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「光と影のカプリス 第122話(GS)」

クロト (2007-11-26 19:21)
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「きゃああああーっ、お、落ちる!?」

 空を飛べない愛子と六女組の3人はすっかり動転してしまっていたが、浮遊がデフォルトかつ武術の達人であるカリンはしっかり冷静さを保っていた。

「みんな、落ち着け! 大丈夫だ、人数は足りてる。
 横島は魔鈴殿を、タマモ殿は愛子殿を頼む。おキヌ殿は幽体離脱して自分で自分を抱えてくれ。
 ピート殿は神野殿と遠藤殿だ。私は峯殿を抱えていく」
「は、はい!」「わ、わかった」

 その的確な指示に、つられて動揺していた横島たちが落ち着きを取り戻し、それぞれの救助対象を抱えあげる。何げに抱える側と抱えられる側の人間関係にも配慮している辺り芸が細かい。
 ちなみに魔鈴が助けられる側に挙げられているのは、彼女は箒やソリなどの道具を使わないと飛べないからだ。

「あの、そんなにしがみつかれると飛びにくいんですけど……」

 ピートは左右の神野と遠藤にそう頼んでみたが、両名とも聞こえていないようだった。確かに地上数十メートルから墜落したら即死を免れないから2人が必死でピートにすがりつくのは当然なのだが、実は理性をたもっていてちゃっかりスキンシップを楽しんでいるだけのようにも見える。

(2人はさすがに重いですけど、仕方ないですね。降りるだけですし)

 横島なら随喜の涙を流しそうなシチュエーションなのだが、ピートは神野と遠藤の腰を抱く手も引け気味になっていた。ひょっとしたら彼も長命な種族だけに、人間の女性とむやみに親密になるのを避けているのかも知れない。
 タマモは妙神山で横島と試合した時のように両腕を翼に変えて宙に浮かび、ナインテールを鞭にして愛子の本体の机の脚をからめ取っていた。
 そして愛子の「少女」の方は机の天板に下半身を収納した状態になっている。こうすればタマモは机をささえるだけで済むのだ。

「ありがと、助かったわタマモちゃん」
「そんなに気にかけることないわよ、友達なんだし」

 ふうーっと息をついて冷や汗をぬぐっている愛子とは対照的にタマモの口調は相変わらず素っ気なかったが、言っている内容は友誼を踏まえたものだった。愛子は横島との事を律義に黙ってくれているし、普段の会話でもわりと気が合う方なので。
 そんな2人から1.5メートルほど離れた位置で、峯もカリンに脇の下を吊ってもらって飛んでいた。

「はあ、助かった……ありがとうございます」
「どう致しまして。間に合ってよかった」

 カリンが「間に合った」と言ったのは峯のことだけではなく、10人全員についてのことである。峯をささえた直後に周りを見回して、助け損ねた者はいない事を確認していたのだ。
 ソリとトナカイはあさっての方に落ちて行ってしまったけれど、これはまあ仕方がない。墜死者が出なかったことに満足すべきであろう。

「でもどうせなら、あんな風にしてくれたらもっと良かったんですけど」

 と峯が指を向けた先では、横島が魔鈴をお姫様抱っこしていた。むろんカリンと同じように脇の下を抱えた方が早かったのだが、横島は魔鈴のミニスカサンタルックについ血迷ってしまったのだ。もっともスケベ心が絡んだ時の彼の動きは人類の限界をブッちぎりで超越するから、魔鈴を助けるのに困難はなかったけれど。

(あ、あのバカは……!)

 カリンはとりあえずお仕置きとして「お返し」を反故にする決意を固めていたが、当の魔鈴は横島に抱っこされた事とかその動きの素早さとかより、影法師を出した、つまり霊力ゼロのはずの横島が空を飛べている事に驚いていた。いやよく見れば彼の体からはちゃんと霊気を感じるのだが……何故だろう?

