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「この誓いを胸に 第四話(GS)」

カジキマグロ (2007-07-11 00:57/2007-07-11 01:23)
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無駄に広い体育館の中。
横島は自分に宛がわれた椅子に座り、何をする訳でもなく。
呆然と壇上で演説をする男を眺めていた。

「君たちは、本校では勉学や運動だけでなく、人間としても成長し………。」

俗に言う祝辞と言うやつを、壇上の上にいる男は述べている。

まあ、校長なんだがな……その男って……。

「ふあ〜〜〜〜。」

余りの暇さに思わず、横島は欠伸をしてしまった。
周りを見れば寝ている奴もチラホラいる。
それはそうだ。こんな面白くもない話を小一時間も聞かされていれば眠くもなる。

「続いて来賓挨拶……。」

校長の話がやっと終わり、新たな男が壇上に上がる。
そして彼もまた、校長と同じ様な内容の祝辞を述べる。

正直詰まらん。

誰かあそこで、目が覚めるような過激なギャグをしないのか?

「生徒の皆様には健やかに、そして………。」

………する訳ねえよな……。
何処までも真面目……何処までもセオリー通り……。
しょうがないと言えばしょうがないが、これでは流石に聞く奴も少なかろう。


入学式。


それは中学校生活の始まり。
今日から本格的な東京暮らしの幕が開ける。
これから三年間。この学校に晴れの日も、雨の日も、風の日も来なければならない。
面倒と言えば面倒だが……。しょうがない。
学校にちゃんと通わなければ、両親から連れ戻されるのだ。

いや……違う。
大自然へと連行されるのだ。

横島が口を半開きにし、間抜けな顔をして虚空を見上げる。
彼が思い出すのは、この前かかって来た母からの電話。


プルルルル。プルルルル。ガチャ。

『はい、八神じゃが? おお百合子か? 如何した? 何……。判った。直ぐに変わろう。お〜〜〜い。忠夫!』

『何や〜〜〜?』

『百合子から電話じゃ。』

『お袋から? 何やろう。』

横島が首を傾げながら、八神から受話器を受け取る。

『もしもし。お袋? どないしたんや?』

『忠夫かい? お前に大事な話があるんや。』

『大事な話? 何や?』

『今度お父さんの職場が変わるんや。』

『へ〜〜〜。何処になるんや?』

『ナルニア。』


『…………………………はい?』

なるにあ? ナルにあ……。
はて……。俺の聞き間違いだろうか?
ナルニアとは、あのナルニア国物語で有名な。ナルニアだろうか?
俺の両親はファンタジーの世界に行くのだろうか?
まあ、あの二人ならば何処に行っても生きていけそうだが……。

『本気かよ?』

『ええ。』

『そうか………。じゃあもう二度と会う事は無いかも知れんな……。元気でなお袋。俺はあんたから受けた恩を忘れんで……。』

『…………あんた、何言っとんのや?』

『いや……ナルニアに行くんだろ? だったらもう会う事は無いはず……。』

『忠夫。何を勘違いしているか知らないけど、ナルニアは日本から飛行機で、十数時間ぐらいで着くんだよ?』

『何!! 現代の科学は平行世界へワープ出来るほどに進歩をしているのか!?』

『どうやらあんたは、相当頭が悪いらしいな……。』

百合子の声が怒気を含んだ物になる。

『な……何でや……?』 

横島が百合子の危険な変化に冷や汗を流す。
彼としては怒られる理由が判らない。
だってナルニアと言う国は物語の中に存在する国で、現実には無いはず……たぶん。

『ナルニアは地図にものっている現実にある国や! そんなのも知らんのか? この馬鹿息子は……。あんたこれ以上成績を落としてみいや……。こっちに無理やり連れて行くからね。』

『ちょっ!! オマ!! それは困る!! 何で俺がそんな所に………!』

『あら? いい所よ? 自然がいっぱいで……。』

『俺は近代文明の中でしか生きていけんのや!』

『そうかい? まあ、そんな事は如何でもええけどな………。これだけは覚えておき。あんたはもう自分で考える力がついてきよるし、八神のおじいさんもいる。だから私たちはあんたを日本に置いてナルニアに行く……。だがもし! あんたが好き勝手やり過ぎて勉学を疎かにしたら………。』


