インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始▼レス末

「GS美神’77 極楽大作戦!! リポート3(GS)」

北条ヤスナリ (2007-09-02 19:47)
BACK< >NEXT

「なんでこうなったんだろ……?」

 灯りの消えた部屋の隅っこで、毛布に包って寝転んだ横島がそう一人ごちた。
 ちらりと横を見ると、布団の中でスースーと可愛らしい寝息を立てて寝ている、自分と同年代の美神美智恵がいた。
 その美智恵を、『いつもの』横島らしくない無表情で見ながら、夕方からのできごとを思い返した。


   『GS美神’77 極楽大作戦!!』
      〜昭和のGS達【その3】〜


 あの後、行く当てのない横島は逆ナンパされるままに美智恵についていった。
 そして連れていかれたのは、下町の雑然と住居が集まる一角の、お世辞にもあまり綺麗とは言えないアパートだった。
 現代で横島が生活しているアパートより少しマシと言った感じで、美智恵が住んでいる場所にしては意外だと思った。
 美智恵の住んでいる部屋は二階で、一番奥が美智恵の住む部屋だった。
 入り口のドアの横には洗濯機が置かれており、部屋に入ると横島の部屋と同じく台所と四畳半の部屋だった。
 ただ横島のアパートと違うのは、このアパートは風呂もあった。
 部屋は綺麗に片付けられており、勉強用と思われる小さい机に小物入れと姿見、14インチTVにオーディオセットがあり、部屋の隅にはちゃぶ台が立てかけてあった。
 だが、女の子の部屋にしてはあまり飾り立てられておらず、物が少ないように感じた。

「今お茶入れるから、適当に座って待ってて」

 部屋に入るなり、美智恵はそう言うと台所でヤカンに水を入れてガスコンロの火をかけた。

「えーと、じゃあお邪魔します」

 いきなり女の子、さらにあの美智恵の部屋に来たためか、緊張した面持ちで部屋に上がり、隅に立てかけてあるちゃぶ台を部屋の中央に置き、胡坐をかいて座った。

「あの、隊……ああちゃう……! えと……美神さん……は、一人暮らしなんすか?」

 普段の呼び方の「隊長」と呼びそうになり、慌てて言い直して美智恵に聞いた。

「ええそうよ。 勉強のために上京して来たの」
「いきなり見ず知らずの男を部屋に上げちゃって良かったんすか?」
「ええ、喫茶店のコーヒーって高いから、別に味に拘らないならインスタントで十分でしょ?」
「いえ、そういうことを聞いてるんじゃなくて、世間体とかいきなり押し倒されるとかなんとか……」

 予想外の回答に肩をこけさせながら、横島にしては常識的な質問をした。

「ああ、そっちのこと? その辺は大丈夫よ、曰く付だったせいか今このアパートに住んでるの私だけだし、横島君ってそういうことできなさそうなタイプだもの」

 そう言いながら、並べた二つのカップにインスタントコーヒーの粉を入れた。

「それに、押し倒してきたら『潰す』だけだもの」

 振り返り、にっこり微笑みながら言った。

「そうっすか……」

 横島は心なし息子をかばいながら青い顔で返した。

「あの、ところで今このアパートが曰く付だったって言いましたけど、なんかあったんすか?」

 強引ではあるが、話題を変えるために気になったことを聞いた。

「ええ、ここの土地は戦時中は防空壕だったそうなの。 で、空襲の時に爆弾が直撃して人がたくさん死んだそうよ。
 それから戦争が終わった後、しばらくしてからこのアパートが建てられたそうなんだけど、夜な夜な出てのよね。 その時死んだ人たちの霊が」

 美智恵は湯が沸いたヤカンをコンロから持ち上げ、カップに注ぎながら言った。

「なんで建てる前に祓っておかないんかな?」
「供養の塚があったんだけど、建てる時に御祓いもしないで取り払っちゃったのが原因ね。
 まったく、建築業者もしっかりしてほしいわ」

 お盆にコーヒーの入った二つのカップとお茶請けを乗せた美智恵が、少し怒ったように言いながらちゃぶ台に運んできた。

「その霊達はどうしたんすか?」
「私が祓ったわ。 で、お礼の代わりに格安で住まわしてもらってるの」

 コーヒーを一口飲みながら美智恵は言った。

「ふーん、じゃあ美神さんはもう……げふんげふん! ……えーと、霊を祓えるってことは霊能力者なんすか?」

 横島は危うく「もうGSになってるんですね」と言いそうになった。
 未来の美智恵のことを知っているせいか、非常に話をし辛いことこの上ない。
 そのうちボロを出してしまうんではないかと、内心ヒヤヒヤしていた。

「ええ、そうよ。 正確にはGSの卵ね、今現役のGSのところで正義の味方になるために修行中よ」
「へえ、そうなんすか」

 正義の味方? あれで?

