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「想い託す可能性へ 〜 じゅうく 〜(前編)」

月夜 (2007-09-24 22:39)
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 ※ぬるいとは思いますが、局部表現等があるので十八禁です。男女の絡みはありません。


      思い託す可能性へ 〜じゅうく〜(前編)


 老師の結界の中で朝が来た。一番早く起きたのは、なんとパピリオである。

 ここ最近のパピリオは、老師のゲームの相手をする為に彼と一緒に寝起きするのが常となっていた。まぁ今回はゲームどころではないので、ある事情によって老師が強制的に寝かせていたのであるが。

 「うに? なんか記憶が曖昧です。私はどうしたんだっけ?」

 寝惚け眼できょろきょろと周りを見渡すパピリオ。その目が瞑想をしている老師を捉えた。

 瞑想をする老師の傍らには、なんとも機能が判り難い物体が置いてあった。強いて言うならば、小さい穴の開いた小箱というところか。 なんに使う物だろう?

 ただその小箱の周りには、葉書サイズの紙切れが数枚散らばっていた。

 「サルじいちゃん? あれ? 確かヨコシマが美神の料理を食べて、お風呂に一緒に入って……あれ? その後の記憶が無いです。 あれ?」

 老師を確認したパピリオは、なぜ自分が老師と同じ部屋で寝ていたのか疑問に思って昨夜からの記憶を掘り起こすも、ヨコシマと風呂に入った後の記憶が全く無い事に思考が停止した。

 ちなみに今のパピリオの身長は、だいたい中学二年生くらいの平均値だろうか。真っ平だった彼女の胸は、ブラが必要になるくらいには膨らんでいた。

 サイズはせいぜい…がふっ! 

 「要らん事言うな! 私にはまだまだ未来があるのです!!」

 虚空に向かって枕を投げた姿勢で、パピリオは強い調子で叫ぶ。

 「なんじゃ、騒がしい。どうかしたかパピリオ?」

 パピリオの騒がしさに老師は瞑想を解いて、彼女に尋ねた。ただ、小箱の周りに散らばった葉書サイズの紙切れを、そそくさと懐に収めるという怪しい行動をしていたが。 もしかして?

 「なんでもないです。それよりサルじいちゃん。なんでパピはここで寝てたですか? せっかくヨコシマと一緒に寝れると思ってたのに」

 パピリオは、老師の問いかけに素っ気無くなんでもない事と答えたが、ヨコシマの所ではなく自分がなぜ老師の所で寝かされていたのかと、逆に老師に詰め寄った。

 老師が隠した数枚の紙切れに、彼女は気付いていないようだ。

 「ほっ。そういきり立つでない。夫婦の逢瀬を邪魔するものでもなかろう?(小竜姫の事は言えぬしのぅ)」

 昨夜の小竜姫の事などおくびにも出さず、パピリオに詰め寄られた老師は顎鬚を扱きながら彼女を諭す。

 「うぅ……。これが最後かもしれないのに〜」

 老師の言い分も判らぬでは無いが、何時になるかは決まってはいないけれど、魔界行きが決定しているパピリオには忠夫と一緒に過せるチャンスが少ないので大いに悔しがった。

 その悔しがる姿は、袖口を噛みしめて地団太を踏むという物で、まだまだお子様であった。

 「おぉ、そうであったな。すまぬな。(許せパピリオ。おヌシはゲーム仲魔じゃが、小竜姫は弟子であるのでな)」

 悔しがるパピリオの様子にほんの少しの罪悪感が老師の胸によぎったが、彼は懐に収めた数枚の紙切れを思い浮かべながら彼女に謝った。

 「まぁ良いです。ヨコシマ達を起こしてくるですよ」

 地団太を踏んでいたパピリオだったが、こうしている時間ももったいないのでヨコシマ達を起こしに老師の部屋を出て行ってしまった。

 (やれやれ。どうにかしてパピリオの処遇を、あヤツの有利な条件で魔界と交渉せぬとのぅ。 ほっ、好く撮れておるわいっ)

 パピリオがあっという間に飛び出していった障子を見ながら老師は内心で呟き、懐から先ほど隠した数枚の紙切れを眺めて相好を崩す。

 その数枚の紙切れには、昨夜の小竜姫の痴態が余すところ無く写しだされていた!