私が迎えに逝くからね…………。


ガチャ。 プー。プー。プー。


こええ!! マジこええ!!
何処のホラーだよ!? あのご婦人は!?
今思い出しただけでも震えが止まらねぇよ!
ああ、嫌だ嫌だ。
何で俺の周りには普通の奴がいないんや。

そう言えばこの学校にもいろんな奴がいる。
其処はさすが私立といった所か……。
日本人を筆頭に。
黒人。
白人。
後、中国か韓国人っぽいのもいる。
そして気のせいか……。

妖怪っぽいのも居る。


それも俺の隣に……。


「ああ、入学式……。青春よね……。あなたもそう思うでしょ?」

隣の女子、もとい妖怪っぽいのが横島に話しかけてきた。
かなりの美人で、またスタイルもいい。
光を反射し、風が吹けばサラサラとなびく綺麗な黒髪。
その髪をなびかせた風が運んでくる香り。
実に素晴らしい。
こういう和服が似合いそうな美人も、横島のタイプである。
最も彼の場合は、美人ならば洋服だろうが民族衣装だろうが何だろうがタイプになるのだが……。

「ああ、そうだね。」

横島が女子に向けて、優しく、好青年の様に微笑む。
彼にとっては、美人ならば種族関係無しに全てがストライク。
故に妖怪っぽい女子に、良い印象を与えようとの紳士的な態度。
もっともそれは表面的なもので、心の中では邪な思いが、いっぱいに溢れているが………。

「そうよね。あなたもそう思うよね。ああ、青春だわ………。」

しかし女子はそんな横島の会心の微笑をスルーし、壇上で未だに演説をしている男に視線を移す。
そんな彼女の瞳からはまるで恋する乙女……。
あるいは憧れの先輩を影から見守る少女の様な色が浮かんでいた。

(60近くの、メタボリックで、頭が寂しいおっさんに負けた……。)

横島はガックリと肩を落とし、人知れず涙を流した。

俺にハーレム主人公。
微笑で女を簡単に落とす設定は備わっていないのか? と……。


この誓いを胸に 第四話  学園生活


長い長い入学式も終わり、横島はこれから一年間世話になる教室に来ている。
ついでに彼のクラスは一年B組だ。
内装は中々綺麗であり、白を基調とした色合いで、落ち着いた雰囲気を全体的に醸し出している。
また、天井には冷暖房を完備し、夏場、冬場でも快適に過ごせるようにして、生徒たちが勉学への集中力を切らさないように設備もしっかりしている。

(流石は東京の有名私立だけはあるな……。金が仰山かかっていらっしゃる。)

横島が教室を見回しながら思う。
だがそんな事は、今の彼にしてみれば如何でもいい事であった。
彼が今気にしているのは、入学式のとき、自分の隣の椅子に座っていた妖怪……。かもしれない女子。
彼女の姿が、入学式を終えた途端に見当たらなくなったのだ。


一体何処に行った?


横島は先ほどからずっとそればかりを考えていた。
どうも嫌な予感がする………。

「よし、皆席に着け。」

すると、横島の担任となった男が教卓の前に立ち、生徒達に着席を促す。
席には一人一人の名前が書かれた紙が置いてあり、一目見て自分が何処の席か判る様にしてある。
横島の席は、丁度真ん中の列の一番後ろ。

穴場の席だった。

普通劣等性の席と言うのは、窓際の一番後ろと言うイメージがあると思うが、そうとは限らない。
確かに授業を聞くのに飽きたとき、窓際だと外の景色を呆然と眺めたりする事や、日の光を浴びて心地の良い居眠りをする事が出来る。
しかし教師側も馬鹿ではない。
その席に座った劣等性がそんな行動にでるのは百も承知で、彼らは意識的に、窓際に視線をたまに送っているのだ。(この事は高校の恩師から教えられた。)
もし視線を送られたら、窓際の席は斜めから見られると言う事もあり、教師の視界を遮る物も無く。かなりはっきりと窓際の生徒たちの表情が見えてしまう。
故に眠っていたら一発で判る。
それに対し、教師から見て真正面の一番後ろの席はある意味死角。
頭を下げていても前髪や、先生の方が壇上に上って、少し高い位置にいることもあり、まず表情を読み取られない。
机に突っ伏して寝なければ、ほぼ8割の確立でばれる事無く、惰眠を貪れるだろう。
更に、自分の前に背の高い人間が座ったらもう最高だ。
完全に自分の姿が隠れてしまい、席替えの時期まで、惰眠を貪れる楽園を約束してくれるであろう。

