――――やっと寝たか。
ベッドの上で寝息をたてている親友の寝顔を見ながら一息つく。桃太郎はさんざん暴れまわった(被害は主に番長に行った)のちにいきなり机に突っ伏して眠りはじめた。ようやく眠りについた酒乱太郎にホッとしつつも、そのままほっとくわけにはいかないので気絶している番長を叩き起こして部屋のベッドまで運ばせた。その番長は最後の力を振り絞って桃太郎を運んだのか、今はリビングのソファーで泥のように死んでいる。肉体的にもそうだが精神的にも疲れ果てていたようだ……まったく本当にウブだったなあ。あの後テンションが最高潮に達した桃太郎も脱ぎ出して両手に花状態だったというのに、逃げ回った挙句にトイレに逃げ込むとは。まあ、そんな番長だからこそ私も脱いだんだし桃太郎が脱ぐのを止めなかったんだが。これが桃太郎のお兄さん相手だったら絶対にやらない。私だって貞操は大事なのだ。
しかし危なかった。番長が度重なる桃太郎からの肉体的ダメージと私たち二人からの精神的ダメージで気絶したあと、桃太郎の矛先は私に向けられていた。お兄さんに対する愚痴を言われるだけならまだいいが、手が出てきたら私に防ぐ術はない。薙刀を持っていない私は正直に言って弱い。そこらのチンピラにも勝てないし、まして桃太郎相手には薙刀を使っても手も足もでないのが現実だ。今まで攻撃を受けていた盾がダウンしたとき、彼女の気まぐれな一撃が私の死に繋がる。おのれ番長、せっかく呼び出したんだから最後まで役目を果たせ。
まあ、結果として私の心配は杞憂に終わった。桃太郎専属の睡魔がようやく出勤してきて仕事をし始めたからだ。普段は午後十時には仕事を始める勤勉な彼が珍しく遅刻とは、これもコーラの力なのか?
「しっかし、イタリアねえ……お兄さんもどこまで行ってんだか」
桃太郎の愚痴の内容から推測したのは、どうやらあのお兄さんは桃太郎に内緒でイタリアまで行っているということだった。……うーむ、一流のGSともなると海外からの依頼も来るんだろうか。でも役に立っているのかねえ、あの人。むしろ敵に寝返っていそうな気がするんだけど。
「イタリア……」
桃太郎の顔を見ていたら、ふと昔桃太郎がイタリアのことを話していたのを思い出した。……思い出してしまった。
あれは中学二年に上がったころだったと思う。そのころには桃太郎との付き合いも一年近くになり、彼女ともかなり打ち解け始めていた。
二人で昨日見たテレビや最近見た映画の話をしているときに吸血鬼の話題になったのだ。
「…………吸血鬼」
「ん? どうしたの横島さん?」
私が吸血鬼という単語を出したとたんに眉をよせて奥歯を噛みしめ始める桃太郎。その様子は明らかに悔しそうで、私はこの家族関係(主に兄)以外では完璧超人な自慢の友人がそこまで悔しい思いをすることがあったんだろうかと不思議に思ったものだ。
「吸血鬼がどうかしたの?」
今でもこれは聞くべきだったんだろうかと迷っている。このあとに見ることになる桃太郎の新たな二面のうち、一方のおかげでますます桃太郎に惹かれたのは良かったと思ってるし、もう一方はできれば一生見たくなかったというのが本音だ。
「んー吸血鬼にはいやな思い出があるのよ」
「思い出?」
「そっ。昔……といっても二年も経ってないか。イタリアに旅行に行った時に色々あってね……」
そこまで話した桃太郎は窓の外に顔を向ける。その横顔は何かを懐かしんでいるような……悲しんでいるような……とても自分にはできない表情で。当時まだまだ桃太郎に対する憧れや尊敬のような思いがあった私は彼女と知り合えた運命に感謝したほどだった…………もっとも、次の言葉を聞くまでだったが。
「……あんのクソ吸血鬼! 首洗って待ってなさい!!」
「…………は?」
いきなり立ち上がって大声で叫びだした桃太郎に私の頭は真っ白になった。だって、ねえ? さっきまで大人な雰囲気を醸し出してヘタしたら惚れそうになる表情をしていた友人が、次の瞬間に両こぶしを天井に突き出して「うがぁー!」なんて叫んでいたら誰だって思考が極楽まで吹っ飛ぶと思うんですよ。
「ちょ、ちょっと! 本当にどうしたの!」
ようやく思考が臨死体験から帰ってきた私は混乱した頭でとりあえず桃太郎を落ち着かせようとした。……クラスメートの視線も痛かったし。
