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「霊能の炎は燃えているか!?〜一回戦(後)(GS+オリキャラ+α)」

いりあす (2007-07-15 22:35/2007-07-16 06:15)
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 〜〜前半より承前〜〜


 カ――――ン!!

 それぞれの思惑はどうあれ、横島達の緒戦も始まった。対する太宰の一番手は、ドレスでないタイプのチャイナ服に青龍刀を持った留学生らしき少女である。その彼女は右手で青龍刀を構えながら、左手で一枚の札を取り出した。
「ピート君、あのお札に気をつけて!」
「はい!」
 愛子のアドバイスを背中で聞きながら、あらゆる状況に対応できるように身体の緊張をほどほどに抜いて身構えるピート。二人が法円のほぼ中央、3〜4メートルぐらいの間合いに来たところで、まず相手側が札をピートに向けて突きつけた。
「“爆ぜよ、火炎符!!”」
「!」
 何を言っているのかは言語としてはよく分からないが、言霊のせいか言いたい事は分かる。ピートにとってそんな声が飛ぶと同時に、札から炎が噴き出した。言ってみれば、霊波砲の代わりに霊波の炎を撃ったのだ。
「くっ!?」
 横っ飛びで火炎放射をかわしたところへ、今度は青龍刀で斬りかかられるピート。霊力の乗った斬撃を逆ステップで避け、返す刀の二撃目を上空に飛び上がって逃れた。
「速い……! 雪之丞ほどのプレッシャーはないが、よく訓練されている!」
「“逃がすものか!”」
 上空2メートルぐらいのところで滞空したピートに向かって、次の火炎符が投げつけられた。

「“爆発!!”」
「うわっ!?」
 かけ声と同時に、ピートからの至近距離で火炎符が爆発した。身をひねって直撃から逃れるピートだが、それでも爆炎の余波が身を焦がした。
「相手が炎使いだと、身体を霧にするのはまずい……厄介な相手だ……!」
 吸血鬼特有の特殊能力、バンパイア・ミストはああいうタイプの霊波攻撃にはダメージをまともに食らいやすい。眼下の対戦相手が、今度は3枚の火炎符を取り出すのを見て、直感的に“下手に逃げ回るのはまずい!”と判断した。

「“哈! 哈! 哈ッ!!”」
「灰は灰へ、塵は塵へ! アーメン!!」

 トリプルで飛んでくる火炎符を、今度はピートは理力をぶつける事で防ごうとする。二人のちょうど中間ぐらいのところで、両者の攻撃が食い合って大爆発を起こした。
「“きゃっ!?”」
「うわっ!?」
「どわっ!」「ぐぅっ!?」「あうっ!?」
 爆発の衝撃で吹っ飛ばされる二人。その爆風に、法円の外にいる横島達にまで余波が及んだ。
「く……!」
「“何の……!?”」
 ピートの方は自分から数メートル後ろに飛び下がる事で衝撃を逃がした。が、斜め上から爆風を浴びた相手側はそうはいかない。こういう時は吹っ飛ばされるにしても受け身を取るなり自分から転がって衝撃を殺すものであるし、彼女はそのうち後者を取ろうとしたのだ、しかしながら、忘れてはいけない……彼女の右手には、抜き身の青龍刀がある事を。

 ごりっ!
「“”$*+=☆Σ∀Д;!?”」

「あいたぁ……アレは痛いわ」
「確かに、アレは痛いですノー」
「ああいう目には遭いたくないな……」
 いくら何でも自分の刀で自らを傷つけるような事はしなかったが、転がったはずみで刀の鍔が脇腹に見事に食い込んだのを見た愛子達は、一斉に痛そうな表情をしていた。

「隙ありっ! ダンピール・フラーッシュ!!」
「“ぐっ!”」
 すかさずピートが撃ち込んだ霊波弾を、それでも起き上がりざまもう一度横に跳んで避ける。それでも、踏み切った脚を僅かながら霊波がかすめた。そのせいか、跳んだ姿勢が崩れて彼女は受け身を取りそこねた。
「そこだ! 主よ、聖霊よ……「ピート君、後ろぉっ!!」……っ! バンパイア・ミスト!!」
 決めの一撃を叩きつけようとしたその矢先、愛子の焦りを帯びた叫び声がピートの耳を打った。そして、それに対して『えっ?』なんてたたらを踏むほどピートも場数の足りない男ではない。振り向くより先に身体を霧に変えてその場を逃れた直後、ピートのいた場所をヒモの付いた棒手裏剣のような物――金票が二つ通り過ぎた。(作者註:“金票”は正確には金へんに票と書く一つの漢字です)
「飛び道具があると厄介か……となると、こちらからか!」
 法円の中に一歩入り込んでいた太宰の2番手が金票を引き寄せて外に戻るのを横目で見ながら、ピートは自分たちのコーチャーズボックス側に回り込んで実体化、そして着地した。その間に、相手側も起き上がって青龍刀を構え直していた。