 まだまだ彼は枯れていないらしい。


 さて、現在の結界内の部屋構成では、老師の部屋から忠夫達が寝ている部屋に行くには、必ず小竜姫の部屋の前を通らなければならないようになっていた。

 
 トタタタタタタタタタタタタタ


 パピリオは軽快な音を廊下に響かせながら、忠夫達の寝ている部屋へと走っていく。

 彼女は飛べるのになぜ空中を飛ばないかというと、老師から足を使わないと身長が伸びないからだと言われている為だ。

 どうもこの辺の理由は未だ定かにはされていないが、空を飛べる者が幼い頃からずっと飛んでいると何故か身長が伸びないのだ。

 これは神界も魔界も一緒で、地に足をついて歩くことや走ることをしている者は、それをしない者よりも総じて背が伸びる傾向にあった。ま、種族的な限界値はあるとしてもだが。

 現にパピリオは、老師に言われるまですぐ近くに行くにしても空中を飛んでいた時期は、背がいっこうに伸びなかったのである。

 最初は半信半疑だったパピリオも、一ヶ月経つ頃には身長が三センチも伸びた事によってそれ以来、空中を飛ぶのは極力控えていた。

 「う…ぁん……横島さん……。   はぇ? なにごとれすか……?」

 パピリオの走る音に目が覚めたのか、寝惚け眼で小竜姫が起きだす。

 先ほどまで寝ていた彼女の寝姿は、薄い生地によって肢体の輪郭が透けて見える桃色の襦袢に青と白の横縞模様のショーツであった。

 その襦袢も起きて障子に向けて振り向いた時に、帯が解けていた袷目(あわせめ)が肌蹴て桜色の突起に引っ掛かり、彼女の白く艶(なまめ)かしい肌が、忠夫曰く意外と手に余る大きさの胸の谷間から太ももまでをも露になっている。

 小竜姫は昨夜の騒動のあとに身を清めてから着替えを済ませると、精神的な疲れもあって掛け布団を抱きしめて太腿をすり合せながら丸くなって寝ていた。

 睡眠時間が短く、しかも眠りも浅かった為に、ちょっとした刺激でも小竜姫は起きてしまったようだ。

 横島の名を呼びながら太腿をすり合わせていた彼女が、夢の中で彼に何をされていたのか激しく知りたいところである。


 トタタタタタタタタタタタ  スパーンッ!


 「ヨコシマー、起きるですよっ!」

 パピリオは、忠夫が寝ている部屋の障子をノックもせずに思い切り力任せに開けて、障子の桟が柱にぶつかる小気味良い音を辺りに響き渡らせ、

 「ほぁ!?」

 目に飛び込んできた光景に凍りついた。

 忠夫が<拒>の文珠によって張っていた結界はとうの昔に効果が消えていて、パピリオを阻む物は何も無かった。

 そのせいでパピリオは目撃してしまった。忠夫と令子が全裸で抱き合って寝ている現場を!

 忠夫の左二の腕を枕にして令子はピッタリと彼に抱きついて寝ていて、時々寝息とは思えぬ熱い吐息を彼の首筋に吹きかけており、彼女の豊潤な二つの果実は彼の左わき腹に押し付けられて形を変えていた。

 掛け布団に隠れて見えないが、布団に浮き上がったシルエットから令子の長い足は、忠夫の左足に絡み付かせているようだ。 あれ? 彼女らの寝姿には何か足りないような……?

 で、抱き付かれている忠夫はというと、彼の右手は令子の左豊乳を親指と薬指と小指でやわこく揉みながら、人差し指と中指では乳の頂を挟みこんで擦っていた。

 多分忠夫の無意識の愛撫のせいだろう。令子は眠っているのにもかかわらず頬を赤く染めて、少し鼻息が荒くなっていた。

 無意識で女体を弄る忠夫が凄いのか、そこまでされているのに彼にしっかとしがみ付き身を寄せて離れない令子が甘えん坊なのか。

 「な な な 何をしてるでちゅかー!!」

 そんな忠夫と令子の様子に、驚愕から覚めたパピリオは大音声で叫び、部屋の中に響き渡った!

