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「魔神の後継者 第三十九話(GS+オリジナル)」

アイク (2007-09-25 22:44/2007-10-06 12:10)
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―第三十九話 警戒 ―

六道の臨海学校から事務所へと戻った翌日。この日はおキヌ達3人も学校は休みで美神も休む事にした日。
シロもこの日は横島を散歩に誘う事を我慢した為、穏やかな朝を迎える事務所の面々。
おキヌの作る遅めの朝食を終えた頃だ。穏やかな事務所に波乱を内包した客が来たのは。

「久しぶりね。横島クン」

「隊長・・・お久しぶりです」

来たのは美神令子の母、オカルトGメン日本支部支部長美神美智恵だ。
横島はにこやかに挨拶する美智恵に違和感と、何かを感じる。だが、自身のそんな感情を一切見せずに挨拶を返す。

「・・・随分雰囲気が変わったわね」

「まあ、イロイロ有りましたから」

少し微笑みながらそう言う美智恵に横島は苦笑いし、そう答える。
双方共に笑顔の裏に何を隠し持っているのだろうか。何かを隠し持っているという事はシロでも感じさせる。
取りあえずと言うべきか、皆で依頼を聞く為の応接間へと移動した。

「お茶が入りましたよ〜」

「で、ママ。何の用?」

一歩間違えれば重い話題に転化しそうな空気の中、おキヌは笑顔でお茶を出す。
おキヌも危険な何かを感じており、それでも笑顔を見せる。
一息ついた後に令子はそう切り出した。美智恵は一瞬だけ横島の方を見、口を開こうとする。

「美神さん。ちょっと出かけてきます」

「そう。じゃあコレを持って行きなさい」

美智恵が何かを言う前に横島はそう言う。出て行こうと席を立った横島に美神は黒い小さな長方形の物を投げ渡す。
ソレは携帯電話だった。美智恵は少し驚いた様に目を少し見開く。

「先生。拙者も・・・」

「止めなさいよバカ犬。ねえヨコシマ、一人で行くんでしょう?」

「・・・すまないな」

横島を心配してついて行こうとするシロを止め、そう断定するかの様に言うタマモ。
2匹とも何故横島が出て行くのかを理解している為の行動だ。
2匹に小さく謝った横島は後は何も言わずに出て行った。横島が出て行き、事務所内の空気が重くなるのは必然だ。
沈黙に支配される事務所。

「・・・もう一度聞くけど、何の用?」

「・・・・・・横島クンの事よ・・・先生から聞いたわ」

再びそう切り出したのは令子だった。令子の問いに神妙な表情で重い口を開ける美智恵。
そう口にした瞬間、シロとおキヌの体がまるで電気が流れたかのように跳ねた。
タマモの美智恵を見る目が冷めたモノになり、令子は母が次に何を言うのか見当をつける。

「横島クンが危険だ。だからあまり係わらない方が良いなんて言うの?」

「・・・そうとって貰っても構わないわ」

令子は行き着いた答えを少し軽めに言い、美智恵はその一言を肯定した刹那、
事務所の空気が重い上に冷めたモノが加わる。シロが激昂する前に、憤怒を表に出す者がいた。

「・・・ふざけているんですか?」

おキヌだった。
おキヌはその目に怒りと殺意で妖しく輝かせ、美智恵を睨みつけながらそう口にする。
まるで口から放たれた言葉は冷気。眼差しも限りなく冷たい。
何時もの太陽の様に優しげに微笑む姿は、今の姿からは微塵も感じさせない。
おキヌの豹変ぶりに驚愕する美智恵。令子とシロ、タマモも同じく驚きはしたが、どこか納得してしまう。
おキヌが横島を思い、本気で怒っている事を感じたのだ。
激昂したシロだったが、おキヌが怒りを表せば、不思議と自身が冷静になるのを感じる。
コレはタマモと令子も同じだった。

「もう一度聞きます。ふざけているんですか?」

「・・・いいえ。本気よ」

そんなおキヌに対し、美智恵は冷静にそう言う。
おキヌは能面の様な顔に冷淡な氷の様な笑みを浮かべた。美智恵も威圧感を感じさせる視線をおキヌに向ける。
交差する視線。
何時実力行使になっても可笑しくは無い雰囲気だ。

