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「光と影のカプリス 第103話(GS)」

クロト (2007-09-20 19:06/2007-09-23 19:00)
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 タダスケは1人でトロールに飛びかかっていったが、横島とカリンはそれに水を差すのは気が引けた、というか今のタダスケには近づきたくなかったのでとりあえずサポートに回ることにした。
 横島は荷物をかついでいるため格闘は望むべくもないので、シャッターの手前で金縛りの術を準備してタダスケのピンチに備える。カリンは竜の爪を構えていつでも乱入できる姿勢を整えた。
 トロールはタダスケより頭1つ半ほど背が高いが、タダスケが栄光の手を霊波刀に変えれば彼の方が間合いが広くなる。しかしタダスケはそれをせず、何を思ったのか拳を握ったまま殴り合いを挑んだ。
 しかしトロールは小賢しくも、と言うべきか。壷を乗せてあった椅子の脚をつかむと、雄叫びを上げながらタダスケめがけて振り下ろした。

「ああっ、ずりぃ!」

 と横島は敵の卑劣さに目を剥いたが、カリンは同意しなかった。
 トロールが兵器だとすれば、行く先は戦場であろう。殺し合いの場にもそれなりのルールや仁義はあると思うが、トロールが戦う相手は彼らよりはるかに高度な武器を持ってるに決まっているのだ。椅子を棍棒代わりにするくらい可愛いものではないか。
 といってもタダスケを心配する度合いは横島と同じくらいあったのだが、それは杞憂だったようだ。タダスケは豪速で落ちてくる椅子をひょいっとかわすと、そのままトロールの懐に潜りこんでその鳩尾に強烈なパンチを見舞ったのである。

「……! あまり効いていないのか!?」

 カリンから見てもそれは非の打ち所のない、いや自分に放たれたらおそらく一撃で倒されるであろう拳打だったが、トロールはそれをまともに食らったにもかかわらず少しよろめいただけだった。とんでもない耐久力である。
 トロールは粉々になった椅子を捨てると、その右手を開いて横殴りに平手打ちを繰り出した。

「遅いっ!」

 だがタダスケの反応はその上を行っていた。トロールの右手に加速がつく前に、己の左手で叩き落としたのである。
 一連の動作で再び栄光の手のパンチも放っていた辺り、さすがGS歴10年だけあってこうした純然たる格闘にもかなり慣れているようだ。

「おおお……おああああ!!」

 トロールの顔面に埋め込まれた右拳に力がこもり、腕の筋肉が盛り上がってびくびくと震える。

「あーーたたたたたたたたたたた、おあたぁっ!!」

 どこかで聞いたような気合いとともに、無数の残像が見えるほどの拳のラッシュがトロールの上半身全体に叩き込まれる。特に最後の1発に乗せられた霊力は強烈で、巨人は体ごと吹き飛ばされて壁にしたたか背中をぶつけていた。

「す、すげぇ……あ、あれが本気になったタダスケさんなのか?」
「そうだな。なぜあんなに怒っているのかよくわからんが、10年修業したというのはダテじゃないようだ」

 横島とカリンもその凄まじさに驚嘆していた。今まで喜劇的な面が目立っていたが、やはりただのギャグキャラではなかったのだ。
 トロールは傍目にもボコボコで、ぴくりとも動かない。死んだのだろうか?

