「あら、聞いてませんでしたか?」
小竜姫はかわいく首をかしげているが、百合子にとっては寝耳に水どころの騒ぎではない。まだ高校生のくせに結婚、それも相手が神様だなどといったい何を考えているのか。
百合子は頭を起こす前に横に座っている息子やカリンたちの顔をチラリと流し見てみたが、彼らは特に驚いている様子はなかった。つまりこれは小竜姫1人の思い込みというわけではなく、息子たちも承知している事のようだ。
仮にも神様に会うのに大事なことを黙っていた不埒者への制裁は後で行うとして、今は小竜姫との話を続けねばならない。
「は、はあ、そこまでは……彼女としてお付き合いいただいてるとは伺ってましたが……」
「そうでしたか。もっとも私は日本で法律婚をすることはできないんですけれど、竜神界でならできますから」
小竜姫は小山竜姫名義の戸籍があれば日本ででも結婚できるのだが、残念ながらこれは近日中に抹消される予定なので、彼女と横島が正式に夫婦の契りをかわすには竜神界に行くしかないのだった。
(まったく、この子はどこまで……!!)
百合子はここまで話が進んでいるとは思っていなかったし、恋愛関係のことについてはある程度打ち解けてから少しずつ問い質していくつもりだったのだが、先方からここまでぶっちゃけられたらもうそんな事にこだわってはいられない。
「しかし小竜姫様……結婚といっても忠夫はまだ高校生ですし、それに変な三股までかけているのですが、それでも本当に……?」
「ええ、その辺りは承知してますよ。結婚のことはまだ約束しただけですから、実際に式を挙げるのは横島さんが学校を卒業して、お仕事を一人前にこなせるようになってからにするつもりです。
カリンさんとタマモさんのことも知っていますけど、私の父にも妻は2人居ますし、別に気にしていませんから。
あ、さっき竜神界でならできると言いましたけど、別に横島さんをずっと竜神界に住まわせるという意味じゃありませんから。百合子さんたちが会えなくなるということはありませんので安心して下さい」
「……」
完璧な答えである。これには百合子もケチをつける隙を見出すことはできなかった。
籍を入れなくても最近は事実婚というのもあるし、異種族婚というのも先方の神様が気にしていない以上、人間風情のこちらが言い立てるわけにはいかない。カリンとタマモは横島と結婚するという考えは持っていないようだし、2人が表向きには山奥の神社の巫女として振る舞うのなら世間体的にもそれほど問題なさそうだ。
というか、このバカ息子が神様に婿入りできるというのはむしろものすごく光栄なことなのではないだろうか。
まあ神様といってもピンキリだから、小竜姫が神族の中でどういう立場なのかにもよるのだが。横島たちの話ではかなり偉いらしいのだが、身内びいきが混じってそうだから鵜呑みにはできない。
とはいえさすがにそんなことをストレートに聞くわけにはいかないので、百合子はちょっと迂回して小竜姫がこの山で何の仕事をしているのかを訊ねてみることにした。
だいたいのことはすでに横島から聞いているのだが、こういった席なら珍しいことではあるまい。そもそも神様が何のためにこんな所で人間に霊能の稽古をつけているのだろうか。
「……ところで小竜姫様は、このような山奥でどんな仕事をなさっておいでなのですか?」
「仕事、ですか。ご覧の通り、ここを訪ねてくる修業者に稽古をつけることですよ。ただ未熟な人に大勢押しかけられても困りますので、このような山奥に建てさせていただいてます。
それともう聞いてるかも知れませんけど、人界で悪さをする魔族やはぐれ神族が現れた時は、逮捕もしくは退治しに行くこともあります」
それともう1つ、妙神山は神魔族が人界で活動するためのエネルギーを供給する拠点の1つなのでその維持管理、というのが真の役目なのだが、これは横島にさえ明かしていない秘密なので小竜姫はここでは口にしなかった。
言わなくても十分存在理由を説明できることではあるし。
「なるほど……確かにこんな施設を街中に建てるわけにはいきませんですわね」
東京都23区の中に神様が常駐する修業場なんか建った日には、どんな騒ぎが起こることか。逮捕や退治だけが目的なら今みたいに普通の人間のふりをして、普通の社会人として街中で暮らすという手もあるが、それはそれでスパイに潜り込まれてるみたいで面白くない。
