――何が。
何が、起こっている――?
「くっ……ロケットアーム!」
ズドムッ!
舌打ちしつつ発射した腕が、目の前の怪物を粉砕する。
彼女――テレサは、思考回路をフル稼働させ、現状の把握に努めていた。
時刻は深夜。場所は白龍会道場。
彼女の行動は、翌日がGS試験だろうと関係ない。自分の創造主が資格を手に入れると意気込んでいても、そのために姉のマリアと自分がバージョンアップされようと、我が道を行くだけだ。そもそも、創造主に従うつもりのない自分はもとより、おキヌにしてもGS試験に出るという話を聞いたことはないわけだし、このタイミングでの訪問は問題ないはずだ。……時刻という問題は置いといて。
創造主が服従プログラムを組み込まないのを、疑問に思ったことがないわけではない。だが自分の判断で行動する自由があるのは有り難いので、深く考えたことはなかった。
――が。
「なんなのよ、これはっ!」
悲鳴じみた声を上げ、襲ってくる怪物――ビッグ・イーターの群れに向かい、マシンガンで掃射する。
こんな事態は、予想の範疇を遥かに越えていた。いつも通りにおキヌに夜這い深夜の訪問をしようとしたら、これだ。連中は白龍会道場から出てきたので、普通に考えればこの連中に道場が乗っ取られていると思える。
テレサにとって、この道場がどうなろうと知ったことではない。
だが、問題は――ここには、おキヌがいるはずだということだ。道場がこんな状態では、彼女の身がどうなっているかはわからない。だが少なくとも、安全ではないだろう。
(危機に陥ったおキヌちゃん、道場を乗っ取った怪物を一掃する私……そして危機一髪のところで、私が助けるのよ。おキヌちゃんのヒーローになる私、助けられるヒロイン、そして芽生える愛情……ああっ、青春だわっ!」
戦闘中にも関わらず、倒錯した妄想に花を咲かせるテレサ。最後の一言や、いつの間にか妄想が声に出ているあたり、どっかの誰か達の影響を受けている気がしないでもない。
が――事態はそんな妄想をする暇を与えてくれるほど、余裕があるものではなかった。
『シャーッ!』
「!」
ビッグ・イーターの奇声に意識を現実に引き戻すが、コンマ数秒遅かった。急いで身を捻ってその牙を避けようとするが、左腕にかすってしまう。
「くっ……油断したわ! けど、この程度……っ!?」
テレサの言葉が、途中で止まる。ビッグ・イーターの牙がかすった箇所がピキピキと音を立て、石へと変わっていっているのだ。しかも石化は広がり、瞬く間に肘まで石になっている。
「石化……!? しかも、早い!? くっ、左腕、パージ!」
バシュッ!
石化の進行が肩まで達する直前、テレサは自分の左腕を、強制的に分離させた。腕は地面に落ちる前に完全に石化してしまい、ゴトリと重い音を立てて地面に転がった。
もはや二度と動くことのなくなった左腕を一瞥し、テレサは舌打ちする。だがその直後、ビッグ・イーターの群れに視線を戻したテレサの表情は、不敵に笑っていた。
「なかなか厄介な能力じゃないの……けど、一匹一匹は大したことないわ。おキヌちゃんのことも心配だし、こっから先は油断なしで一気に片付けさせてもらうわよ!」
テレサはジャキッ!と音を立てて右腕からマシンガンを出し、攻撃を開始した。
『二人三脚でやり直そう』
〜第四十六話 誰が為に鐘は鳴る! 一日目・前編〜
「うーん……」
――ゴーストスイーパー資格取得試験――
見渡す限りの人、人、人。ざわざわと雑然とした喧騒の中、その会場に立つ横島は、眉根を寄せて浮かない顔をしていた。
「どうしたの? 腹でも下した?」
「なんでそーなるんスか。違いますよ」
隣の美神の言葉に、横島は即座にツッコミを入れる。
美神はそのツッコミを受け、しかし特に表情を変えることなく、肩をすくめた。
「……わかってるわよ。おキヌちゃんでしょ?」
「銀ちゃんからの連絡だと、ギリギリまでいるって話でしたが……」
『ギリギリどころか、今日になっても戻ってこないしな』
横島の台詞の後を継ぎ、その右腕に嵌っている腕輪――心眼が横島の不安を代弁した。その言葉に、美神も横島と一緒に眉根を寄せた。