「それはもー、俺の霊力源は煩悩ですから!」

 横島自身こんなことを自慢げに答えるのはさすがに間抜け過ぎると思わなくもないのだが、竜珠のことを隠すにはこれがベストなのだからやむを得なかった。
 確かにカリンを出した状態で2人分の体重を浮かせるのは少々厳しいのだが、今は魔鈴の大人なボディの感触を存分に味わえているのでエネルギーの補給は十分なのである。
 しかも魔鈴の腿が上向きになっているのでスカートが下にめくれて、もう少しでパンツが見えそうになっているのだ。なんてラッキーな!

「そうなんですか、相変わらず常識の斜め上を行ってますねぇ」

 自分をオカズにして煩悩エネルギーを発生させているのだ(意訳)と聞かされて魔鈴はさすがにげんなりしたが、ここで横島のテンションを下げるようなことをしたら墜落してしまう。魔鈴はあえて追及せず、軽い調子で相槌を打つにとどめた。
 しかし彼の指先に胸をつつかれるに至っては、温厚な魔鈴もさすがに黙ってはいられない。いや腕が勝手に動いて、煩悩少年のあごに鋭いアッパーカットをくらわせていた。

「んぎゃっ!? な、何で!?」

 ところが横島はわざとつついたわけではなかったらしく、その不意打ちで体勢を崩して術もとぎれてしまった。空を飛ぶ修行はあまりしてなかったようで、そのまま魔鈴と一緒に落下していく。

「うわ、や、やべぇ!?」
「きゃああああ!?」

 こういう時に慌てれば慌てるほど、普段の知恵や力は出て来ないものである。もっとも横島は10メートルかそこらの高さから落ちたくらいでどうにかなったりはしないのだが、本能的な落下の恐怖というのはそう簡単に克服できるものではないようだ。魔鈴が一緒なのもそれに拍車をかけていた。

「まったく、本当に世話が焼ける……!」

 カリンは舌打ちしつつも右手を峯の脇の下から離して横島の方に向け、えいっと金縛りの術をかける。精神干渉ではなく念動力的な拘束の術であるそれは、横島と魔鈴の落下速度をゼロにすることはできなかったが、どうにか半減させるところまではいった。
 横島はそれでようやく冷静さを取り戻すと、改めて飛行能力を発動してどうにか軟着陸に成功する。

「すまんカリン、助かった」
「まったく、あまり心配させるな」

 カリンが表情では怒っていても、声色にはほっとした様子がにじみ出ていたのが横島にはうれしかった。だって今回は悪いことをしたつもりはなかったから。
 なので横島は魔鈴をいつまでも抱いておらずにすぐ降ろしたが、魔鈴も墜落しかけたのが怖かったからか横島を再追及する余裕はないようだ。

(ホントにもう、何やってるんだか……)
(横島さんてば相変わらずですねえ……)

 愛子の机を担いでいたせいで動けなかったタマモと、同様に意識の無い自分の体を抱えていたためこちらも見ているしかなかったキヌが、横島たちのやり取りを見つめながら鏡で写したようにそっくりの表情でぼやいていた。


 無事全員が地上に降りて気分も落ち着いた後、魔鈴はお客の9人に向かってひたすら頭を下げていた。

「すいません、私の不手際のせいでみなさんに怖い思いをさせてしまって……本当に何て謝っていいか」
「いや魔鈴さん、そんなに気にすることないっスよ。悪気があったわけじゃないんでしょう?」

 魔鈴はもう土下座せんばかりの勢いだったが、横島としては年上の美女にそんなことされるとかえっていたたまれなくなってしまう。特にひねりの効いた台詞でもなかったが、そんなことを言って魔鈴をなぐさめた。

