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「兄妹遊戯 第二話後編(GS+オリジナル)」

K (2007-09-06 01:13)
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 ――――MMMは巨大な組織である。
 そもそもMMMとはなんなのか?その誕生は今年の入学式から間もなくに起きた出来事に端を発する。
 そのころにはみんな新たな生活に慣れ始めており、それは忠夫も例外ではなかった。いつも通り午前の授業を寝て過ごした後、昼休みの教室でメガネと昼御飯を食べていた。昼休み開始のチャイムからすでに15分が経過し、今頃は『購買昼休み戦線』も終戦を迎えているだろう。教室には『学食昼休み戦線』に行った者はまだ帰ってきておらず、戦利品を手に帰還した戦士と弁当持参の者(主に女子)がいる。

「そーいや、聞いたかよ横島?」
「なんだ?」

 コロッケパン(3番人気)を片手に話しかけてくるメガネに対し、忠夫も戦利品であるカツサンド(1番人気)をかじりながら返事をする。ちなみに忠夫は日によって購買と学食を使い分けている。

「一年にすげーかわいい子が入ったんだってさ」
「へー。それは1−5の柊飛燕ちゃんのことか?」

 メガネの言葉に自身の情報を照らし合わせる。頭の中では入学式にチェックした一年生のかわいこちゃんの情報が飛び交っているのだろう。

「いや違うな。確かに1−5だけどよ」
「なぬ! 1−5にまだそんなハイスペックな人材がいたか? むう、俺のチェックから漏れた子がいるのか。それはいかん、今すぐ救出しなければ! で、どんな子なのよ?」
「その子もお前にだけは救われたくないだろうがな。すごいぞー、入学以来告白された回数は数知れず。しかもその全てを断ってるそうだ。しかもその中にはあの野球部の弄光もいたってよ」
「あのいけすかん自称モテモテヤローもか。顔がいいってだけでいい気になりやがって。ザマーミロってんだ」

 ケケケケといやな笑いを浮かべる忠夫。頭の中では弄光が無様に振られる姿が浮かんでいるのだろう。そんな友人の姿に少し引きつつもメガネは同意する。

「ま、弄光は取り巻き連中ともども頭の方はちょっとアレだからなあ。お前の気持ちもわからんでもない」
「だろ? 世の中間違ってるよなあ。と、話がそれたな。」
「ああ。その子は顔だけじゃなくて頭もいいらしくてさ。入学式で新入生代表の挨拶もしていたそうだ。人当たりも悪くなく、クラス委員として活躍してるってよ。すでに生徒会からもお呼びがかかっているそうだ。いいよねえ、容姿端麗・成績優秀・性格温厚。こんな子を彼女にできたらそりゃー人生バラ色だろうな。ん? どーした、横島?」

 メガネの言葉にガクッとうなだれる忠夫。新入生代表の挨拶とか、クラス委員とか、どっかで聞いたことがあったからだ、主に家で。ちなみに告白云々の話は初耳だ。

「す、すごい子だなー」
「だろ? お前がこんなハイスペックな子を知らないなんて、そっちも驚きだが」

 とりあえず適当な相槌を打つ忠夫に不思議そうに返事をするメガネ。いや、メガネの言うことは間違っている。忠夫はその子のことをよーく知っている。十六年間を共に過ごし、一緒に風呂にだって入ったことがあるのだ。
なんとなくこれ以上この話を続けてはならない思い、話題を変えようとする。

