少女には十二匹の友達がいた。
彼らは少女に忠実で、いつも一緒に時を過ごしていた。
彼らといるのは楽しい。
晴れの日は外で遊び。
雨の日は家の中で遊ぶ。
だから少女は笑顔を常に浮かべていた。
何故かと言うと楽しいから………。
しかし十二の友達は人では無い。
少女の家に代々仕える式神。
その姿は異形。
だが少女は彼らに恐怖心は抱かない。
それは小さいときから一緒である、掛け替えの無い友であるから………。
でも、他の人は違う。
異形であり、強大な力を持つ彼らを恐れる。
そしてそんな彼らを意のままに操る少女を恐れる。
故に少女は常に一人。
家でも、外でも、学校でも、何処でも……。
友達が欲しい。
同じ人間の友達が欲しい。
一緒に遊んでくれる人間の友達が欲しい。
十二の式神を受け入れてくれる友達が欲しい。
少女は今日もそう思いながら眠りにつく。
明日こそ友達が出来ますように……。
自分の式神と共に遊んでくれる友達が出来ますように……。
そんな少女の名を六道冥子と言った。
この誓いを胸に 第五話 六道が為に鐘が鳴る。前編。
日本が世界に誇れるオカルト大家。六道家。
その祖は不明であるが、文献によれば平安時代には既に存在していたとされている。
平安時代から存在していたオカルト家と言えば、高柳家などもそうであるが、六道家は彼の家の様に一度も没落をしておらず、この1000年間日本のオカルト事情に表でも裏でも力を振るってきた。
故に八百万の神が存在すると言われ、魑魅魍魎で溢れていた日本では絶大な権力を手に入れる事が出来た。
今の日本で六道家にまともに喧嘩を売れる者など一人もいない。
それはオカルト関係だけでなく、政界、経済界全てにおいてである。
「何だよ………。この家の広さは……。」
「コン…………。」
横島とタマモは呆然と、その広大な面積を誇る庭を見ていた。
彼らが今来ているのは、東京の一等地に堂々と建っている六道家である。
横島は過去に八神宅の広さにも驚いたが………此処は次元が違う。
その広大な面積により、歩いて庭を回る事は出来ず、車で移動しなければならないほどだ。
更に横島たちが乗っている車も凄い。
真っ黒な塗装を施したボディー。
中に入れば以上に広い奥行きと、革張りのソファーの様な座席。
そして小型のテレビまで付いていやがる。
横島は思う。我が家の車なんて10年も前のカローラで、車内からは玉葱が腐った匂いと、それを無理やり誤魔化そうとしたラベンダーの香りで、何とも乗り心地の悪い車だと言うのに……。
一般人と金持ちの現実を見せつけられた横島は、哀愁を漂わせながら深いため息を吐いた。
そして膝の上で二本の足を器用に使い、立っているタマモへと視線を移した。
「キュ……。」
今日初めて車に乗ったタマモは、先ほどからずっと窓に手をかけ、変わり行く外の景色を興味深そうに眺めていた。
最近気づいたのだが、タマモはかなり好奇心旺盛で、本人が知らない物などには非常に興味を抱く。
例えばデジャブーランド。
テレビでこれのCMが流れていたとき、彼女は背筋をピンと伸ばて座り、食い入る様に画面を見つめていた。
そしてそのCMが終われば、真剣な表情のまま画面から視線を此方に移し、ゆっくりと擦り寄ってきて……。
何時もの三倍強で甘えてきた。
勿論タマモが言いたい事は判る。
要は、デジャブーランドに連れて行って欲しいのだ。
しかし、流石に狐がジェットコースター等のアトラクションに乗れるとは思えない。
それ以前に入場出来るのか?
横島が我関せずと茶をすすっていた八神の方を見る。
八神の眼はその時、静かに語っていた。
無理だろと………。
だろうな。と八神の意思に同意した横島は、心苦しいながらもその事をタマモに説明した。すると彼女はかなりショックだったらしく固まってしまい……。
次の瞬間、マジ泣き。
そこまでショックだったのか!? 横島はそう思い、慌ててタマモを慰めようとするが、上手い慰めの台詞が全く浮かんでこない。
その間にもタマモは泣き続け、その所為でますます混乱する横島。段々と場の収拾が付かなくなってきた。
横島はすがる様な思いで八神の方を再度見る。
そんな横島に対し、八神はしょうがないと言わんばかりに一回ため息を吐き、湯飲みをちゃぶ台の上に置くと、ゆっくりと口を開いた。
『タマモ。お前が人に化けれる様になったら連れて行ってやる。』
タマモは八神のその一言で、コロッと機嫌を直し、彼に嬉しげに擦り寄っていく……。
これが年の功と言うやつか? 何だ、この敗北感は?
横島は楽しそうにじゃれ合う八神とタマモを見ながら、ガックリと肩を落としたのであった。
(結局コイツもまだまだ子供なんだよな。)
横島は九本の尻尾を振り、窓の外をあきる事無く眺めているタマモを見ながら、その時の事を思い出していた。
車に乗り始めて数分。やっと六道家の屋敷が見えてきた。
その屋敷は予想通り巨大な建物で、既に心構えが出来ていた横島は、そんなに驚いたりはしなかった。
ただ意外なのは、その建物の造りが西洋風であったことだ。
六道と言えば、1000年以上も前から伝わる式神を扱う事で有名な陰陽大家。
それにより横島の中では純和風なイメージがあったのだ。
(明治期の西洋文化を取り入れる流れに乗ったのかな?)
