六道女学院の卒業式が無事に終わり、冥子と忠夫の引越しの日がやってきた。
その日の冥子は朝4時に目覚めて気合も、やる気も充分の様子。元々、弁当をつくるために早起きをしていたのだが、今日はそれに輪をかけて早い。それを見た冥奈や他のメイドはそんな微笑ましい冥子の様子に優しい笑みを浮かべるのだった。
「ここが新しい家なの~?」
「ええ~、そうよ~」
車に揺られること20分。冥子と冥奈を乗せた車は冥子が住む家へと到着した。そこは3LDKのマンションで駅からちょうど徒歩10分ほどのところにあった。
余談だが、冥子達を乗せた車を運転しているのはフミである。彼女はあのあと、冥奈に諭されて落ち着いたのだ。今では前とは違い、同棲を認めている。その話は後ほど。
フミを車に残し、新しい家に着いた冥子は早速中に入ってみた。
「あ、冥子姉さん!おはよう。もう作業しちゃってるよ」
すでに横島家は到着していて、荷物の整理を行っていた。横島家といっても平日なので大樹は仕事に行っているし、エミは卒業したので学校に行く必要がないからまだ寝ている。よって作業をしているのは百合子と忠夫だけである。
引越しと言っても忠夫が持っていくのは自分の荷物だけ、冥子にしても自分の荷物だけなのでそれほど多くはない。その多くない荷物も業者によってすでに運ばれていたので、後は整理するだけである。昼食はレストランで食べ、その後食器とか必要なものを一緒に買ってくることになっている。
「あら~。忠夫君は早いのね~」
「違うのよ。冥奈。この子ったら、よっぽど楽しみだったみたいでね。いつもならまだ寝てる時間なのに、今日は4時に目覚めて早く行こうって急かされたわ」
「か、母さん!!///」
母親に自分の痴態を暴露され真っ赤になる忠夫。冥奈はクスクスと笑っている。恥ずかしさに耐えられなかった忠夫は「自分の部屋の整理してくる」と言ってその場を逃げるしかできなかった。そんな忠夫にさらに笑いがこみ上げてくる百合子と冥奈。
ひとしきり笑った後、百合子は冥子に問いかける。
「あ、そういえば先に忠夫の部屋を決めちゃったけど、いいかしら?冥子」
「うん~。最初から忠夫君に先に決めてもらうつもりだったからいいの~」
「そう、それは良かったわ。さ、あなたも部屋を決めちゃってきなさい」
「は~い!」
百合子に促され冥子も自分の部屋を決めて荷物の整理に取り掛かった。
今日から親元を離れて二人で暮らしていくために荷物の整理も全部自分達でしてもらうことにして、百合子達は傍観を決め込む。忠夫達もそれに文句は言わずに自分で整理をして一時間ほどで完了したのだった。
「じゃあ、昼食に行きましょうか~?」
「そうね、エミもそろそろ起こして連れて行くわね」
「わかったわ~。外にフミさんが車で待っているからいきましょ~」
忠夫一行は車に乗り込み、途中エミを拾って駅前にあるデパートへと向かう。
「まずはレストラン街のどこかで昼食をとりましょう~」
「何が食べたい?」
「俺は上手いもんならなんでもいいよ」
「私はイタリアンがいいかな」
「冥子も~」
「ならイタリアンで決まりですね」
デパートに到着し、イタリアンレストランを目指す一行。そんな一行をすれ違う人達は目を向ける。
妙齢の美女二人、メイド服の美女、そして、若々しい美女といってもいい美少女達がいるのだから。まぁ、若干の2名は美女というよりはかもし出している雰囲気で注目を集めているのだが。
レストランに到着し、6人がけの席に座る。百合子、冥奈、フミと冥子、忠夫、エミの大人と子供に分かれて座った。忠夫とは離れているために世話ができないフミは不満気だったが。
昼食を食べた後、生活に必要なものを買いにレストラン街を出る。
「じゃ、私と冥奈とフミさんはどっかで時間潰しているから、あなた達で選んできなさい」
「これも~、一つの勉強よ~」
「「は~い」」
「エミは・・・そうね。あなたは一人暮らしの経験があるものね。二人にアドバイスしてあげて」
「は~い」
というわけで大人組みと子供組みでわかれて行動することになりました。
子供組みはまずはタオル類から揃えようということになり、生活用品のフロアを訪れると、前に見知った顔を見かけた。
「あれ?令子姐さんだ」
「あ!本当だ~。令子ちゃ~ん」