横島がニヤリと笑う。
学校生活の幸先は良いスタートだなと……。

「まあ、さっさと座りますかっと………。あれ?」

自分の席に近づいた横島は、ある事に気づいた。
何故か、机から霊気の臭いがプンプンする。

「おう、マジか? スタート直後にエンストかい?」

横島が額に手を当て、天を仰ぐ。

「君。早く席に着きなさい。」

担任の教師が、中々席に着かない横島に業を煮やしたのか。注意をする。
しかしだからと言って、このまま何もしないで無防備に座るのは自殺行為。
この中で唯一物騒な経験をしている横島としては、決してそんな行動には移れない。

ならばここは撤退かな?

「先生! 何だか少し気分が悪くなってきました。保健室に行ってよろしいですか?」

「本当か? 大丈夫か?」

「いえ、ちょっとやばいですね………。倒れそうです。ゴッホ! ゴッホ!」

横島が顔面を真っ青にして、激しく咳をする。
そんな横島の姿を見た教師は少し慌てて、彼が保健室に行く事を許可した。

(さて、これから如何しますかね……。てか誰も付き添いで来ないのね。まあ、それの方が好都合だがな……。)

教室から出た横島は青ざめていた顔をスッと消し。
廊下の向こうへ歩いていった。


横島はその後真っ直ぐ保健室に向かわずに、公衆電話がある事務室前に来ていた。
もちろん、机から霊気が発せられていた事を八神に知らせるためだ。

「はい、八神じゃが?」

「爺さんか? あのさ………ちょっと困った事になったんや………。」

「忠夫か? 如何した?」

「ああ、何か俺の机から霊気を感じるんだ。如何しよう?」

「机から霊気? ふむ………。もしかしてそれは九十九神かもしれんな。」

「九十九神? 何やそれ?」

「九十九神とは長年使われてきたものに、魂や精霊が宿り妖怪化したものを言う………。その机も古くてボロかったろうが?」

「いや……。特にボロくは無かったな…。」

横島が自分の机を思い出す。
それは周りの机と何ら変わりなく。
特に古い物ではなかった。

「何? なら違うのかも知れんのォ〜。まあ、用心に越した事は無いじゃろう。慎重に当たれよ?」

「えっ? 俺が解決するのか!?」

「当たり前じゃ。お主の学校で、更にお主の机が問題なのじゃろうが? これもまた修行。頑張れ。」

「ちょっと、爺!!」

「じゃあのォ〜〜。」


 ガチャ。プー。プー。プー。


「クソジジ!!」

横島が乱暴に受話器を置いた。

しかし如何しようか……。

あれから二週間八神の家でみっちり修行をしたから少しは戦えるかもしれないが………。
正直まだそんなに自信が無い。
だが、援軍が期待できない以上、自分で何とかしなければならない。
学校側が気づいてGSを雇って解決してくれればいいのだが、気づく者なんて横島以外いないだろうし。
もし何か問題が起きたときは、あの席に日頃からお世話になる自分が被害者になる可能性が高い。

「教師に俺が知らせようか……。だが、俺の言う事なんか信じないだろうし……。」

そう確かに妖怪や悪霊と言ったものは、世間にある程度は知られてはいるが、やはり余り一般的ではない。
何処か空想めいた。現実感の無いものとして普通の人々は見ている節がある。
まあ、悪霊や妖怪の被害に遭う人など全体の一割から二割。
被害に遭わないで一生を過ごす人の方が圧倒的に多い。
これが、GSが一攫千金で成功すれば天国、失敗すれば地獄と言われる一つの要因なのだが……。ここではその話は関係ないか……。
ともかく今日会ったばかりで、名前も知らない様な生徒一人の「あの机は妖怪です。」
発言など信じる奴はいない。

「最悪だな……。」

横島が深いため息を吐くと、一応担任に保健室へ行くと言っている手前、其処へ向かう事にした。

「ところで、保健室って何処やろ?」

横島はそう呟くと、無駄に広い校舎を一人歩いていくのであった。


そして放課後……。

あれから保健室を見つけた横島は、保健室の先生に事情を説明し、暫くの間休ませてもらう事になった。
先生曰く、横島みたいな生徒は、数年に一人はいるらしく、特に驚いた様子ではなかった。
やはり入学式で緊張して倒れてしまう人は居るらしい。
健康だけが取り柄である横島には良く判らない事ではあるが……。