「そうだな。それより早く元の世界に帰ろう」

 カリンはなぜ魔鈴の魔法が破れたのかうすうす察していたため、こちらも彼女を責める様子はなかった。こんな人前で余計な詮索をされたら困るので話題を変えようとしたからでもある。
 魔鈴もいつまで謝ってても事態は改善されないことは分かっていたので、2人のとりなしを機に謝罪を切り上げて帰還の方法についての話に移った。
 おもむろにどこからか薄い本を取り出すと、星明りを頼りにページをぱらぱらとめくって、

「ここから元の場所に空間を再接続するのは無理なので、この世界にすでにあるゲートを探すしかありません。
 で、この場所からだと、パンドジニウムに行くのが1番近いですね。その城の玉座の後ろに、そのゲートがあるんです」
「パン……ドジ……ニウム?」

 何という力の抜けるネーミングだろうか。横島たちは突っ込みを入れる気力すら湧いて来なかったが、その傍らで六女組がさらに脱力的な会話をかわしていた。

「パンドジニウムって、つまり万ドジ殿って意味よね。ひょっとしてソリが落ちたのってあんたのせいじゃない?」
「千鶴が六女青史の最新ページを飾ったあのイベントは鮮烈だったもんねー。どじっ娘同士引き合ったとしか思えないわ」
「いやなこと思い出させないでよっ!!」

 友人たちの無遠慮きわまる放言に峯ががあーっと吼えたける。まったく、この連中の辞書に気遣いとかそういう言葉はないのか!? 第一城は「娘」じゃないだろう。
 ちなみにパンドジニウムの「元ネタ」は言うまでもなく、「パンデモニウム(万魔殿、デーモンの全てという意味)」である。

「……」

 魔鈴は「あのイベント」とやらの詳細は知らないが、そのこめかみの辺りにはひと筋の冷や汗がつたっていた。魔鈴自身除霊仕事で大事なことを分かってなくて失敗した事もあったから、もしかしたらソリが墜落したのは本当にどじっ娘効果が重複したせいかも知れない……と考えかけて、すぐ頭を振って否定した。いくら魔法や霊能の世界がある意味何でもアリだとは言え、そこまでバカげたことが起こるはずがない。
 それよりこの話にはまだ続きがあるのだ。魔鈴は峯たちに視線を送って、注意をこちらに戻させた。

「ただ問題はですね……そこには『宝の番人』がいるかも知れないっていうことなんです。私たちは招かれざる客ですから、侵入者とみなされて攻撃されるかも知れません」
「宝の番人? ってことは、城にはお宝があるってことですか?」

 遠藤はなかなかアグレッシブな性格をしているらしく、さっそく魔鈴の説明からプラス要素を見出して質問していた。もしかしたらここはファンタジーRPGの世界なのだろうか?なんていう空想とともに。
 すると魔鈴はちょっと気が重たそうな様子で頷いて、

「そう……ですね。すでに奪われたのでなければあると思います。
 この本によると、『駄神鞭』とか『魔弾カスラム』というものみたいですね」

 それでも略奪者的発想をたしなめなかったのは、そのお宝に正当な持ち主がいるわけではないらしい事と、宝の番人たちもオートマタ(自動からくり人形)なので先方から攻撃してきたのなら壊してしまうのもやむを得ないと思っているからだった。
 ただそのお宝の名前がもうしつこいほどのパロディ系ネーミングだったため、横島が疲れた口調で突っ込みを入れてきた。

「……それって役に立つんですか?」
「まあ、『本物』だったら本物だったで私たちに扱える代物じゃないがな……」

 とカリンがそれに答えるかのようにつぶやいた。
 こちらの元ネタは元始天尊が姜子牙(太公望)に貸与した仙術武器と、光神ルーが持っていた投げ礫だろう。将来的にはともかく、今の横島では役者不足だ。しかしそのパンドジニウムとやら、誰がどんな目的でつくったのだろうか。

