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「この誓いを胸に 第七話(GS)」

カジキマグロ (2007-09-14 17:23/2007-09-18 14:10)
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外では耳障りな蝉の鳴く声が響く。
太陽は青空の頂点に居座り、強烈な光と熱を大地に向け放っている。

季節は夏。
現代科学の利器であるクーラーが大活躍し、電気代がうなぎ登りで増えていく季節だ。

そんな厳しい暑さの中で、男二人がクーラー……。否、扇風機すらない道場で一時間近くも激しい組み手を遣り続けていた。

「がはっ……。はあ、はあ、はあ……。」

「如何した? もう終わりか?」

膝に手を付き、肩で息をしている横島へ向け、八神が額の汗を拭いながら声をかける。

「はあ、はあ…ぐっ…。はあ…。あんだけ攻めても爺さんに掠らせる事も出来んのか……。」

「ふん。当たり前じゃ。本格的に格闘技訓練を始めて四ヶ月ぐらいの小僧に、そう易々と掠らせるか……。」

其処で八神は、横島から時計の方に視線を移した。

「11時30か…。区切りもいいし、そろそろ止めにするかのォ…。」

「是非そうして下さい。もう本気でキツイっす。」

「うむ。では飯にするかのォ。ほれ、ちゃんと水分も取っておけ。熱射病になるぞ。」

「ういっす。」

右手を軽く上げ答えた横島は、組み手の邪魔にならぬ様に道場の端に置いていた2ℓのペットボトルを手に取った。
そして彼は、ペットボトルの中の水を口に含み数回喉を鳴らした。

「だは~~~……。生き返る~~。」

4分の1程残っていた水を一気に飲み干し、横島が爽快な笑みを浮かべる。
殆ど休憩無しの殴る、蹴る、投げる、何でもありの一時間に及ぶ組み手。
その疲労感は想像を絶するもので、更に夏真っ盛りのこの暑さ。
両者とも少年と老人とは思えない程の体力だ。

「ああ……そういえば、忠夫よ。お主…。さっき第一のチャクラの門が開きかけておったぞ。」

道場を去ろうとしていた八神が、突然思い出したかのように手を叩き、とんでもない事実を横島に告げる。

「マジで!?」

「うむ。もしかして何かの拍子に開くかも知れんのォ~。」

「おお! やった! ついに夢への第一歩が開かれるのか!!」

「まあ、そういう事じゃな……。」

両手で力強く拳を作り、感涙を流している横島の姿を見て、八神は思わず苦笑してしまった。
正直才能はあるとは思っていたが、たった四ヶ月で此処まで来るとは思っても見なかったのだ。

(これは本当に第六のチャクラまで届くかものォ。)

八神はそのとき少しだけ、ほんの少しだけ目の前の少年に期待をしてしまった。


この誓いを胸に  第七話  少年奮闘戦。  


道場から母屋の方へ戻った横島は、タマモを呼びに行くために廊下を一人歩いていた。
彼女は最近暑さにやられたのか元気が無く、何時も扇風機の前で寝そべっており、余り動こうとはしなくなっていた。
もしこの家にクーラーでもあれば、タマモも快適に過ごせるのだろうが……。
無いもの強請りはしょうがないので我慢してもらっている。

「タマモ~~。」

横島が、何時もタマモが寝そべっている風通りの良い部屋の中に入る。
其処には扇風機の風に当てられながら、此方に背を向けて、ぐったりと寝そべっているタマモがいた。

「大丈夫か?」

横島がもう一度声をかけるが、反応が全く返ってこない。
普段なら何かしらの反応を返してくれるのだが……。

横島はその様子を見て、嫌な予感がした。
そして足早にタマモに近づくと、彼女の顔を上からそっと覗き見た。

「おい!!」

その顔を見たとき、驚いた横島は思わず声を荒げてしまった。
タマモは苦しげに呼吸をしながら目を瞑り、口を半開きにして、其処から舌をだらしなく垂らしていたのだ。
とてもではないが、その姿からは意識があるようには見えない。

「やばいだろ! これ!?」

横島が刺激を与えないようタマモにそっと触れる。

「あつっ、何だよ……? この体温は……?」

その時、彼がタマモから感じた体温は、はっきり言うが異常だった。

「60度……以上あるんじゃねえか?」

普通の人間なら間違いなく死んでいる体温……。
しかしタマモは、ちゃんと呼吸をしているところから判断すると、まだ生きていると言っていい。
だが、これだけの高熱。
脳とかに障害が出てこないとは限らない。

「いや……。待て。人間の枠で考えるな。タマモは妖怪だ。妖怪の病気ならこれが普通なのかも知れん。」

ともかく妖怪の病気どころか、人間の病気すら良く判らない自分では判断がつかない。
そう思った横島は、急いで八神を呼びに行くことにした。

「如何した!?」

すると険しい表情で、八神が横島達のいる部屋の中に入ってきた。

「爺さん! タマモが物凄い熱を出しとるんや!」

「何?」

一瞬顔をしかめた八神が、横島の隣に移動しタマモにそっと振れる。
そして次の瞬間大きく目を見開き驚愕した。

「確かに、物凄い熱じゃな……。」

「そうなんや……。如何しよう……。」

すがる様な眼つきで此方を見つめる横島に、八神はゆっくりと首を横に振った。

「わしは妖怪の医者ではないからのォ……。精々判るとしたら霊力が低下しておる事ぐらいしか判らん……。それに妖怪の医者なんぞ恐らくおらん。」

「そんな……。じゃあ! タマモは!?」

愕然とした表情で、横島が八神に掴みかかった。
それを軽く往なした八神は、横島を落ち着かせる為に、拳骨を彼の脳天に食らわせた。

「いだっ!」

「落ち着け。まだ、病気と決まった訳では無い。霊力が低下しておるから、それを補えば良くなるかも知れん。」

「判った! 霊力を送ればいいんやな!」

そう言うや否や、横島はタマモの身体に右手の平を優しく置き、自らの霊気を送り始めた。

「……忠夫よ。お主はそのままタマモに霊気を送り続けろ。わしは六道の所に行って来る。」

「判ったけど……。何でや?」

「わしが知る中で最も強力なヒーリングが出来るのは、六道の式神のショウトラじゃ。もしタマモが本当に何かしらの病気じゃった場合……。ショウトラの力が必要になる。」

「でも、爺さんが態々行く必要はあるんか? 電話で頼めば……。」

横島が不思議そうな顔をして言葉を続けようとするが、その言葉は途中で八神に遮られてしまった。

「低い可能性ではあるが、電話では盗聴される恐れがある……。判っておるはずじゃ。忠夫。タマモには巨大な敵がいるのじゃぞ? もし奴らにタマモが弱っている事がばれてみろ。必ず来るぞ。」

「あっ……。」

真剣な表情の八神から語られる事実に、横島は思わず顔をしかめた。
そうだった、タマモはまだ命を狙われ続けている。

「まあ、本当に低い可能性ではあるが……。念には念を入れて、この事を大きくしてはならん。いいな。」

横島はその言葉に緊張した表情を浮かべながらも、無言で力強く頷いた。


その後部屋から出た八神は、その足でガレージの方に行き車に乗り込んだ。
其処で彼は一旦軽く伸びをして、深いため息をついた。

(妖怪の病気に最も良い方法か……。)

右手に持っていたキーを鍵穴に差込回す。
するとエンジンが一際大きな振動と共に動き始める。

(すまんな……。忠夫。)

