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「光と影のカプリス 第99話(GS)」

クロト (2007-09-12 21:00/2007-09-14 18:25)
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 令子は茂流田たちが乗ったヘリが飛び去ったのを見送ると、横島ズに向き直って厳しい顔で、ただしごく小さな声で訓戒を垂れた。

「これから建物の中に入るけど、入ったら余計なコトしゃべるんじゃないわよ。たぶん連中には筒抜けになってると思うから」

 令子たちが南武グループの本当の目的を知っているとバレたら、彼らもそれなりの対応をしてくるだろう。どちらにしても最終的にはそうなるだろうが、その時期はなるべく遅くした方がいいに決まっている。
 屋敷が心霊兵器の実験場だとすれば、戦闘の様子を見るために各部屋には監視カメラの類が仕掛けられているはずだ。令子は横島ズがトチ狂って集音マイクのそばで自分たちの本当の目的をしゃべったりしないよう念を押したのである。もちろん小竜姫もささいなことで話しかけて来ないよう、言外に注意を求めているつもりだった。

「「はい、わかりました」」

 横島ズが神妙な面持ちで頷くと令子はいくぶん安心したのか表情をゆるめたが、扉に手をかけたところでもう1つ大事なことを思い出して振り返った。

「……っと、そうそう。横島クン、建物に入る前にカリン呼んどきなさい」

 行き先が行き先だけに、令子もスケベ小僧のお守りをしているヒマはないようだ。外付け理性装置に押しつけて、自分は戦闘と探索に集中するつもりなのだろう。
 だが理由はどうあれ、横島に召喚を断る理由はない。
 煩悩少年が軽く念じると、その頭上に影法師娘が現れて地上に降りてきた。このまえ雪之丞と組み手した時と同じ、黒のニットセーターに白のスラックスという出で立ちである。

「カリン、何か道具使うか? 手甲は重いから置いてきたけど、神通棍なら持ってるぞ」

 横島がそう訊ねると、カリンは少し考えてから首を横に振った。

「いや、今日はいい。素手なら壁抜けもできるからな」

 今回の相手は確かに強敵中の強敵だが、その分仲間も頼りになるのでカリンは戦闘力より利便性を選んだようだ。また令子の前で神通棍を使うことには多少のはばかりがあった。
 代わりに、ということだろうか。軽く右手を上げて、いつか妙神山で横島をお仕置きする時に使った小竜気の爪をつくり出す。彼女自身も成長しているらしく、その爪はさらに強度と鋭さを増していてもはや本物の竜の爪にしか見えなかった。
 そこでカリンがチラリと横島を意味ありげな眼で流し見た理由は、見られた当人にはすぐわかった。

(美神さんに何かしたらあの爪でお仕置きなんだろーな、きっと……)

 セクハラするたび思い出せ!とか言われても困るし、仕事も危険だから真面目にしていた方がいいかも知れない。体が勝手に動く可能性は否定できないけれど!
 ……まあそれはそれとして。タダスケが文珠を「見せない」ことを除けばみんな本気なのだから、自分も技を出すべきだろう。横島は左手に竜珠を出してしっかりと握り締めた。

「ん、横島クンそれ何?」

 と令子が目ざとく訊ねてきたところへ、ククッと(本人主観では)クールな笑みを浮かべて答える。

「これっスか? これは俺の霊能の集大成、煩悩玉です!」
「……」

 横島の手の中にあるオレンジ色の水晶玉っぽいその珠は恐らくかなりのいわくを秘めたモノなのだろうけど、その中央に「煩悩」2文字があざやかに浮かんでいるのを見た令子は急速に気力が失せていくのを感じていた。
 もしこれが竜珠だと理解できていたら違う反応をしていただろうが、彼に煩悩玉だと言われたらもうそれ以外のモノには見えなくなってしまったのである。さすがに横島も令子に竜珠のことを明かす危険性は理解していたようで、実にみごとなごまかし方であった。
 令子がはあーっとため息をつきつつ、踵を返して改めて屋敷の扉に手をかける。

