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「善なる心と悪なる翼 -THREE- 時は空回る(GS+α)」

Lucifer (2007-10-22 00:56)
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都内某所の某事務所。
そこはなかなか栄えた土地で、周りにはアパート、マンション、オフィスなど、様々なビルが立ち並んでいる。
唐巣神父から紹介を受けて、忠夫は不安と期待を胸にチャイムに手をかける。
「(ここが俺の、スタート地点だ。)」
少しの気合。そしてボタンを押した。
『ピンポーン』
「・・・・・・・・・?」
『ピンポーン』
「・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
『ピンポンピンポーン』
「・・・・・・・・・ぇ・・・留守?」
忠夫の決意は原因不明のアクシデントによって全くの肩透かしに終わった。


善なる心と悪なる翼 -THREE- 時は空回る


「あかん・・・。こらまずいで、キーやん・・・。」
「・・・まずいですね・・・サッちゃん・・・。」
神魔の最高指導者。サッちゃんことサタンと、キーやんことキリストは、何やら神妙な面持ちで呟いた。
「まさかこんなに早く下界のパワーバランスが崩れるとは・・・。」
「・・・どないしよか・・・。」
「やはり時期が悪かったのでしょうか・・・。」
「・・・・・・。」


彼らの話すこと。それは昔・・・忠夫が生まれるよりもずっと前。
陰陽師の高島が、この世を去った頃に遡る。
「・・・高島が死んでもうた・・・。」
「どうしましょう、サッちゃん・・・。これは非常にまずいですよ・・・。」
高島は別に神魔界の有名人ではない。しかし指導者達の間では知らぬ存在ではないようだ。
「アシュのアホは・・・高島の存在を知っておったんやろか・・・。」
「いえ、どうやら報告によると、アシュタロスはいつものように邪魔な存在を排除しただけのようです・・・。」
「すると・・・まったくの偶然やったんか・・・。」
「そのようです。・・・せっかく苦労して見つけた、抑止力となるべき存在が・・・。」

抑止力。その存在は、神、人、魔、三界全てにおいて、最も重要な人物である。
現在、神魔界は順調にデタントの流れを組んでいる。
それに比例して、神魔の間ではデタントに反対する過激派勢力が多数動き出した。
指導者達が事前に察知した中で、最も脅威となる存在。
それが、魔神アシュタロスによる反乱だった。
アシュタロスは三界一周到な計画を練る頭脳を持ち、魔力も非常に強い。
実力でアシュタロスを凌ぐ者は少なく、
居たとしても、それほど大きな力を持った神魔が動き出せば、直ちに察知されてしまうだろう。
多勢の軍隊を用いても同じこと。
そうなれば持ち前の周到な用意によって、実力以外の方法で返り討ちにあう。
最高指導者自ら出向けば撃破できるかも知れないが、下界に降りれば霊的なバランスを崩す上、
神魔界でも暴動が起こる今、指導者が場を空けると一気にデタントを崩すことになる。
他の小粒な反抗勢力とは違い、アシュタロスには容易に手が出せないのだ。
そして指導者達が考え出したのが、人間による撃破。
最も適した人材を探し出し、満を持して神魔の力を与えることでアシュタロスが画策をする前にたたくと言う計画だった。
アシュタロスを撃破できないのは、神魔正規軍が大きな勢力を動かすときにただならぬ時間がかかってしまう為だ。
人間ならば動くための時間は必要なく、うまく行けば察知される前に攻撃できる。
しかし、その計画には非常に稀な存在、
潜在的に強力な意思を持った魂に、神魔の力を許容できる器、加えて極短期間で力を物にする適応能力が求められた。
そして指導者達が導き出した答え。
それが高島。転生前の忠夫の魂だった。