 笑顔で話す美智恵に、現代の美智恵を思い浮かべて横島は内心でそう冷たくつっこんだ。

「……ん? 無免許で除霊したんすか?」

 横島は内心のことはおくびにも出さず、ふと浮かんだ疑問を口にした。

「まさか。 ここに住むようになったその日の夜に、いきなり出てきて襲ってきたから祓ったのよ。
 不動産屋とここの大家さんも霊が出るなんて言わなかったのよ。
 ……まあ、なんか態度がおかしいなーとか、このアパート変な霊場になってるなーとかは思ったけど」

 美智恵は眼をそらし、苦笑しながら言った。

「いや、そういうことはもっと疑った方が良いっすよ?」
「だって、家賃がとっても安かったんだもん!」

 美智恵的に重要なことらしい。

「でも、後でちゃんと謝罪してもらって家賃も安くしてもらって、あと二度とこんなことしないようにお仕置きもしたから万事解決なのよ!」
「……そうっすか」

 なにやら不穏な単語も聞こえたが、スルーすることにした。

「今度はこっちから聞くけど、横島君はやっぱり芸人の卵なの?」
「いや、だから違うって言ってるじゃないすか……」

 そんなに自分は芸人に見えるのだろうか?
 てか、そんなに期待するような眼で見ないでください。

 ちょっぴり傷ついた横島だった。

「じゃあ、どこかの学生さん?」
「え、えーと……」

 横島は返答に困った。 下手に自分の時代の身元で話すと、後々ボロが出て厄介なことになりかねない。

「が、学生じゃないっすね……」

 この時代では。

「あら、もう自立して働いているの?」
「い、一応GSの除霊事務所で働いて……いたっす」

 本当は過去形じゃなくて現在進行形、いや未来形か?
 どちらにしろ、この時代では無職だ。

「あ、やっぱり横島君も霊能力者だったんだ?
 普通の人にしては体から出てる霊力がやたら強いなー、って思ってたのよ」
「え、ええ、でも俺ただの荷物持ちのバイトだったんで、霊能力はあんまし強くないっすよ?」

 もしもこの言葉を現代のGS達が聞いたなら、横島は袋叩きにされていただろう。
 だがこの言葉は横島の本心だった。

「身を守れるくらいの霊能力は持ってるんでしょ?
 ねえ、今フリーなら良いバイト先があるんだけど、どう?」
「はい?」


 ――それからどこをどうなったのか、美智恵がどこかに電話をかけて、いつの間にか明日の朝に美智恵の修行先にバイトの面接に行くことになっていた。
 朝に美智恵の住む部屋に来るように言われたが、訳あって住むところが無いと言うと、なら泊まっていけと強引に押し留められた。
 おまけに夕食と風呂まで頂いてしまった。
 ちなみに、美智恵が風呂に入っている時、何故か覗く気が起きなかったのでしなかった。

「話には聞いてたけど、昔っから強引やったんだな」

 現代の唐巣から聞いたとおり、かなり強引でマイペースな性格のようだった。

「……まさか良い様に使おうってんじゃねえだろうな?」

 アシュタロスとの戦いの時のことを思い出し、横島は暗い感情を込めた声で呟いた。


 はっきり言うと、横島は美神美智恵のことが好きではなかった。
 アシュタロスとの戦いで嫌ってほどその理由があった。
 アシュタロスと本格的に戦いが始まると、いきなり出てきたと思ったらスパイをしろと無茶な命令を出して敵陣のど真ん中に放り出し、人類の敵として報道もさせられた。
 さらに自分の友人知人に家族――偽者だったのだが――を人質にして動揺を誘い、自分を切り捨て敵ごと殺そうとまでして来た。
 なんとか命からがら戻ってきたら、労いの言葉もなくいきなり取り調べを受けた。
 強くなりたいから特訓したいと言ったら、相手にしている暇はないと言われ、遠まわしに余計なことは考えずに黙って待ってろというありがたい言葉までもらえた。
 そして、横島が隠れて特訓をしているところを見て使えそうだとわかると、手のひらを返したように横島を中心とした作戦――横島の主観では新兵器のような扱いを受けた。
 それから一番大変な時にはベスパの妖毒で倒れ、人質と同じ立場に陥り、そのまま戦いが終わるまで全く役に立たなかったという体たらくぶりだった。
 あげくに全てが終わった後も、その色々なことについての謝罪の言葉をまだ聞いていなかった。
 いや、ひょっとすると必要なことだったから謝罪する必要はないと思われているのかもしれない。
 人類の敵としての報道に関しては、オカルト技術を用いた報道で横島はスパイとして潜り込んだ工作員だったという認識を民衆に植えつけることでなんとか事なきを得た。
 もしも生活のフォローがなかったら、本当に救われなかっただろう。
 ――ちなみに、日本政府から高額の報酬が支払われたのだが、横島本人ではなく保護者である両親の元に送られて厳重に管理されていたりする。