「本当に大丈夫か横島?」

横島の隣では担任になった男。
山口先生が心配そうに横島の容態を尋ねてくる。
山口は若く。如何にも新米教師と言う感じではあったが、非常に親切で、生徒思いである事がその態度から直ぐに窺えた。
横島もそんな彼に対し悪い印象は無い。
唯我侭を言えば、男だったという事だけである。
これで横島が考えるプラン。
担任教師と生徒の禁断の愛計画が水に流れたのだ。

ついでに保健室の先生も体育教師みたいなゴッツイ男で、横島はショックを隠せなかったらしい。

「保健室の先生と言えば、眼鏡をかけた巨乳のお姉さんタイプでは無いのか!?」

横島はその理想と現実のギャップに耐え切れず。
仮病が本当に寝込むようになってしまい、暫く立ち直れなかった。

そして気がついたら夕方で、学校には部活をする人間しか残っていない状況であった。

「ええ、大分良くなりました……。大変ですよね。心の傷って……。」

「は? 何言ってんだ?」

「いえ……。忘れてください……。」

横島が頭を振る。
すると山口の後ろからアメフト選手みたいな男が姿を現した。

「はははは! 元気になったか坊主! 良かった良かった!」

「手前の所為だ……。」

豪快に笑う保険教員事、タ○ミネーター(横島命名)。
殴りて〜〜〜。
横島は人知れず拳を握っていた。

「何だか良く判らんが、大丈夫そうだな。」

山口が首を傾げながら口を開く。
横島もその言葉に頷き、ベッドから身を起こした。

「一人で帰れるか?」

「ええ大丈夫っすよ。先生。それじゃあ。」

「ああ、また明日な。」

山口に見送られ横島は保健室を後にした。


一年B組前。

夕日が窓から差し込み、廊下を真っ赤に染め上げている。
誰か人が近づいてくる気配も無く。
辺りは静寂に包まれていた。

(嵐の前の静けさってか?)

横島が苦笑する。
対策などは特に考えていない。否、考えられない。
今まで攻められるばかりだった自分がはじめて攻める実戦。
相手は未知の存在で情報が殆ど無い。
これで一体どうやって対策を立てろと?

横島が自分の鞄を見る。
もし襲ってきた場合に対応できる武器と言えば鞄の中の神通棍のみだ。
もっとも横島には栄光の手があるから、特に武器など必要ないのだが……。
それは切り札なので使えない。
故に武器は八神から貰った神通棍のみ……。

「さて……。行きますかね。」

再度周りには誰もいないことを確認すると、横島は右手に神通棍を持ち、教室の扉を開けた。

「あれ?」

其処には入学式で横島の隣に座っていた女子が、机の上に座っていた。

「こんばんは…かしら? 横島君。」

「君は?」

「私? 愛子って言うの。姓は無いわ。」

女子……愛子が微笑みながら言う。
だがこれではっきりした。
机の霊気が彼女に流れ込んでいる。
どうやら横島の入学式での考えは当たっていたらしい。

「愛子か……。君は妖怪だね?」

「ええ……。そうよ。そう言う貴方はGS?」

「う〜〜ん。もしそうだったら?」 

その瞬間、愛子の体から霊気が発せられる。
横島もそれに反応し、神通棍を正眼に構える。

「私を退治しようとしているの?」

「いや、そんなつもりはないんやけど……。君の目的が判らんし、そこ俺の席やし、何かあったら俺が一番被害受けそうやし……。」

「貴方に迷惑はかけないわ……。私は唯青春を味わいたいだけよ。」

「はい? 青春?」

横島が眼を丸くする。

「そう、青春よ。後は先生が私の学校に来てくれれば完成するの……。私たちの学校が…。」

「私たちの学校ね〜〜。何処かに連れ去るのか?」

横島の問いに愛子がニッコリと笑い、自分が座っている机をソッと撫でる。

「私はね…。机の妖怪なの。だからこれが私の本体……。この机の中は異界空間と繋がっているわ。そこでは時間の概念も無く、全てが私の思い通り……。そこで私は理想の学校を作り上げるの。私だけの……。私たちだけの……。理想の学校をね……。」