「ん、取り乱してごめんね」
「いや、それはいい……よくないけど。いきなりどうしたの?」
落着きを取り戻して席に座った桃太郎に尋ねた。あそこまで取り乱した彼女を見たのは家族関係(主に兄)以外では初めてだった。
「イタリアで遭った吸血鬼のことを思い出したら、ね」
「吸血鬼に会ったことがあるの!?」
純粋に驚いた。吸血鬼といえば普通に暮らしたらまず見ることはない超有名な存在だ。私が体を乗り出して桃太郎に顔を近づけたのも無理はないといえよう。……だからこそ、桃太郎と私の言葉の微妙なニュアンスの違いには気付かなかった。
「ええ、“遭”いたくもなかったけど」
「ん? でも、あれ? 首を洗うって……?」
そこで桃太郎が先ほど叫んでいたことを思い出した。腕を組んで首をひねる私の疑問に桃太郎はあっさりと、トンでもないことを答えるのだった。
「もう少しでとどめを刺せたんだけどねえ。逃げられちゃったのよ」
「…………」
思考が再び極楽ツアーに旅立っていってしまった。いやまあ、これも仕方がないことだと思うんですよ。だってそうでしょ? 目の前の普通……とは言い難いけど中学生(二年前は小学生)が吸血鬼を滅ぼす寸前までいったなんて。
「フルボッコにしたところまでは良かったんだけどねえ。日が昇ってきたせいで向こうが逃げ出してね。さすがに飛んで逃げる相手には追いつけなかったわ」
「……いや、ツッコミどころ満載なんだけど。とりあえずなんでそんなことになったの?」
ちっ、と舌打ちする桃太郎にツアーから帰ってきた思考で尋ねる。思考が旅行疲れしたのか頭痛がし始めた。
「いろいろあったのよ……いろいろね」
桃太郎はまたあの顔になってそうお茶を濁してきた。あーあ、会話抜きでこの表情だけを見ればマジ惚れたかもしれないのに。そうしたら今頃はマ○ア様がみてる関係だったかもしれない……うん、人生ってちょっとしたことで分岐するんだなあ。
「それにしても顔を覚えてないのは痛いわねえ」
「?」
「いや、あいつと戦ったのって明かりがほとんどない埠頭でね。顔もろくに見えなかったのよ……そうじゃなくてもあの時は無我夢中だったしね。あいつが吸血鬼ってことに気づいたのも、あとからあいつの攻撃方法とセリフを思い返してからだったし。あーあ、これじゃあ探すのが大変だなあ」
「探すって……顔がわからなければ無理じゃない?」
何のために探し出すかはあえて聞かない。だっていやな予感がしたから。
すると桃太郎は両肘を机について組んだ手で口元を隠すポーズをとり静かに語りはじめた。
「問題ないわ……気合いで探し出してみせる。絶対にね」
急に教室の気温が下がった気がした。体が震えていたからきっと気温が下がったのだろう。その寒さといったら体は小刻みに震えているのに汗が出てくるのはなぜなのかと不思議に思ったほどだ。
「よ、よこ……」
なぜか言葉が最後まで出ないことにも困惑した記憶がある。桃太郎の白と黒が逆転した、京都の某戦闘集団のような目を見ると呼吸まで浅くなっていくのがわかった。
「次に遭ったら絶対に確実に油断なく……始末してやる。灰にするだけじゃ生ぬるい。塵残さず消し去ってやる……フフ、フフフフフ…………」
そのとってもとっても黒い笑いに、正直少しちびりました。
思い出しただけでも怖気がする。あれからさらに二年ほどの付き合いになるがお兄さん関係以外であそこまで怒った桃太郎は見たことがない。いや、お兄さんの時は激しく怒るが、この時は静かに怒っているぶん余計に怖かった。あれが殺気というやつだろうかと思う。実際、その時教室にいたクラスメートの中には気絶者も出たくらいだった。この時の出来事は一年生の時の事件をはじめとした私たちの母校に残る桃太郎伝説の一つとなっている。
この事件や他の話の端々から推測するに、桃野郎はオカルト関係にあまり良い感情を持っていないようだ。私がドクターの話をした時もいい顔をしなかったし。でも、それにしてはオカルトの知識が豊富だったりするのだから矛盾しているなあ。ドクター・カオスって名前を聞いただけで「ヨーロッパの魔王」ってわかったくらいだし。
それにしても、いったい何しやがった吸血鬼。あの時の桃太郎の目は確実に殺(ヤ)る目だったぞ。
〜兄妹遊戯〜