「その通りじゃ。」
「うお!」
突然隣に立っていた八神が、横島に声をかける。
それに驚いた横島は思わず後ずさってしまった。
「何で俺の考えている事が判ったんや!?」
「声に出ておるからじゃ………。」
八神が半眼で、横島を呆れた様に睨む。
「あ〜〜。なるほど……。」
「……お主のその癖、早く直さんとのォ。」
「はははははは………。」
場の空気が悪くなった事に気がついた横島が、誤魔化すように笑う。
しかし八神の冷たい視線は変わること無く、横島は段々と冷や汗を流し始めた。
「ま、まあ、爺さん。そんな事より俺の考えは当たっていたんか?」
「誤魔化したか? まあ、良かろう。お主の考えは当たっている……。しかし今時のブームに流されるのと同じ様に、明治時代の西洋ブームに流された訳では無いぞ?」
「如何いう事や?」
横島が内心、話題を変えれた事にホッとしながら、真剣な表情で八神に問いかける。
もっともその真剣な表情とは裏腹に、額には冷汗が浮かんでいたが……。
そんな横島に八神は呆れながらも話を続けた。
「そこは生き残りを賭けた戦略の一つと言うやつじゃ。六道家は明治政府に富国強兵を自分たちは邪魔しません。支持しますという意思を、日本の中心に設けた屋敷を西洋風に造り上げる事でアピールしたんじゃよ。」
「何でそんな事……。六道家なら政府を押さえる事ぐらい出来たやろうに……。」
「今の六道ならばな……。しかし明治時代には、まだ其処まで力が無かった。生き残るためには政府に従うしか無かったのじゃよ。大変じゃったろうな〜。その時の六道家は当に政府から支配されていたと同じ……。オカルト関係の事件には、まるで手足の様に扱われていたじゃろうな。」
「ふ〜〜〜ん。何か面倒な話やな。」
「そうじゃのォ。裏側の事情などこんな事ばかりじゃ。だが忠夫よ。お主もその裏側に少しだが関わっておる……。その事を肝に銘じておくがいい。」
八神の言葉に、横島は真剣な表情のまま無言で頷いた。
実際に自分もまた油断をしていると、何時面倒な事に巻き込まれるか判った物ではないのだ。
油断など出来ない。
八神もそう横島に意識付ける為にこの話をしたのかも知れない。
「キュ?」
突然、横島の頭上でずっと黙っていたタマモが鳴く。
それとほぼ同時に屋敷の扉が開き、中から数人の使用人を従えた、和服を着た女性が姿を現した。
その時、横島はその女性と一瞬だけ目が合った。
ゾク………。
一瞬……。
そう一瞬だった。
ただ何気なく目が合っただけなのに、横島の背には冷たい物が走った。
それで彼は直感する。
この人はうちの母親と同じ人種だと……。
「こら、余り怯えさせるな。」
「あら〜。そんなつもりは無かったのよ〜。おじさま〜。ね〜。忠夫君〜。」
女性が独特な口調と、のほほんとした雰囲気で横島に話しかけてくる。
横島にはその姿が不気味に感じられ、思わず身体を後ろに引いてしまった。
(何や!? このおばはんは!?)
「私は六道家現当主。六道冥香よ〜。」
「うお! また考えていた事が口に出た!?」
横島が大げさに上体を反らし、声を荒げる。
「違うな……。今回お前は何も喋っていない。」
すると八神が、そんな横島の台詞を否定する。
「じゃ……じゃあ、何で判ったんや?」
「表情じゃよ。お主の表情がコイツ何者だ。と言っておった。」
「マジで?」
「マジじゃ。それにそういう表情を意図的にさせたみたいじゃからな〜。よりお主が何を考えているのか予測し易い。」
「意図的って……俺、何時誘導されたんや?」
横島が眼を丸くし、額からダラダラと冷汗を流しながら八神に問う。
八神はそんな横島を鼻で笑った。
「最初からじゃ。動揺した時点で、お主は冥香の術中にはまっていた。良かったのォ〜。これが実戦では無くて……。もしこれが実戦の交渉の舞台じゃったら、動揺しまくったお主が反撃も出来ず、ズルズルと引き込まれていき終了じゃったぞ?」
「嫌だわ〜。おじさま〜。そんなつもり、私には無かったのに〜。」
「ふん。如何だか………。」
八神と冥香が笑う。
片方はのほほんと、片方は楽しそうに……。だが、非常に不気味だ。
表では笑っているが、裏では何を考えているか判らない。
もしかして本当に楽しんでいるのかもしれない。
だが、両者共に騙す騙されるの世界でトップクラスの人物。
お互いの腹の中を探っているのかもしれない。
何にせよ、この場から早く逃げたいと横島は思っていた。
何で自分はこんな人種と付き合っているのだろうか?
