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「二人三脚でやり直そう 〜第四十五話〜(GS)」

いしゅたる (2007-09-30 23:58)
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 まあるいお月様が、私たちを照らしています。

 よく手入れされた庭園。優しい風が二人を包んで。

 私の隣に立つ人は、じっと月を見上げていて。

 私はそんな彼の横顔を、じっと見詰めるだけ。

 彼は『外』のことを、よく話してくれました。

 『外』に出たことのない私は、彼の話が面白くて。

 ついつい、もっと話してとねだってしまう。

 けど、いくらも話さないうち、私たちは家の人たちに見つかっちゃって。

 彼は塀を飛び越えて逃げていって、家のみんなが弓や槍を持って追いかける。

 家のみんなは真剣で。けど逃げる彼は笑ってて。

 危険な命のやり取り。なのに彼の笑い声が深刻そうには見えなくて。

 私はついつい、心配するより先に失笑を漏らしてしまう。

 そんな日が、毎日のように繰り返される。

 私は夜中に目を覚まし、庭に出る。そして彼が忍んで来るのを待っている。

 毎晩毎晩そうやって、彼が来るたびに思うのです。

 ずっと、こんな日が続けばいいな――と。


 ――それはそれは、まるで夢のような楽しい日々――


「……ん……」

 窓の外が少しだけ明るくなり、その小さな変化を体が敏感に感じ取って目が覚める。

 おキヌはのっそりと上体を起こし、「ふぁ……」と大きなあくびと共に、両手を上げて伸びをする。
 いまだ闇に包まれる部屋の中、枕元の時計を見れば午前5時ちょっと前。目覚ましは定められた起床時間である5時にセットしてあるので、ちょうどいい時間だと思い、鳴る前の目覚ましのスイッチを切った。
 ベッドから抜け出し、二段ベッドのはしごを降りて行く。下段のベッドはもぬけの空。ルームメイトの華は、既に起きていたようである。
 彼女は着替えを済まし、部屋を出て洗面所へ。顔を洗い、愛用の古めかしい櫛で髪を梳く。

「ん……」

 ふと――手を止め、その手に収まっている櫛を見る。
 櫛を見ていると、たまに何かを思い出せそうな……よくわからない、喉の奥に小骨がつっかえたような、もどかしい感覚に襲われる。
 櫛を見れば毎回というわけでもないのだが、今日はそうだった。

「うーん……」

 しばし、小首を傾げて思案にふける。
 だが、考えても答えは出ない――これもいつものことである――ので、早々に諦めて再び髪を梳き始める。
 一通り洗顔、歯磨きを終え、一旦部屋に戻って洗面道具を仕舞い、食堂へと向かう。この時間、彼女と華と勘九郎は食事の用意を、他の門下生は、本堂の掃除を担当していた。

「GS試験は明日……かぁ。今日一日、成果が出ないとダメですよね……どうにかしてメドーサとの繋がりを証明する何かを手に入れて、ここを抜け出さないと……」

 そんなことを考えつつ、その足は一歩一歩食堂へと近付く。この日が正念場――そう思い、彼女は気を引き締めた。


 ――しかし、思考に没頭する彼女は気付かない。

 今、自身が歩いている寮に、人の気配がない……否、なさすぎることに。

 起床からここまで、誰一人として出会うことがなかったことに。


 そして彼女は、最後までそれに気付かぬまま、食堂の戸へと辿り着いた。

「……よしっ」

 拳を握り締め、気合を入れる。
 目の前の戸に手を掛け、その引き戸を開き――

「――――!?」

 瞬間、彼女は息を呑んだ。

 見慣れた食堂。既に明かりは点けられており、いくつもの蛍光灯の光が部屋を明るくしている。
 整然と並べられたテーブルに安物のパイプ椅子――その中の一角に、『彼ら』はいた。