 「な なんだー!? うぎゃ!」  どこかでグリュっと音がした。

 「あくぅ…な なに!?」

 パピリオの大声に驚いた忠夫は思わず右手に力を入れて握ってしまい、その痛みとパピリオの大声で令子は思わず身体を跳ね起こした。


 ビィイイインンン!!


 令子が跳ね起きた為に、彼女の太腿で抑え付けられていた忠夫の如意棒が元気に跳ね起きた……。足りないと思っていた物はこれだったようだ。

 再び静けさが部屋を支配する。

 「何事ですか!?」

 そこへ間が悪いことに小竜姫が部屋に飛び込んできた!

 「しょ しょ しょう しょうりゅうきぃ〜」

 ある一点を見つめながらパピリオは、無意識に新たにやってきた竜女神様に舌足らずに呼びかける。その声は、今にも泣きだしそうなほどに震えていた。

 「どうしたのです、パピリオ!? ヒィッ!!」

 パピリオに呼びかけられた小竜姫は、尋常じゃない彼女の様子に近くによって彼女が見つめる先を見て悲鳴を上げるとパピリオに抱きつく。

 雄々しくそそり立つ忠夫の如意棒に、小竜姫とパピリオは驚愕の眼差しで見つめながら仲良く抱き合って固まった。

 その凶悪な姿に小竜姫とパピリオは、目が離せない。長さは二十センチは超えているだろうか。最も幅が広い所はエラが張っている所と先端から四分の一辺りから下の竿の部分で、直径は六センチを軽く超えていた。

 しかも、所々に静脈が太く浮き上がっていて凹凸を形作っているのが、彼の如意棒の凶悪さに拍車をかけていた。

 「なんだって言うのよ……」

 掛け布団を身体に手繰り寄せて巻きつけた令子は、顔を真っ赤にしながらも小竜姫とパピリオの様子を冷やかに見てポツリと呟いた。

 人の寝所に押し入って、男の生理現象を目の当たりにして固まる彼女達に令子は怒りを覚えていたのだが、彼女達がなぜ固まっているのか寝惚けていた令子には判っていなかった。

 「な なにって あ アレ……」

 震える指先で忠夫の如意棒を指差す小竜姫。彼女の視線は、如意棒と忠夫の顔を行ったりきたりさせていた。

 ちなみに、忠夫がどうして小竜姫達に反応していないかというと……令子が跳ね起きた時に彼女の膝が彼の大事な所を抉り込んだので、泡を吹きながら白目を向いていたのだ。 憐れな。

 「これ? (ピンッ)「うがっ」」

 忠夫の如意棒を指で弾く令子。

 今となっては記憶の中だけとはいえ、七年以上も見慣れた物だ。扱いもそれなりのものだった。

 忠夫主導で羞恥責めされた時は、それはもう弱々しくもおねだりするほどに乱れるのに、自分が周りより優位だと感じると、とたんに冷静になる令子。

 それでも恥ずかしさはあるのだろう、顔は真っ赤なままだ。

 「うっさいっ!」

 「どうしたのです?」

 令子の地の文への突っ込みに我に返った小竜姫は、おずおずと令子に尋ねた。

 「なんでもないわ。それより二人とも。私達着替えるから、部屋を出てくんない?」

 「す すす すみません! ぱ ぱぴりお、出ますよ!」

 令子に冷めた目で見られながら退去勧告を受けた小竜姫は、声を裏返させながらも固まったままのパピリオを引きずって部屋を出ていった。

 (たくっ。こんなんで驚いていたら身が保たないわよ、小竜姫)