「今すぐに融合させたら間に合うやろか・・・?」
「いえ、遅いでしょう。高島さんは既に成仏しています。」
サッちゃんの問いかけに、無情にも言い放つキリスト。
「すぐに転生は出来へんか?」
「それがどういうわけか、報告によると高島さんの約千年後の転生体がこの時代に存在し、高島さんと接触しています。
紛れも無く次回の転生体です。宇宙意思には逆らえません。約千年後まで、彼を転生させるのは不可能でしょう。」
再度の問いかけにもキリストは難色を示す。
既に存在している未来を変更することは、最高指導者と言えど不可能だ。
「八方塞がりってやっちゃな・・・。」
サタンは忌々しげに呟いた。
「しかし少なくとも、千年後にはまだデタントの崩壊には至っていないようです。」
絶望的な状況にも、まだ僅かに得るものはあったようだ。
「せやな。決行は千年後に持ちこしや。賭けにはなるが、ヤツならきっとやってくれるって信じとる。」
「・・・根拠の無い信頼ですね。・・・しかし不思議と、わたしも彼に期待せずには居られません。」
「おもろいやっちゃで、ほんま。」
「彼が居れば、退屈を感じることも無さそうですね。千年後が楽しみです。」
指導者たちさえもここまで惹きつける忠夫。
きっとそれも、抑止力たりえる穢れ無き魂故なのだろう。


そして千年後、忠夫は抑止力と言う大いなる使命を持って生まれることになる。
その背中に数々の期待を背負った、神魔の申し子として。


しかしその時指導者達の及びも着かぬところで、既に惨劇は始まろうとしていた。


それから十年。彼の魂は尚穢れなく、更なる輝きを増してゆく。
「横っちは心配無さそうやな。アシュタロス陣営に何か動きはあったか、キーやん?」
「大きな変化はありません。おそらく今のところ心配は無いと思います。」
「よっしゃ・・・。こっからや・・・。全てはこっからや。」
「はい。気を引き締めて行きましょう。」
僅かな決意を新たに、指導者達は忠夫を見守る。
しかしそこには落とし穴。
あの飛行機事故があった。


『ダンッ』
「ナルニアに転勤!?なぜ唐突にそんな?おかしいじゃないですか!」
机を叩きつつ語気荒く言い放つ。
そこは忠夫の父、大樹が勤める企業会社だった。
大樹はある日大会議室に呼ばれると、上司から唐突に転勤を言い渡された。
「仕方ないんだよ、横島君。我々には我々の事情がある。本部の委員会の取り決めだ。反論を聞くことはできん。」
そして社長が無情にも言い放つ。平静を装ってはいるが、その顔は何とも言えない複雑さをかもし出している。
「まぁ、これも運命だと思って受け入れてくれたまえ。」
「そう言う事だ横島君。なに、露頭に迷うわけじゃない。たかだか支社に転勤するだけさ。」
「向こうでも頑張ってくれたまえ。」
社長に続き、腰掛ける幹部達は口々に言い放った。
彼らは自分の地位を脅かす存在の排除が愉快なのか、おかしそうな笑いがわずかに鼻にかかっている。
「くっ・・・。わかりました。・・・今までお世話になりました・・・・・・。」
心中穏やかではないが、委員会の取り決めに逆らう術は持ち得ない。
大樹は引き下がるしかなかった。