愛子の瞳が酒に酔っているかの様にうっとりとなる。

「理想の学校ね……。それはまた……。」

横島の背筋に冷たいものが走った。
学校に青春のみを求め、それを自分の腹の中で作り上げようとしている。
先の会話より彼女は先生を手に入れれば完成するといった。
それは即ち。愛子の学校には、生徒は既に確保済みだと言うこと……。
いったい机の中には何人の人間が閉じ込められているのやら。想像もつかない。

「あっ、そうだ。」

愛子は、いい考えが浮かんだかの様に手を叩く。
横島としては、何となく嫌な予感がするが……。

「横島君も私の学校に来ない? とっても素敵な所なのよ。皆仲良しで、とっても優しいわ。ね? そうしましょうよ。私たちと一緒に青春を永久に味わいましょう。」

愛子が横島に、全く邪気の無い笑顔で、手を差し伸べる。


だから性質が悪い。


彼女にとっては、それがもっともいい考え方なのだ。
ずっと続く青春………。
愛子の世界はそれが全てなのだ。

少なくとも横島は、青春に其処まで魅力を感じていない。
いや、青春なんて青臭いものには興味が無い。
彼が求めるのはアダルトなもの。
学生のソッと触れるキスなどより、舌を絡めるディープなものの方が良い。
夕日をバックにお互い抱き合うよりは、怪しい光の中、ベッドで抱き合った方が良い。
故に彼が出す結論は決まっている。

「遠慮しとく。」

即答。
考えるまでも無いな。

「何故?」

しかしその答えにご立腹な愛子さん。
先ほどまでの笑顔は何処へやら。
無表情で、霊気を威嚇するかのごとく放っている。

「当たり前や。俺はそんな物に興味が無いからな。」

「そんな物………。」

愛子の整った眉がピクリと上がる。

「そう、そんな物や。青春なんて暑っ苦しい物いるか。」

横島が胸を張り、はっきりと答える。

「……そう、残念だわ。貴方にはどうやら指導が必要らしいわ……。」

「指導ね〜〜。お前……。何時からそんな偉い立場になった?」

「だって私は学級委員長ですもの……。」

愛子が笑う。
しかし眼は全く笑っておらず。
瞳には怒りの色が浮かんでいた。

もう一押しかな?

「冗談……。お前みたいな妖怪が委員長? ゾッとするね。」

その刹那、愛子が横島を睨みつけそして……。

「あなたに何が判るのよ!!」

横島目掛けて襲い掛かる。

(かかった!!)

横島は心の中でガッツポーズをとり、愛子の動きを冷静に見る。
八神のそれに比べたら遊戯の様な速度、動き……。
さらに真っ直ぐ飛び掛って来たから、フェイントなどあったものでは無い。
神通棍を正眼に構えたままタイミングを見計らい……。


霊力放出!


「きゃあ!!」

電気がスパークした様な音と共に、愛子が悲鳴を上げ地に倒れる。
馬鹿正直に食らいやがった……。
どうやらGSは知っていたが、戦った事は無いらしい。

まあ、何にせよ。

「王手だな。」

横島が神通棍を愛子の首筋に当てる。
そんな横島を愛子は無言で睨みつけた。

「俺は出来れば美人には手を上げたくない。妖怪だろうが何だろうがな……。」

「……………。」

「君が大人しく此処から去ってくれれば俺は何も言わない。」

「……………。」

「それに俺は正義の味方でも聖人君子でも無いから、君が他の学校で何をしようが、俺は何も言わない。」

「……………。」

「あ〜〜と。そろそろ何か反応を示してくれんかな?」

「……………。」

「……え〜〜と。ああ……。如何しよう?」

横島が段々と無反応な愛子に困ってくる。

「私の本体は机。」

すると彼女が突然口を開く。

「えっ………。」

「それは今何処にある?」

愛子が不敵に笑う。
横島が先ほど机が在った方を見ると、其処には机が無い。

(しまった! 本体が動けたか!)