第七話『キャプテン・ブラドーの初陣』
皆がブラドーの高らかな名乗り上げにかたまっていると、彼は城の屋根の上から飛び上がり、己の体を空高くにやった。そして上昇が最高点に達すると三日月を背後に背負い、一気にGS達の元へと落ちてくる。
「はっ。いけない! みんな散開!」
いち早く我に返った美神がみんなに呼び掛ける。その声に硬直が解けたみんなは各々即座にその場から離れると、さっきまでみんなが固まっていた場所へブラドーが落ちてきた。
「流星・ブラドー脚!!」
落ちてきたブラドーの突き出した脚が地面に着いた瞬間、凄まじい轟音と共に土煙が発生する。GS達は離れたところから油断なく土煙を凝視する。土煙が晴れた時、そこには直径三メートルほどのクレーターとその中心に佇むブラドーがいた。
「んなあ!」
美神が顔を崩して叫ぶのも無理はなかろう。ただ落下するだけではあそこまでのクレーターはできまい。とすると今のは攻撃、しかも少しでも回避が遅れて直撃を受けたら確実に死んでいた類のものだ。
「ク、クククク……何を驚く。これでもまだ本気ではないぞ!」
その言葉と共にクレーターから飛び出してくる。その向かう先には先ほどカオスを抱えて下がっていたマリアがいた。一瞬でブラドーは近くまで接近し、カオスを連れて逃げだすことはできなくなった。マリア一人ならまだ逃げられるが、それだとカオスに標的が移るだろう。
「直撃・ブラドー拳!!」
逃げられないと見るや、両腕をクロスさせてブラドーの拳を受けるマリア。が、ブラドーの拳が当たった瞬間バキッという音と共にすごい勢いで後ろへ吹き飛んでいく。
「ぬ? ぬおおおぉぉぉぉ…………はうっ」
……マリアの後ろにいたカオスを巻き込んで。
「マリア! 大丈夫!?」
マリアの何百キロもある体に押しつぶされてピクピクしているカオスのことは無視して、倒れているマリアのことを心配する美神。
「右腕・完全破壊を確認。左腕・稼働率52%に低下。ノープロブレムです・ミス・美神」
「問題ありまくりじゃないの!」
マリアの右腕はかろうじて繋がっているといった状態であり、左腕も外装が壊れて内部構造が見えている。しかしマリアは美神のツッコミを無視して立ちあがり、ブラドーから目を離さずに告げた。
「両腕以外の・損傷・なし。マリア・まだ・戦えます。だから・ノー・プロブレム」
「……」
その戦闘意欲が衰えていない姿(少なくとも美神にはそう見えた)を見て、美神は黙って神通棍を構える。隣へとやってきたマリアに笑顔で言った。
「それじゃあ、いっちょ反撃と行きますか」
「OK・ミス・美神」
「アーメン!」
美神とマリアの連携攻撃をよけているブラドーの隙を狙って神父が攻撃を仕掛ける。さすが冴えない風貌とはいえ、美神をして世界トップ10に入るGSと言わせることはあってその攻撃はマリアの蹴りをよけたブラドーに直撃した。
「やったか!?」
「……いや、まだよ」
とりあえず様子を見るためにマリアと共に間合いをとった美神が神父の言葉を否定する。
「……ふん。無駄だ」
美神の言葉通りブラドーは傷一つない姿でそこにいた。変わっていることといえば攻撃が当たった部分の黒い服がなくなり、そこから下に着ている服が見えることぐらいだ。いや、よく見れば彼の足もとに黒い物体がいくつもあるのがわかる。
「あれは……コウモリか? っまさか!」
「そのまさかだ、ピート。余が身につけているのはコウモリたちでできている。余に対する攻撃はすべてコウモリたちが受け、余には届かん。そして欠けた部分は……」
ブラドーが指を鳴らすとどこからともなくコウモリ達が飛んできて服と一体化していく。そうしてあっという間にブラドーは攻撃を受ける前の姿に戻った。
「このようにすぐに修復できる……さすがに瞬時に、とはいかんがな」
「く……」
ピートは奥歯を噛みしめる。これではブラドーの血を吸って秩序を崩壊させ、みんなを元に戻す作戦ができない。たとえ噛みついたとしてもコウモリが邪魔して牙がブラドー自身に届きはしないだろう。
「なぜだ、ブラドー。なぜそこまで戦い方を変えた」
ピートはさっきから気になっていたことを聞く。先ほどまでの戦い方は彼の知るブラドーの戦い方とはまるで違っていたからだ。ピートの知っているブラドーは魔力砲で攻撃したり、体を霧にして攻撃をよけたりしていた。