その辺の折り合いをつけるために、神族は拠点は目立たないよう山奥に建てて、またそれに必然性を持たせるため修業者に稽古をつけるという慈善事業のようなことをしているのだろう。
しかしこんな暮らしをしていては長期間都会に潜伏して地の利に詳しくなった連中には遅れを取るので、現地ガイドを置いていざという時の案内やアドバイスを求めようというわけか。一昨日息子から聞いたことだが、確かに筋は通っている。
「神様も私どもが思っているより大変なのですね。するとこういう施設が世界中のそこかしこに建っていたりするのでしょうか?」
「ええ、具体的な数や場所までは教えられませんが、世界各地に置かれています。すべてが修業場という形式を取っているわけではありませんけど」
「そうなんですか。いえ、小竜姫様が息子たちと一緒に香港にまで出向かれたと聞いたものですから、少し気になりまして」
このくだりが百合子が小竜姫の地位を探るために放った一手なのだが、なぜか小竜姫は目に見えてがっくりと肩を落としてしまった。
「ああ、そういう話ですか……ええ、もともと香港は私の管轄じゃないんですけど、東アジア駐留の神族で『彼女』に対抗できるのは私しかいないという事で担当することになったんです」
結果的にはそのおかげでお婿さんをゲットできたのだからむしろ良いことだったのだが、1度に数分しか動けない所へ行かされたあげく負けてしまったこと自体がいい思い出であるはずがない。
「残念ながら私の未熟のせいで取り逃がしてしまいましたが、次に現れた時はきっちり退治するつもりです」
と小竜姫は謙虚に言ったが、百合子はこの短い話の中から十分な収穫を手に入れていた。何しろ彼女は東アジアで1番強い神様で、かつそれが周囲にも認められているというのだから、下っ端とか窓際とかはぐれ者とかそういった分際ではない。
まあ嫌われ者がいやな仕事を押し付けられたという見方もあるのだが、いくら何でも小竜姫がそんな人物だとは思えなかった。
……となると、逆に横島とは釣り合いが取れてなさ過ぎる。
「なるほど、そういうわけでしたか。不躾な質問をしてしまってすいません。
しかしそれほどの方が、なぜうちの息子などと結婚を考えるようになられたんでしょうか……?」
すると小竜姫はこれ以上ないほどの莞爾とした笑みを浮かべて、
「あら、それは百合子さんが1番よく分かってらっしゃると思ってましたけど?
確かにいろいろと問題点はありますけど、それを含めて本当に素敵な方だと思ってますから」
「―――!」
やられた、と百合子は心の中で白旗を上げた。こんなこと言われた日には、もうせせこましい詮索なんかできない。
「参りました。ふつつかな息子ですけど、どうぞ末長くお願いいたします」
と百合子が深々と頭を下げると、小竜姫もていねいにお辞儀して、
「はい、こちらこそよろしくお願いします。
そうだ、せっかくですから横島さんたちの修業風景でも見学して行かれませんか? 除霊の仕事は危険が伴いますから同行はさせてもらえないでしょうけど、横島さんたちの腕前だけならお見せできますから」
と提案したのは、婚約承認のお礼をかねて、自分が本当に横島たちの師匠で武神であることを見せておこうと思ったからだ。言葉での説明だけよりその方が安心できるだろう。
むろん百合子にとっては願ってもない話で二つ返事で了承したが、当の横島にはあまり嬉しいことではなかった。
「えー、今日は挨拶だけのつもりだったのに……」
「いーじゃない。この際だから成長したとこ見せとけば?」
「もちろんタマモさんもですからね」
「あう」
無責任に横島を煽るタマモだったが、小竜姫に容赦ない宣告をくらって自分もテーブルの上に突っ伏した。百合子に見せるための修業である以上、座って妖気のコントロールをするだけなんてある意味楽チンな内容ではないのだ。
「あはははは。じゃあタマモ殿、いっしょに成長したところを披露するとしようか」
と狐娘の背中をぽんぽん叩いてからかうカリン。
こうして横島たちは、百合子に今までの修練の成果を見学されるハメになったのだった。
小竜姫は一般人である百合子を異界空間に招くのは気が引けたので、公開修業は中庭で行うことにした。
縁側に腰掛けた百合子の前に立って、本日の修業の内容を解説する。