 そのため、横島が美神美智恵に対して好意を持てる要素は皆無はおろか、マイナスをぶっちぎっていた。
 普段は令子とおキヌの手前、はしゃいでみせたりして普通に接してはいるが、内心ではかなり複雑だった。
 雑談している時も、いつものように装いながら美智恵のことを馬鹿にするような言動をしていた。
 美智恵が過去に戻ると同時にのほほんと腹を大きくした姿で出てきた時、令子に言った「気をしっかり」というのはどちらかと言えば自分に言い聞かせるための言葉だった。
 気をしっかり持ってなければ、その場で襲い掛かりそうだったからだ。
 そして生まれたひのめに対しては、自分が失意のどん底の中、のほほんと腹を大きくしてもどってきて出産した子供のため、色々と複雑な思いはあった。
 だが、基本的に子供に対しては底抜けに優しい横島は、ひのめに関しては別として考えてなんとか割り切り、普通に可愛がることができた。
 しかしそのひのめも、現代に戻ったときに今回のことで普通に接することができるか自信がなかった。
 横島は美神の女達に酷い目にしか合わされていないような気がしてならなかった。

「……この時代の隊長にあれこれ文句を言うのは筋違いなんだろうけどな……」

 隣で眠っている美智恵にとっては起こる『かもしれない』未来のことだ。
 そのため、この美神美智恵は横島の知る美神美智恵とは別人と言ってもいい。
 それにまだ自分をどうこうするとも決まった訳でもないし、一宿一飯の恩もあった。
 横島は小さくため息をついて美智恵から顔を逸らし、明日のことを思って顔をしかめた。

「この時代でバイトか。 知ってる人のところで下手なことしたら歴史が変わ……」

 歴史が――変わる?

 自分のその言葉に、心臓がドクンと大きく跳ねた。

 もしも、元の時代に戻らずにこのままあの戦いにまた挑むことができたら?

 ――またルシオラに会うことができる?

 それだけじゃない、うまくやれば助けることもできるかもしれない

 ――歴史を変えるなんて、そんなこと許されるのか?

 この女も未来で同じことするんだ、何も構うことはないだろう?

 ――でも、何かがひっかかるんだ。

 何を気にする必要がある? 歴史改竄はこの女だけの専売特許じゃないだろ?

 ――そうかもしれない、しかし……

 しかし?

 ――22年も待ってたら、俺はその時は四十のおっさんだぞ!? いくらなんでも年の差が開きすぎじゃー!!

 何を今更そんなことを言ってやがる? ルシオラは0歳の女の子だったんだぞ? むしろ年の差は望むところだろうが?

 ――違う、違う!!

 いい加減認めろよ、お前は……

 ――違う! 俺は! 俺は……!!


「俺はロリやないんやーーーーー!!」

 自分自答していた横島が思わぬ回答に行き着いてしまい、ガバっと身を起こして大声で己の答えを否定した。

「んー……、なによこんな時間にそんな大声出して、近所迷惑でしょー……
 横島君がロリコンなのはわかったから静かにしてよねー……、明日は早いんだからー……」

 横島の声で目が覚めたのか、美智恵が眠い目をこすりながらそう言って、もぞもぞと布団をかぶりなおしてまたすぐにスースーと寝てしまった。

「違う…! 違うんや……! ワイはロリやないんや……!」

 横島は再び毛布に包まり、エグエグと泣きながら一晩中ぶつぶつと呟き続けたのだった。


 翌朝、朝食を食べた後家を出て電車に乗り、しばらくの間電車に揺られて目的の駅に到着して降りた。
 電車に揺られている間、美智恵は始終色々な話題を話しかけてきたので、適当に話を合わせてやり過ごした。
 学校はどうしたのかと聞くと、今日は日曜日でしょと言って笑われてしまった。
 今向かっているところはどこなのかと聞いても、ついてからのお楽しみと言って教えてくれなかった。
 駅からしばらく歩き、大きな敷地のある見覚えのある屋敷が見えてきて、美智恵は何事も無く門の前に立っている警備員に挨拶して入っていった。
 横島はその後ろをなにやら挙動不審な感じでついていった。