シートベルトをつけ、サイドブレーキを解除する。
そしてギアーをニュートラルからローギアに入れる。

(最も危険であり確実な方法は……。わしは…お前には教えなかった。)

苦虫を潰したような顔をしてアクセルを踏み、彼は六道邸を目指し、車を発進させた。


八神が家から出て行ってから30分が経った。
それでも横島は依然としてタマモに霊気を送り続けていた。

「くそっ!」

しかし彼の顔色は全く優れない。
それは別に30分間霊力をタマモに送り続けた所為ではない。
確かに額に汗が浮かんではいるが、これぐらいの事なら後数時間だって出来る。

問題はタマモの容体が一向に良くならない事だ。
否、逆に悪化している。
このままではタマモは本当に命を落としてしまうかも知れない。

「何か手は無いのか……。」

横島の表情が、焦りと悲しみで時間を追うごとに険しくなる。
己の無力とは、こういった時に嫌と言うほど痛感するものだ。
八神ですら如何しようも出来ないのだから、自分ではもっと如何しようも無い事など判っているのだが……。

簡単に納得など出来ないのが、人の感情である。

気づいたときには、横島はタマモを助ける為に、八神の家にある大量の書物に目を通していた。

この中に何かタマモを助ける手掛かりがあるはずだ。

腕の中でタマモを大事に抱きかかえながら、自分の第六感により彼はそう思っていた。

故に探した。
ひたすら探した。
本棚をひっくり返し、読み終えたら年代物で高価そうな書物でも放り投げて、急いで次の書物を読んだ。

そして時間にして一時間ぐらいだろうか……。
横島の手の中には一冊の古い書物が握られていた。
それは日本の妖怪について書かれている書物で、その中に彼はついにタマモを治せる手掛かりを発見したのだ。

「天狗………。」

横島は書物に視線を落としながらポツリと呟いた。

天狗。
鼻が高く(長く)赤ら顔、山伏のような装束に身を包み、一本歯の高下駄を履き、葉団扇を持って自在に空を飛びまわる妖怪。
また天狗の中には修験者の変化である者もおり、呪法と霊武道を追求し続けている。
その副産物として編み出された霊薬は、妖怪の治療薬ともされる。
さらに山神との関係も深く、霊峰とされる山々には、必ず天狗がいるとされ(それゆえ山伏の姿をしていると考えられる)、実際に山神を天狗とする地方は多い。

「コイツならタマモを治せる薬を持っているかも知れん……。それに確か結構近い所に霊峰とされる山があるって八神の爺さんが言っていたな。」

一通り書物を読み終えると、横島はそれを床に置き、すっと立ち上がった。

「恐らく爺さんは天狗の存在を知っていたな。それでいてその選択肢を除外した……。」

腕を組み、険しい表情で独り言のように呟いていた横島が、突然身震いをした。

考えてみろ。
もしその方法が最良ならば、爺さんなら真っ先に天狗のもとに行っただろう。
しかしそれをしなかった……。
という事は爺さんが諦めなければならない理由が其処にあるのだ。

「爺さんですら無理なのに……。俺に出来るか?」

虚空を見上げ自問自答をしてみる。
勿論答えはノーだ。
先程の組み手でも判った様に、実力の差は月とテナガザル。
経験の差は太陽とそこら辺の小石。
それから割り出される総合的な戦闘力の差は魔人ブーとサイバイマン。

「如何しようもねえな……。」

思わず深いため息をいてしまった。
そして横島は、腕の中でぐったりとしているタマモに視線を移す。
霊力を絶えず送っているのにも拘らず、彼女は時間が経つに連れ、目に見えて弱っていっていた。

「理屈じゃねぇんだよな……。」

苦しむタマモを見て、横島の中で一つの決心が固まった。
すると彼は、大量に散乱した書物の部屋をあとにすると、自分の部屋へと移動していった。

自分の部屋に入ると、腕の中に抱いていたタマモを布団の上に置き、引き出しから紙とハサミを取り出した。
そしてそれらを使い、紙を人型に切ると、その人型に霊気を流し込んだ。
すると霊気を流し込まれた紙はドンドン膨張していき、それと同時に生物の様な肉質まで帯びてき始めた。

「この前貰った式神ケント紙が役に立つとはな……。」

目の前に作り出した式神を見て、横島は苦笑してしまった。
しかし直ぐに真剣な表情に戻ると、式神に一つの指令を出した。

「タマモを……。コイツを守れ。いいな?」

人型の式神は小さく頷くと、そのままタマモの近くに移動し、彼女を護るかのように佇んだ。
それを確認すると横島は、なるべく音を立てない様に部屋をあとにし、玄関の方へと歩いていった。

「すまんな爺さん。俺行くわ……。何か知らんが、行かないかんような気がするんや。」

此処にはいない八神に向けて謝罪をする。
それは折角、彼が用意してくれた最良の選択を、己の感情で不意にしてしまう事への謝罪。
だが、だからと言って立ち止まれない。
このまま待つだけではダメだと、己の勘が叫んでいるからだ。

「タマモ……。待っとけよ……。」


よこしま…………。


その時横島には、今にも消え去りそうなタマモの声が確かに聞こえた。


人里離れた山の中に人間との交流を断ち、ひっそりと暮らす妖怪の一族がいた。
彼らは優れた知能、肉体、感覚をその身に宿し。
そして確固たる信念を持つ、誇り高き一族であった。


人々は、彼の一族の名を人狼族といった。


「ち…父上……。苦しいよ…。」

「頑張れ! それでも武士の子か!!」

人狼の里に幾つかある、古く趣のある木造の家の中で、苦しそうに床に伏している子供と、それを険しい表情と共に見守る成人男性がいた。

(熱が全く下がらんか………。)

木の桶の水に浸した布を絞りながら成人男性……。犬塚ジロウは悔しそうに表情を歪めた。
彼の愛した妻が残してくれた忘れ形見である子供……。犬塚シロが二日前から病に倒れ、村総出でのヒーリングを行っているにも関わらず、一向に回復の兆しが見えないのである。

(このままでは……。)

ジロウの脳裏に最悪の結果が過ぎる。
それだけは何としても防がねばならない。
シロの為にも、亡き妻のためにも……。

「犬塚……。」

心配そうな表情を浮かべ、部屋の襖を開けた老人がジロウに声をかけてきた。

「長老……!」

長老と呼ばれた老人の、唐突な訪問に驚いたジロウが、彼に視線を移した。
そんな視線を受けた老人は、責任ある地位と、年を重ねた者が持つ特有の威厳を醸し出しながらゆっくりと頷き、静かにジロウの隣まで足を運んだ。

「ヒーリングが効かんか………。」

長老が苦しそうに表情を歪めるシロを見つめながら、落胆し呟く。

「はい……。」

それに答えるジロウもまた落胆していた。

「もし、このまま熱が下がらんとなると……。」

言いよどんだ長老のその台詞の先は、ジロウが思い描いた最悪のシナリオ。
村で一番長く生き、一番の賢者でもある長老がお手上げの状態。
それは自分達人狼では、もう如何しようも成らない事を意味していた。

「はあ、はあ、はあ……。」

重い静寂に包まれた室内で、病魔と闘い苦しむシロの呼吸がやたらと良く響く。


『あなた……。この子を……。お願いしますね………。』


その刹那、ジロウは亡き妻の最後の言葉と姿を思い出す。

また失うのか?
妻に続き娘も失うのか?
託された命をまた失うのか?

