ユサユサ、
ユサユサ、
誰かが自分の体を揺すっている。
ユサユサ、
ユサユサ、
意識がだんだん覚醒してくると共に腹部に何かが乗っている事に気付く。
ユサユサ、
ユサユサ、
目をうっすらと開けるとそこには、
ユサユサ、
ユサユサ、
お腹に乗って両手を忠夫の胸に置いて揺すっているレインがいた。
ユサユサ、
ユサユサ、
裸で、
「キュウ」
忠夫が目を覚ましたことに気が付いたレインは一声鳴く。
「………おはよう」
「キュイ!」
どうやら完全に意識が覚醒していないようだ。忠夫はそういや昨日一緒の布団で寝たなと思い出す。もちろんその時はドラゴンモードだった。
「ク〜」
起きた忠夫に対してレインは頬を忠夫の胸にこすりつける。忠夫は寝るとき浴衣に着替えていたのだが、今はなぜか胸元が盛大に肌蹴ている。つまりレインと忠夫は直に触れ合ってるのだ。
「キュ〜♪」
未だ現実に脳が復帰しない忠夫は“カクン”と首を横に向ける。すると備え付けのデジタル時計は05:06と朝が早いことを伝えているのが見えた。
「………レインは早寝早起きのいい子だな」
「クルルルルルル♪」
忠夫の手でガシガシと荒っぽく撫でられるが、それでもレインは嬉しそうに喉を鳴らす。
ふむ、もしかしたら今のこの状態はかなりやばいのでは無いだろうか?よし現状を再確認してみよう。
.譽ぅ鵑詫腓任△襦
そういえばレインは服を着るのが嫌いだったな。ワルキューレが言っていたがレインに人前では服を着ているように言い聞かせるのは苦労したらしい。
何故か俺の上に乗っている。
速く目を覚まして暇だったのだろう。それで俺を起こそうと思って体を揺さぶるのにちょうどいい上に乗ったのだろう。
M甍瓩龍燦気はだけている。
レインが揺すった時に段々ずれていったのだろう。自分としてはそこまで寝相は悪くないつもりではいる。
ぅ譽ぅ鵑胸に頬をこすり付けている。
ドラゴンモードでも良くやる行動だ、レインは甘えん坊なのだ。
ゲ兇魯譽ぅ鵑瞭を撫でている。
レインが喜んでいるのでよしとしよう。ただそのせいでレインの頬がさらに胸に当てられているような気がする。
現状を再確認して出た結論。この状況やばくないか?
いや、今の時間は05:10。寝坊してる分けでもないし、誰かが起こしに来ることなんて事は無いだろう。
「まあいっか」
「キュウ!」
忠夫の結論にレインは鳴いて答えるが、彼は忘れている。自分の身の回りには早寝早起きのいい子がもう一人いることを。
“キキキィィィィィィ!”
「先生!散歩の時間でござる!!」
壮絶な床ドリフトと共に“スパン!”と開け放たれる障子、そして目にするワンダーランド、
「………………」
「………………」
「………クー?」
そう言えば少し前にも同じようなことがあった気がする。確かその時は、
「先生が幼女趣味に目覚めたでござる!」
そうそう確かこんな感じで、
「って待て!俺はロリコンじゃないわ!」
忠夫は“ガバ!”と勢い良く起き上がる。その為レインが忠夫の胸の上からコロコロコロリンと転がり落ちた。
「キュ〜〜〜〜〜」
「うううう、嘘でござる!もし先生がロリコンじゃないなら何故このような状況に成っているのでござるか!?」
それが忠夫クオリティー、しかしそれが当事者達に分かるはずも無い。
「そ、それはだな、うう」
度盛る忠夫、自分が寝ぼけていたため上手く話をまとめて話せない。
そしてそうこうしている内に事態は悪化する。
「ちょっとこんな朝早くから如何したって言うのよ?」
「ふぁあ〜〜〜〜お早う御座います美神さん、横島さん、シロちゃん、タマモちゃん、レインちゃん?」
「何騒いでるのよ馬鹿犬、起きちゃったじゃない」
そして即座に固まる三人、彼女らの姿も浴衣でとてもとても好いのだが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「あの」
「何?」
「言い訳ってありっすか?」
「この状況で聞くと思ってんの?」
ペタッ、と裸で未発達の体を隠そうとせず女の子座りをするレインと浴衣の上半身の部分をはだけさせ、引き締まった肉体をさらす忠夫。
「無りっすね」
忠夫は迫る拳を見ながらさめざめと泣いた。
それでも時は進みだす
―過去からの思い、後編―
Presented by 氷砂糖
獣の通り道、そう評するのがこの道を表すのに最適だろう。切り立った足場は人一人が歩くのがやっとの足幅しかない。
「美神さん。こんな道しかないんっすか?」
「そうよ、平家の隠れ里は本当に神経質なほど山奥にあるのよ。それもこれも源氏の異常なまでの平家狩りへの執念が理由なんだけどね」
「そこまで厳しかったんですか?」
「拙者も聞いたことがあるでござるよ。あまりの非道の為当時の長老が平家の方を里に匿う事にした程だったそうでござる」
「へぇ〜」
のんきに会話をしている様に見えるが今彼女らが歩いているのは切り立ったがけの中程を刳り貫かれたような道だ、足を踏み外せば真っ逆さまである。
「それを考えてみるとこの道は最適なんすね、入り口なんて知らなきゃ分かりませんでしたよ。それにこの道なら上から見えない様になってますからね」
忠夫は辺りを見回すように首を振り、それを聞いた令子は納得のいかない様な表情を浮かべた。
「そうね、もっともその事で気になることがあるんだけどね」
令子の言葉に千夜が続く。
「女将がこの場所のことを知っていたことですか?」
千夜の台詞を聞き、令子は横合いに手を伸ばし人差し指を一本立てた。
「それの他にもう一つあるわね」
「美神もう一つって何よ?」
もったいぶった令子の言動にタマモが先を促す。
「はいはい、焦らないの。今回の依頼があった時に調べたのよ。この辺りに平家の隠れ里が在るか無いかをね」
おキヌは会話の流れから先を悟る。
「無かったんですか?」
「そうよ」
それを聞くとシロが顔をしかめた。
「若女将が嘘をついているのでござるか?」
シロの短絡的な結論に忠夫は苦笑する。
「あのなあシロ、わざわざ依頼の難易度あげて如何するんだよ。そんなことしても依頼料が上がって美神さんが喜ぶだけだぞ」
「む、確かにそうでござるな」
二人の会話を聞き令子は額に井桁を浮かべるが何も言わない。実際くわしい依頼内容を聞いた時、頭の中で算盤を勢い良く弾いていたからである。もっともそれとこれは話が別で何かあれば真っ先に劣りにしてやろうと心に決めた。
「そういえば横島君、レインは如何してるの?」
令子はまるで気にしていないかのように話を変える。こういうことは忘れたころにやるのが効果的なのだ。
「レインハイイコナノデリョカンデオトナシクシテイマス」
忠夫の台詞がとても機械的だが気にしない。わざわざトラウマを作る必要は無いのである。
「美神令子、下を見てください」
今この状況で下を見ろと促す千夜、なかなか容赦が無い。
「下って、何かあったの?」
令子が下を見ると、崖の底は見えず霧が立ち込めていた。“きりの発生条件が整っていないにも係わらず”
「霧が出ているでござるな」
「そうね」
野生は如何した、思わず令子が口にしそうになった時、
「霧が出るようなお天気じゃなかったのに、変ですね」
おキヌの言葉にショックを受けて固まるシロタマの二人であった。
「わ、悪い匂いはしないでござるなタマモ」
「そ、そうね。少なくとも悪霊とかそんな感じはしないわね」
汚名返上の為鼻を利かせる二人ではあるが、その進言に令子の表情は曇る。もし二人の言うとおりならこの霧は鎧武者とは関係ない別件になるからだ。
「まったく。厄介な事この上ないわ、ね!?」
令子が嘆息を漏らした瞬間、
“ズガァ!!”