「そりゃあ俺にだって見落としはあるさ。ところで……」
「ところで、そのハイスペック少女の名前なんだが……」

 しかし忠夫の努力はむなしくメガネはそのまま続ける。

「……横島桃っていうんだ。お前と同じ名字だよ。もっとも、中身は180°違うけどな―」
「へ、へえ……すげー偶然だな」

 そう言うしかない忠夫。そんな忠夫に違和感を感じたのかメガネは問いかけてくる。

「本当にどーした、横島。お前が文句の一つも言ってこないなんて……はっ、まさか横島桃となんか関係があるんじゃなかろーな!」
「ギクッ」

 なかなか鋭い推理力をみせるメガネは身を乗り出して聞いてくる。忠夫はあからさまにビクッと体を動かしてしまい、ついでに口にまで出している。冷や汗がだらだらだ。

「イ、イヤ。ソンナコトハアリマセンヨ。ヨコシマモモナンテキイタコトモミタコトモナイ」
「その反応だけで十分だ。さあ、吐け。貴様と横島桃との関係は何だ! まさか妻です、なんて言わんよなあ!!

 鬼気迫るオーラを発しながら忠夫に迫るメガネ。忠夫はまだ結婚できる年齢ではないとか、兄妹であるという可能性に気付かないのは桃の噂と目の前の男とのあまりの違いがなせる業か。こんな似てない二人を血縁関係とみなせるほうがどうかしている。

「ええっと……」

 言い淀む忠夫。素直に妹だ、と認めてもよいが面倒なことになる気がする。己の本能が告げている、やめておけと。

「じ、実は遠い親「失礼します、横島忠夫は居りますでしょうか?」……どーせこんなこったろーと思ったよドチクショー!」

 実は遠い親戚で向こうからあまり関わってくるなと言われている、で通そうとした忠夫の努力は途中で水泡と帰す。忠夫は今でもなかなかいい言い訳だったと思っているが、運命はそんなに甘くなかった。
 ガラリと教室の扉を開けたのは件の横島桃。彼女は教室をキョロキョロと見まわして忠夫の姿を確認するとそちらへ歩いていく。

「忠兄、学校で会うのは初めてだね」
「ああ、俺もここまでタイミングのいい妹を持って幸せだよ」

 忠夫の横にいるメガネにペコリと頭を下げてから話しかける桃。忠夫は涙を流しながら返事をする。

「? まあいいや。それでね、朝言い忘れてたんだけど、今日は飛燕のうちでご飯食べるから夕飯の用意できないの。だから夕飯代を渡しに来た」

 はい、と500円玉を渡してくる。それをいまだに涙を流し続けながら受け取る忠夫。それで桃の用事は終わったはずだが帰る気配がない。桃はスッと忠夫の顔に手をのばして。

「なんで泣いてるかわからないけど……元気出してね」

 手で涙をぬぐうと、そのまま頬にキスをしてくる。そしてキャーと言いながら走り去る桃。恥ずかしいならやらなきゃいいのに。
 さて、桃としては単純に煩悩少年にキスすることで元気を出してほしかっただけだろうが、忠夫にとっては死刑執行のサインに等しい。教室中から湧き上がる殺気に意識の方も飛びかける。最も近くで見ていたメガネが言う。

「そうか、妹か。まるで似てない兄妹だな」
「あ、ああ。よく言われる」
「仲もよさそうだ。良過ぎるくらいに、な」
「それもよく言われる」

 メガネから発せられるプレッシャーがだんだんと強くなっていく。教室にいた他の男子生徒たちもジリジリと間合いを詰めてきた。ちなみに女子生徒たちはこそこそと内緒話する者たちと教室を出ていく者たちがいる。前者は今見た光景についての憶測を話し合っており、後者は他のクラスへ噂を広げに行ったのだろう。

「そういえばお前の両親は海外だったな」
「ああ、お前には話してたっけ」
「つまりお前はあの子と二人暮らしなわけだな?」
「そういうことになるな」

 忠夫の方もだんだん頭が冷めてきた。もはや狼狽はない。気分は死刑執行前の死刑囚、ブラックチェリーを前にした正義の味方か。忠夫は今、あきらめの境地に立っている。

「つまり今みたいなことを毎日のようにしてもらってるわけだな?」
「いや、毎日ってわけじゃあ……!?」

 失言に気づくがもう遅い。忠夫はメガネの後ろにスタ○ドを幻視する。あっさりとあきらめの境地から転がり落ちた忠夫は逃げ道を探すが、他の男子生徒たちはすでに二人を取り囲んでいる。