「経絡秘……もとい、霊的中枢を突いた。おまえは3日間は動けん」

 タダスケが右手の指を突きつけてそんなことを言ったところを見ると、殺したわけではないようだ。憎いのはあくまで茂流田であって、彼らに操られているだけのトロールに罪はないという事だろう。なかなかに立派な心がけである。
 しかしその直後、彼の背後のシャッターが再び下りて閉まってしまった。どうやら茂流田たちはタダスケに恐れをなして、この部屋に閉じ込めてしまうつもりのようだ。もちろん奥に続くシャッターも同様に下ろしてある。
 横島とカリンはまだ部屋の外にいたが、2人にはどうにもならなかった。カリンだけなら壁抜けで入れるが、その後横島が合流する方法はないのだ。

「ああっ、また分断された!? ちくしょー、せめて美神さんの道具が使えれば何とかなるのに」

 令子はこの屋敷が罠だと知っていたから、たぶんリュックの中にはプラスチック爆弾とか手榴弾といった危険アイテムも入っているだろう。こんな事態だから使っても怒られないとは思うが、しかし自分達は監視カメラで見られているのだから、不法な道具を使うのはまずい。

「ふむ……?」

 とカリンもちょっと考えこんでしまった。
 シャッターも壁もモンスターの乱闘に耐えられるよう相当頑丈につくられているみたいだから、いくらタダスケでもそう簡単には破壊できないだろう。さてどうしたものか?
 だがその程度の作戦タイムさえ許さないと言わんばかりに。どこの抜け道をくぐって来たのか、傭兵の一団が2人の背後に現れた。さっきと同じ、サブマシンガンと野戦服などで身を固めた4人組である。

「うわ!? こ、こーなったらタダスケさんとは別行動するしかねーな。カリン、俺が結界張るからその間にタダスケさんにそー伝えてくれ」
「わ、わかった」

 カリンがあわてて上半身だけ壁抜けし、タダスケに敵襲の旨を伝える。その間に傭兵たちはすでに横島たちを射殺する許可を受けたのか、平然と銃を構えて発砲してきた。
 死体に銃創があったら除霊中の事故だとは言い張れないが、おそらくトロールやゾンビ犬などでそれが残らないほどボロボロにするつもりなのだろう。

「マ、マジで撃ってきた!?」

 悪霊や妖怪に襲われるのと人間に銃を撃たれるのとでは恐怖の質が違う。横島は目の幅涙をまき散らしたが、彼の強化結界は本人の認識よりずっと優秀であった。乱射されてきた銃弾を軽くはじいて、逆に跳弾で傭兵たちを困惑させる。
 考えてみればこの結界は、コンクリートの壁すら叩き割る雪之丞の霊波砲すら防いだのだ。銀の弾丸でもない普通の拳銃弾くらい何でもなかった。

「おおっ、俺って結構やる!?」

 と横島が感動している、いや攻撃を引き付けている間に、カリンが壁抜けで傭兵たちの後ろに回って殴り倒す。傭兵たちも格闘術の心得はあるのだが、銃で手がふさがった状態で背後から奇襲されてはなす術もなかった。
 横島がほーっと額の冷や汗をぬぐって、相棒の影法師娘に声をかける。

「カリン、とりあえず外に逃げるぞ!」

 このままここに居座っていてもまた襲われるだけだ。いったん塔の外に出た方がいいだろう。

「わかった!」

 カリンに先導してもらって、急いで今来た通路を逆戻りする。塔の外に出たところで、抱えてもらって空に逃げることにした。
 ただし横島は荷物を背負っているので、カリンにおんぶしてもらうことになるのだが……。

「こっこら横島、む、胸にさわるな! 落ちるのが不安なら肩をつかんでろ」
「だってこの方が霊力上がるからおまえも楽だろ?」
「その分気力が抜ける、というかTPOをわきまえろ! あっこら、そんな揉み方……あんっ」

 そういえばまだ教育的指導をしていなかった。何てことだ!
 ……結局カリンは横島の小指を思い切りひねってセクハラ行為をやめさせた。


「……さて、どうするかな?」

 カリンの注進を聞いたタダスケは単独で茂流田たちの所をめざすことにしたのだが、そのためには奥に続くこのシャッターを破らねばならない。文珠を使えば容易だったが、その向こうには傭兵が銃を持って待ち構えていることだろう。
 しかしここでもたもたしていては部屋の中に妙なガスとか流されかねない。