「ところで魔鈴さん、『宝の番人』というのは強いんですか?」

 ある意味もっとも肝心とも言えるその質問は、ピートが口にしたものだ。さすがにGS界屈指の堅気だけのことはある。
 魔鈴はちょっと首をひねって、

「そうですね……確かなことは言えませんけど、ピートさんや横島さんなら大丈夫だと思いますよ。
 他の方のことは分かりませんけど、この人数なら隊列を組んで行けますし」

 本にはそんな細かいことまでは書かれていないのだが、犬飼ポチやブラドーと渡り合った彼らなら遅れを取ることはないはずだ。峯たちの腕前は知らないが、GS組が囲んで護衛するような隊形で行けば大丈夫だろう。

「そうか……まあ峯殿たちもGSの卵なんだし、とりあえず行ってみてもいいんじゃないかな。番人が強かったら退却して、また別の方法を考えれば良いのだし」

 ゆえにカリンのこの提言に反対する者はいなかった。今のところそれ以外の案はなかったし、パロディな城や宝物への興味もあったから。

「わかりました、では行きましょう」

 そういうわけで魔鈴はパンドジニウム攻略を決意したのだが、先頭に立って歩き出そうとしたところで城がどちらにあるのか分からない事に気がついた。だいたいこの辺にあるのは確かなのだが、それはキロメートル単位で見た場合の話なのだ。昼間なら遠目に見えたかも知れないが、今は夜なので視界はひどく狭かった。
 しかし幸い、ここには非常に偵察に適した能力を持つ者がいた。

「そうか、では私が探してくるからここで待っててくれ」

 カリンは飛行速度がこの中で1番速い上に、横島がいる場所は遠くにいても分かるから探しているうちに魔鈴たちの居場所が分からなくなる恐れもない。探索にはまことに適役であった。
 カリンは矢のような速さで飛んで行くと、わずか15分ほどで戻ってきた。その報告によると、城は魔鈴たちの位置から見て南西に2キロほどの所にあるという。

「2キロですか、抱えていってもらうのはちょっとつらそうですね。歩いて行っても30分くらいですし、みんなで歩いて行きましょう」

 という魔鈴の裁決によって、一行は徒歩でパンドジニウムをめざす事になったのだった。


 周囲は何の変哲もない平原で、ところどころに名も知れぬ樹や草が生えている他は眼につくものは何もなかった。誰かに襲われる可能性はなさそうだったが、夜露をしのげる場所もない。もっとも30分程度で着くのだから、休息を取る必要もないのだが。
 一行の先頭にいるのは、責任者にして引率である魔鈴と、道案内役のカリンである。魔鈴はしばらく無言で歩いていたが、ふと思いついたことを気慰みに訊ねてみた。

「ところでカリンさん、ちょっと聞いてもらっていいですか? いえ、この異世界のこととは全然関係ない、除霊についての話なんですけど」
「ふむ? ああ、私で良ければ別に構わないが……」

 本物の魔女である魔鈴に、自分が教えることなどあるのだろうか。カリンはそう思ったのだが、魔鈴は彼女の竜神の波動で生まれたという経歴と厳しい戦いをくぐり抜けてきた才覚にむしろ軽い敬意さえ抱いていたのである。
 魔鈴はカリンの応諾に喜んで、それでも失敗談だけにちょっと小声で話し始めた。

「私が料理店の合間に除霊のお仕事してることはカリンさんも知ってますよね。それで1度失敗してしまったんですけど、その解決法が分からなくて悩んでるんです」

 呪われた古い屋敷を除霊してほしいという依頼を受けた魔鈴は、建物にこもった「陰の気」を掃除で清め、その後その「陰気」が体にたまってしまった依頼人も魔法料理で浄化した。その効果はテキメンで、屋敷にとりついていた元持ち主の霊は1発で成仏したのだが、それからしばらくして屋敷に大量の浮遊霊が集まって来て、魔鈴1人では手がつけられない状態になってしまったのだ。