横島が慌てて辺りを見回すが、机は何処にも無かった。

「隙あり!」

「がはっ!!」

愛子への注意が散漫になった、横島の腹に蹴りが入れられる。
スレンダーに見えていたが流石は妖怪だ。
かなり効く。
横島はドアを倒して廊下の方まで転がっていった。
しかし彼は直ぐに立ち上がり、神通棍を構え直す。

「頑丈なのね……。」

そんな横島に愛子が感心する。

「慣れているからな……。」

そう慣れているのだ。
これ以上の打撃を横島は毎日と食らっている。
故に耐性ぐらいは、出来ていても可笑しくは無かった。

「そう……。まあ、いいわ。これで形成逆転ね。」

愛子が優雅に立ち上がりながら横島に言う。
確かにね……。横島は思った。

しかし彼女の本体である机は何処に行った?
消えた? 嫌そんなはずは……。
横島はもう一度、意識を集中し霊気を探してみる。
すると愛子の丁度後ろにある椅子から、霊気が微弱だが感じられた。

まさか……!!

「気づいたかしら?」

「ああ、すっかり騙されたな……。お前の本体は消えてなどいない…。それどころかはじめの位置から動いてすらいない。唯机から椅子に変化しただけや。」

「正解。良く出来ました。」

愛子が笑う。
まるで問題に答えた生徒と先生だな……。
横島は思わず苦笑してしまった。

「まったく……。机の妖怪だと言っていたのに……。ひでえな。」

「あら……。嘘は言っていないわよ?」

「何やて?」

横島が首を傾げる。
愛子はそんな彼に対し、左手を腰に当て、右手の人差し指をピンと立てて、説明をする体制に入った。

「私の本体の中は、私の意志一つで色々な物が作り出せる空間。言わば其処では私が神様みたいな者なの。でもね。ある一定の条件を満たせば、本体自体にも私の力が働き、形を自由に変えられるの。」

「一定の条件?」

「そう、別に大した条件では無いわ……。後は自分で考えてね。」

話は終わりとばかりに愛子が最後にそう締め括ると、何処から取り出したか判らないが、箒を手に持った。

「何故に箒?」

「あら、昔から委員長が不真面目な生徒を制裁するときは、箒って相場が決まっているじゃない?」

「あっ、そう……。」

横島がガックリと肩を落とす。
一々何かが少し、ずれている子だ。

しかし……完璧にはめられた。
どうやら愛子はかなり実戦慣れをしている。

はじめに愛子が自分の本体が机である事を明かした時から疑問に思うべきであった。
何故こうも簡単に教えるのかと……。
普通は自分の本体など、敵になるかもしれない者に教えたりはしない。

だが彼女は教えた。

恐らくその目的は、横島の頭の中に彼女が『机』の妖怪であることをすりこませる為。
そうすれば横島が人型の愛子を追い詰めたときに、それを机から他の物に変化させて、注意をそちらに向けさせれば、少しは相手を動揺させる事が出来る。
そして動揺し、隙が出来た相手に起死回生の一撃をお見舞いする。

此処で愛子が、何故本体を椅子に変えたか? と言う疑問が出て来る。
その答えは今の教室を見れば一目瞭然。
彼女は、横島が此処に来る事が判った時から、彼の前の席から椅子を取っていたのだ。
そうする事により自分の本体が椅子に化けたとき、横島の視界から違和感が無いようにした。となると、彼が教室に入ってきたときから、既に仕込みに入っていたのかもしれない。