「ただいま・・・。」
大樹は消沈した様子で自宅に帰る。
そこには出産退職後変わらず出迎える女房、百合子の姿があった。
「あら、今日は早かってんね?。
・・・・・・何かあったん?」
大樹の様子がおかしいことに気付き、慎重に問いかける百合子。
返ってきた大樹の答えは予想だにしない言葉だった。
「・・・ナルニアに無期限転勤になったんや。」
自分の部下だった頃は頼りなかったが、仕事が軌道に乗ってからは心配していなかった百合子。
それ故に、突然の転勤は百合子を驚愕させた。
「!・・・何よそれ?・・・あんた何か失敗でもしたん?」
そうではないだろうと思っていたが、他に適当な理由も思いつかずに問う百合子。
「・・・いや、仕事はこれ以上ないほど順調やった。
だからこそすぐに直談判しに行ったんだが、委員会の取り決めと言って全くとりあってくれなかった。」
そう言った大樹にはいつもの陽気さはなかった。
「・・・そんな・・・そんなアホなことって!・・・
・・・・・・っ!!」
言葉を言うと物凄い勢いで電話に向かう百合子。
『ピポパポ・・・ガチャッ「はい、○×財閥総本部ですが。」』
「横島百合子です。委員会につないでちょうだい、私の名前を出せばわかる筈よ。」
口調を機械的な標準語に変えて言う。かつては敏腕社員としてならした百合子、本部にもある程度は顔が利く。
そして暫く待つと、件の本部委員会につながった。
『「これは百合子君、久しぶりだね。元気にしていたかな?」』
電話口の男は、二枚も三枚も裏のありそうな年寄りの声で言った。
「烏丸副会長、無駄話は結構です。急を要しますので会長にお取次ぎを。」
百合子はものともせずに事務的に言い放った。
『「おっと失敬。しかし今会長は留守でな。用件なら私が伺おう。」』
本部に会長が居ないと言うセリフに僅かな違和感を覚えたが、それでも百合子は続ける。
「・・・そうですか。では単刀直入に伺いますが、
今回の横島大樹の唐突な転勤の件、一体どのような事情がおありだったのでしょうか?」
『「あぁ、やはりそのことかね・・・。
理由は知らないが、実は先日大手の同盟会社『芦グループ』からそのような圧力がかかってね。
我々も世話になっている手前、従うほか無かったのだよ。」』
烏丸の口調は、とても「理由は知らない」と言った物ではなかった。
幾分か嫌味に楽しそうなトーンで喋るあたり、裏での汚い利害の一致を匂わせた。
「そんな、・・・そんな勝手なことって!」
つい語気が荒くなる百合子。
しかしそれでも烏丸はひるまずに続ける。
『「まぁ心中お察しするが、既に決まったことなのだ。悪く思わないでくれたまえ。』」
「あんまりです!・・・か、会長は・・・会長はは何とおっしゃっているのですか!?」
話のわかる人間だった会長。最後の希望とばかりにまくしたてる。
『「・・・フフフッ。会長はしつこく反対して来たんだがね。
今は何も言っては来んさ、きっと会社の為に納得してくれたんじゃないかね・・・。」』
「!!・・・・・・・・・。そんな・・・。」
僅かな笑い声とともに最後の希望を握りつぶす烏丸。
百合子は記憶の中の烏丸のおぞましい顔が、汚らしく微笑んだ気がした。


余談だが、その次の日の朝のことである。
○×財閥の総取締役会長が、原因不明の急な心臓発作でこの世を去ったと新聞に報じられたのは。


「サッちゃん、どう思います?・・・横島君の父の急な転勤。内定した直後にそれを反対した会長の死・・・。」
キリストは神妙な面持ちで問う。
「あぁ、あまりに不自然な内容や。それに芦グループ・・・言霊に妙な響きを感じるで・・・。」
それに答えるサタンの表情にも、僅かな不安がうかがえる。
「・・・調べてみる必要がありそうですね・・・。」
「あぁ・・・。何か厄介なことになる予感がして来たわ・・・。」
指導者達の心配は尽きない。そして動き始める。
だがそれは少し遅すぎたようだ。