「今日は百合子さんにお見せする修業ということで、試合形式でやろうと思います。
先に説明しておきますと、横島さんとカリンさんはどんな状況でも役に立てるオールラウンダーですけど、どちらかと言えば横島さんは後衛のサポート向き、カリンさんは前衛の直接格闘向きですね。
タマモさんは格闘はあまり向いてません。後衛の撹乱・援護攻撃要員、それから超感覚を生かした周囲の警戒といったところでしょうか。ですのでもし3人でチームを組むとしたら、カリンさんを先頭にして、タマモさんと横島さんが後に続く形がベストでしょうね」
横島にとってあまり名誉的な布陣ではないが、適性で考えればそうなるのだから仕方がない。母親のちょっと乾いた視線に、煩悩少年は「しょーがねーだろ!? それが俺の霊能なんだから!」とヤケっぱち気味な叫び声で答えていた。
「じゃ、まずは私とカリンさんから始めますから」
小竜姫があえて先に立ったのは彼女の思惑からして当然のことだったが、その相方にカリンを選んだのは、むろん横島やタマモでは見映えのいい試合にはなりそうにないからである。
そして竹刀を持った小竜姫と素手のままのカリンが連れ立って中庭の真ん中に歩き出したが、その光景を見てほほうと嬉しげに口元を綻ばせる者がいた。
「へえ、これは面白いことになってきたね。百合子さんはまだ猫かぶってるみたいだけど、まさか横島君たちの腕前まで見られるとは思わなかったよ」
「ですねー」
玉竜とヒャクメである。修業場の構内の片隅で、ヒャクメの神通パソコンを使って横島たちの対談の様子を覗き見していたのだ。
2人がわざわざ隠れているのは、玉竜ほどの身分の者が軽々しく「普通の」人間に会うわけにはいかないのと、今日百合子がここに来ることは小竜姫自身でさえ知らない事になっているのに2人がここにいるのは非常に不自然だからである。
そのため玉竜たちは「タマモや小竜姫に」バレないよう、竜神界から強力な隠形結界まで持ち出して来ていた。そう、彼らは小竜姫にさえ自分たちが今ここにいることを知らせていないのだ!
ちなみに妙神山修業場は重要な拠点なので、神族といえども誰彼かまわず入れるようにはなっていない。部外者が入るにはそれなりの手続きが必要で、今回は玉竜が猿神に頼んで内密に入れてもらったのである。最初に話を持ちかけたのは当然ながらヒャクメだが。
「仕事をさぼって来たかいがあったというものだね。兄貴も来ればよかったのに」
「老師は横島さんたちとは修業で組み手してますから。百合子さんは『一応』一般人ですし、興味持たなくても仕方ないと思いますねー」
「そうだね……お、始まるみたいだよ」
と玉竜が会話を打ち切ってパソコンの画面を注視する。その向こうでは、素手で間合いが狭いはずのカリンが自分から小竜姫に向かって突進していた。
「へえ……? でもそれはちょっと無謀じゃないかな」
奇襲の効果はあるかも知れないが、それが通じるほど娘の剣技は甘くない。と玉竜は思ったのだが、その予想はあっさりと外れた。
何と影法師娘は剣の間合いよりずっと遠い位置から、小竜姫の腹を狙って熱線のようなブレスを吹きつけたのだ。彼女がもう封印を解いてもらっている以上、当たっても大したケガはしないのだからその攻撃に遠慮はなかった。
むろん小竜姫は効かないからといって受けるわけにはいかない。素早く半身になってかわすと、その足を止めずに飛び出してカリンの胸元に鋭い突きを繰り出す。
カリンはその剣尖を斜め後ろに跳び下がってかわした。外れた熱線が試合開始前に張られた結界の壁に当たって爆音をたてる。
「はあっ!」
カリンが再びブレスを吐いてくる前に、小竜姫は地を蹴ってその懐に飛び込んだ。お互い前衛の戦士タイプとはいえ得意な間合いが違うため、この戦いはいかに自分に有利な間合いを維持するかが肝要であった。
オレンジ色に輝く竜気に包まれた竹刀の切っ先が再びカリンの胸元に迫る。下がって避けられるタイミングではなかったが、少女はそれを右手、いや竜気の爪で払いのけた。
2人がいったん後ろに跳んで間合いを取る。
「なるほど、あの娘は人間の姿でも火を吐けるのか……それに小竜の剣を2度までも避けるなんて大したものだね」
玉竜はうんうんと感心していたが、横島も隣で観戦している母親に能天気な顔で恋人自慢をかましていた。