其処まで考えて彼はある一つの決心を固めた。

「案ずるな! シロ!」

辺りの暗い空気を一掃するかのように声を上げたジロウが、勢い良く立ち上がる。

「!」

シロはそんな父親の姿に驚き、硬く瞑っていた目蓋を少しだけ開けた。

「父が戻るまでこらえていろ! いいな!」

「………はい……。」

ジロウは消え去りそうな声だが、しっかりとした返事を返したシロの姿を見て頷くと、壁に立てかけてあった愛刀を握り締めた。
そんな彼の背中を黙って見つめていた長老が、徐に口を開いた。

「天狗殿の所へ行くのか? 犬塚……。」

「はい! 最早他にこの子を救う手立てが無き故に…。」

「そうか…。」

迷いの無いジロウの言葉を聞くと、長老は顔をしかめた。

「て……。天狗どの…?」

するとシロが二人の会話に出て来た存在が気になったのか、長老に声をかける。

「うむ…。この里の更に奥に住まっておられる。妖怪の病に通じておられるのだ。」

「故にお前の病に効く薬を、私が天狗殿から貰ってくる。では……。長老、シロの事をよろしくお願いします。」

ジロウは長老に深々と頭を下げると、そのまま背を向けて部屋から出て行った。

(死ぬなよ……。)

長老は心の中で、命をかけて娘を救おうとするジロウの無事を祈った。
そして家の外に出たジロウは森の奥、人間界と魔界の中間を目指し走り出した。
人狼である彼の足ならば目的地まで数十分で着くだろう。

しかしこのとき既に天狗の下では一人の少年が己の命をかけ、大切なものを救う為に、圧倒的不利な戦いを繰り広げていた。


ジロウが天狗の下へ向かうよりも前に、横島は人間界と魔界の中間の地点に来ていた。
辺りには自然の中にも関わらず陰気が濃く、また森の景色がずっと同じ様に見えてしまう。

それは宛ら樹海の様であった。

「何かとんでもない所やな……。」

少し肩で息をしながら横島が、辺りを見回しポツリと呟いた。
彼は東京にこんな山があるとは、思っても見なかったのだ。
もっとも東京は魔都とも呼ばれ、霊的なポジションが非常に高い位置に存在する。
故に、ある意味こう言った山が存在していても可笑しくないのかもしれない。

「だけど勘で此処まで歩いてきたけど……。天狗が何処にいるか判らん。見鬼君を持ってくればよかったな~。」

ため息交じりにぼやく。今横島が持っている道具といえば神通棍のみ、未知の相手と戦うのにこの装備だけでは余りにも心許無い。

「冷静さが欠けていたな……。」

ある程度の冷静さを取り戻した彼は、焦って家を出た自分の行動を今更ながら後悔した。
妖怪と人間とでは身体の能力や霊格が違いすぎる。
人はそう言った差を埋める為に大量の道具を使用したり、事前に情報を集め下準備をする。
だから人間は妖怪と互角に戦う事が出来るのだ。
逆に言えば、そういった準備を怠る者は互角に戦えない事を意味している。

「少なくとも準備万端では無いよな……。」

神通棍のグリップを握り、軽く霊気を通す。
すると金属同士が擦れる様な音と共に、神通棍が伸びる。

「まあ、俺には切り札があるし…。それで何とかするか。」

「拙僧に何か用か、小僧………?」

その一言で場の空気がピンッと張り、緊張感で満たされる。
横島は、不敵な笑みと共にその声の主の方へと振り返った。

「あんたに子供の妖弧に効く薬を貰おうと思ってな……。」

其処には、紅の顔に長い鼻と真っ白な髭と髪を生やし、己の身体を包む程の大きな黒い布を羽織った妖怪が立っていた。

「ほう……。」

妖怪は、横島の言葉を聞くと少しだけ口の端を持ち上げ、猛禽類の様な笑みを浮かべた。

(これが天狗か……。やべえだろ? 圧倒的じゃねえか?)

妖怪。否、天狗から来る圧倒的な威圧感に、横島の額から冷や汗が流れ落ちた。
まともに戦って勝てる様な相手ではない。

(如何にかして交渉で譲ってもらうしか…。)

そう結論を出した横島は、ともかく会話を始めなければならないと思い口を開こうとした。
しかし其れよりも早く天狗が、先程まで浮かべていた笑みを消し、真顔で口を開いた。

「帰れ小僧。」

其れは予想外の一言であった。

「……何でや?」

「小僧の様な、薬を求め拙僧に嘆願する者は少なくは無い。其処で拙僧は、薬を与える条件としてある事を嘆願する者に求めている。」

「条件?」

横島が怪訝そうな顔をして首を傾げる。

「………拙僧と勝負をして勝つ事だ。」

その刹那。横島の身体にまるでハンマーにでも殴られた様な衝撃が走る。

「がっ……。」

突然の事態に対処が間に合わず、呻き声と共に地に膝をつく。
天狗はそんな横島を射抜くような視線で、唯見つめていた。

「今のは霊気を放っただけだ。判るか小僧? お主と拙僧とでは余りにも力の差があり過ぎる。戦っても無駄なのだ。もう少し腕を上げてから出直して来い。」

天狗はそれだけ言うと、横島に背を向け森の奥の方へと去ろうとした。

「ぬっ!」

数歩進んだぐらいで突如驚いた様に声を上げた天狗が、4メートル近くありそうな木の枝まで、凄まじい速度で飛び上がる
其れとほぼ同時に、彼がついさっきまでいた地点に神通棍が過ぎ去って行った。

「おっしい~~~。」

木の上の天狗の方を見て、神通棍を構えたまま横島が残念そうに口を開く。
天狗はそんな横島を静かな眼差しで見つめていた。

「中々いい攻撃だな……。小僧、お主が狙ったのは拙僧の首だな。」

「正確には首の中にある背骨……。更にはその中の神経系だ。」

「くっ……。唯の小僧かと思っていたが、遣ってくれる。」

天狗が楽しそうに笑う。
全てでは無いが、妖怪もまた人間と同様に神経が体中に張り巡らされている。
更に背骨、脳という器官も存在し、首の神経系の破壊は妖怪と言えども即死に繋がる可能性もあるのだ。
故に横島は天狗の首を狙った。
相手を殺す為に、容赦なく。

「真……。その心意気や良し……。」

彼の真意を見た天狗が、木の上から音も無く地面に飛び降りる。

「どうも……。」

横島は神通棍の切っ先を天狗に向け、油断無く構える。
最高の隙をついた攻撃が簡単に避けられた。
表には出さずに、彼は心の中で舌打ちをしていた。

「面白い。久方ぶりに人間と戦うのも良いか。だが、まともに戦うのは流石に力量の差があり過ぎるか……。」

天狗が顎に蓄えた立派な髭を撫でながら考える素振りを見せる。

「そうだな……。拙僧はこの刀を使わない。」

そう言って腰に下げている刀を左手で握る。

「そして小僧は拙僧に一撃でも攻撃を当てれたらそれで勝ち……。如何だ?」

「………後悔するなや。」

「フン。吠えるな……小僧。これでもまだ足りないぐらいだ。」

天狗が不敵な笑みを浮かべながら、全身から凄まじい闘気を放つ。

これで本気ではないから勘弁して欲しい。
横島は神通棍を握る手に少し力を込めた。

長期戦では此方が不利になる。
勝負は一瞬でつけなければならない。
それを可能にする技は『運歩』しかない。
もともと八神が横島に教えてくれた運歩とはそういった技だった。
重心を全く動かさないでの高速移動。
相手が反応する前に叩き伏せる歩法。
横島の中で最も信頼を寄せている技の一つだ。

(爺さんの訓練のメインは運歩やった……。はじめは歩法訓練なんて面倒で嫌やったけど、こんな舞台の上に立つと感謝やな……。)

大きく息を吐き、集中力を更に高める。
チャンスは一度だけ、失敗は許されない。

(行くぞ!)