「ちょっと、恥ずかしいから大声で呼ばないでよ!」
突然大声で呼ばれた令子はびっくりして振り返ると恥ずかしそうに頬を染め小さくなっている忠夫と額に手を当てため息を吐いているエミ、満面の笑みを浮かべて手を振っている冥子を見つけて、やはりエミと同じく大きくため息を吐くのだった。
「なるほどね~。それでここにいるわけね」
「そうなのよ。私はこの二人の保護者的な存在としてつけられたワケ」
「ひどい~。私達はそんな子供じゃないのに~!?」
令子も交えて4人で買い物をすることになった子供組はお互いの目的を話し合っていた。令子は除霊実習でボロボロになってきた服を買いにここにきていたらしい。
話は忠夫達の話に移って、先ほどの冥子の反応になったわけだ。
話を否定している冥子だが、その言葉を肯定する者は残念ながらいなかった。想い人である忠夫ですらも『冥子姉さんはちょっと子供っぽいところがあるからな~』と思っているのだから。
この後、4人は一緒に買い物をしに回るのだが、エミと令子は――特に令子は――一緒に買い物したことを後悔することになる。
それは家具類を買いにきたときのことであった。
「ねぇ~忠夫君~。ベットはこれがいいわ~」
「どれどれ・・・って冥子姉さん。これダブルベットだけど?」
「変かしら~?」
「いや、変かしらって。冥子姉さんはもう高校卒業だし、俺だって今度から高校生だよ?一緒に寝るのはおかしいでしょ。もう子供じゃないんだから」
「そうかしら~?私は全然そんなことないと思うんだけど~」
「おかしいからさ。ね、シングルでいいでしょ?」
「やっぱり~、これがいいの~」
「だからね。姉さん?」
「これがいいの~!!」
「エミ姉さん。助けて・・・」
ということがあり、エミと令子が冥子を宥め説得するということがあった。これはまだいい。問題はこの後だ。
「このテーブルはどうかしら~?」
「ああ、これならあの家に合うね」
「これに、少しおしゃれに花をさした花瓶を乗せてみたらいいと思うの~」
「じゃ、イスはこういうのがいいかな?」
「ああ~、それすごくいい~!」
ともう新婚夫婦が新居を購入し、必要な家具を揃えているような会話をしている。これにはエミも令子も口から砂糖を垂れ流しながら眺めるしかない。何が悲しくてこんなバカップルの買い物に付き合わねばならないのか?という気持ちにさせる。
実際に何度かこの二人から離れようとしたのだが、絶妙のタイミングで忠夫のどちらかが「これ、どう?」と振り返るものだから離れるに離れられないでいる二人だった。
「エミ・・・」
「それ以上言わないで。泣きたくなるから」
「でも・・・」
「わかってるわよ。私だって」
「「はやく帰らせて!?」」
二人の拷問とも呼べる時間はそれから2時間は続くのであった。
令子とエミの体の糖分がなくなるような甘~い空間が終わり、4人は冥奈、百合子、フミと合流した。フミはすぐに車を取りに駐車場に向かい、百合子と冥奈が4人に対応する。令子とエミがやつれている様子に冥奈と百合子は最初は首を傾げるも、話を聞くと苦笑して「お疲れ様、あとで好きなもの買ってあげるわ」と同情的なコメントをするのだった。
「さて、今日は引越し祝いよ。帰ったらパーティを開くわ。令子も参加してってね」
「え?パーティ?やったぁ!」
「ありがと~。お母様~、百合子母様~」
「ご馳走をたらふく食べてさっきのはチャラにするわ・・・」
「同感」
純粋に喜んでいるもの、沈んでいたのをなんとか浮き上がらせようとしているもの温度差がある反応が返ってくる。
そんな反応が百合子と冥奈の苦笑を煽り、悪いことしちゃったわねという気持ちを強くするのだった。
「さって、張り切って作りますか!」
「はい、百合子様」
途中のスーパーで食料を調達し、冥子達の新居に到着すると百合子とフミがさっそく料理に取り掛かる。まずは、引越しなので定番のそばだ。
パーティにそば?という疑問は尤もなのだが、こういう風習は大事にしないとという百合子の意見でそうなった。そばを食べた後、本格的なパーティになる。そのため、そばは少量しか茹でない。
「忠夫く~ん。これを持ってって~」
「わかった」