「どうしたの横島君、緊張してるの?」
「ええ、まあ……」

 美智恵は説明もなしにいきなりこんな豪邸に連れてこられて物怖じしているのだろうと思った。
 だがそれは少し違った。 確かに緊張してはいるが、それは物怖じではなく警戒だった。
 そして――

「あら〜、その子が美智恵ちゃんの言っていたバイト希望の子ね〜」

 応接室らしい無駄に広い部屋に入ると、そこには横島の知る間延びした声がした。

「出た、六道のオバハン……」

 予想通りと言うか知っている厄介な人物、六道冥華を見て思わずぼそっと呟いた。

「おばさん〜〜〜〜〜??」
「めっちゃ美人なお姉さんに会えて忠ちゃんすげー感激やなー!」

 冥華から放たれた殺気と霊気に、横島は米つきバッタのようにへこへこしながら言った。
 今横島の前にいる冥華は、まだ20代半ばほどの年齢だった。 おばさん呼ばわりされるにはまだ少し早いだろう。
 現代の冥華は痩せた感じの女性だったが、この時代の冥華はやや丸みを帯びたかわいらしい印象のある女性だった。
 若いころから和服を着ているようだった。

「横島君、いきなり先生に失礼なこと言わないでよね。 確かに四捨五入すれば三十の行かず後家だけど」
「美智恵ちゃん〜〜、後で〜〜〜〜たっっっ〜〜〜〜ぷり〜〜〜、お仕置してあげるわね〜〜〜〜」

 背景に凄まじい炎を出し、額にでっかい#桁を貼り付けた冥華が美智恵に良い笑顔でそう言った。

「そんな!? 先生待ってください、私なにも間違ったこと言ってませんよ!?」
「ほほほ、美智恵ちゃ〜〜ん? 命の保障が〜〜〜、できなくなるわよ〜〜〜〜?」

 さらにでっかい#桁を増やした冥華が、あうあうと言い訳(?)する美智恵にそう言って黙らせた。

「それはともかく〜〜、貴方のお名前は〜〜?」

 冥華は何事も無かったように横島に向き直って聞いてきた。

「よ、横島忠夫っス」

 横島は怯えた感じで答えた。

「私は〜、美智恵ちゃんの霊能の指導をしている〜、六道冥華よ〜、よろしくね〜」
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっす」

 自己紹介して会釈してきた冥華に、横島も頭を下げながら答えた。

「美智恵ちゃんが昨日電話で言っていたように〜、中々面白い子ね〜。
 早速だけど〜、横島君は〜、GSのところで働いていたそうだけど〜、何ができるのかしら〜?」
「あ、そういえば私もまだ横島君の霊能力について聞いてなかったわね」

 「なんで私が……」などとぶつぶつと言っていた美智恵も、横島の霊能力に興味があったのか聞いてきた。

「俺が前にいたところの人が、道具を駆使して除霊するスタイルの人だったんで、俺はその道具を運ぶ係だったんであんまり霊能力は強くないっすよ」
「ええ、それは聞いたわ。
 で、どんな霊能力なの?」
「ちょっと待ってください……、よっと」

 美智恵に促され、横島は右手に霊波を集中して霊波の盾、サイキックソーサーを出して見せた。

「あら〜、器用ね〜、霊波を集中して盾を作るなんて〜」
「俺はサイキックソーサーなんて呼んでますけど、ただ霊波を集めて固めただけの基本技なんで、別にそんな大層なもんでもないっすよ」

 横島には霊波を一箇所に集中するという霊能力の基本でしかないと思っていた。

「基本かもしれないけど、そこまで霊波を収束、具現化させられる術者なんてそういないわよ。
 それよりも……」

 美智恵が眉を吊り上げ、

「横島君に霊力の扱い方を教えた人は何考えてるの?
 身体中の霊的防御を一箇所に集めちゃってるから、他の部分がほとんど無防備になってるじゃないの。
 たしかに盾の強度は高くなるかもしれないけど、弱い攻撃でも盾以外のところに一発当たったら死ぬわよ!?
 死に急がせてるみたいじゃない……!」