「その時はオカルトGメンに救援を依頼してどうにか除霊したんですけど、もしかして私のやり方は間違ってたんじゃないかって」

 清潔とバランスを心がけ、霊的・肉体的な健康を維持していれば霊障などまず発生しないし、発生してもそのバランスを取り戻せば高価なお札や除霊具がなくても解決できる。それが魔鈴の持論だったのだが、現実に失敗を体験してしまうとその信念もゆらいでしまうのだった。

「支部長さんは、人為的に作られたクリーンさはそれ自体が不健康で、今回のケースでは突然霊的な空白地帯ができたせいで今まで他の悪霊や精霊に抑えつけられていたザコ霊がなだれこんできたんだ、って言ってまして、私もその時はそれで納得したんですけど、それではいつまで経っても抜本的な解決はできないんじゃないかって思うんですよ」

 人間はしょせん不完全な生き物だから、心身の歪みを強力な魔法で修正するとどうしてもどこかに無理ができるのだ、と美智恵は言っていた。それは確かにその通りだと思うのだが、普通のGSがやっているような普通の除霊法では事後的な対策に終始するばかりで、霊障を予防する、あるいは安価に浄霊することはできない。

「なるほど。重病人に劇薬を与えたら、治りはしたものの副作用でもっとひどい状態になってしまったというようなものか」
「そうですね。で、何かその問題をクリアする方法はないかなあ、っていま研究してる所なんですけど、なかなかいい案は思いつかなくて」
「……ふむ」

 話を聞き終えたカリンは、さすがに良き魔女を自認する人は考えることが違うと感心しつつも、せっかくそんな人に頼られたのだからということで知恵をしぼることにした。
 人為的なクリーンさがすべて不健康だとは思わない。それなら唐巣の教会や神社仏閣もみんな不健康という事になってしまうわけで、今回のケースでは空白地帯ができた、つまり建物の浄化は一時的なものに過ぎなかったという事が問題なのだと思う。
 何らかの方法で清らかな波動が維持されるようにしてやれば済むことだが、そうすると今度は住人との霊的なバランスに問題が生じてしまう。こちらも継続的に魔法料理を食べさせてやれば釣り合いは取れるが、強力な魔法が効きっ放しなんて状態にしたらそれこそどこに反動が出るか分からない。

「確かになかなか難しい問題だな。結界を張れば外からの侵入は防げるが、そちらもメンテナンスが必要だからかえって高くつくしな。
 掃除と料理で浄霊という発想自体はすごくいいと思うのだが……ああ」

 歩きつつも眉をしかめて考え込んでいたカリンだが、急に表情を明るくしてぽんと手を打った。

「必要以上に浄化しすぎなければいいんだ。浄霊したあと、建物をもう1度周りの民家と同じくらいまで『汚して』周囲と同化させてやれば空白地帯はできない。
 その後は住人次第だな」

 事件を機に心を入れ替えて清潔・健全な生活を始めるか、それとも乱れた生活をしてまた霊障に襲われるか、どちらにしても当人が決めることであろう。
 まあ世の中の人間がみんなそんな健康的な生活をできるわけはないのだが、しょせん人は自分で変わろうと思わなければ変われないのだ。つまり予防法を教えてやる事はできてもそれを強制することはできないという事なのだが、しかしこれは人間のサガなのだから魔鈴が責任を感じる必要はあるまい。
 魔鈴はしばらくうつむき加減で難しい顔をしていたが、やがて愁眉を開いて顔を上げた。

「そうですね。ちょっと不本意ですけど、試してみる価値はありそうです。
 でも私1人でやってまた失敗したら大変ですから、1度手伝ってもらえたら嬉しいんですけど……」

 不本意というのは、せっかく神殿なみに浄化したものをまた世間一般レベルに「汚して」しまうのがもったいないからである。しかしそれが霊障の原因になった以上、それに固執するわけにはいかなかった。
 そしてカリンは意外な依頼にちょっと目をぱちくりさせて、