 ギイイィィ…………バタン。

 古めかしさを感じさせる軋んだ音とともに、4人は屋敷の中に歩を進めるのだった。


 屋敷のエントランスは外の光が入らないためかなり暗く、令子たちはまずリュックからライトを出して明かりをつけることにした。
 部屋はつくりこそ立派だったものの、かなりの期間放置されていたらしく埃まみれで古ぼけた感じがして、いかにも幽霊屋敷らしいどよんとした雰囲気に満たされていた。

「ひぇぇ……」

 横島が思わず1歩ひいて怖そうにつぶやく。最新の技術が投入されているはずなのに、何でこうもホラーな空気が満載なんだろうか。
 いやよく考えてみれば、ここは幽霊屋敷を装っているのだから当たり前のことなのだけれど。

「霊圧が異常に高いわね。気をつけて、何が来てもおかしくない感じよ」

 と令子が神通棍を伸ばして構える。カリンとタダスケも軽く腰を落として戦闘態勢に入った。
 しかしそのまま数分待ってみたものの、特に何かが現れる様子はなかった。カリンが奥に続いている扉を見やって、

「美神殿、そろそろ先に進むか? この扉には霊気を感じないから、私なら壁抜けして様子を見て来られるが」

 と偵察を進言したが、令子は少し考えてからその提案を却下した。

「いえ、1人だけ離れるようなことはやめといた方がいいわ。扉に直接手をふれずにマジックハンドで開ければ罠があっても大丈夫だしね」

 令子は超強気な性格だが、無鉄砲とか猪突猛進とかいった要素とは無縁である。だいたい慎重さに欠けるGSなどこの業界で長生きはできないだろう。
 マジックハンドといっても子ども用のおもちゃではなく、業務用ロボットにも使われている本格的なものだ。令子はそれを器用に操作してノブを回した。
 さいわい彼女の心配は杞憂だったようで、扉にカギや罠は仕掛けられていなかった。その向こうは長い廊下になっていて、奥の方に人影のようなものが見える。

「あれは……亡霊武者!?」

 令子以外の4人はその人影に見覚えがあった。六道女学院の除霊実習の時に廟(びょう)から現れた連中にそっくりなのだ。

(そっか、あれを捕獲してコピーか何かしたんだな)

 そんな結論に到達した横島は、さっそくポケットからデジカメを取り出してそいつを写真におさめた。これが遺跡荒らしの証拠になるかどうかは分からないが、写しておいて困ることはあるまい。彼はカリンが前衛をつとめてくれているので、令子やタダスケと違ってこういうことをする余裕もあったのだ。
 そしてその間に、亡霊武者は背中から弓を取り出して矢をつがえていた。林間学校のときは誰も持っていなかった武器である。

「―――ッ!!」

 令子とタダスケはあわてて横に跳んだが、亡霊はかまわずに矢を射ってきた。狙いは今動かなかったカリン、もしくはその後ろにいる横島である。
 しかしカリンにとってこんな攻撃はもう慣れっこだった。

「なるほど、そう言えば武士の得物は刀や槍より弓矢がメインだったな。
 しかし小山殿の矢はもっと速かったぞ」

 と少女が金縛りの術で矢を止めたのとほぼ同時に、令子も床をすべるようにして亡霊に近づいていた。彼が二の矢をつがえる前に、その額に破魔札をたたきつける。

「退け、悪霊ッ!」
「ギャアァアッ!!」

 その一撃で亡霊武者はあっさりと消し飛んだ。しかし息をつく間もなく、まるで亡霊が消えたのが合図であったかのように何匹もの野犬が廊下のガラス窓を破って屋敷の中に飛び込んできた。

「「ガルルーーーッ!!」」
「犬のゾンビ……!?」

 どの犬も肉が腐り落ちて肋骨や大腿骨が露出しており、どう見ても普通の動物ではない。しかし動きの速さは生きた犬と比べて遜色なかった。
 しかしこのメンバーを凌ぐほどではない。令子は即座に神通鞭をふるって迎撃し、タダスケが栄光の手で次々と斬り捨てていく。2人の死角に回ろうとした犬は横島とカリンが金縛りで動きを止めた。
 10匹ものゾンビ犬を30秒足らずで片づけ、今度こそふうっとひと息つく令子たち。