「で? 白龍会の連中はいる?」
「まだ見つかりませんね。心眼、わかるか?」
『今のところ見えんな。まあ、この会場にいるのは確実であろうから、急がずともいずれ見つかるだろうが』
白龍会のメンバーの顔を知らない美神は横島に尋ねたが、問われた横島と心眼の方は、浮かない声音でそう答えるのみだ。
「GS業界に手下を潜り込ませる……か。警察がマフィアとつるむようなもんだと思えば、納得の手ね」
顎に手を当てて思案顔になりながら、美神がつぶやく。
そもそもメドーサが手勢をこの試験に送り込むという話は、おキヌではなく小竜姫からの情報である。小竜姫も小竜姫で、メドーサの動向を探るのにおキヌ一人だけを頼りにするつもりはなかったようで、神族側の情報網を使って調査に当たっていたらしい。
そして、判明したその目的に白龍会の門下生が使われるのは、当然の帰結であった。
だが――
「んー、でもそうすると、ちょっとおかしいと思うんスけどね」
「へぇ。たとえば?」
横島のつぶやきに、美神は驚いたような……というよりは、むしろ感心したような声音で訊ねてきた。
「だって、GS業界にコネ作ろうとしてるにしては、権威のけの字さえない新人から始める……お世辞にも効率的とは言えないですよね?」
『うむ。それがしたければ、業界上層部の誰かに金でも掴ませればいいだけだ』
これは、逆行前なら疑問にも思わなかったことだった。だが、一度逆行してきて改めて同じ状況に放り込まれてみると、以前は気付かなかった違和感に気付くようになる。
「よく気付いたわね」
「まあ、心眼に言われて気付いたってのもありますけど。……って、美神さんは気付いてたんですか?」
「もちろん。私を誰だと思ってるの? ……ったく、あの蛇おばん、何を考えてんだか……」
言って、苛立たしげに髪をかき上げる。
「考えられることはいくつかあるけど、どれも確証があるわけじゃないわ。ま、ここであれこれ憶測並べても仕方ないことなんだけどね。白龍会の連中を締め上げて白状させればいいことだし。……そうそう、おキヌちゃんのことも一緒に聞きださないとね」
「そっすね。一筋縄じゃいかないでしょうけど……元々、それが目的だったんだし」
「そーゆーコト♪ 横島クン、お願いね♪」
「へいへい」
ぽんぽんと背中を叩く美神に、横島は面倒だと言いたげに肩を落とす。
「でも、俺一人で大丈夫っスかね?」
つぶやいたその顔には、不安の色が浮かんでいた。
逆行前と同じく、今回も唐巣神父の協力は取り付けてある。しかし、彼の弟子であるピートはこの件には無関係だ。
逆行前にしろ今回にしろ、メドーサの陰謀を潰すことを目的に受験している横島にとって、GS資格の取得は副次的なものに過ぎない。しかし参加者の中でそんな事情を持つのは横島一人しかなく、他の参加者には協力できるほどの余裕は無いだろう。故郷の期待を一身に背負っていると言っているピートにとっては、メドーサの陰謀がどうこうという話は、プレッシャー以外の何物にもならないはずだ。
受験生に紛れているメドーサの手下――十中八九、白龍会の門下生だ――にアプローチするには、同じ受験生の立場にいた方が都合が良い。外堀の調査には小竜姫、唐巣、美神の三人が当たるにしても、受験生の中に潜り込むのは横島一人しかいないというのが現状だった。逆行前のように、美神に変装させて受験生の振りをさせようにも、霊力を失った今の彼女ではそれも無理だ。
「ま、大丈夫なんじゃない? たまには自分を信じてみたら?」
しかしそんな横島の不安をよそに、美神はあっけらかんとした様子である。
「無茶言わんでくださいよ。この世で自分以上に信じられんもんがあるかっちゅーねん」
「まったくあんたって奴は……」
苦笑して言う横島の言葉に、美神はつられて苦笑してしまう。
もっとも――以前ならともかく、今の横島はこの言葉を100%の本気で言ってるわけではなかった。逆行して霊力までも戻ったとはいえ、「ルシオラに見る目があったことを証明してやる」と死に物狂いで頑張っていた経験までも失われたわけではない。逆行前のこの時点ではなかった『栄光の手』があったりと、自信に繋がるものは確かに持っている。