霧から飛び出してきた朱塗りの十文字槍が千夜の足場に突き刺さる。
「ッ!」
崩れる足場、宙に舞う千夜、砕かれた岩と共に落ちる十文字槍。
「千夜!」
千夜の後ろにいた忠夫が千夜の腕を掴む。強く、しっかり、握った手を決して離さぬように。
「よっしゃあ!」
ときの声を上げ忠夫が千夜を支えるため足腰に力を入れた瞬間、
“ガラァ!”
忠夫の足場が崩れた。どうやら忠夫の足場もさっきの十文字槍の衝撃でひびが入っていたようで、千夜を支えた衝撃で崩れたようだ。
「そんなこったろうと思ったぜこんちくしょーーーーーーー!」
当然忠夫は千夜の手を握ったまま崖から落ちていく。
「ア〜〜〜〜イル、ビ〜〜〜〜〜〜ヴァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ク!」
どうやら余裕がありそうだ。後には呆気に取られたままの四人が残された。
‡ ‡ ‡ ‡
「何処だよ、此処」
忠夫は落下のショックから目覚めて始めに眼にした光景に突込みを入れずにはいられなかった。
鬱葱と茂る数百年単位で生きていると思われる木々の森、
霧が出る前に崖の上からは見たときそんな物は無かった。
頭をぐるりと回せば視界に入るのは森の緑と所々に見える土だけ、
先に落ちてきた筈の十文字槍どころか落ちてきた崖すら無い。
「しっかし、大概なんでもありだがこれは無いだろ」
千夜は今忠夫の手の中で意識を失っている。落下の最中に手を離さなかったのは自分でもさすがとは思う。が、
「………いい加減現実を直視せにゃあならんのか?」
きっと落ちる最中に決して離すまいとした結果なのだろう。地面に座り込む忠夫の腕の中には気を失ったままの千夜がいた。自分の煩悩が命の危険にさらされている間も思いっきり働いた結果とは思いたくないが、今までの自分の行動を思い出してみるとそれも物凄く怪しかった。
その時腕の中の千夜が身じろぎする。眼を覚ましたのか?と腕の中の千夜を見下ろすと、忠夫の目に飛び込んできたのは千夜の白いうなじだった。
「え〜っと?」
さっきまでそんな物は見えなかった。おそらく身じろぎした時に体勢がずれたのだろう。
「う、……ん」
一つ気になりだすと連鎖反応が起きるのは至極当然の事だった。千夜の鼻にかかった甘い声が耳につき、直ぐ傍にある千夜の髪から香る柑橘類の匂いは忠夫の鼻と理性をくすぐる。
「無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪、無理やりは犯罪」
でもおかんは責任をとればと、
「あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん、あかん」
まあそうこうしている間にも千夜は起きる気配を見せず、忠夫の腕の中で身じろぎしては忠夫を懊悩とさせるのだった。
† † † †
「先生〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「千夜ちゃ〜〜〜〜〜ん!」
呆気に取られていた四人ではあったが、忠夫と千夜のっ姿が霧の中に消えるとそれぞれ慌ててバラバラの行動を取る。
「ちょっと、如何するのよ美神!」
「落ち着きなさい、タマモ」
落ち着け、と言う令子だが、令子自身も半ば混乱していた。
「あ、あー、霧が!」
「横島さーん!」
二人を飲み込んだ霧は段々と薄れていき、消えるとゴツゴツとした岩肌を露出させた。もちろんそこには忠夫と千夜の姿は無い。
「シロ、タマモ、谷底から横島君たちの匂いはする?」
美神の冷静な言葉にシロとタマモも急いで横島と千夜の匂いをたどる。
「しないでござる!先生の匂いも、千夜殿の匂いも消えてしまったでござる!!」
泣きそうなシロの叫びに令子は唇をかみ締め、この場で最良の答えを口にする。
「いったん旅館まで戻るわよ」
「美神さん!?」
おキヌが驚き大きな声を出すが令子はそれに対しても声を荒げたりせずに次にとるべき行動を告げる。
「いったん旅館に戻って装備を整えてからもう一度隠れ里を目指すわ」
人狼のシロが匂いを感じないというならもうこの近くには横島君と千夜は居ないということだ。ならば日が暮れるまでの貴重な時間を無駄にはしたくなかった。
それに旅館に帰れば横島君を見つける心当たりがあるのだ。
令子の感が正しければあの霧は一種の結界だ。さっきの十文字槍で分かった事だが霧は確実に今回の依頼とかかわりがある。ならば忠夫達を探すならば隠れ里に行くのが一番確実だろう。
「美神、何か心当たりでもあるの?」
「ええ、確実なのが一つね」
もしも隠れ里が見つからないとしても令子には切り札というものがあった。
† † † †
枯葉を踏みしめる音が森に響く。忠夫はあれから一行に起きない千夜を背中に抱えて森を抜けることにした。
といってもこの森に出口が無いかもしれないのだが、忠夫はそれも考慮に入れても場所を移動することにした。遭難した場合その場から動かないのは常識であるが、今のような事態にそんな常識が当てはまるとは思わなかった。
「けっして千夜の柔らかそうな白い肌や匂いや鼻にかかった声に理性がはじけ飛びそうになったわけではないぞ?」
忠夫は誰に言うでもなく言い訳を口にする。まるでそうしなければナニかをいたしてしまいそうで怖かったりするわけではない。
千夜は起きない。いや目を覚まさないというのが正しいだろう。身じろぎはたまにするがそれ以上、意識の覚醒などの気配はまるで無かった。
「千夜って寝起きが悪かったんか?」
忠夫は答えるものが無い疑問を口にする。話す相手が居ない状態で森を抜けようとあても無く歩き続けるという状況では必然と独り言がおおくなる。
「う…ん、」
背中で千夜がかすかに動く。今度こそ起きたのかと思い忠夫は、
「千夜?」
千夜に呼びかけた。
「た、だ…お?」
今までで一番意識が覚醒しているようだがそれでも普段までには程遠いい。なんだかなあと忠夫が苦笑した時、
「だ……れ?」
だ……れ、誰ってことか?自分の事ではないだろう。ついさっきの名前は呼ばれたし、
「ルシ、オラ」
続く千夜の口から漏れ出た名前に忠夫の思考は凍りつく。
「だ………誰から聞いた?」
忠夫の言葉は弱々しい。未だに血を流し続ける傷口を無理やり抑えているかの様に、今にも泣きそうになるのを必死に押し殺す子供のように。
「だ、れ?」
しかし千夜はそんな忠夫に気付く事無くただ誰と繰り返す。