 未だ雄々しくそそり立つ如意棒をつんつんしながら、令子は昨日の風呂場での小竜姫を思い出して嘆息した。

 令子の脳裏に、自らが忠夫に体験させられた数々の濡れ場がよぎる。今の小竜姫が知ったら卒倒物ばかりの記憶だった。

 「やめやめっ! んもう、身体洗わなくっちゃね」

 脳裏に浮かぶピンク色の思い出をぶんぶんと腕を振って追い払うと、令子は自らの身体にこびりつく白濁液の跡などに顔をしかめて着替えを用意する。

 「忠夫は……ま、いっか」

 ゴソゴソと湯浴みの用意を整えた令子は、チラリとまだ気絶している忠夫を一瞥すると放っておく事に決めて、そのまま部屋を出た。

 だけど、部屋を出たすぐそこには、モジモジとしてこちらを伺っていた二柱がまだ居た。

 「何をしているのよ?」

 てっきり逃げてしまったと思っていた令子は、未だに部屋の外で“もじもじそわそわ”としている小竜姫とパピリオを見て不思議そうに尋ねた。

 「い いえっ そのぉ〜〜」

 「あ あのね そのね パピね」

 チラチラと令子が出てきた部屋へと視線を彷徨わせながら、しどろもどろに言葉を紡ごうとする二柱。だけど、自分達が何をどうしたいかなど判っていないようだった。

 「……ふぅ。 とりあえずさ〜、朝餉(あさげ)の用意でもしてたら? 多分あいつは、まだ起きてこないわよ?」

 自分で気絶させたくせに、そんな事はおくびにも出さずに言う令子。

 というより、寝惚けて忠夫の急所に膝蹴りを入れていた事は、彼女の頭に無いようだった。

 「あ は はい そうですねっ。 ぱ ぱぴりお い 行きますよ!」

 「う うん」

 冷静に冷めた視線で令子に言われた小竜姫とパピリオは、片方は泡を食ったように慌てて、もう片方は呆然とした様子で引っ張られながら厨房へと向かった。

 「ふぅ……(前の世界で、最初の時の私はあれより酷いレベルだったんだっけなー。変に優位を保とうとして……。 あ〜ヤメヤメッ! …………)」

 小竜姫達の様子に疲れたような溜め息を吐くと、自分の初めての時が自然に思い出され、再び顔を真っ赤にして今度はブンブン両腕を振ってかき消す令子。

 ハァー ハァー と、荒い息を吐いてチラリと部屋の中をもう一度見る。

 彼女の視線の先には、そそり立つ雄々しい如意棒が一本。

 令子はもう一度嘆息すると、全裸で気絶している忠夫に掛け布団を掛けてやってから、湯殿へと向かっていった。


 バタバタと厨房に逃げてきた小竜姫とパピリオは、先ほどの光景が脳裏に焼きついて離れない。

 「しょ しょうりゅうき? よ よ よーこしまの あ あ アレって……」

 そこまで言ってぼしゅうぅぅっと、真っ赤になって俯くパピリオ。

 (あ あ あん あんな あんなに大きくなるでちゅか! 
 ぱ パピと一緒に入ってる時は、あ あんな〜 風に〜 なってなかったでちゅ〜。
 ゲームでもあんなじゃなかったでちゅ〜)

 二次性徴が始まって、主に老師の“ゲーム”が性教育の手本となっているパピリオは、モザイクが掛かっていた部分の大きさとさっきみた実物の迫力の違いにパニクる。

 おかげで口調も戻って、間延びまでしていた。

 小竜姫は小竜姫で、隣で妄想爆発させていて自分に呼び掛けているパピリオに気付きもしないで、昨夜の忠夫達の情事を思い出してさっき見た物が令子の体内に入っている所まで想像してしまい、更に頭に血が上って血迷っていた。

 具体的には、昨夜に令子が作っていた料理の食材の中で少しでも忠夫の如意棒に似ている物があれば、大小問わずにスパスパと包丁ではなく手刀で斬っては中華鍋にぶち込んでいるのである。

