――――私、柊飛燕は困っていた。
私は横島兄妹宅のリビングのソファーに座っている。時計を見ると時刻は午前一時になろうとしていた。さすがに女子高生が出歩く時間ではなく、親は心配して探しに出かけたりする時間だろう。普通だったら今頃帰った日にゃあ母親の鉄拳制裁と父親の徹夜の説教のフルコースが待っている。そこ、役割が逆じゃない? なんて聞かない。うちではこれがデフォルトだ。
だが安心したまえ。両親には家を出る時に今日は桃太郎のうちに泊まることを話してある。よって夫婦の連携攻撃を受ける心配はなく、私は目の前の敵に専念することができるのだ。
え、敵とはなにかって? 敵も敵。私は今、道理による説得が通じない最強の敵を相手にしているのだ。
「うぃ〜っ。ひえん〜〜〜のんでるくわぁーー!」
「はいはい、飲んでますよー」
敵の名前は横島桃、現在の属性は酔っ払いだ。リビングの床に腰を下ろしてぐびぐびと一気飲みしている。あ、また空き缶の山をひと缶分大きくした。もう新しいのに手をつけてるし。よく一気飲みなんかできるものだ。私だったら途中でむせる自信がある。
「ごくごくごく……ぷはぁぁ〜〜〜!」
「オヤジくさいぞー。いちおう花の女子高生なんだから」
まるで聞いちゃいないようだが一応注意してみた。あぐらをかいて缶をあおるその姿はオヤジそのもの。ぜひMMMのやつらにこの姿を見せてあげたい。ここにカメラがないのが悔やまれるなあ。彼らがどんな反応をするか楽しみなのに。今度また小型カメラでも作るか?
ちなみに発明品の開発費捻出のために桃太郎の隠し撮り写真を売りさばいたのは中学時代の話だ。けっこういい値で売れていたのだが桃太郎の知るところとなり、あえなく我が秘密購買所はつぶされた。写真はすべて回収され、我が発明品『小型カメラVer.隠し撮り〜あの娘のスカートの中をゲットだぜ〜』は桃太郎によって再生不能にまで破壊された。ほとぼりが冷めるまで桃太郎から逃げ回るつもりだったが、途中で見つかり売り上げを全部没収された。……悪銭身に付かずとはこのことかと思った瞬間だった。
その後桃太郎のお兄さんからカメラの製造法を聞かれたのは言うまでもない。さていくらで売りつけてやるかと考えていたところで後ろの方から殺気がした。どうやら妹は兄の行動をお見通しだったらしく、気配を消して私たちを尾行していたようだ。お兄さんの顔は青ざめていて、たぶん私の顔も似たようなものだったと思う。その後のことはあまり思い出したくない。
もう時効だろうし、また秘密購買所をつくろうかなあ。今ならあの時より高性能かつコンパクトなカメラを作れるし。ドクターからいろんな知識と技術を教授してもらってるからアイデアの浮かぶこと浮かぶこと。おかげでそろそろ懐がさみしくなってきたんだよねえ。
ドクターといえば、マリアに取り付けたアレはうまく作動しているだろうか。アレの結果次第でこれからの開発計画が変わっていくんだけどなあ。ちなみにアレはドクターには内緒で開発してマリアに取り付けました。はっはっはっは、充電の切れたマリアなど赤子の手を捻るようだったわい。アレのせいで多少はマリアの行動に変なところが出るかもしれないけど大丈夫でしょ。外せば元に戻ると思うし、たぶん。にしてもマリアの内部構造はすごかったなあ。解体したくなる衝動を抑えるのが大変でした、はい。
そういえば今は二人ともイタリアに行ってるんだっけ。大口の依頼が入ってしばらく家賃の心配をしなくて済むって喜んでたなあ。むむ、それは困る。おばあちゃんに頼んで家賃を待ってもらう代わりに弟子にしてもらったのだ。家賃が払えるとなれば真面目に教えてくれなくなるか、最悪師弟関係の解消もありうる。……いっそ事故に見せかけてヤルか? 入院費で報酬もパーになるし、不死なんだから死ぬ心配はない。頭さえ無事なら入院中も教えを受けることはできる。
そこ、黒いとか言わない。
「きーーーてるの、ひえん!?」
おっと、桃太郎が私に話しかけていたようだ。話がそれたが、私は今桃太郎主催の飲み会に付き合わされているところである。何でこんなことになったか、順を追って説明しよう。