忠夫と冥子はパーティに使う食器や生活で使うタオルなどを取り出して整理していた。食器棚などは大きいために宅配してもらうことになっていて明日届くことになっている。そのために備え付けてある棚にしまえるものはしまうが、大抵はしまうことが出来ないので、袋に入れて隅っこにおいてある。
「エミ、そっち置いて」
「OK」
エミ、令子、冥奈は作られた料理を運んだり、テーブルを拭いたりする係。
役割分担をきっちりとしていたおかげか準備は40分ほどで出来上がる。しばらくすると大樹と冥奈の夫が仕事を終えて合流し、パーティが始められた。
「では、冥子と忠夫の新たなる門出にかんぱ~い!」
「「「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」」」
百合子の音頭で皆がグラスを掲げる。
そして、楽しいパーティが始まった。忠夫以外は20歳を越えているのでお酒も並んでいる。ただし、フミは帰りの運転のために飲めない。忠夫はもう高校生になるのだし飲めそうなのだが、一応学校の理事である冥奈は飲めとは言えないし、フミさんだけ飲まないのは可哀相だという忠夫の意見で忠夫とフミは仲良くオレンジジュースである。
「あはははは~なんかいい気分~」
「令子~、それとって~」
「あんた、もう酔っ払ってるわれ~」
しばらくすると娘3人衆は揃って酔っ払っていた。大人は顔を赤く染めながらもまだまだ平気なようで、和やかに会話している。
「孫は女の子がいいですな~」
「そうですね。それが一番だ」
「いえ、男の子よ!」
「そうよ~。周りは女の子ばっかりだから男の子がいいわ~」
会話はちょっとアレであるが。
そして、お酒を飲んでいない二人はというと。
「フミさん、それはもう流しに運んじゃって」
「わかりました。忠夫様、このゴミをお願いします」
「うん、わかったよ」
喰い散らかされたゴミやら、皿やらの片付けをしていた。やれやれといった顔の忠夫とやけに嬉しそうなフミの顔が印象的だ。
こうしてパーティは日付が変わるまで続けられ、結局は六道家、令子、横島家は泊まることになった。というか、その場で寝転んでしまっただけであるが。
毛布をかけてあげるが、二人暮しの家にそんな数があるはずもなく、夫婦で一枚、同い年で一枚を使うことになった。
「疲れたね。フミさん」
「ふふ、そうですね。私達も眠りましょうか?」
「うん。おやすみ。フミさん」
「おやすみなさいませ。忠夫様」
そして、最後まで片付けやら寝転んだ人の世話に追われていた二人も一緒の毛布で眠りについたのだ。
あとがき?
ちょっと今回は暴走なしで。ラッフィンです
はい、今回はノリを初期のころのノリに戻してみました。
・・・戻ってますよね?自信がない。
新作ではキャラを壊すべきか普通にいくべきか悩んでいます。
ぶっちゃけ普通にかければいいのだけれど、壊すのも捨てがたい。
む~・・・
さて、次回は・・・内緒です♪
読んでからのお楽しみ!では次回にお会いしましょうw
おや?何か物足りないとな?では、これで補完してくださいなw
フミサイド
コンコン
SSを退けた後、ガックリと膝をついてしまった日の夜中である。フミの部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「・・・どうぞ、お入りください」
覇気のない声で応えるフミ。だが、言葉は伝わったらしく静かに扉が開きノックした人物が中に入ってくる。
「こんばんわ~。フミさん」
「め、冥奈様!?」
突然の主人の訪問に驚くフミ。慌てて立ち上がり冥奈に向かってお辞儀をする。
冥奈はそんなフミに楽にしていいとやんわりと制して二人は椅子に向き合って座った。丸いテーブルにはフミがすぐにお茶を用意する。そのまましばらく二人は静かにお茶を啜った。フミには先ほどのこともあり、その沈黙が少し痛かったり。
それでも、この居辛い雰囲気を無くすために勇気を出して問いかけてみる。
「あのぅ、冥奈様。どういったご用件でしょうか?」
勇気を出して言ったのだが、音量はわずかで近くにいても霞んでしまうくらい。それでも、冥奈には通じたようで、フミの問いかけの後、お茶を一口啜ると話を切り出した。
「さっきの~、冥子の同棲についてのことなんだけどね~」
「・・・はい」