「つまり、た・ま・に・はしてもらってるわけだな!?」
「イ、イヤ…………」

 訂正しようにも不可能だ。メガネと男子生徒たちのプレッシャーは頂点に達した。

「お前はいい友人であったが……お前の妹がいけないのだよ」
「メガネ! 謀ったな、メガネー! ……じゃなくて、うそつけ! 絶対俺だけが悪いと思ってるだろーがぁぁぁ、ぎゃーーー!!」

 忠夫はその日カツサンドを完食できなかった。


 そんなことが何度もあって、やがて出来上がったのが『もっと/もっと/桃ちゃん』、通称MMMである。
 結成当初30名以下だった構成人数は今では校内だけで500名以上からなると言われており、校外を含めると4ケタを突破し5ケタに届こうとしているとかいないとか。そこまで組織を大きくし、尚且つまとめ上げるメガネの手腕がすごいのか、それともそれだけの人数を引き付ける桃がすごいのか。
 活動内容は主に桃の生活の安全確保と桃への告白者の妨害である。つまりは桃はみんなで愛でる存在であって、抜け駆けすんなよコノヤローということである。前者はともかく後者は桃としてもありがたいので組織は半ば公認となっている。
 MMMは巨大な組織であり、その中には女性もいる。彼女らの活動は男では入れないような場所で行うことが多い。……ちなみに彼女らがMMMに所属している理由の多くは『桃ちゃんが男(主に忠夫)に汚されるのを見たくない』であり、男たちと同じ理由を持っている者は少ないとだけ言っておこう。まあ、一週間ほど前からそういう理由を持つ者が少しだけ多くなったのだが。
 噂によると最終目標は忠夫の抹殺らしい。まあ、そんなことは桃が許さないので実行には移されていないが。


〜兄妹遊戯〜
 第二話後編『横島兄妹と元番長』


 桃が教室の扉を開けるとそこには血の軌跡を描きながら宙を舞う己の兄の姿が見えた。

「…………は?」

 思わず間抜けな声が出る。そりゃあいきなり実の兄が重力に逆らっている姿を見れば頭も真っ白になるだろう。桃が呆然としている間に飛行物体は床に着陸、いや墜落する。

「た、忠兄! 大丈夫!!」

 ドカッという音に我を取り戻した桃は急いで墜落地点に向かう。

「忠兄、忠兄!」
「う、ぐ……」

 犬神家になっていた忠夫を床から引っこ抜き、抱きかかえて必死に呼びかけるが忠夫はうめき声を漏らすだけ。どうやら意識はすでにないようだ。

「ば、馬鹿な。なぜ桃ちゃんがここにいる! 廊下の奴らはどうした!」

 メガネが眼鏡をずらして思わず立ち上がり叫ぶ。教室内の他の面々も現れた桃を見て動揺しているようだ。

「外の人達ならあたしがお願いしたら道を開けてくれたわよ」

 桃が忠夫を抱きかかえたまま言う。
 廊下のメンバーも最初はリーダーの命令通り桃を通すまいとしていたのだが、桃が「お願い。通して」とニッコリ笑顔で言ったところ、モーセの如く道が出来上がった。彼らが道を開けた理由が歓喜だったにしろ恐怖だったにしろ結果に変わりはない。MMMの者たちにとって守るべき対象であり、同時に最も面倒な相手がこの場に現れてしまったのだ。

「ねえ、先輩」
「な、なんだい?」

 桃が顔を伏せたまま、やさしい声でメガネに話しかける。

「あたし、前回言いましたよねぇ。MMMとかいうのを作るのは勝手だけど忠兄に手を出すのは止めてって」
「あ、ああ。確かに言った」

 非常にやさしい声なのにメガネや他の面々は冷や汗が止まらなくなっているのは、桃から発せられる静かなプレッシャーのせいか。

「なのになぜ忠兄は血を流してうめき声をあげているんですか?」
「そ、それはだな……」

 窓ガラスにピシッとひびが入った。桃から発せられているプレッシャーが物理的な影響力を持ったようだ。誰もが押し黙り気絶する生徒もいる空気の中、行動できるのはよっぽど鈍感なやつかそれなりに修羅場をくぐったことのあるやつだけである。