「………………寝ぼけてる?」
今の千夜の状態に気ずいた忠夫はどっと緊張を解いて肩を落とす。千夜が背中に乗っているのでそこまでは出来ないが。
忠夫はちらりと肩越しに千夜の顔を窺う。
「ん、…すぅ」
千夜は眠っている。さっきの台詞も意識が表層に近づいたからこそ出てきた物なのだろう。
「………最初は、な」
そんな千夜を前に何かを思い、忠夫は僅かに押し黙ると口を開いた。
「あいつと俺は敵同士だったんだ」
忠夫は自らの傷口を切り開く。つらく、切なく、悲しく、そして何よりも愛しい傷を、
「アシュタロスが作った魔族三姉妹。その中の一人がルシオラだ」
初めての出会いは決してまともと言えるような物なんかじゃなかった。そもそも自分に最初に眼をつけたのはルシオラじゃなくてパピリオだ。それもペットとして、
「それ……で?」
千夜の質問の声が聞こえ、忠夫はそれに答える様に語る。
「そいつらに捕まった俺は最初雑用なんかやってて、三人の中のパピリオってやつが作ったおかしな衣装を着たりなんかしてたんだぜ」
あの衣装を手作りだと言って持ってきたパピリオの寂しそうな笑顔の理由が今ならよく解る。
「アシュタロスは一度自分の作り出した部下に裏切られたことがあった。だから用心のため三姉妹に裏切らないような仕掛けの一部として寿命を一年に設定した」
そのことを自分に教えてくれた彼女はその時夕日が何であんなにも綺麗なのかを教えてくれた。
「その時言われたんだ、憶えていて欲しいって。考えてみたらおかしな話だよな、あいつら世界を亡ぼすために戦ってたんだぜ?それなのに人の俺に覚えていて欲しいなんて言っうんだから」
考えてみればそうおかしい事ではないのかも知れない。パピリオは人間のはずの俺が手を貸したのだからアシュタロスは俺を生かすかもと考えたのかもしれない。ひょっとしたらアシュタロスに殺さないように頼むつもりだったのかもしれない。
「おか、しく………ない」
途切れ途切れの千夜の否定が入る。忠夫はそれを聞くとただそうかもな、と返した。
「まあそれから少しの間に色々あったんだがな」
あの時は味方よりも敵のはずのあいつらの方があったかいって言う訳の解らんような状態になったりしたっけ。今考えてみると家のおかんがあんな風な要請に従うとは思えんな。
「それでも未だあの時は俺にとってあいつらは敵で、でも握った手は小さくて柔らかくて簡単にあいつらが敵だって思えなくなってきてた」
同情だったのかもしれない。可哀想と哀れんでいたのかもしれない。それでも嫌だった、命がそう簡単に使い捨てされていくことが。それに短い命と知りながら精一杯追い着ていこうとするあいつらがとても綺麗なものに思えた。
「そんな時にあいつらの一人、ルシオラを殺す事が出来る機会があった」
その時はただ嫌だっただけ、だけど今思えばあの時手を離さなくて本当に良かった。もしあの時手を離していたらと考えるだけで心臓が止まりそうになる。
「足を掴まないだけでよかった、手を離すだけでよかった。そうすれば人類の敵の内一人を殺すことが出来たはずだった、だけど」
「で…きなか、った?」
口ごもった忠夫の後を千夜が続ける。相変わらず寝言のような状態で、それでっも的確な問いを。
「ああ、俺には足を掴まないことも、掴んだ足から手を離す事も出来なかった。思ったんだ、夕焼けを一緒に見て、それが最後じゃあまりにも悲しいって。………思っちまったんだ」
あの時は自分がとんでも無いことをしてしまって、それでも俺にはそうすることしか出来なくて、そのことで自己嫌悪に陥りそうになってた。
「その後に言われたんだ。助けた魔族ルシオラに、心に残りたいって、また一緒に夕焼けを見て欲しいって」
“ポタッ”
あの時からルシオラは別れることになると覚悟してたのかもしれない。
「一緒に見てやりたかった。百回でも二百回でも、たとえ自分の人生分の夕焼けだろうとアイツが望むならそれこそ何度でも一緒に見たかった」
“ポタタ”
「でもアイツは死ぬことを覚悟してた。アシュタロスが裏切り防止のために人間に抱かれると死ぬようにルシオラたちに仕掛けを施してて、それを知ってたのにアイツは俺に抱かれようとしてた。どうせ死ぬなら惚れた男と結ばれて死ぬことも悪くないって思ってた」
「だい………た?」
忠夫はゆっくり首を横に振る。
「死んでもいいってぐらい俺を好きだって言ってくれるやつをたった一夜を引き換えに失うことなんて出来なかった。そんないい女を抱けるわけ無いだろ?俺にそんな価値があるなんて思えなかったしな。だからあの時決意したんだ」
「……何、を?」
「アシュタロスは俺が倒すって。俺に惚れたアイツのためにアシュタロスは俺が倒すって。今まで状況に流されてばかりいた俺が始めて自分から戦うって」
“ポタッ”
“ポタタ”
「ルシオラと一緒に居たいと思ったから」
心の奥から搾り出すかのような言葉が忠夫からもれ出る。
「努力した。少しでもアイツに釣合う男になりたかったから」
「強くなろうとした。アイツと一緒に居られる未来を望んだから」
留めていた水が限界を超えあふれるように忠夫の両目からは涙があふれていた。千夜を抱えたまま手で拭おうともせずに、涙は目尻から溢れ頬を伝い顎先にいたって宙を舞い地面へと零れていく。
「それ……から?」
「それからも色々あった。アシュタロスを出し抜いてそれで終わったと思ったけどあいつはまだ生きていて逆に俺たちのほうが出し抜かれてた」
あの時は本当にしてやられた。考えてみば、あんな大それた事をやらかすやつが保険の一つや二つを用意していない筈が無いのに。
「美神さんは捕まってて、俺とルシオラは二人でアシュタロスに奇襲をかけようとした。でもアシュタロスはきちんと俺専用のジャミングを作って文珠も効かないようにしてた。一時撤退をした俺たちをぺスパ、ルシオラの姉妹の次女が追っていてた。ぺスパはアシュタロスに強化されててルシオラだけじゃ勝つことは出来なかった」
でもルシオラは俺を置いてぺスパと決着をつけようとしてた。俺ならアシュタロスを倒すことが出来ると信じて。俺が住む世界を守る一番の方法だと言って。
「でも俺はそんなこと出来なかった。俺にとってルシオラを見捨てて世界を救うことに意味なんて無かったから。だから」
「だか………ら?」
忠夫は何かをこらえるかのように息を吸う。
「だから命を懸けてルシオラを守った」
”ポタタ”
「でも命を懸けてルシオラに救われた」