 火力を最大にして、血走った目で朝から強力な精力料理を無意識に作る小竜姫を止める者など、この厨房には存在しなかった。

 そんな二柱の様子を知らない令子は、熱めのお湯で昨夜に付着した様々な汚れを落とし、老師は老師で冷や汗を垂らしながらゲームへと逃げ込んでいた。

 彼は自らが張った結界内の感覚で、どういう物が作られているのか知ったのだろう。

 そんな中、令子に気絶させられた忠夫はというと……

 「カ カンニンや〜 令子〜 俺が悪かったー! うぎゃーっ、神通鞭でシバクのは許してくれー!!」

 気絶から悪夢に移行したようである。ちなみに彼の如意棒は、へにゃっていた事を追記しておく。


 それから暫く経ち、それぞれが身支度を整えて、食堂に集まってきた。

 忠夫は湯上りの令子によって叩き起されてきたようだ。まぁ、その時にまた忠夫が彼女に飛び掛ったのだが、難なく撃墜している辺りに彼女の余裕が戻ってきているのが窺える。

 全員が集まる食堂へも、忠夫の襟首を掴んで引きずってきたくらいだし。

 全員が食卓について忠夫は何か言いたそうにしていたが、令子の肘打ちによって強制的に黙らせられた。

 なぜなら、小竜姫とパピリオは未だに未知との遭遇によるショックから抜けきれていないのか、チラチラと忠夫を見ては俯いて箸を口に運ぶを機械的に繰り返していたからだ。

 自分が何もやっていないのに、一夜明けるとあからさまに自分を避けるような態度になっているのだ。忠夫でなくても問い掛けたくもなるだろう。

 「あー、詳しい事は聞く気はないが……。小竜姫よ、ちとこれは朝から作り過ぎではないかのぅ?」

 食卓に並べられた、昨日の夜に令子が出した料理の数々と変わらない品数に辟易とする老師。

 令子は彼女達の心理状態が手に取るように解る為に、突っ込む事を――下手に突っ込むと薮蛇になりそうだから――しなかったのに老師が切りだしてしまった。

 「うっ……、すみません。気付いたらいつの間にかこんなに作ってしまっていて……。よ 横島さんっ!」

 「ふ ふぁい!? うぐうぐ んぐ……な なんです小竜姫さま?」

 いきなり強く呼び掛けられた忠夫は、手をつけていた料理を飲み込む時だったので、目を白黒させながら何とか飲み込んで小竜姫に顔を向ける。

 「け 今朝の料理はお気に召されたでしょうかっ!」

 テンパっているのが丸判りな態度なのに、本人は当たり障りの無い話題振りと思っていて実は微妙に外している質問をしてしまう小竜姫。

 彼女の表情はそれはもう真っ赤になっていて、自分の作った料理を気に入ってもらえるかと不安そうに瞳を揺らしている。

 (はぁ〜。宿六の食べる様子を見ていれば判るでしょうに……。私もママの前ではこんな感じだったのかなぁー?)

 小竜姫の様子を呆れた様に見る令子は、自分の初めての後にタイミングを見計らったかのように現れた美智恵のニヤニヤ笑いを思い出していた。

 絶対に盗聴器か何かを仕掛けていやがったんだと、令子は確信に近い推測をしている。

 「ええっ、美味いっすよ。朝からこんなに食えるなんて幸せっす」

 満面の笑みで小竜姫に答えて、また食事を再開する忠夫。微妙にこの世界での極貧生活の記憶が混ざっているらしい。

 「そ そうですか。喜んで頂けているようで何よりです。おかわりはいくらでもありますので、どんどん食べて下さい」

 十人前くらいある料理の数々を指し示しながら、小竜姫は次から次へと無くなっていく横島の前にある皿の中身を注ぎ足していく。

 注ぎ足しながら喜んで食べてもらえていると感じた小竜姫は、自らも知らずに笑顔になって喜びを料理と一緒に噛みしめていた。

 その隣でパピリオは沈黙を保ったままだ。

 時々話しかけようとしているがタイミングが掴めずにいて、忠夫とどのように接したら良いのか判らなくなっているらしい。

 (昨日の様子から小竜姫は危ないかとおもったけど、良いガス抜きにはなったようね? でも、今度はパピリオが心配だわ。暴走しなければ良いけど……)