「どーだ、カリンも小竜姫さまもすげーだろ?」
「そうだね。私は武術は詳しくないけど、少なくともあんたにはもったいなさ過ぎだってことくらいはわかるわよ」
「……」
すぐに撃沈されていたけれど。
「いくぞ!」
再びカリンが突進し、今度は熱線ではなく普通の火炎を吐く。広がる炎で小竜姫はカリンの姿が見えなくなったが、すばやく竹刀に竜気をこめると横に薙ぎ、刃風で炎を吹き消した。横から回り込もうとしていたカリンを追いかけて、振り抜いていた竹刀を戻すのを兼ねて袈裟切りを見舞う。
「甘いですよ!」
「そちらもな!」
「!?」
飛び込んできた小竜姫に対してカリンは逆にもう1歩踏み込むと、左腕を伸ばして爪を竹刀の鍔元に叩きつけた。
まだ加速が十分でなかったところへカウンターをくらった小竜姫の竹刀がはじかれて宙にただよう。その隙にカリンが右手の爪で小竜姫の顔面に掴みかかった。
「くうう……!」
首をひねるだけではかわせない。小竜姫はとっさに左手を竹刀から離してカリンの右腕を払ったが、それでもカリンの攻撃は終わらなかった。何と踏み込んできた勢いそのままに頭突きを繰り出してきたのだ。
「この……!」
避けるのは無理だ。小竜姫はぐっと後足を踏ん張ると、自分も思い切り反動をつけて頭を前に傾けた。
―――がっつん!!
2人の額が大激突して痛そうな音響をあげる。
勢いはカリンの方がついていたが、小竜姫は足を踏ん張って迎撃した形になっていたので互角の相打ちという所であろう。お互いふらふらとよろめきつつも、追撃をくらわないよう後ろに下がる。
ついでに横島もフィードバックで目を回していた。心の準備がなかった分、ダメージが大きかったらしい。
何か恨み言をいっているようだが、誰も聞いていなかった。タマモも百合子も特に心配する様子がないのが哀れを誘うが、まあ横島だし。
「うっわぁ、頭突きを頭突きで受けるなんてムチャなことするのね小竜姫」
「でも以前の小竜だったらあんな手は思いつかなかったと思うよ。再修業した甲斐があったみたいだね。
しかしカリンさんも強いな。相打ちとはいえ素手で小竜に一撃入れるなんて、将来が楽しみだよ」
ヒャクメは口の辺りを手で押さえて痛そうな表情をしているが、玉竜はいたって平然としていた。この辺り、くぐった修羅場の数に違いがあるようだ。
攻防の流れとしては相打ちだったが、耐久力は小竜姫の方が勝っている。しかしカリンは横島のリジェネレーションの恩恵を受けられるから、立ち直ったのはほぼ同時だった。
「やりますねカリンさん、私に1本入れたのは初めてじゃないですか?」
「そう言えばそうだったな。相打ちだからちゃんとした1本だとは言いづらいが……」
「いえ、1本は1本ですよ。私ももっと精進しないといけませんね」
額を手でさすりながらそんなことを言い合うカリンと小竜姫。やがて額から手を離すと、再び構えを取って戦闘態勢を整えた。
「行きますよ!」
気合いと共に小竜姫が1歩を踏み出し、片手で胴薙ぎを振るう。カリンがバックステップしてかわすと、小竜姫はそれを追って正面からの唐竹割りから竹刀を旋回させて手首を狙った一閃、続けて袈裟切り、胴突き、脚斬り。その精妙かつ力強い剣技の前に、カリンは間合いを外して避けることしかできなかった。やはり素手と剣のハンデは大きいらしい。
「どうしました、逃げてばかりでは勝てませんよ!?」
「……そうだな!」
小竜姫の台詞は挑発じみたものだったが、カリンはあえてそれに乗った。喉元にまっすぐ伸びてきた突きを両腕をクロスさせてはね上げ、ついで前蹴りを放つ。
体格と間合いの関係上、カリンの足は小竜姫の胴体までは届かない。唯一届く彼女の手を狙ったのだが、小竜姫はぱっと右手と左手を離してその一撃を避けた。竹刀を持った右手に力をこめ直し、強引にカリンの側頭部めがけて横薙ぎに振るう。
「くっ!」
カリンはとっさに腰を落としてやり過ごす、いやしゃがみ込んで水面蹴りに移行した。しかし小竜姫はさっと脚を曲げてかわすと、着地せずそのまま空中に浮かび続けることで蹴りの二段目を回避する。
「人間相手なら当たってましたが、あいにく私は空を飛べますから!」
二段蹴りで姿勢が崩れたカリンに一撃を加えようと、小竜姫が体を前に倒しながら竹刀を振りかぶる。だがその刹那、竹刀から不自然な重みを感じた。
(―――っ、金縛りの術!)
