのか?」

『うむ。あそこだ』

 言って、心眼が示した先を目で追う。すると、そこで座っている百合子と目が合い、彼女はにっこりと笑って手を振った。

「…………」

『来ると言ってたのだ。いるのは当然だろう。無様な試合はせんようにな』

「あ、ああ……わかったよ」

 そんなやり取りをしながら、向かった3番コート。そこにいたのは――

「九能市氷雅、18歳です。お手やわらかにお願いしますわ」

「燃えてキターッ!」

『……やれやれ……』

 対戦相手を見るなりいきなり無駄に燃え上がる横島に、心眼はため息を付いた。百合子の存在を速攻で忘れているような気がしないでもない。

「くっくっくっ……覚えてる、覚えてるぞ……確か霊刀使いのえっちなねーちゃん!」

『まあ、やる気になるのは結構だし、今のお前ならば私の補助がなくとも勝てる相手だろうが……あまり羽目を外し過ぎるなよ?』

「前は余裕なくていっぱいいっぱいだったが、今の俺なら大丈夫! 今度こそ組んずほぐれつ格闘をーっ!」

『きーとるのか、お前』

 心眼はツッコミを入れるものの、それが届いた様子はなく、横島はふんふんと鼻息を荒くするだけだった。
 そして――

「試合開始!」

 審判の開始の合図がかかる。
 同時――

「横島いっきまーす!」

 様子見など一切無し。俺は最初からクライマックスだぜ!とでも主張するかのごとく、いきなり飛び込んだ。
 しかしそれを迎え撃つ九能市は、ふっと口元に微笑を浮かべ、マントの下に右手を入れる。そして――

 キンッ!

「なにっ!?」

 九能市の表情が、驚愕に彩られた。
 彼女の放った必殺のタイミングの居合い斬りが、横島の霊波刀によって受け止められていたのだ。

「くっ……霊波刀ですって……!? しかも、私の居合いに反応して受け止めるなんて……!」

「甘い! サッカリンより甘いわ! こちとら小竜姫さまのシゴキっつー名のオシオキで何度も三途の川のメドレーリレーした挙句、カロンと飲み友達にまでなったぐらいだ! そんな剣速、蝿が止まって見えるってもんだぜ!」

「言ってる意味はよくわかりませんが、どうやら油断できる相手ではなさそうですね……!」

 九能市は剣を弾いて間合いを取った。

「相手にとって不足なし……この霊刀ヒトキリ丸の最初の餌食にして差し上げますわ。実を言うと私、生きた人間を斬るのは初めてなんですの……うふふふふ」

 言いながら、彼女は不敵な――と言うよりむしろ、アブない笑みを浮かべた。


 一方――

「……8番コート……」

 8と書かれた紙を手に、おキヌは浮かない顔で指示された方向へと向かっていた。
 一次試験は、やや不安はあったもののどうにかクリアした。元々それほど霊力の高い方ではなかったが、以前竜神王に霊波の出力を高めてもらったのが幸いしたのだろう。
 だが、二次試験は実戦である。白龍会道場でも、実戦形式の組手を行う段階にすら到達していなかったおキヌにとって、この先順当に勝ち上がれるとは思えなかった。

 そして、彼女が向かった8番コートで待ち構えていたのは――

「ん? 嬢ちゃん、おぬしか」

「……え?」

 真っ黒いマントに身を包んだ背の高い老人――ぶっちゃけ、ドクター・カオスだった。


『む……横島、8番コートを見ろ。おキヌ殿の試合が始まったようだぞ』

「なに?」

 どうやって目の前のねーちゃんを料理しようかとピンク色の妄想に浸っていた横島だったが、心眼の言葉に反応し、彼の示した先に視線を向けた。
 そこには、カオスとマリアの二人を前に、「あうあう」と追い詰められた表情で後じさりするおキヌの姿。

「うわ、相手はカオスのおっさんかよ……」

『さて、どうなるか……まあ、大事には至らぬだろうがな。それよりも、前』

「へ? ――うわっち!?」

 ヒュンッ!