(知り合いは選べよ。俺のバカヤロウ……。)
横島は、こんな世界に足を突っ込んでしまった自分に対し、心の中で悪態を吐いていた。
「ふふふ……。それじゃあ〜。立ち話は何ですから〜。中に入りましょうか〜?」
「そうじゃのォ。ならば、お邪魔するか………。」
未だに笑顔を浮かべ、歩き始めた二人に、横島は黙って付いていく事しか出来なかった。
「コン! コン!」
横島の頭上でタマモが興奮した様に鳴き、辺りを忙しく見回す。
だがそれはしょうがないと、横島は思う。
六道の屋敷の中は、その外観に負けず劣らず……。否、それ以上に凄まじかったからだ。
屋敷の中に入って、まず眼に飛び込んできたのが天井にぶら下がる巨大なシャンデリア。
そして二階へと続く、高級そうな赤茶色の絨毯を敷いた、これまた巨大な階段。
更に、奥に進んでいけば中世の鎧。
どっかの画家の絵。
陶器などの古今東西の美術品。
ここがヨーロッパのお城ですよ。と言われても信じてしまいそうである。
「忠夫君〜。あなたにね〜。紹介したい子がいるの〜。」
「………はっ……あ〜……。何ですか?」
横島は完全に屋敷の雰囲気にのまれていて、冥香の話をちゃんと聞いていなかった。
それで彼は彼女に申し訳無さそうにもう一度聞きなおした。
「もう〜。人の話はちゃんと聞かなきゃ〜。め〜よ〜。」
「ははは…………。すいません……。」
頬を膨らまして、私怒っていますと表現する冥香に対し、横島は苦笑しながら謝った。
正直彼は年を考えろ。と言いたかったが、その発言は危険すぎると思い。
彼はギリギリの所でその発言を飲み込んだ。
「ふふふ〜。いいのよ〜。おばさん、優しいから許しちゃう〜。」
「どうも……。ところでさっきの話……。」
「えっとね〜。横島君に会わせたい子がいるの〜。」
「会わせたい子?」
「そうよ〜。」
冥香の表情が、のほほんとした何処か作り物の様な笑みから、本当に嬉しそうな笑みに変わる。
その変化に横島は思わず眼を見開き、驚いてしまった。
この人もこんな表情をするんだと……。
「お母さま〜〜〜〜。」
すると廊下の向こうから、数人のメイドを引き連れた少女が冥香に声をかけてきた。
この時少女を見て、惜しい! ボールと、さり気に思ったのは横島だけの秘密である。
「冥子〜。昨日言ってたお友達を連れてきたわよ〜。」
「本当に〜。」
「名前は横島忠夫君って言うの〜。彼も冥子に会うのを楽しみにしていたわよ〜。」
「わ〜〜〜。嬉しい〜〜。」
「ふふふ〜〜〜。お母様に不可能は無いのだ〜。」
「お母さま〜。凄〜〜い。」
「でしょ〜〜? 凄いでしょ〜〜?」
「突っ込んでいいか?」
不思議空間を展開する六道親子の会話に、横島は物の見事に置いて行かれた。
六道冥香の娘。六道冥子のお友達になるなどと言う話は、全く聞いていない。
まあ、嫌と言う訳ではないのだが……。
それは勿論、今はボールでも今後の成長しだいでは十分ストライクになる可能性があるからだ。
「良かったわね〜。冥子〜。私は今からおじさまと大事な話があるから〜。あなたは横島君ともう一人の子と遊んでらっしゃい〜。」
「うん。ありがとう〜。お母様〜。」
未だに不思議空間を展開する二人。
その所為で、横島は何だか非常に会話に入りづらくて、突っ込みたくても突っ込めないでいた。
横島の隣にいる八神も、会話に入れないのか、困ったように頭をかいている。
何時の間にか完全にこの場の主導権を、六道親子に握られてしまっていた。
もしかしてこれは一種の固有結界?
その場に親子が揃えば自動展開する大禁術?
六道の親子は化け物か!?
「お庭に行こう〜〜。横島くん〜〜。」
冥香に言われたとおり遊びに行こうと、冥子が横島の手を握り、彼を庭の方へ連れて行こうとする。
うむ、柔らかい。と親父臭い事を考えながら横島は、冥子に大人しくついて行った。
(これ以上、六道親子のセット空間に居るのはたまらんからな………。それに母親の方よりはこっちの方が楽やろ。爺さん。頑張れ。)
横島がにやりと笑う。
だが彼は判っていない。
結局どっちもどっちだと言う事に……。
冥子に連れられて庭に出た横島は、不思議空間の解放感からか、人目もはばからずおもいっきり伸びをした。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っと……。」
「如何したの〜? 横島くん〜?」
「いや、解放感からちょっと………。」
「ふ〜〜〜〜ん。」
大して興味無さそうな反応をする冥子。
横島の解放感など、彼女にとっては如何でもいい事らしい。
横島としてはもう少し興味でも何でもいいから持って欲しいのだが……。
だって原因がこの親子だし……。
(今でこれじゃあ、将来確実に母親と同じになるな……。)
横島は冥子の将来を想像し、小さくため息を吐いた。
此処で友達になるのが得策なのか?
それとも遠慮して逃げる事が最良なのか?