「な……」

 そこに並んでいるメンバーに、おキヌは絶句した。起き抜けの頭では、まともに思考をまとめることができない……いや、そうでなかったとしても、頭の回転が止まってしまったのは同様だろう。それほどまでに、目の前の光景はおキヌにとって想定外過ぎた。
 そこにいたのは、胴着に身を包んだ勘九郎、雪之丞、陰念。勘九郎は能面のように表情を消しており、雪之丞と陰念は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 そして――もう一人。その三人に囲まれるように、腕を組んでパイプ椅子に腰掛ける女性。


「待っていたよ……」


 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる彼女――その名は、メドーサといった。


「偵察任務ご苦労……なかなかの道化っぷりだったよ」


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第四十五話 そして今、再び運命の日へ〜


     ――その日を明日に控え、様々な人間模様が展開する――


「はぁーっはっはっはっはっ!」

 綺麗とは言いがたい、少々古さが目立つ教会の中。

「何しに来たァッ!」

 突如として上がった哄笑に対し、礼拝堂にいたアッシュブロンドの青年――ピートは、即座に罵声を返した。
 彼の視線の先にいる声の主は、偉そうな哄笑とは裏腹に、隅っこの暗がりでちょこんと小さくなっていた。
 ……どうやら、窓から差し込む太陽の光が怖いようである。

「何しに来たとはご挨拶だな、我が息子よ」

 その暗がりの中から言葉を返すのは、ピートとそっくりの顔をした男だった。

「聞けば明日はGS試験だという。お前も受験するのだろう? 愛する我が子のためを思い、昼間であるにも関わらず無理をして激励に来てやったのだ。さあ、この父の胸で感涙にむせび泣くが良いぞ、我が息子よ」

「誰がそんなことするかーっ!」

「げぶろっ!?」

 大仰に両手を広げる男――ブラドー伯爵に対し、ピートは見事な飛び蹴りでもって答えた。
 そして吹き飛ばされたブラドーは、そのまま壁を突き破って教会の庭へと転がって行く。

「ぬおおおおっ!? 灰にっ! 灰になるうううっ!」

「そのままくたばってろクソ親父!」

「わ、私の教会がああああっ!」

 その日、唐巣教会の壁に穴が空き、庭には灰の山が出来上がり、神父の額がちょっとだけ広くなった。


     ――ただ純粋に、資格取得を目指す者――


「本当かい? 本当にその試験とやらに合格すれば、家賃を払えるんだね?」

「うむ、このドクター・カオス、決して嘘は言わん」

 胡乱げな眼差しを向ける大家の老婆に対し、カオスは鷹揚に頷いた。しかし大家の視線は緩むどころか逆に鋭さを増し、彼を睨み付ける。

「そう言って、一体何度家賃を滞納したか覚えてるのかい?」

「む……そ、それはだな……」

「今月で・3ヶ月連続になります・ドクター・カオス」

「ほほーぅ……」

「マリアァァ!?」

 絶対零度にまで温度を下げた大家の視線に、カオスは慌てた様子でマリアの口を押さえた。だが既に遅く、カオスの喉元には大家の薙刀が突き付けられていた。

「……アホらし」

 部屋の隅にいたテレサは、その喧騒を他人事のように、冷めた目で眺めていた。


     ―― 一攫千金を狙って受験する者――


「しつっけーんだてめーはァッ!」

 づどむっ!

「げふ……」

 ――とある住宅街の路地――
 怒号と共に突き出された少女の細い腕が、男のみぞおちに綺麗に突き刺さった。男はその体格ゆえに吹き飛ばされこそしなかったが、肺から酸素を吐き出して地面に両膝をついた。

 どげしっ!

