「・・・以上のこと、ご報告いたします。っと。出来たのね〜」
私は掛け声と共に筆を置き、背筋を伸ばす。
「ご苦労様です。やはりこういった仕事は文官であるあなたの方が速いですね」
「そりゃそうなのね〜。これでまで負けちゃったら私の立つ瀬がないのね〜」
そう言いながら出来たばかりの書類をひらひらと小竜姫に見せる。
「ふふ、そうですね。さて、仕事も一段落したことですし、お茶にでもしましょうか?」
「あ〜、賛成なのね〜」
こぽこぽこぽ・・・
急須からお茶が注がれる音が静かに響く。
ただ今横島さんは学校に行っている。タマモちゃんは狐の姿で横島さんについて行っている。なんでも机妖怪の愛子さんと仲良くなって授業中は愛子さんの中に隠れているらしい。
「ふ〜。しかし横島さんには驚かされますね」
「? なにがなのね〜?」
私は手にしていたお茶を置いて問いかける。
「タマモさんのことですよ。普通妖狐なんてひろいませんよ? しかも金毛白面九尾の狐の転生体ならなおさらです」
「あ〜。確かにそうなのね〜。でも考えようによってはそれも横島さんの才能かもしれないのね〜」
「才能?」
「そうなのね〜。横島さんの周りには私、小竜姫、おキヌちゃん、ピートさんなんかの人ではないものが多く集まってるのね〜。人外の者を引き付ける魅力。それも一つの才能だと思うのね〜」
小竜姫は私の言葉に少し驚いたような顔をする。
「ふむ。確かにそうかもしれませんね」
「まぁ、それを差っ引いてもそれだけ横島さんが魅力的ってことなのね〜」
「あらあら」
私が笑いながらそういうと小竜姫も笑いながらそう言った。
「でも笑ってばかりもいられないのね〜。そんな横島さんの才能に目を付ける奴もいるのね〜」
「はぁ・・・誰ですか?」
小竜姫は少し呆れたような顔をして訪ねてきた。
「この間あった美神さんのお母さんと冥子ちゃんのお母さんが横島さんの獲得に動き出したみたいなのね〜」
先日横島さんが悪寒を感じた後、少し探りを入れてみた。
結果は大当たり。
もともとこの二人はそのような行動に出る可能性は高かったためすぐに調べることが出来た。
「具体的には?」
「現在タマモちゃん、つまりは伝説の『傾国の化け物』金毛白面九尾の狐の退治命令が出てるらしいのね〜。二人ともそれを上手く抑えて横島さんに恩を売るつもりみたいなのね〜」
横島さんは性格的に義理堅い方である。その良い例が小竜姫への絶対的な信頼があげられる。心の声が聞こえると言う地獄から助け出してくれたと言う恩からその思いが生まれているが、現在ほどの信頼は小竜姫の性格、行動のたまものと言った所だろうが。
このようなことから、タマモちゃんを助けたと言う恩を売れば横島さんは言うことを聞かざるをえないだろう。
「馬鹿なことを・・・横島さんを本気で取り込みたいならそんなことをする必要は無いのに・・・」
「ま、確かになのね〜。そんなことするよりは真っ向から頭下げた方が手っ取り早いのね〜。横島さんならそう無碍にはできないのね〜」
まあ相手より強いコネが欲しいんだろうけど、はっきり言ってこの方法がおたがいにベストだし、早い者勝ちだと思うのね〜。
「とりあえず今のところ害はないし、特に目立った動きも無いからほっといても良いと思うのね〜」
「そうですね。それにおそらくその方法は上手くいかないでしょうから問題ないでしょう」
そう言って私達は先ほど書き上げた書類に視線を送る。
それは・・・
「それでどんなもんかしら?」
「とりあえず僕達が動かなかった場合動かすと思われる陸自の面々には現在訓練中のオカルトGメンの特別講師として出向してもらい動きを封じました。」
「そう。それじゃ後は上の者をどうにかすればいいんだけど・・・」
西条君の報告を聞いて私は少し考え込む。
正直私達の権限ではこのあたりが限界だ。後は裏の手段を取るしかないんだが横島君の生い立ちを令子達から聞いた限りではあまり得策とは言えない。
それに六道さんも動き出したようだ。そうなるとその者たちに圧力をかけていると考えたほうがいいだろう。これ以上なにかすると上の者達の暴走を招きかねない。
「しかし先生、本当に横島君達にガードをつけなくていいんですか?」
私が考え事をしていると西条君がそう尋ねてくる。
「今の時点で横島君達に気づかれたくは無いわ。もし気づかれたら私達に対して不快感を持たれてしまうかもしれないし、下手に人をつけるとヒャクメ様にばれかねないわ」
「それはそうですが・・・」
「一応、令子に頼んで出来る限り横島君に手伝いをしてもらうようにして、単独で行動しないようにしたわ。それに六道さんも冥子ちゃんの手伝いを頼んでるようだからこれ以上のことはするべきではないわ」
聞く限りでは金毛白面九尾の狐、現在はタマモと名乗っているようだ。は常に横島君と共に行動しているようだ。その横島君はほとんどの場合ヒャクメ様と行動を共にしている。そうなると強攻策には出にくい。GS協会を通して圧力をかけることは考えられるが、日本で間違いなく5本の指に入る唐巣神父が身元を引き受け、神族の師匠を持つ横島君にはそう簡単に圧力はかけられないだろう。