 令子が言ったことと同じことを言い、横島に霊力を教えた相手に対して怒りを顕にした。

「いや、教えてもらった時は切羽詰ってて時間もなかったから、短時間で覚えられるのはこの霊能力しかなかったんすよ」

 横島はGS試験の時を思い出しながら答えた。

「それでも、なんで後で霊能力の矯正をしないのよ!?」
「教えてくれた奴は俺を庇っていなくなったんで、後で俺の雇い主……ってか師匠?に見てもらったら、もう霊的中枢(チャクラ)の回路が完全に固着しちゃって矯正のしようがないとか言われちゃって……」

 霊的中枢の回路とは、霊能力を行使するために霊体に備わっている言わば機関のことだ。
 この回路は個人によって扱える能力が異なり、回路は前世や遺伝に才能、そしてもっとも大きく関わるのがやはり修行によって構築していくことだった。
 令子はGS試験終了後に、横島の収束、具現能力はあまりにリスクが大きすぎるので危険と思い矯正を試みた。
 だが、霊能力を教えた人物、心眼が神通力で横島の霊的中枢に組み上げた回路は急ごしらえとは言え強固で、矯正の間もなく固着してしまっていた。
 令子は横島の霊能の相性と才能の観点から見ても、このまま修行を進めても良いと判断したのだった。

「う、悪いこと聞いたわね」
「いえ、気にしてないっす。
 ……あいつはただ元の場所に還っただけですから」

 GS試験終了後、横島は小竜姫に心眼のことで謝罪した。
 小竜姫はバンダナに一時的に自分の竜気と人格の一部を移しただけで、バンダナが消滅した時にその竜気と人格、そして記憶も自分の元に還って来たと告げた。

 貴方と共にいた心眼は滅びた訳ではないです。 だから、思いつめないで下さい。

 小竜姫の一言に、横島は救われた気持ちだった。
 ……まあその後、霊力を回復させるためとは言え、女風呂や女子更衣室を覗いて回ったことできっつい仏罰を食らわされたが。

「その盾以外にも〜、他に何かできるのかしら〜?」

 暗い空気になりそうなところで、冥華の間延びした声が先を促した。

「ういっす、もう一つは……」

 横島はサイキックソーサーを体内に戻し、今度は霊波の篭手を出して見せた。
 それを見た美智恵は驚いた顔をし、冥華はあいかわらずの笑顔でいた。

「霊波を固めた篭手っす。 俺は栄光の手(ハンズオブグローリー)って呼んでるっす。
 ある程度形を変えられるんで、普段は霊波刀として使ってるっす」

 篭手型から掌から真っ直ぐ伸びた剣の形にして見せた。

「あら〜、私は霊波刀は〜、前に人狼族の人が使うところを見たことがあるけど〜、人間が使ってるところは初めて見たわ〜」

 美智恵は驚きで言葉も無く、冥華は面白い手品を見たような感じで面白そうに言った。

「でも、俺ってソーサーとこれしかできないんすよね。
 回路が収束、具現に特化しすぎてて、精霊石震動子(クォーツ)に多くの霊波が送れないから主な機械式の道具の性能を十分に発揮できないし、陰陽術や魔術みたいな霊術も霊力の効率が悪くなるだけだからやめた方が良いって言われちまいました」

 令子は横島に文珠だけに頼らせないために、様々な道具の使い方と霊術を教えてみた。
 結果は霊波の収束、具現に特化しすぎているため、精霊石震動子のような霊波を送って使用する道具はうまく性能を発揮できず、また術式に則って行使する霊術とは相性が悪く、うまく習得することができなかった。
 結局、地力の霊力を伸ばしてソーサーと栄光の手、そして文珠を効率良く使用できるように戦術面を鍛えていくことになったのだった。

「やっぱりその霊波刀も霊的防御が集中しちゃってるわね」
「ええ、おまけを言うとソーサーと併用して使おうとするなら、それぞれ割合に応じて出力を調整しないといけないし、一度に出す数を増やすほど制御も難しくなるんすよね」
「それ、かなり使いどころ難しいわね」

 美智恵は横島の答えに顔をしかめた。

 横島の収束、具現能力を説明すると、外に出せる霊力を100%の数値で表すとして、霊波刀又はソーサーを一つだけ出したなら100%の威力のままで使うことができる。
 しかし、もしも霊波刀とソーサーを同時に一づつ出した場合、霊波刀50%、ソーサー50%と言った具合に総計100%以内になるように調整しなければならなかった。
 さらに低出力でソーサーを同時に五つ出すなどすると、調整と維持のために意識を集中しなければならず、戦闘に支障が出てきてしまうことになる。
 横島はこの制約の中で戦わなければならなかった。

