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「GS美神’77 極楽大作戦!! リポート4(GS)」

北条ヤスナリ (2007-09-09 19:43/2007-09-10 19:20)
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「なんか前に同じことが遭ったような気がするのは気のせいか?」

 除霊対象の大きなマンションの前で、横島は激しい既視感(デジャヴ)を感じていた。
 しかも、とてつもなく嫌な感じの―――

「どうしたの、横島君?」
「いえ、なんでもないっす」
「じゃあ〜、もう一度お仕事の確認をするわね〜。
 今回は〜、このマンションに憑いている〜、たくさんの霊達の除霊と〜、霊達を呼び込む元になってるフロアに〜、これ以上霊達が来ないように結界を張ることよ〜。
 まずは〜、霊達の中をかい潜って〜、問題の場所に結界を張ってから〜、建物全体にいる霊達の除霊をするわ〜、良いわね〜?」
「「わかりました(っす)」」
「じゃあ〜、頑張りましょうね〜。
 ……それから美智恵ちゃん〜」
「はい」
「お仕事が終わった後〜、お仕置きが待ってるから楽しみにしてなさいね〜?」
「い、いやあああぁぁーーーー!?」

 美智恵の悲痛な叫び声をバックに、横島たちはマンションの中に入っていった。


   『GS美神’77 極楽大作戦!!』
      〜昭和のGS達【その4】〜


 今日美智恵達が行う仕事は、新築のマンションに突如押し寄せてきて住み憑いた雑霊と浮遊霊、そして悪霊の大群の除霊と建物の浄化作業だった。
 最新とユニークさをコンセプトに、さらに試験的に風水技術も用いて設計されたのだが、専門の風水師ではなく建築士が風水をある程度勉強しただけの知識で設計したため、意図せず陽気ではなく陰気を呼び込んでしまうデザインになってしまった。
 建設中の間は作業員達がいたので、人間の気に陰気が散らされて溜まることはなかったのだが、マンションが完成後に、人の出入りが少なくなったわずか十日程で陰気の溜まり場となり、近隣の様々な霊達が引き寄せられてしまった。
 マンションのオーナーはGSを雇う見積もりを立てたところ、悪霊達の巣窟となった現在のマンションを完全に除霊をするとなるとランクの低いGSでは危険な上、たくさんの人員と費用が必要となるので、ランクの高いGS一人に依頼した方が費用も成功率も高いと判断した。
 どうせ頼むならと、ランクのもっとも高いランクSのGSで、実力と歴史の長い六道家に依頼した。
 依頼された冥華は、美智恵の修行も兼ねて依頼を受けたのだった。

「で、作戦としては問題の元になってる階に行って、私が結界符を貼り付けて結界を張るまでの間、先生が霊達の相手をするってことになってるの。
 でも、いくら先生でもたくさんの霊達を相手しながら、結界を張るために無防備になってる私までガードするのは難しいそうなの。
 タイミング悪くて今先生の部下のGSに手の空いてる人がいなかったし、ヤエさんもしばらく他の用事でいないし、スケジュールの変更もできなかったから、横島君が来てくれたのは正直ありがたいわ」
「ヤエさん?」
「先生付きのメイドさんで、強い霊能力者の人よ。 今度紹介するわ」
「美人ですか? 美人ですよね!? 美人なんですね!?
「それは会ってからのお楽しみよ♪」

 横島は奇妙な三段活用で美智恵に迫り、美智恵はそんな横島をうまくスルーした。

「く、美人のメイドさんとお近づきになれるなんて、ここはええ職場やなー」

 横島はそう言って荷物の整理を再開した。
 美智恵はそんな横島を少しの間無言でじっと見た後、作業を再開した。
 今横島は六道邸の霊能道具保管庫で、美智恵に仕事の概要を聞きながらリュックに必要な道具を詰めているところだった。
 現代の令子の所有しているオカルトグッズは多岐に渡って集められており、あらゆる事態に対して対処できるように想定されていた。
 しかし、この六道邸の保管庫は令子以上に道具の種類があり、高いお札も多くあった。
 この保管庫にあるオカルグッズの総計はいったいいくらの値がつくのか計り知れなかった。

「えーと、これはいらなくて、これはいるかな。 こいつはどうしようかな?」
「一応簡易結界は持ってった方がいいっすよ、いざとなった時の避難場所として」

 簡易結界の縄を持って悩む美智恵に、横島はそう言った。

「私はそんな弱気な考えは持ちたくないんだけどね。
 やっぱりほら、GSは背水の陣の構えで、不退転の決意を持って敵を倒すような心構えでいかないと」
「いや美神さん、退路はつねに確保して余裕を持って挑みましょうよ。 でないと命がいくつあっても足りないっすよ?
 ……美か……いえ、師匠の受け売りですけど」

 現代の美智恵とはまったく違う考え方に、横島はかなり戸惑った。

「横島君も先生と同じこと言うのね」
「俺の知り合いのほとんどが同じ考え方で挑んでますよ」

 横島の知り合いで今の美智恵の言ったことを実際にやっているのは、よく食事をたかりに来る背の低い三白眼の戦闘狂(ウォーモンガー)だけだった。

「わかったわ、結構かさばるけどこいつもお願い。
 次は破魔札と吸引符ね。 今回は霊の数が多いから多めに持ってくわよ」
「あ、美神さん、相手の数が多いならこっちの拡散型の破魔札の方がいいっすよ。 通常のお札に比べて威力は劣りますけど雑魚相手なら十分っすよ。
 吸引符も吸引力よりも吸引容量の多い奴の方がいいっすよ」
「私、こっちの一点集中型の威力のある奴の方が好みなんだけどね。 やっぱり武器は一撃必殺、一発昇天でないと」
「どこの対艦巨砲主義者っすか……」