「仕方ない、そろそろ《防》を使うか」

 とタダスケがまず栄光の手を伸ばして監視カメラを壊した後、ポケットの中の文珠《防》を発動させるとその全身が淡い光芒に包まれた。いつか月に行った時は短時間とはいえヒドラのビームや爪を防いだのだから、守備範囲を自分の体だけに絞ればここにいる連中の攻撃くらいは最後まで耐えられるはずだ。
 そして新しい文珠《脆》を出してシャッターに押し付ける。残りは今起動している《防》と《覗》の他は、脱出用の《帰》1個きりだが、危なくなったらそれこそ《帰》ればいいのだし、行ける所まで行くべきだろう。
 《脆》の効果で特殊合金製のシャッターがガラスのように脆くなる。タダスケはそれを栄光の手で叩き割って、その向こうの廊下に躍りこんだ。

「な、あのシャッターを砕いただと!? どうやって!?」

 タダスケの予想通り廊下で待機していた傭兵たちから見れば、理解しがたい不思議現象である。反射的に引き金をひいたサブマシンガンの弾さえ効かないとなれば尚更だった。

「な、何だこいつは。日本のGSは化け物か!?」
「うるせえ、こっちはストレスたまってるんだ。ぶっ飛ばす!」

 実は場合によっては須狩に《恋》を使おうとも思っていたのだが、それすらフイになったことでタダスケはますます不機嫌になっていた。彼女の場合は文珠を飲ませられるほど近づけるなら普通に人質にすれば済むことなので使っても許される状況は限られてくるのだが、それでも少しはあったチャンスをゼロにされれば腹が立つのは当然である。

「あたたたたっ、ほあたぁ!」

 傭兵たちをあっと言う間になぎ倒しつつ、さらに前進するタダスケ。その様子をモニターで見ていた茂流田と須狩は驚愕した。

「な、何なんだあいつは……本当に人間か?」
「ゴーレムやカマイタチは間に合わないし、そもそも大き過ぎてこの階には入れないわ。どうしましょう」
「やむを得ん……『ガルーダ』を使おう!」

 茂流田が苦渋の表情でそう言うと、須狩は青ざめた顔で反対意見を述べようとして―――仕方ない、といった風にその言葉を飲み込んだ。
 どういうわけかあの男は、自分たちがいる最上階のこの部屋に最適ルートで近づいて来ているのだ。もうためらっている暇はない。令子や横島のことも気になるが、今はタダスケ対策が最優先だった。
 茂流田がキーボードを操作すると、コントロールルーム前の実験場の天井から、人間が入れる程度の大きさの透明なシリンダーが降りてきた。中は泡立つ液体に満たされており、鷲を人型にしたような姿の妖怪が眠っているのが見える。
 これが茂流田たちの切り札、中級魔族クラスの力を誇るバリ・ヒンズーの魔鳥ガルーダだった。まだ試作段階だが、彼らがつくった中では最強のモンスターである。

「あたぁ!」

 タダスケが実験場に通じる扉を栄光の手でぶち破ると同時に、シリンダーが割れてガルーダが床に降り立った。


「な、何だ……!?」

 ここまで一気に突き進んできたタダスケも、突如感じられた桁違いの霊波動には足を止めざるを得なかった。その発生源が8メートルほど先に立っている鳥人間なのは余りにも明白である。
 実験場の東側の壁の一部に降ろされていたシャッターが開き、その奥のガラスの向こうに茂流田がマイクを持って現れた。

「切り札を使わせてもらう! これでゲームオーバーだ!」
「茂流田か!? 待っていろ、ここで決着をつけてやる!」

 何となく話がかみ合ってないようにも思えるが、気にしてはいけない。
 タダスケとしてはここでガルーダの写真を撮って逃走する、という選択肢もあったのだが、負けそうになったわけでもないのに横島とカリンを置いて帰るのは気が引けた。栄光の手を霊波刀に変えて、魔鳥とやり合う体勢を整える。
 ガルーダが跳躍し、その鳥のような脚でタダスケに蹴りかかった。速い。