一瞬たじろぐ小竜姫と、反対にニヤリと笑みを浮かべるカリン。片足に渾身の竜気をこめて地面を蹴り、自慢の高速飛行能力をさらに一段加速する!
もはや眼に映らないほどの速さにまで昇華されたショルダータックルが小竜姫の胸の真ん中にぶち当たった。
「これも相打ち……ということになるんでしょうかね」
カリンに吹っ飛ばされて結界の壁に背中を打ちつけた小竜姫がそう言って苦笑する。すると彼女の胸元にいた影法師娘も少し離れて同じように口元をゆがめた。
「いや、私が1本くらっただけ……だろうな」
カリンの肩には棒状の傷痕ができていた。小竜姫があの一瞬、竹刀を引き戻して盾にしたのだ。
しかもそれだけではなく、カリンのタックルに合わせて後ろに飛んで衝撃を逃がしていた。だからこそ結界の壁まで飛ばされてしまったわけだが、もし小竜姫が持っていたのが真剣だったらカリンは肩どころか腕を切り落とされていただろう。
すると小竜姫はクスッと小さく微笑んで、
「相変わらず謙虚ですね。でも竹刀が折れてしまいましたから、私たちの試合はここまでにしましょうか」
小竜姫はカリンのタックルの勢いを流し切れず、竹刀を折られて肩で胸を打たれていた。それゆえ相打ちと言ったのだが、この少女はそういう体裁にはこだわらないタイプのようだ。
「ああ。これだけやれば百合子殿も小竜姫殿が本物の武神であることを理解できただろうからな」
今の試合はせいぜいカリンと四分六分だったが、それは小竜姫がパワーを抑えていたからである。百合子ならそのくらいのことはすぐ分かるはずだ。
2人が並んで観客たちの所に戻ると、横島はまだ気絶していたが百合子は立ち上がって迎えてくれた。
「神様の剣技を拝見したのは初めてですけど、見事なものでございました。今後とも息子のご指導のほど、よろしくお願いいたします」
もっとも百合子は人間の剣術もあまり見たことはないのだが、小竜姫が強いということは理解できていた。結界を準備したのは彼女だし、技巧はともかくパワーを手加減していたのは明らかだったから。これ以上の師匠など、おそらくどこを探しても見つからないだろう。
「カリンさんもすごかったわ。正直言って忠夫の分身とは思えないくらいだったわよ」
「どういたしまして。しかし私はあくまで横島の一部だからな、褒めるなら横島を褒めてやってくれ」
カリンとしてはなるべく本体を立ててやりたい所なのだが、百合子にはそういうつもりはさらさら無いらしく、
「忠夫はまだ寝てるんだから、そんなこと気にしなくていいわよ。
……それより次はどうするのですか?」
と再び小竜姫に顔を向けると、小竜姫はちょっと困ったように首をかしげた。
「はい、横島さんとタマモさんにやってもらおうと思っていたんですが……あの頭突きはそんなに効いたんでしょうか?」
「ふむ? いや、私がもう平気なんだから横島も平気なはずだが……そのまま昼寝になってしまったのかな?」
カリンがそうコメントを入れると、百合子が「なーんだ」とでも言いたげにすっと片手を振り上げる。何のためらいもなく、昼寝小僧の額に握り拳を叩きつけた。
「さっさと起きなさい、忠夫!」
「へぐっ!?」
突然額に落ちて来た謎の痛みに、横島ががばっとはね起きる。何事かと左右を見回すが、特に怪しいことは何もなかった。
「痛ててて……い、いったい何なんだ!?」
「ほら忠夫、次はあんたの番だってさ。神様の弟子になってどこまで成長したか、じっくり見せてもらうから」
「えええ!? ちょ、ちょっと待てよ母さん」
カリンと小竜姫の試合が終わったことすら把握しきれてない横島はいささか戸惑いぎみだったが、しょせん彼が百合子に逆らえるわけがない。背中を押されて結界の中に放り込まれてしまった。