「何でやねん、おとん!何で急に転校なんかせなあかんねん!」
声の主は忠夫。この頃はまだ十歳。
第二反抗期を越えない彼は、クラスメイトの大多数と同様両親を、おとん、おかんと呼んだ。
「すまんな・・・。だがしゃーないんや忠夫。大人には大人の都合があるんや・・・。」
今は消沈した様子は無いが、やはり幾分か大樹の声のトーンは低い。
「すまんで済むか、おとんのアホ!大人の都合なんか関係あらへんわ!!」
忠夫の怒りはおさまらない。
忠夫も馬鹿ではない。今父親を責めても仕方が無いことぐらいは理解している。
だがそれでもまだ小学生、この言い様の無い怒りを止める術は知りえなかった。
「忠夫、駄々をこねるんやない。誰かて突然引越せ言われても納得できへんわ。
せやけど、ほんまに仕方ない時もあんねん。」
百合子も忠夫を宥める。しかし当の百合子の言葉も、幾分かの悔しさを孕んでいた。
「せやから知らん言うとんねん!何で今更仲良い友達と別れて、
どこかも知らんジャングルで暮らさんとあかんねや!!」
さらに忠夫の怒りは増して行く。
「ずっと会えないわけとちゃうねんで?いつか戻ってきたらええやんか。」
尚も百合子は言う。しかしそれでも忠夫の気持ちは晴れない。
「そんなん意味無いわ!
・・・それに・・・それに何か嫌やねん・・・。嫌な予感・・・
何やわからへんけど、とんでもないことが起きる気がすんねん・・・。」
なぜなのかはわからないのだろう。忠夫は不思議そうに、しかし心底不安そうに言った。
「何やそれ・・・何のこっちゃ、忠夫?」
大樹は不思議そうに忠夫に問いかける。
「・・・わからへん・・・けど、あかんねん!
・・・根拠なんかあらへん・・・けど、絶対行ったらあかん気がするんや!
なぁおとん、お願いやから考え直してや!何とかしてくれや!!」
怒りから不安、不安から心配と、忠夫の表情は変わった。
しかし大樹は、忠夫が心細くなっているんだくらいにしか思わなかった。
「心配すんなや忠夫、ナルニアはええとこやで〜。
自然はきれいやしな、女の人はみんな健康的な美女ばっかりや!
・・・若い女性が居たらの話やけどな。ガハハハハッ!」
大樹は少しでも元気付けようと忠夫にそう言った。
十歳の子供に向けるような話題ではないが、この時ばかりは百合子も止めなかった。
しかし忠夫は、自分の気も知らずに笑っている大樹に余計に腹が立った。
「おもんない・・・・・・・・・。
・・・おもんない・・・・・・そんなん全然おもんないわ!!」
『ダダダダ・・・バタンッ』
忠夫は走り去ると、既に妹が眠っているであろう自室へ行くと扉を閉める。
そして二段ベッドに上がりさっさと布団にもぐってしまった。
取り残された大樹と百合子は、苦虫を噛み潰したような表情で押し黙った。

「(俺は何がこんなに不安なんや・・・。
理由もわからんのに・・・。何も起こらんかも知れんのに・・・。)」
布団の中で忠夫は繰り返す。
「(おとんにあんなこと言ってしもた・・・。明日あやまろ・・・。たかだか引越し・・・少し遠いだけや・・・。)」
父親に強く反抗したことを、冷静になって反省する。
忠夫も仕方ないとわかっているのだ。割り切れば少し、引越しも悪くないと感じた。


「サッちゃん・・・。これは・・・非常にまずいです・・・。」
キリストはただならぬ様子で呟く。
「何や、キーやん?・・・何が起きとるんや・・・?」
その話題をつかみ、サタンは問う。
「アシュタロス陣営に、横島君の情報が渡っています・・・。」
「な!?それは最重要機密やったはずやぞ!なんでやねん!!?」
ただ事ではないと、サタンはうろたえだす。
「予測ですが、我々神族の横島君の監視を、以前から何らかの方法で察知されていた可能性が濃厚です。」
「何らかの方法って、何や?」
「・・・これも予測の域を出ませんが、
恐らくこちらから視覚するチャンネルを一方的に閉じ、我々のように監視魔を使って一部始終を覗いていたのでしょう。
・・・まるでマジックミラーのように。」
恐ろしいとでも言うかのようにキリストは言った。
「・・・いくらあいつかて、さすがにそんなこと不可能やないんか?」
自分の知らない能力に、戸惑いを隠せないサタン。
「いえ、アシュタロスは宇宙を作り出す理論を既に確立しています。
その複線である空間歪曲理論を応用すれば恐らく可能でしょう。」
「・・・あかんな。それにそんな芸当ができるくせして、そこまでの情報をこちら側に与える理由がわからん・・・。」
「えぇ・・・非常に不気味です・・・。」
不安は募るばかり。
まるでアシュタロスの手のひらで踊らされるような感覚に、言い様の無いもどかしさを感じる。
そして気がつく。
「あかん!横島が危ない!」
「・・・今日は飛行機に乗る日・・・行きましょう、サッちゃん!!」
そして仮の体を形作り、急いで下界へ向かう。
時は日本時間で午後六時。飛行機事故の時間まであと一時間。