 心眼の言葉に、前方に注意を戻した横島は、慌てて身をかがめる。その頭の上を、九能市のヒトキリ丸が、横薙ぎに通り過ぎた。

「試合中に余所見とは、余裕ですね」

「うおー……あっぶね……」

『確かに8番コートを見ろとは言ったが、注意を怠れと言った覚えはないぞ。修行不足だな』

「うっせ!」

 厳しいコメントを投げかける心眼を一喝し、横島は――

「え!?」

 驚く九能市の顔が、急速に迫る。横島は一旦離れるということはせず、むしろその間合いをほぼゼロ距離まで詰めた。
 そして、肩と頭を使ってその胸に強烈なタックルをぶつけた。バランスを崩した九能市は、そのまま仰向けに倒れる。
 ――なお、その胸に顔をうずめることができた一瞬、横島の顔がだらしなく緩んでいたのは言うまでもない。

「うっしゃー! 横島、今度こそいきまーす!」

 そして、仰向けに倒れたその(色々な意味での)チャンス、逃がす横島ではない。すかさず覆いかぶさり、追撃に入る。

「グラウンドで勝負をかけるつもりですか? 笑止!」

 しかし九能市は、とっさに身を捻って倒れ込んだ横島の背後に回る。そしてその首に腕を回し、チョークスリーパーホールドの体勢に入った。

「ぐえ!?」

「私を霊刀だけの女と見たようですが、むしろ刀など不要! 忍びの極意は己のすべてを凶器とすること! 霊的格闘モードになれば、グラウンドでの攻防において、負けはありえませんわ!」

 言いながら、ギリギリと横島の首を絞める。

「のおおおおおーっ!」

 そして締められている横島の方というと、絶叫を上げるばかりだ。

「さあ、大人しくギブアップなさいませ!」

「んのおおおおおーっ!」

 九能市は降伏勧告をするものの、横島は絶叫を上げるばかりでギブアップ宣言する様子はない。九能市は、ならば本気で落とすまでとばかりに、締める力を強めた。


 ――ところ変わって、観客席――

「……何やってんのかしら、あの馬鹿……」

 その試合を見る一つの視線――横島の母、百合子が苛立たしげにつぶやいた。

「あの叫びは苦悶じゃなくて、むしろ喜悦ってところね。絶対、背中の感触を楽しんでるわ。やられてる本人が気付いてないとはいえ、年頃のお嬢さんにセクハラするなんて、一体誰に似たのやら……」

 横島忠夫、順調に死亡フラグ育成中だった。


 30秒が経ち、1分が経ち、3分が経った。

 しかし一向に、横島が落ちる気配はない。それどころか、彼の霊力は時間と共に増していき、その全身を覆っている。九能市の仕掛けている締め技も、その霊力の膜に阻まれ、効いていない可能性すらあった。

 ちなみに、彼女は知らないことであるが――

 煩悩を霊力源とする横島は、今この時、背中に当たる柔らかい感触を全身全霊で堪能していた。霊力の上昇はそのせいである。現に、締められている彼の表情は、だらしなく緩みまくっていた。
 ついでに言うと、ここまで霊力が上がれば耐えるのは元より振り解くのも至極簡単な話なのであるが、それをあえてしないのも、横島ゆえのことだろう。

「はぁーん……ええ感触やー……」

「くっ……もしや、効いていない!?」

「この背中に押し付けられる二つの果実……やーらかいなー。役得やー」

「っ!」

 恍惚としたその言葉に、もはや無駄と悟ると、彼女は即座に手を離して間合いを取った。
 天国の感触が突然離れたことに、横島は至極残念な顔をする。対して九能市は、戦慄した表情でヒトキリ丸を構えた。

「えー? もう終わり?」

「霊力の膜で私の締め技をブロックしつつ、密着した私の体を堪能してましたのね……ふざけた殿方ですが、締め技をブロックできる程の霊力の膜を無造作に生み出せるなんて、規格外の実力者ですわね」