あの時、己の姿を見せ、声をかけた。
少なくともそれで横島の視線は彼女へと釘付けになったのだから………。

「はぁ〜〜〜。とんだ強敵やな……。」

横島が大きく息を吐く。

「でしょ? 私も色々な学校を回って来たから……。GSと戦った回数だって一度や二度ではないのよ。」

愛子が勝ち誇ったように笑う。
その通りだ。
確かに経験値が違った。
もしかして自分はあの時点で死んでいたのかもしれない。


だが……自分は生きている。
決定的だった筈のに……。


「愛子……確かにお前の戦略には驚いたよ。正直完全にはめられた……。負けた気分だよ。」

「そうでしょ? だったら大人しく私と一緒に青春を味わいましょう………。大丈夫。とっても素敵だ………。」

「だが………俺の勝ちだ。」

横島が、愛子の顔を見ながら静かに口を開く。
すると彼女の笑顔がスッと先ほどの無表情に変わった。

「どういうことかしら?」

「簡単だ。お前に俺を倒す手がもう無いという事だ。」

横島がきっぱりと告げる。

「………判らないわよ。まだ私には貴方を倒す手が有るかもしれない。」

「そうだな……。確かにその机の中に取り込まれたらやばいだろう……。しかしこの状況では無いはずだ。その証拠にお前はさっき、俺の最大の隙をついたのに倒せなかった。」

愛子の表情が少しだけ歪む。

「じゃあ、仮にお前が今此処で何か逆転が出来る秘策が有るとしよう。ならばそれを何故はじめに使わなかった? 一々危険を冒してまで温存をする必要があったのか?」

「切り札は最後まで取っておく物って言うわ。」

「確かにな……。その意見には賛成だ。俺にも有るしな。だが、何故それをまだダメージの抜けていない時にしなかった? 何故俺の回復を待つような事をした?」

「それは貴方に私の学校に来て………。」

「愛子……お前が戦ってきた相手は、一度でもその要求を飲んだか? いや、それだけじゃない。お前の誘いに乗った奴は今まで一人でもいたか?」

「………………。」

愛子は下を向き黙る。
彼女は横島の言葉に何も言い返せないでいた。
それは彼の台詞が当たっているからだ。
今まで愛子の誘いで、彼女の学校に来ようとした者など一人もいない。
何時も無理やり連れ込んで、無理やり生徒にしていた。

だって……そうでもしなくちゃ。誰も……。

「最後に………。俺がまだ動けるのに勝ち誇り過ぎなんだよ。逆に違和感覚えたぜ?」

教室に重い沈黙が訪れる。
両者とも何も喋らない。
すると愛子が肩を震わし始めた。

「………泣いているのか?」

横島が問いかける。
すると愛子は涙で濡れた顔を上げて、横島を睨みつける。

「貴方に何が判るのよ! 私は唯青春を味わいたかっただけなのよ! 貴方たち人間みたいに、友達と友情を分かち合い! 苦楽を共にし! 淡い恋をしたかったのよ! でも…でも! 私は妖怪だからそんな事は出来ない!! だから、作るしかなかった! 自分で、自分だけの学校を……。私の理想の学校を!! 当たり前の様に学校に行ける貴方に何が判るのよ!」

愛子が泣きながら激昂する。
そんな彼女に横島は何も言えない。
言える訳が無い。
彼に彼女の気持ちなど判るはずが無いからだ。

「邪魔させない! 私の学校を壊させない! あと少し! あと先生だけなのよ!」

愛子の目にどす黒い炎が宿る。
ああ…本当にこの子は狂っている。
俺が止めなければならんのか………。
だが如何する?
大量の陰気で彼女の霊力が上がって来ている。
このままでは流石にヤバイな。
………青春か………。
やった事ねえけど…やるしかねぇか。

「これ以上邪魔をするなら! 貴方を殺す!!」

「馬鹿やろう!!」

乾いた音と共に横島が愛子の頬を叩く。

「手前の都合ばかりで話を進めやがって! それで本当の友情が出来るのか!? それで本当に友と苦楽を共にする事が出来るのか!? 淡い恋など出来るのか!?」

「だってしょうがないじゃない!!」

愛子が叩かれた頬を押さえながら、横島の声に負けじと叫ぶ。

「私は妖怪なのよ!! そうでもしなければ青春なんて味わえないのよ!!」

「お前にとって青春とはそんな物か!?」

「えっ………?」

「自分で勝手に作り上げた物を他人に押し付けて、何が青春だ! お前にとって青春とは自分の妄想通りになればいい物なのか!? 相手の意思など如何でもいい物なのか!?」

「そっ……それは……。」

「その程度の物だったらお前の青春に何の価値も無ねえ!! もう捨てちまえ!!!」

横島の容赦の無い言葉を聞き、愛子の顔がショックで固まる。
そして、まるで糸の切れた人形の様に、床に膝を着いてしまった。

「……ごめんなさい……ごめっ…ん…なざい……。ごめ………ん………。」

愛子が泣きながら謝罪の言葉を繰り返す。
そんな彼女の震える肩に横島がソッと手を置いた。

「愛子……。俺はお前の苦しさが判らん。だが、お前が間違っている事だけは判る。お前が求める青春は、お前が勝手に作り上げる物では無いだろ? それこそ友人と苦楽を共に、淡い恋をしながら作り上げていく物ではないのか?」

横島が優しく語り掛ける。
愛子もそれに反応し、小さく頷く。

「今のお前では真の青春には届かん。それで良いのか?」

愛子が首を横に振る。

「そうだろ? だったらこんな事もう辞めろ。こんな事を続けていたらお前は本当に駄目になるぞ。」

「でも! そしたら私……どうしたら……。私は妖怪……。貴方たち人間と一緒に青春なんて…。」

愛子が弱々しく横島を見つめる。
またその姿がとても儚く。美しい。
どうして俺の周りの妖怪……。
否、美人はこうなんだ?
こんなにも大きな傷を抱えている者が多い?