「タダスケさん、なかなかやるわね。海外でGSしてたっていうお話だけど、実戦経験はけっこう豊富なのかしら?」

 令子はみずから戦いつつも、ちゃんと周囲の様子にも気を配っていたようだ。
 実際タダスケはGS歴10年だから、むしろ令子よりはるかに多くの場数を踏んでいる。彼がここに来たのはその「経験が少ない」令子を守るためなのだから、こちらも彼女のことはしっかりと観察していた。

「ええ、まあそれなりに。美神さんの方こそ、さすが一流と言われるだけあって霊力は強いし動きも鋭いですね」

 と自然な口調でお世辞など吐いているタダスケだが、心の中の方はけっこうヒートしていたりする。

(くぅーっ、やっぱ10年前だと若い、かわいい!
 ここの令子はここの俺とくっつくわけじゃないんだし、向こうに帰る前にせめてデートの1つでも……つーかこの乳の張り方とか肌のつやとか、これが若さゆえの過ちとゆーやつか!?)

 10年後でもアホは治ってないようだが、それを口や顔には出してない辺り一応は成長したと言えるかも知れない。
 しかしデートに持ち込むには、まずここから生きて帰るのが先決である。タダスケは頭を切り替えて、話題をこの屋敷の謎のことに移した。

「でも妙ですね。最初が武士の亡霊で次が犬のゾンビ……脈絡がないというか理屈に合わないというか」
「そうねぇ……」

 令子もそう言われて首をかしげたが、実はすでに答えはわかっていた。これは兵器の実験なのだから、普通の幽霊屋敷のパターンとは関係なくいろんな種類の敵が出て来るのはむしろ当然のことなのだ。
 しかしそれをここで口にする気はない。

「ま、私たちの仕事はここに巣食ってるネズミどもをシバき倒すことだけだから。難しいことは考えないでちゃっちゃと先に進みましょ」

 こうして最初の敵を撃破した令子たちは廊下を進んで次の部屋に向かったのだが、その様子をカメラを通して観察している者がいた。

「―――第1波はやすやすと撃退されてしまったな」
「予想はしてたけど、何しろ日本最高ランクのGSだものね」

 ヘリで退避したと見せかけて、この屋敷の機構全体を制御しているコントロールルームに移動していた茂流田と須狩である。
 薄暗い部屋の西側の壁全面に数十個のモニターが設置されており、ソファに腰を下ろしてその画面に見入っていた。

「美神令子―――洋の東西を問わずあらゆるオカルトアイテムを使いこなし、高額の報酬と引き替えならどんな強敵とも戦う辣腕GS」
「横島忠夫―――スケベでバカだが霊力は高く、影法師を使役する能力を持った、式神使いに似たスタイルのGS」

 茂流田たちは横島の顔は知らなかったが、彼のデータは一応持っていたようだ。だからカリンがいることには疑問を持たなかったが、横島タダスケの名は彼らのデータベースにも存在しなかった。

「しかし今の戦いぶりは美神令子にも負けてなかったし、我が社が世界に先駆けて開発した心霊兵器―――その性能テストにはちょうどいい相手だな」
「そうね。通常の軍隊相手での効果は絶大だったけど、プロのGSにどこまで通用するのか楽しみだわ」

 世間話でもしているかのような気軽さで会話している茂流田と須狩だったが、その口元には令子たちと話していた時の営業スマイルとは違う、冷たく酷薄な笑みが貼りついていた。


(そういえば、向こうで俺がおキヌちゃんに告白されたのは落とし穴に落ちてすぐ後のことだったんだよな。もしかしたらこの屋敷にも落とし穴が仕掛けてあるかも知れん)