涙に濡れ、鼻水を流す忠夫はお世辞にもかっこいいとは言えない。だがそれでも忠夫は面を上げ続けた。
「俺は自分の体を盾にしてぺスパの攻撃を受けた。そして出来た僅かな隙にルシオラはぺスパを倒すことが出来たけど、ぺスパの攻撃を受けた俺の霊的因子はどんどん崩壊していってルシオラはそんな俺を救うために」
忠夫はそこで一旦言葉を切る。
「ルシオラは俺の霊的因子を補うために自分の霊的因子を俺に譲った」
唇は振るえ、顔は青ざめ、今にも崩れ落ちそうになる体を必死に留める。
「霊的因子を失った神族や魔族は存在を保てず消えていくらしい。でもアイツは俺が目覚めるまで必死に抵抗して、俺が目覚めると自分が消えてしまうってのに笑って俺を送り出した。………本当は消えてしまうその間際まで一緒にいたかったはずなのに」
ルシオラが消えたことはアシュタロスから聞かされた。信じたくなかった。嘘であって欲しかった。でも現実は非情で容赦が無かった。
「アシュタロスと対峙した時俺の中にはルシオラの霊気構造があって、その状態のルシオラが俺を助けてくれた。信じれるか?文珠にはまだまだ先があったんだぜ」
双文珠。まるで対極図のようなそれは実際に対極図にも勝るとも劣らない力を持っていた。
「そんな状態のルシオラを生き返らせるチャンスはあった。でもそれはアシュタロスの企の成功が条件で、俺は世界とルシオラを計りに懸けた」
苦しい。あの時のことを自分で口にするのはとても辛かった。それでも忠夫は続きを口にする。もしかしたら、
「ど、う……した?」
「決まってる。俺はルシオラをとった」
誰かに話したかったのかも知れない。
「約束してたんだ。アシュタロスを倒して世界を救うって。ほかの誰でもない。ルシオラと」
あの時の決断を、あの時の思いを、あの時のアイツを、
「それでも俺は後悔したよ。ルシオラが死んで、なんで俺が生きてるんだろうとも思った。………死んでしまおうかとも思った」
でもそれはもう出来ない。なぜなら、
「だけど俺には死ぬことなんて出来ない。もう一度ルシオラと会える可能性が残されてたから」
でもそれは自分自身の子供として。だけどそんなことは関係ない。決意したのだ、今度こそはアイツを幸せにするって。
「あ、い………て?」
「え?」
千夜の言ったことが聞き取れず忠夫は千夜に聞き返した。
「いま、でも………あい…して?」
“今でも愛して”その質問に対する答えは忠夫の中にはたった一つだけ。
「ああ、俺は今でもルシオラを愛してる。たとえ俺が他の誰かを好きになってもその思いは変わらない」
悲しみで、辛さで、切なさで、愛しさで、後悔で、様々な感情を込めて忠夫は泣くように笑って断言した。
涙に濡れ、鼻水を流し、心を痛め、傷を抉り、血を流し、それでも忠夫は顔を上げて前えと歩を進ませ続ける。
「千夜?」
反応の無くなった背中の千夜に忠夫は語りかける。
「眠っているのか?千夜」
忠夫の声に答える声は無かった。
‡ ‡ ‡ ‡
“ドタドタドタ!”
旅館の中を荒々しい足音が響く。
「美神さん!何を持っていけばいいんですか!?」
おキヌは冷静で居られず、持ってきていた荷物に飛びつく。
「落ち着きなさいおキヌちゃん。持って行くのは結界破りの符と見鬼君それに霊視ゴーグルよ」
おキヌは深呼吸を一つすると今度は落ち着いた様子で荷物の中から令子に言われたものを取り出す。
「シロ、横島君の部屋へ行ってレインを連れてきて」
「レインを?」
タマモの疑問に美神は頷く。
「そうよ、私の考えが正しければ横島君を探すのにレインが役にたつわ」
令子がそう行った時、シロがレインを抱えて現れる。
「美神殿!レイン殿を連れてきたでござる!」
シロはレインを小脇に抱えて部屋に入ってきた。どうやらレインはお昼寝中だったようで右手で目を擦り左手でタオルケットを掴み欠伸なんぞしてる。
「キュア〜〜〜」
「これで準備は済んだわね」
令子は顔を上げ窓の外を見ると日はもうすでに沈みかけていた。
「もうすぐ日が暮れる………」
「キュウ」
レインが同意するかのように一声泣いた。
‡ ‡ ‡ ‡
日が暮れ、足元も見えない程の闇が世界を覆う。
「何んも見えん」
忠夫は背中に背負っていた千夜を地面から大きく張り出した根の間に下ろし、辺りに転がっている木の枝を適当に組むといざと言う時のために持ち歩いている火種で火を灯す。
“パチ、パチパチ!”
乾いた枝の間の空気がはぜる。オレンジ色の火の粉は枝がはぜる音と共に空気に溶けるように散る。
忠夫は火がしばらくの間は灯り続ける事を確認するとGジャンの上着を脱ぐと、
「ったく。がらじゃないっての」
苦笑して上着を千夜にかけそのまま乱暴に千夜の隣に座った。
「文珠は千夜の分を合わせて三つ。どうしたもんか」
二文字同時使用で『転/移』と込めればこの森から脱出することも出来るかもしれない。だけど『転/移』で二人同時移動なんてやったことは無い。だから上手く二人とも転移することが出来るかどうか自信が無かった。
「下手したら文珠が二個減るんか。賭けに出るわけには行かんな」
文珠はどんな状況であろうが打開する可能性を持つ。だけど実際の所使い方や個数、使用者の力量によってはそんな可能性も無くなってしまう。
「………一回くらい制限なしで使ってみてえ」
事後の事や、いざという事を考えるとどうしても戸惑ってしまう。文珠の弱点は使用者にあり。美神さんが言っていた言葉だ。今この状況になればその言葉が身にしみる。
「頭の痛い問題だよな」
文珠の制御を高めようと思えば文珠を実際に使うのが一番だ。だが文珠は数が限られる、いざというときの事を考えれば無駄に使ったりしたくない。まるでハリネズミのジレンマ、寒さに身を震わせるハリネズミは己を守るための針ゆえに寄り添うことが出来ない。そんな話をピートがしていたのを思い出す。
「どないせい言うんじゃ」
結局は実戦の中で磨いていくしかなく、文珠の複数制御が必要な状況はそうある物じゃない。ピンチの中で更なる覚醒、実に忠夫らしい事である。
「………………………っく」
先程から忠夫が自分の事を考えているのはそうしなければならない訳が有る。千夜の隣に腰掛けた忠夫だが、腰掛けて少してすぐさま千夜の頭が忠夫の肩に“コテン”と寄り掛かってきていた。
「……ん」
忠夫の精神が度重なる千夜の攻撃で限界をむかえ様としていたその時、千夜が眼を覚ます。
「よこ、しま忠夫?」
「お、おきたか?」
肩に頭を置いた状態で顔だけを上げるとどうなるか?