「アホみたいな自虐やってないで、さっさと受付行ってきなさいよ。小竜姫さまからもらった心眼もいることだし、そうそう負けることなんてないでしょ? これでも結構、あんたの実力は信用してるんだから」
「…………へ?」
何気なく言った美神の言葉に、横島は間抜けな声を出した。
「ん? ……何よ?」
「…………」
美神は訝しげに眉根を寄せるが、横島は無反応。なぜか、その肩がぷるぷると震えている。
「どーしたの?」
「…………さんが……」
「ん?」
「美神さんが……美神さんが、俺の実力を……みと、みと、認め……」
「おーい?」
美神は上半身をかがめ、俯く横島の顔を覗き込もうとした。
だが直後、横島は唐突に顔を上げる。
「美神さんがっ! 美神さんがついに俺の実力を認めたっ! これはもー、愛の告白と受け取るしかーっ!」
「何公衆の面前でアホなこと叫んでんのよっ!」
「ぶげらっ!」
うおー!と天に向けて拳を突き上げた横島を、美神は顔を真っ赤にして全力で張り倒した。
「私は先に会場の方に行ってるけど! ちゃんと受付済ませてちゃっちゃと一次突破してきなさい!」
「ふぁ、ふぁい……」
地面にうつぶせに倒れてピクピクと痙攣する横島にそう言い捨てると、美神はフンと鼻を鳴らしてきびすを返した。
横島はどうにか返事をし、倒れたまま美神の後姿を見送り――
「うーん……ちょっとらしくないかな?」
小さくなっていくその後姿を見ながら起き上がり、ぽつりとこぼした。
正直、横島から見れば美神の態度には腑に落ちないものがあった。今さっきのやり取りもそうだが、逆行前に比べ、全体的にどこか態度が柔らかいのだ。
「逆行前なら、あのパターンならもっとシバかれてたはずなんだけどな。あの折檻がないと、ちょっと寂しいというか物足りないというか……いやいや、俺はMじゃないぞ。たぶん」
そんな馬鹿なことをつぶやきつつも、内心ではこれも霊力がなくなった影響かと、自己完結していた。
そしてそんな横島に、心眼は『鈍いな……』とため息を漏らしていた。
横島と別れた美神は、会場に集まる受験生たちを見回しながら、目的地へと向かう。
女性に囲まれて困った顔をしているピート。困惑しながらも一人一人相手にしている姿に、彼の人の良さが見える。
報道陣に囲まれるカオスとマリア。自信満々に質問に答える姿は威風堂々としていたが、テレサの姿が見えないのが疑問だった。
受験生達の中で、頭一つ抜けた大柄な男、タイガー寅吉。その表情は緊張のせいか重く沈んでいる。自分の霊力を奪った男の姿に、思いっきりシバき倒したい気分になったが、霊力が戻ってから100倍返しにした方がすっきりすると思い、自制する。
そして、そんな人の波をかき分け――
「あ、おねーさま!」
「待たせたわね」
こちらが声をかける前に、弓かおりが美神の姿に気付いて声を上げた。手を上げて返事をすると、一緒にいた魔理と愛子もこちらに気付く。
「あ、美神さん」
「こんにちはー」
「私がいない間、変わったことなかった?」
「「「…………」」」
美神の問いに、三人は微妙な表情で顔を見合わせた。魔理と愛子は苦笑していて、かおりは眉根を寄せている。
「……なんかあった?」
「いえ……特に。ただ、目つきの悪い胴着男が愛子さんを除霊しようとしましたけど、それだけですわ。あ、ご心配なく。私が事情を話したら、あっさり引っ込んでくれましたので」
「そんだけ?」
「いや、それがさぁ……そいつ、愛子との間に割って入った弓を見るなり、いきなり顔真っ赤にして『ママに似ている……』なんて言い出したもんだからよ」
「一文字さん!」
笑いをこらえた様子で説明する魔理に、かおりが怒鳴ってその口を塞ぐ。
「ふぅん、変な奴もいたもんね。それじゃ、また変なのに絡まれないうちに移動しましょうか」
「あ、はい!」
特に気にした様子もなく、先を促す美神。かおりが慌ててその後に続き、魔理と愛子は一つ目配せするともう一度苦笑し、二人の後に続いた。
「ぶぇっくしゅっ!」