タマモがため息をつきつつも、その後ろに続いて入っていく。
「へえ、今度は横島君とタマモさんか。ただの試合とはいえ九尾の狐が戦うところを見られるなんて、今日は本当にラッキーだね。
カリンさんがあそこまでやれるなら横島君も相当なものだろうし、面白い対戦になりそうだ」
「ですねー。『面白い』ものになるのは確かだと思いますね」
玉竜とヒャクメの台詞は微妙にニュアンスが違っていたが、2人とも興味本位なのは間違いないようだ。
こうして、GM&DF覧試合の第2戦が始まろうとしていた。
―――つづく。
なぜか試合なんか入れちゃったので、まだ続いてしまいます(^^;
ではレス返しを。
○紅さん
GMが凄いのはもう当然のことですから!(ぇ
>小竜姫VSGM
小竜姫さまは息子の婿入り先として非常に優良なので、あっさり決着がついてしまいました(ぉ
もちろんそのツケは横島君に回るのですがー。
○yoshiさん
百合子さんは最初は偉大なる母として描くつもりだったのですが、今回は相手が非常識すぎました(^^;
三股問題は仰る通り横島君の1人勝ちぽいですが、その代償はきっちり払ってもらいますのでw
○coma収差さん
どもお久しぶりです。
霊能部の話はまた書く予定なのでご期待下さいー。
>GM
そうですねぇ、結果的に珍しいパターンにできたので喜んでおります。
そのツケが横島君に流れるのは、GSSSとして当然の流れなのですがー(ぉ
>バイト先
カオスなら確かにいいパートナーになれそうですが、まだ来日してないのが問題でorz
○電子の妖精さん
GMは原作でも結構びっくりしたりとまどったりしてましたからねぇ。すぐ立ち直って自分のペースを取り戻すのはさすがなのですが。
横島君が4人目をゲットできるかどうかは不明でありますー。ただ今回はアシュ編はありませんのでルシは出て来ませんorz
○ばーばろさん
横島君の人生……彼自身は美人の嫁さんといちゃついてたいっていうだけのささやかな野望しか持ってないんですがねぇ(笑)。
竜神化をいつ明かすかは難しいところですな。婚約OKの直後に話すという手もあったんですが、なし崩しにバトルに行っちゃいましたしw
爆弾発言は計画通りであります。GMのお株を奪う奇襲作戦なのですよー(ぇ
>バイト
強く勧誘してきそうな所ほど労働条件厳しそうですしねぇw
>鬼門
そんなご無体な(笑)。
ただ瞬殺されておしまいなんて、鬼門ヘイトとか言われ……なさそうですが(酷)。
○通りすがりのヘタレさん
GMをダウンさせるなんて、エベレスト登頂に匹敵する偉業ですよねぇ<マテ
流されるどころか積極的に小竜姫さまをOKしてしまいました。やはり一般人には計り知れないお方です(ぉ
>やり手の企業婦人でありますね
ありがとうございますー。単なる形容ではなく、行動でGMっぷりを描けているとうれしいです。
○cpyさん
三股折衝は女性陣のおかげでうまく行きすぎたので、横島君受難なイベントを入れてみました(酷)。
ダ女神様が何かドジ踏んでくれると面白いなー、などともっと酷いことも考えてますがー(ぉ
○TenPuLaさん
横島君への天誅はこんなところでどうでしょう(ぉ
百合子さんは無敵キャラとして描かれることが多いのですが、このトンデモ世界ではそうはいきませんでした。
>鬼門
一応出演者ですから、たまにはまともな出番もあげませんとねぇ。
>横島達を肴に宴会
むしろ覗きでした(笑)。
坊主とか豚とか河童とかは……筆者に多人数を同時に描き切る技量があれば出せるのですがorz
○遊鬼さん
仰る通りさすがのGMも神様相手は厳しかったのですが、つまりそれは婿入り先として優良ということでもあるのでした。
横島君の秘密はまだ残ってますから楽観はできませんがー!