「“くっ! こんなところで負けるわけには……こうなったら、奥の手を使わせてもらうわ!”」
 などと言いながら、彼女は何枚かの火炎符をまとめて取り出し、そのうちの2枚を青龍刀の鍔のあたりに貼り付ける。すると、刀身がまとっていた霊波の淡い光が瞬時にして紅蓮の炎に変わった。
「“食らえ、火尖刀っ!!”」
「うわっ!?」
 炎の刀を彼女が横に一薙ぎすると、噴き上がる炎が数メートル先まで伸びる。飛びすさって直撃を避けたピートに、今度は左手の火炎符から飛び出した火の玉が襲いかかる。
「ちっ……!」
 こちらも霊波弾をぶつけて相殺するピートだが、すかさず炎の刀を振りかぶって突っ込んでくる相手の少女。
「“てやぁぁぁぁ〜〜〜っ!!”」
「フィアト! フィアト! フィアト!!(命ずる! 命ずる! 命ずる!!)」
 理力を立て続けにぶつけて迎え撃つピートだが、相手はそれを炎の刃で強引に切り払いながら突っ込んでくる。理力の余波を浴びながらも、委細かまわず振り回された刀身からの炎が、ピートの身をかすめる。

「と、とことんピートサンを全力で倒すつもりですノー……」
「う〜ん……」
 なかなか激しい太宰側の攻撃に、リングサイドの横島やタイガーもなかなかに緊張させられたままその攻防を見守っている。
「ま、大丈夫じゃねーの。ピートだって、ダテにメドーサだのパピリオだのと渡り合ってねーし」
「お札だって枚数はルールで決められているから、いつまでも攻め続けるわけにはいかないわ。とにかく、注意しないといけないのはタッチワークを生かしたコンビネーションよね」
 唯一ピートに指示を出せる立場の愛子だけは、視線を相手コーナー側に固定したまま二人の会話にそんな補足を加えた。


「“くっ! こうなったら、一気に勝負を決めてやるわ!”」
 膠着した状態にしびれを切らしたのは、太宰チーム側だった。火炎符を一枚や二枚ずつ小出しにしていてもピートを捉えきれないと思ったのか、ここで彼女は服のポケットから、おそらくはありったけの符をわしづかみにして取り出した。呪符や破魔札は、この大会では16枚でワンセット=アイテム一つの扱いになる。枚数からしてツーセットのうちまだ使っていない半分弱、これが一斉に爆発すれば、霊力にもよるがちょっとした火角結界程度の破壊力にはなるだろう。だが、
「“バンパイア・ハーフだろうが何だろうが、この火力なら……なにっ!?”」
「遅いっ! あなたの焦り過ぎだ!!」
 それだけの枚数の火炎符を一斉に爆発させようとするには、そのための念や霊力を集中するのに時間がかかるのは当たり前の事である。彼女が符をバラ撒く間に、肝心のピートは符をかいくぐってその目と鼻の先にまで間合いを詰めてしまっていた。慌てて振り下ろした炎の刀の一撃は、手や足の間合いにまで接近したピートの左腕によって、刀の鍔許を受け止められる。そして、姿勢を低くして懐に飛び込んだピートの右手に霊力が籠もる。