 タダスケは令子の後ろについて慎重に歩きつつ、元の世界で自分が体験したことを懸命に思い出そうとしていた。
 10年も前のことだから細かいことは覚えていないが、確かこの次かその次くらいの部屋で落とし穴に落ちて、その後キヌに告白され、さらにその後でグーラーとの出会いがあったはずだ。
 ならば自分は落とし穴に落ちても良かろう。どうせ普通に動いていればそうなるだろうし。
 ただそうすると令子のことが心配である。向こうの令子は1人で切り抜けてきたのだが、タダスケはその経過をよく知らないのだ。だから令子を1人きりにはさせたくなかった。
 カリンは浮遊がデフォルトだから落とし穴には落ちないだろうが、彼女は横島が落ちたらそちらについて行ってしまうだろう。では自分が文珠《浮》辺りで落とし穴をやり過ごすか、いやそれではグーラーを助けることができない。

(……待てよ。それなら逆に、カリンさんに事情を話して忠夫が落ちないよう支えててもらえばいいんじゃないか?)

 落ちるのが自分だけなら令子はまず大丈夫だろうし、令子も落ちたのなら自分と2人だから何とかなる。令子だけが落ちるという可能性もあるが、その時は落とし穴の板を破壊して自分も落ちればいい。
 実に隙のない、完璧な作戦である。タダスケはさっそくカリンを呼び止めようとしたが、その時にはすでに一行は次の部屋の扉の前に着いていた。

(……あれ?)

 タダスケが作戦失敗の予感に冷汗をたらしている間に、令子たちは突入準備を終えていた。マジックハンドでノブを握り、後ろの3人に注意をうながす。

「いくわよ!」

 と令子がマジックハンドを引っ張ると、開いたドアの向こうから数十体もの人形の群れが空を飛んで襲いかかって来た。

「ホホホホホホーーーッ!!」

 人形たちは表情も声色もどこかに逝っちゃった感じがして異様にコワい。横島は腰が砕けそうになったが、とっさにドアがあった位置に結界を張って彼女(?)たちの進出をくいとめた。

「こんなんに萌えるかあーーーっ!!」

 と叫びながら彼の最強アイテム「美智恵おねえさんの聖なる手榴弾」をぶん投げる。竜珠の結界はある程度術者の思い通りに動かせるので、手榴弾を通過させることも可能なのだ。
 どっかーん!と炸裂した聖なる波動が、一瞬のうちに人形すべてを吹き飛ばして浄化する。さして広くもなく遮蔽物もない室内だけに、この種の攻撃からは逃れるすべがないのだ。

「確かそれってあんたが自分でつくったのよね。結構すごいじゃない」

 その威力を目の当たりにした令子が感心して横島に声をかけると、煩悩少年はすぐ調子に乗って、

「え、美神さんが俺を褒めた!? こ、これはもしかして俺に惚れるフラグが立ったとかですか!?」
「ううん、全然」
「酷!」

 拳で突っ込みを入れられるより軽く流される方が痛い。
 しかしただ突っ立って心の汗を流していても仕方ないので、横島はさっさと部屋に入っていく令子に続いて中に入ることにしたが、カリンとタダスケも入ったところでドアが勝手に閉まった。

「え……!?」

 最後尾にいたタダスケがさっきの令子にならって栄光の手でノブをひねるが、ドアはびくともしない。

「やっぱりか……要するに連中は私たちを引き返させたくないわけね」

 除霊をあきらめて屋敷から出る、なんて臆病なことをされたら、手間ひまかけて兵器を設置したかいがなくなってしまう。だからこうして退路をふさいで、前に進む以外の道をつぶしているのだろう。幽霊屋敷ということになっているから、このくらいなら罠だとバレる恐れは少ないし。
 令子たちはこんなことされなくても逃げるつもりはないのだが、入ってきたドアが勝手に閉まったなら、先に進む前にそちらの問題を解決しておこうとするのが常識的な対応であろう。

「このドアは木製みたいですから壊せますけど、どうします? 何ならドアの隣の壁を壊すって手もありますけど」

 ただしその手段は普通ではなかったけれど。タダスケも意外と過激な所があるようだ。

「うーん、そうねぇ……」

 令子はどうするのがもっとも自然、かつこちらに有利になるのかしばらく考えていたが、その結論が出る前に突然天井がずるずると下がってきた。いわゆる吊り天井というやつだが、今回の天井は金属製で栄光の手でも簡単に切断することはできなさそうだ。