 現代の美神親子の道具の使い方は適材適所で、自分の趣味で道具を選んだりはしない。
 横島はこの少女が本当に効率一辺倒で反則技で泣く子ももっと泣かし、悪魔も大泣きさせる冷酷非常な氷の女王様で年増姑怪獣の美神美智恵なのか疑わしくなってきた。

「それにしても、横島君って霊能具に凄い詳しいのね」
「はあ、さっきも言いましたけど、美……師匠の除霊スタイルが道具使いだったんで……
 準備とか整備とか運搬とか全部俺がやってたんで、気づいたら詳しくなってました」
「……なんで泣いてるの?」

 横島は現代でのことを思い出し、心の汗が思わず頬を伝った。

 令子が仕事の準備と称して保管庫を引っ掻き回すどころか、逆さにしてぶちまけるようにして必要な物を探し出し、その後片付けを全て押し付けられ徹夜で片付けたことがあった。
 ――そして片付いた直後にまた散らかし、徹夜明けなのに仕事に引っ張れていったりもしたが。

 整備をしておけと言われ、神通棍や霊体ボーガンを綺麗に磨いたのだが、指先でこすって「まだ埃がついている」と言ってシバかれたこともあった。
 ――姑みたいなことしてると小皺が増えますよという呟きを聞かれ、そのまま一昼夜折檻されたりもした。

 運搬よろしくと言われ、力士よりも重い道具の山を持たされ、標高の高い険しい山を登らされたり悪霊たちと追いかけっこさせられまくった。
 ――これはいつものことだからもうどうでも良いのだが……いや、良くないか。

 ――俺、なんであんなとこにいるんだろう?

 改めて自分のことを振り返り、世の不条理を噛み締めた。

「……横島君、結構苦労してたのね」

 美智恵はそう言いながらも、ひょいひょいとお札をリュックに入れていた。

「……あの、ところで美神さん」
「なにー?」
「やたら高いお札ばかり詰め込んでますけど、それ思いっきり報酬額オーバーしてないっすか?」

 横島の言うとおり、強力な数千万単位のお札ばかり詰めこんでおり、予算のことを全然考えていないようだった。
 もしも横島が令子の元で一円でも予算オーバーしようものなら、次の日の太陽は拝めないだろう

「予算は全部先生持ちなんだから、バンバン良いお札使って修行しないとね♪」

 やっぱりこの人は美神さんの母親なんだな……

 娘の令子も同じ事をするだろうから、横島は思わず頭を抱えた。
 ……いや、令子だったら使わずにそのままがめるかもしれない。

「このこと、六道さんは知ってるんすか?」
「さあ? 先生予算管理とかってかなりルーズだし、道具の補充申請書もしっかり見てないみたいだから気づいてないかも」
「美神さん、そういうことするのやめましょうよ? 六道さんにバレたら後で目ん玉飛び出るくらいの金額を請求されるかもしれないっすよ?」
「う……」
「それに、そんなことばっかりしてると……俺の師匠みたいな人間になっちゃいますよ
「な、何故かしら、それだけは人として絶対に嫌!って感じるのは……?」

 横島の言葉が美智恵の胸を貫き、美智恵は異様な不安に襲われた。

『お金こそ正義よー!!』とか言って、正義の味方じゃなくてお金の味方になっちゃうっすよ!?」
「……!!??」

 令子の口調を真似て言ったこの言葉は美智恵的に効いた。 もう断末魔砲もかくやという程に。
 美智恵はがくりと両手両膝をつき、打ちのめされたように大きく項垂れた。

「横島君……、その冗談かなりきっついわよ……」
「でも、今の台詞はうちの師匠の座名の銘っすよ? 金銭欲が霊力源の人でしたし」
「うそ、本当に……!?」

 事実、令子は「世の中金よー!」と叫んで気合と一緒に霊力も出し、テロリストを一蹴したことがあった。
 美智恵はプロのGSで金にシビアな人間は見たことはあったが、霊力源になるほど執着心が強い人間は初めて聞いた。
 そう言う横島は煩悩が霊力源だったりするが。
 ……もしも今その人物が自分の血の繋がった娘だと知ったら、美智恵は発狂するかもしれない。

「く、たしかに横島君の言う通りだわ……」
「そうっすよ、美神さん! 立派な正義の味方なるために、もっと謙虚に常識を持ちましょうよ!」

 と、説教をしながらも、内心では今のうちに少しでも性格を直させれば、現代に帰った時美智恵の性格が良くなることで、少しは令子の性格も良くなるかも、と言う下心があったりした。

「そうね、私は正義の味方になるんだもの! ……だから、そのためにも少し道具をもらって修行にあてましょう!」

 そう言って、またひょいひょいとリュックにくそ高いお札をつめ始める美智恵に、だあぁ!と横島はこけた。

「美神さん、正義の味方はそんなことしないっすーーー!?」
「だって除霊道具ってとっても高いのよ!!
 仕送りだけで買うのは逆立ちしたって無理なんだから、ずっと先生のところからもらうしかなかったのよ!?
 横島君は私に除霊道具なしでどうしろって言うのよ、ねえ!!」
「逆ギレ!? てか、ずっとがめてきたんかい!?」