ち、近い!近い!近い!
「?」
唇が触れそうになるくらいの距離感に至る。
忠夫は振り切れる寸前の理性を総動員してゆっくりと顔を遠ざける。が、千夜は忠夫があけた距離を詰め、指先を忠夫の目元に触れさせ優しくなぞる。
「涙を流したのですか、横島忠夫?」
ズザ!と忠夫は勢い良く千夜から後ずさるようにして離れる。距離が近いということもあるが、年下の女の子に泣いた証拠を突きつけられるのは正直堪ったものではない。
「そ、そんなことないですよ?」
所詮は横島忠夫、否定の言葉も疑問系で泣いたことを自ら暴露している。
「そうですか」
しかし千夜はそれ以上踏み込もうとはしない。男性が泣くには、それ相応の理由があると千夜は思っていた。
「これは?」
その時初めて千夜は己にかけられていたGジャンに気が付いた。このGジャンは横島忠夫の物。おそらく眠っている自分に寒いだろうとかけてくれた物なのだろう。
「すみません」
千夜はそういってかけられたGジャンを忠夫に返そうとするが、忠夫は首を横に振って受け取るのを拒んだ。
「別にいいって。寒いだろ?それはおっとけ」
「それはあなたも同じです」
しかし千夜も頑なに拒み、Gジャンを忠夫に返そうとする。
「だ・か・ら、俺はいいってこれくらいの寒さなら慣れてるし、それに俺は男だぞ」
「慣れていると寒くないとは別の話です。それに何故性別が関係あるのですか?」
千夜の的確な返答に忠夫は頭をガシガシとかいて如何したものかと考え込む。
「それにこれはもともと貴方の物です。貴方が使うのが当然ではないですか」
一気に畳み掛ける千夜に忠夫は段々自分が使うのが当たり前に思えてくるが、
「あーもう、頑固な!だったら!」
ナニをとち狂ったのか千夜を自分の膝の間に座らせてその上にGジャンをかけた。
「こうすりゃ二人で使えるから万事解決だろ!」
内心やっちまったと後悔の渦でいっぱいの忠夫だが、千夜が拒めばそれですむのではないかと安心していた。だが、
「そう、ですね」
千夜が頷いたのをみて顎を外さんばかりに口を開き、絶句した。
前を忠夫のGジャンが覆い、背中は忠夫が支える。Gジャンと忠夫に挟まれる形になり温もりを逃がすことなく千夜を暖めた。ただそれは体だけじゃなく………
千夜は暖かさをその胸に抱え、再び静かな眠りに入っていった。
忠夫は糸一本分しか残ってない理性を保つため、心の中で魔法の呪文(西条のブーメラン、ピートのブリーフ、タイガーのふんどし)を唱え続けていた。
† † † †
千夜の意識が覚醒し始める。先ず眼に入ったのは火が消えてしまった薪とくべることの無かった牧。そして次に眼に入ったのは、
「――ッ!?」
千夜の肩に顎を乗せて子供の様に眠る忠夫の横顔だった。
勢い忠夫から離れようとするが、それも敵わず千夜は忠夫の腕の中でもがく。
“腕の中で”である。千夜の上にかけられたGジャンのさらに上から腕を回して千夜を胸の中に抱き込み、さらに千夜に密着するように千夜の肩に顎を置いているような状態である。
「――ッ!―――ァ!!」
千夜は顔を赤くして必死に忠夫の腕の中から抜け出そうとするが、千夜と忠夫では腕力には差がかなりある。抵抗空しく一向に抜け出せる気配すらない。いやそれどころか、
「!!!?!!?!!???」
忠夫の腕はさらに強く千夜をはなすまいと抱きしめる。忠夫が魔法の呪文を唱え続けて寝てしまえば悪夢を見るのは間違いない。ならば直ぐ傍にあるいい匂いの元(千夜)があるとしたらどうなるだろう?答えは簡単だ、まず間違いなく抱きつくだろう。今この状態のように。………ついでに暖かいし。
「白夜!」
千夜はついに実力行使にでたようである。
† † † †
「うぐぉおぉああぁぁああ、血が、血が出る。あ、頭からピューっと、ピューっとおおおお!?」
頭を抱え、必死に噴出す血を抑えて痛みを堪えようと無駄な努力をする忠夫と真っ赤になった顔を俯かせるようにして顔を隠し影に白夜を戻す千夜。まったく何をやっているのだか。
「あの、千夜。何ゆえこのようなご無体を?」
痛みが治まったらしい。普通の人間であれば頭蓋骨は陥没していたほどの一撃だったのだが………、忠夫だから気にしても仕方が無い。千夜はその様子に平静を取り戻し、落ち着いた仕草で忠夫に答えた。
「知りません」
声は存分に冷たい物だったが、
な、なんか悪いことやったか俺?はっ、まさか眠っているうちに何かエロイことでもやらかしたか!?あ、あり得る。あり得過ぎて怖いぞ!なんたって俺なんだから!!!」
途中から声に出ているが千夜は突っ込まない。それどころか顔を赤く染めているのだが、自責の念に駆られる忠夫はそのことに気付かないでいた。
「これから如何するのです?」
今度こそ平静を取り戻した千夜は今後の行動につて協議しようと、未だ頭を抱えたままの忠夫に話しかけた。
「どうすっかなあ。美神さんたちの助けを待つにしてもあんまり期待できる選択肢じゃないしなあ」
千夜の考察によると今居る場所は確実に結界か何かで保護するように隔離されているそうだ。そうなると外から探し出すより、内側から出て行くほうが簡単だろう。
「でしたら綻びかこの結界の中心点を探しましょう。多少強引に成りますが綻びをこじ開けるか中心点を破壊すれば出れるでしょう」
千夜の結論に忠夫は反論することもなく従うことにした。
「まあそれしかないか。適当に歩いていけば見つかるか?」
忠夫の言葉は無責任に聞こえるかもしれないがこの場合は間違いではない。この結界はかなり範囲が広く、霊力の中心や歪を見極めようとしても周りに霊力が充満していてそれも敵わない。霊感に任せるのが一番なのだ。
「文珠で捜せないのですか?」
しかし文珠はそんな状態にあって効力を発揮する。
「出来ないことも無いんだが………出るときの事を考えると数を残しておきたい」
もし結界の中心点に守護者でも居よう物ならば確実に文珠が必要になる。綻びを開くのにも必要になるかも知れない。そう考えると唯でさえ三つしかない文珠を悪戯に減らしたくは無い。
「そうですか。解りました」
千夜は納得した様子で頷くと鬱葱と茂った森のほうへと視線を向けたその時、
「はへ?」
忠夫の後ろの木から槍の穂先が生えた。
木を貫通したことで僅かにずれた刃は忠夫の頬をかすり、そしてゆっくりと引き抜かれていく。その動きに合わせて忠夫と千夜がゆっくりと後ろを振り向く。
紅い柄の十字槍それを手にした鎧武者がそこに居た。天を突くかの様に兜から生えた弐本の角、そして顔を守る為に目以外の場所を覆う木製の仮面。肩から飛び出すように付けられた矢避けの肩張り。甲冑の胸の部分は僅かに丸みをおび、腰当は通常よりも長く足首まである。具足は他の部分とは違い薄く、所々に隙間が見える。
「う…あ」
ここまで近づかれるまで気付かなかった。それ自体は仕方ない、この空間ではそういう感知する力が弱まっている。だが目の前の姿を現した鎧武者は桁違いだった。
「逃げるぞ!」
先に行動したのは忠夫だった。千夜の手を掴み走り出す。
「横島忠夫!?」
「今は逃げるぞ!あんな奴と戦ってられるか!」
忠夫一人なら戦っていたかも知れない。それが無謀だとしても挑んだかもしれない。だがこの場には千夜がいる。自分が抜けてしまえば千夜がただ一人残ってしまう。
あの日以来引くことを拒んでいた忠夫が始めて引くことを選んだ瞬間だった。
「解りました」
千夜の頷きと共に忠夫は走るペースを上げる。地面から飛び出した根っこを蹴り、転がる大きな岩の上を跳ねる。そんな無茶苦茶な忠夫の機動にも千夜は付いてくるがその服装は着物、野山を走り回るのには向かない。
「千夜、済まん」
僅かに遅れつつあった千夜にスピードを合わせ後ろに回ると、千夜の膝に手を当てそのまま持ち上げる。
「な、何を!?」
「黙ってろ!舌を噛むぞ!」
お姫様抱っこだ。忠夫は千夜を抱えるとさらにスピードを上げる。足が蹴る場所が木の根から幹に変わり、忠夫は落下するような速さで宙を駆ける。
“ズダダダダダン!”