「忠夫、すまんかったな。きっといつか戻ってくるさかい、辛抱しとってな。」
ナルニアへと向かう飛行機の中、大樹は自分の後ろに座る忠夫に言った。
「・・・おとん、悪いのは俺やねん。父親の癖にそないに謝んなや。」
忠夫は、口調こそ悪いが自分の非を認めている。
そのことに百合子は安心し、翼は嬉しそうに兄に擦りついた。
それから暫く、穏やかなときが流れる。
「(ほら見ろ、何も起こらんやないか。俺の気のせいやったんや。
・・・ん・・・安心したら眠くなってきたわ・・・少し寝よ・・・。)」
安心した忠夫は、しばしの眠りにつく。
そこに待ち受ける、最悪の目覚めを知らずに。


『ドゴォン』


「うお!な、何や!!?」
けたたましい騒音が響き、無理矢理意識を戻される忠夫。
そこでは既に、自らの両親を除く乗客の全員がうろたえ、阿鼻叫喚とざわめいていた。
「おとん!な、何や!?何やこれ!?」
それを見て忠夫もうろたえ出す。
「うろたえるな、忠夫!」
その様子に大樹は一喝する。
『グンッ』
それと同時に一気に機体が下降する。
機内に凄まじい逆Gが駆け抜けた。
「!!・・・・・・忠兄ぃ・・・。」
不安そうな声で翼が呟く。
「大丈夫だよ翼・・・大丈夫・・・大丈夫・・・。」
忠夫は翼に、そして自分に言い聞かせるように言う。
「・・・っく!・・・忠夫、翼を守れ・・・俺たちは心配するな、翼を守ってくれ!!」
Gに耐えながら言う大樹。
「・・・!!」
忠夫は自分の隣の席で不安そうにしている翼を抱きしめた。
尚も大樹は言葉を続ける。
「忠夫!きっと2人・・・ずっと仲良くな!!」
意味深な言葉。まるでこれから自分が死ぬことを知っているかのような。
きっと今大樹は、駆け抜ける走馬灯を受け入れてしまったのだろう。
「な!?・・・お・・・親父、何を言っ・・・!!」
『ズドーンッ』
忠夫のセリフの途中で、機体は凄まじい衝撃と共に地面に突き刺さる。
『バキィンッ』
「きゃぁっ!」
衝撃によってシートベルトの金具がはずれ、翼の体が前方に投げ出される。
「危ない!!」
忠夫は咄嗟に飛び上がると、翼を抱えて丸くなる。
『フッ』
そこで機内の電気が消える。そこは闇と化し、尚乗客は騒然とする。
『ボボーンッ』
『ガシャァンッ』
『パリィンッ』
『ドドドーンッ』
機体が曲がり、ガラスが次々と割れ、そこかしこから爆発し火が徐々に広がる。
「うわぁー!」
「ぎゃー!!」
「ママーー!」
悲鳴が上がるも、先ほどより随分少ないように感じる。
『ドサッ』
『ゴッ』
「くぅ!」
忠夫は翼を抱えたまま機内の最前列に落下した。
その余波で頭を打ち出血するが、翼が無事なことを確認して安心する。
「翼・・・よかった・・・。
・・・あ、血・・・でてら・・・ははっ・・・。」
うつろに笑う忠夫。出血で意識を保つのも限界なのだろう。
「は、お、おとん!おかん!!」
しかし両親のことを思い出すと、大声で呼ぶ。返事は返ってこない。
「おとん!おかん!生きとるんやろ!?・・・返事してや!!」
機内は暗く、どの辺りを飛んでいたのか外も暗い。