「横島桃」

 後者である元番長が話しかける。冷や汗が出ていることは彼も同じだがそれでも立派な胆力といえよう。

「なんですか、番長。だいたい、なんでこんなところにいるんですか?」
「俺はもう番長ではないだろうが。ここにいるのはMMMに協力を依頼されてな……そんなことはどうでもいいか」

 にらめつけてくる桃に対し、律儀に自身に対する呼び名を訂正し、この場にいる理由を告げる元番長。だがすぐに首を振り本題に入る。

「MMMはお前たちの今朝の会話からお前がこいつにチョメチョメなことをさせられたという結論に達した。こいつも明確な説明をせず言い淀むだけで、ますます俺たちの疑いが深まってな。俺がこいつを殴ったところにお前が現れて今の現状になったわけだ」
「チョ、チョメチョメって……」
「具体的にはナニを拭かせたといったところだ。もしかしたらそれ以上のことがあったかもしれんが」

 顔をしかめながら説明する元番長と彼の言葉に顔を真っ赤にする桃。確かにあんなことはあったが別にいくところまでいったわけではない。それにどちらかといえば加害者は桃の方である。

「そんなことは一切ありません! 確かに体を拭いたりしましたけどそれはあくまで汚れを落としたかったからです!」
「だがナニを……」
「拭きました! ええ、拭きましたとも!! でもその時忠兄には意識がなくてあたしが勝手にやったことなんです! だから悪いのはあたしなんですよ!」
「む……」

 桃のやけくそともいえる告白に押し黙る元番長。だが桃の叫びはまだ続く。

「大体、あなたになんの権利があって忠兄を殴るんですか!」
「それは簡単なことだぞ」

 あっさりと答える元番長。あまりにもあっさりと返すので桃は思わず元番長の顔を見る。元番長は桃の瞳を覗き込んできた。


 ――――桃と元番長との出会いは一カ月ほど前に遡る。
 そのころにはMMMの暗躍のおかげで入学以来からの桃に対する告白者もいなくなってきていた。しかし未だその組織の存在を知らない桃はただ面倒臭いことが減ったと思っていただけであった。告白をいちいち断るのも大変なのだ。
 そういうわけで久々に放課後に空き時間ができた桃は繁華街に訪れた。本当なら飛燕も誘うところだが生憎と彼女は薙刀部に行っていて来られなかった。その日は彼女の祖母が来るためサボるわけにはいかなかったのだ。そのことを少々寂しく思いながらも久々の放課後ライフを楽しむ桃。気がつけば日はとっくに暮れていて桃がそろそろ帰ろうかと思ったその時、その音を聞いたのである。
 桃が聞いたのは人が殴りあう音。ここら辺はここ数年強力な番長の元うまくまとめられているため争い事が少ないが、最近よそから来たグループがいろいろと悪さをしていると噂で聞いていた桃はその関連だろうとあたりをつける。無視してもよかったがもし巻き込まれているのが一般生徒だったら助けた方がよかろうと思い、音を頼りに近づいていった。
 やがてたどり着いたのは電車の高架下にある空き地。繁華街からほど近いが入り組んだ先にあるためあまり人が来ない場所である。そのためよく不良たちのたまり場になっていた。
 そんなことは知らない桃はその空き地で行われている喧嘩を見ていた。いや、目の前で行われている1対約30の喧嘩はもはや喧嘩とは言わずただのリンチだ。実際、ひときわ大きな人影が四方八方からくる攻撃を避けきれずに食らい、片膝をついた。その人影がうめき声を出す。