ほっとけ無いだろ? 男として………。横島忠夫として………。

「俺がお前を助けるよ。俺はお前を拒絶したりせえへん。俺たちは今日から友達や。」

「本当に……?」

「ああ。」

「本当に、本当?」

「ああ。」

眼を真っ赤にさせた愛子の頭をソッと撫でる。
するとまた彼女の涙腺が緩んだのか、涙がボロボロと出てきて………。

「横島君!!」

「愛子!!」

二人は抱き合った。
きっと今、彼らの背景には、燃える様な夕日が輝いているだろう。
これこそまさに青春と言うのかもしれない。
良く判らないが………。

(ああ、柔らけな〜〜。 ええ匂いやな〜〜。愛子は結構スタイル良いし、本体机だけど甘い香りがするし……。最高だぜ! 青春!! これなら俺も大歓迎!!) 

唯横島はこのとき、間違った青春を堪能していた。

 


「ふむ……。どうやら上手く行ったようじゃのォ……。」

ここは丁度学校の正面に建つビルの屋上。
八神はそこから、横島と愛子が抱き合っている教室を眺めていた。

「ウ〜〜〜〜〜〜。」

すると足元にいるタマモが唸りだした。

「何じゃ? 焼き餅か?」

「コン!!」

タマモが八神に向かって吠える。
そんなんじゃない! と言いたいのだろうか。
しかし家の中では、ずっと横島に擦り寄っているのに………。
お前ツンデレか?
違うな。本人にはデレデレ。
他人にはツンツンか………。
厄介な。
八神は顎に手を当て、口には出さずにそんな事を考えていた。
もし誤って口に出したら噛まれそうだし………。

「まあ、何じゃ? まだまだ実戦においての心構えなど甘い所もあるが、今回は十分合格点じゃな。忠夫には良い勉強になったじゃろう。」

「ウ〜〜〜〜〜。」

「……ほれ、何時までも唸っておらんで帰るぞ。」

「ウ〜〜〜〜〜。」

「…………わしが睨まれてものォ〜〜〜。」

八神が困ったように頬をかく。

この後、八神が不機嫌なタマモに油揚げなどを買ってあげたが、その機嫌は直らず。
結局、責任を全て押し付けられた横島が、深夜まで時間をかけて、やっとタマモの怒りを治めたのであった。


あとがき

まずは此処まで読んで下さった方々に感謝を、そして感想ありがとうございます。

本当なら日曜に投稿しようと思っていたのですが……テストも近いという事で今日投稿しました。

さて今回の話ですが……学校です。
そして学校といえば愛子です。
青春を求める彼女に幸あれです。


次の投稿も時間かかると思います。すいません。
しかし頑張って書きますので、次回も読んでいただけたら幸いです。


修正しました。


レス返し

ブラボ様
将来の横島はかなり強くはなりますね〜〜。このままだと……。
しかし最強無敵だと物語としては面白くないので、彼には苦労をしてもらいますよ。

Tシロー様
横島の才能は凄いですからね。例えば文珠とか………。

風来人様
ありがとうございます。これからも横島だけでなく他のキャラの心情も上手く書ける様に頑張って行きたいです。

DOM様
横島の基本戦闘は美神の様に万能型になると思います。しかし本質は原作の横島と一緒で、栄光の手やサイキックソーサーなどを駆使して戦います。でもそれを書くのってメドーサクラスのときぐらいかも……。

万々様
そうですね。栄光の手は実際不吉な名です。
私も突っ込みませんw

DDD様
タマモが愛らしく書けてよかったです。

yuju様
此処の横島は原作に負けず劣らず修羅場を潜って行きます。それに原作だと彼は戦闘では大抵脇役。しかし此処では主役であり、それが更に彼の成長を早めていきます。それに守る存在もいますしね……。

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