どの方向に叫んで良いかわからず、忠夫は四方八方に呼びかける。
「おとーん!おかーん!どこや!どこにおるんや!!」
本当は薄々感じているのだろう。両親の返事が返っては来ないことを。
「おとん!!おかん!!」
それでも忠夫は叫び続ける。
両親の死を拒絶し、信じまいとする
「お願いや!返事してや!!」
そしてそこに、聞きなれない声が返事をよこす。
「横島忠夫だな・・・。お前の親は答えないぜ、しぶとかったから俺が殺したのさ。」
忠夫に一番近い、割れた窓からだった。
それの姿は人ではなかった。
この世のものとは思えないほど鋭い目、その目元まで裂けた口。
体は漆黒に彩られ、暗い機内からはよく見ることができない。
「だ・・・誰や?・・・適当言うなや!あの2人が簡単に死ぬわけないやろ!!」
忠夫は知らない声に戸惑いを覚えるが、両親の死を信じまいと虚勢をはる。
「もろかったぜ・・・俺が触ったらすぐに死んじまった・・・。
安心しな・・・次はお前の番だ。すぐに会わせてやるよ・・・。」
楽しそうに笑い、忠夫との距離を詰める。
「や・・・やめろ・・・く・・・くるな・・・くる・・・・・・な・・・。」
拒絶するが、出血量が限界に達したのか忠夫はそのまま意識を失う。
きっと目覚めることは無いだろう。眠るように手放した意識は、そのまま忠夫の命を解き放った。
「ん?・・・何だ、つまんねぇな・・・勝手に死にやがった・・・。
・・・まぁいいや、その妹の命で我慢してやるよ!!」
そして爪を振り上げる。
刹那だった。
突然後ろから現れた光に、その悪魔は一瞬視界を奪われる。
「な、何だ!!?」
振り返ると、神々しい光に身を包んだ何者か。
最高指導者達だった。
「名乗る必要はありません。消えなさい。」
そして自ら手を下すキリスト。正面から光球を放つ。
『ズボォンッ』
「ぐあぁ!く・・・くそ!」
悪魔は一言叫ぶと飛行機を後にし、飛び上がった。
「待ちなさい!」
キリストは追撃しようとするが、サタンが止める。
「キーやん、待ちぃ。今のこの肉体じゃヤツは倒せへん。それよりもこっちや。」
そして忠夫を神妙な面持ちで見つめる。
「間に合いませんでしたか・・・。」
悔しがるキリスト。しかし時既に遅し、事態は変わらない。
「あかん、死んでもうた・・・。えらいこっちゃ、どうする?キーやん・・・。」
「困りましたね、サッちゃん・・・。仕方ない、少し早いですが・・・やるしかないでしょう・・・。」
「・・・ホンマか?今やってもうたらどうなるかわからんで?」
当初の予定は、忠夫が霊能力者としてある程度成熟してから行うということだった。
今行えばアシュタロスに気取られ、殺される危険がある。
それに霊力に慣れていない体。突然大きな力を手にすれば、器の崩壊や何らかの精神汚染があるかもしれない。
「しかし事態が事態です、やむを得ません。ラジュエル、こちらへ。」
賭けにはなるが死ぬよりはマシと、キリストは考える。
他に方法は考えられないのだ。
「仕方ない、なるようになれや!カズターブ、お前も来ぃや。」