心の中で気合を入れ、足に霊力を集中させる。
そして自分の身体を少し浮かせるようにコントロールしながら、前に進むように霊気を足の裏から放出した。
その結果横島の身体は、天狗の方へ重心を殆どずらさずに、地を滑るように高速で移動していった。

「何と!?」

その光景を目の当たりにした天狗が、目を大きく見開き驚愕する。
横島にはその反応だけで十分だった。

天狗は自分の動きに付いて来ていない。
そして自分は既に天狗の懐に入り、神通棍を振り下ろそうとしている。
このタイミングでは絶対に避けられない。

横島はこの時勝利を確信した。

「でぇーーーーいっ!!」

裂帛の気合と共に、天狗の肩目掛けて神通棍を振り下ろす。
次の瞬間、彼の神通棍は何にも逆らう事無く、天狗の身体を切り裂いた。

「え…………。」

そうバッサリと切り裂いたのだ。


切り裂いた?

簡単に?

何で?

今の自分の霊力と神通棍ではそんな出力が出せないのに?


「本当に驚かしてくれる小僧だ……。まさか水進を使えるとはな。」

行き成り天狗の声が、横島の背後から聞こえた。

「……残像? 嘘だろ?」 

横島が愕然とした表情で呟く。
そんな漫画見たいな芸当を実際に出来る存在が、この世にいるとは思わなかった。
それに何より横島を愕然とさせたのは、今の天狗の動き。
それは間違いなく『運歩』であった。
しかも自分よりも格段に速い……否、八神よりも速い。

「だが……。霊武道で拙僧に勝とうなど500年は早かったな。小僧。」

空気を裂く音と共に、横島の背にまるで、鋭利な刃物で突き刺されたような感覚が脳内に響いた。
横島はその余りの激痛に思わず意識が飛びそうになってしまったが、歯を食いしばり何とか意識を失わないように堪えた。

「拙僧の一撃に耐えるか?」

天狗はそんな横島に心底感心していた。
確かに手加減はしているが、今の一撃が人間の…しかも子供に耐えられるとは思っても見なかったのだ。

だからだろうか、彼はこの戦いを少しだけ楽しんでいた。
こういった存在は、必ずと言っていい程化ける。
その化けた姿を、彼は見てみたいと思ったのだ。

「ぐっ……がはっ……。」

だが横島としては、天狗みたいな余裕は何処にも無い。
今彼の中にあるのは戸惑いと、焦りだけ……。
何と言っても信頼の置ける技が破られただけでなく、向こうも使えるのだ。
それも自分より数段速く、上手に……。

「ちくしょ………。」

先程激痛を感じていた背中に手を当てて、出血が無い事を確認した横島は、脂汗を流しながら悔しげにそう呟いた。

戦力の差は余りにでかい。

その事実だけが横島の肩に今、重くのしかかっていた。


「すまんのォ。二人とも……。態々来てもらって。」

「あら~。いいですよ~。おじさまの頼みですもの~。」

「タマモちゃん~。大丈夫~? 冥子心配~。」

八神宅の玄関先で三人の声が響く。
八神はあれから五時間ぐらい時間をかけ、六道家の方まで足を運び、冥香と冥子を連れてきた。
本来なら冥香だけを連れてくる予定だったが、タマモが病気になったと言う話を聞いた冥子が、心配だから如何してもついて行きたいと頼んできたので、彼女も一緒に連れてきたのだ。

「さあ、余り時間も無いと思うから上がってくれ。」

八神が玄関の鍵を開け、家の中に入る。
そんな彼に続き六道親子も「お邪魔します~。」と言いながら家の中に入っていった。

「忠夫~。帰ったぞ~。」

八神が横島を呼ぶ為に、少し大きな声を出す。
しかし家の中からは何の反応も返ってこない。
否、それどころか人がいる気配すらない。

(まさか襲撃されたか。)

一瞬そう思ったが、それはありえないと直ぐに頭を振った。
襲撃されたにしては部屋が綺麗過ぎる。
荒れた痕跡が全く無いのだ。
だが、そうしたら横島は一体何処に行ったのだろうか?

「冥香。」

八神が冥香に声をかける。
そんな彼の意図を察したのか、冥香は小さく頷くと冥子の方へ視線を移した。

「冥子~。クビラを出してこの家を霊視させなさい~。」

「は~~い。お母さま~。クビラ出てきて~。」

冥子が自分の影の方を向き、名を呼ぶと影の中から、大きなレンズの様な目を持つ、深海底に生息していそうな式神が飛び出してきた。
クビラはそのまま冥子の頭上に乗ると、辺りをキョロキョロと見回しはじめた。

「こっちの部屋から霊気の反応が二つ見えました~。一つは凄く弱っていてタマモちゃんだと思います~。もう一つは……式神かしら~。」

「忠夫の部屋じゃな……。」

冥子の話を聞き八神が横島の部屋へ歩いていく、そして部屋の戸を開けた。

「キーーーーーー。」

すると中から人型の式神が奇声を上げながら八神に襲い掛かってきた。

「ぬん。」

だが、事前に冥子から情報を得ていたので別段驚く事も無く、彼は閃光の様な速さで、式神の喉を目掛けて前蹴りを放った。
無論式神は、それを避ける事など出来ずにまともに食らってしまい、呆気なく消滅していった。

「番人と言う事か……。」

八神は紙に戻ってしまった式神を見ながら呟いた。

「タマモちゃん~~!」

そんな八神の隣を泣きそうな顔をしながら冥子が通り抜け、部屋の中央で横になっているタマモの所へ駆け寄る。
そして彼女は直ぐに影の中からショウトラを召喚して、ヒーリングを開始した。

「冥香、お主は冥子についてやっておいてくれ、わしは家の中を一応見回る。」

「わかりました~。」

それだけ告げると八神は家の奥の方へ歩いていく、すると普段は閉めている筈の書庫の戸が開いているのを発見した。

(人の気配は………無い。開けたのは忠夫か?)

八神は己の気配を消し、壁に背を預けながら静かに書庫の中を覗いた。

「………酷いのォ…。」

中の光景を見て、思わず顔を引き攣らせながら呟く。
泥棒が荒らしたぐらいなら、まだ良いほうかも知れない。
書庫の中はまるで、台風でも来たんじゃないかと言うほどに悲惨な状態だったのだ。

「結構高価な物なんじゃが……。」

部屋の中に足を踏み入れ、近くに転がっていた一冊の本を手に取る。
乱雑に放り出された所為か、少しだけ破れたり、端が折れ曲がったりしている。

「まあ、これで此処を荒らしたのが忠夫であるとわかったな。」

もし物取りの犯行ならばこれだけ高価な本を乱雑に扱わないし、置いていったりもしないだろう。
最もオカルト知識の少ない人間なら判らないが……。
それでもこの家で荒らされているのが、このかび臭い書庫だけというのが、やはり物取りの犯行を否定している。
オカルト知識のある人間は此処の本を見逃すはずが無い。
逆に無い人間はこんな書庫のみを荒らすことはまず無い。
ならもしタマモを狙う刺客だったら? 
横島が不在という時点で、タマモはもう死んでいるし、先も言ったとおり荒れた形跡が無い。
よって犯人は横島と言う結論だ。