「バンパイア、昇竜拳っっ!!!」
「ぐっ!!??」

 そして、渾身の右ジャンピングアッパーが彼女のチン(変な想像をなさらないように! 顎の事ですよ、アゴの? ――作者註)にヒットし、彼女をはね飛ばした。彼の背後では、爆発するに至らなかった大量の呪符が、まだヒラヒラと舞っている。
「……おっと! 主よ、聖霊よ! この場に一時の平穏を……!」
 さすがにこのまま放置はできないと思ったピートは、地面に叩きつけられた相手選手に横目で注意を払いながら、その火炎符だらけの一角に霊力を放出して、一種のフィールドを構成する。そのフィールドの中で、やっと発動した火炎符が次々と爆竹のような小爆発を起こして燃え尽きていった。ついでにピートは、まだ火をまとったまま転がっていた青龍刀も法円の外に蹴り出した。
「オーケー、ピート君! いったん交代して休憩して!」
「え? でも、まだ……いえ、分かりました」
 愛子の指示に抗弁しかけたが、自分が一種の“地雷処理”をしている間に法円の向こう側では太宰の選手が交代をしているのを見たピートは、すぐさま自陣のコーナーに戻った。なお、ヨロヨロとした歩調で場外に飛び出した相手選手は、タッチが終わるや否やバッタリと倒れ込んでいる。
「タイガー! 後は頼みます」
「任せてくんシャイ!」
 二番手のタイガーが法円に入るのと入れ代わりに外に出たところで、やっとピートの全身を気だるい疲労感が襲ってきた。


「さてと、敵さんどう出てきますかいノー」
 タイガーと対峙する太宰府学園の二番手は、先ほどピートに援護攻撃を仕掛けた金票の使い手の男性である。手には直剣を構えている。おそらく紐付きの金票は、和服とも中華風とも違う気がする服の袖の中だろう。

「いい、タイガー君? あの人達が本当にピート君一人をマークしているのなら、ピート君相手の時とあなたや横島くんを相手する時とでは戦い方が違ってくると思うわ」

 交代する前に愛子から耳打ちされた言葉を脳裏でプレイバックさせながら、相手との間合いをジリジリと詰めるタイガー。

「ピート君がまた出てきた時に備えて力を温存しようとするか、逆にピート君が出てくる前に畳んでしまおうとして勝負を急ぐか……でも、そこにはきっとスキができるはずよ。そういう様子が全く見られない時は……まあ、その時はその時。臨機応変に戦って」
 臨機応変と言ったって、どこまで本気を出せばいいんかノー……とタイガーが内心で愚痴を言おうとした時、

「キエエエエェェェェ―――――ッ!!!」
「お゛お゛ッ!?」
 腹の底から絞り出すような、それでいて甲高い裏声で叫び声を上げながら、相手の方から剣を振りかざして突っ込んできた。
「キェイ! チェイ! チェストォ――――ッ!!」
「うおッ!? どワッ!? がウッ!?」
 彼が日本人かどうかはともかく、太宰府学園のどこかで習ったのであろう南九州特有のかけ声とともに、続けて振り下ろされる剣尖を、タイガーはやや慌てながらもよける。しかし2メートルを超えるその巨体にもかかわらず、タイガーの動きは猫科の猛獣を思わせるかのような無駄のないものである。
「キェイ! キエエエエッ!!」
「おおっ! なんトッ!!」
 しかし、結構な霊力が籠もっているらしい霊剣で斬られればタダでは済まない。実戦慣れしたタイガーとはいえ、内心ではさほどの余裕もなく斬撃をかわし、ひとまず剣の間合いから素早く外に離れる。
「“逃がすかぁぁっ!!”」
「なんジャト!?」
 なおも敵の追撃は続く。タイガーが距離を取ろうとするのを見て取った彼は、すかさず両手の袖から金票を取り出して投げつけてきた。そして、その票がつながったヒモが、タイガーのそれぞれの手首に巻き付いてしまった。

「! タイガー!?」
 いきなりのピンチにコートの外のベンチで見ていた一文字魔理は思わず腰を浮かせ……その直後、横から伸びた手に腕を捕まれて椅子に引き戻された。
「え……?」
「……大丈夫です、一文字さん」
 彼女が手の方向を見ると、そこには何か深い信頼と言うべきものを瞳にたたえた、巫女装束の親友がいる。その落ち着いたまなざしに、泡を食いかけた一文字は落ち着きを取り戻す。

 そして、タイガーを捕獲した敵選手は、すかさずロープを二本とも左手に持ち替え、右手に剣を構えつつそれをたぐり寄せようとした――しかし。
「“もらった! これで終わり……「ヌオォォォ―――!!!」……な!?”」
 太宰府学園のミスをここであげつらうのは多少酷かも知れない。だとしても、勝負を急ぎすぎたのは事実かも知れない。少なくとも、もう少しゆっくりタイガーを捕獲したロープを引き寄せるべきだった。
 何故かというと、こちらがロープを引きながら剣を振り上げると同時に、タイガーの側もロープの絡みついた両手を思い切り引いたからである。つまり、ロープを挟んで両側の二人が、全力でそのロープを引いたわけだ。そしてその綱引きに負けたのは、ウェイトが小さい上に前に飛び出そうとしていた太宰府学院側だった。
「“しまった……!?”」
「ガァァァァッ!!!」

 ゴン!!

 額と額がゴッツンコする直前、彼は目の前でどアップになった大男の隈取りのようなアザのある顔が虎に変わる姿を見たような気がした。
「あたた……なかなか石頭だったんジャノー……」
「“く、くそっ! 油断した……あ、あれ?”」
 頭を押さえてうずくまった二人のうち、先に立ち上がったのは太宰の選手の方だった。しかし、彼は急にふらついてまた膝をついてしまった。
「“な、何が一体どうしたんだ……くっ!?”」
「あたた……」
 頭突きの反動で倒れ込んでいたタイガーの方は、額を押さえたままニヤッと笑った。

「ね、今……タイガー君、何をしたの? ただ頭突きをしただけに見えたんだけど」
 コーチャーズボックスの愛子も絡繰りが理解できなったらしく、横のピートと横島に尋ねていた。
「頭突きをした瞬間、タイガーが虎に変身したのが見えただろ?」
「う、うん……それが?」
「タイガーは精神感応を使う時、周りの人達には彼が虎に見えるんですよ。そして精神感応の霊波は、額から出るんです」
 横島の説明を、ピートが途中で引き継いだ。もちろん3人ともタイガーが虎になった瞬間はしっかり目撃しているが、相手側のリングサイドではどう受け取っただろうか。
「あ! じゃあヘッドバットの瞬間、霊波を放出したのね?」
「多分そんなところだろーな。そのヘッド……
「頭突き自体はそんなに痛くないと思いますけど、同時に霊力を脳天に叩き込んだんです。しばらくは霊感がマヒして霊力をまともに使えないと思いますよ」
 ……俺のセリフを取るな」
 二度目も途中でピートが説明を途中から続けたので、横島は少しむくれた。
「何だか、ピート君もタイガー君もこの2ヶ月で技が増えてるわね〜。私も何か必殺技とか覚えた方が……って、タイガー君! 右から来るわよ!!」
「えっ?」「なに?」
 技の説明に気を取られた愛子が慌てた調子でコーチングをしたが、ほんの少しだけ遅れた。視線を愛子からコートの方に戻すと、霊感と霊力を乱されてふらつく相手にとどめの一撃を食らわそうとして、今度は太宰の最後の選手が投げつけてきた2枚の札に動きを止められたタイガーの姿が横島とピートの目に映った。

「ぐっ! これは結界札かいノー!?」
 札が自分の目の前に跳んできた次の瞬間、タイガーは目に見えない壁にぶつかってしまった。どうやら今跳んできた札が障壁を作り、自分の前進を阻んだらしい。
「ぐぬぬぬぬ……ガアァァ!!」
 相手の霊力が定まらない今がチャンスだったのに……と内心歯がみしながら、タイガーは両手に霊力を込めて結界を強引にこじ開ける。が、すでに相手選手は可能な限りのスピードで自陣へ駆けだしていて、無理に追いつこうとすれば相手のリングサイドに誘い込まれる事になる。
「タイガー君、上出来! 後は横島くんに任せて!」
「え? しかしわっしはまだ……わ、分かったんジャー」
 愛子の指示にタイガーは先ほどのピート同様に抗弁しかけたが、すぐにこれも愛子の作戦のうちだろうと考えを切り替えた。

「おい、俺にまで出番を作るのかよ?」
「一人を出ずっぱりにしておくと、やっぱりこの後の試合で悪い影響が出るかも知れないわ。だから、一回戦は交代交代で勝っておきたいのよね。それにおキヌちゃんや夏子さんの手前、出番なしだと」
「へいへい、分かりましたよおネエちゃん。それで、俺の作戦は何かあんのか?」
 戸籍上の義理の姉に対して皮肉っぽく言い返してから、それでも横島はそう尋ねた。
「……文珠は使わないで。それ以外は、横島くんの“いつも通り”でいいと思う」
「“いつも通り”……ね。タイガー、ご苦労さん」
「仕上げは任せたんジャー」
 内心で『“いつも通り”、かぁ……』とか考え込みながら、太宰の三人目に相対する形で横島もリングインした。そして太宰府学園の最後の選手は……

「……って、おい! なんか、俺の相手が一番強そうな気がするのは気のせいかっ!!?」
 少なくとも、横島より10センチばかり背が高い、しかも横幅もガッチリした筋肉質の男が、日本刀は日本刀でも戦国時代の野太刀のような長物を構えているのは事実だった。
「頑張って〜! 横島くんは“やればできる子”だって、お姉さん信じてるから!」
「都合のいい時だけ姉貴ヅラするなぁぁ!」
 その長身の男が刀を構えて突っ込んでくるのを目の前に、横島はいつもの調子でわめき散らした。
「うおおお――――っ!!!」
「おわ〜〜〜〜〜〜!!??」
 確かに“いつも通り”に絶叫しながら、最初の一撃をズッコケながらも横島は回避した。


「よ、横っち……?」
「うわ、情けなっ! 何やのん、あの横島のヘタレっぷりは!?」
「あら〜……おタダ、しばらく見んうちにすっかり情けのうなってもて……」
「………………」
 ちなみに発言しているのは望、素子、信之、そして無言の夏子の順だが、彼女達もそれぞれの感想を抱きながら横島の戦いぶりを見つめている。


「こら、逃げるな! 正々堂々と勝負しろっ!!」
「刀振り回して何が正々堂々じゃあぁぁ〜〜〜!!」
「これが俺の除霊スタイルなんだ、文句あるかぁぁ!!」
 刀を振り回して横島を追い回す太宰の選手、そして逃げる横島。しかもその太刀筋はかなり的確で、ゴキブリのよーに逃げ回る横島も、髪や服の裾がほんの僅かながら切れるシーンを見る事ができる。
「だああ、チクショー! 死ぬのはイヤやけど、おニューのバンダナがダメになるのもイヤやぁぁ!」
 時折反撃のつもりか、逃げながらもサイキック・ソーサーを作り出して次々と投げつける横島だが、狙いをつける暇がないせいか相手にカスリもしない。そうやって、二人は法円の中をグルグル駆け回りながらイタチごっこを続けていた。
「“何モタモタやってるんだ! そんな奴、いつも通りにやればあっという間だろ!”」
「“落ち着いてかかれ! そう、そこだ! あと一ヶ所!”」
 コーチャー以外の声が届かないのを承知しているのか気づいてないのか、リング外で彼のチームメイト達が声を張り上げていた。

 しかし、その声は反対側のピート達の耳には届く。
「……“いつも通り”……?」
 その声援を聞きとがめた愛子は、その内容が急に気になった。そして、もう一度横島の様子を注意深く観察し……ある事に気づいた。
「横島くん、そっちへ逃げちゃダメよ! 相手の後ろに回り込んで!!」
「へっ!?」

 バチン!!

「どわっ!?」
 が、彼女のアドバイスも少し遅かった。逃げ回る横島は、見えない壁にぶつかってその場に立ちすくんでしまった。
「な、何だぁ!?」
「やっぱり! 戦いながら結界を仕込んでいたのね!?」
 横島と相手の周り、直径にして約3メートルの空間は、今円上の結界によって周囲から遮断されていた。愛子たちがよくよく彼らの周囲を凝視すれば、リングのあちこちに結界札らしき物が貼られていた。どうやら横島を追い回しながらこっそり札を仕掛け、円上のフィールド内に追い込んでいたらしい。
「フはははは、もう逃がさねえぜ! 覚悟――――っ!!」
「ギャワ――――――!!」
 チョコマカと逃げ回るスペースはもう無い。結界に退路をふさがれて立ちつくす横島は、振り下ろされた一刀に斬り捨てられ――――


 ――――は、しなかった。
「!」
「え?」
「あらら?」
「なんやて!?」

「ぐ、ぐおおぉぉ…………!」
「な、何だとっ!?」
 その一撃は、横島の眼前で止まっていた。刀身の両側を横島の両手が挟み込む……いわゆる、真剣白刃取りである。ほとんど奇跡のようなタイミングで、パニック状態に陥った横島が振り回した両手が刀を受け止めていた。そのまま数秒、二人の動きが止まる。
「ひ、ひえええ……!!」
「くそっ! このまま押し切ってやる! ぐぬぬぬぬ……」
 しかし、刀と横島の距離は徐々に縮んでいく。体格と腕力の差なのか、横島はもう映像として保存するのが気の毒になるような凄まじい表情で踏ん張る。そして、
「ぐ、ぐぎぎ……の、の、の…………


 のっぴょっぴょ――――――んっ!!!!」
「な゛!?」

 横島が口走った一発ギャグに、相手の気勢が一瞬削がれる。そして次の瞬間、
「どっせぇ〜〜〜〜い!!」
「しまった!?」
 横島が両手を思いっきり横に振った。その勢いで刀は彼の手から柄がすっぽ抜け、ついでに横島の手も離れてすっ飛んでいった。そして霊力の籠もったままの刀は勢いよく結界にぶつかり……

 バッキィィン!!!!