そしてそこに天使と悪魔が召喚される。


「さあ、今こそこの少年と一つになりなる時です。」
「いつか彼が、神魔界の抑止力となる為に!」

「「契約を命ずる」」

『カッッッッッッ』


「このこと、アシュタロスに気取られなかったでしょうか・・・。」
キリストは懸念する。
「おそらくさっきの悪魔が、横島は死んだと報告するはずや。
我々も見られてしまったが、アシュタロスもまさか最高指導者が下界に居るとは思わんやろ。
神魔の力が加わって、魂で横島を割り出すのも不可能となった今、ここを目撃されていなければ心配ないはずや。」
「その辺りは心配ありません。
アシュタロスの空間歪曲を逆に利用して、我々の姿は映らないようにしてあります。
いつまでも思い通りにはさせませんよ・・・。」
ひとまず懸念を払う指導者達。その顔には、わずかな安堵と怒りが浮かんでいた。


そして時を戻す。


「何で誰も居ないんだ〜?・・・おかしいな〜。
神父に連絡してみよう。」
『ピポパポ・・・ガチャ「はい唐巣です。」』
「あ、神父ですか?実は・・・。」


徐々に動きを変えてゆくクロノスの古時計。

なぜ美神は事務所に居なかったのだろうか。


「下界のパワーバランスが崩れています。
・・・恐らくアシュタロスは横島さんのような存在を警戒して、人外霊力の底上げに乗り出したのではないでしょうか・・・。」
「恐らくそうや。
横島を狙わんところを見ると具体的に危険分子を割り出すことはできんらしいが、
それならばと、無差別に霊能者を狩るつもりなんやろう・・・。」


謎が謎を呼ぶ歯車の噛み合わせ。

歪んで尚回り続けるその歯車は、その時計にどんな変化をもたらすのか。

今それを知る者は、時を司るクロノスのみである。


なかがき


どうも、Lciferです。

一話同様二話でも疾走感が拭えないとの意見がありましたので、
今回は副題一つにしぼってできる限りほりさげてみました。
いかがだったでしょうか?
当初の予定ではこの後に美神との出会いを突っ込もうとしていたのですが、
ぁ、それがいけないのか!
とか今更思って次回に回しました。
今回は指導者達の考えから、飛行機事故の真相までの流れを描きましたが、
皆様にうまく伝わったかが心配です。

次回は美神との出会いを描きたいと思います。
今回だと思ってた方は横島君同様肩すかしを食らったと思います。
はい、私も肩すかしでしたが、次回こそはやっと出会います。
違和感無い作品にしたいと思っておりますので、ぜひご拝見いただきたいと思います。
感想、指摘などいただいた方々、本当にありがとうございました。
今後も批判にめげずに頑張りたいと思います。
ではまた次回、Lciferでした!


○街路樹様

応援ありがとうございます。
思わぬ方向から笑いをとれればと思ったのですが、喜んでいただけて良かったです。
反感を持った方も居たようですが、一つの作風と思っていただけたら幸いです。


○え〜に様

ご指摘ありがとうございます。
前回のご指摘を読んで、副題を分けてみることにしました。
そろそろ疾走感を拭い去りたいです(汗
今回も回想的な内容ですので、
指摘どおりナレーションを交えましたが、
わかりづらくなかったでしょうか?
感想いただきたいです。

そして、
あぁ、我々を団体などとは全く恐れ多いことを!!
私が間違っていました!世界にはばたけ、ハーレム推進派!!