「ふむ? それはまあ構わないが、仕事ならちゃんと報酬……いや、あなたの料理と掃除の浄霊法を少し教えてもらえるかな。やり方次第ではすごく役に立つと思うんだ」

 むろん魔鈴に否やはない。満面に笑みを浮かべて承知した。

「ええ、もちろん構いませんよ。それじゃ今度そういう仕事があった時はお願いしますね」
「ああ、こちらこそよろしく」

 などと影法師娘は勝手に仕事の契約をしていたが、本体の少年と居候の狐娘は先頭に次ぐ大役である殿(しんがり。最後尾)を引き受けていたのでその取引には気づかなかった。まあ横島にとってもタマモにとっても損な話ではないので、文句や苦情は出ないだろうけれど。ちなみにキヌも横タマのそばにいたので、カリンと魔鈴のやり取りは聞こえていない。
 そしてさらに歩くこと10分、ようやく横島たちはパンドジニウムの正門前に到着した。暗いので全容は見えないが中世ヨーロッパ風の小さな城という感じで、周囲には幅の広い濠(ほり)が掘られている。夜だからか跳ね橋は上げられていて、客を歓迎する気配は感じられなかった。

「これがパンドジニウムか……思ったより小さいな」

 横島がそんな呟きをもらしたのは、やはり「万魔殿」の印象があったからだろう。そして魔鈴にどうするのか訊ねてみると、当然ながら現代の魔女は中に入る旨を答えてきた。

「夜中に押しかけるのは失礼でしょうけど、ここで一晩過ごすわけにもいきません。もう1回飛んで中に入りましょう」

 こうして、横島たちは万ドジ殿への侵入を開始したのだった。


 ―――つづく。

 斜め下な展開ではありますが、ギャグ小説ということでお目こぼしいただけると有難いです(^^;
 原作では魔鈴の除霊法の問題点を指摘したのは六道夫人でしたが、このSSでは魔法料理対決が行われてないのでこういう流れになりました。
 ではレス返しを。

○北条ヤスナリさん
 筆者もぜひ見たいのですが、絵師さまたちの心の琴線には触れなかったみたいです(´・ω・`)

○KOS-MOSさん
 カリン竜モードは霊能部のメンツには公開ずみですし、見た目は飛行機ですので正体がバレるところまでは行かないかと。
 横島君のを見せたら一発ですがw
 おキヌちゃんは一応自力飛行できますです。おかげで横島君に抱っこはしてもらえませんでしたがorz

○cpyさん
 パーティの参加人数が多いので、おキヌVSカリン&タマモの戦いが起こるかどうかはまだわかりません。wktkしながら見守って下さいませー。
 カリンは残念ながら(?)変身してくれませんでした。

○いしゅたるさん
>嫉妬
 いや、心の中で思うだけならともかく、実際に相手の自由恋愛を邪魔するのはいかがなものかということであります。邪魔された方にしてみれば「彼女でもないくせに何の権利があって」という話になるでしょうし。
>おキヌちゃんの横島との会話
 いや、作中に描写されてないだけで、たとえば霊能部のランチタイムとかでは普通の世間話くらいはしておるわけですが……描いてないと分からないですよねぇ。あうorz
 いあそういうのを描くって結構難しいのですよー。
>カリン
 はい、このパーティの中で話す機会があるかどうかは分かりませんが、ケリをつける覚悟は決めましたので。
>おキヌちゃんの幸せ
 は、彼女にもいい場面をつくってやりたいと思ってはいるのですがorz

○遊鬼さん
 横島君が参加した時点で、平穏無事に終わることなど有り得ません(ぉ
 おキヌちゃんは……早いうちに決着ついた方が幸せそうですorz
>ミニスカサンタルック
 筆者も視線が集中しちゃいそうですな。横島君がうらやましいです。
>自力飛行可能
 むしろラッキーイベントになってますw