「ちっ!」

 タダスケは迷わず横に跳び、そのまま転がってかわした。
 ガルーダは防御力はともかく、攻撃力はグーラーやゴーレムを一撃で倒すほど凄まじいのだ。いくら文珠《防》を使っているとはいえ、彼からの攻撃はなるべく避けた方がいいだろう。

「ホアッチャア!」
「こなくそっ!」

 再び跳躍してきたガルーダを、タダスケは蹲ったまま栄光の手を伸ばすことで迎え撃った。ガルーダは魔鳥とはいえ空を飛ぶ能力はないから、空中では避けられないはずだ。
 その顔面を狙った一閃は矢のように鋭かったが、ガルーダはそれを軽く片手で受け止めた。反動で慣性がなくなったためそのまま真下に着地したが、特に痛痒は感じていないように見える。

(つ……強え!!)

 タダスケはこの僅かな立ち合いで、互いの力量の差を察した。
 やはり中級魔族だけあって、パワーではどう逆立ちしてもかないそうにない。スピードやテクニックはまあ張り合えそうだが、それだけではどうしようもなかった。

(文珠使い切っちまったのは痛いな……うおっと!)

 今度は走って襲いかかって来たガルーダに、タダスケは伸ばしたままの栄光の手を横薙ぎに叩きつけてその体を吹き飛ばし―――いや、自分がバランスを崩して転ぶことで何とかかわした。
 タダスケの世界で令子がガルーダを倒せたのは、「無防備だった急所に」「渾身の一撃がまともに決まった」からなのだが、それができたのはゴーレムと雛ガルーダが援護してくれたからである。1対1で戦っているタダスケにそんな隙を見出せるはずがなかった。
 タダスケが押され気味と見た茂流田がようやく表情に余裕を取り戻し、マイクを通してタダスケに話しかける。

「驚いたかね? そいつは我が社の製品で、史上初の『人造魔族』だ!」
「人造魔族だと!? さてはおまえたち、魔族と取引しているのか……?」

 タダスケはこの辺の内幕はむろん全て承知しているのだが、ここは素直に驚いてやるのが自然な反応というものだろう。一応彼も録音機は持っているから、茂流田がこのまま長広舌を続けてくれれば証拠にできるし。

「さすがに勘がいいな。魔族の中に我々の科学技術に興味を持ったヤツがいてね、そいつらとの技術交換で手に入れたのさ。
 名前は確か―――メドーサとか言ってたな」
「メドーサだと……!? おまえら、あんな人類の敵と取引するなんて何を考えてるんだ」

 こちらの世界でも、メドーサは香港で人類が滅びかねないような事件を起こしている。10年前は意識してなかったが、改めて考えてみるとそんな危険人物と協力関係を結ぶなど言語道断の悪事であろう。
 まあ茂流田たちはそこまで知らないのだろうけど……。

「フフッ、まあ蛇の道は蛇ということだよ。ではそろそろ死にたまえ!」
「くそっ!」

 ガルーダが軽快なステップから疾風のようにタダスケの方に近づいてくる。鞭のように振るった栄光の手は跳躍してかわされ、再び飛び蹴りを放ってきた。飛べないとはいえ鳥だけに、飛翔技が好きなのかも知れない。
 しかしタダスケはこの流れは読んでいた。ガルーダの蹴りをぎりぎりでかわすと、彼が体勢を立て直す前にその顔の前で両手をぱんっと拍手する。

「サイキック猫だまし!」
「ホオッ!?」

 ガルーダにとっては威力もなく当たりもしない攻撃なので、つい警戒を怠ってしまった。タダスケの手の間から生まれた眩い光に目を灼かれ、思わず腕で顔を押さえて1歩退く。
 追撃のチャンスだが、タダスケはそうしなかった。ゴキブリのようなフットワークでガルーダから距離を取ると、サイキックソーサーをつくってコントロールルームへと続く扉に投げつけたのだ。
 ドガァン!と爆弾のような音が響き、扉があっさり吹き飛ぶ。