「ちくしょー、『ヴーッ』なんて電気的な音出しやがって! やっぱり罠だったんだなあのエセ中年紳士野郎!!」

 横島がつい声に出して叫んでしまったが、茂流田たちもこのトラップを作動させた時点でこの屋敷の本当の姿を隠すことは諦めただろうから大した罪ではあるまい。
 令子たちが強すぎて戦闘をすぐ終わらせてしまうのでデータを取りにくい上に、タダスケが扉や壁を壊すとか危ないことを言い出したので、妙なことをされる前により強力な兵器が設置してある、イコール頑丈で簡単には壊せない場所に誘導することにしたのである。

「くっ、こーなったら次の部屋に進むしかないわね」

 茂流田たちの目的を考えれば、ここで彼らが令子たちを押しつぶす気だとは思えない。しかし令子にもその正確な意図までは分からなかったので、とりあえず逃げるしかなかった。
 急いで扉を開けて部屋の中の様子をうかがう。暗くてよく見えないが邪悪な波動は感じられないし、モンスターはいないようだ。
 それでも一応は神通棍を持ったまま、飛び込み前転の要領で一気に突入する。もたもたしていたら後ろの3人が間に合わなくなってしまうからだ。
 続いてカリンと横島、最後にタダスケが入ってくる。それと同時に3人の足元の床が下向きに開いた。

「なっ、何だこりゃ!? 落とし穴か!?」
「くそっ、やっぱりこうなったか。俺がついていながら……」
「こんな手にはまるとは……うかつだったな」

 横島とタダスケは現在重力に引かれて落下中なのだが、カリンまで一緒にいるのは、早く部屋に入るため横島の手を引っ張っていたせいで彼の道連れになったからである。
 カリンは2人をかかえて飛ぶくらいのパワーはあるのだが、落とし穴の先は曲がり角の多いダクトのようになっていたため、すべる動きに振り回されて力を出せないのだ。
 しかもさらに力が出なくなる要因として、

「こら横島、どさくさにまぎれて抱きしめるな! せめて胸から手を離せっ!」
「だってこのままはぐれたらマズいだろ? あああっ、あったかいなー、やーらかいなー!」
「バカ者ーーーーっ!!」

「何をやってるんだか……」

 タダスケがあきれ返るのも無理はなかったが、これではカリンも横島がすべり落ちる速さを少し遅くするのが精一杯であった。最後に地下の格納庫のような何もない部屋に放り出されて、3人はようやく停止した。

「いてて……ひどい目にあったな、まったく」
「それは私の台詞だ。まあおまえとはぐれずに済んだのはよかったが」

 床にぶつけた尻をなでながらぼやく横島。相変わらずいい根性をしているが、カリンがそれをあまり責めないのは言葉通りの気持ちでいるからだろう。

「でもこりゃ戻るのは無理そうだな。どーする?」
「そうだな。美神殿のことも心配だが、こちらも放っておいてはもらえないだろうからな」

 落とし穴の途中で自分たちを殺そうとしなかったのは、まだ兵器の実験に使うつもりだからに違いない。どう対応すべきかカリンが考えていると、タダスケがひどく思いつめた顔で話しかけてきた。

「カリンさん。虫のいい頼みだが、令子を助けに行ってくれないか。あなただけならダクトを通ってさっきの場所に戻れるだろう?」
「……何?」

 タダスケの言葉にカリンははっきりと眉をしかめた。彼の気持ちは分かるが、この世界の令子は彼の妻になる令子ではないし、カリンにとっても元雇い主ではあるがただそれだけの間柄でしかない。横島を放ったらかして助けにいくほどの相手かと言われれば、残念ながらNOだった。