横島がそんな事を考えながら冥子の方を見る。
「な〜に〜?」
同年代の中でも背が高い方である横島は、当然冥子よりも身長が高い。
すると横島を見る冥子は、結果的に上目遣いになる。
幼い雰囲気のある彼女にはその格好が非常に良く似合う。
その瞬間、横島は心にぐっと来るものを確かに感じた。
ストライィーーーーーークッ!!
心の審判が妙にハイテンションで叫ぶ。
「ははは。何でもないよ、冥子ちゃん。さあ、行こう。」
「うん〜〜。」
横島忠夫。美人と可愛い女の子には弱い、欲望に忠実な中学一年生。
「コン!!」
「いで!!?」
故に節操が無く、頭上にいる子狐……。タマモ女に噛まれるのであった。
「わ〜〜。かわいい〜〜。」
そんなタマモを見て、的外れな事を言う冥子。
いや、まあ可愛い事は可愛いが……。
この場で言う言葉は、頭から血を流している横島を心配する言葉ではないだろうか?
「いででで!! タマモ! 堪忍や〜〜! しょうがないんや〜! 存外冥子ちゃんが可愛かったんや〜〜!」
「ウーーーー。」
「いいな〜。楽しそう〜。」
「冥子ちゃん! のほほんとしてないで助けて〜!! タマモを止めて〜〜!!」
「ウーーーー。」
「へ〜。タマモちゃんって言うの〜。私は冥子って言うの〜。よろしく〜。」
「頼むから、君は人の話を聞けーー!!!」
横島が泣き叫ぶが、冥子は華麗に無視をする。
余りのスルーっぷりに、コイツ態とやってないか!? と横島が思うのはしょうがない事である。
「あ〜。何やっとのや? 自分ら?」
すると何時の間にか近くにいた男が、横島たちに声をかけてくる。
彼は横島よりも少し背が高く、長い黒髪を後ろで結んでいた。
年は横島よりも上だろうか?
どっちにしても、そんなに変わらないだろう。
「あら〜? 誰〜?」
そんな男に視線を向け、冥子が首を傾げる。
「えっと……。ボクは鬼道政樹言うんや。」
「あ〜〜! お母様が言ってた〜もう一人のお友達ね〜。私六道冥子って言うの〜。よろしくね〜。」
冥子が嬉しそうな笑顔を浮かべながら、胸の前で手を叩く。
鬼道はそんな冥子の笑顔に少し見惚れたのか、顔が赤い。
(何も知らないと言うのは良いな〜。)
横島は未だにタマモに頭を噛まれながら、哀れみを込めた視線を鬼道に送った。
「ねえ〜。ねえ〜。マーくんって呼んで良い〜?」
「えっ……。うん……。」
冥子の発言に心臓が跳ね上がった鬼道は、まともに返事を返せないでいた。
如何やら彼は、今何が起こっているのか、良く理解できていないらしい。
初恋……。
人はこのことをこう言うのかも知れない。
横島が黙って事の成り行きを見つめている。
彼とて人の恋路を邪魔しようなどと言う、無粋な事はしない。
否、出来ない。
今少しでも動いたらタマモが、彼の頭蓋骨を噛み砕くからだ。
「なあ……。タマモさん? いい加減放さない?」
「キュ〜〜〜。」
タマモは横島の頭を噛みながら、顔を横に振る。
その行為で、歯が更に食い込んで痛い。
「なあ……。タマモさん?」
「キュ〜〜〜。」
如何やら放す気は無いらしい。
「じゃあ〜。私の事は〜。冥子って呼んでね〜。」
「うん!」
鬼道と冥子が、横島が痛みに耐えている間にも、楽しく会話をしている。
冥子の方は判らないが、鬼道は完璧に彼女に惹かれていると言っていいだろう。
このまま順調に行けば、良い感じな雰囲気になるかもしれない。
面白くないぞ! この展開! と、横島は思わず歯軋りをしてしまった。
「コン♪」
「いで!!」
待ってましたと、言わんばかりにタマモが、顎に力を入れる。
そんな横島とタマモを完全に無視して、冥子達の会話は続く。
「ところで〜。マーくんのお父さまは〜、昔うちのお母さまに振られて〜、今度うちのお父さまの会社に負けて〜、事業に失敗して〜、それなのにプライド捨ててうちに借金しに来たんですってね〜〜〜?」
「だあーーーー!!」
鬼道が盛大にこける。
その光景に横島の顔が引き攣る。
やりやがったよ。あの女……。
本人が恐らく一番気にしている事をピンポイントで容赦なく、悪気無く言い。
天国から地獄へ、一気に叩き落す。
それにより純粋な少年の心を見事に打ち砕く。
これは言葉のゲイ・ボ○ク?