「よっしゃー! あんな怪物まともに相手してられんからな」

 タダスケとしてはガルーダを自分で倒さなくても、茂流田たちの所に行って2人を脅して停止させればそれで済むのだ。
 しかしむろん、茂流田と須狩の方はそんな暴挙を許すわけにはいかない。

「ガルーダ! そいつをこちらに近づけるな!!」
「ホウァッ!」

 扉に駆け寄るタダスケをガルーダが後ろから追いかける。タダスケは扉まで逃げ切れず、いったん横に跳んで避けるしかなかった。
 ガルーダが一瞬前までタダスケがいた所を走り抜けて、破壊された扉の前に立ちふさがる。

「ちくしょう、やっぱり俺1人じゃ無理なのか……?」

 せめて文珠を使えれば何とかなるのだが、《防》や《帰》を書き換えてしまうのはあまりに危険だ。《覗》はもう切れてしまったし、これは打つ手なしか……?
 しかし彼は1人ではなかった。ここに来てようやく、横島とカリンが実験場に到着したのだ。

「待たせたなタダスケ殿、今行くぞ!」
(煩悩全開(凛明Ver)ーーーっ!!)

 カリンがタダスケに声をかけるのと同時に、横島が煩悩全開を発動する。小竜姫はまだ目を覚ましていないのだが、もともとガルーダが現れたら出張る予定だったのだから、このくらいの協力はしてもらってもいいだろう。
 ちなみに横島たちがどうやってここにたどり着いたかというと、空中で別の入り口を探していた時にガルーダの霊波動を感じたため、それを目当てにこの場所を探り当てたというわけだ。途中からはタダスケが通った道を通ったから邪魔もなかったし。
 小竜姫Verだけではガルーダにはパワー負けするのだが、カリンを入れると彼女が戦えなくなるから仕方なかった。

「くっ、こいつらも来たのか! だが逃げなかったのは逆に好都合、3人まとめて始末しろ!」

 と茂流田が新しい命令を出すと同時に、ガルーダがタダスケめがけて飛びかかる。霊圧でいえば彼が1番弱いので、「弱い者」をまず倒して敵の数を減らそうとしたのだろう。
 しかしガルーダがいくら素早いとはいえ、今のカリンから目を離すのはあまりに不用意。

「はああっ!」

 パワーは負けていても、スピードでははるか上を行っている。カリンは床を蹴ると同時に全力で加速し、ガルーダの脇腹に砲弾のようなドロップキックを叩き込んだ。

「ホオッ!?」

 ガルーダが奇声をあげて吹っ飛び、実験場の壁に激突する。
 いくらパワーで勝っていても、横から蹴られれば姿勢が崩れるのは当然だった。しかしこれはガルーダの油断というより、カリンの速さが非常識だったというべきだろう。

「2人とも来てくれたのか! カリンさん、少しだけこいつを頼む!」

 強力な援軍の登場にタダスケが愁眉を開き、再び扉に向かって駆け出す。見たところカリンの霊力は彼自身より上のようなので、足止め役は強い方に譲ったのだ。

「わかった!」

 カリンが素早くガルーダの前に立ちふさがり、その可愛い唇から強烈な炎のブレスを吹きつける。霊力の増幅度に比例して、炎の威力と大きさも段違いになっていた。
 ちなみに横島は入り口のそばで、刺激で目を覚ました小竜姫の喘ぎ声(角モード、念話)を聞きながら妄想にふけっているだけである。不真面目きわまりない態度だが、そうしないと共鳴を維持できないのだから仕方がない。