○ゼンダマン様

応援ありがとうございます。
私はシリアス横島をこよなく愛する人種なので、共感いただけてよかったです。
今回登場人物の説明も意識したのですが、おかしくなかったか心配です。
またご指摘お願いします。


○Michael様

ご指摘ありがとうございます。
横島感が無くて違和感を持つのは当然と思います。
そう言った意見をもとに、横島君を壊れキャラとしたのですが、
納得いかなければ申し訳ないです。
横島君がモテていることは、
これは作者の解釈になりますが、もともと横島君は女生徒に忌み嫌われているとは思わなかったので、
性格が違ければこうなるのは必然と思いました。
男生徒の嫉妬ですが、これは原作でもあったことなので、流れ上無ければ逆に不自然と思っています。
そして、
斉天大聖とある程度戦えるというのは一話のことと思われますが、
二話では一年前の回想、そして横島君が戦いを知ったのはその後唐巣神父に教わってからです。
それ以前霊と戦えないのは必然ではないでしょうか?
さらに原作で横島君が斉天大聖と修行を行った時も、基礎的な知識や訓練は皆無でした。
あの修行が初めてと言っても過言ではありません。
本作でも真剣勝負ならともかく、修行くらいはできてもおかしくないのではないでしょうか。
尚、原作でも本作でも横島君が文殊無しで斉天大聖の実力にかなわないのは今はまだ変わりません。
キャラと会話しているのは一種の作風と思っていただきたいのですが、
不愉快と感じたなら申し訳ないです。
今後もそうそう安易な展開にならないよう尽力いたしますので、続きを見ていただけたら幸いです。


○七位様

ご指摘ありがとうございます。
GSでなくてもいいと言う意見は一理あると感じておりますが、
寛大なご解釈ありがとうございます。
ひとまず設定の裏づけをがんばって行きたいと思います。
性格がオリ作品よりになってしまうと言うのは作者自身思いますので、
今後は、この作品にGSらしさを求める努力をしたいと思います。


○ららら様

ご感想ありがとうございます。
翼ちゃんの今後にも抜け目無く頑張ろうと思います。


○ぞら様

ご指摘ありがとうございます。
恐らく男子生徒の反応のことと思われますが、
転校元が同じと言っても、大阪の一つの市は広く人口も多いです。
『横島』と言う家族が何世帯あっても別に問題は無く、全く知らない人である可能性も否めません。
「妹」「親戚」「嫁」云々どころか、「知り合い」と決め付けることでさえ不可能です。
そしてそう言った関係の2人が「一緒に暮らしている」と知れば、
原作の彼らならば横島の言い分を聞かずに追い掛け回してもおかしくはないと作者は考えています。
そして美神事務所のバイトの件ですが、
これは神父の「師にふさわしくない」の言葉と、
美神事務所のバイトの件と、はっきり一本に繋いだ描写をしておりません。
今後のネタバレになるのでまだ皆様の解釈に任せている段階です。
今後で説明と言うやり方が気持ち悪いと言う意見に対しては、
作者も失敗だったと思います。
何らかの形で解決したいと思いますので、今後もよろしくお願いいたします。


○stf様

ご指摘ありがとうございます。
今のところ私的には、日常を形作る枠組みを徐々に展開している感覚なのです。
もちろん面白い作品を作りたいと思う意識はありますがので、
そう言った意味では私の見て欲しい場面は作品全体になります。
まだ目立って特別な場面や感動的な場面を出したつもりはなく、盛り上がりはまだ先と考えております。
ですがそう言った複線の中に、中途半端で不完全燃焼になる要素があったのなら、
今後どうにかしたいとは思います。
今後ともよろしくおねがいします。


○アイク様

ありがとうございます。
いつも作品拝見させていただいてます。
アイク様は私の尊敬する作者様なので、そう言ったことは全く想像できませんでしたが、
作品を再度覗いたところ、確かにそう言った意見が存在していました。
本当にすばらしい作品なのにそれでも苦労の末だったんですね。目から鱗です!
とても勇気が湧きました。ありがとうございます。
また見てくださることを切に願います!!


○樹海様

わざわざ何度も書き込みありがとうございます。
樹海様のような読者様が居るととても執筆意欲が湧きます。
今回は予告通り(当初の予定通りとも言う)指導者達の考えの補完です。
いかがだったでしょうか?
次回の美神との出会いでも、どうかご期待いただきたいです。

唐巣神父・・・どうしてなんでしょうね?
今後その補完もすることを予告しておきます。

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