 ブロックされた理由の半分以上は自分にあるということにも気付かず、そんな感想を口にする。まあ、煩悩を霊力源にして霊力を高める霊能者だなどとはわかるはずもないし、規格外という言葉自体は的を射ているわけだが。
 二人はそれぞれ霊波刀と霊刀を構え、対峙する。

「さーて……あのチチの感触は絶品やったなー。次はどうやって堪能してくれよーか」

 ……ぐふふと笑う横島は、あくまで邪だったが。
 そんな横島に対し、心眼は一つため息をつく。

『はぁ……横島よ、いい加減に勝負を決めた方が良いと思うのだが?』

「なんでじゃ! 俺はまだ満足しとらんぞ!」

『胸を張るな胸を。お前がそんなことをしとる間に、おキヌ殿の試合は終わってしまったぞ』

「へ?」

 言われ、思い出したようにおキヌのいた8番コートに視線を向ける。そこでは、カオスが警官隊に連行されており、マリアは証拠物品として押収されていた。
 その様子を見る限り、カオスはどうやら逆行前と同じことをしでかしていたらしい。それを見送るおキヌは、呆れて物が言えないといった表情だった。

『それとな……お前、母上殿の存在を忘れているだろう?』

「…………っ!」

 その言葉に横島ははっとなり、だらだらと大量の冷や汗を垂らして観客席に視線を送る。
 すると、そこでは――

「……………………」

 目が笑ってない笑顔の般若がいた。
 彼女は横島と目が合うと、おもむろにハンドジェスチャーを始める。


 ――ソ・ロ・ソ・ロ・マ・ジ・メ・ニ・ヤ・リ・ナ・サ・イ・サ・モ・ナ・イ・ト――


 右手の親指を立て、その親指を左の肩口から右側にすぃーっと移動させる。いわゆる、『首を掻っ切る』サインである。
 それを見た横島は、サーッと顔から血の気を引かせた。そして、かなり切羽詰った表情で、目の前の九能市に向き直る。
 その様子の変化に、九能市は訝しげに眉をひそめた。だがあらゆる意味で行動が予測しづらい相手であるため、迂闊に飛び込めないでいる。

 と――

「よし! そこのえっちなねーちゃん!」

「誰がえっちなねーちゃんですかっ!」

 横島の呼びかけに、その内容が心外も甚だしかった彼女は、即座に叫び返した。
 しかし、現在進行形で命の危機を感じている横島にとって、そんな相手の心情を察する余裕はない。

「そろそろ勝負を決めるから、覚悟決めてくれっ!」

「…………っ!」

 事実上の勝利宣言。あまりにも当然のごとく言われ、プライドを傷付けられたと感じるより先に鼻白んでしまう。
 が――その表情は、即座に不敵なものへと変わった。

「やれるものなら……やってみせなさい!」

「言われんでもっ!」

「……っ!? 速い!」

 九能市の呼びかけに応える形で突進する横島。そのスピードと振り上げられた霊波刀を前に、九能市はヒトキリ丸を頭上で横にし、刀身に左手を添えてガードの構えを取る。
 が――

 キンッ!

 軽い金属音。それと共に、刀身に添えていた左手から、刀身の重量の感覚が消える。

「なっ……しまっ……!」

 九能市は、それがヒトキリ丸が中ほどからスッパリと斬られたせいであると気付くのに、一瞬の時を要した。
 左手から零れ落ちる折れた刀身を視界の片隅に捉えながらも、彼女の視線は自分の懐に飛び込んで霊波刀を籠手の形に変えた横島に釘付けになる。
 そして――

「おりゃっ!」

 ドスッ!