 甲斐甲斐しく忠夫に給仕をする小竜姫を見て令子は当分は心配は無いと考え、その隣で寂しそうな目をしながら顔を真っ赤にして忠夫に話し掛けようとしているパピリオの様子を危惧する。

 その為、昨夜から考えていたパピリオに関する提案をする事を決めた。

 「(ま、とりあえずは外の奴らを何とかしないといけないんだけどね) 老師、ちょっといい?」

 「なんじゃ?」

 令子の問い掛けに、早々に食べ終わってお茶を飲んでいた老師は彼女に顔を向けた。

 何とか話し掛けようと、か細い声で呼び掛けるも忠夫は気付いてくれない。パピリオは自分に気付いてくれない忠夫に、だんだんイライラが募ってきているようだった。

 「外の奴らをあしらうのを、老師に任せて良いかしら? 私と忠夫は、おキヌちゃんの所に急がなくちゃならないのよ。道具も無いしね」

 パピリオの様子に微かな危険信号を感じた令子は、老師に外の奴らを引きつけるように頼みながらパピリオの事をどう話そうかとタイミングを計る。

 「うむ。それは任されよう。あやつら如き、この妙神山で好き勝手はさせぬよ」

 「(そろそろヤバイわね) ありがと。あと、パピリオはどうするの? ここに置いておくと攻撃の的にされそうだけど?」

 パピリオが俯いて身体を震わせるのを視界の端に捉えながら、令子は自分の考えを言う為の呼び水を老師へと向けた。

 「む……。そうよの、美神の言う通りじゃわい。留まらせるも不利、共に行かせるも不味い。これは難しいのぅ」

 令子の言葉に老師はニヤリとしながら、困った口調でそう言う。令子が言外に何を言いたいか、興味を持ったようだ。

 「こっちにまだ魔界からの派遣は来ていないんでしょう? 多分ワルキューレかジーク辺りが来るんだと思うんだけど、どう?」

 「何が言いたいんじゃ? 美神よ」

 老師はパピリオにチラリと一瞬だけ一瞥をくれてから、令子へと問い掛けた。

 「魔界が動く前に神族の跳ねッ返りが動いちゃったんだから、ここは戦力増強の為にもパピリオを私達と同行させて欲しいのよ」

 「ふむ?(なるほど、パピリオの魔界行き阻止を手伝うというわけか。良かろう、乗ってやるわい)」

 「さっきの奴らが老師の言うような者ばっかりなら、忠夫と一緒にパピリオも必ず狙われるわ。
 だったら、ここに残すよりも私達と一緒に行動させた方が良いと思うのよ。
小竜姫と一緒なら、自衛の名目も立つでしょう?」

 「いくつかお主達にも向かうやもしれぬぞ?」

 「それは織り込み済みよ。私の盾と忠夫の文珠、小竜姫にパピリオの戦力が加わればおキヌちゃんと合流する事は出来るし、そうなったらこっちのものよ。
 あそこはサクヤヒメのお膝元。簡単には手出しできる筈も無いわ」