「うわ汚ねっ!」
「やーねぇ。雪之丞、風邪?」
「大丈夫ですか?」
陰念の方を向いたままくしゃみをする雪之丞。冗談めいた勘九郎の言葉を受け、おキヌが心配する。
四人は四人とも、白龍会道場の黒い胴着を着込んでいた。
「大丈夫だ。誰かが噂でもしてんじゃねえの?」
ごしごしと鼻をこすりながら答える雪之丞。
「ふーん。ところで雪之丞、さっき一人でどこ行ってたの?」
「あん? ちょっと妖気を感じたから、気になって確かめに行っただけだ。……心配すんなよ、勘九郎。別に、横島を探して事情を話そうなんて、これっぽっちも思っちゃいねえ」
「あらそう。ならいいんだけど……『あの方』を裏切ろうなんて、間違っても考えるんじゃないわよ」
「……ああ」
勘九郎の言葉に、雪之丞は目を合わせようとせず、苦々しそうに言葉だけで頷く。
(……機会さえ訪れれば抜けるって顔してるわね。丸わかりよ、雪之丞……)
あまりにもわかりやすい弟弟子の様子に、勘九郎は苦笑する。
「ま、いつまでもこんなところにいても仕方ないでしょ。受付に行くわよ。目的は、最低でも全員GS資格を取得すること。特に、おキヌちゃん?」
――ビクッ。
呼びかけられ、おキヌはわずかに身をすくめる。
「『あの方』の出した条件、もし満たせなかったら……わかるわよね?」
「…………はい」
勘九郎の言葉に、おキヌは沈痛な表情で頷いた。雪之丞と陰念は、勘九郎の方を横目で睨んでいる。勘九郎は、そんな目で見ないでよとばかりに、肩をすくめた。
この三人に嫌われても平気というわけではない。だが、メドーサの力に心酔して心からの忠誠を誓っている勘九郎はともかく、目の前の三人が三人とも、彼女のやり口を良く思っていないのは事実だ。
当初は、雪之丞も陰念も割り切っていたはずだった。しかし、おキヌが入門して以来、彼らの心情に変化が訪れていたのは、目に見えて明らかである。
(私も、この子のことは嫌いじゃないんだけどね)
勘九郎はそう思うも、上司のメドーサは違うはずだ。彼女からしてみれば、おキヌは使えたはずの手駒を使えなくした邪魔者でしかないだろう。そのため、おキヌは元より、彼女に触発されて考え方を改めた雪之丞や陰念も、いずれ近いうちに捨て駒とされるだろうことは容易に想像できる。
(いつまでも一緒にいられればいいんだけど……ね)
メドーサによって捨て駒にされて死ぬか、裏切って敵対するか。いずれにせよ、勘九郎のその願いは叶えられることはないだろう。それは、彼自身が一番よくわかっている。
早ければ、この試験中に別れることになる――そう考えると、勘九郎の胸には一抹の寂しさが去来した。
それから数十分後、何事も無く一次試験の霊波測定を突破した横島は、美神たちと共に一次試験会場の隅に陣取っていた。
一次、二次を通し、GS試験は観覧自由である。ゆえに自分以外の一次試験の様子を見て、二次試験における要注意選手をピックアップしようとする選手は、少なくない。現に横島たち以外にも、一次試験に注目する者は多かった。
ただし――横島たちの目的は、そういった他の選手たちとは、若干違っていた。
「ん……来たわ」
壇上に立つグループが入れ代わるのを見て、美神が緊張を滲ませた声音で口を開いた。
その言葉に、横島たちも壇上に注目する。新たに入ってきたグループの中に、黒い胴着の四人組が入っていた。
言うまでもなく、白龍会道場の四人である。胸元に、『白龍』の文字が白抜きで入っている。
「おキヌちゃん……!?」
「氷室さん!?」
「おキヌちゃん!」
その中におキヌの姿を見止め、横島、かおり、魔理が声を上げる。壇上のおキヌもこちらに気付いたようで、一瞬横島たちと目が合うが――すぐに、ふいっと視線を逸らし、霊波の放出に専念した。
「……予想外ね。おキヌちゃんが白龍会の一員として試験に出るなんて」
「こんな話、聞いてないっスよ!」
「落ち着きなさいよ」
このままだと、おキヌと試合で戦うことになるとでも思ったのか、横島が声を荒げた。いささか冷静さを欠いた様子の横島を、美神がたしなめる。