「うっ……!?」

 栄光の手を纏った横島の拳が、吸い込まれるように九能市のみぞおちに突き刺さった。
 瞬間、目が合い――

「…………完敗、ですわね……」

 それだけ言い残し、彼女は意識を手放した。
 横島は、前のめりに倒れる彼女の体を、正面から受け止めた。

『横島よ……』

「こ、これぐらいいいだろ!」

 横島が最後の楽しみとばかりに、その体の柔らかさを堪能していることを見抜いた心眼が、呆れた声を出した。横島の方といえば、焦り顔で反論するばかりだ。
 そして、審判が横島に抱き止められている九能市の顔を覗き込み、意識がないことを確認する。

「勝負あり! 勝者、横島!」

 審判の勝利宣言が、朗々と響いた。
 そして、その横では――

『……そろそろ放したらどうだ?』

「も、もうちょっと……」

 横島が、抱き止めている九能市の体の柔らかさに、未練を残しまくっていた。


 一方、一足先に試合を終えたおキヌの方は――

「…………」

「何を見ている? 横島の試合……か?」

「……はい」

 雪之丞の問いかけに、彼女は浮かない顔で答えてた。

「奴との接触は禁止事項だ……わかってんだろ?」

「…………」

 その言葉に無言で頷くと、会場に背を向けて歩き出す。雪之丞も、その後に続いた。
 彼らの向かう先では、勘九郎と陰念も待っていた。おキヌはふと足を止め、振り返ってもう一度横島の試合場に視線を向ける。
 横島が審判の勝利宣言を受けている光景が、視界に飛び込んでくる。その腕に抱き止められている九能市を見て、おキヌの胸にちくりとした痛みが走った。

(……いいな……)

 ふと、脳裏に浮かんだ感想を、慌てて振り払う。そんな呑気なことを考えている余裕はないはずだ。

「どうした? 行くぞ」

「はい」

 雪之丞に促され、おキヌは再び歩き始めた。


 ―― 一方、大阪某所――

「ただいまー」

 一人の女子高生が、玄関の戸を開けて帰宅した。

「あらお帰り」

 その声に、台所の方から母親の声が返る。

「ちょうど今、テレビに銀一君が出てるわよ。見る?」

「そんなん、今更珍しいことやないやん。お母ちゃんも、いつまでもミーハー気分はみっともないで」

 そんなことを言いながら、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップにそそぐ。それを口に含みながら、母親の言っていたテレビに視線を向けた。

『――ということは、今回GS試験を観戦しに来たのは、ドラマ『踊るゴーストスイーパー』の役作りの一環ということでしょうか?』

『そうですね。僕はまだ俳優としては未熟者ですし、こうやって身になりそうなものは少しでも吸収していかないと、先輩達にはとても届きませんから』

「……熱心なことやなあ」

 テレビ画面から流れてくる台詞に、思わずため息が漏れる。

『素晴らしい向上心ですね。ところで近畿クンは、注目の試合とかあるんでしょうか?』

『うーん、そうですね……』

 画面の中で銀一が首を捻りながら試合会場に目を向けると、カメラもそれに合わせて会場へと移る。正方形のラインで区切られた試合コートがいくつも並ぶ中、カメラがズームして一つ一つの試合を順番に映し出していた。

「はー……霊能者の試合かいな。素人のウチには、ぜんっぜんわからへ……」

 と――つぶやいた彼女の台詞が、途中で切れた。
 彼女はしばしテレビ画面を凝視し、ややあって画面が切り替わるなり手に持った牛乳を一気に飲み干すと、ドタバタと慌てた足取りで自室へと向かった。
 部屋に戻り、急いで着替え、押入れから旅行鞄を引っ張り出して手早く荷物を詰める。そして再び外へと向かう途中、台所を横切ろうとしたところで、母親に呼び止められた。

「どっか行くん?」

「うん! ちょっと東京に!」

「あらそう。夕飯までには帰って――って、東京ぉ!?」

「ほな、いってきまーす!」

「ちょ、ちょっと待ちい! どういうことなん!? 待ってえな! ちょ、夏子ぉ!?」

 呼び止める母親の声も何のその。彼女――夏子は、そのまま土煙を上げるかの勢いで、地元の駅へと一直線に走って行った。


 ――ちなみに――

 片道四時間、新幹線に揺られてGS試験会場の武道館に到着した彼女を出迎えたのは、『閉館』の立て看板だった。


 ――あとがき――


 バタフライ効果拡大中。思わぬところで思わぬ人物を呼び込んでしまいました。というか、これ以上キャラ増やしてどうするつもりなんでしょうか、私orz
 あと、最近おキヌちゃんSSに飢えてきている今日この頃。SS書き始めたのも、「なければ自分で書けばいい」と思ってのことでしたが、やはり自分で作るのと他人様のを読ませてもらうのとでは違うわけで。誰か私に潤いプリーズ。