嫁姑関係……3人ですからねぇ。世間様とはだいぶ違ったあり方になりそうですな(^^;
○whiteangelさん
鬼門はあの台詞を言っちゃったら逝っちゃいますからねぇ。生存本能が働いたのではないかと。
小竜姫さまの先制パンチは再修業の成果です!
○風来人さん
>謎の飛行物体X
たぶんセスナか何かだと思われてるのではないかと。
飛行許可とかは取ってませんがー!(笑)
>GM
終わるというか、逆転の発想であります。
>ヒャクメ
それでこそヒャクメクオリティなのです!
○ぞらさん
竜神になっちゃいました爆弾は今回は落ちませんでしたが、まだ油断はできませんw
なるほどGMが西遊記の愛読者だったらさらに有利ですな。
>GSの報酬
蛟の時は令子やエミがいたらまた話は別だったんでしょうけど、仰る通り参加者の中に金銭にこだわる人がいませんでしたからねぇ。
逆にアイテム使わないからこそこだわらずに済むわけですが。
神社の建築資金……規模とか立地にもよりますからねぇ。小竜姫さまが出してくれれば一発なのですが(ぉ
>オカルトGメンの報酬
もし普通にGS協会、あるいは世間一般の相場で出るのなら、原作のフェンリル編でもエミやカオスは最初からもっとやる気出してたでしょうからねぇ。
というわけでこのSSではGメンの内部基準という設定に致しました。
令子が引き抜かれた時の身分はよく分かりませんがー(ぉ
○tttさん
問題はあれですね、魔鈴さんや神父といった良い勤め先はあんまり求人出してないという事でしょうか(^^;
○シエンさん
グラップラー百合子……夫婦そろって違和感がありませんなw
しかし鬼門は哀れですのうw
>小竜姫さま
筆者もここまで成長するとは思ってませんでした(ぉ
>最初の試練が対GM
なるほど、そういう見方もアリですねぇ……最初というより最大のような気もしますがーw
>「1000歳年上の娘」
うーん、確かに(^^;
千歳も年上となると、もう姑のはずの百合子さんの方が礼儀に気をつけまくらないといけませんな(笑)。
○山瀬竜さん
>GM
横島君の成長ぶりはホントに突き抜けちゃってますからねぇ(笑)。
しかし驚いてもすぐ立ち直って冷静な計算ができるのが彼女のすごい所なのですよー。
>それにしてもクロトさんのGMはほんといいおかんですねぇ
ありがとうございますー。ちと物分かり良すぎかも知れませんが、今回辺りでちょうど良くなったのではないでしょうかw
○Tシローさん
最後の秘密は次回に持ち越しになりました。それとも無事隠しきることができるのか、筆者にも先が読めません<マテ
○星風さん
はじめまして、今後ともよろしくお願いします。
さすがの百合子さんも神様がらみの三股は蹴りようがありませんでした、というか優良婿入り先認定までしちゃいました。
GMを常識で判断してはいけないのであります(ぉ
○チョーやんさん
>小竜姫さま
いあいあ、これは上記の通り相手のお株を奪う策なのですよー。GMとの対面は異種格闘技戦ですから!
竜神化がバレるかどうかは先をお待ち下さいませー。
>横島クン……貯金してたんだ
財布の紐を握ってるのはカリンですから(笑)。
横島君も一応金額は知ってるというだけで。
○とりさん
なるほど、確かに「責任取れ」と言われたらGMもなす術ありませんねぇ(^^;
しかしむしろ積極的に嫁認定してしまいました。カリンやタマモより婿入り先としては優良なので(ぉ
>あのはっちゃけぶりは、また見たいぞ!