まず、学校から帰ってアレの実験が完了した後の計画を練っていると桃太郎からの電話があった。曰く「今日は忠兄がいないから泊まってけ」とのこと。これは珍しいことではなかったため了承した。あの兄妹が二人暮しを始めて……というかお兄さんがバイトを始めて以来、お兄さんがいない日は桃太郎の家に泊まることが習慣となりかけている。けっこう寂しがり屋の親友を持つと苦労するのだ。
さて、横島宅に向かったまでは良かった。ゲームとかは桃太郎の部屋に置いてあるし、持ち物は着替えとスキンケア用品だけだから軽いものだ。今日も桃太郎は格ゲーを挑んでくるんだろうかと思いながら歩いて行った。私に勝とうなど百年早いわ。
そうして横島宅に着いて呼び鈴を鳴らした私を出迎えたのは少し息を切らした桃太郎。なんで息を切らしているのか不思議に思ったが、その疑問はリビングに入った時に氷解した。私が見たのはリビングに鎮座する缶の山、山、山。桃太郎は呆然とする私の横を通り過ぎてこう言ったのだ。
「たった今いろんなコンビニで買い占めてきた……今夜は飲むぞーーーー!!」
とまあ、こういう経緯で現在に至るわけである。桃太郎は最初から早いピッチで飲んでいき、いまや完全にできあがっている。私はというと缶はよく冷えておりおいしかったが、そんなに飲む気にはなれずにチビチビとやっている。
「ただにいのバカはね……ただにいはね……」
「あーはいはい。またお兄さんのことか」
ようやくこの飲み会の開催の理由がわかった。どうやらまたあの男は何かをしたらしい。まったく、毎回愚痴に付き合わされるこっちの身にもなってほしいものだ。でも飲み会を開くなんて初めてだし、今回は少々重症のようね。……本当に何をやらかした、あの野郎。
「うう……ただにぃのヴァーーカーーーー!!」
ボコボコと近くにいたものを殴りはじめた。よかったー、私じゃなくて。ちなみにリビングには背の低いテーブルが置いてあり、私は桃太郎の反対側に座っている。
「いて、いててて! なぜ俺を殴る!」
その魔手の届く範囲に座ったあなたがいけないんですよ。まあ、位置的にそこしか座る場所がなかったんですが。
「おい、見てないで助けろ!」
殴られ続けながら私に助けを求めてくる。でも残念ながら私に彼女を止める手段はない。頑張ってください、としか言いようがないのだ。
「……なぜ両手を合わせて拝んでくる」
「あ、間違えた」
無意識的にご愁傷様のポーズをとっていたようだ。まあいいじゃないですか、そんなに睨んでこなくても。ちょっと本音が出ただけなんだから。だいたいあなたの肉体にそんな本気じゃない攻撃が効くとは思えないんですが。
「こいつは急所を正確に狙ってくるのだ!」
疑問が顔に出ていたようだ。よく見たら言葉通りに拳の一つ一つが急所に当たっている。うわー、痛そう。それにしても酔ってなお正確無比の攻撃を行えるとは横島桃恐るべし。そうこうしているうちに桃太郎は殴るのに飽きたのかまた飲みはじめた。
「ふう、やっと終わったか……最後まで助けなかったな」
「いえいえ、私が何もしなくとも自分で何とかなったんじゃありません?」
これは偽らざる本音だ。彼の実力なら酔った桃太郎なぞ簡単に押さえつけることが可能だろう。もともとの腕力が違うのだ、それこそ赤子の手をひねるようなものだろうに。
「ふん、どうだかな」
「クスクス。最後まで実力行使に出なかったのは男らしかったですよー」
簡単なことだ。要するに酔った女を力づくでどうにかするのは気が進まなかったのだろう。妙なところで古風で固い人だけど、そこがまたおもしろい。
「だいたい、なんで俺まで付き合わされているのだ?」
「女二人で飲み明かすなんてさみしいじゃないですか、番長」
番長は飲み会が始まってすぐに私が電話して呼んだ。なんで電話番号を知っているかはひ・み・つ(はーと)。彼が電話の向こうで渋っているのがよくわかったが、私にかかれば番長の一人や二人どうとでもなる。情報戦は現代戦の基本にして要です。
「…………ふん。まあ、来たからには付き合ってやろう」
「ありがとうございます、番長」