 美智恵は開き直ったのか、子供のような理論を振りかざして横島に詰めよった。

「し、しかしっすね……!」
「……ねえ、横島君」

 さっきとは一転、いきなりしおらしい態度に変わり、美智恵は横島の手を両手で取り、

「実は私の家、GSの家系なんだけどちょっとした理由で今貧乏なの。 横島君、お願い今だけ見逃して……」

 横島を上目遣いに涙眼で見上げ、横島の手を両手で包み込むようにして豊かな胸元――それもノーブラ――に押し当てた。

「いや、でもっすね……」
「お願い、先生には秘密にしておいて……」

 横島はその柔らかい感触と暖かさにドキドキしながらも、なんとか反論しようし、

「今回だけっすよ……」
「さすが横島君、大好きよ♪ ふふ、やっぱり男なんてちょろいもんね♪

 結局悲しき漢の性に負け、折れてしまった。
 ……最後の呟きは空耳だと思いたい。

「そう言えば美神さん、一つ聞きたいんすけど」
「なにー?」

 横島は返事をしながらもひょいひょいと高いお札を詰め込む美智恵を、半ばあきらめたような気分で見ながらずっと思っていたことを口にした。

「実は風の噂で、六道の頭首はよく自慢の式神を暴走させて破壊の限りを尽くし、六道の頭首が通った後はペンペン草も残らないってのを聞いたことがあるんすけど……、本当っすか?」

 この噂は現代で聞いた噂で、たしかに言いえて妙だと思った。
 それについては身をもって知り尽くしているし……
 冥子はああだったが、先代である母の冥華はどうなのだろうか?

「ホホホ、ナニ言ッテルノ横島君? 私ノ先生ヨ? ソンナコトアル訳ナイジャナーイ」
「美神さん、頼みますから俺の目を見て普通に言ってください……」

 横島から大きく顔を逸らし、カタコトで喋る美智恵を見て、「ああ……、やっぱりこっちもか」と色々とあきらめたのだった。


 それから準備を済ませた美智恵と横島は、黒塗りの大型のリムジンに乗って待っていた冥華と共に、今回の仕事場であるマンションに向かった。
 現場の様子を視察に来ていた依頼人に挨拶をしてから、再度仕事の内容を確認し、冥華が美智恵にお仕置き宣言をしてからマンションに突入を開始した。
 入り口から中を見ると、荒らされ放題の建物内を数え切れないほどの霊達が縦横無人に飛び交っており、それを見た美智恵と横島は顔をしかめた。

「先生、お願いします」
「バサラちゃん、お願いね〜」

 冥華は美智恵に返事を返す代わりに、丑(うし)の十二神将のバサラを影から出した。
 バサラは影から出ると、ウモーと吼えて(鳴いて?)から、大きく息を吸い込み始めると同時に多くの霊達を吸い込み始めた。

「じゃあ〜、バサラちゃんがお腹一杯になる前に〜、早く目的地にいくわよ〜」

 冥華は美智恵と横島にそう言って、影から卯(うさぎ)の十二神将のアンチラを出して隣に従え、率先して前を歩き出した。
 現代の冥子は自分の足で歩くのを嫌い、午(うま)の十二神将のインダラに乗って移動していたが――いや、それだけでなくやたら式神をたくさん出す癖があったが、冥華は霊力の節約のためか必要最小限の式神だけを出すようだった。
 その点から見れば、冥子よりもしっかりしたGSのようだった。

「じゃあ〜、美智恵ちゃんは〜、吸い込み損ねた霊を倒してね〜。
 結界を張るのと〜、その後の浄化作業もあるから〜、体力と道具を温存しておくようにね〜」
「わかりました」

 美智恵はそう言って、神通棍に霊波を送ってジャキンと刀身を出し、

「うふふ、私はこの後地獄を見ることになってるの……。 悪いけどあんた達、道連れにさせてもらうわよ……!
 てな訳で、このGS見習い美神美智恵が、極楽に逝かせてあげるわ!」

 そんな訳のわからない口上と共に、早速吸い込み損ねた悪霊に切りかかり、一刀の元に祓った。
 そして、断続的に襲い掛かってくる悪霊達に、美智恵は神通棍と破魔札で迎撃していった。

「美神さん、強いですね」
「そうよ〜、自慢の教え子ですもの〜」

 美智恵の戦いぶりを見て横島がそう言うと、冥華がそう相槌をうった。

 たしかに強いと思う。
 ……が、横島は唐巣から聞いた話に比べて弱いと思った。
 唐巣が初めて美智恵の除霊を見た時、悪霊達を挑発して知恵のある悪霊を始末しつつ一箇所に集め、唐巣を上回る強い霊力で力押しで一斉に祓ったと聞いた。
 しかし、今の美智恵はそこそこ強い霊力と、横島の目から見て拙い技術で悪霊達と渡り合っているように見えた。
 実戦には慣れているみたいだが、横島の知る範囲で今の美智恵の強さを表すとすると、現代の六道女学院内でトップになれるかどうかと言った所だった。
 もしも、仮に六道女学院内の戦闘霊能者のトップ(と思われる)の弓かおりと対戦した場合、水晶観音に対する有効な攻撃手段があるように見えないので、おそらく敗北してしまうだろうと思った。
 ――さすがに霊力と技術が洗練され尽くされ、多くの経験を積んだ超一流のGSである現代の美神親子と比較するのは酷なのだが――

「ああ、そう言えば……」

 唐巣が話した美智恵の少女時代の話にあまり興味がなかったので、途中で居眠りしたから話半分でしか聞いてなかったのだが、この当時の美智恵は悪魔チューブラー・ベルにとり憑かれた状態だったのを思い出した。
 霊体に寄生して、寄生した霊体の霊力とその霊体に向かって放たれる霊力を喰らって育つ習性があり、下手に強い霊力を放射するとそれを餌に成長して霊体を侵食されてしまい、最終的に霊体を乗っ取られて魔物になってしまうというのを聞いた。
 そうだとすると、今の美智恵は霊力を最大限にフル活用することができない状態ということになる。 それに他人から聞いた話だったので、実際はそれほど強くないのだろう。

