「ふぅ。これで一段落ですかね?」
「そうね。でもまだオフィスが出来ただけよ。まだ問題は山積みよ」
ICPO超常犯罪課日本支部オフィス。
発足に向けての足がかりは出来た。だがまだまだ足りないものが多い。
資料、資材、除霊道具などは十分な予算が確保できたので今後そろえていくとして・・・
やはり現状の一番の問題は現場で動く人材が不足していること、か。
私もそろそろお腹が大きくなってきたので手伝えなくなる。
西条君の能力を考えればオカルトGメンを仕切っていくことは出来るだろう。
だが彼一人だけで出来ることも限られている。
「職員の訓練はどう?」
「採用予定の職員の訓練は予定どおり進められています。ですが・・・」
西条君はそこで言葉を濁す。
その先は聞かなくてもわかっている。霊能とは一朝一夕で鍛えられるものではない。
それにくわえて職員の年齢を考えるとこれから鍛えてもたかが知れている。
正式に発足した後なら六道女学院の卒業生や修行中のGS見習いあたりも入ってくるだろうが残念ながら現在訓練中の者は元警察官などの霊能とは関係ない生活を送ってきたものだ。
組織として考えるならば機能的に動いてくれる人材はありがたいがそれだけで通用する世界でもない。
「やっぱり外部の協力者は必要ね」
そういいながら現在協力を申し出てくれている人材をつづったファイルを手に取る。
私の師でもある唐巣神父をはじめ、私や西条君とつながりのあるGS等が名を連ねている。
「そうですね。やはり正式に令子ちゃんクラスの霊能力者が所属してくれるとありがたいのですが・・・」
西条君がそう言う。
彼の言葉には個人的に含むところが感じられるが確かに令子が正式に所属してくれるなら大助かりだ。
「それは難しいわね。独立してGS業を営んでいる人達に公務員に転職してくれ。と頼んでも首を縦に振る者はそうはいないわ。それが一流どころになればなおさらよ」
オカルトGメンは公務員だ。安定はしているがハイリスクハイリターンの世界に生きているGSたちから見れば危険度に見合った見返りがある世界とは言えない。
「そうですね・・・」
西条君は残念そうに返事をすると黙ってしまう。
私はあらためてファイルに眼を落とす。
そしてある名前のところで視線が止まる。
そこに書かれているのは『横島忠夫』『ピエトロ・ド・ブラドー』の二人。
唐巣先生の所の弟子で私の弟弟子にあたる二人。
二人とも申し分ない才能と実力を持っている。そのうちの一人であるピート君は幸いにもオカルトGメンを志望してくれているから問題ないとして・・・
「やっぱり欲しいわね・・・」
もう一人の弟弟子である横島君。この若さで西条君と渡り合う実力、そして小竜姫様の直弟子として持つ神族との強力なつながり。ぜひとも欲しい人材だ。
「誰か目ぼしい人材でもいるのですか?」
私の呟きに西条君が反応した。
私は無言でファイルを渡す。
「ああ、ピート君と横島君ですか。確かに人材としては申し分ないですが、残念ながら現役の高校生ではどうしようもないですね」
そうなのだ。横島君は現役の高校生。ピート君は高校を卒業していない。どちらも即戦力の人材にはなりえないのだ。
「はぁ、あの時西条君が横島君に勝ってればもう少し戦力として見れたのに・・・」
「うぅ、申し訳ありません」
とりあえず西条君への嫌がらせは置いといて。
しかし正直将来的にはぜひとも欲しい人材である。ピート君はヴァンパイア・ハーフなのでこの先長い期間でオカルトGメンを支えてくれるだろうし、横島君の神族とのパイプはぜひとも欲しい。
「やっぱり欲しいわね・・・」
先ほどと同じ言葉を呟いてしまう。
「それについては同感です。でもピート君は良いとして、横島君へのスカウトは慎重に行動しないとへたすると神族の怒りを買いかねません」
「そうなのよね〜」
先生の話では横島君は小竜姫様に完璧に頭が上がらないようだ。つまり小竜姫様がNOと言えば横島君もNO。その時点で完璧にアウトだ。
「それでもやはりもう少しつながりは欲しいわね。なにかないかしら?」
「難しいですね。横島君は信頼関係を大事にするタイプのようですから、もう少し時間をかけてそれを築いていくのが最良かと思いますが」
「それでは下手すると誰かに持ってかれてしまうかもしれないわ。他に何か無いものかしらね?」
聞いた話では現時点で横島君獲得に名乗りをあげているのは令子のところと六道家。令子は問題ないとして・・・もう一つは・・・・
六道さんの所は正直ヤバイ! あの人に横島君がかりを作るようなことがあればどうしようもないことになるだろう。
なにかないか? 横島君と強力なつながりが出来るような・・・悪い言い方をすれば横島君に恩を売れるようなことは・・・
「それも難しい問題ですが実はもう一つ厄介な話があるんですが・・・」
「なに?」
「これを」
西条君は一枚の書類を渡してきた。
私はその書類に眼を通す。
「はぁ、確かにやっかいだわ・・・」
その書類に書かれていたのは『金毛白面九尾の狐の排除指令』だった。
「傾国の化け物と言われた妖怪ではあるけど伝説は迷信の可能性のほうが高いのに・・・」
それに史実どおりだとしても玉藻前の時は8万の軍勢を要したというのに現在のオカルトGメンでどうしろというのだ?