○Tシローさん
>やはり横島はそうでなくては
 そして目がくらんだせいでオチがつく。これが横島君の宿命ですな(酷)。
>このような結果になった気がします
 は、そんな所であります。
>鈍い本体
 彼もおキヌちゃんにズバッと言い切るのは難しいでしょうからねぇ。

○ばーばろさん
 魔鈴さんは天然なので、無意識のうちに強烈なアタックを仕掛けておるのですよー(ぇ
 さほど横島君に好意を持ってるわけではなさそうですが、それゆえ奥さんズの警戒も甘くなるという罠であります。
 横島君が突っ走れるかどうかは分かりませんが!
>魔鈴さんにはヨコシマの竜神化がバレそうですねぇ
 彼女ならバレても実害はないでしょうけど、カリンの頭痛のタネは増えそうな気がしますw
>愛子が食べた食事
 ひどいww

○Februaryさん
 魔鈴さんも結構トラブルメーカーですからねぇ。横島君とセットになったらそれはもう(ぉ
>ピート
 原作でもビクついてましたからねぇ。女性恐怖症ってわけでもなさそうですが、モテすぎて特定の彼女を作れない状況なんでしょうか。
>能力の見事な無駄遣いっぷり
 だからこそ級友たちも親近感を持てると思うのですよー。
>何故か、頬に汗をたらしたステキな笑顔が浮かびましたww
 悪いのは横島君なのに魔鈴さんも大変です。

○ぞらさん
 今回さらに怪しい方向に流れてしまいました(^^;
>おキヌちゃん
 横島君は彼女に対しては特に真面目ですからねぇ。先のこと考えずに遊びで付き合うなんて出来ないでしょうし。
>整理予告
 丸く収まれば良いのですがー。

○whiteangelさん
>横島くん
 彼は自分を客観的に見ることができない男ですからねぇ。舞い上がって落とされるのも彼らしいと言えばらしいんですが(w
>おキヌちゃん
 黒絹ちゃんだけは筆者もご遠慮したいところですが、状況はまったくの不透明であります。

○山瀬竜さん
 この手のイベントで何事もなく終わっちゃったら面白くありませんからねぇ。なにせGS美神のSSですから(ぉ
 ピートは原作に比べればマシな状況のはずなんですが、この先落とされずに済むかどうかは分かりませんw
 峯さんは……どうなることやら(^^;
>起こるべくして起こったトラブルのような気もしますが
 普通に生活してる分には問題ないので、横島君たちも備えはしてなかったんでしょうねぇ。
>タダスケさんはタイガーについて何かもらさなかったんでしょうか?
 横島君は聞いていないみたいですな。タダスケが覚えてなかったんじゃないでしょうか(酷!)。
 うーん、この体たらくでは登場は難しそうです(さらに酷)。
>カオス&マリア
 確かにそうなんですよねぇ。筆者に大人数をさばき切る腕前さえあれば!

○読石さん
 ねぎらいのお言葉ありがとうございますー。
>カリン
 まったくその通りのような気がしますが、彼女も2人連続で決着つけるというのは心理的にきついのでありましょう。
>タマモさんカリンが殆ど同じ事を危惧してるのが
 横島君がもう少ししっかりしてたら、彼女たちも安心できるんですがねぇ。
>ソリが落ちる原因の横島一家は全員飛ぶことが出来るって
 うーむ、言われてみれば。
 世の中の不条理さを感じますな(ぉ

○チョーやんさん
 トラブルが起こるのはもう運命的な必然かとw
 魔鈴さんのミニスカルックは好評ですなぁ。筆者もぜひ絵で見たいのですがー。
>おキヌちゃん
 は、筆者も不幸のまま終わるような展開にはしたくないのでありますが、先のことはまだ秘密であります。
>虎な大男
 はて、そんなキャラいましたっけ?(ぉ