 横島の霊力の流れを観察していた冥華が、ふとあるものに気付いた。

「あら〜? もしかして〜、横島君はなにか護符を持ってるのかしら〜?
 わずかだけど〜、守護結界みたいな霊波が出てるわ〜」
「えっと、これのことっすか?」

 横島はシャツの下の首に下げているペンダントを取り出しながら言った。
 横島が今身に着けているペンダントは、つい最近令子から「御守だから肌身離さずに身に着けてなさい」と言われて渡されたものだった。
 細いチェーンの先に小さい翡翠色の宝石のような玉がついており、宝石の中に六芒星の魔方陣が描かれていた。

「少し見せてもらっても良いかしら〜?」
「いいっすよ」

 横島はそういうと、ペンダントをはずして冥華に手渡した。

「少し借りるわね〜」

 そう言うと、冥華の影から一体の式神、霊視能力を持つクビラが飛び出してきて冥華の頭の上に乗った。
 そして、そのままペンダントをじっと観察し始めた。
 美智恵が横島にそっと近づき、冥華の邪魔にならないように小さい声で言った。

「あれが六道家の式神、十二神将よ」
「あれがそうっすか、師匠から聞いたことがあります」

 六道冥子と初めて会った時に、六道の十二神将はかなり特殊な式神で滅多にお目にかかれるものではないと令子から聞いたことがあったので、とりあえず初めて見たという風に装った。
 本当は冥子とは何度も仕事しているし、その度にプッツンにも巻き込まれまくっているので、全十二神将のことはある意味では冥子よりも詳しかったりした。
 おまけを言うと、十二神将達に冥子の次に懐かれていた。
 冥華はしばらく観察した後、クビラを影に戻して横島にペンダントを返した。

「ありがと〜、横島君〜、この護符はどこで手に入れたのかしら〜?」

 ペンダントを首にかけている横島に冥華は聞いた。

「ついこの前師匠からもらったんすよ。 どこで手に入れたのかまでは聞いてないっす」
「そう〜、少し視てみたんだけど〜、かなり高度な守護結界が施されているのはわかったけど〜、あまりに高度すぎてよくわからなかったわ〜」
「そうなんすか?」

 令子が横島に渡した護符は、Dr.カオスに依頼して金に糸目をつけずに作らせた特注品だった。
 痴呆が酷いとは言え、カオスが丹精込めて作った護符は非常に効果が高く、またその分高度な技術が用いられていた。
 現代の霊能道具の技術者でも理解はおろか、詳しく解析できるものはいないだろう。

「たぶん〜、普段は霊波が出ないように最低限の稼動状態になっていて〜、一定以上の霊的攻撃に反応して防御結界を張る仕組みになってると思うわ〜。
 私は〜、こんな護符を見るのは初めてよ〜」
「ふーん、横島君の先生もちゃんと横島君の身を心配してたのね」
「……」

 美智恵にそう言われても、横島は信じられない気分だった。
 今まで令子は、負傷する確率の高い仕事の時以外には、横島に身を守るための道具を渡したことがなかったからだ。
 信用されてるのか、それともどうでもいいのか――おそらく後者なのだろうが……
 その令子が、つねに自分の身を守るための道具を与えるとは思えず、かなり戸惑った。

「それで〜、他にも何かないの〜?
 一発〜どか〜〜んって、正義のヒ〜ロ〜の必殺技みたいなの〜」
「え……? あ、えーと……あと文……あ……! いえ、もうないっす!」