「ぐっ!」

 低くなったその顔に、間髪入れずに少女のつま先が突き刺さった。男はボタボタと血を垂れ流す鼻腔を押さえ、今しがた自分に攻撃を加えてきた少女を見上げる。

 少女の名は一文字魔理。男の名はタイガー寅吉。

 魔理は霊能力を有していたが、タイガーの能力によってそれを失わされた。ゆえにこその怒り。ゆえにこその攻撃。相手が無防備であることなど気にも留めず、魔理は腕を組んで怒りもあらわにタイガーを見下ろしている。

「言ったはずだよなぁ……謝ってもらっても何にもならねえって。そのウジウジした性格をどうにかしてから来いって」

「い、言ったですジャ……」

「じゃ、なんでアタシのところに来た?」

「ワ、ワッシは……どうにかして、一文字サンの霊能力を取り戻す手伝いができればと思って……」

「ほほー、そりゃありがたい」

 タイガーの言葉にそう答える魔理。しかしその表情は、自嘲的な嘲笑が浮かんでいた。

「で? どうやるつもりなんだよ?」

「そ、それは……」

「まさか、思い付かないままただやって来たとか言わねえだろうな?」

「…………」

 タイガーは返答に詰まる。魔理はその沈黙を肯定と受け取り、露骨に顔をしかめた。
 知らず、拳に力が入る。その拳を振り上げると、タイガーはビクッと身を震わせ、襲い来る打撃に備えて身を硬くした。

「ちっ……」

 その様子に、魔理は舌打ちした。
 ……くだらない。今ここで殴り続けても、何にもならない。
 魔理は振り上げた拳を下ろし、きびすを返した。いつまで経っても打撃がやって来ないことを不思議に思ったタイガーが顔を上げると、既に魔理は歩き始めていた頃だった。

「あ……」

 タイガーが声をかけようとする。だが何を言っていいのかわからず、言葉にならなかった。
 しかしそのつぶやきが耳に入った魔理は、足を止めて振り返らないまま口を開く。

「明日……」

「……え?」

「明日、GS試験だったな。お前は出るのか?」

「え? あ、ああ……ハイ。出ますジャ」

「なら、勝ち上がれ。美神さんに土をつけた奴が資格取れないまま終わるなんて情けない真似、間違ってもするんじゃねえぞ。でなければ……本気で、ぶっ殺してやる」

 ガンッ。

 最後の一言と同時、彼女が真横に突き出した拳は、鈍い音と共にその先にあった電柱に叩き付けられていた。
 そして、その拳と電柱の間から、赤いものが染み出してくる。

「ハ、ハイですジャ……」

 それを見たタイガーは、そう頷くしかできなかった。
 魔理はそのまま、無言で去って行く。彼はその背中が見えなくなるまで見送り、やがてとぼとぼと頼りない足取りでその場を去った。


 ――そして――


「……様子が変だとは思っていましたが、そういう事情だったんですね」

「ぶつかりあう人間関係……こうやって少女は成長するのね。青春だわ……」

 物陰からそれを盗み見ていた二人の少女が、それぞれそうコメントした。
 彼女らは、片方はつまらなさそうに腕を組み、片方は古びた机を背負っている。そして二人ともが、同じ制服に身を包んでいた。


     ――複雑な事情を抱え、その日に臨む者もいれば――


 バンッ!

 美神令子除霊事務所の応接室で、木の板が粉々に砕け散った。
 そこから5メートルほど離れた場所にいる美神は、さして面白くなさそうにその結果を吟味する。

「……ま、こんなものかしらね」

 やがて、ため息と共に、そんな言葉を吐き出した。

『急場凌ぎの間に合わせにしては、上々の成果だと思いますが……』

「そりゃその通りなんだけど」

 建物そのものから聞こえてくる人工幽霊の無機質な声に、美神は頭を掻きながら答えた。

「元々あった能力と比べると、さすがにねー」

『それだけ、オーナーの霊力が破格だったということです』

「今ないものを褒められても嬉しくないわよ。それに本音を言えば、それぐらいないと……いえ、それほどの霊力があったとしても、メドーサ相手じゃ不安にもなるわ」

『それでも、力がないよりマシでしょう』

「そう思ってないとやってられないわね……ま、要は使い道よ。びっくりさせる程度なら、とりあえずこれで十分。この美神令子が霊力なしの役立たずで終わると思ったら、大間違いよ」