「クゥゥゥ……!?」

 全身を押し包むような炎を浴びせられて、さすがのガルーダも少しひるんだようだ。あるいは動物の本能として火を恐れたのか、いったん攻撃を止めて横に逃げる。
 その間にタダスケは扉を抜けてコントロールルーム内に飛び込んでいた。

「美女の悲鳴が俺を呼ぶ! 茂流田ァァァ、おまえは長く生きすぎた!」

 またしても物騒な台詞を吐くタダスケだったが、むろん本当に殺す気はない。ちょっと気分を出してみただけである。

「うわあああっ!? ま、待て! 金庫の中へぐあっ!」

 茂流田が何かを言いかけたようだが、タダスケはそれを聞くそぶりも見せずに殴り倒した。八つ当たりというのもあったが、須狩に素直にガルーダを止めさせるため容赦のない所を見せつけたのである。
 実は須狩の方が近くにいたのだが、それでも茂流田の方を殴ったのはまあ男としてごく普遍的な行動であろう。
 栄光の手を霊波刀に変えて、須狩の横から首すじに突きつけた。

「今すぐガルーダを止めろ! さもないと……わかるな!?」

 女性にこんな事をするのはタダスケの趣味ではないのだが、早くしないとカリンがケガをするかも知れない。もっとも須狩は美人だが性格は悪いので、良心の呵責はあまり無かったが。
 須狩もことここに至っては、もはやタダスケの言う通りにするしかなかった。

「わ、わかった、止める! 止めるから殺さないで」

 とキーボードを叩いて、ガルーダを休眠モードに戻す。
 タダスケはガルーダがぱったり倒れて動かなくなったのを確認すると、須狩に当て身を入れて気絶させた。

「はい、お疲れさん……っと。やっと終わったか……!」

 幸いメドーサは居なかったし、あとは横島たちが何とかしてくれるだろう。タダスケははああーっと盛大な吐息をつくと、べったりと尻餅をついてしばしの休息にひたるのだった。


 ―――つづく。

 ようやくタダスケさんの大活躍が書けました。後始末は次回になりますー。
 ちょっと駆け足すぎたかも知れませんねぇ。やはり女っ気のない戦いを長たらしく書く気にならなかったのか<マテ
 カリンが「殺し合いの場にもそれなりのルールや仁義はある」と考えてますが、戦時国際法というものもありますし、実際の行動はとにかくモラルとしては「戦争だから何をやってもいい」わけではないだろうという考えでありますー。
 ではレス返しを。

○晃久さん
 はい、タダスケさんは出るたびに不幸になるのがデフォなんです(酷)。
 早く帰れるといいですねぇ……。

○Tシローさん
>タダスケ
 自分の世界と全く同じだと思ったのが運の尽きでした。お金は出してなかったのが不幸中の幸いですな(ぉ
 決め台詞は救世主なあの方でした。

○KOS-MOSさん
 ガルーダとか雛とかの始末は次回にて。
 横島君がお仕置きを軽減してもらえた分は、タダスケが文珠をさらに使わされることでプラマイゼロになったようです。
 まったく彼には強く生きてほしいものですな(ぉ
>カリン
 濡れてたことがタダスケにバレたら、恥ずかしくて顔合わせられませんものねぇ(^^;

○遊鬼さん
 横島君が冷静だったのは、おそらく1度イったせいで煩悩が落ち着いたからではないかと(笑)。
 小竜姫さまは結局いただけでした。一応煩悩全開の相方にはなったので、居ないよりはマシだったんですがー。
>美神さん
 そうですねぇ、横島君自身がアレを見せてたら色々と怖いコトになってたかも知れませんな。たとえばシバいてくれるとか(ぉ
 原作アシュ編では穏やかでしたけど、ここでは状況が違いますし。
 横島君にお金を出そうとしないのは、彼女に課された宇宙的宿命だと思いますw もちろんそれでは仰る通りカリンとタマモが納得しないので、激しい舌戦が繰り広げられることでしょうけど。
>壺の中身
 タダスケに幸多からんことを祈ってあげて下さい(ノω;)

○風来人さん
 お褒めいただきありがとうございますー。
 魔展開は受け入れて下さる方が多かったので安心しました。タダスケが不幸になってるおかげかも知れませんけど(ぉ
>カリン
 や、ありがとうございますー。
 アレの直後ではさすがにすぐ普通に接するのは無理ですからねぇ(^^;
>美神さんが横島君の再雇用を検討していますが〜〜〜
 小山事務所女性陣とのバトルが怖そうです。
 がんがれおキヌちゃん!?