冥奈の出した話題につい暗い雰囲気になってしまうフミ。冥奈にもそれが手に取るようにわかってしまうために苦笑して話を続ける。
「基本的には~、二人の力だけで生活してもらうわ~」
「基本的には?」
「そうよ~。フミさんはさすがに鋭いわね~。つまり例外もあるってことよ~」
例外、その言葉にフミは希望を見出す。眼に輝きが戻り、早く続きを!と促すように。その様子に冥奈はまたも苦笑がこみ上げて来た。
「冥子は今~、GS見習いじゃない~?それで~、依頼の中には~、泊りがけだったり~深夜だったりすることもあるわよね~?」
「確かにそうですね。GSは霊の専門家ですからね。深夜の依頼はポピュラーですね」
「ってことは~、その時間は忠夫君は一人きりってことでしょ~?」
「!!!!????」
忠夫は一人きり。その言葉にフミの中で悪い想像が浮かんでしまう。
深夜の冥子・忠夫宅、一人の怪しい男がピッキングで侵入してくる。どうやら、泥棒のようだ。
『へへ、金目の物はどこかな~?』
その泥棒はある程度のめぼしをつけて物色し始めた。すると、そこになにやら異変を感じた忠夫が現れてしまう。
『な!なんだよ、お前は!』
『ちっ、見つかった。悪いが死んでもらうぜ』
グサッ
『あ・・・・フミさ・・・たすけ・・・』
バタ・・・
泥棒が口封じにと忠夫を刺し、意識が途絶えそうになりながら忠夫はフミに助けを求めるように呼ぶも意識を失ってしまい、二度と起き上がることはなかった。
「嫌ぁあああ!忠夫様!!目を、目を開けてください!死んではいけません(※フミの妄想です)」
「はっ!もしかしたら・・・」
『ゴホゴホ・・・』
『大丈夫ですか?』
フラッ
『危ない!』
『!?・・・あなたは?』
『それは後で言います。とにかくウチが近いですからそこにいきましょう』
忠夫が学校から帰宅中に道端で蹲り咳き込んでいるメイド服を着た(←ここ重要)女性がいた。心配になった忠夫は声をかけるも女性はそのまま倒れそうになってしまう。咄嗟に抱きとめるとかなりの熱があることがわかり、忠夫はとりあえず自分の家で寝かせて落ち着かせることにした。
客間に布団を敷き、そこで女性を寝かせると忠夫はおかゆを作り始める。ごはんを炊いている間に氷枕と水タオルを用意して女性の頭の下と額に置く。
『どうぞ』
『頂きます。(パクッ)おいしいです!』
『それはよかった。いっぱいありますからどんどん食べてください』
それから一杯だけおかわりをすると、よほど疲れていたらしく横になったとたんに眠りについてしまった。
女性が目を覚ましたのは深夜、日付が変わったころである。
『ん・・・ここは?』
『あ、目を覚ましたんですね』
『あなたは?つっ!そっか。私、倒れて』
目覚めたばかりでぼ~っとしていた頭は頭痛を認識すると全てを思い出した。そして、見ず知らずの自分を看病してくれたこの男の子に好意を抱く。
『家の人は?』
『今日は仕事で帰ってきません。それより、具合はどうですか?』
『そうなの。キミのおかげで落ち着いたみたい』
『それはよかったです』
家に男の子一人だというのは可哀相だと思ったが、これはこれで好都合だと女性は思う。そして。
『見ず知らずの私を助けてくれてありがとう。お礼をしたいのだけど・・・』
『どういたしまして。お礼なんていいですよ。俺が勝手にしたことですし』
『それじゃ、私の気が済まないの。でも、今は何ももってないから・・・』
『それじゃ、後日にってことで』
『わ、私の体でお礼をするわ///』
『え?』
女性は服をはだけながら忠夫に顔を近づけていき。
『私を抱いて』
桃色空間の出来上がり♪
「そ、そんな!私の忠夫様がどこぞの馬の骨の餌食に!?(※フミの妄想です)」
パァン!
「はっ!私は何を?」
「話を続けるわよ~」
体をギュインギュインと捻りながら妄想をするフミ。このままではどんどん加速してしまいそうであったために、冥奈は手を叩きフミを正気に戻らせて話を続ける。
「それでね~、忠夫君が一人になったら家事が大変よね~?」
「そうですね」
「だから、そのときになったら誰かを派遣しようと思うの~」
ピクッ
「もしも~、もしもよ~?泊りがけの仕事で冥子が出かけなきゃならなかったりしたら~、泊りがけで世話をしてくれるとなお助かるわね~」
ビククッ!