 ――しかし、横島はそこまで思い至っても、あまり関心を抱かなかった。

 どうせあと一年もすれば、吾妻公彦と唐巣神父の協力でチューブラー・ベルは退治されるし、それにすぐに未来に帰るから自分には関係ない。

 それくらいの感慨しかなかった。

「どうしたの〜、横島君〜?」
「いえ、すんません、少しぼーっとしてました」
「だめよ〜、危険な仕事中にぼ〜っとしちゃ〜」
「はい、すんませんでした」

 注意する冥華に平謝りしていた横島は、いきなり駆け出しながら霊波刀を出し、

「美神さん、あぶない!」

 美智恵の背後から襲いかかろうとした悪霊を、霊波刀の一振りで切り倒して祓った。

「横島君!?」
「美神さん右っす!」
「くっ!?」

 横島の声に美智恵は右から迫ってきた悪霊をすんでのところで神通棍で叩き落とした。
 どうやら前に出すぎたために孤立していたことも、背後から迫っていた悪霊にも気付いていなかったようだ。
 横島も美智恵に声をかけると同時に、美智恵の死角から迫ってくる悪霊を切り払いながら、つねに美智恵の死角をサポートする位置で戦いを始めた。

「予想以上に〜、できるみたいね〜」

 その横島の戦いぶりを離れた位置で観察しながら、美智恵の背後に迫った悪霊を祓うために出した寅(とら)の十二神将のメキラを影に戻し、冥華はそう呟いた。
 横島は結構な重量のある荷物を背負った状態なのに、それをまったく感じさせない動きで美智恵のサポートをしていた。
 移動中のリムジンの中で、「荷物が重いけど大丈夫〜?」と言う問いに、「普段の半分くらいの重さだから全然大丈夫っす」と言う返答には間違いが無かったと言うことだった。
 冥華は少しの間美智恵と共に悪霊達と戦う横島を観察した後、式神二体を従えて再び歩を進めながら美智恵達に声をかけた。

「美智恵ちゃ〜ん、前に出すぎよ〜。
 あと〜、少し飛ばしすぎよ〜」
「はーい! わっかりましたぁ……!
 って、しつこい!」
「どわ!? 美神さん、下がるんじゃなくて前に出んといてください!
 あと、こっちにまで神通棍をぶんまわさんでください!?」
「横島君、男のくせにぎゃんぎゃんうるさいわよ!」

 ぎゃーぎゃーと騒がしく言い合いながらも、息の合った動きで悪霊達と戦っていた。
 いや、どちらかと言えば悪霊達に突っ込んでいく美智恵を、横島が的確にサポートするために動きを合わせているように見えた。

……ほんとに〜、できる子ね〜。
 二人とも〜、先を急ぐわよ〜」
「了解(っす)!」

 美智恵と横島は同時に悪霊を切り払いながら返事をして、冥華の後を追って駆け出した。


 バサラの疲労が蓄積してきたのを感じた冥華は、美智恵に目的地まで戦闘を最小限にするように厳命し、霊達の間を駆け抜けた。
 そして、なんとか追ってくる霊達を撒いて目的のフロアに到着した。
 逃げている際、美智恵が「逃げるのは嫌!」とごねたが、横島が「戦略的撤退っす! 逃走じゃないっす!」と言って説得していたりもしたが……
 とにかく、いきなり突入するのは控え、通路からフロアを覗き込むと予想以上の数の悪霊の群れが巣くっていて、しかも新たに外から進入してきた霊達がフロアに集まっているのが確認できた。

「先生、予想よりも数が多いですね」
「これは〜、ちょっと〜、きついわね〜」

 今身を隠している通路には幸いにも襲ってくる悪霊がいなかったので、小休止兼作戦会議を開いていた。
 美神除霊事務所の面子なら、横島の文珠の『浄』とおキヌのネクロマンサーの笛ですぐに片がつくだろう。
 しかし、横島は今は文珠を秘密にするため、本当に生命の危険が訪れない限り使用しないつもりでいた。

「どうするっすか?」
「ここはやっぱり正義の味方らしく、正々堂々正面から突撃を……!」
「入り口から遠距離攻撃をして〜、霊の数を減らしてから突入よ〜」
「わかりました。 じゃあ数が減ったら俺が先に突入してフロアの中央に簡易結界を設置するんで、六道さんはその中から霊達の相手をお願いします。
 はい、美神さん霊体ボーガンっす。
 あと、俺が簡易結界の設置終わってから、結界符の貼り付けをお願いしますね」
「わかったわ〜。 美智恵ちゃんも〜、結界符の用意をしておいてね〜」
「私の意見、超無視(シカト)!?」

 美智恵が意外にも猪突猛進すぎるため、横島が美智恵に代わって真面目に仕事をしていた。
 現代でも猪突猛進犬のシロと組んだ時は、横島がしっかりと手綱を握らないと仕事が進まないため、そのあしらい方は慣れていた。
 それにしても、とちらりと美智恵の方を横目で見た。
 この時代の美智恵は若さなのか、それとも自信過剰なのか、あまりにも後先考えないで真正面から突っ走っしりすぎていた。
 まるで自分の弟子の、犬塚シロを相手にしているような気分だった。
 しかし、裏を返せばそれだけ真っ正直な人間だと言うことなのだが、現代の美智恵を思い返すと……

 ――なんで、ああなっちゃったんだ?