「ふむ……この戦い方はな、とある人間を参考にしたものだ。もっともさすがの余もあの領域には至れていないがな」
みんなはブラドーの言葉に言葉を失う。一撃でマリアの超合金を破壊し、一流のGSである神父の攻撃が全く効かない奴の戦い方が人間を参考にしたものだとは信じられないのだろう。しかもブラドーはまだその人間の領域に届いていないという。
「どんな奴よ、その人間は……」
「ふっ、余もどこで奴を見たか覚えておらんがな。奴は余ですら畏怖を覚えたものだ。なにせ奴は己の肉体一つで大地を砕き、海を割り、数千度の炎の中を生き延びたのだからな」
「「「それは決して人類じゃない!!」」」
ブラドーのセリフに美神・神父・ピートのツッコミが入る。彼らの常識の中では人間はそこまで超人ではないのだろう。
ちなみに本人は忘れているが、ブラドーがその人間を見たのは四年前である。
とある少女に頭をボコボコに殴られているときだったと言っておこう。
……打ちどころが悪かったのだろうか? 別の世界での出来事を見てしまったらしい。
「余は奴を見て人間の可能性を知った。人間とは鍛え方次第でここまで強くなれるものなのか、とな」
三人のツッコミを無視して語り続けるブラドー。
「だから戦い方を変えたのは余なりの奴に対する敬意の表れだ。四年間、奴の動きを思い出してそれを体に覚えさせ、奴が着ていたアレの特性をどのように再現するか試行錯誤を繰り返した。その成果が……」
ブラドーはそこまで言うと片足を高く上げてそのまま振り下ろす。それだけで破壊音が辺りに響き、地面には小さなクレーターが出現した。
「これだ。未だ奴には届かないが……貴様らとあの小娘を殺すには十分だろう」
そう言って構えをとるブラドーにGS達も集まって戦闘態勢をとる。ブラドーをじっと見ていたピートが皆に聞こえるように告げた。
「おそらくブラドーはその魔力のほとんどを身体能力強化とコウモリたちの操作に使っています」
「なるほど……それであの攻撃力ってわけね」
ピートの説明にようやく納得がいった美神。いくら吸血鬼の怪力といえどマリアの腕を一撃で破壊するなんておかしいと思っていたのだ。
「まあ、原因が分かってもどうしようもないんだけど。とにかく当たらないようにしなきゃ」
でなきゃ肉団子ね、と続ける。彼女達は一流のGSであるが体は生身の人間だ。近接戦闘タイプのGSならわからないが彼女はオールラウンダー、神父に至っては後衛タイプだ。あの攻撃が当たれば確実に死ぬだろう。
「前線は二人に任せるわ。私と先生は隙を見つけて攻撃するから」
「イエス・ミス・美神」
「わかりました」
返事をして前に出るマリアとピートなら直撃しない限り致命傷にはならないだろう。美神は身につけていて海に流されなかった数少ない破魔札を取り出して構える。
「……ピート。あくまで余に逆らうか」
「当たり前だ。世界征服なんて馬鹿な真似は絶対にさせない」
「仕方があるまい……はっ!」
二人は凄まじいスピードで近付いてくるブラドーの姿をかろうじて目で捉える。人間よりもはるかに動体視力がいい二人でさえかろうじて、というのだからそのスピードは推して知るべし。
「死ねい! ピートオオオォォォォォ……ってあれ?」
間抜けな声と共に急にスピードが落ちるブラドー。その予期せぬ急激な変化に対応できずにバランスを崩して転んでしまい、そのままの勢いで転がっていく。
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉ…………へぶっ!」
ゴロゴロとピートたちの横を通り過ぎ、中庭を横断して壁にぶつかってようやく止まる。何が起こったかわからないGS達の視線が集まる中、ブラドーは痛みをこらえて立ち上がる。
「む? ……は、ふっ、とお!」
ブラドーは両手を閉じたり開いたりすると急にその場で技の型をし始めた。しばらくすると動きを止めて今度は月を見上げる。ますますわけがわからないGS達の視線が集まる中、大きく息を吸い込んで口を開く。
「しまったあああああ! 魔力が切れた! 調子に乗って話し過ぎた!!」
「「「アホかああああ!!」」」