ふふ、冷や汗が一筋流れたのを見逃しませんでしたよ。でもそこは無視してあげるのが人情ってもんでしょう。人間弱みの一つや二つあった方がかわいげがあるものです。さて、番長の承認も得たところでパァーっといきますか。落ち込んでいるのを元気づけるのも親友の役目だろうからね。
「一番! 柊飛燕! 脱ぎます!!」
「おーー! やれやれ!!」
パチパチと手を叩いてノってきてくれる我が親友。番長の方を見てみると身体ごと顔を逸らして見ないようにしていた。きみ、ノリが悪いぞ。
「…………というか、なぜコーラでそんなに酔えるのだ?」
それは言わない約束でしょう、とっつぁん。本当にノリの悪いこの男にはお仕置きが必要のようだ。こちらに背を向けたのが運の尽き。後ろからこっそりと近付いて行く。
「別にいいじゃないですか。コーラで酔う女神さまだっているんだし」
「それはどこの女神だ! というか当たってる! 胸が当たってる!!」
「あててんのよ」
ここはやっぱりこのセリフでしょう。
おーおーおー、顔を真っ赤にしちゃって。想像以上に効いていますなこの純情ボーイ。えい、耳に息を吹きかけてやれ。あ、さらに赤くなった。ちなみに服はすでに脱いでいるから破壊力は10割増(当社比)だ。いや、番長シャツ一枚しか着てないからさらに五割増だね。……もっと押しつけてやれ、うりうり。
「チクショー、なんだかとってもドチクショー!!」
こら桃太郎、私のブラを自分の胸に当てて悔しがらない。
〜兄妹遊戯〜
第五話『反逆の丁稚』
いやな感覚を感じていた。こう、首の後ろがちりちりとするような……除霊現場ではよく感じている感覚だ。すぐに手に持ったUNOを放り投げて神通棍を取り出す。
「令子……」
「ええ、来たようね」
見るとエミも戦闘態勢を整えていた。こいつも同じものを感じ取ったようだ。いや、これを感じ取れないようではGSとしてやっていけない。死なないための必須技能の一つだ。
「ふたりとも〜どうしたの〜〜?」
まあ、目の前に例外がいやがるが。まあ、こいつ自身は何も感じていなくても式神は別だ。すでに影の中で戦闘態勢を整えているのだろう。いいなあ、その高性能。一匹よこしなさいよ。
「マリア」
「イエス。周辺に・熱源・感知・囲まれて・います」
いつの間にか復活したカオスがマリアに指示を出している。そう……囲まれたか。にしても復活早いわねカオス。さすがに横島君並とまではいかないけど驚きだわ。
横島君といえばまだ帰ってきてないのよねえ。ピートもまだだし。まさかもう襲われているんじゃないでしょうね。横島君はともかくこの島に詳しいピートがいなくなるのは痛いわね。
「熱源・急接近・来ます」
マリアの声と同時に家のあらゆる出入り口から人影が現れた。この村の村人たちかしら? 発達した犬歯と手の爪と襲ってくることさえ気にしなければごく普通の村人たちに見える。まあ、一般人だろうとなんだろうと私を襲ってくるからには容赦しないが。
「っ……さすがに数が多いわね」
「いや、わしが忠告したはずじゃぞ? 前話をよく読み返してみい」
カオスがなんか言っているが無視だ。そんなメタ的なことに注意を払っている暇はない。襲ってくる輩を片っ端から神通棍でしばき倒しているが、さすがに相手も吸血鬼。耐久力はハンパじゃなく、すぐに起き上がってきてキリがない。
「みんな〜おねがい〜」
冥子も式神を出して応戦している。こういう乱戦のときは頼りになるのよねえ、あの子。でも冥子の精神力では持久戦は不利ね。こりゃあとっとと撤退した方がいいか。
「逃がしませんよ、美神さん」
脱出口を探そうとしていたら声をかけられた。声のする方を向くとよく見知った丁稚の姿があった。今頃帰ってきたことに対してしばき倒したくなる衝動に駆られるが、先ほどのセリフと奴の様子に踏みとどまる。
「あんた……やられたわね」
「ええ。そーいうわけですんで、おとなしく血を吸わせてください!」
セリフとともに襲いかかってくる横島。やっぱり血を吸われて吸血鬼になっていたか。でもたとえ操られていたとしても横島の分際で私の血を吸おうなんて百年……いや生まれ変わってもまだ早い!