放たれたら最後、確実に心臓ではなく心が破壊される。
英雄もビックリだよ……。
「哀れだ……。」
「コン……。」
横島とタマモが未だに地に伏して、項垂れている鬼道を見る。
そのあんまりな光景に、タマモも横島の頭を噛むのを忘れ、鬼道に同情していた。
「冥子〜。お父さまから教えられたんだけど〜。難しくて〜、良く判らなかったの〜。」
(じゃあ、言うなよ。)
横島が心の中で突っ込みを入れる。
だが冥子に他意がないことから、むしろ良く判らなかったから、言ったのかもしれない。
どちらにしても酷い話だが……。
「う……。う……。うわ〜〜〜〜〜〜ん!!!」
鬼道が泣きながら駆け出す。
無理は無い。
ある意味最悪な失恋。
「どうしたの〜〜〜〜!! ね〜〜〜待ってよ〜〜〜!!」
「うるさい〜〜〜っ!! ついてくんなーーーっ!!」
鬼道は自分を追いかけて来た、冥子の方へと振りかえる。
そして、己の影から人型の何かを召喚する。
「っ……。式神か!?」
横島が慌てて冥子へ向かって駆け出す。
鬼道が召喚した式神が、かなり強力だと気づいたからだ。
このままでは彼女が怪我を負おうかもしれない。
「式神!! あなたも式神使いなのね〜〜!?」
冥子が鬼道の式神を見て驚く。
その刹那、横島の足が止まる。
あなた………『も』?
横島の額に嫌な汗が浮かぶ。
「みんな〜〜〜!! 一緒に遊びましょ〜〜〜!!」
冥子の掛け声で、一斉に彼女の影から飛び出してきたのは十二の式神。
一体一体から洒落にならないほどの強力な力を感じる。
それはかなり強力だと思っていた鬼道の式神をも上回っていた。
「これが、六道を守護する十二神将………。」
横島が呆然と呟く。
タマモも口を半開きにしてその式神達を見ている。
鬼道にいたっては完全に怯えていた。
「じゃあ〜。皆で鬼ごっこしましょ〜〜〜。」
そして、死刑宣告はなされた……。
数分後……。
「冗談や無いで! あんなのと付き合ってられるか!」
「まあ、落ち着け鬼道……。見つかるぞ?」
横島、鬼道、タマモは何とか冥子の式神から逃れ、今は見つからないように茂みの中に身を潜めていた。
「皆〜〜。どこ〜〜〜?」
すると冥子が式神を引き連れて、姿を現した。
横島達は無言でその光景を見ていた。
話によればあの十二の式神には色々な能力があるらしいから、此処も何時見つかるか判った物ではない。
「あの子は式神をちゃんとコントロール出来てへん。何であんな子が天才六道なんや……。」
辺りを見回している冥子の姿を睨みながら、鬼道が納得いかない様な顔をして呟く。
彼としては同じ式神使いとして、冥子の式神の使い方が気に食わないのだろう。
確かにあれは式神を使うではなく、式神を解放すると言った方が良い。
横島は虚空を見上げ、頭上にいるタマモを腕の中に抱く。
六道の式神……。
知識としては教えられていたが、実際に見るのとでは、やはり格が違う。
先ほど鬼道は、冥子が式神をコントロール出来ていないと言った。
しかしそれは大きな勘違いだ。
彼女は式神をコントロールしている。
していてあれほど強力なのだ。
もしあの式神がセーブ無しで暴れたらどうなるか?
恐らくは、ここら一体が焦土と化す。
止める手立てなど、少なくとも今の自分には無い。
1000年以上積み上げられてきた歴史。
1000年以上高い霊力の中で育まれた力。
それが今の六道の式神なのだ。
その真の力は、下級とは言え神魔に限りなく近いとされている。
そんな式神十二体と鬼ごっこなど流石に出来ない。
横島は、冥子とは出来れば仲良くなりたかったが……。如何やら無理のようだ。
(諦めて逃げよう。)
そう思い、横島は冥子から見つからないようにその場を離れようとする。
そんな彼の意図を察したのか、鬼道とタマモも無言で付いて来る。
「………また、やっちゃった……。」
その時、冥子が一人ポツリと呟いた。
「また、嫌われちゃった……。」
その声は先ほどと違い、気の抜けるような間延びした物では無く、とても悲しそうな物であった。
横島達は思わず足を止めてしまい、冥子の方を見る。
「何で……? 何がいけないの……? 如何したらお友達が出来るの……?」
冥子が体育座りをし、身体を小刻みに震わせながら膝の間に頭を埋めた。
彼女の周りでは式神が何やら騒いでいる。
泣いている彼女を慰めているのだろうか? 良く判らないが……。
「ヒック……。グスッ……。ヒック……。」
横島達は静かに泣いている冥子を見ていた。
こんな光景を見せられて「サヨウナラ」と無情に帰れる奴はこの場にいない。
一人は、美人や将来有望な女の子が、泣いている事が我慢なら無い少年。
もう一人は、駄目な父親の所為で苦労が耐えないが、それでも優しい心を忘れていない少年。
最後の一匹は、誰よりも孤独の辛さを知り、孤独の苦しさを理解出来る妖弧。
そんな彼らが、孤独で泣く一人の少女を無視する事など出来るだろうか?
否、出来ない。
だったら取るべき行動は唯一つ。
「なあ、鬼道? タマモ?」
「何や、横島君?」
「コン?」
横島の問いかけに真剣な表情で返事を返してきた二人?