よっぽどあの戦い方は魔力を使うようだ。すでに体に纏っていたコウモリの防護服もなくなっている。先ほど転がっている最中にコウモリたちはどこかへ飛んでいっていた。
「く……だがそのままでも貴様らごときに負けはせん!」
ブラドーが構えをとる。後頭部にでっかい汗が見えるのは気にしないであげよう。
だが決して油断できない。いくら先ほどよりも力が弱まり、攻撃が効くようになったとしても彼が武術?を修めており強敵であるのは変わりない。
しかしブラドーが動こうとした時、どこからか破壊音が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
ブラドーは立ち止まって辺りを見回すが特に何も見えない。しいて言えば先ほどまでより遠くにいるGS達くらいだろうか。しかし空耳でないことは確かだ。現に破壊音と共に地響きが強くなっていくのがわかる。そうしている間にも破壊音はどんどん近付いてきた。
「後ろか!」
破壊音がすぐ近くまで来たところで、それが後ろの壁の向こうから聞こえてくることに気づく。彼が後ろを振り向いたとき、壁にひびが入り始めた。
「きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!」
ひびはだんだん大きくなっていき、それと同時に破壊音と地響きに混じって声が聞こえてきた。
「なにが起こっている!」
ブラドーが戸惑っている間にも壁のひび割れは続いて行き、とうとういつ崩れてもおかしくなくなった。そして―――。
「きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!いぃぃぃぃやああああああ!!」
「ぬぐわああああああ!!」
ブラドーは壁を破壊して現れた12+1の影が作り出す暴力の嵐に巻き込まれて意識を失うのだった……。
「ボケ親父はやっぱりボケ親父か……今回はそれで助かりましたが」
「あとはピート君がブラドーの血を吸うだけだね」
「うーん、冥子の暴走はどうしようかしら。エミ、あんた逝きなさい」
「いやなワケ。令子、あんたこそ逝ってきなさい」
『私、あまり出番ありませんでしたねー』
「ご無事でしたか・ドクター・カオス」
「……マリア、さっきまでものの見事にわしのこと忘れておったじゃろう? ……返事をせんか。なぜ目を逸らす?」
暴走の被害が及ばない中庭の隅で、気絶したブラドーをボコり続ける式神たちを見ながら戦いの終わりを悟るGS達だった。
「きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!」
ゴスッ! メキッ! ドゴッ! グシャッ!
…………そして、だんだん赤とピンクと白のモザイクになりつつあるブラドーのことはあえて視線から外しているGS達だった。
「……吸う血がなくなりそうな気がするね」
「というか、あれに噛みつきたくないのですが」
しっかり見てしまった神父とピートの間にそんなやり取りがあったとか。
美神が乗っている飛行機は今現在成田へと向かっているフライトの最中だ。座っている席はファーストクラス。忠夫の分のチケット代が浮いたからというのもあるが、美神としても疲れた体での何時間にもなるフライトはゆったりした席で過ごしたかったのだ。
「んーっ。色々あったけど結果的には黒字だったし。よかったよかった」
美神は伸びをしながらそう独り言をつぶやく。その独り言に反応したのか窓から外の景色を見ていたおキヌが振り返って行った。
『でも、カオスさんはかわいそうでしたね』
「……まあ、仕方がないんじゃない?」
ちなみにこの飛行機には美神たち一行以外にGS達は乗っていない。エミは「令子と同じ飛行機なんてごめんなワケ。ねえピートぉん。私の血を吸ってぇん」だそうだし、神父はしばらく島に残って事後処理を手伝うそうだ。冥子も事後処理の手伝い。実は事後処理とは主に冥子が破壊したところの後始末だったりする。
……で、カオスとマリアはといえば。
「なあ、何とかならんか?」
「無理ですよ。皆さんに最初にお支払いしたのが我々の全財産です」
「そこを何とか!」
「食糧ならお渡しできますけど……」
「おお! それは助かる……じゃなくて! 換金できるようなものはないのか!」