 ではレス返しー。


○1. 山の影さん
 美神さんは、一応活躍する予定です。テレサは、次回出てきます。おキヌちゃんの魔装術は、二回戦までお待ちをw 鬼道は……鍵ってほどじゃないですが、それなりに役目はあります。

○2. 電子の妖精さん
 女華姫っ!?Σ(´・ω・`) それは思い浮かばなかった……

○3. エのさん
 誤字指摘ありがとうございました。速攻で直させていただきましたー。テレサは、一応無事です。

○4. コウさん
 トーナメント一回戦の組み合わせは、こんなんなりました。二回戦以降の組み合わせは、この先をご期待くださいw

○5. Mistearさん
 おキヌちゃんの魔装術が黒……怖いw まあ、そんなことにはならないので、ご安心くださいw

○6. ながおさん
 GSのメドーサは悪役一辺倒ですからねー。でも、私はそんなメドさんも好きなんですがw

○7. Februaryさん
 テレサと華に関しては、次回あたりにでもー。タイガーは……まあ、見てのお楽しみってことでw

○8. 内海一弘さん
 そんなアレな電波、私でも受信できてませんでしたw なお、カオスの自信に根拠なんてあるわけありません(ぉ

○9. とろもろさん
 おキヌちゃんが何を抑えられたかは、次回にでも。勘九郎の心情は……作者的には意識してなかったんですけど、確かにその通り、一番変化してるかもしれませんねw


 レス返し終了。最後に、GS試験用に考えていて結局没にしたネタを一つ。ちなみにタイトルの壊れ表記は、このおまけに対してかかってますw


 ――おまけの没ネタ――


「姉上」

「どうしたジーク。軍では階級で呼べと言ったはずだろう」

 ――魔界、某所――
 そこのとある一室で、事務机に座って書類作業をしている女性士官の前に、青年士官が直立不動の姿勢で立っていた。

「はっ。申し訳ありません大尉。ですが、先日の試作装備盗難事件について、新たな事実が判明したので」

「言ってみろ」

「例の件ですが、黒幕が別にいたことが判明しました。主犯はメドーサ。竜神族のブラックリストに載っている指名手配犯です。また、奴は近々人間界のGS業界に手を入れる計画を立てているとの情報もあり、近日実施されるGS資格取得試験会場に出現する可能性が高いと思われます」

「なるほど……ならば、デタント条項第7条28項に則り、奴の捕縛に向かわねばなるまいな。手配しておこう。準備しておけよ、少尉」

「はっ」


 ――そして、GS試験会場にて――


「ジーク。奴の出現情報を報告しろ」

「……話しかけないでください。知り合いと思われるじゃないですか」

 話しかけてきた彼女に対し、しかし彼はあさっての方向に視線を逸らした。

「何を言っている。命令は復唱し実行しろ、少尉」

「ですが姉上……」

「姉上ではない!」

 反論しようとする青年を、彼女は一喝して遮る。

「事前に打ち合わせしておいただろう! 今の私はGS資格試験受験生、謎の仮面霊能者、
美少女戦士バルハラムーンだと!」

「美少女って年齢はとっくに過ぎてると思うんだけど……」

「何を言うか! 月に代わっておしおきしてくれるわ貴様ーっ!」

「ぶふぉうっ!?」

 その一撃を受けて血の池に沈む青年の横では、彼を沈めた張本人が、縁日で売ってるようなセルロイド製のお面をかぶって仁王立ちしていた。


 ……とゆーわけで、お面魔族再びなネタでした。でもこれ以上キャラが増えると私の脳がオーバーフローする上、こいつらまで参戦したら戦力過多でメドさん可哀想になるんで、結局没になりました。
 では次回、またお会いしましょう♪

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