「いや、あなたの言いたいことはわかってる。忠夫のことは文珠を全部使ってでも守るから」
「……」

 しかしさらに強く懇願されて、カリンは少し戸惑った。
 自分の妻とは別の人間だと分かっているのにそこまでするとは、よほど向こうの令子のことを愛しているのだろう。
 しかしそれを言うならカリンも自分の恋人の方が大事だった。彼が死んだらタマモと小竜姫も悲しむだろうし。

「……ん、小竜姫殿?」

 どう断るべきか言葉を選んでいたところで強力な同行者の存在を思い出し、カリンははたと手を打った。
 さっそく横島の胸元に視線を送って意見を求める。

「そうですね、行っていただいても構いませんよ。横島さんは私が守りますから」

 その返事には気負いや衒いは全くなく、それでいてカリンが全面的に信頼するに十分な覚悟と重みが感じられた。こうなればカリンにタダスケの願いを断る理由はない。

「わかった、ではお願いする」

 と影法師娘が立ち上がると、不意に斜め下からオレンジ色の球体が放り投げられてきた。横島の竜珠である。

「それ持ってった方がいいだろ。つーかおまえがケガしたら俺も痛いし」
「……そうだな、ありがたく預かっておこう。
 ただしおまえは何もできなくなるんだから下がってるんだぞ。ムチャなことしたら後でお仕置きだからな」

 カリンは笑顔でぶっそうなことを言ったが、それも少年の身の安全を思えばこそだ。横島にもそれは理解できたが、反射的にびくっと身をすくめたのは彼の性格を考えれば仕方のないことであろう。

「……フフッ。じゃあ行ってくる」

 カリンは最後にそう悪戯っぽく微笑むと、ダクトの排出口の板を壁抜けして元の位置に飛んで行くのだった。


 ―――つづく。

 なぜか筆が進んでしまったので上げさせていただきます。はたしてタダスケはみごとグーラーを落とすことができるのか!?<マテ
 そう言えばガルーダって攻撃力は高いですが防御力は低いんですよねぇ。神通棍のひと突きで胸部全体が裂けちゃうのはどうかと(^^;
 ではレス返しを。

○チョーやんさん
 お気遣いありがとうございます。今回も早めに上梓できましたー。
>おキヌちゃん
 令子さんは彼女には過保護ぎみですからねぃ。陰謀屋敷だと知ってて連れて行くわけはないと思うのですよorz
 霊能部話での出番を待ってて下さいませー。
>残留組は……平和ですなぁ
 突入組との対比を楽しんでいただけたなら幸甚であります。
 タマモンは頑張りますとも!

○通りすがりのヘタレさん
 なるほど、タマモはお揚げ神としての神界入りを狙ってるのかも知れませんな<超マテ
>グーラー
 このまま行けばタダスケは彼女のもとにたどり着けそうですが、そう簡単に現地妻なんか手に入れちゃったらつまらないですよねぇ(酷)。
>ヒャクメとおキヌちゃん
 ヒャクメは任務があるので出番確定ですが、おキヌちゃんは……出番あるといいなぁ(ぉ
>カリンと小竜姫様で連携を組めばメド姐さんってやばくね?
 普通にやったらメドさんに勝ち目はなさそうですが、彼女もえぐい手を使いますからねぇ。どっちが主導権を握るかで決まりそうですな。

○アラヤさん
 ご祝辞ありがとうございますー。
 タダスケは今のところ不幸ではありませんけど苦労はしてます。何しろお嫁さんがお嫁さんですからw
>横島も成長したなw
 須狩の正体知ってますからねぇ。仰るとおり懐に小竜姫さま居ましたしw

○whiteangelさん
 小竜姫さまはもう横島君にベタ惚れみたいですorz
 タマモがここまで料理上手くなる話ってわりと少ないんじゃないかと思ってますw

○遊鬼さん
>小竜姫様
 ガルーダがいると分かってて横島たちに任せっきりは不安だったんでしょうねぇ。お仕事と恋との比重は不明です♪
>おキヌちゃん
 筆者にも悪意はないんですが、状況とかキャラらしい行動とかを考えるとこういうことにorz
>美神さん
 まあ彼女としては3億円をゲットできればオールオッケーなわけですがw

○風来人さん
 お褒めいただきありがとうございますー。執筆意欲が増しますです。
>お揚げ坂
 女がめざそうとする道はしょせん坂道ですから!
>月の方々
 姫様に懐かしの地球料理をごちそうするためとかw
>タダスケ
 愛を証明するためにも頑張ってほしいものです。
 あんまり報われないような気もしますが(´・ω・`)
>ヒャクメ
 彼女は有能だからこそ仕事が早く終わりすぎて、それでヒマを持て余しているのですよー!