「しかし、忠夫は何を調べておった?」

顎に手を当て辺りを見回す。
すると他の本と違い、一冊だけしっかりとページが開かれ、床に置かれている本が彼の目に飛び込んできた。

「これは………あの阿呆……。」

その開かれているページの内容を見て、八神は顔をしかめながら思わず悪態をつく。

「天狗の所に言ったか……。」

恐らくは薬を貰いに行ったのだろうが……その為には天狗と一戦交えなければならない。
天狗は自分ですら真正面から戦っては手に負えない相手だ。
今の横島では勝ち目はまず無いだろう。

「天狗は修験者の変化と聞く……。若輩の忠夫を無視してくれる事を祈るしかないのォ…。」

「おじさま…。」

突然後ろから冥香が八神に声をかけてきた。

「如何した? シリアスモードに入っておるぞ?」

「勝手に変なモードつけないで下さい。残念なお知らせです。」

「なんじゃ。」

「タマモちゃんにショウトラのヒーリングが効きません。」

「………そうか……。」

八神の表情に少しだけ影が射す。

「それに……。」

冥香がそれだけ言うと手に持っていた物を八神に見せる。

「なんとっ……。」

それを見た八神は驚愕し、思わず声を荒げてしまった。
彼女が持っていたのは大量の黄金に輝く毛だったのだ。

「タマモちゃんは今も弱っていっています。それに体毛まで抜けてきた……。これはもうお手上げかもしれません。」

「ぬう……。」

「ところで横島君は?」

「……………………天狗の所へ行ったらしい。」

「えっ………。」

長い沈黙の後、言い難そうに紡がれた八神の言葉に、今度は冥香が驚愕する番であった。

「本当ですか?」

「状況判断から言って、間違いないじゃろう。」

その言葉を聞き冥香は右手を口にそえ、眉間にしわを寄せた。

「最悪……。いえ、ある意味最高なのかも。」

「状況的には最悪。タイミング的には最高じゃな。しかし……分が悪い。」

「そうですね。」

タマモが瀕死で、それを救う打開策がこの場には無い。
しかし横島が、天狗から無事薬を貰って来る事が出来れば、話は変わってくる。
まず間違いなくタマモを救えるだろう。
故にタイミング的には最高。

だが、天狗は強い。
可能性として横島が天狗に敗れ死亡。
それにより薬が貰えず、タマモも死亡という救いようの無いバッドエンドが考えられるのだ。高確率で………。
故に状況的には最悪。

「賭けるしかないか……。恐らくわしが今から天狗の下に駆けつけても間に合わんじゃろう。」

「そうですね。それに彼ならば奇跡の一つや二つ、起こしてくれそうな気がします。」

八神の言葉に冥香が微笑みながら答える。
そんな彼女の根拠の無い自信満々な表情に、八神は苦笑してしまった。

「随分と信用しておるな。」

「勿論ですよ~。だって、冥子の未来のお婿さんだもの~。」

周りの空気が和んだ所為か、冥香の言葉遣いが普段の物に変わる。

「倍率は高そうじゃぞ? わしの予想ではまだまだ上がるな。」

「そんな時は法律改正~~。横島君は一人で満足する器では無いわ~。」

「それだけは止めろ。」

八神は半眼で呆れたように冥香を睨みつけた。
この女は本当に遣りかねない。

「フフフ~。楽しみ~。ところでこれから私達は如何しますか~?」

「その笑みが物凄く気になるが……。考えてみればわしには関係無い事じゃからいいか。そうじゃのォ。忠夫が帰ってくるまでの時間稼ぎかのォ。」

「判りました~。じゃあタマモちゃんの所に行きましょう~。」

「うむ。」

そして二人はタマモのもとに向かうのであった。

奇跡を起こしてくれそうな少年の帰りを信じて……。


天狗は腕を組み、数メートル離れた地点で神通棍を支えに、満身創痍な姿で立っている横島を眺めていた。
戦い始めてから二十分以上は時間が経っている。
真剣勝負にしては余りにも長すぎるこの時間。
精も根も尽き果てても可笑しくは無い筈なのだが……。

「まだ諦めんか? 小僧……。」

「生憎、普段諦めが言い分、こういう時は諦めが物凄く悪いんや。俺はな。」

「しつこいのは美徳では無いぞ? 見苦しいだけじゃ。」

「侍の考え方か? 残念ながら俺は侍でも何でもない……根性無しの現代っ子や。」

「根性無しはそんな姿になるまで戦わんだろ?」

「俺は根性無しや。怖いのも痛いのも苦しいのも嫌や。唯……さっきも言ったとおり、こういう時の諦めは何故か物凄く悪いんや。」

「大した小僧よ。しかし、このままでは拙僧には勝てんぞ?」

天狗が挑発するように言葉を投げかける。
それに対し横島は不敵に笑うだけであった。

「………まだ切り札が残っておるか? 使う時を待つのはいいが…そろそろ拙僧も飽きた。終わらせるぞ。」

その台詞と同時に天狗が恐ろしい速さで、地を滑るように接近してくる。
そして空気を裂くような音と共に、高速で拳を放ってきた。

「くっ……。」

横島は何とかその拳を神通棍で捌く。
霊気を流している神通棍は、言わばスタンガンの様な物で、振れるとまず無事ではすまない。
だが、天狗は先ほどからずっと素手で神通棍に触れているのに、全くダメージが見られない。
それは横島が神通棍に込めている霊力より、天狗が己の拳に込めている霊力の方が高いからだ。

元々神通棍は、込められた霊力を100%攻撃に転換できる訳ではない。
超一級品で精々40~45%、横島が持っている物は30%ぐらいしか込められた霊力を攻撃に転換できない。
故に人間とは桁外れの霊力を誇り、それを拳に溜め100%の霊力を攻撃に転換できる天狗とでは相手にならないのだ。

「その武器もそろそろ限界の様じゃな。」

天狗が神通棍に軽く視線を送った。
確かに彼の言うとおり、神通棍は至る所にひびが入り、もう限界であった。

「如何する? まだ待つか?」

天狗が横島に問いかける。
だが横島は口を硬く閉ざし、その問いに対し答えを返さなかった。

「………そうか…。残念だ。」

此処まで追い詰められてまだ切り札を出さない横島に失望したのか、天狗が始めて構えをとった。
彼はこの戦いを、ついに終わらせるつもりなのであろう。
先程までの倍以上の殺気が、辺りの空間を満たす。

「さらばだ。」

天狗は神速と言って過言ではない程の速度で、横島との間合いをまた詰める。
それは先程までとは違い完全に踏み込んだ移動。
だがそれこそ横島が、長い時間をかけ待っていた事でもあった。

「霊力最大放出!!」

その時横島は神通棍を通し、霊力を辺り一面に放出した。
しかしこれはあくまでも霊力を適当に放出しただけで、威力的には大した事が無い。
だが、その代わり目が眩む程の超強力な光が出せる。
天狗は横島を仕留めるつもりで先程より一歩だけ大きく踏み込んだ所為もあってか、避ける暇も無く、その強力な光をもろに食らってしまった。

「ぬがっ!!?」

突然の事態に身体が縮こまってしまう天狗。
もともと山に長い間住んでいた関係で、目が物凄く良いのであろう。
そのダメージはかなりのものになったはずだ。

「りゃーーー!!」

勿論最大の好機と言っていいその隙を見逃すはずがなく、横島は直ぐに神通棍の切っ先を天狗に向け、その大きい身体目掛けて突きを放った。

「こぞーーーーー!!」

だが、天狗も充血した目で横島を睨みつけ、大気が震えるほどに声を荒げながら縮こまっていた上体を起こす。
それと同時に放たれた気迫の拳は、先に動いていた横島の神通棍と交差する形となり………。