「何故ですか?」

「危険だからよ。今はまだ良くても、完全に魔族化すれば変わる可能性が高いの。殺戮と破壊の権化になるのよ」

おキヌはゆっくりと問う。
美智恵は変わったのは横島だけではないと内心思いながら、恐怖を思い出しながらそう口にする。
美智恵の脳裏には以前横島が破壊した実験施設惨劇が思い浮かぶ。
オカルトGメンが彼の地に足を踏み入れた時、選りすぐりの調査団の大半が吐いた。
神族、魔族、人間。合同調査団であったが、人間以外に神族すら吐く者もいるほどの惨劇。
そこには、適度に腐敗が始まったモノが山積みであり、地下にはそれ以上の惨劇が広がっているだろう。
地上では常人では考えられない力で引き裂かれ、
霊気、又は魔力の炎がその身を焼き、霊波刀で斬り殺された人であったモノが有り、
瓦礫を撤去して地下へと進めば紅い海。血で出来た海が広がっていた。
魔族は魔界のごく一部並に凄惨な光景に驚嘆の声を洩らす程だ。適度に漂う濃厚な血の匂いと腐敗臭が印象的だ。
更に、その様な惨状だというのに悪霊が一体も出ないのが余計に気味を悪くさせる。
調査団に参加した人間はまるでそこが地獄だと思った。
その現場に行った美智恵はコレを作り出した人物。横島忠夫を危険と判断する事となったのだ。

「じゃあ、私やシロはどうなのよ。私は金毛白面九尾の妖狐の転生体、シロはフェンリルの末裔・・・
 こう言っちゃあなんだけど、私達も危険じゃないの?」

「そうでござるな」

美智恵の言い様に反応したのはシロとタマモだった。
タマモとシロは自分達がが人間からして恐怖の対象となりえる事を承知している。
その為、美智恵の言った事が不自然に感じられたのだ。美智恵はタマモの問いに答える前にお茶を一口飲みこむ。

「確かに貴女達も人を殺せる力を持っているわ。けど、実際に人を殺した事が有る?
 タマモちゃんも前世は兎も角、今は無いでしょう?」

この言葉にシロとタマモは詰る。実際に彼女達にはそんな経験は無い。
そして、タマモも美智恵が言った様に現世ではその様な経験無かった。
だが、ふと気付く。美智恵の言い様。そこから行き着く答えは1つだ。

「先生は・・・横島先生は有るのでござるか?」

シロは恐る恐るそう聞く。シロは横島がまだ情けないバカだった頃を知っている。
その為に、イコールで横島が人を殺した事が有る事に繋がらないのだ。
シロの問いに答える様に、おキヌと美神親子は首を縦に振った。

「いろいろ有ったのよ・・・」

「いろいろ・・・でござるか・・・・・・」

傍観者に徹していた令子が何が有ったのか思い出し、怒りを内包した目でそうシロに告げる。
おキヌはそんな令子に何も言わず、美智恵を見ているだけだ。

「兎に角、横島クンは人を殺したのよ。
 1人2人じゃない・・・最低でも3桁を超え、4桁に近い数の人間を惨殺したの」

「・・・だから、横島さんが怖いとでも?」

美智恵は無意識に右手が震えていた。それに気付いたおキヌは美智恵に向かって、何の感慨も無く聞く。
その視線と声音には黙秘は許さないという強い色が有った。
美神達も美智恵の次の一声に注目するかのように見、何も言わずに待つ。

「・・・・・・・・・そうよ」

長い沈黙の後に、美智恵は肯定した。人が未知の者に対して恐怖するのは自然な事。
故に、美智恵の恐怖は有る意味正しい。
だが、正しかろうとも何だろうとも、おキヌは許容する気は無い。

「・・・ママの気持ちは分かるわ。あの調査結果と証拠写真、私も見たから」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

令子はそう言って目を瞑り、お茶を飲む。彼女も思い出す。
横島とおキヌが自分の側からいなくなった時の事を。独りぼっち。心が酷く寒かった事を。
だが、令子は美智恵の恐怖を完全に理解は出来ないだろう。それほど横島の生み出した惨劇は度を過ぎているのだ。

「でもね。私は横島クンが好きなの。
 まだなりきっていないけど、横島クンが魔族になってもこの気持ちを変える気は無いのよ」

目を開け、真直ぐに美智恵に言う令子。
その目には一時の迷いでそんな事を言ったのではなく、心からそう思っていると伝える。
自信を持って言う愛の告白に、美智恵の目は大きく開かれた。