「……? どうしたの?」

 じっと自分を見つめる横島に、美智恵はきょとんした顔で聞き、横島はやたら哀愁漂う顔で、

「いえ、時の流れは残酷なんだなって。 その形の良い乳もいつか垂れてしまうんだと思うともう(ゴギャ!)ぶっ……!」
「横島君、ぶつわよ?」

 こめかみに#桁を貼り付け、拳を固く握り良い笑顔で美智恵が言った。

「ぶってから言わんでください……!」

 横島はダラダラと流れる鼻血を抑えながら、半泣きで言った。

「それに、その未来は先生の方に早く訪れることよ。
 私はまだ十代のピッチピチ(死語)の女子高生に対して、かたや先生は発酵から腐乱にさしかかろうとする曲がり角のおばさん。
 ほら、横島君も言う相手はしっかり見てよね」

 なにやら、美智恵は失礼なことを言った相手を説教する口ぶりで、さらに失礼なことを言った。

「ほほほ、美智恵ちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん、そんなに悪霊達の餌になるのがお望みなら〜〜〜〜〜、今すぐにでもしてあげるわよ〜〜〜〜〜〜〜??」

 ギラリと鋭く光るアンチラの刃を見せながら、冥華がとっても殺る気満々な良い笑顔で言った。
 こめかみに貼り付いている特大の#桁がとってもプリチー。

「そんな!? 先生待ってください、私「『なにも間違ったこと言ってない』〜〜、なんて言うなら〜〜、即餌にするわよ〜〜〜?」が悪かったです、ごめんなさい!」

 冥華の言葉に、美智恵は土下座をしそうな勢いで頭を下げた。

「ま、まあまあ、二人ともその辺にしておいて、早く仕事を終わらせましょうよ?」

 横島はなんとか仲裁しようと、おずおずと声をかけた。
 そうしながらも、もしも今の美智恵の言葉を、おキヌ――しかも黒化した――が現代の美智恵に言ったらどうなるんだろうと想像し、あまりに怖いことになりそうなので、考えるのをやめた。

「そうね〜、早くお仕事を終わらせましょう〜。
 美智恵ちゃ〜ん、今の分も〜、お仕置きにいれておくわね〜
「うう……、横島君、後で覚えてなさいよ……!?」

 元凶の横島を涙目でにらめつけながら、受け取った霊体ボーガンの弦を巻いた。
 話を振ったのは横島かもしれないが、失言をしたのは美智恵本人なのに逆恨みもいいところである。

「用意はいいかしら〜?
 いち〜、にの〜、さ〜んでいくわよ〜?」
「えーと、それは『さ〜ん』の『ん』で出れば良いんすか?」

 冥華のあまりに間延び過ぎる掛け声なので、横島は思わず聞いてしまった。

「そうよ〜。 当たり前じゃな〜い」
「……さいっすか」
「まあ、いつものことだから、気にしちゃ駄目よ?」

 何故か哀愁漂う雰囲気で美智恵が横島の肩をポンと叩いた。
 ――案外、美智恵も冥華のことで苦労しているのかもしれない。

「じゃあ〜、いくわよ〜」

 冥華はそう言うとバサラを残してアンチラを影に戻し、未(ひつじ)の十二神将のハイラと寅(とら)の十二神将のメキラを出した。
 横島も両手から一つずつサイキックソーサーを出して宙に浮かべ、さらにもう一つずつ、計四つのソーサーをそれぞれ総出力の四分の一に調整して出した。

「どうするの、それ?」
「普段は盾として使ってますけど、投げてぶつければ武器にもなるんすよ」

 美智恵は霊体ボーガンの矢の先端に拡散型の破魔札をくくりつけ、矢を番えながら聞いた。

「思ったよりも便利なのね」
「でも、ぶつけると霊力をそのまま消費しちゃうんで、燃費が悪いんすよね」
「ふーん」

 横島が念でソーサーを動かす様子を見ながら、霊体ボーガンの安全装置を解除して冥華に向き言った。

「準備オーケーです」
「こっちもっす」
「じゃあ〜、い〜〜〜ち〜〜〜」

 冥華の間延びした、ともすればかくれんぼで鬼が数を数えるような言葉に、美智恵と横島は脱力しそうになった。

「に〜〜〜〜〜〜の〜〜〜〜〜」

 無駄に長く、気の抜ける合図のため緊張が緩みそうにそうになるが、なんとか集中する。
 特に横島はソーサー四つを制御、維持するために集中しなければならないので、早くしてくれと思った。

「さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」

 美智恵は危うく『さ』と言い始めたところで飛び出しそうになったがなんとかこらえ、『ん』と言うと同時に通路に飛び出し、霊体ボーガンを構えた。
 それに続いて、横島と冥華――本人ではなく式神だが――が横一列に並んで一斉に攻撃を開始した。
 美智恵の撃った霊体ボーガンの矢が、フロア中央を飛び回っている悪霊の一体に命中すると、矢にくくりつけておいた破魔札が炸裂して、周囲を飛んでいた他の悪霊数体を巻き込んで消滅させた。
 横島もソーサーを同時に等間隔の距離になるように念で飛ばし、悪霊が密集しているところで一斉に自爆させ、その余波で悪霊を数体を吹き飛ばした。
 冥華はバサラとハイラを並べ、バサラは吸い込みを、ハイラは毛針を機銃掃射のように放ち、数十体の悪霊達を吸い込み、又は撃ち落した。
 今回の仕事は、建物に多少の損傷を与えても良いと言われていたので、遠慮なく攻撃できた。

「じゃ、簡易結界の設置に行くんで、援護をお願いします!」

 横島はこの一斉射でフロアにいた悪霊の数の半数近くを祓ったのを確認すると、美智恵と冥華の援護の中霊達の間を駆けてかいくぐり、フロア中央まで駆け寄るとリュックから簡易結界を取り出して素早く設置した。
 その手並みは現代で後衛専門のおキヌの護衛をするため、拠点作成を務めているだけあってかなり手馴れていた。