「というわけでその役をやってくれる人を六道の家政婦の中から選ぼうとおも・・・」
「やります!いえ。是非私にやらせてください!!」
「ありがと~。助かるわ~」
こうしてフミは諭されたのだった。
そのことで心に余裕が出来たのか引越しの手伝いのときに真っ先に忠夫の手伝いに行くとは言い出さなかったし、買い物のときも常に大人組の側にいた。
だが、あまりに忠夫とスキンシップができずにいたためか密かに手が痙攣を起こしていたのは秘密である。
子供組と合流したときにやつれている二人と幸せそうな二人を見たフミの心の中は『羨ましい!』の一色だったとか。いや、耐え切れたことが不思議で仕方ない。フミを褒めてあげるべきか?
だが、帰宅中の車では、ハンドルを握っている手どころかアクセルを踏んでいる足や前を向いている顔まで痙攣を起こしていた。禁断症状が激しくなっているようだ。
そんなフミの我慢が天に届いたのか引越し祝いパーティは夢のような時間であった。
「フミさん、俺達だけジュースだけど・・・乾杯」
「はい///」
みんなで乾杯した後で、二人だけのささやかな乾杯にフミは感無量だ。その後も今日はいつもフミさんにお世話になっているからと何かとフミの世話を焼く忠夫。たんに酔っ払いの相手をするのが嫌なだけかもしれないが。
「フミさん、これおいしいよ」
「あ、ジュースがないね。注いであげるね」
「何が食べたい?」
といった具合に甲斐甲斐しく世話をする。GS試験のエミのとき同様、フミは忠夫の成すがまま。と思ったが、さりげなく自分と忠夫のグラスを変えたり、忠夫に食べさせてもらったりとちゃっかりと甘えていたのはさすが。心の中で歓喜に沸きあがり幸せな時間を堪能するのだった。極めつけは・・・。
「あ、フミさん。お弁当」
「はい?」
ヒョイ、パクゥ
「あ・・・」
「フミさんいつもしっかりしてるけど、こんなこともあるんだ。なんか可愛いね」
ズボン!!シュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・・・
「か・・・かわ!」
フミのほっぺにご飯粒がついていたので忠夫はそれをとって食べたのだ。そして、ふいの一言。もうフミはオーバーヒート。リミットブレイクである。言葉を失い口を金魚みたいにパクパクさせて何事かをつぶやこうとしている。完全にのぼせ上がってしまったようだ。頭から湯気を出し、顔は真っ赤っ赤で鼻血が出なかったのが不思議なくらいだ。
今、フミの心を表すとしたら
『我が人生に一片の悔い無し!』
である。どこぞの覇王様も真っ青だ。
しかし、幸せな時間もおわりが近づいていた。
「あ、もうこんな時間か」
「え?あ、そうですね」
時計を確認した忠夫の呟きで正気に戻ったフミ。時間は11時を過ぎていてそろそろ戻らないと、冥奈もその夫も大樹も明日は仕事があるのだから。フミとしてはこのままもっと忠夫に甘えたかったのだが、仕方ない。相当な労力だったが、なんとか体を起動させる。そして、冥奈にそろそろ帰る旨を伝えようとしたら。
「あら?眠ってしまわれたみたいですね」
「ってか、起きてるのって俺とフミさんだけ?」
すでに起きてるのは忠夫とフミだけになっていた。珍しくというか初めてではなかろうか?大人組もぐっすりと眠っていた。どうやら、みんなが揃って飲み会というのが珍しいのでハメを外してしまったようだ。
「もう遅いし、これから家政婦さん達を呼び出すのも悪いから泊まっていきなよ」
「しかし・・・」
「もう、暗いし。危ないよ?ね?」
「はい///」
危ないといっても車なので関係ないとは思うのだが、忠夫の優しい声で言われてしまったらフミに逆らえるはずもなく、真っ赤な顔で肯定してしまうのだった。己の仕事を果たそうという気持ちがなかったわけではないが、フミの頭では。
忠夫>>>>>(越えられない壁)>>>>冥奈達>仕事>>>>その他
なので仕方ないだろう。
泊まることを決めた後はパーティの後片付けである。二人は協力して片付けを開始した。呆れながら片付けている忠夫とは対照的にフミの顔には笑顔が浮かんでいる。