叩きつけるような足音は連続して聞こえ、その度に忠夫は加速する。だが、
「まだついて来ています」
千夜が忠夫の肩越しに後ろの様子を伝える。鎧武者は歩く動作で確実に距離を詰めてくる。
「平家の落ち武者は悪霊だと聞いてたけど、俺にはそう見えんのんだが?」
そんな中忠夫は千夜に先程から気に成っていた事を告げる。かんお鎧武者には悪霊特有の禍々しさが存在しない。まるで単なる幽霊のように、
「確かにあの鎧武者は悪霊というようには見えません。ですが相対するのは避けたい」
しかしそんなことも言ってられない。徐々に徐々にと追いてくるよろい武者から逃げ切ることは出来そうにない。
「千夜開けた場所を探せるか?」
「可能です。白夜」
千夜の影から百夜が飛び出し、垂直に上空へと飛び上がる。
「少しの間体を預けます」
「っておい!」
千夜は一方的に伝えると楽な姿勢をとる為忠夫の首に腕を回して体を預ける。
「――――」
忠夫の戸惑いにも千夜は答えない。もうすでに白夜に意識を回し、忠夫の望んだ場所を探している千夜に忠夫の言葉は届かなかった。
† † † †
風を感じる。
上昇気流に乗り羽を羽ばたかせ高く、より高く空へと昇る。
千夜はこの感覚が好きで、そして同時に嫌っていた。
空を飛ぶ感覚は心地よく、自らの役目を忘れ何時までもそのままで居たいと思ってしまいただそれが怖かった。
(――何故?)
忠夫が望んだ場所は直ぐ見つかった。意識を本体に戻し、白夜を影に戻す。
(――それが無いのでしょう)
† † † †
「見つけました。あちらです」
意識を体に戻すと千夜は忠夫の首から手を離し、指差し行くべき方向を示唆する。
「おっし、しっかり掴まってろよ!」
千夜は忠夫の言葉どおり忠夫に掴まり、忠夫は落さないようにと千夜を抱く力を強める。
状況はいつ追いつかれるか分からないと言う緊迫した事態にありながら千夜は思った。
この状況が続けばいい。――そう思った。
† † † †
千夜が見つけた場所は確かに開けた場所ではあったが、山の中に切り開かれた田畑が存在し、つい先ほどまで人が手入れをしていたように思えるほどの村だった。
「ここは………隠れ里?」
「おそらくそうでしょう。そしてこの結界の中心点です」
忠夫と千夜がこの場所に到着した時にはもうすでに鎧武者が待ち構えていた。まるでこの場所に最初から居たかの様に錯覚してしまう。
「やっぱ戦わなきゃ駄目か」
「ええ、ここから出る為にも。そして彼の鎧武者は私たちを逃がす気は無いようです」
ゆっくりとした動作で穂先を斜め下に構える独特の構え、その構えから目の前の鎧武者が生前もかなりの使い手であったことが察しられる。骨が折れる所の問題ではない、下手をすれば命を落とす事態になりかねない。
「いっちょ気合入れてやりますか!」
「疾!」
初手は千夜。投じた符の弾幕が鎧武者に迫るが、鎧武者は十字槍を一閃、二閃、三閃、十字槍は符を全て叩き落す。
「霊波刀!」
右手に纏うは霊波の刃。本来人狼しか使えないはずのそれは高圧縮された霊力。見る限り普通の槍でしかない鎧武者の十字槍を打ち破ることはそう難しくない。
筈だった。
霊波刀の間合いに入ることなく上から下へと振るわれた十字槍は忠夫の霊波刀を弾き、追って繰り出される石突の一撃は忠夫のサイキックソーサーで受け止められ上へと弾かれる。
「避けて!」
後ろから聞えた千夜の警告に反射的に忠夫は横に転がる。
“ゴウン!”
石突を弾かれた勢いそのまま振り下ろしたばかりの穂先が跳ね上がり、忠夫を捕らえるはずだった十字槍は千夜が投じた火行符を迎撃する。
「木行符!」
火行符の影に投じられた木行符は鎧武者の足元に突き刺さり、木の根が鎧武者の具足ごと足を拘束する。
「おおおおお!」
足を動かすことの出来ない鎧武者に対して忠夫は肉薄する。左手に生み出したのはサイキックソーサー、
“ブオン!”
槍の軌道は三次元を描く円。足を動かすことなく全周囲への攻撃が可能だった。
地面に転がさせられる忠夫。ぎりぎりでサイキックソーサーでの防御が間に合ったからいいものの、もし僅かにでも遅れれば忠夫はこの世に居ない。
十字槍の円軌道はそれだけに留まらず足を拘束する木の根を軽々と切り裂く。
自由になった鎧武者へと再び千夜の倍の数を有する符の弾幕が迫る。が、鎧武者は槍を目で知覚できぬ速度で符を打ち落とす。それでいいこの場合の目的は忠夫が鎧武者から離れる時間を作る為だ。
「ああ、くそつええ!」
忠夫の怒鳴るような文句に千夜は同意する。だがこの場合驚嘆すべきはそれだけではない。
「この強さは霊としてのものではありません」
「ああ、人としての強さだな」
すなわち技術。驚くべきことにこの鎧武者は人間として鍛えた槍術のみで忠夫と千夜の二人を手玉に取っている。
「だったら」
忠夫は再び前へと駆ける。そして十字槍の間合いの寸前まで来た瞬間後ろへと飛ぶ。置き土産を残して。
『爆』
“キィィィィィィィ!”