「はあ!」
神通棍を奴の脳天めがけて振り下ろす。いくら身体能力が上がっていても、まっすぐ向かってくるのならカウンターするのは容易い! まあ当たっても死にゃあしないでしょ、横島君だし。
「甘い!」
「へっ?」
間抜けな声が漏れてしまった。だって……だって、横島君が私の攻撃をよけるなんて! 『ひょい』って擬音付きで、いとも簡単に!
「いただきまーす!」
まずい! 呆然としている間に横島は今にも首筋に噛みつこうとしていた。もう逃げられない!
思わず目をつぶってこれからの人生のことを考える。きっと横島君に好きにされちゃうんだろうなあ。あんなことやこんなことまで……うえ、考えただけで鳥肌が。くそう、いつか必ず自由になって地獄より恐ろしい目に遭わせてくれる。絶対にタダで支配なんてされてなるものか。私を支配するのは私だけよ! 何兆倍にして返してやる!
「のごっ!!」
復讐計画を練りながら首筋にくる耐えがたい感触を待っていたら目の前からそんな声が聞こえた。目をおそるおそる開けてみる。
「無事ですか・ミス・美神」
視界に入ったのは吸血鬼化した丁稚の牙ではなく、無機質な瞳だった。どうやら私が噛みつかれる寸前で横島君を吹っ飛ばしてくれたらしい。壁には大穴が開いていて、さらにその向こう側に倒れた横島君が見えた。……冥子の式神といいこの子といい、なんで本体よりも付属品の方が役に立つのかしら。
「ありがと。でもあっちはいいの?」
とりあえず礼をしておく。どうしてかは知らないがマリアはカオスよりも私を優先して助けてくれたようだ。向こうではカオスが胸から怪光線を出しながら「マリアー! カムバァーック!」などと叫んで逃げ回っている。
「ノー・プロブレム。あなたが・敵となる方が・危険と・判断しました」
「あっそ」
ずいぶん柔軟な思考を持つアンドロイドだ。この子を作った時のカオスは本当に天才だったんだろうなあ。今では見る影のないけどね。
「おしい! あとちょっとだったんだけどなあ」
いつの間にか横島君が起き上がってこっちに戻っていた。見る限りではダメージはないように見える。うそぉ、いくら吸血鬼化しているとはいえマリアの怪力をくらってダメージなし!?
「マリア、手加減した?」
「ノー。全力で・攻撃しました。ただ・攻撃時の・反動が・想定値の24%・でした」
「それってつまり……」
「攻撃が当たる・寸前に・自ら飛んで・ダメージを軽減・したものと・思われます」
いや驚いた。そんな高度な技術を持っていることもそうだが、マリアの不意打ちに一瞬で対応できるとは。さっき私の攻撃を避けたことといい、そんなスキルを持っていたのかこの丁稚は。
「ぐふふふふ、み〜かみさ〜ん。いい加減あきらめて血を吸わせてくださ〜い」
あの間抜け面を見ると信じたくなくなるなあ。さて横島君が意外と手ごわいこともわかったし、これはいよいよ脱出せねば。あたりを見回しているとエミと目があった。
(エミ)
(わかってるワケ)
アイコンタクト完了。あとはエミに任せて目の前の相手に集中する。周りの雑魚はマリアに任せた。もはや手加減抜き、本気でいくわよ。この私に逆らったことを極楽で後悔なさい。
「うおぉぉぉぉ!」
「はあ!」
横島はまた突っ込んできて、先ほどのまき直しとなった。真っすぐ向かってきた横島君の脳天めがけて神通棍を振り下ろすが、先ほどと違うのは私が油断してないということだ!