 言って、彼女はニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。


     ――隠れた脅威を知るがゆえに、備える者もいる――


「なんて山道や……」

 それは、山道と呼ぶことすらおこがましい、切り立った崖にある小さな段。
 人一人分の幅すらないその狭い足場を、鬼道は横歩きで歩いていた。

「行き来するだけでも修行のうちってことかいな? ……ん、見えてきた」

 ぼやきながら進むうち、道は少しずつ広くなってきた。視線の先に建物が見える頃になると、足場は余裕持って歩けるほどにまで広がっていた。

「しっかし、理事長も何考えとるんや……たかだか新人の資格試験受けるんに、なんでこない伝説の修行場に足運ぶ必要があるんかいな……」

 そう愚痴る鬼道の目の前には――仰々しい鬼面が貼り付けられた門扉、そしてその上にしつらえてある『妙神山修行場』の看板があった。


     ――ある者は、その先に何があるかも知らず――


「ふぅ……」

 小竜姫は、ちゃぶ台の前に座りって茶をすすり、今日何度目になるかわからないため息をついた。

「私、龍環を渡しちゃったんですよねぇ……横島さんに」

 そうつぶやく小竜姫の頬は、ほんのりと赤みが差していた。

「陛下の命令……それに竜神族の慣習を知らない横島さんにとはいえ、少々軽率だったかしら……」

 しかしその問いに答える者はいない。既に渡してしまった以上は後の祭りでしかないのだが、それでも悩んでしまうのは、それだけ彼女にとって重要なことだったということだろう。

(でももし……龍環を渡す意味を教えて、横島さんがそれでもなお受け取ってくれたなら……)

 そんなイフを思い浮かべると、急速に顔が熱くなる。

「って、何を考えてるんですか私は! 私は竜神、横島さんは人間! しかも師匠と弟子でしかないんです! そんな関係になるはずないでしょう!」

 叫び、無理矢理脳裏に浮かんだ思考を振り払う。だが、聞く者がいないというのに声に出して叫ぶのは、一体どういう心理状態か。真っ赤な顔のまま眉根を寄せた怒り顔の彼女は、もうこの問題は終わりと言わんばかりに、湯飲みの茶を一気に飲み干した。
 ……直後にその熱さに吹き出してしまったのは、ご愛嬌。

「……ともあれ」

 濡れてしまったちゃぶ台を台布巾で拭いて気を取り直し、ちらりと背後に目を向ける。そこには、いつかおキヌに選んでもらった俗界用の衣装が、ハンガーにかけてあった。

「明日からは、私も雑念を捨て、気を引き締めて事に当たらなければなりません。メドーサは強い……しかも狡猾ですから。絶対に、一筋縄ではいかないでしょう」

 そうつぶやき、表情を引き締める。
 と――何かに気付いたように、唐突にその表情が崩れる。彼女の意識は、即座に修行場の外へと向いた。

「あら……誰か来たみたいですね。こんな日に来るなんて、横島さんか美神さんかしら……?」

 小竜姫は立ち上がり、来客を確かめるべく門の方へと向かって行った。


     ――ある者は、強敵との対決を前に気を引き締め――


「あ、クロサキ君、今大丈夫?」

 公園の一角。百合子はネギのはみ出たスーパーのビニール袋をベンチに置き、携帯電話を耳に当てていた。

「なら、今から頼みたいことが……ん? 忠夫? うーん、そうねぇ。最初はどんな手を使ってでもGSを諦めさせるつもりだったんだけどねぇ……まさかあの拘束を抜け出せるとは思わなかったわ。……うん、私たちの予想以上よ。ま、それでも間に合わなかったのは事実だったから難癖つけてこじつけてみたけど、結局無理だったわねぇ……あいつの決意があそこまで固いとは思わなかったわ。……そーね。事実上、Aプランは失敗よ。
 ……うん、……うん、あ、そうなの? じゃ、その方向で引き続き調査よろしくね。こっちはこっちで、また準備進めないと。ナルニアに帰るのが遅くなるけど、Bプランで行くしかなくなっちゃったから。あ、うちの宿六の浮気調査も欠かさずにね。
 で、本題だけど……」