「だから、私は負けるつもりは無いわ。例えおキヌちゃん、シロ、タマモが相手でもね」

「私も負けませんから」

「拙者も」

「金毛白面九尾をなめないでよね」

笑顔でおキヌ達に宣言する令子。対する3人も笑みを持って返す。
美智恵は令子の輝かんばかりの笑顔に何も言えなくなってしまった。

(そう・・・横島クンの中に消えたあのコにも・・・・・・)

(横島さんに消えたあの人にも・・・)

決意のある令子とおキヌの瞳。同じ事を考えているなど誰も分からないだろうが思っていた。
2人はルシオラを産む気だ。ルシオラが既に横島の体の中にはいないと知ればどうなるだろうか。

「・・・素直になる事にしたのね。令子」

「ママ?」

そんな中、美智恵は少し泣きそうな声音でそう言い、令子は何故母がそんな声音そんな事を言うのか分からず、
少し不思議そうな目で美智恵を見た。

(恋する乙女は最強か・・・盲目とも言うけど、令子は本気・・・・・・・・・少し羨ましいわ。横島クン。
 こんなに令子に愛されている貴方が)

そう思う美智恵の顔に笑みが戻る。どうやら心を包んでいた恐怖は緩和されたかの様だ。

「令子。そこまで言うなら私はもう止めないわ。けど、横島クンの残虐性を頭の片隅にでも良いから残しておいてね」

「ママ・・・」

美智恵は令子の思いを全てではないが認めるも、横島への恐怖は緩和されたとはいえ未だ残っている。
娘の思いを尊重はするが、それでも心配な母はそう言うしかない。
令子がどんな顔をすれば良いのか考えている中、おキヌは横島に電話をかける。
続くコール音。繋がらない。おキヌは何も言わずに受話器を置いた。

「美神さん。横島さんと電話が繋がりません」

「そう。じゃあ、迎えに行ってきて。横島クンに持たせたケイタイには発信機を埋め込んでいたから」

「・・・GPS付きじゃなくて発信機ですか」

「まあね」

おキヌは(美神さんらしい)と思い、小さく笑みを洩らして出て行く。元の状態に戻った様だ。
シロとタマモはついて行かず、令子を見ている。

「どうしたのよ」

「先生はどれほどの人を殺したのでござるか?」

シロは真剣な表情で令子に問う。タマモもシロ同様真面目な顔で美智恵を見ていた。
令子は小さく溜め息を吐き、右手でコメカミを擦る。

「知らない方が幸せよ」

「私達、特に私はヨコシマの事を全然知らないわ。私達にも知る権利は有る筈よ」

美智恵は静かにそう言うも、シロとタマモの決意は込められていた目は純粋でいて美しい。
その純真さは、愛おしい人の負の部分まで全て愛する思いが自然に伝わる。

「・・・後悔は無いわね?」

そう聞く声音は確認よりも脅迫に近い。それを聞けば退くという選択肢は強制的に消される。
だが、2人は最初から退く気はない為何の関係も無い。2人は力強く頷いた。


一方先に外へ出ていた横島は自身を見る2対の視線に気付いていた。
1つは監視の色が強く、もう1つは何故か強い固執の様な感じがするモノだ。

(さて、ここは・・・)

横島はごく自然な足取りで監視している様な視線を送る方へと進む。
何気なくポケットに手を突っ込み、ケイタイの電源を切りながら。

横島が到着したのは高層ビルの屋上だ。強い風が横島の髪を揺らし、
両手をポケットに突っ込んだまま景色を見ている。

「で?俺になんの用だ?」

振り向き、目的の人物へと目を向ける。横島が視線の先、避雷針の先端には黒い影がいた。
黒いボロボロのローブを纏い、白い髑髏の顔。血の様に紅い涙の線が目尻から縦に有る。

『ソレはヌシ自身が知っているだろう』

その人物。死神は横島にしか聞こえない様に直接頭に聞こえる念話を使用した。
死神の見定める様な感じに横島は何も言わない。
何も無い髑髏の左目に、紅い光が眼球の様に感じさせるかのごとく灯る。非常に不気味だ。

「俺自身の事に関してはどうでも良いんだよ」

『かの魂の影響で大きく変わろうともか?』

横島は少し唇の端を吊り上げ、小さく笑みを見せる。そんな横島に死神は重々しく問う。
死神は魂に関してはプロである。さらに魂に関しては神界最高指導者から調査を任される程優秀だ。
神界最高指導者はヒャクメの調査報告書を鵜呑みにする気は無い。
その調査に選ばれたのが死神だった。
天使では悪魔(魔族)に対する見る目は厳しく、偏見する可能性が有る。それを考慮しての人選だ。