 老師の目を見てこちらの話に乗ってくれると確信した令子は、彼の念押しにも淀みなく答えて最終決定を促した。

 「そうよの……。パピリオは行く気満々のようじゃのぅ」

 令子の提案を聞いたパピリオが目を輝かせているのに、老師は今気付いたとばかりに話を振った。

 「もちろんでちゅ! ヨコシマを守るのは今の私の使命でちゅ!!」

 忠夫が相手にしてくれないと一方的に拗ねて爆発寸前だったパピリオは、令子の提案を聞いてチャンスとばかりに飛びつき声高に主張する。

 口調まで戻っている事に、彼女の興奮の度合いが判ろうというものだ。

 「うむ……。ま、美神の言い分でお題目も立つし、よかろう」

 「やたっ。ヨコシマ、安心するでちゅ。私が守ってあげまちゅよ!」

 老師のお許しにパピリオは文字通り飛び上がって喜び、そのまま忠夫の首に抱きついて宣言した。

 「お おぅ」

 忠夫は戸惑いながらも、パピリオの好きなようにさせた。

 今の彼にとって、パピリオは敵だった時の記憶しかなかったが、変に混ざったこの枝世界の記憶と彼女の心から自分に信頼を寄せる目を見て受け入れた。

 「んじゃ、老師。食休みが済んだら少し身体を動かしたいのよ。付き合ってくれないかしら?」

 「ほう? おぬしがそう言うとは思わなんだ。どういう心境の変化かの?」

 片眉を上げて面白そうに、老師は令子に心変わりの理由を訊いた。

 「大したことじゃないわ。 老師が外の奴らを受け持ってくれるとしても、私達への攻撃が皆無とは行かない筈だもの。
 少しでも今の霊能力を把握しておかないと、戦いの最中に見誤ったら死ぬだけだからよ」

 令子は口調は軽くとも瞳には力を篭めて、老師に理由を語る。

 その傍らで、忠夫は小竜姫とパピリオの絶えることの無い給仕によって、腹が冗談のように膨れ上がっている。まだ顔に赤味があるところを見ると、もう少し余裕はありそうだ。

 彼の体調のシグナルは、忠夫の顔が青くなったら注意信号で白くなると危険信号なのかもしれない。

 パピリオに至っては、満面の笑顔で料理を彼の口に次から次へと運んでいる。

 傍目からは忠夫が“あーん”をしてもらっているように見えるのだが、彼の両腕がバタバタと激しく上下に動いて拒否しているようにも見えるのは気のせいだろうか?

 「ま、よかろう。という事は、横島との連携ということじゃな?」

 「そうよ。宿六に私の新しい能力を把握してもらわないとね」

 「あふぁらひいふぉうふぉく?(新しい能力?)」

 令子の言葉に、目一杯口に料理を詰め込んだリス状態で、忠夫は訝しげに尋ねた。

 決してパピリオの“あーん”を続けられるのを回避したのではない。……多分。

 「汚いわね。飲み込んでから喋りなさいよ。<伝>の文珠であんたも知ったでしょう?」

 忠夫の問い返しに令子は顔を顰めながら、刻水鏡の盾の事よと伝える。

 「ああ、あの何でもはね返したりする反則みたいな盾か」

 令子の言葉に、あんなん絶対に反則だよなーっと、んぐんぐぎょっくんと料理を飲み込んだ後に呟きながら納得した。

 「あんたに反則とは言われたく無いわね」

 最も反則的な能力である文珠を持つ忠夫には言われたくは無いのだろう。令子は軽く忠夫を睨んでから話を続けた。

 「美神さんの新しい能力は、私も興味がありますね。私の霊波砲を時空転移させるほどのものですし」

 話題が戦いの話になって、さっきまで覗きの事や今朝のことで気まずく思っていた小竜姫も、元に戻ったようだ。

 頬を朱に染めて次から次へと食べる事を進める彼女に、忠夫は表情に“出せず”に恐怖していたみたいだし。もちろん表情が出せなかったのは、パピリオの“あーん”による。

 「ワシが作ったこの結界が解けるのは、あと三時間じゃ。三十分後に表に出るがいい。相手をしてやろう」

 そう言って老師は湯飲みを置くと、食堂を出ていった。

 「しかし呆れたわね。あの量を粗方食べきるなんて」

 「いや、なんか凄ぇ腹が減ってたんだよ。もしかして、昨夜の文珠が勝手に出来たのと関係があるのかもな。令子には何も影響は無いのか?」

 食卓に載っていた数々の料理をほとんど食べきった忠夫に、感心半分呆れ半分の口調で令子が言うと、彼は自分の状態を正直に話して彼女の体調にも何か変化は無いかと、今更ながらに心配していた。