「忠夫様と共同作業♪」
さいですか(汗)
片付けを終えると今度は寝転んでしまった人達の世話に移る。まずは、冥子達3人娘は冥子の部屋のベットに運び込む。忠夫の部屋にはベットがあるのだが、シングルに3人は狭いということで却下。しかし、冥子の部屋にはベットがない。冥子が使っていたベットは大きすぎてこの部屋にいれられないために冥子は新しいのを購入したのだ。そのため、ベットスペースが空いていて広々と感じる。
そこに布団を敷いて3人を寝かせる。それでも狭いのには変わらないがベットから落下するよりはマシってことで我慢してもらおう。
「母さん達は客間へ。って、フミさんどうかした?」
「・・・いえ、別に。客間ですね」
忠夫が冥子やエミを抱き上げて運んでいたとき、フミはその様子をじぃっと見ていたのだ。なにせ俗に言う『お姫様抱っこ』の状態で運んでいたため、寝ているとはいえそんな冥子達に羨ましいと嫉妬してもおかしくないだろう。
フミは話をごまかすために六道夫婦を客間へと運ぶのだった。全員を運び終えると毛布をかけてあげるために押入れを開ける。そこで忠夫は気がついた。毛布の数が足りないことに。
「あちゃ~、毛布が4枚しかないや。全然足りないよ。どうしよ・・・」
「仕方ありません。2,3人で一枚を使ってもらうことにしましょう」
「それしかないね・・・」
「まずは冥奈様夫婦と百合子様夫婦で一枚ずつかけるとしましょう」
「うん」
4枚のうち、2枚はすぐに決まった。問題は残りの2枚である。残るメンバーは5人で毛布は2枚。季節は春といっても夜には肌寒くなる。よって女性を毛布なしで寝かせるのは駄目。そして、男女の同衾も年頃であるために問題があるだろうということで忠夫は一人ジャケットを着込みソファで、残りの2枚を女性人で分けて使わせることに決めた。だが、その決定にフミは猛反論をする。
「いけません!忠夫様が風邪をひいてしまいます!」
「でも、毛布は2枚しかないし・・・」
「つめれば3人一枚でも大丈夫です!」
「でも、ほら・・・男女同衾は問題あるじゃない?」
「私は忠夫様を信じてますよ・・・別に忠夫様ならいつでもバッチコイなんですけど」
幸いにも(?)フミの呟きは忠夫には聞こえなかったみたいで、驚きもせず渋っている様子。
「忠夫様が毛布をかけないのなら、私もかけません!」
「駄目だよ!フミさんは女性なんだから」
「あら?それは男女差別ですよ。それに忠夫様より私のほうが体は丈夫です!」
「でも「でももヘチマもありません!」フミさ~ん」
忠夫の優しさにつけこんだ嫌な方法だが、風邪を引かれるよりは何倍もいいだろうというフミの思いで強引に押し込む。それでも渋っていた忠夫。だが、意外なところから援護があり、忠夫の意見が折れた。
「あれ?」
「ふふ、仲がよろしいですね」
「仲がいいっていうか冥子姉さんに振り回されてるっていったほうがしっくりくるかも」
「ふふ、そうですね」
冥子の部屋に毛布をかけにきた二人が眼にしたものは、冥子に抱きつかれてうなされている令子とエミの姿であった。二人の腰に冥子の腕が絡みつき、寝苦しくうなされている間で冥子は幸せそうに微笑んでいる。
「「うぅ・・・くるし・・・」」
「みんな仲良しなの~」
苦笑しながら3人に毛布をかけると忠夫はフミの意見を採用することに。なんだか、あの3人を見ていたら変に意地を張った自分が馬鹿らしく思えると忠夫は思う。その忠夫の言葉にフミは何も言わずただ笑みを浮かべて頷いた。
二人は忠夫の部屋にあるベットで眠ることにし、まずはフミが先に横になり毛布を被る。そして、毛布を少し持ち上げ忠夫が入りやすいようにしてくれた。
「どうぞ///」
「うん///なんだか恥ずかしいな」
お互い顔が真っ赤に染まっている。忠夫は恥ずかしさを堪えながらフミの隣に潜り込んだ。とたんに香る女性の甘い香りに体温が上昇するのを感じるも、大人と子供の違いはあれど冥子と同衾したことがある忠夫はまだ余裕があった。