「ぐぅ……話し合いに来ただけだったのだがな」
「俺たちにここらを出て行けって話か? ふざけんじゃねえよ。病院のベットで一人で来たことを後悔すんだな」
「ああ、見逃してもらえると思うなよ。こっちは7人もノされて頭にキてんだからよぉ」
「卑怯なんて言うなよ? てめぇみたいな化けもんには大人数で行かねえとなあ」

 会話を聞く限り、大男がここに屯(たむろ)していたグループに立ち退きを求めに一人で来たのだろう。で、それを拒否されてボコボコにされているというわけだ。

(馬鹿ねぇ。たしかに一人で来たら相手は警戒を解いて話を聞きやすくなる。でも交渉が決裂したらどうなるかくらいわかるでしょうに。ああいう輩との交渉は背後に戦力をちらつかせながら行うのが基本だってお母さんも言ってた)

 桃は冷静に考える。どうやら一般生徒はおらず、危惧した事態にはなっていないようだ。やられているのは番長?ただ一人(見たことがないのでわからないが)。さて、助けに入るべきか否かと考えたところで番長(仮)の言葉が聞こえてくる。

「なるべく話し合いで済ませたかったんだ。あんたらの人数は多いし、まともにぶつかったらこちらも被害が出るからな。あいつらは喧嘩っ早いから話し合いには不向きだし連れてくるわけにはいかなかった。今でもこの判断は間違ってなかったと思っている」
「あめえよ、お前」

 番長(仮)の判断を一人がそう評価すると他のやつらも次々と番長(仮)を馬鹿にしていく。聞くに堪えない罵詈雑言が飛び交う中、それでもよく通る声がした。

「そう、確かに甘い判断ね。上に立つ者としては失格だわ。でも……」

 みんな声がする方を向く。そこには制服を着た女子高生の姿が。場にそぐわない人物の登場にどう反応していいかわからない、そんな皆を知ってか知らずか桃は続ける。

「…………うん、嫌いじゃない」

 その後は特筆すべきことはない。桃が母親仕込みの体術でグループの全員をのしたとか、番長(仮)はやっぱり番長(真)だったとか、そんなものだ。


 そしてその事件から三週間後。桃が久しぶりに下駄箱に入っていた手紙に書いてあった通りに、放課後体育館裏に行くとそこには番長の姿があった。

「……ケガはすっかり治ったようですね」
「ああ、おかげさまでな」

 番長の後ろには他の生徒が数人いるのが見える。彼の部下だろうか。おまけに番長の纏う雰囲気がとてもじゃないが告白という感じではない。

「なんの用でしょうか」
「お前に決闘を申し込む」

 ある程度予想できた答えが返ってきた。ため息をつきつつ、とりあえず聞く。

「……理由を聞いても?」
「簡単なことだ。お前の戦いを見て、お前と戦いたくなった。それだけだ」

 非常にシンプル、これ以上ない理由だろう。桃はスカートの下に短パンをはいていることを頭の中で確認して構えをとる。

「はあ……あなたなんか助けるんじゃありませんでした」
「と、言いつつもヤル気のようだな」

 ニヤッと笑って番長も構えをとる。おそらくは空手に類するものだろう、構えに隙はない。そんな番長に桃もニッと笑って言う。

「そりゃあ、あんな理由を言われちゃ断れませんよ」

 その後も特筆すべきことはない。だがその日以来、桃は一部の生徒から番長と呼ばれるようになっただけだ。


 ――――そんなことを、桃は思い出した。
 番長はまだ桃を真っ直ぐに見ており、その瞳に揺らぎはない。しばらく見つめあったのち元番長はフッと笑って視線を外す。

「なに、お前ほどの女が近親相○などというところに堕ちるのは忍びなくてな。その元凶を断とうと思ったわけだ」
「近親そう……っ!?」

 元番長の行動に違和感を感じたものの、その疑問はそれ以上のインパクトに打ち消される。

「ないナイないナイ、そんなことはぜったいにありません!!」
「それはよかった」

 体全体で否定する。そんな桃を見てまたフッと笑う元番長。その顔がとてもうれしそうに見えるのは桃の錯覚だろうか。

「実はお前と出会って決闘するまでの三週間、お前のことをいろいろと調べさせてもらった。するとお前が告白を断る時に使う理由の中で一番多いのが『私の中の評価で兄より上の男性はいません』ということが分かってな。その兄というのがどんな奴かも調べたよ」