「西条君、政府には抗議文を送っておいて」
「わかりました」
コンコン
「こんばんわ〜」
西条君に指示を出し終わると同時に戸を叩く音とおキヌちゃんの声が聞こえてきた。
「どうぞ〜」
私が軽く返事をすると令子とおキヌちゃんがオフィスに入ってくる。
「はーい。ママ、西条さん、調子はどう?」
「まあまあってとこかしらね。それで?今日はどうしたの?」
「まぁ陣中見舞いってとこかしら? 久しぶりに帰ってきたと思ったらそんなお腹なんだもの。気にはなるわよ」
「あら、ありがと」
他愛の無い話をしていると令子が机の上においておいた書類に気がついた。
「金毛白面九尾の狐の排除指令?なにこれ?」
「ああ、馬鹿な依頼さ。オカルトGメンに近年転生するであろう金毛白面九尾の狐を退治しろっていうんだ。どこに転生しているかもわからないのに」
「ほえ? 尻尾がいっぱいある狐さんなら見ましたよ?」
「「「え!?」」」
令子たちの会話を聞いていたおキヌちゃんがそういったのを聞いてその場にいた者達が反応する。
「おキヌちゃん? どこで見たの?」
「横島さんのところです。最初は女の子だったんですけど、狐さんにもなってました」
「あのバカ・・・」
令子がそう呟くと同時に、
ガシッ!!
「おキヌちゃん? その話もう少し詳しく話してもらえないかしら?」
私はおキヌちゃんの両肩をがっしりと掴んでそう訪ねた。
「はぁぁ〜〜、どうしたものかしらね〜〜」
自室である書類に眼を通したところでため息がでる。
それは六道冥子GS、つまり娘の除霊結果が記してあった。
除霊依頼完全成功率6%
除霊成功率70%
建物、その他物品破損率99%
建物全壊率94%
見るたびに頭が痛くなる。
これが冥子が単独でおこなった除霊の結果だ。
「やっぱり〜〜まだ一人では無理なのかしらね〜〜」
あの子の最大の欠点は精神的に未熟すぎるところだ。
霊能という観点から見れば近年まれに見る力を持っていると言うのにそれを完璧に扱いきれていない。
それは今後鍛えなおすとして・・・
私は別の書類を手に取る。
そこに記されているのは『横島忠夫についての調査報告』だ。
と言っても本人から聞いたものをまとめてうらを取って確認しただけなのだが・・・
横島忠夫
横島大樹、百合子夫妻の長男。
数年前に当時在住地の付近の山にて調査用に設置されていた神族調査官『ヒャクメ』様の神目と接触、これを吸収。
以後人の心の声が聞こえるという精神感応者(テレパス)に似た能力を得ると同時に霊能力に目覚める。
その後現在在住地に父親の仕事の関係で転居。
中学卒業と同時に両親が海外赴任のため一人暮らしを始める。
同時に唐巣GSの紹介により妙神山を訪ね、同地管理人『小竜姫』様に弟子入りし能力の制御に成功。
高校進学と同時に唐巣GS、美神GS、小笠原GS、六道家、闘竜寺にて能力制御を目的とした修行を開始。
神族『ヒャクメ』様が同行。
多数の除霊作業に参加。特筆すべきは六道GSと共に夢魔『ナイトメア』の除霊、封印に成功。
その後魔族『メドーサ』との交戦などの経験をし、さらなる霊能を開花。
その功績により正式に神族『ヒャクメ』様をパートナーに持つ。
本年度GS試験に合格。現在GS見習いなれど正式に師事するGSがいないために一時的に唐巣GSが身元を引き受けている。
「何度読んでも〜〜すごいわね〜〜」
正式に修行を始めて一年たらずのものが出せる結果ではない。
元からの才能なのか、小竜姫様の修行がすごいのか、あるいはその両方か。
そこまで考えてから書類の続きを読む。
霊能力
サイキック・ソーサー
霊力を収束し形を変化、固定させて使用する。現在確認されている物は盾、剣、ハリセン、巨大な扇。剣はその長さを変化させることが可能。
神装術
神族『ヒャクメ』様、『小竜姫』様により授けられた術。発動後はそれぞれの特殊能力の一部が使用可能。身体、霊能能力強化、ならびに防御力が格段に上昇。
しかし副作用があり、使用後は知恵熱、筋肉痛などの症状に陥る。
暴走の危険もあり現在は『小竜姫』様の神装術は使用禁止である。
特徴
基本的には道具を使わず己の霊能力のみを使う。スタイルとしては前、中堅型。しかし本人の能力的にはガードなどの方が向いているらしくその防御力は眼を見張るものがある。
「やっぱり〜〜欲しいわね〜〜」
全て読み終わっての結果はやはり六道家に欲しい人材である。ということ。
この能力、しかもあの若さでだ。彼はまだまだ伸びるだろうし小竜姫様などの神族とのつながりも魅力的だ。