○通りすがりのヘタレさん
>ソリ墜落
 市街地でなかったのが不幸中の幸いでありました。
>飢えた狼に狙われたピート
 たしかに神野さんも遠藤さんもイブの夜に美形かつGSな彼氏ができれば大ラッキーですからねぇ。餓狼のごとく襲い掛かるのは当然といったところでしょうか(ぉ
 果たして彼の貞操は守られるのか!
>カリンが千鶴嬢をからかっている場面は初めてでは
 それなりに親密度も上がってきたということでしょうかねぇ。がんばれ百合っ娘!<マテ

○エのさん
 いったん壊れちゃったらもう1人2人降ろしても手遅れなのでありますよー。
 飛べる人数多いので人身事故にはなりませんでしたが、この先がさらにデンジャーそうですw
 おキヌちゃんは……どうなることやら(o_ _)o

○風来人さん
>ミニスカサンタルックの魔鈴さん
 筆者はとりあえず撮影したいです。
 次回この服装で城に侵入するわけですがー(w
>エミさんに呪われちゃいますぜ?
 知らぬが仏というやつですなぁ。
 あ、もしかして原作のピートがビクついてたのはこれを予想したからなのかも。
>おキヌちゃん
 はい、横島君を狙う女性には壁が余りにも多いのです。
 彼はいつの間にこんな難攻不落な男になってしまったんでしょう。
>タダスケと合流
 ひどい、ひどすぎます(ww

○紅さん
 いあいあ、少しくらい遅くてもレスは嬉しいです。
>サンタクロース
 むしろ襲う方になりかねませんな(ぉ
>おキヌちゃん
 状況は厳しいですからねぃ……。

○鋼鉄の騎士さん
>ドジッ娘魔女
 実は自分でも分かってるようです(w
 今回の件は仕方ないのですがー。
>いいねいいねー、こーゆう展開大好きよw
 次回、さらなる斜め下な展開をご期待下さい(ぇ
>おキヌちゃん
 敵城は見た目よりはるかに堅牢ですからねぇ……。

○POPOさん
>墜落
 こんな流れになりました。カリンやタマモには余力がありますから、十分許容範囲ですな。
>横島君に対する株は下がるかもしれませんが
 別の理由で下がりましたw

○tttさん
>峯さん
 彼女の場合はカリン(と横島君)の正体とか三股のこととかを知らないからこそアタックできるわけで、知ったらさすがに手を引くかと思われますー。
 将来の展望ですが、彼女はまだ高1なのでそこまで深くは考えてません。普通の高1のカップルが結婚を視野に入れてないのと同じことであります。
>おキヌちゃん
 は、それについては第121話にてカリンが決意しております。
>墜落
 おキヌちゃんが飛べて魔鈴さんが飛べないという状況なのでこんな流れになりました。おかげで横キヌフラグは(以下略)。
 もしおキヌちゃんが飛べなくて魔鈴さんが飛べたなら、ご考察の通りになったかも知れません。
>令子さん
 まああの方は思い切り唯我独尊ですからねぇ。それを通せるだけの実力と頭脳もありますし。
 ときどきポカもかましますがw

○オブラディさん
 魔鈴さんって結構人気あるんですねぇ。筆者も好きですがー!
 おキヌちゃんはいい娘なんですが……(o_ _)o

○炎さん
 原作の魔鈴さんは空間を再接続するのにコンデンサーを使ってましたから、それがないこの世界では自力での帰還は無理でした(ぉ
 小竜姫さまの事とかは先をお待ち下さいませー。
>GSルシオラ
 や、前作までまた読んでいただけるとは嬉しい限り。前作は逆行物ですからだいたい原作に近い展開で書いてたのですが、今作はもうやりたい放題です<マテ

○ロイさん
>原作よりもグレードアップしたイベント
 何だかんだ言って原因は全部横島君にあるわけですが、その当人が意外といい思いをしてるのが不可解です(ぉ
>おキヌちゃん
 黒化こわい黒化こわい(以下略)。

   ではまた。

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