○シエンさん
 ご祝辞ありがとうございますー。
>小竜姫さま
 神魔族でありながら人間でも有りえないような成長速度……恐るべきは横島効果でありますな。
>小竜姫さまには決して持ち得ない強みを駆使して戦うのだ!
 本人にその気がないのに戦わされてますw
>覗神ヒャクメ
 いあ、ここは逆に考えるのです。つまり瘴竜鬼さまの怒りがそれほど恐ろしいものであると!
>次回
 予想は外しちゃいましたが、ご期待にはそえましたでしょうか。

○紅さん
>小竜姫の横島ひいき
 この世界の神さまや悪魔は思考パターンが人間とほとんど同じですからねぇ。乙女回路も同じようなものなのです!
>キス
 女の子としての恥じらいがあったのではないかと。
>タマモ
 お揚げは3要素の1つですからねぃ。家でおとなしくしてても意味ありませんし、当然の行動なのであります。
>無事帰ってきたら、伝説の稲荷料理でお持て成しですかね?w
 そうですねぇ。伝説のお揚げを習得するのはまだ先ですが、仇敵の南武グループをつぶしてくれたお礼というのは有ってもおかしくないですな。

○KOS-MOSさん
 原作と違って最初から罠だと知ってるので、令子さんも慎重になっております。タダスケが色ボケしたせいで原作と同じ状況に放り込まれましたけど(ぇ
>タマモの御揚げ魂
 は、これが将来妙神神社の目玉の1つになるわけなのですよー。
>タダスケ
 不幸といいますか苦労といいますか。
 おキヌちゃんか小鳩ちゃん辺りと結婚してればこんなしんどい目に遭わずに済んだのに(ノω;)

○アインスさん
 はじめまして、よろしくお願いします。高く評価していただけてるようで大変うれしいです。
 感想いただけると励みになるので、思ったことがありましたらぜひご遠慮なく書いて下さいませ。
 独自設定についてはなるべく原作から逸脱しないようにしているのですが、面白さを感じていただけてるようで安心しました。
>今作はまさか3股になるとは!!
 筆者自身もたいへん驚いております(ぇ
 魔鈴さんは好きなのですが、さすがにここからの追い上げは難しそうです(ノω;)
 でもいつかどこかでくっつく話も書きたいような(ぉ

○鋼鉄の騎士さん
>小竜姫さま
 今回は黒分なしでいってみました。台詞自体が1つだけでしたがー!
>撃墜したのが横島ってのがびっくりだが
 お互いに牽制し合っているのですよー。
 絵的には原作のタダスケ編その2でw
>具体的には文殊とか
 令子にバレるのが先か全部使い切るのが先か、どっちにしても不幸ですなw

○Februaryさん
>天罰
 茂流田と須狩は情状酌量の余地がありませんからねぃ。きっと姫様の正義の怒りが炸裂することでしょう……たぶん(ぇ
>今回こそは「須狩」に使うべきでしょ、タダスケさん
 ああ、ひょっとしたら両方に使って両手に花とかもくろむかも知れませんなぁ。
>治ったら横島じゃないしww
 酷ww
>お揚げ道
 どこまで行ってもきつい登り坂ですからねぇw

○炎さん
 はじめまして、ご祝辞ありがとうございます。今後ともよろしくです。
>館はあっさりクリアしそうな気が
 まともに戦えばそうなのですが、何しろ横島ズですからねぇ。
>タマモ
 まあ時間はたっぷりありますからw