 考え事をしていたため、、横島は文珠のことを言いそうになりながらも、なんとか押し止まった。
 もしも文珠のことを口にしたらと思うと、内心横島は冷や汗を流した。

 現代でアシュタロス戦後に令子が珍しく真剣な顔で、安易に文珠のことを他人に教えることの危険性を説いて教えられた。
 横島はアシュタロスを筆頭とする上級魔族達に全然通用しなかったから大した物ではないと思っているが、それは比べる相手が悪すぎるからだ。
 文珠は人界ではあまりに強力かつ、簡単に扱える心霊兵器だ。
 そのため一部の、この場合横島の知人達とGS協会、戦いに参加した各国の高官や霊能大家などのオカルト関係の人間には知られていたが、規模の小さい一般のオカルト団体やGS達には公開されていないことだった。
 もしも一般層にまで公になったなら、文珠の取引を持ちかけてくる者も出てくれば、横島を害してでも奪取しようとする者、唯一生成することができる横島自身を拉致しようとする者も出てくるかもしれない。
 横島本人には知らされていなかったが、各オカルトアイテムの研究機関とアメリカ合衆国を筆頭とする国々から、横島の身柄の引渡しを日本政府に強く要求されていた。
 しかし、横島に恩のある義を重んじる神魔族達――アシュタロス戦の際、妙神山で篭城していた神魔族達は、横島が逆天号の中で暴れてくれたおかげで生き延びることができたと思っている――が、各方面に仲裁を行い、睨みを利かせてくれたので事なきを得た。
 美神親子と他のGSたちも、アシュタロス戦の事態が収束すれば次はGS協会を含む人間達が横島の文珠……いや、それだけでなく戦闘で大きく貢献した霊能力者達を狙うだろうと予測を立てていたので、神魔族だけに頼らずそれぞれ自分のコネを使って横島とその身内に危険が及ばないように安全策を講じていた。

 だが、この時代では横島を擁護してくれる者は誰もいない。
 もしも今文珠のことを知られたら、冥華はあらゆる手段を用いて横島の身柄を押さえようとするだろう。
 現代の冥華も娘の冥子とくっつけるために、あれこれ工作を行っているという前科(?)もあるし。

「そう〜、大体〜横島君のことはわかったわ〜。 それだけ霊能力が扱えるなら問題はないわ〜。
 アシスタントとして〜雇わせてもらうわね〜。 はい〜、これ契約書ね〜」
「はいっす」

 横島は冥華から契約書を受け取り、契約内容と書類におかしな呪いがかかっていないか確認をする。
 現代で冥子と一緒に仕事をさせられた際、横島に不利な契約内容の上、ご丁寧にエンゲージの呪いまでついていた時の反省だった。

「ところで〜横島君〜」
「はいっす」
「貴方の前の雇い主で〜、師匠だった人のお名前を教えてほしいんだけど〜?」

 そこにいる美神美智恵さんの娘さんの美神令子さんです。

「え、えーと……」

 あやうく素で答えそうになりつつもなんとか押しとどまったが、どう答えるべきか言葉が出ず、冷や汗をだらだらと流した。

「な、なんつーか、アレな事情がありまして、その〜……」

 意味不明なことを言って時間を稼ぎながら必死に考えるが、良い考えが全然浮かんでこなかった。
 その様子を見た美智恵は渋面になり、

「横島君、もしかして貴方……」

 バレた!?
 そんなことがあるはずがないのだが、横島はそう思いビクッと体を震わせた。

「もしかして貴方、モグリのGSのところで働いていたの?」
「あらあら〜、駄目よ〜、オカルト防止法違反は〜と〜っても罪が重いのよ〜?」
「は、はははは、ま、まあそんなとこっす……」

 どうやら勘違いしたのか、口々に的外れなことを言われた。
 だが、横島は何故か美智恵達の言葉を否定することができず、心の中で涙した。

「なんか横島君を雇ってた人って、お金が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、好き勝手な生活しまくって、世の中ナメてて、わがままでゴーマンで根性曲がってて、酒飲みで朝弱くて気の向かないことは何ひとつしよーとせず、一攫千金しか頭になくて、税金なんてぺぺぺのぺーって感じで、横島君を丁稚扱いして超薄給でこき使いまくってたってイメージがあるんだけど?」
「あんた見てきたんかよ!?」

 あまりにも的を射てしすぎているイメージに、横島は思わず大声でつっこんだ。

「嘘っ、適当に言ってみたんだけど大ビンゴ!?」
「え〜っと、少し概ねかなりってかほとんどっつーか、全く当たってるっていうのか、まあそんな感じの人っす……」
「つまり、今言った人だったってことね?
 横島君、そんなとこ辞めてきて正解よ。 本当、GSの風上はおろか風下にも置けないわね。
 全くそいつの親の顔を見てみたいわね」

 憤慨する美智恵に、「鏡を見てください」とか「あんたも似たようなもんじゃねーか」と言いたい衝動を懸命に抑える横島だった。

「安心してね〜横島君〜、私はそんな酷いことはしないから〜」

 冥華はそう言うが、横島はどちらかと言うと令子よりも冥華の方が怖かったりした。

「横島君にも〜事情があると思うから〜、今はこれ以上は聞かないわ〜。
 それはともかく〜、美智恵ちゃん〜この後すぐにお仕事に行くから〜、準備をお願いね〜」
「わかりました」