○ncroさん
 タダスケさんは本気になったら強いのですよー。何しろ原作アフターの横島君が10年も修業積んだんですから。

○tttさん
 あの煩悩は結婚したぐらいでは落ち着けないんでしょうなぁ、きっと。

○紅さん
>さすがは、クロトさん。我々を笑わす壺を心得てらっしゃるw
 ありがとうございますー。壷だけに(以下検閲により削除)。
 タダスケさんは1日も早く帰るべきですよねぇ、本当に。
>忠夫
 次回辺りに教育的指導が実施されるかと。

○内海一弘さん
>経験者のみわかるこの悔しさ!
 そうですねぇ、経験してない横島君が平気な顔してるのとの対比がまた笑いを誘いますな(酷)。
 ウケていただけて良かったですー。

○鋼鉄の騎士さん
 くふふー、タダスケさんは活躍しましたですよ。その代わり文珠がまた無くなっちゃいましたけど!
 死兆星は輝きませんでした。今回は拳○様じゃなかったので(ぉ

○シエンさん
 横島君はアレです、頭悪いというよりは理性が煩悩に百戦百敗してるといいますか(笑)。
>カリン的には霊能力よりも頭を鍛える修行させるのが先かもしんない?
 そうですねぇ、煩悩削っちゃうとGSとして存在価値がなくなっちゃいますしw
>美神さん
 カリンが迎えに行く……のかなぁ、たぶん(ぉ
>きっと幸運の神様が忠夫とタダスケを一人の人間として扱ってるんだ
 は、その通りでございますw
 今回はガルーダとタイマン張らされるという不幸を体験しました。
>『きみが!泣くまで!殴るのを!やめないッ!』
 むしろ北斗っぽく行ってみましたw

○炎さん
>美神さん
 文珠の《援》《護》を見ても「500円じゃ出しすぎ」でしたからねぇ。正社員ならともかく、バイトの横島君に4桁払うのは想像できませんw
>あらぬ事を考えていたタダスケへの天罰だな
 それもあるかも知れませんねぇ。もうどこかの山奥にこもって連絡を絶ってしまった方がいいようなw

○通りすがりのヘタレさん
 グーラーは知能は高いですし、銃で撃たれても平気みたいでしたからそこそこ役に立ちそうですけど、その分だけ捕まえるのは大変だと思うのですよー。最終的にはガルーダみたいに培養するつもりだったのかも知れませんけど。
 それでも雛からでは大変だと思いますが、ガルーダの場合は強いから高く売れて元は取れるのかな?
 でもやっぱりモンスターより、ゴーレムや自衛ジョーみたいな非生物の方が利益上がりそうですなぁ。
>横島君は明日の朝日が拝めないのかも知れないですね
 ヘリから吊るされるくらいの処罰はあっても良さそうですねぇw
>令子女史
 カリンに忘れ去られてなければいいんですがー!<超マテ
>タダスケ
 彼も所詮は横島、ギャグ体質の男ですからねぃ。

○Februaryさん
>超棒読み
 そんなご無体なw
 あの場面は笑っていただければ勝ちです(何の)。
>姫様
 彼女はオペレーションRで知略を見せ付けましたから、むしろその方がバランスが取れるのではないかとw
>自衛ジョーの皆様方は解説する余裕が無かったんでしょう
 そうですねぇ、筆者でもそんなことしなかったでしょうな(ぉ
 しかし女の子の痴態を撮影しろだなんて、そんなバッドガールズ編の横島君みたいなことをww
>「白い煙が噴き上がって中から人影のようなものが現れた」時点で使っていたら
 さすがにそこまで残酷すぎることはできませんでした(^^;