「六道さん、簡易結界オーケーっす!」
「わかったわ〜」

 冥華はそう言うと、バサラとハイラを影に戻し、美智恵の手をとって待機させていたメキラにつかまり、簡易結界の近くにまで美智恵と共に瞬間移動した。

「じゃあ〜、霊達は引き受けるから〜、美智恵ちゃんは慌てずに結界を張りなさいね〜。
 横島君〜、しっかり美智恵ちゃんを守って上げてね〜」

 冥華はそう指示を出し、簡易結界の中に入りながら、影から再びハイラとアンチラ、そしてメキラと入れ替えに巳(へび)のサンチラを出すと同時に、周囲に集まった悪霊達を薙ぎ払った。

「了解(っす)!」

 美智恵は横島と共に結界符を手にフロアの四隅に駆け出し、結界符を貼り付け念を込め始めた。
 そして、その無防備な状態の美智恵を、横島が霊波刀とソーサーを巧みに使い分けて護衛を務めた。
 冥華も悪霊達が周囲を囲み、簡易結界に攻撃をしかけるのにも目もくれず、さらに引き寄せるために三体の式神をうまく連携させて派手に暴れさせた。

 そして、美智恵が二つ目の結界符に念を込めるのが終わり、三つ目の結界符を張るため、移動しようとした時、

「……! 六道さん、後ろ!」

 美智恵の護衛をしながらも冥華の様子も見ていた横島が、冥華の背後から他の霊とは少し雰囲気の異なる悪霊が襲い掛かかるのを見て嫌な予感がし、冥華に向かって大声を出した。
 そしてその悪霊は、嫌な予感が的中したように簡易結界にぶつかるとそのままつき破り、冥華に迫った。

「……痛!?」

 横島の声にとっさに反応して体を捻ったためなんとか避ることができたが、完全に避けきれず頬を浅く切られ血が飛び散った。

「先生!?」
「げ!?」

 美智恵は冥華の身を心配して声を出し、横島は破壊神降臨(プッツン)に恐怖して焦った。
 しかし――

「何をしているの!? 二人とも作業を続けなさい!」

 なんと、冥華は頬から流れる血を乱暴に拭い、美智恵と横島に向かって声を荒げた。

「この程度のことで動揺するとは何事です! 自分に与えられた仕事に集中しなさい!」

 冥華は自分に傷を負わせた悪霊に向き直りながら、さきほどとは違うしっかりとした口調とキリっとした表情で美智恵と横島に言った。

「先生……」
「ろ、六道さん……?」

 横島は思わず、「この人偽者?」などと失礼極まりないことを思った。
 しかし、普段の言動と冥子の母親と言うことから、そう思っても仕方の無いことだった。
 冥子なら、今頃この辺りは地獄と化していただろう。

「く、惜しい……! 先生を亡き者にしてくれればお仕置きがチャラになったのに……!
 殺るならしっかり殺りなさいよ!」

「み、美神さん……?」

 小声で口惜しそうに、本当に口惜しそうに拳を振るわせる美智恵に、横島は娘の令子の姿がダブって見えて思わず呆然とした顔で見た。

「ほほほ、美智恵ちゃ〜〜〜〜〜ん、お仕置きフルコース十セットよ〜〜〜〜〜〜」

 目ざとく聞いていた冥華が、いつもの口調で凄まじい殺気を出して言った。

「い、いやあああああぁぁあぁあーーーーーー!!??
 せ、先生、それだけは勘弁してくださいーーーー!!」

 どうやら、過去に受けたことのあるそのお仕置きを思い出し、美智恵はマジ泣きしながら懇願した。

『ケケケケケケケ!! 師匠思イノ良イ弟子ヲ持ッテルジャネーカ!!』

 冥華に傷を負わせた悪霊が、美智恵と冥華のやりとりを見て大声で嗤った。
 どうやら、会話をできるだけの知恵を持っているようだった。

「そうね、ありがたくて涙が出るわ」

 美智恵を黙殺して、また声と表情を引き締めた冥華が悪霊に向き直りながら皮肉を流した。

「それで、貴方がここの霊達の首魁なのかしら?」
『ケケケ、ソーヨ。 ココハ良イ餌ガ沢山集マルカラナ、オカゲデ俺様ハ腹一杯ニ連中ヲ喰エルゼ……!』

 この悪霊は他の霊を喰らい、力を高めているようだった。
 先ほどの簡易結界も、他の霊達の攻撃で強度が弱っているところを、他の霊達よりも強い攻撃を受けたために破られたのだった。

「そう、話しかけておいてなんですけど、私は悪霊と長話する趣味は無いの。
 六道頭首に一矢報いたことを誉れに、黄泉へと還りなさい」

 その言葉と同時に、メキラがサンチラを抱えて悪霊のすぐ真横に瞬間移動すると、サンチラが電撃を放って悪霊を焼いた。
 そして、とどめとばかりに冥華の傍らに立つハイラが大量の毛針を飛ばし、抵抗することも悲鳴を上げさせる事もさせずに、霊体の一片も残さず吹き飛ばした。
 まさに瞬殺だった。

「マジで強かったんだな……」

 冥子のように式神の能力に使われるのではなく、しっかりと各式神を操作し、その能力を最大限に活用しているのがわかった。
 今祓った悪霊は霊力が強く、知恵も働き霊波を隠蔽するなどの能力も持っているようだった。
 もしも横島自身が文珠無しで祓うとなると、かなり手こずるだろう。
 そんな冥華の実力を目の当たりにしても、半信半疑な気持ちではあったが……