そして見事に神通棍を根元から粉々に砕いて見せた。


天狗は冷や汗を流しながら、己の行動を心の中で罵った。
切り札とは最後までとっておくから切り札なのだ。
それなのに自分は待ちきれずに勝負を仕掛けていった。
其処には油断があったのだろう。
あれだけ油断が危険な物であると学んできたのに……期待からの失望ですっかり失念していた。

何とも情けない。

自分の修行不足に気づいた天狗は、目の前で突きの姿勢のまま固まっている横島に対して感謝をした。

これでまた強くなれると……。

故にこの戦いの後、勝ち負けには関係なく、天狗は薬を渡そうと思った。

「良い戦いであった。」

右手のひらで掌底をつくり、横島の顎を目掛けて放つ。
これは脳震盪を起こさせるにはもっとも有効な手段であり、切り札を破られ戦意を失っている相手には十分なものであった。

長い戦いもこれで終わる。

天狗の中で、満足感と名残惜しい気持ちが奇妙に入り混じる。
そして彼は己に此処までの満足感を与えてくれた少年の顔を最後に見ようと、横島に視線を送る。


その時天狗の目には、顎を両肩でしっかりと固め。


右手のひらを此方に突き出し。


不敵に笑う少年の姿が映し出された。


(抜かった!? 此処からが切り札か!?)

天狗が慌てて右腕に力を込めるが、既に時は遅く、今からでは横島を倒すほどに打撃の威力は上がらない。

元々は戦意を消失していると思い放った一撃。
だと言うのに横島は、戦意を消失どころか逆に高揚し、更には両肩でがっちりと顎を防御している。
とてもではないが、この掌底で倒すのは無理だ。
かと言って、一度動き出したのを止めるのは難しい。

「栄光の手………。」

横島がそう呟くと、彼の右腕に高密度の霊力が集中する。
天狗はもうその光景に驚くほか無かった。
人狼族ならいざ知らず、人間でまさか霊波刀を作り出せる者が、今の世の中に存在しているとは思いもしなかったのだ。
しかも恐ろしい程の高出力で……。
もしあれが振るわれたら、流石の自分でも大怪我では済まない。

その時天狗は無意識のうちに、腰にある刀の柄を左手で握っていた。
それは長年、武道に身を置いた所為で手に入れた、危険に対する彼なりの反射であった。

「くらえやーーー!!」

天狗の右手を肩で受け止め、多少バランスが崩れてしまったのにも関わらず、横島は渾身の力を込めて霊波刀を天狗に放った。


そして………真紅で鮮やかな血が宙を舞った。


「あれ………?」

横島がその舞い散る真っ赤な血を見ながら呆然と呟く。

全てが上手く行っていた。
はじめ運歩が破られたときかなり大きなショックを受けたが、自分の切り札は他にもある事を支えに直ぐに立ち直る事が出来た。
それからは何とか相手の攻撃を避けつつ、ずっと作戦を練っていた。
そして思いついたのが相手に勝利を確信させて隙を作り、そこに栄光の手をぶち込む事だった。
その為に長い時間かけて神通棍を傷つけていき、最後に切り札っぽい事をして破壊させたのだ。
結果、武器を失い、また切り札を破ったと思い込んだ天狗は、勝利を確信して大きな隙を見せた。
今考えても全てが上手く行っていたと思う。


ならば何故……。


自分が斬られて血を流しているのだろうか?


宙に舞っている己の血から、天狗のほうに視線を移すと、彼の顔は異常に青ざめており、目は目玉が飛び出さん程に見開かれ、此方を信じられないといった風に凝視していた。
そしてその左手には、血がついた刀が、逆手で握られていた。

(ああ……。俺あれで斬られたのか…。)

横島は自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
銃で撃たれた次は刀で斬られた。
しかも銃と違い一点だけを傷つけられたのではなく、脇腹から肋骨まで綺麗に斬られたのだ。出血量も半端無い。

(まだ痛みは来ないけど……。これは死ぬかな?)

何故か冷静に現状を分析している自分に苦笑しながら、ゆっくりと目を閉じる。

(すまんな……。タマモ…。俺……。お前を……。)

『私はね。化け物よ……。』

落ちていく意識の中、脳裏に少しだけ懐かしい声が響く。


『いい。もう一度言うわ。私は今完全な傾国の妖怪として蘇ったの。言わばあんた達人間の敵! 判る!? 私はあんたの敵なのよ!! 殺す殺されるの仲なのよ!! 私はあんた達人間が憎いのよ!! 本能から憎いのよ!!』

『私たちは!! 私たちは! ……私たちは…どんなに馴れ合っても……所詮は……敵でしかないのよ………。』

『私は金毛白面九尾の妖弧……。三国に渡り、混乱を巻き起こした妖怪。言ってみれば、あなた達人間の敵………。だから教えて……あなたは…あなたはこんな私でも……受け入れてくれますか?』

『良いのよ。私はあんたが側に居てくれれば………。』


横島が倒れそうな身体に力を込め、歯を食いしばりながら目を見開いた。

何諦めてんだ!?
此処で倒れたら誰がタマモを救う!?
誰がタマモの側にいる!?
また一人にするのか!?
冗談じゃねえぞ!!
確りしろ横島忠夫!!
女を! 特に美人を泣かせるのはテメエが最も勘弁して欲しい事だろうが!?
テメエは此処で死ぬわけにはいかねえんだよ!

「ぬがああぁ嗚呼ァあーーーー!!!」

叫ぶ。
喉が潰れてしまいそうなほど横島は叫んだ。
倒れるわけにはいかない。
負けるわけにはいかない。
死ぬわけにはいかない。
彼の中では強い、とても強い意志の力が渦巻いていた。

「アア嗚呼ああァァああーー!!!」

そしてその時、下腹部で膨大な力が流れ出ているのを感じた。
その力は己の肉体を強化し、弱まっていた生命力を一気に増幅させた。

「しゃあ嗚呼ァーーーーーー!!!」

技も何も無い。
唯全力で、思いっきり振りかぶった拳は、その場に呆然と佇んでいた天狗の顔面を捉えた。

「ごっ!?」

その拳をまともに食らった天狗は、数メートル後方に後退り、そこで何とか踏みとどまった。
彼は、その瞬間は何が起こったのかよく理解できていない様だったが、暫くして驚愕した表情と共に横島の方を見た。

「俺の……。勝ちやな……。」

横島はその視線を真正面から受け止めると、満足そうな笑みと共に勝利宣言をした。
そして次の瞬間には力尽きたのか、仰向けに大の字になって地に倒れた。

「完全に呑まれた。拙僧が……。この年端もいかん小僧に…。」

その光景を見ながら天狗が一人呟く。

完敗であった。
数百年と生き、霊武道を探求し続けた自分が、人間の子供に……。
修行不足を悟らされ、抜かないと豪語していた刀を抜かされた。
そのうえ最終的には完全に気迫に呑まれてしまい、顔面に一撃を入れられてしまった。
もう誰が何と言おうと完敗だった。