 元番長から出た暴露話に何とも言えない顔をしてしまう桃。元番長はそんな桃を見て苦笑する。

「悪いな。敵を知り己を知れば百戦危うからず、というだろう? で、だ。調べた俺は愕然とした。その兄というのが校内では知らぬ者はいないセクハラ男。小学校のときからスカートめくりを繰り返し、その煩悩は減るどころか今ではパワーアップしている。成績は悪く、欠席も多い。ムードメーカーではあるが同時にトラブルメーカーでもある。顔がいいわけでもなければ金持ちというわけでもない。街で女性に会ってはナンパを繰り返す……」

 次々とあげられる横島忠夫という男の評価に顔をしかめる桃。教室の中にはうんうんと頷いている奴らも大勢いる。そんな彼らにますます顔をしかめる。

「重ねて悪いな。だが俺の中の横島忠夫の評価はこんなもの、正直に言って最低に近い。そんな男が妹に手を出したとMMMから聞いたものだからすっかり信じてしまった。とうとうそこまで堕ちたかこの外道、とな」
「えらい評価やなー」

 桃の腕の中から声がする。いつの間にか復活した忠夫が自身に対する評価を聞いていたようだ。

「忠兄、いつの間に……」
「んー、近親なんたらってあたりからかな」

 驚く桃から離れて立ち上がり、元番長の前に行って苦笑する忠夫。

「よくぞまあ、そこまで調べられたなあ」
「なに、蛇の道は蛇というやつだ。間違っていたか?」

 視線を交わす二人。身長差があるので忠夫が見上げる格好だ。

「いや、それで合ってると思うぞ」
「それは良かった」

 お互いに軽口を叩きあう。聞こえてくる言葉以上の会話が二人の間で行われているような気がする。桃が口をはさめずにいると忠夫が急に桃の方を向く。

「桃。こいつが俺を殴ったこと気にしないでやってくれ」
「え……」
「殴られた本人が気にしないんだからおまえも、な?」

 いきなり話を振られたので頭が追い付かない。よくわからないまま頷く。

「あんがとな」

 そう言って再び元番長と視線を交わしだす。しばらくしてどちらともなくフッと笑うと。

「悪いな」
「いや、こっちこそ悪かった」

 桃にはなぜ二人が謝り合うのかさっぱりわからなかった。忠夫は今度は今まで事態を見ていたメガネに視線を向ける。

「なあ、もういいか?」
「え? ああ、お前の疑いは晴れたようだし、桃ちゃん来ちゃったし、ぶっ飛ばして少しスッキリしたし、授業始まるし、このへんかな。おーい、MMM解散だー」

 メガネがそう号令をかけるとみんな自分の席や教室に戻っていく。そんな中で元番長だけがその場に残っていた。

「あんたは戻らんのか?」
「横島桃に最後に一つだけ聞きたいことがあってな」

 自分の名が呼ばれたことに気づいた桃が顔を向ける。それを確認した元番長は忠夫を指差しつつ。

「こいつのどこがいいんだ?」

 心底不思議そうに聞いてくる。指を差された忠夫は「うるせー」と言っているが、それでも桃の返事に興味があるのかこちらを見てくる。桃はそんな二人を見て思わずクスクス笑ってしまう。