「二人とも〜、手が止まってるわよ〜。
 早く結界を張りなさ〜い」

 いつもの口調に戻った冥華が、霊団のリーダーが祓われたことで浮き足立つ雑魚霊達を祓いながら、美智恵達に声をかけた。
 横島はその声に我に返り、美智恵はエグエグと泣きながら結界符を貼る作業を再開した。


 霊団のリーダーのを祓ってからの作業は簡単なものだった。
 問題のフロアに結界を張ると霊が増えるのが収まり、後は建物内にいる統制のとれなくなった霊達を順に祓って回るだけだった。
 そして、すべての霊を祓い終え、建物にこびりついた陰気や霊気の浄化作業を行おうとしたのだが、予想以上に霊力を消耗したので、後日冥華の部下に任せることにしたのだった。

「もういないみたいっすね」

 今は結界を張り終えてから、戌(いぬ)のショウトラで冥華を治療した後、建物内にいる霊達を祓ったのだが、まだ霊が残っていないか建物内を見て回っているところだった。

「そうね〜、じゃあ〜、後の時間のかかる作業は〜、明日専門の部下にまかせることにするわ〜」
「はあ、疲れたー」

 冥華の終了宣言にすでに泣き止んだいた美智恵はそう言って大きく伸びをした。

「駄目よ美智恵ちゃ〜ん、終わったと思って〜、油断した時が一番あぶないのよ〜」
「う、すみません、先生」

 冥華の言葉に、美智恵はばつの悪そうな顔をした。

「それと〜、いつも言ってるけど〜、周りをしっかり見て動きなさいね〜。 最初に建物に入った時も〜、一人だけで前に出ちゃうし〜、前しか見てないから〜、後ろから敵が近づいてきてたことにも気づいてなかったわよ〜」
「はい……」
「あと〜、一緒に行動しているメンバーが〜、少し怪我をしただけで動揺しては駄目よ〜。
 自分が〜、その時行っている作業によっては〜、その作業が遅れることで〜、さらにチームを危険にさらす事になることもあるわ〜。
 援護が必要かどうかも〜、すぐに見極められるようになるのよ〜」
「はい……」
「次に〜、横島君〜」
「え、俺っすか?」

 美智恵が冥華に注意されているのをぼーっと見ていた横島に、冥華が顔を向けた。

「そうよ〜、横島君は〜、実戦にかなり慣れてるみたいね〜。
 だけど〜、動きに少しムラがあるし〜、美智恵ちゃんと同じで〜、チームのメンバーに怪我人が出たからと言って〜、すぐに動揺しちゃ駄目よ〜」
「はいっす」

 素直に返事をしながらも、「凶悪な爆弾に飛び火すれば、誰でも激しく動揺すると思うんすけど?」、などと言う事を思ったりした。

「誰が〜、凶悪な爆弾なのかしら〜?」
「横島君、お願いだから私でも怖くて口にできないことを、面と向かって言わないでよ……!」
「はっ!? また俺は思ってたことを口走ってた!?」

 横島は自分の口に手を当てて慌てた。

「ほほほ、二人が〜〜、私のことをどう思っているのか〜〜、良〜〜〜〜くわかったわ〜〜」
「「ひっ……!」」

 冥華が放ち始めた殺気と霊気に、横島と美智恵は震え上がった。
 そして――

「ふう〜、もうそのことは良いわ〜。
 とにかく〜、GSは冷静沈着に〜、何かあっても〜、動揺せずに落ち着いて対処することよ〜。
 わかりましたか〜?」
「「は、はい……!」」

 少し疲れているのか、あっさりと矛を収めた冥華はそう締めくくった。

「じゃあ〜、撤収しましょう〜」
「「はい!」」

 冥華はそう言うと、出入り口に向かって歩き出した。
 横島は美智恵と共に冥華の後を歩きながら、やっぱりランクSのGSの看板は伊達じゃないんだな、と思った。
 これならば一緒に仕事をしても、冥子のようにいつ爆発するかわからない爆弾を抱えているような緊張感に悩まさせることはないだろうと安堵した。


 横島はこの時、つい先ほど冥華が言った、「終わったと思って、油断した時が一番あぶない」と言う言葉を忘れていた。
 今建物内は悪霊達が暴れまわったために荒れ放題になっていた。 壁やら天井やらが破壊されたため、床にはその瓦礫がたくさん落ちていた。
 そのため、非常に足を取られやすい、で――

「あら〜〜〜?」

 冥華は瓦礫に躓き、前のめりに――横島と美智恵にはスローモションに見えた――こけた。

ゴン!

 こけた時、ちょうど頭の位置に大きな瓦礫が落ちていて、とても痛そうな音を立てて額をぶつけ、うつ伏せに倒れた状態なのに、ぷくーっと餅のようにたんこぶが膨れるのが見えた。

 それから、しばしの間誰も身じろぎすることなく、地獄のような沈黙が落ちた。

 そして――

「ふ……、ふぇ……」

 横島と美智恵には、その声が破壊神が産声を上げようとする予兆に聞こえた。
 それと同時に、ゴゴゴゴゴ……、と地響きにも音と共に凄まじい霊気が噴出する前兆が出始めた。
 それを見た横島と美智恵は慌てて冥華に駆け寄った。

「せ、先生落ち着いてください……!
 この程度のことで動揺してどうするんですか!? 
 お願いだから動揺しないでーーーーーー!!??」
「そうっすよ、六道さん!!
 GSなら沈着冷静に落ちついて対処してください!!
 ホントマジで冷静にーーーーーーーー!!!!!!」