「そうですね・・・それでは今後はどう動きますか?」
「そこなのよね・・・」
正直手詰まりなのだ。他の手段としてタマモを強制的に私達の保護下、つまりは国の保護下に入れてしまう事が考えられるが、それは間違いなく横島君を敵に回してしまう。それだけではない。下手に手を出して金毛白面九尾の狐として覚醒されては大惨事だ。それだけは避けなくてはならない。
失敗した。もう少し令子から横島君のことを聞いてから動けばよかった。横島君が精神感応(テレパス)に似た能力をもっていると知っていればこうは動かなかったのに。
こうなれば・・・
「とりあえずはもうしばらく様子を見ましょう。私に考えがあります」
「わかりました」
そう言ってとりあえず話を打ち切る。
現状は確かに手詰まりだ。そろそろ私も動かなくてはいけないのかもしれない・・・
「う〜む・・・」
横島は部屋でうなり声を上げている。
「なによ? なんか考え事?」
その声にそれまでテレビを見ていた私は声をかける。
「いや、たいしたことじゃないんだが、仕事のことでな」
「仕事? ああ、ごーすとすいーぱーとか言う陰陽師みたな祓い屋の?」
ちなみに私はテレビや横島の学校についていって現在の知識を日々学んでいる。
「ああ、正確にはその手伝いなんだがな」
「ふ〜ん。それでそれがどうかしたの?」
「いや、なんかこの頃冥子ちゃんの所と美神さんの所からの手伝いの頼みが多いんだ」
冥子と美神・・・ああ、あの二人か。確かにあの二人に会う回数は明らかに他の手伝いの回数より多い。
「ああ、あののんびりした顔してとんでもない式神使いと派手な格好した道具使いの除霊師ね」
ちなみに私はほとんどの場合面倒だが横島にくっついて行動している。そうする事で少しでも現代の知識を得るためと、少しでも横島から出る霊力を吸収するためだ。
「みもふたも無いなおい」
「それで? それが何か問題でもあるの?」
横島の呟きは無視の方向で。
「いや、問題は無いんだが、なんでかなと思ってな」
「ふ〜ん。なんかにおうわね・・・」
そう言って私は少し考えるようなしぐさを見せる。
「なんか裏がありそうね・・・」
「まあどんな理由でもいいんだけどな」
私の呟きに横島は特に何も考えずそう答える。
「あきれた。ねぇ、この際だから言っておくけどあなたはもう少し人を疑うことを覚えた方がいいわよ?」
「はは、手厳しいな」
横島は苦笑しながらそう答えた。
「笑い事じゃないわ!! あなたは知らないでしょうけど、人間なんて涼しい顔して何考えてるかわかったもんじゃないんだから!」
玉藻前の時もそうだ。私は何もしていないのに私が妖怪だとわかったとたん兵を向かわせる。少しでも理解できないものを自分の保身と欲望のために殺そうとしたのだ。
「・・・知ってるよ」
「え?」
私の怒鳴り声は横島の静かな呟きにかき消される。
横島は『知っている』と言った。
ただそれだけの言葉なのにその言葉はそれを否定するが出来ないほどの重みが感じられた。
「まだ言ってなかったな・・・俺は子供の頃にヒャクメの神眼を吸収して他人の心の声が聞けるようになったんだ。だから・・・知ってるよ」
心の声? 人の心を、考えを読み取れるというの? だったら・・・
「だったらなんでそんなに他人のことを信じられるのよ!?」
「なんでかな・・・そうだな・・・信じたいから、かな」
横島はどこか遠くを見るようにそう答えた。
「ば、バカじゃないの!? それでどうなるのよ!? 人を信じて、従って、バカを見るだけじゃない!! それで傷つくのはあなたなのよ!! ううん、もしかしたら周りを巻き込むかもしれない!! それでもいいの!?」
「それは・・・嫌だな」
「だったら・・・」
「その時はみんなを護るために戦うさ。そのために俺は小竜姫様に弟子入りして力をつけているんだ。」
横島は力強くそう言った。何事にも負けない意思を込めて・・・
「それこそバカよ・・・」
その言葉と横島の表情にそれ以上なにも言えなくなる。
それを見て横島は私に近づいてきて・・・
ポフ・・・
「ありがとな。タマモ」
私の頭を撫でながらそう言った。
「な、なにがよ?」
「俺のことを心配してくれたんだろう?だからありがとうって言ったんだよ。」
「そ、そんなんじゃ!」
私は横島に言い返そうと横島の顔に視線を向けるがそれ以上なにも言えなくなる。
そこにはあまりにも優しい顔をした横島がいたから・・・
「わ、私も・・・」
「ん? なんだ?」
私はそこまで言って口をつぐむ。
私としたことが何を言おうとしたんだ! 私も、私のことも護ってくれる?なんて・・・
「なんでもないわ・・・はぁ、あんたには言うだけ無駄ね。」
私はそういいながら後ろを向く。
「はは、悪いな」
横島はまた苦笑しながらそう言う。
「本当にバカね。あ〜あ。バカの相手をしてつかれたわ・・・」
そう言って私は狐の姿になる。
「キュ〜ン」
そして立ち上がっている横島の足にまとわりつく。
「ん? なんだ?」
このバカ!! 少しは察しなさいよ!!