そんな彼らに横島は視線を移し、不敵に笑った。
「行くぜ?」
タマモと鬼道はその言葉に無言で、しかし力強く頷く。
そして三人は隠れていた茂みから出て行き、冥子の方へ歩いていく。
途中式神から見られたり、ちょっかいを出されたりしたが気にせず進む。
「冥子ちゃん。」
そして冥子の目の前まで来た横島が、彼女に声をかける。
すると驚いたのか、冥子が涙でぬれた顔を上げる。
「グスッ……。横島君……。マー君……。タマモちゃん……。」
「もう、泣き止んでくれないか? 俺達はさ……。此処にいるから。」
横島が地面に片膝をつき、冥子の頭を優しく撫でる。
「そうや。ボク達は友達や。だからもう泣かんでくれ…。冥子ちゃん。」
横島の後ろで鬼道が微笑みながら、冥子に声をかける。
「キュ〜〜〜。」
タマモは冥子の膝の上に乗り、そのまま彼女の顔を舐める。
冥子はそんな彼らに、はじめは眼が点になって呆然としていたが、段々と瞳からボロボロと涙を流し始めた。
「わたし〜。わたし〜。グスッ……。皆のお友達〜?」
「「もちろん!」」
「コン!」
冥子の問いに何の躊躇無く答える三人?
初めてだった。
自分の事を、友達だとはっきり言ってくれた人達に出会ったは……。
誰も自分の事を友達だとは思ってくれていなかった。
むしろ自分は化け物として、他の人達からは見られていた。
六道と言う化け物。
十二の式神を操る化け物。
普通の人とは違う異端児。
故に誰も受け入れてくれず、何時も一人だった。
辛かった。
苦しかった。
誰でも良いから、受け入れて欲しかった。
自分を……。
式神を……。
「友達………。」
自分がずっと欲しかったもの。
毎日、毎日欲しいと願っていたもの。
それが今現実となった。
「どもだぢ………。」
嬉しさの余り、涙が滞りなく流れる。
同時に感情もドンドン高ぶっていく。
「ふえ………。」
もう我慢の限界だった。
泣こう。
嬉し泣きなんてやった事無いけど、全力で泣こう。
喉がかれるまで泣こう。
「あ……。やばい。」
突然鬼道が呟く。
横島とタマモもその言葉を聞き、やっとある異変に気がついた。
冥子の霊力が以上に高ぶっている事に……。
「ふえええええええええええええええええええええ〜〜〜!!!」
ちゅどーーーーーん!!
「「何でこうなるのーーーー!!!!?」」
「コーーーーン!!!!」
静かな空間が一転。式神の暴走で修羅場と化した。
「あらあら〜。仲が良いわね〜。」
冥香が椅子に座り、嬉しそうに窓の外を眺めていた。
其処には十二の式神を暴走させて泣き続ける少女と、涙を流しながらそれから必死で逃げる二人と一匹がいた。
横島忠夫。彼をこの家に招待して正解だった。
今まで誰も冥子を受け入れてくれなかったが、妖弧を受け入れた彼ならばもしかしてと思い冥子に会わせた。
そしたら如何だろう。
彼は冥子と式神を受け入れてくれた。
そして今楽しそうに? 鬼ごっこをしてくれている。
(良かった〜。本当に……。)
冥香は自分の目に涙が溜まっていくのを感じた。
しかしそれは悲しみから来る涙ではなく、嬉しさから来る涙だ。
孤独だった我が娘はついに友を得た。
思い出せば自分にもそんな時期があった。
孤独で辛くて友達が欲しくて……。でも如何すればいいか判らない……。
だから思いは空回りして誰も自分に近づかない。
本当に辛かった……。
(でも……。そんな私は貴方に救われたわよね〜。百合子……。今度は貴方の息子が私の娘を同じ様に救ってくれた。これも何かの縁なのかしらね〜。)
冥香は思わず微笑んでしまった。
それは彼女が何時も素顔を隠すために浮かべている作り物の笑顔ではなく、心からの笑顔であった。
「六道さん! わしの話を聞いているのですか!?」
すると目の前の男が声を荒げる。
冥香は折角の良い気分を害された事もあり、内心では不快な気持ちでいっぱいだったが、其処は百戦錬磨の六道当主。彼女はまた何時も通りのほほんとした笑顔を浮かべ、その男に視線を移した。
「ええ〜。もちろんよ〜。鬼道ちゃん〜。」
その男の名は鬼道博之。
かつて冥香に言い寄って振られ、それの腹いせに、六道に株で勝負を吹っ掛けてボロ負けした、陰陽家の現当主だ。
彼は今回冥香に借金をさせて欲しいと願いに来たのだ。
「では、六道さんには一億ほど是非貸してもらいたい。」
博之が何故か偉そうにそんな事をほざく。
何が『では』なのだろうか?
この男は今の自分の状況が判っているのだろうか?