「よっと」
やはり今度も紙一重で避けられた。どうやら完璧に見切られているようだ。プライドが傷ついたが、気にせずに即座に返す刀で攻撃する。
「ぬお!」
「っ!」
逆袈裟に斬りかかった攻撃も後ろに反ることでよけられた。そのまま勢いで後ろに倒れてブリッジの態勢になってしまっているが、二撃目もよけるとは横島のくせに生意気よ! でもその体勢からなら避けられまい!
「はっ!」
「ぬあっ!」
神通棍を両手で持っておもいっきり振り下ろすが、横島はその体勢のまま両手両足の力だけで飛び上がり攻撃をよけた。ちょっと、それは人間の動きじゃないわよ! ……吸血鬼になっていたか。
まずい、とどめを刺すつもりで神通棍を振り下ろしたおかげで、かなり隙ができてしまった!
「あぶねーあぶねー。やりますね美神さん」
急いで反撃に備えるが、それとは裏腹にゴロゴロと転がって距離をとった横島は汗をぬぐいながらそんなことを言ってきた。……それはこっちのセリフよ。まさかこんなに手ごわいとは。反撃してこなかったのは余裕の表れかしら?
「地下室があったわ! 早く来るワケ!」
脱出口を探していたエミが叫んでいた。よし、これで体勢を立て直す時間ができる!
「精霊石よ!」
もったいないけど仕方があるまい。地下室に脱出するまでの時間稼ぎに精霊石を使う。ピートからたっぷり報酬は貰ってるし、精霊石の一個や二個……くそう、使いたくなかった。
「もって五分てとこかしら。次の手を考えないと……」
地下室の入口の扉を破壊せんとする音にそう推測する。さてどうしたものか。ここは密室で逃げ場はなし。やつらを全滅できるような手段もないし、さりとて突破できる可能性は限りなく低い。……あれ? もしかしてお手上げ?
「だからここでは守りきれんと言ったじゃろうに」
カオスが何かを言っているようだが聞こえない。無視しているんじゃなくて聞こえないのだ!
「こーなったらもー冥子のプッツンしか……」
「でもこっちにも被害が及ぶわよ」
んなことわかっているわよ。でもそれしか思い浮かばないんだからしょうがないじゃない。エミと二人して冥子を見るが当の本人は地下室が珍しいのか辺りを見回している。はあ、こんなのに私たちの命運がかかっているのかと思うと情けないやら悲しいやら。
「こっちです、はやく!」
二人でため息をついていると地下室の床の一部が外れ、そこから人影が出てきた。あの眼鏡とデコの広さは……間違いない。地獄に神父とはよく言ったものだ。
……ここは退却するけど、横島ぁ! あとで覚えてなさい!!
逃げた美神さんたちを追って地下室へと突貫したらそこには誰もおらず、もぬけの殻だった。いつの間にテレポーターになったんすか、美神さん?