ありがとうございますー。ヒャクメといっしょに再登場しました。
乱入するかどうかはまだ分かりませんがー。
○ロイさん
>鬼門
なんて哀れな(涙)。
>小竜姫さま
修業のかいあって、ついに嫁認定もらえました。
あとはメドさんを倒せばサクセスストーリー完成であります(ぇ
○イニシャルSSさん
>GM
横島君がむちゃくちゃやってますからねぇ(笑)。
でも未成年の行動の責任は親にあるわけですから、結局自業自得といえなくもなかったりw
○読石さん
そうですねぇ。カリンも最初の頃はマネキン殴って手首痛めるほど弱かったんですが、いつの間にか大成長してしまいました。116話とは長いものです(ぉ
小竜姫さまは愛のパワーで大勝利でした!
○烏さん
オカルトGメンの採用形態って謎なんですよねぇ。アシュ編は別としても、令子やシロタマが仕事した時はどういう立場だったのか(笑)。
ただGメンは公的機関ですので、フリーランスのGSに仕事を依頼するならともかく、高校生のアルバイトとして雇った者に現場で除霊させるのは難しいような気がしますが、その辺は先をお待ち下さいませー。
○HALさん
これだけの連続パンチをくらっては、さすがのGMもスリップダウンくらいはすると思うのですよー(笑)。
ここで玉竜やヒャクメがうっかり結界から出てしまったらどうなるかとか、その辺の具体的なことはまだ考えていないのですが(ぉ
○ブラボさん
お久しぶりであります。楽しんでいただけてるようで嬉しいです。
GMがお茶を噴き出してテーブルに頭打ち付けるシーンなんか書いたのはたぶん筆者が初めてでしょうなぁ(ぉ
○内海一弘さん
GMの無敵にも限度がありますから(ぉ
そしてあっさり嫁承認してしまいました。考えてみれば神様と縁組できるなんて、滅多にあることじゃありませんし。
○Februaryさん
横島君には出血の代わりに火傷を味わってもらうということで(笑)。
>鬼門
鬼門大活躍を期待する人はどこかにいないのか!? いや筆者も期待してませんけど(ぉ
○とろもろさん
大変お久しぶりでありますー。もうストーリーはぼこべこに進んでしまいました(^^;
>タダスケさん
彼については読者様のご想像通りということで!
>煩悩玉とか九頭竜とか
原作からは外れまくった成長方向ですが、横島君らしいと言っていただけると嬉しいです。
>玉竜
実にはっちゃけた性格な方ですが、みなさま好意的に受け入れてくださって安堵してますー。
おかげでまた登場しました(ぇ
GMと会ってしまったら……ガクブル。
>一夫多妻とか小竜姫様は成人してなかったとか
は、みなさまのレスの中で面白いと思ったネタは使わせていただいてますので、何かありましたら(規約の範囲の中で)書いていただけると嬉しいですー。
>150話
このペースだと本当に行ってしまいそうです(^^;
○鋼鉄の騎士さん
>爆弾発言
GMは発想の転換で乗り越えました。しょせん浮世の常識なんてこのお方には通用しないのですよー(ぇ
>鬼門
いあ、彼らも一応並みの霊能者よりは強いはずなんですがー!
>横島
GMと渡り合ってるのは奥さんズですから(笑)。
○ncroさん
>小竜姫さま
ちゃんと読者様に成長したと感じていただけると嬉しいですー。パワーとかと違って思考とか台詞で表現する部分ですから。
実は作中時間では数ヶ月しか経ってなかったりするのですが!
>お風呂を戦場にしてボディーで対決
さすがにGMの入浴シーンはちょっと憚るものが(^^;;
○KOS-MOSさん
>GM
3股だの神様だの義母発言だのと、ついていけてるだけでも凄いと思うのです。
VS小竜姫は自分から試合放棄しました(ぉ
○EFFさん
GMもオカルト世界に詳しければもっと自分のペースで話ができたんですがねぇ。それだけに人間やめました爆弾にどう反応するかが期待されるところですが(ぉ
小竜姫さまは知略ではなく愛の力で嫁承認を勝ち取りました!
ではまた。