かぷ。
「いって!! な、なんなんだよ?」
軽く噛み付いて憂さを晴らすと私は、トントン、と前足で床を叩く。
「なんだ? 座ればいいのか?」
横島は訝しげに私の指示に従い腰を落とす。
「キュ〜ン」
それに満足して私は横島の膝の上で丸くなる。
「なんだ突然? どうしたんだよ?」
横島はそう問いかけてくるが私は何も返事をしないでただ体を丸くする。
このバカの相手をして疲れていたから・・・
ただ、このぬくもりが心地よかったから・・・・
今はここで眠りたい気分だったから・・・
あとがき
今回は微妙に短いです。怖いお母様お二人への対抗策と横島君とタマモのお話でとりあえずは、といったところですね。このお話はあと一話か二話で終わると思います。めざせ!!有言実行!!
レス返し
はじめにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
(´ω`)様
ヒャクメのことはこの二人は流石に警戒してます。そのあたりのことは次回触れますのでお楽しみに〜。
チョーやん様
横島君の変化のきっかけとは考えたんですが今回は見送る方向で行こうと思います。と言うか今回書いたとうり横島君は知っていてそれを受け入れている所がありますので。まあ前回堕天しかけたので今回はおとなしく。
俊様
横島君のGMの登場も考えていますが今回はないと思います。しかしそろそろ親父殿ぐらいは出したいですね。
February様
小竜姫様も言ってますがどのようにして無駄に終わるかお楽しみに〜。大体考えてあるんですが結構強引です。
名称詐称主義様
策略は深く静かに進めています。まぁヒャクメにばれてますが・・・欲は人の目をにごらせますがこの二人はどうなることやら・・・考え中なのでお楽しみに〜。
内海一弘様
お茶のシーンはいつかやろうと思っていたので気に入っていただけて何よりです。やはり和むときにはお茶が必要不可欠かと思うのは日本人だからでしょうか?
Tシロー様
横島君が詳しいことを知るかどうかもまだ未定です。どちらの方が面白いか・・・悩みます〜。
水島桂介様
私的にはご意見のとうり恩を売ると言うことを目的に書いたつもりなんですが皆さんのご意見で弱みを握るということが多かったのは少し驚きです。私の技術が未熟なせいなんでしょうがその展開も考えていたのでそれも影響しているのかと思います。
百目守様
ヒャクメにばれました。そしてなにかしらの対抗策を講じているようです。お楽しみに〜。
パチモン様
お初です。読んでいただいて本当にありがとうございます。今回は大人の戦いみたいなもんなんですが頭脳戦は難しいと感じている今日この頃です。
アイク様
タマモを殺せばある種の英雄扱いはされるかなと少し考えましたが、知識のあるプロのGSから見ればどうなのかと思い一般のGSの参戦は考えていません。それやったらこの作品ダークになっちゃいそうですね。
FFF隊員No1様
その後意見参考にさせていただきます!!しかしGMたちの落ちが漠然としか決まってません。悩みます〜。
七位様
気分を害してしまったようでまことに申し訳ありません。現在の私の実力ではこのようにしか表現できなかったことを心からお詫び申し上げます。
てぃREX様
ヒャクメはちゃんと調べてますのでご安心を。ちなみにその辺はたまに常備します。
鹿苑寺様
そろそろ嵐が吹き荒れますよ〜。しかしこの頃仏の教えがないな〜と感じている今日この頃です。お好み焼き屋の陸上少女ですか・・・いいですね!!