 冥華は仕事の話に切り替え、美智恵に準備を命じた。
 横島は美智恵が準備のために部屋を出て行くを見計らってから、冥華に向き直った。

「あの六道さん、一つ聞きたんですけどいいっすか?」
「なにかしら〜?」
「俺みたいなぽっと出のどこの誰かもわからないぺーぺーを雇っちゃって良いんすか?
 GSなんて危険な仕事なんですから、特に……
 俺としては雇ってくれるんでありがたいんすけど……」

 横島としては、契約書にサインをする前にどうしても聞いておきたいことだった。
 アシュタロス戦以前の横島ならなにも考えずに二つ返事で冥華に雇われていただろうが、最近は重要な事、特に命に関わる物事ははっきりさせるようになっていた。
 今回の場合、いきなり来た自分を信用第一のGSのアシストに加えるのだから、なにかしら理由があるはずだった。

「あら〜、横島君は〜意外としっかりしてるのね〜」
「ひやかさないで下さい」
「そうね〜、私は〜弟子の美智恵ちゃんを信用してるの〜。
 その美智恵ちゃんが連れてきた子だから〜、きっと大丈夫よ〜」
「でも、なんかあった後じゃ遅いっすよ?」
「その時は〜、それを容認した私の責任ね〜。
 でも〜美智恵ちゃんは〜、結構人を見る目があるのよ〜?
 私も〜、今横島君と話をしてわかったわ〜。 横島君は〜信用できる子だから大丈夫よ〜」

 そう言われて、横島は何も言えなくなった。
 横島は少しの間目を閉じて考えた後、改めて冥華に向き直り、

「すみません、しばらくご厄介になります」

 そう言って、深々と頭を下げて契約書にサインをした。

「こちらこそよろしくね〜。
 横島君には早速で悪いんだけど〜、今から行く仕事に一緒に来て頂戴ね〜」
「わかりましたっす」

 横島は美智恵の仕事の準備を手伝うために立ち上がった。


続く


 天才天災は、忘れた頃にやってくる。
 どうも、お久しぶり過ぎの投稿です(´・ω・`)
 他の方達の作品を読んで、共感したり楽しんだり凹んだり(悪い意味ではないですよ)して、色々と考えさせて頂いて、こつこつプロット考え直して書いたり書き直したりしてたら、いつの間にかこんなに時間が経ってるとは……
 次はもっと早く投稿したいと思います。
 あと、霊能力や横島君の能力は独自設定になりますので、すみませんがあしからずご了承ください。
 もの凄く遅れましたがレス返しを。

〇金平糖さん
 >脳みそでこねくり回したイメージを文章にする→違うものができあがる。
 >腕のない物書きなんてそんなもんですよ(´Д⊂
 >あまり考え過ぎないで勢いに任せて書いてます、僕の場合。
 ボクの場合はどうもガチガチに考えすぎてしまうようです。
 もしもレスで矛盾点とか指摘されたらと思うともう……(´・ω・`)

 >美智恵さんの若い頃ってすっごい可愛いんですよね、個人的に…
 やっぱり美智恵さんは可愛いです。 もちろん現代の年増の美智恵さんも可愛いと思いますw

〇加茂
 >確かにオチは読めるでしょうが、十分魅力的なSSですよ。ママゴンとか…w
 >続きを期待してるので頑張ってください。
 どうもありがとうございます、そう言って頂けるとマジ嬉しいです(TД⊂
 なんとか完結目指して頑張ります。

〇紅白ハニワ
 >物語は漫才とは違う
 >オチよりも内容が全てなのだ
 >BY ハニワ
 目からウロコが落ちましたです(´;ω;`)
 この言葉を励みに頑張りたいと思います。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭


名 前
メール
レ ス
※3KBまで
感想を記入される際には、この注意事項をよく読んでから記入して下さい
疑似タグが使えます、詳しくはこちらの一覧へ
画像投稿する(チェックを入れて送信を押すと画像投稿用のフォーム付きで記事が呼び出されます、投稿にはなりませんので注意)
文字色が選べます   パスワード必須!
     
  cookieを許可(名前、メール、パスワード:30日有効)

記事機能メニュー

記事の修正・削除および続編の投稿ができます
対象記事番号(記事番号0で親記事対象になります、続編投稿の場合不要)
 パスワード
    

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze