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「魔神の後継者 第三十二話(GS)」

アイク (2007-07-19 13:30)
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―第三十二話 過去の清算の布石(猿神の) ―

そこは闇。黒と表現するには生易しい色が支配する空間。
聖なる光さえもそれにかかれば1ミリも届かないと思われる闇の底に横島はいた。まるで胎児の様に丸まり、眠る。
その姿をアシュタロスは何も言わず、ただ眺めていた。

ドクン ドクン

「ふむ。あと少しか・・・魔界最高指導者の封印式はなかなかのものだな」

横島の体が、リズミカルな鼓動と共に小さく震える。
その胎動と共に横島の体を紅く輝く魔界文字と天界文字が浮き上がってきた。
二種類の文字で書かれた文字は横島の体を縛っている様に思える。
ソレを見るアシュタロスは髪を弄りながらそう呟いた。
横島の体には蝙蝠を思わせる翼と、先が鋭く尖った尻尾が生えて始める。

「魂の完全なる魔族化・・・魔族化すれば受肉した魔族となる、か・・・
 通常ならば格を上げ、魔神となるのは数千年の鍛錬が必要となるだろうが・・・・・・・・・
 この術式を見る限り、あの方法を使うか・・・
 上手く行けば、予想以上の存在になるぞ。魔界最高指導者」

横島の変化にそう独り呟くアシュタロスの顔には嘲笑にも似た、楽しむ笑顔をしていた。


「うっ・・・ここは・・・・・・・・・!!?」

修行を終え、意識を失った横島が目を覚ましたのは和を思わせる作りの一室だった。
血が足りないのか意識は朦朧とし、ハッキリしない。
ただ自分が布団を被せて貰い、横になっている事と、布団の感触を直に感じる事が分かる。
その感触に横島は一瞬だがパニックになりかけた。

「目が覚めたか」

襖が開けられ、入ってきた人物はそう横島に言った。声は少し低いが女の声だ。
横島は体を起こそうとしたが動かない。首はなんとか動いたので、その人物の姿は見えた。
身長はそう高くなく、男物の道士服を着ていた。そして、彼女の顔を見る事は出来ない。
彼女は顔を白いボロボロの布で隠している為だ。その為、男と判断してもおかしくは無いだろう。
不気味ととれる装いだが、布の隙間から見えるアメジストの様な瞳は美しい。

「誰だ」

「自己紹介がまだだったな。私の名は沙悟浄。おまえの治療を悟空から頼まれた者だ」

横島はその人物にそう短く、警戒心丸出しで聞いた。沙悟浄は横島の態度など気にせず、淡々とそう答える。
淡々と言ったが、猿神の名に色々な感情が含まれていたのを横島は感じた。
名を聞き、横島は警戒心の矛先を収める。

「すいませんでした。行き成りなものでつい・・・」

「気にするな。私も気にしない。それと、敬語は止せ」

横島は正直に謝る。行き成り殺気等を受けるのは気持ちが良いものでは無い為だ。

「では、治療をはじめるぞ」

「って!待ってくれ!あんた女だろう?布団を全部捲るのは止めてくれ!」

沙悟浄が被せてある布団を掴んだ瞬間、横島は一気に全部剥ぎ取られては敵わないとそう大声で言う。
以前猿神が沙悟浄は女だと洩らした事を憶えていた為だ。
一方の沙悟浄は横島の発した『女』という単語に固まった。

「・・・どうした?」

「何故、私が女だと・・・」

固まってしまった沙悟浄に横島は内心首を傾げ、横島はふとそう訪ねる。
沙悟浄の声音は信じられない事を聞いた様に震えていた。

「老師が前にそう言っていた」

「・・・そう、か。他に、悟空は私の事を何か?」

沙悟浄の声音は完全に震えていた。そして、希望に縋るようでもある。
横島は彼女の声音に、答えるか否かを少し考えた結果、言う事にした。

「・・・・・・あんたと寝たってのは聞いた」

「!?(な、何故!何故その事を!)」

横島が発した単語に、沙悟浄は体を大きく震わせた。
そして、その心を強い感情が支配する。内心激昂している様な感じだ。

「かなり、あれだが・・・昔、老師と何が有ったんだ?
 俺が意識を失う前、老師があんたを呼ぶしかないと言った時の目・・・
 あれは、自責に潰されそうな奴の目をしていたぞ」

「っ!!?小僧!それは本当か!?」

「あ、ああ」

横島が猿神が自責を感じていると言うと、沙悟浄は横島に掴みかかった。
布の隙間から見える紫の瞳は鋭く、それでいて強い光を含んでいる為、横島も少し怯む。
だが、横島が肯定すれば沙悟浄はまるで火が消えたかのように冷静になり、横島の肩を掴むのを止め、
横島から数歩下がった所に座り込み、俯いてしまった。

「自責を・・・感じる、位なら・・・何故、何故・・・・・・何故私を捨てた・・・・・・・・・」

悲しみ等が沙悟浄の心を支配する。実際に泣いているのだろうか、そう途切れ途切れに洩らす。

「なあ・・・何が有ったのか・・・話してくれるか?」

「・・・良い、のか?」

「初対面で、おもいっきり他人の俺で良かったらな」

「じゃあ・・・聴いてくれ」

沙悟浄の纏う空気が寂しさ、悲しみをふんだんに含み、周りさえも湿っぽく暗くする様な声音に横島はそう言う。
ハッキリ言えば、空気を重く感じた為だ。
重症な体に、この暗い空気は流石に堪える様で、治るのも遅くなるのは間違い無しだろう。
沙悟浄はそう言いながら、顔を隠す布を外す。彼女の顔には目の少し下から一文字の切り傷の痕が有った。
それでも、彼女の美は変わらない。
肉体年齢は15位だろうか。肩下まで伸びた黒髪は絹の様にキメ細かく美しい。

「私は悟空に抱かれた後、好きになってしまった。
 私かそれまで自分の事が嫌いでたまらなくて、自分を好きだと言われたのも初めてだったからだと思う。
 私は母親にさえ、この紫の目で気味悪がれ、村からは迫害を受けていた。
 私を思ってくれていたのは、亡くなった先代沙悟浄・・・お父様だけだと思う。
 悟空の思いを押し付けられた時、その思いに抗う術を私は持ってはいなかった。
 その為・・・私は無理矢理抱かれたのだというのに、悟空に惚れたのだと思う。
 悟空に抱かれた後、私と悟空は幾度となく・・・」

「惚気話になっているぞ。2人が相思相愛になったのは分かったから続けてくれ」

先程の暗いオーラを少しだけ収めた沙悟浄は悲しそうにそう語り始めた。
だが、内容が内容だけに、横島の疲労感は少し増えてしまい、どちらかと言えばマイナスだ。
流石に耐えれなくなった横島は沙悟浄の語りを中断させる様に疲れた声音でそう言う。

「あれは、天竺への旅が終わった頃だった。私は一人昔住んでいた村へ一度戻る事にした。
 死んでしまったお父様に、私に好きな人が出来た事を報告する為にだ。
 私が村に行った頃、村は熱病が酷く、村人は私が村に災厄を運んできたと思ったのだろう。
 私は不覚にも、見知らぬ僧の一撃で気を失い、その後、数々の暴行を受けた。
 彼等が直に私を殺さなかったのは、″熱病を流行らせた私″に恨みを晴らす為だろう」

「・・・メチャクチャな話だな。明確な証拠も無くそんな事をするなんてな」

あまりにも馬鹿馬鹿しい村人の行動に横島はついそう言ってしまった。
キリスト教の力が強かった約2000年〜1200年前、風邪や病の原因は悪魔とされ、
血を抜く事で悪魔を体外に出すという、今では信じられない様な手法がとられていた。

「確かにそうだ。だが、彼等は集団催眠を受けていた様だ。
 見知らぬ僧は、妖気を隠し、人の皮を被った妖怪だったのだ。そして私は・・・悟空への人質にされた・・・
 その後、悟空に救い出された私は・・・その後悟空に捨てられた・・・・・・
 囚われていた時、腹を強打され続け、子供が出来ない体になってしまった為か。と聞いたが・・・
 答えてくれなかった。
 ハッキリ言ってワケが分からない・・・」

沙悟浄は泣いていた。ひたすら泣いていた。その姿を横島はただ見る事しか出来ない。

「っ!襖の外にいる者等よ・・・入って来い!」

泣いていた沙悟浄だったが、外から感じた気配に泣くのを止め、鋭い声音でそう言う。
自分に向けられた敵意や戦意ではないというのに、横島はその強さに冷や汗をかく。

「・・・失礼します」

「おまえ達は・・・悟空の弟子と調査員か」

「はい。名を小竜姫といいます」

「ヒャクメです」

入ってきたのは小竜姫だった。沙悟浄は敵意等を収めながら確認するかの様にジロジロと2人の姿を見ながら言う。
そんな沙悟浄に2人は自己紹介をしながら座礼を行う。
ヒャクメは先程の殺気に怯えてなのか、手が小さく震えていた。 

「何の用だ?」

「横島さんの容態を知りたく思い、来ました」

睨む様に2人を見る沙悟浄だったが、小竜姫の言った事に、
思い出したかのように横島にかけられていた布団を腹部まで捲り、胸の中心に左手で触れ、目を瞑る。
左手は淡く碧く輝く。

「おっ・・・体が動く」

「・・・これで、魔力と霊力の流れは正した。あとは、自然に治るのを待てば問題無い。
 ただし、一ヶ月は絶対安静だ」

沙悟浄は左手を当てるのを止めれば、横島は体が軽くなったのを感じ、右手を何度か握り締めたりしながら言う。
その様子に、沙悟浄はそう診断した。良好な結果に小竜姫は安心したかのように一息をつく。

「ヒャクメ。沙悟浄・・・さんの腹部を透視してくれ。特に子宮辺りを頼む」

「・・・小僧。何のつもりだ」

横島が何の脈絡も無く言った事に、沙悟浄はその身に殺気を纏う。
彼女にしてみれば、古傷を抉られたかに等しい話題の為だ。

(!?これはっ!)

「・・・それは、ヒャクメが視た結果で言う。ヒャクメ」

「もう視終わっているのね〜」

「なにっ!?」

横島はヒャクメの目を一瞬見ながらそう言った。ヒャクメの目を見たのは一種のアイコンタクトの様なものだ。
ヒャクメは横島が確認の為に自分を見たと認識していたので、普通に返す。
横島が平静を保っているという事は、自分が視た結果を知っていると認識するヒャクメ。
一方の沙悟浄は驚愕を顔に貼り付けた。

「・・・結果から言えば、肉体的なものなのね〜」

「ヒーリングによる治療は無理だったんだろう?」

「通常のヒーリングで″復元″は出来ないのね〜」

「・・・っ!」

(っ!?・・・・・・まさか、この人は・・・)

横島とヒャクメの問答は確実に沙悟浄の心の傷を大いに抉った。沙悟浄は下唇を噛みながら俯く。
小竜姫は、その状況に彼女が子供を産めないのだと勘付いた。横島はヒャクメの言った一言に手応えを感じる。

「復元出来れば問題無いんだろう・・・?」

「(そういう事なのね?そして、ソレは可能・・・魔族になりかけているのに、そんな優しさは変わらないのね〜)
 確かに、ヒーリングでは無理でも・・・横島さんの文珠なら、十分可能なのね〜」

「!!!?」

(本人の前でこんな問答をするなんて・・・お芝居じゃあないんですから・・・)

横島の一言にヒャクメは理解した。横島が何を考えてこんな問答を行ったかのかを。
だから、ヒャクメは真面目な顔でそう言う。
そして、ヒャクメの言った事は沙悟浄に希望という光を与える事となる。
愛した人の子を産めるという希望を。捨て去った筈の希望を。
小竜姫は、一連の横島の言動に内心そう思いながらも笑った。

(いや・・・でも、駄目だ・・・・・・悟空は私を捨てたのだから・・・・・・・・・)

折角見つけた希望も、沙悟浄は自ら捨てようかと考える。
希望の対義語は絶望。自分の思いに、相手が応えてくれるとは限らない為だ。
沙悟浄の様子に、横島は彼女が何を考えているのか、おおよその見当をつけ、効果的な一言を紡ぎだす。

「老師は・・・多分だが、大きな自責を背負っている。それは、愛した人を護れなかったという男の無念だろうな」

「「「!!?」」」

横島は自嘲しながらそう言葉を紡ぎだす。
実際はそうとは限らないだろうが、それでも沙悟浄が一歩を踏み出す覚悟を持てる様に。
自分のエゴを猿神と沙悟浄に押し付ける為に。『結ばれる』という名のエゴを押し付ける為に。