それにガードがメインであることも魅力だし、パートナーにヒャクメ様がついていればのどから手が出るほど欲しい人材だ。
冥子との相性もいいようだし、実際彼らと組んだ除霊は大半が成功しているしナイトメアなんて大物まで倒している。
それに昨日も組んで仕事をしてきたがこれも成功している。
「でも〜〜、下手に手を出すと〜〜危ないわよね〜〜」
横島君だけなら臆することも無いが、下手をすれば神族を敵に回しかねない。
「う〜〜ん。なにかないかしらね〜〜」
コンコン・・・
「奥様、よろしいでしょうか?」
あれこれ考えているところに戸を叩く音とメイドのフミさんの声が聞こえてきた。
「いいわよ〜〜」
ガチャ
「失礼致します」
私が返事を返すとフミさんが手に書類を持って入ってきた。
「どうかしたのかしら〜〜?」
「はい。政府からオカルトGメンに指令が入りました。こちらに詳細をまとめてあります」
「美智恵ちゃんのところに〜〜? どれどれ〜〜」
本来オカルトGメンに依頼が入ったところでこちらには無関係なのだがわざわざ書類にしてきたところを見ると何かあるみたいね〜〜
「金毛白面九尾の狐の排除指令〜〜? これがどうかしたのかしら〜〜?」
「はい。昨日お嬢様が横島様とお仕事をなさってお戻りになられました際に横島様が尻尾が9本ある狐を保護したと言うお話をお聞きましたので・・・」
「!? なるほど〜〜。フミさん〜〜上出来よ〜〜」
「ありがとうございます」
ふみさんは深々と頭をさげる。
ふふふ〜〜これで横島君獲得のきっかけができるわ〜〜。
「うおっ!?」
「横島さん? 急にどうしたのね〜?」
「いや、なんか急にとんでもない悪寒が走った。ついでに言うとなんだかとっても逃げたい気分だ」
「なんか不吉なのね〜。悪いことでも起きなきゃいいけど」
「まぁ気のせいだろ。それより今日の晩飯はなんだ?」
「久しぶりに目玉焼きハンバーグなのね〜」
「キューン」
「はいはい、おいなりさんもあるから安心するのね〜」
そんなやり取りを横島さん達がしているのを横目に、
ズッ
「ふ〜〜。和みますね〜〜」
私はお茶を一口飲んで安らぎを感じていた。
「小竜姫、それじゃお婆ちゃんみたいなのね〜」
「失礼なこと言うんじゃありません!!」
ヒャクメ・・・後で覚えておきなさい。
あとがき
今回は次のお話へのきっかけでした。大体予想はつくと思いますが。しかし初めてメイン(横島くん、ヒャクメ)以外の視点で一話書いて見ましたが何とかなるもんですね。皆さんの反応が少し怖いような楽しみなような・・・しかしメイドのフミさんをこんな風に書いておいてなんですが・・・クロサキくんみたいですね〜。最後に冥子ちゃんの仕事結果の数字はかなり適当です。深くつっこまないでください。お願い致しますぅ〜。
追伸
俊様のご指摘により誤字を修正いたしました。
俊様、ご指摘ありがとうございました。
レス返し
はじめにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
February様
タマモ出しました〜。ロリコンネタはもう少し掘り下げて調べたのでそのうち使います。わかりにくいネタです。今回はあんまり盛り上がりはありません。申し訳ないです〜。
百目守様
シロはどうしようか考え中。位置が微妙になりそうなので。しばらくタマモさんを使うつもりですのでお楽しみに〜。
Tシロー様
霊波のことに関してはしばらくしたら触れますのでここではご勘弁を。しかし他の人外の恋人候補とありましたが・・・現在出ている恋人候補に人間がいません!!おキヌちゃんはまだ幽霊だし。なので余地はあるかと。人間の恋人候補・・・おキヌちゃん以外増えるかはかなり微妙です。
俊様
毎度の誤字のご指摘ありがとうございます。今回美智江さんの知るところとなりました。ついでに冥華さんも・・・ヤバイ人ばっかりです。
チョーやん様
妊娠報告は色々考えたんですがあたりさわり無いものを選びました。ある程度年齢のいっている人ですし、初産でもないので少し照れるぐらいにしたのですが、確かにそれもありですね・・・女心は難しい。
内海一弘様
タマモに対して他のヒロイン達がどういった対応をするのかは今後の大きな課題ですね〜。おキヌちゃんは良いとしてヒャクメは・・・悩みが増える一方です。
鹿苑寺様
服は着てました!原作でも変化したときは服は着てましたし。しかし裸は自分も考えましたが流石に捕まりそうなので・・・でもそれもありだったかな〜とか考えてます。
アイク様
大当たりです。そういったことを考えての今回でした。これによりこの奥方様たちがどう動くかをご期待ください。