株で負けた事により出来た借金は莫大で、もう自己破産しか手が残っていないのに……。
だがそれでも彼は自分のもとへ、金を借りに来る。
それもそんな状況に追いやった者の所にだ。
手段を選ばないと言う点では褒められるが、余りにもプライドが無さ過ぎる。
(鬼道ちゃんのそう言う所が嫌いなのよ……。)
冥香はのほほんと笑ってはいるが、その眼はまるで汚物を見ているようであった。
「冥香………。」
すると横に座っていた八神が冥香に静かに声をかける。
(あら、いけない私ったら〜。無意識に表情が崩れていたわね〜。まあ、鬼道ちゃんには気づかれる事は無いだろうけど……。おじさまには流石に気づかれたわね〜。反省反省。)
冥香は息を、少しだけ深く吐き心を落ち着かせると、また何時もの表情に戻っていた。
そして彼女は、数日前から練っていたある計画を実行に移す。
「ええ〜。良いわよ〜。鬼道ちゃん〜。」
冥香が、博之の願いを何でも無いかの様に受け入れる。
この時八神の眉が少しだけ……。ほんの少しだけ動いた。
「本当か! いや〜。助かる。流石は六道さんや。」
「ふふ。良いのよ〜。鬼道ちゃん〜。私と貴方の仲じゃない〜。勿論利子とかもつけないわよ〜。」
「何と!」
博之の目が大きく見開かれる。
如何やら冥香の台詞に驚きを隠せないらしい。
博之は、彼女のその寛大な心に感動したのか、目に涙を溜め、今にも泣き出しそうであった。
「何とありがたい! 流石は六道さんや! 鬼道家が返り咲いた暁には必ずや私は、六道を支える柱の一つとなりましょうぞ!!」
「もう、鬼道ちゃんたら〜。そんなに畏まらなくていいのに……。ところで、お金の方は大体どれくらいで工面出来そうかしら?」
「2年! いや、1年で!!」
「判ったわ〜。」
冥香がそう言うと手を叩く。
すると扉が開き、別室で待機していたメイドが一枚の紙を持って部屋の中に入ってきた。
「では、鬼道ちゃん〜。その契約書にサインして〜。」
「ああ、判った。」
冥香に言われ、博之は契約書にサインをする。
(アホじゃな……。)
八神がその光景を見て、表情には出さず心の中で呟く。
博之は契約書の内容もろくに見ず、サインをしてしまったのだ。
いや、それは百歩譲って許そう。
問題は彼がサインした契約書だ。
あれはエンゲージの契約書で、一度サインしてしまったら、その契約を破棄する事が非常に困難になる品物だ。
この男は陰陽家の者なのにそんな事も知らないのか?
呆れを通り越して哀れに思えてくる。
「では、今度は盟友として会おう!」
博之が意気揚々と部屋から出て行く。
彼が生き生きとしている姿を見るのは、これで最後になるかもしれない。
八神が隣でのほほんと笑い続ける冥香を見る。
だが、長い付き合いの彼には判る。
その笑顔が魔性の笑みである事に……。
「冥香。何故あの男に金を貸した? 正直一億を返せるような男では無いぞ?」
「あら〜。もしかして返してくれるかもしれないわ〜。」
「六道冥香は『もしかして』では動かん……。何を企んでいる?」
「ふふふふ……。判る? おじさま……。」
冥香の纏う雰囲気が変わる。
何時もの、のほほんとした笑顔ではなく、妖艶な笑み。
何時もの、間延びした声ではなく、何か含みのある声。
本性を表したか……。
八神が冥香の視線を真正面から受け止める。
彼は冥香の目的が何かを、改めて考え始めた。
はっきり言って鬼道家は何の利用価値も無い。
むしろ多額の借金を抱えているだけむしろマイナスだ。
それに現当主はあれ……。
「さてさて……。」
八神が腕を組み虚空を見上げる。
鬼道の利用価値………。
そう言えば一つだけあった。
彼の家は、没落はしているが平安時代から続く陰陽家である。
そしてその名を1000年たった現代でも続かせているのには、それ相応の力がいる。
六道で言う所の十二神将。
鬼道家も確か六道と同じ式神の家。
それも1000年続いた家なのだ。
彼の家に代々伝わる式神はかなり強力であろう。
もしそれが一億で買えるのならば、とんでもない安売りだ。
冥香の狙いも、恐らくはこれで間違いないだろう。
八神は其処まで考えると、視線を冥香の方へ移す。
「冥香………。お主が欲しいのは鬼道の式神かのォ?」
「もう判ったのですか? 本当に凄いわ……。確かに私が欲しいのは鬼道家に代々伝わる式神です。あの契約書がエンゲージであったのはご存知ですよね?」
八神が無言で頷く。
「あの契約書には借金返済が出来ないときは、代わりとして鬼道の式神を貰うと書かれています。鬼道ちゃんには悪いけど……。私は彼から全てを奪うつもりです。」
「……恨みでもあるのかのォ?」
「恨みはありません……。嫌いですけど……。唯、今回丁度いい機会だと思ったから行動に移したまでです。彼は信用なりません。六道の敵となるかもしれない存在が目の前にいるのに……私は見過ごす事など出来ません。」
「じゃが……。もしお主の貸した一億で鬼道家が返り咲いたら如何する? あの男の事じゃ。調子付くぞ?」
「その点はご心配なく……。彼は必ず失敗します。」
冥香が不敵に笑う。
なるほど、如何やら既に先手を打っているらしい。
これでますます博之が哀れに思えてくる。
まあ、八神としては同情するつもりは無いが……。
それよりも彼には気になっている事があった。