「やっぱり、おキヌちゃんに何かあったのは確実みたいね……確かにこんなことは聞いてないし、あの表情も気になるわ。このパターンなら、おおかた洗脳か脅迫かってところでしょうけど」
「ってことは……!?」
「気付かれたわね、メドーサに」
「…………っ!」
口惜しそうに親指の爪を噛む美神の言葉に、横島は絶句した。
一方、美神の口にした名前に聞き覚えのないかおり、魔理、愛子は、眉根を寄せる。
「あの、おねーさま……メドーサって?」
彼女たちは、おキヌが白龍会の不正を内部調査するために送られたということしか知らされていない。そこに魔族が関わっているなど、想像の埒外である。
「そういえば、あんたたちは全部は知らないんだっけ……ちょっと厄介な事態よ。発展途上のGSのタマゴがどうにかできるレベルを遥かに超えているわ」
美神は、そんな彼女たちの前でメドーサの名前を出したことに軽い後悔を覚えながら、説明する前に脅しの意味も含めた注釈を入れた。
「聞いたら、あんたらがおキヌちゃんの友達でいる以上、たぶん後戻りはできない。私も横島クンも、あんたたちを守りながら事態に当たれるかどうかはわからない。それでも聞く勇気は……ある?」
「ちょっ、美神さん……?」
真剣な表情で言う美神に、横島は戸惑い気味に声をかける。
彼にとっては、美神がこんなことを言うのは「らしく」なかった。逆行前は、気軽に自分を巻き込んでくれたのに、随分と対応が違うものだ。横島はそこに、相手が男か女かという以上の扱いの違いを感じていた。
だが実のところを言えば、今回の美神のコレは、状況の違いによるものである。あの時は霊能力を失っていたわけでもないので、いざとなれば自分がどうにかできるという自負に加え、横島自身の危機回避能力の存在も手伝って、気軽に彼を巻き込めたのだ。
そして、そんな美神の視線を受け止め――
「もちろんですわ」
「ダチの危機なんだろ? 何もしないってわけにゃいかねーな」
「わ、私に出来ることがあるなら……」
彼女たちは、口々にそう答えた。
美神は彼女たちのその答えに、表情を崩してクスッと満足げに微笑した。そうこうしているうちに、おキヌたちのグループの霊波測定が終了し、壇上を降りていった。
「OK。おキヌちゃんも、いい友達持ったわね。連中の一次試験も終わったみたいだし、場所を変えるわよ」
「あ、はい」
言ってきびすを返し、すたすたと去って行く美神に、四人は慌ててその後について行く。
会場を出る直前、横島はふと立ち止まり、振り返って会場に視線を戻した。
「…………」
『……もういないぞ』
「わかってる」
心眼の言葉に頷き、横島は正面に視線を戻し、先を行く美女四人の後を追った。
――その時の視線が、彼女たちの尻に固定されてしまうあたり、いまいち締まらない男ではあるが。
一方その頃、会場の外では――
「さ、着きましたよ」
「わ、わざわざすんまへん……」
鬼門の運転する車から降りた小竜姫に続いて、ぜぇはぁと息も絶え絶えの鬼道が降りてきた。
「……本当に大丈夫ですか? 本来、あれほどの修練の後は、しばらくの休息が必要なはずなのですが」
「それで間に合わんかったら、それこそ意味のうなりますわ……僕は大丈夫です。一次試験は霊波測定だけやし、その後の二次試験かて、今日は一試合だけで終わりですから」
「そうですか……わかりました、ご武運を。私は神界から受けた任務がありますので、これで失礼させていただきます」
「そちらこそ、その任務いうんがどんなんかは知りまへんけど、お気をつけて」
「ありがとうございます」
二人は互いに一礼し、小竜姫が車に戻るのを鬼道が見送る。
「……鬼道さん」
小竜姫は車のドアを閉める前に、鬼道に声をかける。
「あなたはそれなりに良いスジを持ち、かつ努力家です。あなたの努力は確実にあなたの身となっています。自分の実力に、もっと自信を持つと良いでしょう。ですからもしかしたら、今回の任務であなたの協力を必要とすることになるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「え? あ、はい。僕なんかでお役に立てるというなら」