「ああ。いくら変わっても俺は俺だ。性格が多少変わったモノと思えば問題ない」

死神の重々しい言い様に対して横島は断言する。
自身を蔑ろにしている様な言い様だが、自身に対してそう言える程己の変化を受け入れた結果だ。

『・・・聞きたい事が有る』

「なんだ?」

死神は何か考え込む様に黙り、暫らくすればそう口を開いた。
横島は死神が自身にとって言うべきではないと判断するモノ以外答える気だ。
何故なら横島は死神が自身の調査に来たのだと考えている。
少しは協力的な姿勢を見せなければ、神界のブラックリストに載る可能性を考えているのだ。

『ヌシは人をあれ程簡単に殺し、その反面、何故少女を救った?』

「・・・殺した方はあの施設にいた連中、助けたのは六道の生徒達か?」

『そう取ってもらっても構わん』

死神の問いは横島にとって少し考える必要を考えさせる。少女が誰を指しているのか分からないからだ。
死神が言う少女はおキヌを指しているのだが、横島には分かるはずも無い。
一方死神は横島が慈悲を持っているのか確認できると考え、肯定する。

「そうだな・・・先ずは助けたとか言う方だが、俺は六道の生徒全体としては助けたつもりはない。
 だが、あの時俺が奴等を殺さないとおキヌちゃんや美神さん、シロ、タマモは死んでいた。
 俺には彼女達を死なせる気は毛頭無い」

そう言う横島に死神は何も言わない。空洞である左目の部分に眼球の様に灯った紅い光で横島を見ている。

「そして、殺した方だが・・・まあ、精神状態も関係しているが・・・・・・
 一番大きかったのはおキヌちゃんが殺された事かな?」

『それは魔族化の影響ではないのか?』

横島の何気ない様に感じさせる言い方に死神はそう思う原因を考える。
神界のヒャクメを含む調査員達の報告書には横島の魔族化はおキヌが目の前で殺された時に始まったとされている。
その為にそう言ったのだ。

「影響だけなら攫われる前にも有った」

『・・・なに?』

故に横島の言った事は死神には予想外でそう聞き返すしかない。
死神の視線に横島は答える為に少し息を吐く。

「俺が人間を初めて殺したのはおキヌちゃんの居場所の手がかりを掴んだ時だ。
 俺はその男達を何の感慨も無く殺した。いや、おキヌちゃんの手がかりに驚喜していたかもしれない」

『・・・人を殺した事に後悔は有るか?』

目を瞑り、横島は思い出すようにそう言う。死神は最後の確認とすべくそう聞いた。
すると横島は静かに目を開け、口の端を少し吊り上げた小さい笑みを見せる。

「有ると思うか・・・?」

そういう横島の目にはその様なモノは一切無かった。死神は思う。
横島にとって大切なのは仲間であり、敵はただの肉で出来た人型でしかない様だ。

「で?俺の品定めは終わった事で・・・本題は何だ」

死神は何も言わない。実際にもう1つ自身のすべき仕事が有るのだ。
そして、それを言うか言わないか判断する為にも横島の問答は貴重だった。

『・・・ヌシが護ろうとしている少女。氷室キヌ。彼女の魂は限界に近づいている』

死神が口にした一言に横島は大きく目を見開き、驚愕の色を見せた。


―後書き―
祝・大学合格!非常に開放感を味わってます。

美智恵さん。横島警戒中と令子宣戦布告。
そして死神さんが登場。おキヌちゃんに何が有るのかは次回をお楽しみに。


〜レス返し〜
・林様
 彼方のご指摘、非常に助かりました。ありがとうございました。

・DOM様
 治療方法は桃色で済んだら良い方になるかもしれません。
 獣するのはもう少し待って下さい。十話以内には。そう考えているので。

 彼女がどのような行動に出るのかは私自身分かりません。

・ソウシ様
 生徒達ですか・・・まあ、考えときます。

・February様
 毎度の事ながら誤字の指摘、ありがとうございます。

 ダ女神様は責任問題で生け贄にされるかもしれません。

・内海一弘様
 横島にとっては余り良くない事が多発してます。問題は増える一方かもしれません。

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