 と――そこで、一見して陽気に話していた百合子の表情が、きりっと引き締まった。

「……どーも、忠夫の出るGS試験、キナ臭いことになりそうなのよ。事によったら大事に至るかもしれないから、会場の避難経路は事前に確保しといて。私のコネ使って警察動かしてもいいから、とにかく徹底的にね。オカルト素人の私らじゃ、出来ることに限界はあるでしょうけど……お願いね」

 その言葉に、電話の向こうから承諾の意思が返って来ると、百合子は電話を切った。

「ま……出来ることはやらないとね」


     ――またある者は、戦う者の補助に――


「で、どーなんだ? お前、将来のこと、なんか考えてるのか?」

「将来っスかあ……? ま、一応は」

 学校の生活指導室。そこで横島は、進路指導を受けていた。
 担任の問いに答えるも、それこそ言葉通り「一応」程度でしかない。それよりも差し迫った問題が、将来以前にあるからなのだが……まあ、そんなことをここで言うこともない。

「美人の嫁さん手に入れて、退廃的な生活と思ってます!」

「ちっとも考えとらんじゃないか!」

 横島のあんまりと言えばあんまりな回答に、担任は即座に声を荒げた。
 しかしこの横島に、その『美人の嫁さん』の当てがあるなどということは、一体誰が予想できるというのだろうか。具体的にはルシオラとかルシオラとかルシオラとか。

(けどおキヌちゃんだって、俺の知る限り一番家庭的な女の子だし、嫁さんにするならダントツ一位の優良物件なんだよなー。美神さんのナイスバディだって捨てがたいし、しかもあれで意外に可愛いところあるからたまらん。小竜姫さまだって、人と女神の禁断の恋ってフレーズも浪漫をくすぐるものがあるし、何より美人だし。他にも冥子ちゃんとかエミさんとか……ううむ、考えてみれば俺の周りは美人だらけやん。ぐふふ……ええのうええのう」

 などと脳内で身近な女性の魅力的な点をピックアップしていく。
 途中から声に出てるのに、本人は気付いているのだろうか。「でへ、でへ」と表情が崩れまくっている横島に、担任は冷や汗をかいて一歩引いた。
 その傍ら、横島の右腕に嵌められているブレスレットの心眼は、彼の痴態に密かにため息をついていた。

「と、とにかく。横島、いい加減戻って来い」

「……ほえ?」

 更に「ハーレムや」だの「世界中の美女は俺のもん」だのとブツブツと不穏当な台詞が出てきた横島に、担任が遠慮がちに声を掛けた。
 ……その声音には、「できれば声を掛けたくなかったのだが」という心情が、ありありと乗っていたが――とりあえず横島はその言葉に戻って来れたらしく、呆けた声を返した。

「お前、GSのバイトだと言うが……卒業後はGSになるのか?」

「んー。たぶんそうなんじゃないっスかね? 明日と明後日のGS試験に合格すればっスけど」

 担任の問いに、横島は気のない様子で答えた。実際には、メドーサの企みを潰すためには勝ち上がらなければならないので、合格すればも何もあったものではないのだが。

「GS試験? 聞いてないぞ?」

「聞かれてなかったっスから」

「合格できる自信はあるのか?」

「ま、それは蓋を開けてのお楽しみってことで」

 胡乱げな視線を向ける担任に、横島は「なはは」と笑って曖昧に答えた。
 その一方で――

(つーかおキヌちゃん、大丈夫かな……?)