 二人そろって冷静さを無くし、動揺しまくった声を出した。

「ふぇ……、ふぇ……!」

 二人が落ち着かせようとしても、冥華はうつ伏せに倒れたまま、泣き声の溜め(?)をするような声を出し、霊気もさらに圧力を増してきた。

「もうあかん、俺達死んでまうーーー!!??」
「そんなのいやーーーーーーーーーー!!??
 ……はっ!? そうだわ!!」

 やおら、何か思いついた美智恵は、横島を引っ張って冥華の前に一緒に立ち、

「ほらほら先生! 横島君が面白い漫才見せてくれるそうよ!」
「へっ!!??」

 美智恵のいきなりの言葉に、横島は目を白黒させた。

「私も手伝うから、死にたくなかったら死ぬ気でウケを取るのよ!」
「わ、わかりました……!」

 小声で話してきた美智恵に、横島は冷や汗を流しまくりながら答えた。
 普通に考えれば、冥華を助け起こして介抱するか、全力で逃げれば良いのに、漫才で笑わせて落ち着かせようと考える時点でそのテンパりようが見てとれた。

 そして、引きつった笑顔で横島は漫才を始めた。

「やあ、美智恵さん、今日面白い物みたんすよ!」
「え、なになに!?」

 美智恵の笑顔も引きつっているのはご愛嬌。

「お隣の家がずっと工事中だったんすよ!」
「それでそれで!?」
「今日は見てみたら、工事が終わってて囲いができてたんすよね!」
「へえ、その囲いはどんなんだったの!?」
「もう、すげーカッコイーっす!!」
「なにゆーとんねん!!(ベシッ!)
「へぶし!!」

 美智恵が無駄に力が入りまくったつっこみで横島を撃沈させ、漫才(?)が終わった。
 そして、一瞬――美智恵と横島にとっては永遠には感じた――の沈黙が落ち――

ふぇ……! ふぇ……! ふぇ……!
「「は、はずしたーーーーーーーーー!!??」」
「ふえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!」
「やっぱ、こうなるのか(ね)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

 美智恵と横島の姿と異口同音の叫び声を、凄まじい破壊音と閃光が飲み込んでいった。


 そして、このあと一時間後に、一軒のマンションがこの世から姿を消したのだった。


続く


 ドリルが怖いです。
 来週に虫歯の治療のために、ドリルの洗礼を受けないといけないんです(´;ω;`)
 「かなり痛いと思うから、覚悟してね♪」と良い笑顔でぬかしやがったヤブ医者を、割と本気でぶん殴ってやりたいと思いましたです。
 胸が大きい美人の看護婦さんが多い歯医者なので、当日は看護婦さん達に慰めてもらおうと思います。

 すいません、愚痴近況でした(´・ω・`)
 それにしても、書いているうちにいつのまにか美智恵さんがドジッ娘になり、六道女史がかっこよくなっていて、横島君は普通に働いていました。
 最後には何故か横島君と一緒に命がけの漫才もどきをやってるしw;
 美智恵さんはもっとかわいくかっこよくてセクシーに書くつもりだったのに、なんでこうなったんだろう?w;
 とにかく、筆の赴くままに書いていきたいと思います。

 あと、今回自分でも驚くほど続きを投稿できました。
 やっぱり、励ましのレスを頂けると、すごい力が湧いてきます。
 レスして頂いた皆様、本当に感謝感激です(TД⊂
 次もこれぐらい早く投稿できるようにしたいと思います。

 前回のレス返しで加茂さんと、紅白ハニワさんへの敬称が抜けておりました。
 大変失礼致しました。


 ではレス返しを。


〇柳太郎さん
 >はじめまして、GS美神'77の更新楽しみにしていた者です。物語の進み方が非常に楽しみです。
 >横島らしいギャグの他にも、横島の心情や他の描写などまで、かなりしっかり書かれている作品だと思います。
 どうも、はじめまして。 お待たせして申し訳ありません。
 無い知恵を絞って文章には気を使っているつもりなのですが、投稿するたびに大丈夫かどうかドキドキものです。
 なんとか完結できるように頑張ります。

〇はに丸さん
 >おぉ!なんか続きがすごく楽しみになる作品が!あ、始めましてはに丸です
 どうも初めまして、ありがとうございます。
 自分自身、ちゃんと横島君の性格を表現できているか不安ではありますが、なんとか頑張りたいと思います。

〇神保町のネコさん
 >待ってて良かった…落ち着いて読める文章で、内容も面白いです。
 お待たせして申し訳ありません、ありがとうございます。
 読み易い文章になるように気を使っているつもりなのですが、他の方の意見を聞かないとわからないところが多いので、冷や汗ものです。

 >テーマとしては理解と融和でしょうか。
 それもですが、一番のテーマは美智恵さんとの甘く切なく酸っぱい青春物語だったりしますw

 あと、わかり辛い文面があってすみませんでした(TД⊂

〇菅根さん
 >間隔が開きましたが、良い作品の投下ご苦労様です。
 すみません、もう間隔を開けすぎないように致します(´・ω・`)

 >等身大の横島を描いていて好感が待てますね。このままで横島を描ききって下さい。
 ありがとうございます、なんとか原作の横島君からはずれすぎないように描きたいと思います。

 あと、ボクの代わりに神保町のネコさんへのフォローをありがとうございましたm(_ _)m

〇紅白ハニワさん
 >だってラスト締めるの苦手なんだもん
 紅白ハニワさんの作品を読ませて頂いているのですが、そうは思えないです。
 ボクも紅白ハニワさんを見習いたいです(´・ω・`)

 >首を長くして待ってましたよー続き!!
 本当にお待たせして申し訳ありません(TД⊂

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