○ロイさん
 タダスケさんのフラグは、グーラーだけでなく須狩のもぽっきり折れました。ひどい話ですねぇ(ぉ
>美神さん
 彼女が横島君に正当な給料を払うなんて(以下略)。

○山瀬竜さん
>魔展開
 やはー、笑っていただけて良かったです。かなりデンジャラスな試みでしたのでー(^^;
 タダスケさんはほんとに早く帰った方がいいですなぁ。
>裏で蛸禿博士と組んだ結果〜〜〜
 はい、原作と条件が違う以上、結果も違ってるのが当然だと思うのであります。
 というかアレは前回のための伏線みたいなものでしたから。
>いつの間に木遁の術なんてものを会得したんだか
 あのひとも何だかんだ言って逃げるの得意ですからねぇ。アシュ編では布に隠れてましたしw

○whiteangelさん
>カリン
 彼女も女の子ですから、濡れてるところを人に見られるなんて論外であります。
>横島クンの不幸がタダスケさんに逝ってるのは
 事実です(酷!)。

○チョーやんさん
 いえ、お気になさらず。素直な感想を書いていただければうれしいですー。
>そこら辺の『匙加減』が難しいですなぁ
 そうなんですよねぇ。横島君も時間があればそれなりに考えるんでしょうけど、むしろとっさの非常識な発想力が彼の強みですからねぇ。
 教育的指導はどの辺までリアルに書くかが問題でありますw
>トロール
 そうそうタダスケさんにいい目は……もとい、読者様の予想通りな展開じゃ面白くありませんからw
>美神さん、小竜姫さま
 怒れるタダスケが強かったおかげで出番なしでした。彼女たち的には別に不幸じゃないのですが。
 令子さんは金にならない戦いは嫌いでしょうし、姫様はあまり活躍しすぎると卒業になりかねませんからw
>そして横島君に活躍の機会はあるのか?(無い方が良いような気が…)
 そんな、そこまで言わなくても(ノω;)

○読石さん
>お仕置き
 カリンはやさしすぎかも知れませんねぇ。もちろん教育的指導はあるわけですがー!
>タダスケさん
 自覚しちゃったらそれはそれで悲しそうですねぇ。南無。

○ばーばろさん
 今回も早すぎたかも知れませぬ。
 お褒めいただきありがとうございますー。横島君の性格というのは簡単なようで難しい所もあるんですが、そう言っていただけると嬉しいです。
>ほんの一歩だけ先を読めば諸手を上げて喜ばせる(主に女性に)ことができるのに
 そんなこと出来たら横島じゃありません!
>カリン
 確かに逝き過ぎではありましたが、別に気持ち良かったから怒らないとか、そんなんでは無いですよ!?(ぉ
>グーラー
 いあ、確かに超斜め下でしたがその代わりに第101話があったわけでしてー。何もそんな筆者を燃やせなんて煽らなくても(逃)。

○冬に咲く雪だるまさん
>これはカリンやタマモと恋人として〜〜〜
 まあ当然でしょうねぇ。
 あれはあくまで令子さんの思惑であって、カリンやタマモの意向までは考えてませんから。小竜姫さまが妙神山へ帰った後で横島君と1対1で話をする、という前提だったものと思われます。
 なので実際にそういう交渉をすればひと悶着起こるのは確実ですな(^^;
>もうひとつ商品化として都合のいい点
 なるほど、確かにそれはありますね。知能が低い上に神魔族ではないとくれば、誰を恐れる必要もありませんし。
 タコ禿魔族は意外と目端が利くやつだったんですな。

   ではまた。

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