 横島は、いまだ吉報をもたらすことのないおキヌに対し、言い知れぬ不安を抱き始めていた。
 これが『霊感がうずく』ってやつなのかなと思ったが、心中で否定する。彼女に大事があったとは、正直考えるだけでもぞっとしない。

(……無事でいてくれよ、おキヌちゃん)

 横島は、彼女のことに関しては祈ることしかできない自分が、どうしようもなく歯がゆかった。


     ――そして今――


 ぶわ、と。
 おキヌの全身から、冷や汗が噴き出した。

 心臓が破裂しそうなほど激しく脈打つ。
 喉が痛いほどカラカラに乾く。
 肺の酸素が足りない。ハァハァと荒く呼吸を繰り返してもまだ足りない。
 体の外側が、冷水をかぶせられたかのように寒い。
 そのせいで、体内の熱がマグマのように熱く感じる。

 目の前にいるメドーサは、そんなおキヌの様子を、面白そうに眺めるだけだ。

「……い……いつから……」

「最初からだよ。天龍童子の時、撤退する私の後を尾けてきた霊体……お前だろう? お前は上手く穏行していたつもりだろうけど、私の目は誤魔化せないよ。しかもそれが直後に入門してくれば、馬鹿でも気付く。だから、尻尾を掴ませないようにするのに、さほどの苦労はいらなかったね」

 喉の奥から搾り出した問いに、メドーサは何でもない事とばかりに答えた。

「安心しな……殺しはしない」

 しかしその言葉は、安堵よりも更なる不安を駆り立てた。

「私がいると知っていながら、ここまで一人で乗り込んできた度胸は買ってやる……どうだい? 私に協力してみる気はないか?」

「逆らえば……殺すんですね?」

「ふん……」

 メドーサの誘いに、確認するように問い返すおキヌ。しかしその反応に、メドーサは嘲笑を浮かべた。

「そうだ……と言いたいところだけどね。お前みたいなタイプには、それよりももっと効果的な脅し方がある」

「え……?」

「これを見な」

 訝しむおキヌの前に、メドーサは一つの水晶玉を差し出した。おキヌがそれを見ると、それにはここではない別の場所の様子が映し出されていた。

「…………!」

 それを見た瞬間、彼女は悟った。

 ――自分には、既に退路などどこにも存在していないということを。


     ――再び、運命の日へ――


 ――南米、某所――

 一切の明かりの灯っていない、闇に閉ざされた部屋の中。その中央に、禍々しいほどに豪奢なベッドがあった。
 そのベッドに横たわっていた影が、のそりと起き上がる。

「……ここは……」

 影は、自らの手足を眺めつつ、つぶやいた。
 と――

「お目覚めでございますか」

 すぐ傍に控えていたのだろう。影に比べると随分と小さい存在が、彼に声をかけた。

「お前は……土偶羅か?」

「はっ」

 影の問いに、土偶羅と呼ばれたそれは、恭しく頷いた。
 そして影は、数秒ほど黙考した。そして土偶羅に、現在の日時を尋ねる。
 「よくお休みでございました」という言葉と共に返ってきた答えに、影は更に数十秒ほど黙考した。

「……アシュタロス様?」

「いや……なんでもない」

 さすがにその様子が気になったのか、土偶羅が声をかけた。しかし影――アシュタロスと呼ばれたそれは、小さくかぶりを振って答えた。

「確か、メドーサが色々と動いていた筈だったな?」

「はっ。しかし奴の行動は、ともすれば我々の存在を公にしてしまう危険性も孕んでおります。特に元始風水盤の件は、神族の介入は必至――止めた方がよろしいかと」

「捨て置け。どの道、我々の計画に支障をきたすことはない。奴には好きなようにやらせて構わん。それより……確か奴が手を貸していた人間の企業があったな?」

「南武グループの兵器開発部門でございますな? 人造魔族の研究をしているそうで……」

「そうだ。その人造魔族のレポートを上げさせろ」

「しかし、研究が完成したという報告はありませんが……」

「構わん。元々、我々での計算の手間を省く以上の意味はなかったからな……足りない分は、私の頭脳一つで事足りる」

「では……?」

「うむ」

 アシュタロスは鷹揚に頷くと、ベッドから降りてカツカツと靴音を響かせ、部屋の出口へと向かう。
 その後ろを、土偶羅がその短い足をトテトテとせわしなく動かし、付いて行く。
 そして彼らが部屋の恥まで辿り着いた時、部屋の扉が自動で開いた。外の明かりが、二人と闇に包まれていた部屋とを照らし出す。