起死回生を望んで使った文珠は甲高い音を上げ、刻まれた効果を発揮しようとする瞬間。
「な!?」
「マジかよ………」
鎧武者の十字槍により二つに切り分けられた。文珠はその効果を発揮することなく、蓄えていた霊力をただ無意味に吐き出した。
文珠は残り二つ。一つを無意味にしてしまったのは痛かった。普通ならば必殺、しかこの相手には必殺のそれは必殺になりなかった。そして何よりも二人はまだただの一撃すら入れられていない。
「――――横島忠夫。一瞬だけ隙があればその間に彼の鎧武者を打ち倒すことは可能ですか?」
千夜の提案に忠夫は僅かに思考すると結論を下す。
「分からん。文珠は確実に警戒されてるだろうから使えんぞ」
警戒しているものを通してくれるほど甘い相手とは思えない。
「分かりました。では貴方が切りあっている内に私が割り込みます。その間に文珠を使わず終わらせることは出来ますか?」
千夜の言葉に忠夫は眉を顰める。千夜がしようとしている事が困難のなのは考えなくてもすぐに分かる。下手をすれば千夜が犠牲になり忠夫だけが生き残るという結果になりかねない。
「千夜、それがどういうことか分かってんのか?」
「分かっています。失敗すれば、いえあるいは成功しても私は死ぬかもしれません」
それが分かっていてさえなお千夜はこれしか無いと考えていた。
「……俺はもう誰かを犠牲にして生き残るなんて御免だ」
忠夫の心からの思いだった。犠牲を強いて自分だけ生き残るそんなことをしてまで生きるぐらいなら死んだほうがましだ。
「では………」
千夜は忠夫の言葉を聞いてもこの方法しかないと思っていた。忠夫は自分だけで生き残ることに抵抗を感じている。ならば、
「もし私が危機にさらされるなら、貴方が私を救ってください。それは他の誰でもない、横島忠夫貴方にしかできません」
「――ッ!」
千夜は驚いたように目を見開く忠夫を正面から見つめ、さらに言葉を続ける。
「私を犠牲にすることなく、あの鎧武者を倒す。貴方に出来ますか?」
殺し文句だこんちくしょう。
「――――俺の周りにはいい女が多すぎる」
忠夫の言葉に千夜は首を傾げる。
「出来るのですか?」
「千夜、いい女の条件って知ってるか?」
忠夫は千夜の質問に答えず、千夜に自分の質問をぶつける。
「………いえ、知りません」
そうか、と忠夫は千夜に笑って自分の持つ答えを口にした。
「男をその気にさせる女だ」
“ダン!”地面を力強く蹴り上げ、鎧武者へと向う。
「あああああああああああああああ!」
保身無き特攻、それゆえに十字槍の間合いのほんの内側に回りこむことが出来た。だがそれゆえに勢いを殺せない。
「食らえ!」
だから勢いを殺す必要は無い、そのまま霊波刀を叩きつけ慣性を威力に変える。
一合。僅かに鎧武者を押し返すが、忠夫の霊波刀の斬撃すら利用して槍の円運動が始まる。
二合。ぎりぎりで間に合った霊波刀が十字槍の勢いに負けて上に弾かれる。
三合。十字槍の勢いは止まらない、更なる加速を得て忠夫に襲い掛かるが霊波刀とは逆の腕に作り出したサイキックソーサーで受けるがそれすらも弾かれ、忠夫の体勢が完全に崩れる。
四合。動けない忠夫に頭上からの十字槍の一撃が迫り、避けようのない一撃が忠夫の命を狩りとろうと、
「白夜!」
振り下ろされる穂先とは逆に、振りあがる穂先を白夜が押さえつける。
“ギシィイイィイ!”
だがそれでも忠夫の命をほんの少し永らえるだけ、“白夜だけなら”
「我は五行相克の理を持って命ず、木克金!」
振り下ろされる十字槍、その真下に千夜は入り込み手に持つ金行符を叩きつける。
十字槍の穂先は金属製、だが柄の部分は木製。千夜の狙いは鎧武者の武器破壊、しかし出来るのは槍をしならせる事だけ。だがそれだけで十分だった。
「うおおおおおお!」
霊波刀を胸の部分に突き立てる。一秒でも速く千夜の負担をなくすために文珠を使う暇すら惜しい。
“ガギィイ!”
だが霊波刀は鎧武者を貫くことなく、そのまま鎧で止められた。
足りない。また力不足で失うのか、そんな事を許すせるのか、また繰り返すのか、畜生、
忠夫が焦燥に駆られ、諦めが脳裏を過ぎりかけたその時、
「貴方なら出来ます。忠夫」
千夜の優しい声が聞えた。
体に残る霊力を全て霊波刀に注ぎこむ。
注ぎこまれた霊力に負け霊波刀が歪む。
ああそうだ今俺の隣にいる女は間違いなくいい女で、それに対する俺は情けないにも程がある。だけどそんな情けない男でもいい女を守ったっていいはずだ。出来るか出来ないかの問題じゃない。やるんだ、俺の全力を賭してでも!
「があぁあぁああぁああぁあぁああぁぁぁあああ!!!」
何度目の咆哮だろう多分これが最後になる。ならばこの台詞は言っておかなきゃならない。いい女の前だ少しくらいかっこつけても罰は当たるまい。
息を吸いお決まりの慣れ親しんだ名乗りを高らかに上げる。
「このゴーストスイーパー横島忠夫が極楽に送ってやるぜ!」
あれほど硬かった筈の鎧はいとも簡単に霊波刀に貫かれた。
‡ ‡ ‡ ‡
地面に座り込む千夜はその光景を見入っていた。
霊波刀が鎧武者を貫いた後、鎧武者はその存在がまるで幻のように消え去り、忠夫は霊波刀を支えることもせず霊波刀は地面へと振るわれる。
まるで舞い散る華弁。
霊力を過剰に込められた霊波刀は霊力の圧縮が間に合わず、刃は波打ち、波打った先から霊力の華弁を幾枚も幾枚も宙に舞わせていた。
「ありがとな、千夜」
「――何がです?」
忠夫は霊波刀を消し、千夜の手を突かんで立ち上がらせる。
「言ってくれたろ?俺なら出来るって」
「そう思ったから言葉にしたまでです」
千夜の態度は普段と変わらない。だがどこか柔らかくなったと感じたそれは決して間違いじゃないはずだ。
忠夫は照れくさくなって笑い、晴れた空を見上げた瞬間。忠夫の目にレインが映った。
「はあ!?」
「キュウ〜〜〜〜!!!」
“ゴメス!!!”