「ってんなわけないか。どっかに隠し通路でもあんのかな?」
他のみんなと手分けして探してみる。……おっ床が外れた。さらに下に通路があるようだ。ううむ、逃げた先に逃げ道があるとは悪運が強いっすねー美神さん。とりあえずみんなで行くには狭そうなので少人数で行ってみる。
「……吸血鬼って便利やなあ」
いっさい明かりがない地下道の中でも十分視界が確保できている。夜目が利くっていいなあ。これならのぞきにも役に立ちそうだ。
「げっ、行き止まりか……いや違うな。通路がふさがれてんのか」
目の前にある壁をコンコンと叩いてみる。これを破るにはちと骨が折れそうだ。しゃあない、ここから追跡するのは諦めてほかに入口がないか探すか。
地下から地上に戻ってみんなで他の家の地下室を調べてみる。むう、なかなか見つからないもんだ。そろそろ夜が明けてしまうぞ。
「しゃあないな。追跡は諦めるか」
白みはじめた空を見ながらつぶやく。ここで追跡を諦めても城で待っていればあの人は必ず来るだろう。そのときに血を吸ってやればいい。
「血さえ吸えば美神さんにあんなことやこんなこと……うおー! 燃えてきたぁ!」
さっきの攻防戦で分かった。パワーアップしたこの肉体をもってすれば美神さんに勝てる。
目に体がついてこなかっただけで、もともと攻撃自体は普段でも見えていたのだ。吸血鬼化してパワーアップしたことで目に肉体が追いついた。これで美神さんの攻撃をよけることができることが先ほど証明された。いや、たとえ攻撃が当たってもたいして効きはしないだろう。耐久力に自信はあるしダメージを減少させることも可能だ。事実、マリアの攻撃や壁とぶち破った時も痛くなかった。あとは持久戦に持ち込めば吸血鬼と人間、どちらが先にへばるかは目に見えている。
「待っていますよ、美神さん! はやく俺の胸に飛び込んできてください!」
……あ、エミさんや冥子ちゃんでも歓迎っスよー。
あとがき
こんばんは、Kです。『兄妹遊戯』第五話をお届けします。
今回は趣向を変えて一人称で書いてみました。ううむ、三人称より書きやすかったです。皆さんはどちらがいいと思いますか?
いつもより少々短いですが、きりがよかったので。次回でブラドー島編は終わりの予定です。
冒頭のオリキャラ三人の飲み会ですが……桃泣き上戸・飛燕最強説・元番長ヘタレ化の三本でお送りしました。……飛燕の暴走は止められませんでした。彼女の方向性はこれで決められたと言っていいでしょう。
さて次回。美神は横島を止められるのか! 血を吸われて○奴隷にされてしまうのか! おキヌちゃんの出番はあるのか! こうご期待。
そろそろリアルが忙しくなってきたので更新速度はこれまでよりも遅くなりますがご了承くださいませ。
さてレス返しです
○DOMさん
>もう少し何らかのアクションがあればよかったんですけど…
オリキャラを導入することによってGSキャラの行動にどのような変化が起こるかがこの作品のコンセプトの一つとなっております。工藤のおっさんの力ではGSキャラの行動に大きな変化を起こせませんでした。
>なんか懐かしい感じですね〜コレ。
私も原作読み返すまで忘れておりました。
○2さん
>ブラドーは数年前に調教されていそうだ。
桃にですか? 『桃小学校編〜イタリア道中記』をお楽しみに。
○ZEROSさん
>この状態でどうやって活躍するのか気になりますが・・・
こんなもんでどうでしょう。次回の方が横島君の本領発揮ですが。
>・・・・・・ところでブラドーはやっぱりボケているんでしょうか?
ブラドーは次回でてきます。原作とは多少変わってますよー。
○黒野鈴さん
>GS(ゴーストスイーパー)の道に入らない限りオカルト事件に関わりが無いから出れないのかな?
桃がオカルトにかかわるようになるのは美神に会った後でしょうね。ちなみに『遭った跡』と変換されたのは内緒ですよ? どんな跡やねん。
>桃ちゃんの全体図を絵で見てみたいです!
ううむ、ご要望はありがたいのですが私、絵を描いたことないんですよ。今から練習して、うまくなった後となりますが待っていてください。いつになることやら……。
○鹿苑寺さん
>この人主役で1本くらいスピンオフ作品作れそうですねっ
スピンオフ……某大捜査線のマネをせよと。ネタが思いついたらやったりするかもしれません。
>『破壊大帝リリカルな○は』じゃなかったんですか?
ぶっ…………。吹き出してしまいました。上手いですね。