その鬼道の返答に、小竜姫はにっこりと微笑み、ドアを閉めた。そして、彼女を乗せた車は、そのまま発進していずこへと去って行く。
鬼道はそれを見送り――
『受験者の皆さん、受付終了まであと5分です。まだ手続きを済ませていない方は――』
「うおっ! 忘れとったぁ!」
会場の外まで響いてきた業務連絡の放送に、鬼道は慌てて会場に向けて走って行った。
――あとがき――
以前の更新速度が戻るのはいつの日か……やっと始まりましたGS試験。一日目は一話に収まり切りそうになかったので、前後編に分けます。そして相変わらず鬼道の京都弁は適当です。詳しい人は細かいツッコミ入れてくれると助かりますw
次回は銀ちゃん合流&試合開始で一日目終了。横島の実力が変わってるので、ラプラスのダイスによる試合の組み合わせも変わります。お楽しみにー♪
ではレス返し。
○1. 鉄拳28号さん
おキヌちゃんの事情は、読者の皆さんはもうだいたい予想できていると思いますが、随時明らかにしていく予定です。人造魔族に関しては、まんま三姉妹誕生フラグです。GMが息子にGS辞めさせようとしている理由は、まだ語ってない部分がありますが、それはGS試験終了後にw
○2. wataさん
おキヌちゃん、メドさんの手下にされちゃいました。けど心情的に味方になってくれている人が二人もいるので、意外と絶望的じゃないかも?
○3. Tシローさん
おキヌちゃんが脅されている材料は、随時明らかにします。おおよその予想はついていると思いますが、お楽しみにと言わせてくださいw
○4. 山の影さん
アシュタロスも、やっぱ原作と若干違う方向に行ってます。彼はしばらく、おキヌちゃんの夢と同じくたまにチョイ役で出る程度ですので、気長に次の伏線をお待ちくださいw タイガーの暗示による霊能力復活もいいですねー。ネタ帳に入れておきましょう♪
○5. ショウさん
水晶に何が映っていたのかは、随時明らかにしていきます。おキヌちゃんの魔装術は、メドさんが手下に加える時に強制的に修得させてるので、試合中に明らかになるでしょう。
○6. DOMさん
GMは今回、矢面には立ちません。地味に水面下で活躍しますけどw
○7. 秋桜さん
このGS試験編はこれまで以上に沢山のキャラの思惑が入り乱れるので、かなり波乱に満ちた展開になるかとー。横島はどんな状況でも横島のまま……で表現できたらいいなぁと思ってる次第です。私の技量次第ですが。
○8. スカサハさん
続き待たせてしまってすいません。これからも不定期になるような感じですが、見捨てずによろしくお願いします。
○9. ながおさん
そのお気持ちだけで、おキヌちゃんにとっては十分でしょう。あとは横島がどうにかしてくれると信じて、展開を見守ってください♪
○10. 山瀬竜さん
メドさんの悪役ぶりにお褒めいただき、ありがとうございます。それと、ご指摘の方もありがとうございます。尺の問題もあったんですが、場面の順番に関しては私の未熟さの表れです(泣
○11. Februaryさん
水晶に映っていたものに関しては、随時明らかにする予定です。お待ちくださいー。タイガーに関しては……「今回大活躍(予定)、だけど期待はしないで」とだけ言わせてください(汗
○12. Mistearさん
シメサバ丸が人質っ!? それは人質としての意味があるのかどうかw 今現在、意思の無い無機物ですしw あとその電波は、ある意味危険かもです(汗
○13. 内海一弘さん
アシュ様も、原作にない複雑な事情を持って登場です。彼の出番はまだしばらく先なので、気長にお待ちください。GS試験の行く末、誰がどんな形で活躍するか……楽しみに見守っていてください♪
○14. アイクさん
おキヌちゃんvs横島というカードが実現するのか? その辺は今後の展開ということでw
レス返し終了ー。では皆さん、次回GS試験編一日目・後編でお会いしましょう♪ ラストに意外なキャラを登場させますw
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