「レイン、何故ここにいるのですか?」
忠夫の後頭部を地面に埋め込んだレインを見ての言葉である。その答えは土煙を上げて走ってくる見知った顔が答えを示してくれた。
「せ・ん・せ・いーーーーーーー!!!」
シロだシロが来る。と言う事は、
「横島君!千夜!」
「横島さ〜ん!千夜ちゃ〜ん!」
「横島、千夜」
四人がやって来た。
「美神さん!どうやってここまでこれたんすか?」
「レインに案内してもらったのよ。レインは魔界から横島君を追って来てるからもしかしたらって思ったらそのとおりだったわ」
自慢げにどうやって見つけたのかを語る令子、しかし疑問はまだ残る。
「美神令子、結界のほうは如何したのですか?」
千夜の質問を聞くと令子とおキヌ、それにシロタマの二人が冷や汗を流して視線をふら付かせ最終的にはレインに落ち着いた。
「レインがどうしたんすか?」
「いや………なんでもないわよ?」
「そそそそそうですよ!」
「そうでござるなあ!」
「まったくよ!」
「クルルルルルル?」
不振な様子で否定する四人この話は別の話で語るとしよう。
「それよりも鎧武者はどうしたの」
「倒しました。私と忠夫で」
忠夫で、忠夫で、忠夫で、忠夫で、忠夫で、忠夫で、ここにいるレインと千夜以外の脳内に同じフレーズがリフレイン。
ああ千夜さん今までフルネームで呼んでいたのになぜこの状況で、いやそれはいいもうすんでしまったことだ。今考えなければいけないことはただ一つ。
「あの美神さん?」
「黙れ。千夜、私たちが居ない間に横島君に何かされなかった?」
令子はヤサシク千夜に聞く。
対して千夜は考える。されたこと。すなわち自分から受け入れたことは違う。ならば、
「抱かれました」
時よ止まれ、ザ・ワールド!そして時は動き出す。
ああ、俺は今日死ぬのか。ならば俺の墓にはこう刻んで欲しい。
横島忠夫哀ゆえに死す、と。
後日この隠れ里を調べた結果、村の一番大きな屋敷の中から一人の少女と一本の直刀と共に見つかった。この少女についても後日問題が起こったのだがその話も後日語るとしよう。
どうも氷砂糖です………長い、
過去からの思い、主役は忠夫でしたw
今まですれ違い続けていた忠夫と千夜の二人ですが、今回始めてかみ合いました。まあ最も重要な所は千夜が寝ていてすれ違っているのですが………
余り多くは語りませんがいい女の条件は男をやる気にさせる女、ならばいい男の条件は?それはきっといい女の期待に答えれる男のはずです。
そうそう、それはきっと幸せな未来のレス返しはレインssか子供のssで返したいと思いますのでそこはご勘弁ください。
では今回はこの辺で、
レインカウンターは今回からです。
TAKU様
100ちーちゃん達成です!忠夫と千夜の円熟カップル話ですが二人の将来はこんな門下とw
後編は大容量でお送りする今回ですが千夜分過去最大でお送りしました。如何でしたか?
マンガァ様
っふ、最近はレインが忠夫を追い詰める様子を書くのが楽しくてしょうがありませんw
千夜の心の動きは今回が過去最大と自負しますが如何でしょう、気に入っていただければ幸いです。
1様
えっと済みません。何処のことを言ってるのでしょう。氷砂糖としては作中で令子は文珠をムダに使ってないと思うのですが………
ただ今弾切れ中様
うん、今回でさらに理性を削れたと思います。レインssでは可愛さも出ますがレインの知られざる一面も出てきますのでご期待ください。
hi様
今現在のルールでは購入金額か、流通金額か明記されておらず。(流通金額以下で除霊道具を仕入れることは難しいため)今回の令子のように無茶を通せる人種のことは考えられていませんでした。今回令子がやらかしたことで次回までにはルールの変更が為されるでしょう。
暇な人様
確かにそれをやってしまえば簡単に合格することは出来るでしょう。しかし文珠は忠夫の霊能。GS試験を他人の力に頼りきらねば勝ち上がれない人間はたとえGSとなったとしても最低の評価から始まるでしょう。そこからはい上がるのは殆ど無理です。
文月様
今回で何時もより少し大きく進展です。しかし一番大事なところは聞き流しw
ド、ドラゴンを飼いたいですかwそれは擬人化込みですか?
残念過去は過去でも忠夫の過去でした。最初の歯車の話が関係してくるのは終盤になると思います。
鳳仙花様
素直な美神さんは魅力がいっぱいなのですw
前半は美神が少し目だちましたが後半は千夜一色です。これからは千夜やレインだけでなくほかの事務所のメンバーも話しに混ぜていこうと思いますのでご期待ください。
GODON様
はい!今回は千夜がてんこ盛りですw
シリアス全開です。忠夫が眠ってる千夜にルシオラのことを語るシーン。苦労しました。
Tシロー様
レイン朝起きたら凄いことになりましたwいやあ楽しいなー(オイ
今回は千夜と忠夫の二人が主役です如何でしたか?
アサルカ様
レインで撃墜、おそらく今回は千夜で撃墜w
イタリアはそう言った人が日本に比べて多いいです。ですのでまあそう言うこともあるでしょう。忠夫の発言が一番もんだいな気もしますが………
タイガーはデフォです気にしちゃいけませんw
今回のことで忠夫と千夜の仲は一歩大きく進みました今後どうなるか目が話せません。
万々様
親しい友達からあんなことをいわれりゃあ頬の一つや二つ染めやします(多分
お褒め頂ありがとう御座います。今回は如何でしょうか?
タイガーは哀れんでもらう事無く忘れられていくのが一番の不幸かとw彼はまだ幸せなのです
内海一弘様
何故に!?それはともかくレインは忠夫を落す最終兵器です。おそらく更なる成長を遂げるでしょう。まあピートとタイガーにしても今後にきたいということで(エ?
イリアス様
始めましてイリアス様
ピートとタイガーはスルーでお願いしますw
レインは波紋を投げるのではなく水を足して深くします。そしてすかさず千夜が大岩をw
平家に関しては確かにそのとおりですので使わせていただきました。ありがとうございます。
おキヌちゃんは黒くなったりしないですけど(多分)桃色は勘弁してください。かけませんw
キサカ様
お久しぶりです!
確かにそういった方法で霊具を集めれば楽に勝つことが出来ます。しかしそれをやってしまえばGSとしての評価は終わってしまうという落とし穴が仕掛けてあります。
横島と千夜の今後は今回を期に変わっていきます今後にご期待ください。
MK様
ピートはまだ大丈夫です(多分
忠夫は段々染まってくるかもしれませんwしかしさらなる罠が忠夫を待ち受ける!?
購入費用か相場という記述はルールにされておらず、令子はそこを付いたのです。本来霊具は相場以下でてに入れるのが難しくそこらへんは考慮されていませんでした。もっとも今回令子がやったことで次回までにはルールの修正が行われることでしょう。
尾村イス様
今回はこんなことが起こりました!
お楽しみに成れたでしょうか?成れたのなら幸いです。
レインはもう天然兵器の域ですねw
次回もお楽しみに!
ノラバー様
レインの可愛さは今回も健在です!いかがだったですか?
猫丸様
千夜のssは出ましたよ!もしかしたら続きも書くかもしれません(何!?
赤き眼様
始めまして。この話を好きだといってもらえて嬉しく思っています。
千夜がお気に入りと、ならば今回の話はツボですかw
応援有難う御座います!