「疲れたね。フミさん」
「ふふ、そうですね。私達も眠りましょうか?」
「うん。おやすみ。フミさん」
「おやすみなさいませ。忠夫様」
さすがに引越し、買い物、パーティ、その後片付けと忙しかったからだろうか挨拶をしてしばらくすると寝息を立て始める忠夫。しかし、同衾には慣れていないフミはそれどころじゃなかった。
「忠夫様と同衾ですか!?我ながらなんて大胆な!!」
「ああ、忠夫様がこんな近くに感じることができる!!」
「寝てしまわれましたか?くぅぅ、可愛すぎです!!でも、先に寝ちゃうなんてひどい!」
かなりテンパっていた。だが、この後さらにテンパることになる。
それは忠夫が寝言をいいながら寝返りをしたことから始まる。
「ちょっとくらい抱きついてもいいですよね?もう、忠夫様は寝ているし。そうです、それにくっついてないと毛布から出ちゃいます!風邪引いちゃいますからね。こ、これは当然の処置です!」
「ん・・・暖か~い。いい匂いがする~♪」
「ひゃわ!た、忠夫様!?」
正当な理由?を主張し、同衾のどさくさにまぎれ忠夫を抱きしめようとしていたフミに寝返りをうった忠夫が逆に抱きついたのだ。予想外の出来事に驚いたフミだったが、「忠夫様を抱きしめようとしたのだけれど、これはこれで・・・というか、このほうがいい!」という想いもあった。
「忠夫様、暖かいです♪ああ、忠夫様の匂い♪忠夫様の感触♪忠夫様の声♪忠夫様~♪フミは一生お仕え致します~♪」
これは今後あるかないかの極めておいしい状況である。よってフミはたっぷりと堪能するのだった。
「忠夫様~♪」
あとがき
最初の文を読んで物足りないと思った人。あなたは立派にフミラーです。
是非FFFに入りましょう。
でも、フミサイドのほうが長かったりするのは言っちゃ駄目ですよ?
では、次回w
ジーク、フミさん!!
レス返しです
Tシロー様
今回は冥子、フミの2段編成でお送りしましたw
いや~、フミがバーサクしなかったのが不思議でなりませんw
ぷてらのどん様
今回は冥子姉さんも忠夫君とイチャイチャパラダイスですw
割り食ってるのが令子とエミ。まぁ、ガンバレwってことで。
HEY2様
フミ対策・・・もはや泥沼となっている気がしないでもないですがw
物事(忠夫に関して)は常に全力投球、一球入魂なフミさんですからね~。
Zinv様
はじめまして~w
誤字の指摘ありがとうございます。
whiteangel様
今回は冥子姉さんとの久しぶりのイチャイチャでした。そして後半は逆襲のフミさんエピソード1wしかし、最後は逆にアタックされ撃沈wでも、ただでは起きないフミさん。タフですね~w
FFF隊員No.1様
SPとは常に命の危険と隣り合わせな仕事なのです・・・
カシス・ユウ・シンクレア様
お久しぶりです♪
MMM!?ま、負けないんだからね!!
今回は最初のころに戻った雰囲気にしてみました・・・後半は言わなくてもわかりますがw
悠月 神夜様
はじめましてw
また一人フミさんの虜になったものが現れた。順調だな(〃δーδ) ニヤリ
DOM様
す、素晴らしい推理だ。だが、冥奈はもっともっと深い考えがあるはずです!!
むしろGMが最高指導者?
アミーゴ様
モニターは大丈夫ですかww
これも忠夫を思うが故、忠夫を思う心がそうさせたのです。
鹿苑寺様
今回は冥子姉さんも頑張りましたwでも、最後はフミさんがもってくw
秋桜様
人によってだと思いますよ?手伝ってくれる人もいるみたいです。(私の父がそうだったみたい)私は経験がないですけど、聞いてる話では育児は大変みたいですね。
ただ、子供への愛情は母親のほうが強いみたいです。おなかを痛めて生むくらいですからね。そりゃ、想いも強くなりますよね?
今後の展開はどうなるか?まだ、わかりません。今回は冥子姉さんが久しぶりに頑張りましたw
風彌様
GMは神をも越える!!
ナイフか・・・それいただきw
今回もフミさんに頑張ってもらいましたw冥子も頑張りましたよ~w