「これより、我が手足となる駒を創造する作業に入る。計画の実行は近い……心せよ、土偶羅」

「は、ははーっ!」

 アシュタロスの言葉に土偶羅が頭を下げると、彼らの背後で扉が閉まった。


     ――そう。運命の輪は、既に廻り始めている――


 ――あとがき――


 今回は繋ぎです。次回からやっとGS試験編突入です。特にあまり捻りもなかった回ですが、推敲してみればいつの間にかブラドーが『登場=灰』の図式を築き上げているような気がしないでもないです。
 ちなみに、現在ルシオラたちは創造開始の段階に入っただけですので、ルシオラ誕生まではまだ時間があります。すぐには生まれないのですよー。
 それはともかく、少し前に某絵師様のHPに18禁作品を投稿したのですが、気付いた方はどれぐらいいますでしょうか? 感想等がありましたら、あちらの掲示板によろしくですw

 ではレス返しー。


○1. Tシローさん
 雪之丞がおキヌちゃん争奪戦に参加する予定はないです。あの台詞は、単に雪之丞のキャラを表現する記号でしかないと思ってますのでw

○2. Feburaryさん
 和尚のポーズは各自脳内変換しておいてくださいw 雪之丞の霊波砲は、原作でも横島にやってたやつを参考に表現しました。もしかしたら連続霊波砲は球形じゃないかもしれませんが、私にはそう見えてたということで。陰念は……まあノーコメントで(^^;

○3. wataさん
 いえ、三人というのは勘雪陰のことですので、おキヌちゃんは入ってません。まあ、今回四人目にされてしまったわけですが。

○4. ながおさん
 まともな術式も組まないで呪いを成立させる横島が異常なんですw

○5. 喫著無さん
 和尚のポーズは脳内変換でお願いしますw ……私も実はあのポーズのイメージだったりするのは、この際秘密で(ぇ

○6. 秋桜さん
 おキヌちゃんの気持ちは、もはや行き場を失ってしまいました。これからどうなるのか、次回を待てといったところですね。

○7. 山の影さん
 魔装術の詳細は、原作では未記述でしたので、こちらで勝手に設定させてもらう予定です。というか、契約魔族は単純にメドーサでいいんじゃないかと思ってる次第でw 原作における白龍会の他の門下生に関しては、雪之丞の証言から「石にされるか殺された」となってましたよ。この話では、彼らがどうなってるのかは既にバレバレのような気もしますがw

○8. DOMさん
 私も魔族らしいメドさん書けて、ちょっと満足♪ 和尚のポーズは各自脳内変換でよろしくお願いですw

○9. ミアフさん
 かなり切羽詰った状態になっている白龍会。おキヌちゃん大ピンチです。

○10. Mistearさん
 おキヌちゃんは逃げられませんでした。しかし霊波砲を料理に……どう使う気でしょうw あれ、料理に使うような熱量が出てるのかどうかもわかりませんしw

○11. アイクさん
 銀ちゃんは実質的な被害を受ける前に逃げることができたので、精神ダメージは修復可能だと思いますよw

○12. アシューデムさん
 酒に関しては、とりあえず適当な高級酒を選んでみました。まあ、騙されたといってもいい女といい酒が飲めたのなら、確かにそれはそれで良しとするべきでしょうかねw

○13. 山瀬竜さん
 陰念たちは……まあ、神でも何でも祈ればいつか……光を……あれ? 変だな、目から水が……


 レス返し終了ー。では次回、GS試験一日目でお会いしましょう♪

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