「ん〜……ないですね」
「そんな殺生な! 貴様から貰った報酬はすべてマリアの修理費と飛行機代で消えるんじゃよ〜。このままでは家賃が払えん。大家のばあさんに薙刀で叩かれるぅ!」
「くっつかないでください! ないものはないんですってば!」
とまあ、現在こんな会話がブラドー島で繰り広げられている。
『横島さんも……』
「あいつは自業自得よ」
……で、姿が見えない忠夫といえば。
「すいまっせーん! 調子に乗りすぎました! もうしませんから許してください! ふえぇーっクション! ここマジで寒いっす! 気圧が低くて耳鳴りが! 酸素も薄くて息があ! 死ぬ、マジで死ねるぅ!」
そんな声が飛行機の格納庫内に響いていたとかなんとか。
「わし、今回役に立ったよな? 超音波発生装置とか、にんにくスプレーとか。マリアだって活躍したし……なのになぜこうなるんじゃーーーー!!」
「美神さん! 美神さはーーーーん!!」
あとがき
こんにちは、Kです……アイデアは湧くのに書く時間がないとです……Kです……。
というわけで『兄妹遊戯』第七話をお届します。今回でブラドー島編終わりです。ブラドー、あっさりやられてしまいましたが再登場の予定ありですのでご心配なく(なんの?)。
桃の忠夫に対するお仕置きは次回の冒頭で。今回ラストに入れてもよかったんですがこっちの方がいいかな、と。
ブラドーのブラボーな能力はまだいろいろと改良点があります。今回出てきた燃費が悪いのもその一つです。ブラドーはまだまだブラボーになります。
今回『壊』指定をつけたわけですが別につけなくてもよかったんじゃないかなと思っています。確かに戦い方は壊れていますけどブラドーのキャラ自体が壊れているわけではないと思うので。本当はキャラを壊したかったんですが、それはまた次の機会に。
今回少々間があきました。私生活の方が忙しくなってきたからで、決してグレン○ガンを見ていたわけではないですよ?
グレン○ガンで思い出しましたがなのは終わりましたね。いろいろ言われていますが私は結構好きでしたよ。最終回を観終わった後、思わず以下のような妄想をしてしまいました。
注)多少StSのネタばれあり
それは大きな出会いでした。
私を預かってくれた仮初のママは、とても優しい人でした。
ママの周りも、とても温かい人たちばかりでした。
私が攫われた時は、ママは助けに来てくれた。
私が暴走した時も、ママは私を止めてくれた。
そして、本当のママになってくれた。
ママはとても優しくて、とても強くて、とても温かい人。
私に家族というものを教えてくれた、私の大切な人。
だから、あこがれた。
いつか、ママのような立派な魔導師になってみせる。
魔法少女リリカルヴィヴィオ、始まります。
……みたいな感じになりませんかね、四期。テーマは「魔法少女、育ちました」で、ぜひ。
今、高町ヴィヴィオ9歳の覇王伝説が幕を開ける!
では、レス返しです。
○wataさん
>その少女が妹だと気づいたらどうなるんだか
いろいろと複雑な気持ちになるでしょうね、きっと。
>ブラドー編は次で終わる見たいですがどうなるか楽しみです。
ブラドー島編は終わりですがブラドーの活躍はまだまだ続きます。
○DOMさん
>こんなところで『桃放浪(迷子)イタリアの旅』の一部が(汗
今回も少し出てきました『桃小学校編〜イタリア道中記〜』。どの辺で外伝を入れるか検討中です。
>アシュ●ロス、勘●朗とかが!
『蝶』ネタって素晴らしいと思いませんか? パ○ヨン大好きです。
○黒野鈴さん
>「ブチマケロ」のお姉さんかな?
そうですね。性格は「ブチマケロ」のお姉さん似ですかね。
>横島のレベルアップにそんな苦労が有ったなんて!
家族全員一般人の領域を超えているので彼も強くならざるを得なかったのです。
○556さん
>ブラドー・・・おぉブラドー!
ちなみにブラドーはサーフィンできません。泳げないので。
○ZEROSさん
>何気に有能になってる横島に乾杯。
有能になっても性格がアレですから、能力を生かし切れていません。
>まぁ、やっぱりやられるわけですが。
最後までうまくいく横島君なんて横島君じゃないでしょう。○びたくんが最後に秘密道具で痛い目に遭うのと同じくらい自明の理です。