「大切なヒトを護れなかった男はいろんな負の感情を自分に押し付ける。
 何故、あの時ああしなかった。何故俺は護れなかった・・・とか、終わってから後悔するもんだと俺は思う。
 少なくとも、俺はそうだったからな・・・
 老師は・・・自分のせいで傷ついた人を自分が幸せに出来る筈が無いと考えたのかもしれないな・・・」

上体を起こし、寂しそうに笑う横島に、小竜姫とヒャクメは知らず知らずの内に思いを噛み締める。
2人の脳裏に浮かぶのは、蛍の意味を持つ名の魔族の姿が有った。
そして、小竜姫は、彼女に嫉妬する自分を浅ましいと思いながらも嫉妬してしまう。
沙悟浄は横島の語る事に、引き込まれている様な様子で、横島の顔を見ている。

「仮におまえの言う事が正しいとしよう・・・
 自分から捨てた希望が再び得られるとして、それを手にする勇気は有るのだろうか・・・?」

沙悟浄は、己が知る猿神の性格を考えながらそう言う。そして、その一言を待っていた横島は内心笑った。

「勇気なんか関係ない。押し付ければ良いんだよ。
 沙悟浄さんはこの文珠による治療で子供が産める体に戻る。
 自分が傷つけた人が許し、負い目が少しでも小さくなれば・・・心に綻びが出来るのは必然。
 そして、無理を押し通せば・・・そこに有るのは・・・・・・この先は言わなくても分かるだろう?」

横島の笑みは、正にイブに知恵の実を食べる様に催促する蛇の様だ。
そして、右掌に出された二つの文珠は正に禁断の果実だろう。
そしてこの時、小竜姫とヒャクメは覚った。これが横島の目的だと。しかし、横島の真意が見えないだ為に動けない。
沙悟浄は震えた。もしかしたら失ったモノを取り戻せるという事に。
それが、絵に描いた餅だとしても、可能性は有るという事実に、心の底から震えた。
その震えは、心を支配する。
考えない。考えられない。再び得る可能性を前に、余計な事は必要無い。
沙悟浄は震える手を横島の文珠を持つ右手に伸ばした。
その事実に、横島の笑みは更に深いものとなる。それは正に己が楽しむ為に様々な事をする悪魔の笑みだった。
文珠に【復元】と込められ、横島は霊視しながら沙悟浄の腹部に押し当て、文珠の効果を発揮させる。
淡い蒼の奔流は患部に吸い込まれていき、消えた。
その成果は、霊視で見る限り、無かった流れが出来ている。ヒャクメに目を向ければヒャクメは頷いた。

「沙悟浄さん。これは餞別だ」

「小僧!?」

静かに涙を流し、嬉しさを噛み締めながら愛しい人の下へと向かおうとする沙悟浄。
そんな彼女に横島はそう言いながら【淫】と込められた文珠を一つ沙悟浄の手に握らした。

「成功を祈っているぞ」

横島の一言を背に、沙悟浄は部屋を出て行った。
一人いなくなっただけだというのに、部屋が異様に大きく感じられる。

「横島さん・・・どこからどこまでが演技なんですか?」

「・・・秘密です」

小竜姫の問いに、横島は苦笑いしながらそう濁した。


―後書き―
沙悟浄さん登場。横島の変化はどれ位進んでいるのかがキーな奴でした。
意外と時間は出来るモンですね。睡眠時間を減らすのはある意味効果的でした。
ノートパソコンに接続し、使っていたマウスの接続端子がご臨終です。実に使い辛い・・・


〜レス返し〜
・チャレンジャー様
 マンネリ化している様な感じは自覚有りますが、いい加減に進めているとは心外ですよ。
 執筆中に何度かメモや下書きを紛失し、自分では継ぎ接ぎな感じは否めませんがね。

・February様
 実に長かったです。それと誤字報告ありがとうございます。
 ただ、「に」か「と」のどちらにするか考えている途中なのでまだ直してませんが。
 バラしちゃ駄目でしたか・・・
 感性の違いは人それぞれです。

・内海一弘様
 すいません。分かるような簡単な当て字にした上で、後書きに解説を書くべきだったのかもしれません。
 私の作品を面白いと言って頂けると、元気勇気猪木(?)です。

・DOM様
 そうなりますね。
 書く前にやっていたのが、その二作なので、印象が強かった為だと思われます。
 切欠は犯罪的でも、後は純愛てな私的にワケの分からないモノで一つ・・・お願いします。

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