「なるほどのォ。所で何故今日わし等を此処に呼んだ? お主はわしにあんな面白くも無い一方的な取引を、態々見せたかったのかのォ?」
八神が冥香を鋭い目つきで睨みつける。
正直あんなのを見せられて気分の良いものではない。
そんな八神に対し冥香は落ち着いて、首を横に振る。
「おじさま。私が今日あなた方を呼んだのには二つの理由があります。一つ目は九尾の狐を見るため、もう一つは横島忠夫と言う少年を見るためです。」
「ふむ。やはりか……。じゃが、それが今日此処にわし等を呼んだ理由にはなるまい? 日にちなど何時でも良いのだからな……。」
「鬼道親子を呼んだ理由も二つあります。一つは鬼道家の式神を奪う計画を進めるため、もう一つは鬼道政樹と言う少年を見るためです。」
「ほう……。それは何故じゃ?」
「鬼道博之はどうしようもない男ですが、その息子の政樹君は違います。彼は若いながらも式神を上手くコントロールし、また頭も良い。将来はかなり有望な少年です。」
「…………欲しくなったか?」
「ええ。」
八神の問いに躊躇無く答える冥香。
如何やら彼女は本当に博之から全てを奪うらしい。
其処には慈悲も容赦も無い。
所詮この世は弱肉強食。
某漫画のキャラの台詞。
しかしこれは世の全てを、良く表した言葉だと八神は思う。
弱ければ死に強き物の糧となる。
当に真理だ。
鬼道博之と言う弱者は、六道冥香と言う強者に骨の髄まで食い尽くされる。
八神が冥香の眼を見る。
その瞳は漆黒のように暗く、それでいて全く揺らぎが無い。
彼女が幼き日に持っていたあの瞳はもう其処には無い。
時の流れとは……。判ってはいるが残酷である。
余り見たくも無い変化を見せ付けられるからだ。
其処まで考えて、八神は思わず苦笑してしまった。
何を今更自分は考えているのかと……。
「でも……。」
すると冥香が口を開く。
「でも〜。私の本当の目的は冥子にお友達を作ってあげる事だったの〜。」
冥香がのほほんと笑顔を浮かべながら、間延びした声で言葉を紡ぐ。
しかしその笑顔は作り物ではなくて、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「おじさまを今日此処に呼んだのは、横島君と政樹君を冥子に会わせる為なの〜。きっと二人で会うよりも三人の方がいいと思って〜。それに遊ぶときは少しでも人数が、多い方が楽しいですもの〜。」
冥香の言葉に八神が眼を丸くする。
「………ならばお主、博之との交渉は別に如何でも良かったのか?」
「ええ〜。別に彼なんて政樹君の付属品〜。だって政樹君さえ此方に引き込めればもれなく式神も付いてくるもの〜。更に冥子のお友達になってくれたら一石二鳥〜。と思ってたんだけど〜……。如何やら全部が上手く言ったようね〜。嬉しいわ〜。」
コイツは……。
八神は頭を抱えてしまった。
要するに冥香は、一人娘の友達作りをするついでに、今回の計画を立てたのだ。
ついでで一人の人間の人生を修正不能まで追いやったか……。
流石に少しは博之に同情してしまうかもしれない。
「あ! そうだ〜。」
冥香が何か思いついたらしい。
面倒事だな。
八神の直感がそう告げる。
「ねえ〜。おじさま〜。横島君を少し借りて良い〜?」
「うむ! 構わんぞ。」
八神が大げさに頷く。
如何やら狙いが自分ではなくて、横島だったのが嬉しかったらしい。
八神は身の安全の為、横島を冥香に売った。
「ありがと〜。うふふふ〜。楽しみ〜。」
冥香が嬉しそうに笑顔を浮かべながら、近くにいたメイドに車の手配をするように指示している。
八神はそんな光景を見ながら思った。
すまん忠夫! 頑張れ忠夫! そして恐らく付いて行くであろうタマモ!
庭では未だに爆音が響きわたり、少年達の悲鳴が聞こえる。
六道の鐘は、まだまだ鳴り止まない。
あとがき
まずは此処まで読んで下さった方々に感謝、そして感想ありがとうございます。
本来ならば八月に入ってから投稿しようと思っていたのですが……。書き上げてしまったので投稿しました。
それにしても六道の設定をもう少し書きたかったのですが、自分の文章力の無さで殆ど書けませんでした。
あれだけでは訳分かりませんね。
何時かちゃんと書きたいのでご了承ください。
さて、次回は六道後編です。
どうか読んで頂けたら幸いです。
レス返し
Tシロー様
間違いのご指摘ありがとうございました。言われればそうだなって、気づきました。
万々様
誰かの嫉妬する姿を書くのは初だったので好評か頂けて安心しました。
葛葉稲荷の狐様
可愛いタマモを書く、一つの目標です。
風来人様
1年B組の元はその通りです。唯……。金○先生風にするかは判りません。勢いで書きましたので……。
鹿苑寺様
タマモはまだ子狐ですからそこまで出来ないのです。きっと人の姿になれば彼女はやってくれます。多分……。
HAPPYEND至上主義者様
ありがとうございます。面白いといわれる話をこれからも書いていけるように、頑張っていきたいです。
DOM様
この小説で最強はきっとGMでしょう。母は偉大なのです。
yuju様
人外ハーレム。何処までフラグ立てるか今考え中でもあります……。そこら辺のさじ加減が非常に難しい。
Cynos様
愛子は良い子ですからね〜。確かに殺伐としたのは似合わない…。
ソウシ様
猫又親子なのですが……。ケイの性別を如何しようか今迷っています。どっちが良いのだろうか……。