「む、おかしいことを言ったか?」
「いえいえ、別にあなたの質問がおかしかったわけではありません。むしろ当然の質問と言えます」
「そうか」

 忠夫は二人のやり取り、というよりは桃の発言に対していい顔をしていない。

「そうですねえ……答えはあなたが言った忠兄に対する評価の中にありますよ」
「む?」
「へ?」

 桃の答えに二人して首をかしげる。そのしぐさがまたおかしくてクスクスと笑ってしまう。

「……わからん」
「俺も」
「わからないならわからないでいいですよー。さぁさぁ早く自分の教室に帰ってください」

 元番長の背中を押していく桃。彼は首をかしげながらも自分で最後と発言したとおり、おとなしく去っていく。去っていくその背中を見ている桃にかかる声がある。

「桃ちゃんも戻らないでいいの?」
「ああっ」

 メガネの言葉に反応した桃の顔にはすっかり忘れてましたと書いてある。急いで戻ろうとする桃にさっきから首をかしげていた忠夫が声をかけて止める。

「なあ、さっぱりわからん。ヒントだけでもくれ」
「だーめ」

 返事は無情だった。うーん、と悩む忠夫に桃は去り際に小さく一言。

「忠兄はそのままが一番なんだから気付かない方がいいよ」
「え? よく聞こえんかった」

 バイバーイと去っていく桃。さらに首をかしげる忠夫にメガネが言葉をかける。


「……どうでもいいが、簀巻き状態でシリアスは止めた方がいいぞ」
「余計な御世話じゃ!」


あとがき
 皆さんこんばんは、Kです。
 最後までR15指定かインモラル指定をつけるか迷った『兄妹遊戯』第二話後編をお届けします。直接的な描写もないし、伏字だから結局なにもつけませんでしたが。
 今回出てきた元番長。実はプロット段階ではただのゲストのチンピラでした。でも書いてるうちにどんどんカッコ良くなってきて……急きょ人物設定を考えて、桃との出会いも考えました。すると、えらい漢度が高い人物に仕上がりました。話の内容もだいぶ変わって、変わってないのはオチだけ。なんで?
 あるキャラが話に上がっていますが、横島兄妹が通う学校はどこかのトラブルな高校ではありません。
 次回はようやくブラドー島編です。原作キャラがやっと出てきます。でも桃はあまり出てこないという罠……。がんばれ横島君、君が主役だ。


ではレス返しです

○レンジさん
>あれを期待しちゃっていいんですか?
期待されているのは魁!!○塾ですか?

○怒羅さん
>桃ちゃんが某運命の最強妹に!?
彼女は料理が得意ですが、桃は最悪です(笑)
>って言うか、会員番号五桁ってMMMはどんだけ構成人員がいるんだ!
最初メガネはそのくらい増えたらいいな〜くらいにしか考えてませんでした。今ではそれが実現しようとしています。

○DOMさん
>あ〜、横島兄妹の周りって普通の人がいないんだねぇ…
原作でも横島君のまわりに普通の人間っていましたっけ? ああ、小鳩ちゃんがいたか。でも彼女、貧乏神が憑いてるしなあ。
>そういえばMMMって、『もっともっと桃ちゃん』の略か?
アタリです。ひねりがなかったかな?
>元ネタはシャッフルだな。
すみません、私シャッフルはほとんど知らないんですよ。MMMの元ネタは『まぶらほ』からとりました。

○ZEROSさん
>しかしやはり横島と名のつく者の周りには、濃い連中ばかり集まるのだなぁと思ってみたり。
類は友を呼ぶといいますしね。
>ところでもうカオスが来日してるのかな?
来日しています。次回の活躍?をお楽しみに。

○紅蓮さん
>兄弟仲良いなぁ〜♪
良過ぎるという意見も(笑)
>クラスメイトによる理不尽な暴力ウザイなぁ。
そう言わないであげてください。彼らも我慢したんです。でも毎回見せつけられたら、そりゃあ沸点も低くなります。桃が係わらなければ彼らもいいクラスメートです(友人、ではない)。

〇○さん
>良くいるよな〜ふだんから声が大きいので目立つやつ。
いますよねえ。横島兄妹が目立っているのはそれだけではありませんが。

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