○Tシローさん
 ご祝辞ありがとうございますー。
>よく考えると愛しい彼の懐に抱かれているわけですな
 今回台詞が少なかったのは、それにひたってたせいかも知れませんな。
>カプリス読み直すと
 おお、読み直していただけてるとは物書き冥利に尽きますです。
>横っちに本格的に惚れてから成長度が飛躍的に上がってる気が
 そう、乙女の恋のパワーは強力なのですよー!!
>つまり死んでも治らないのが横島クォリティか
 酷ww
 でも10年後のタダスケですらああですからねぇ。これだけ濃い経験をしたならちょっとは成長すべきだとも思うのですが、その辺の兼ね合いがなかなか難しいですな。
>お揚げ道を極めるとやはり横島家の台所は独壇場になるのでしょうか
 タマモはものぐさなので、気が向いたときしかつくってくれませんw

○山瀬竜さん
>そういえば、この話の美神さんは知らないんですよねぇ
 は、その通りであります。しかし隠さなきゃいけない分、逆にやりにくくなってるのがポイントなのですw
>正直原作よりも戦闘力が果てしなく上なのですが
 戦闘力の差が決定的(中略)なことは令子さんや横島君がいつも証明しておりますので、この先はそう一方的な展開にはならないかと思いますー。
>壊表記
 タマモの敬語とか神無の職人ぶりとかがあったので、疑わしきは付けておくということで付けました。

○読石さん
>おキヌちゃん
 状況を考えれば令子さんたちがおキヌちゃんを幽霊屋敷に来させるはずもなく……orz
>と言う事で今回の小竜姫さまの行動を肯定して見ましたが〜〜〜
 建前としてはその通りなんですけど、どうしてでしょうねぇw
>神無の姿が〜〜〜
 言われてみれば性格的に似通ってますねぇ。月警官引退したあとは料理店でも開くかも知れません(ぇ
>一体何年寿司の修行してたんだろ?
 月のテクノロジーで魂を加速(中略)といったところではないかと。

○ロイさん
 ご祝辞ありがとうございますー。
>今作はこの3人で確定かな??
 現在の状況ではその可能性が非常に高いのですが、ネタバレ禁止なので断定は致しませぬー。
>美神さん
 以前の小竜姫さまとはもう別神ですからねぇ。対応ミスもやむなしだと思うのですよ。
>成長の方向性が神族よりも魔族よりなのは
 これは横島君のせいなので、責任は彼が……ああ、もう取ることになってますねぇ<マテ

○HEY2さん
 ご祝辞ありがとうございますー。
 おキヌちゃんは……うぐぅorz
>これで実は市販品でしたー、なんて言ったりしたら逆に神展開かも
 市販品を加工しただけでタマモをあれだけ感動させたんだとしたら、まさに神業ですな。そっちの方が凄すぎです!
>美神さん
 大丈夫ですよー、タダスケさんが居ますから!

○内海一弘さん
 ご祝辞ありがとうございますー。
>おキヌちゃん
 ……はぅ(o_ _)o
>タマモ
 それはもう、何年かけようとも決して諦めはしませんとも!
>ヒャクメ
 そんなご無体なww

○ばーばろさん
>タマモンとヒャクメ
 シリアスばかりじゃ筆者が疲れ……もとい、GSらしくないですからねぇ。
>ヒャクメのダラケぶり
 いあ、これでこそヒャクメではないかと(酷)。
>ヒャクメの方が小竜姫さまに「逝き遅れ」って言われるんじゃ?
 正式に婚約発表したらそうなりますねぇ。
 それまでに得意の千里眼でいい彼氏を見つけられるんでしょうかw
>南武グループ編
 今回は前哨戦でした。次は原作と違う強敵も出て来ますですよー。
>「帰ったら逝くまでしゃぶってあげますから」
 うっわぁ姫様、たった数日で何ってけしからんことを仰るようになってしまいましたか(ノω;)
>「タマモンのお揚げ道 修行編」
 さすがに伝説のお揚げの作り方を具体的に描くのは無理っスw

   ではまた。

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