「小僧……。いや、もうそうは呼べんな。しかし最後の最後で霊波刀とチャクラの解放か。とんでもない切り札だったわ。」

先程の戦闘を思い出し苦笑をする。
本当に異常な少年であると思いながら。

「おっと、いかんな。早く治療をせねば。」

そう言うと天狗は横島のもとに行き、上着を脱がして懐から取り出した薬を傷口に塗り始めた。

「やはり、チャクラの解放で生命力が上がっておった所為か…治りが早いな。」

傷口を見て感想を述べながらも、包帯を無駄の無い動きで巻いていく。

「これでいいか。さて……。」

包帯を巻き終えると横島の上半身をゆっくりと起こし、そして肩の上に手を置くと、霊力を少しだけ彼の身体に流した。

「うっ………。」

すると呻き声を上げ、横島が意識を取り戻す。

「ほれ、これを飲め。」

それを確認した天狗は、横島の返事も聞かずに手に持っていた粒状の薬を一粒、彼の口の中に放り込んだ。

「ごっ…!? んぐっ……。って何するんや!?」

「心配するな唯の痛み止めだ。」

「本当かよ……。」

天狗を胡散臭そうな表情で横島は見上げた。
そんな横島を鼻で笑った天狗は自分の懐に手を入れ、緑色の液体が入ったビンを取り出した。

「こんな詰まらん事で嘘をつくか。それよりほれ、これが妖弧に効く薬じゃ。」

「おお!! マジか!?」

天狗から手渡された薬を見て横島が嬉しそうに笑う。
多少色が気になるが、これでタマモは助かる。
そう思うと嬉しさがドンドンこみ上げて来るのだ。

「よし! ありがとな天狗! 俺帰るわ!」

「ああ、待て。」

勢い良く立ち上がった横島を、天狗が右手を上げ止める。

「何や? 使用上の注意でもあるんか?」

「いや、そういうのは特に無いな。まあ、それとは関係なくてだな……。お主の名は何という?」

唐突な質問に横島は目を丸くする。

「えっと…。俺は横島忠夫だけど……。」

「そうか……。横島忠夫か。覚えておこう。道中には気をつけて帰れよ……。拙僧はまた来たであろう客の相手をしてくるのでな……。」

「客?」

「恐らくは妖怪じゃな。早く行け。巻き込まれても良い事は無いぞ。」

「………判った。」

「ではな。」

天狗は森の奥の方に視線を送りながら横島に別れを告げると、風のような速さで、その視線の先に消えていった。

「妖怪のお医者さんも結構忙しいのか? まあ、如何でもいいけど。いててて……。畜生。歩くだけで痛い。」

横島が涙目で腹を押さえながら、苦しそうに表情を歪める。
だがそれでも彼は、足を止めずに険しい山道を歩き始めた。
辺りはもう暗くなり始めている。
早く帰らなければ、タマモが手遅れになるかもしれない。

「そしたら俺の頑張りが意味なくなるしな……。急ごう。」

横島は傷口の痛みに堪え、行きよりも若干早いペースで山を下りていった。


山の向こうに日が沈み、静寂と闇が辺りを支配する。
うっそうと生い茂る森の中には、獣の気配が所狭しと感じられ、そんな森を照らすのは、月明かりと星明りのみ。
何処までも静かで、人工的な輝きが無い山。
故に霊峰と人々は、この山の事を言うのかも知れない。

天狗は、その森の中で一際大きな巨木の頂上に立ち、ぼんやりと虚空を見上げながら煙草をふかしていた。

「難儀だな……。あの小僧は…。」

口から白い煙をゆっくりと吐き出しながら静かに呟く。
命がけで薬を手に入れたはずなのに、また一難が今頃彼を襲っているのだろう。
本当に難儀な人生である。
手を差し伸べたい気持ちもあるが……。

「妖弧にも、人狼にも効く薬はあれしかない。横島よ……。お主は如何する?」

天狗は大きく煙を肺に吸い込み、そして煙草の火を素手で揉み消した。


「はあ、はあ、はあ、大分暗くなったな。早く家に帰らんと……。」

横島は少しだけ呼吸を荒くしながら、暗くなった森の中を進んでいた。
天狗に斬られた傷の痛みは、あの飲まされた薬の所為か、殆ど抑えられていたのでかなりのペースで歩ける。
このまま行けば後1時間ぐらいで八神宅に帰りつけるだろう。

「はあ、はあ、はあ、何時かな~。今…。」

しかし家から出発してから時間が余りにも経ちすぎているので、ついつい気持ちが焦ってしまう。
彼の頭の中は、タマモの安否の事でいっぱいであった。

「御免。あなた様が横島殿で御座いましょうか?」

「!!?」

後ろから唐突に声をかけられた事に驚いた横島が、勢い良く後ろに振り返る。
其処には30代半ばぐらいに見える、侍の様な格好をした男が一人立っていた。

「誰や? おっさん?」

「失礼。某の名は犬塚ジロウと申します。今回は横島殿にお願いの義があって参上仕りました。」

「何だか、古風やな? おっさん…戦国からタイムスリップでもしたんか?」

「某は人狼族。人間であるあなた様にそう思われても仕方ありません。」

横島は軽口をたたきながらも、ジロウに対し警戒をしていた。
それはジロウのお願いと言う物が、何となく想像がついてしまったからだ。
恐らく天狗が言っていた妖怪の客とはジロウの事だろう。
そして彼が天狗の下に行き、此方に来たという事は、天狗の所にお目当ての物が無かったということ。
だったら今天狗の下に無くて自分の所にある物は何だ?
タマモの薬しかない。

(冗談じゃない! この薬は俺が命がけで手に入れた物や! 絶対に渡さんで!!)

横島はジロウをきつく睨みつける。

相手は人狼。
言わば獣だ。
こうやって目線を合わせ、そむけた方が負けになる。
故に横島はジロウの目から視線を外さない。
唯ジッと彼を睨みつけていた。

「…………良き瞳ですな。」

「そうか? 友人からは魚が死んだような目って言われるぜ。」

「例え普段が死んでいても、いざと言う時に強く輝けばいいのです。」

そこでジロウが、何かを悟ったように目を閉じる。
そして彼は無駄の無い、流れるような動作で地に膝をつき、その場に正座をした。

「へっ……?」

横島は予想外の展開に思わず間抜けな声を上げてしまった。

「もう既に某の願いが何か……。あなた様は判っていらっしゃるご様子。故に単刀直入に申し上げます。天狗殿より頂いた薬……。某に譲ってくだされ。」

ジロウは頭を低く、非常に低く、大地に擦り付けるぐらいに下げて横島に土下座をした。

「なっ………に?」

何を遣ってるんだコイツは?
土下座だと?
ふざけんなよ……そんなので俺の心が動くとでも思ってんのか!?