 「わたし? そうね……。目立った疲労感は無いわよ。反対に、身体の奥から力が迸るほどに漲っているわね。直ぐにでも動きたいくらいだわ」

 「そうか。んじゃ、軽く身体を動かすか」

 令子の答えに安心したのか、忠夫はおもむろに席を立つと左右に軽く身体を捩りながら彼女を誘った。

 「食休みはいいの?」

 「んな柔じゃ無い事くらい、令子が一番知ってるだろう? 大丈夫さ」

 「ん、分った」

 忠夫の信頼に頬が緩みかけるも、悟らせないくらいに抑えた令子は立ち上がる。

 令子が立ち上がるのを待っていた忠夫は、二人揃って食堂を出ていった。

 「私達もいくですよ」

 そう小竜姫に呼びかけてパピリオも出て行く。

 「あ、えっと……。これ、どうしましょう?」

 残された小竜姫は、すぐについて行きたいと考えたが、目の前にある大量の皿などの食事跡を見過ごす事が出来ないでいた。

 「…………や やっぱり見たいです。浸け置きで良いですよね?」

 しばらく葛藤していた小竜姫は、皿を積み重ねて厨房に急いで持っていくと、甕(かめ)に溜められていた水の中に食器を全部入れて足早に令子達の後を追っていった。


         続く


 こんばんわ月夜です。想い託す可能性へ 〜 じゅうく 〜(前編)を、お届け致します。
 どうもエロに対するタガが外れ気味らしく、文章がそっち方面に流れてしまいがち。このままで良いのかな?
 私の物語は、まだまだ皆さんからレスを頂けない文章のようです。もっと精進せねば。いつもレスをして下さる方々には本当に感謝です。
 誤字・脱字、表現がおかしい所はご指摘下さい。

 レスを頂いた方々へ感謝致します。

 〜はざまさま〜
 初レスありがとうございます。レスがあると、読んで頂けていると実感が持てて不安が減ります。
>たまふるべの起こる相手……
 はざまさまのほぼご推察の通りです。でも、彼女達が忠夫に喜んでもらいたいと思わない限りダメですけど。
>睫をよけながらしゃべるおキヌちゃん……
 ここら辺は、幽霊時代のおキヌちゃんを思い浮かべながら書いてました。彼女の逃げっぷりに萌えて頂き、ヌルヌルにエロスを感じて頂いたようで私としてはガッツポーズです^^ 
>ヤッパリ消えてない黒キヌちゃん
 ぱくっともぐもぐはしませんけど、忠夫しだいじゃどうなるやら。私の書くおキヌちゃんは、あまり黒くはならないかも。それでも、ヒャクメは本当に逆らえなくなっちゃいましたけどね。
>次回の更新を楽しみにしております
 ありがとうございます。ご期待に副えるようがんばります。今回のお話が、お気に召されれば良いですけど。

 〜読石さま〜
 いつもレスをありがとうございます。話の展開を整理する上でも、読石さまのレスは本当に助かります。
>1サクヤヒメの起こし方って……
 この辺はどんどんエスカレートしていった結果なんです。傍目には拷問に見えます。けれど、そこまでしないと女華姫のお肌に効かないのですよ。決して楽しんではいないと……思います。
>2水も滴るいい女の姫さま……
 漢らしいですよねー^^ 普段の仕草が女性じゃない所が、たまの女性らしさを際立たせていますけど^^ 
>3ヒャクメだと横島君に……
 面白キャラとして確立してますからね。先人様の業績は偉大です。ここからどう桃色に持っていくかが、私の腕が試される所ですね。どうやっていじめるかな♪
>4結局名乗れなかった敵さん……
 そ…そんなに気になりますか? 一発ネタの敵だったので、本気で安直な名前になってたんですが(^^;。私はイメージ的には”うしおととら”の血袴を連想してましたけど、うしとらで描かれたほどの格好良さが出せなくて、名前まで良い物が思いつけなかったんです。とりあえず敵の名は”目侍”でした。


 レスをいただけた事に感謝します。

 後編は推敲が残ってますので、一週間ほどお待ち下さい。後編では、老師とバトルです。
 それではレスがありますようにと祈りつつ、失礼します。

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