「如何か…。如何かお願いします。」

ジロウは顔を上げずに土下座をし続ける。

イライラする……。

その姿を呆然と眺めていた横島の心の中に、不意に怒りが込み上げてきた。

「土下座すれば何でも解決すると思っているのか?」

自分でも驚くほど冷たい声色で、ジロウに言葉を投げかける。

「あんたにとって土下座は誠心誠意の表現の仕方かもしれない。だが、俺にとっては土下座なんて何時でも出来る、特に価値のある物ではないんだ。」

ジロウは何も喋らない。
土下座の形のまま、黙って横島の話を聞いていた。

それがまた癇に障る。

「俺には帰りを待つ奴がいる。薬はあんたには渡せん。悪いが……諦めてくれ。」

「娘がいます……。」

突然ジロウが口を開く。

「娘は某の亡き妻の忘れ形見なのです……。その子は今病気で苦しんでいます。助けるには横島殿が持つ薬が如何しても必要なのです。」

「俺にだって病気で苦しんでる奴がいる。」

「それを承知で………。」

「承知してるなら邪魔するな!!」

横島が激昂する。
先ほどから溜まっていた怒りが、限界を超えて一気に言葉として外に溢れ出たのだ。

「身勝手は百も承知! しかし! しかし某にはもう娘しかいないのです!」

「ざけんな!!」

「お願いで御座います! 横島殿!! 娘を……。シロを助けてくだされ!!」

顔を上げたジロウの目からは涙が溢れ出ていた。
それを見た横島の表情が苦しそうに歪む。

卑怯だろうが……。
土下座とか。
妻の形見だとか。
たった一人の娘だとか。
本当に悲しそうな泣き顔とか。
男の泣き顔なんぞ見たくないのに……。

「お願いします! 如何か! 如何か!」

嗚咽が混じりながらも必死に言葉を紡ぐジロウ。

「ふざけるなよ………。」

「如何か……。お願いします……。」

「ああ………。ちくしょう……。」

横島は硬く拳を握り、歯を食いしばった。

彼は許せなかった。
人が苦労して手に入れた薬を、行き成り出て来て欲するこの男が……。
そして何より、目的の為に相手を切り捨てる事の出来ない自分の不甲斐なさに……。

「ちくしょう……。」

悔しそうに呟く彼の瞳からは一筋の涙が零れ落ちた。
結局自分は中途半端なのだ。
命を賭けて戦う事は出来ても……他人を踏みにじる事は出来ないのだ。

なんと無様で惨め。

「お願いします……………。」

そんな不甲斐ない自分に比べて、ジロウには覚悟があったのだろう。
他人を踏みにじっても娘を助ける覚悟が……。
でなければ今、目の前にいない。
薬を譲ってくれなど言うはずが無い。

「ごめんな……。タマモ……。」

横島は家で苦しむ子狐の姿を思い浮かべながら、謝罪の言葉を小さく述べた。


八神は座布団の上に腰掛、チラリと時計の方へ視線を移した。
時刻は午後8時過ぎ、天狗のもとに行った横島もそろそろ帰ってきても可笑しくは無い時間であった。

「帰って来ませんね~~。」

隣に座っている冥香が声をかけてくる。

「うむ。」

「タマモちゃんは如何したのですか~?」

「玄関でずっと忠夫の帰りを待っておるよ。冥子は如何したのじゃ?」

「同じですよ~。良いわね~。横島君モテモテ~。」

「そうじゃな。」

暫しの沈黙。
部屋の中には、時計の針が進む音だけが響く。

「………帰って来ますかね……。」

少しだけ不安そうに冥香が呟く。

「信じるほかないじゃろ?」 

「ですよね~。」

するとその時、玄関の方から二人の女性の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「帰ってきましたね~。」

「帰ってきたのォ。」

八神と冥香はホッとしたような笑みを浮かべながら、此方に近づいてくる足音の方に視線を移した。

「爺!! 何故タマモが元気になっている!? というか何故人化してるんじゃーー!!?」

横島が、綺麗な金髪をナインテールにしている可愛らしい女の子を腕に抱き、背中には冥子を背負いながら八神に向け激昂する。
それを八神は軽く右腕を上げる事で制した。

「うむ。実はタマモは病気ではなかったらしい。」

「………………………………は?」

「まあ、お主が驚くのは無理も無い。わしも気づきもしなかったし……この事実が判ったのが一時間前ぐらいでのォ。ほれ見ろ。」

そういって八神はちゃぶ台を指差した。

「……………毛?」

「その通り。如何やらタマモは殺生石に長い時間封じられていた所為もあり、体内時計が正常に働いていなかったらしい。じゃから夏なのに冬毛で、今回熱中症にかかって倒れたのじゃ。」

「……………俺の苦労は?」

「ぶっちゃけ、夏毛に変わったら直ぐに治ったし……。まあ、いい訓練にはなったろう?」

「なるかーーーーー!!」

「喧しいのォ。叫ぶな。それに結果的に両手に花で、男としては嬉しい限りではないか。」

「むっ……。」

八神に言われて気がついた横島は上目ずかいで此方を見つめるタマモと、右肩から此方を覗き込むように見つめている冥子へと視線を移す。

「………欲を言えばもう少し大人の女性が……。」

「むっ。」

「ぬっ。」

横島の台詞を聞き、タマモと冥子が少しだけ頬を膨らませる。
その反応に横島はやっちまったと言う表情を浮かべる。

「あっ……。いや、ねえ。」

「わしに同意を求めるな。」

困った表情を此方に向ける横島を、八神はバッサリと切り捨てた。

「まあ、いいわ。許してあげる。今回横島は私の為に頑張ったんだもの。」

そういうとタマモが満悦の笑みで、横島に抱きつく力を少し強める。

「そうね~。横島くんは~~。今回頑張ったから許してあげる~。」

同じく背中の冥子も横島に抱きつく力を少し強める。

「あらあら~~。両手に花ね~~。おばさん~。うらやまし~。」

「よかったの~~? 忠夫。苦労したかいがあったじゃろ?」

冥香と八神がそんな三人を見ながら楽しそうに笑う。
腕の中にはタマモが、少しだけ頬を赤く染めて微笑みながら抱きついている。
背中には冥子が、これまた微笑みながら嬉しそうに抱きついている。
皆が穏やかな笑みを浮かべるこの空間の中、横島は一人ぼんやりと虚空を見上げ……。

「フラグゲット? あれ? でもロリコン? でも俺まだ中1だから許容範囲? そういえば俺。血で服とか凄いんだけど、そっちの心配なし? でも……あれ? 結局ロリコン?」

と壊れた人形のようにブツブツと独り言を呟いていた。


あとがき

三週間ほど部活の合宿や学校の実習などで忙しく、中々小説を書く事が出来なかったので、久しぶりの投稿となりました。
申し訳ない。

今回は前回言っていたようにタマモの人化、シロの伏線的出番、そして横島の葛藤を書いたつもりです……。
それで補足として、タマモの人化についての仕組みは、横島、八神、ショウトラ、六道親子の霊力を大量に受けての成長です。でも原作のシロみたいに超回復では無いので、そんなに成長していません。(イメージ的には、今のタマモの姿は小学校低学年ぐらいです。)

では、補足はそれぐらいにして、次回はシロが本格参戦する話を書いていきたいと思いますので、また読んで頂けたら幸いです。


レス返し。

風来人様。
六道母が大活躍の前編後編ですが、黒幕は百合子で最凶は彼女なんですよw。

万々様。
此処でのキーヤン、サッちゃんの出番は後々の伏線となっています。といっても大分後の話ですが……。

キサカ様。
この部分は兎も角、横島と前野を二人だけにしたいという理由で無理やり作ったので違和感が出てしまいましたね。

Cynos様。
GMの弟子については想像通りです。此処までヒントがあれば判りますよね。もう少し隠した方が良かったかなと思う今日この頃です。

Tシロー様。
六道イベントは横島にはいい試練になったと思います。そしてGMの弟子についてはその通りです。

鹿苑寺様。
ユッキーについては一瞬考えましたが………。流石に危険かなと思い止めました。だから戦闘狂と彼女は別人です。

DOM様。
シロ登場とか言っておいて、殆ど登場していない今回。次回は本格参戦です。シロとタマモの原作通りの絡みを書きますのでお楽しみに!

(´ω`)様。
作品はGSの方もエヴァの方も読ませて頂いております。面白い作品を書いている方に感想を貰うと、とても励みになりました。

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