 その衝撃で、横島達を取り囲んでいた結界はあっさりと雲散霧消した。
「な、なにィ!? この結界がいきなり破れたぁ!?」
 いくら戦闘中に隠れて仕込んだとはいえ、自慢の結界術をあれだけの事でダメにされたのだから彼は愕然とする。
「し、死ぬかと思った……」
「くっ!!」
 空手になってしまった彼は、とりあえず右手を振り上げて体勢を崩した横島にパンチを食らわそうとする。しかし、
「どわわわっ!!」
「うっ? おっ、ぐわっ!?」
 崩れた姿勢のまま地面に手をついて逃げる横島の前に、拳は空を切った。しかも、ジタバタさせた横島の脚が自分の脚に絡み、彼は地面に勢いよく転倒し、胸を打っていた。

「く、くそ〜……一体何なんだ、この男………………う!?」
 何故かペースがまるで握れない事に歯噛みしながら、彼は跳ね起きようとして……その途中で動けなくなった。
「う、う、う……うご、うご……」
 いつの間にやら起き上がっていた横島が、背中越しに彼の首筋に霊波刀を突きつけていたからだ。


「…………動くな」
「…………………………ギブアップ……」
 反撃するでもなく、彼はややかすれた声でそう言った。


「……勝ってもたな、横島」
「うん、気がついたら勝っとる……」
 怪訝そうな面持ちで呟いた素子と望の言葉が、観客達の心境を端的に代弁していた。軽くザワつくその観客席や待機スペースには、無数のクエスチョンマークが飛び交っている事だろう。審判員が鳴らしている試合終了のゴングも、どこか緊張感や高揚感が無い。
「何ちゅうか……予想外、という奴かな?」
「予想外と言うより……期待外れ、言うたほうが……」
「…………ああ、せやな。確かに予想外は予想外や……フフフ」
「「へ?」」
 拍子抜けしたような表情で論評しあう二人の言葉は、しかし隣から聞こえてきた低い笑い声によって中断させられた。
「まずは安心や。横島がウチらのよう知っとる横っちのままで、正直ホッとしたわ。せやけど……あそこまでトンでもない強さになっとったのは、これまた正直言って予想外やった」
「横島が……強うなった?」
「それも、トンでもなく?」
 緊張感をはらんだ声の方を二人が向くと、視線の先でこれまた真剣な顔をしている夏子の姿。その頬を、ツツーっと一筋の汗が首筋に向かって流れていった。

「気づかなんだか? 横っちのヤツ、勝ち方までキッチリ決めよった。“情けない格好さらして、なぜか勝ってもうた”っちゅう勝ち方でな」
「勝ち方を決めた、って……ひょっとして横島って」
「あの情けなさは、“フリ”やったって事?」
「……フリというわりには、えろう自然やったんやけど」
 まだクエスチョンマークを脳内に貼り付けたまま、後ろの信之がそう突っ込んだ。
「あんな無茶苦茶な逃げ回り方やったのに、まごついたり手足がもつれたりせえへんかった。それに、あの姿勢から霊波弾投げつけて反撃したのもえろう正確やったし」
「正確? アレが? 全然当たってへんかったのに?」
 反論する素子の口を封じるように、夏子の指はBコートの法円内を示している。
「あの霊波弾の狙いは本人やない。あれはスッポ抜けたフリをして、仕込んどる結界に傷を入れるのがホンマの狙いや。そうでなかったら、刀投げつけた程度で結界が全部壊れたりせんやろ?」
「……望、気づいとった?」
「……ううん、全然」
 言われてみれば、二人目のタイガーがフルパワーで引きちぎらなければならなかった結界を、しかも念入りに展開した全方位型のそれを、あれだけの事で破れたというのは確かに不自然だ。だが、結界が破れた時結界札も千切れてしまったので、物証は何もない。
「それに偶然を装った真剣白刃取り、一発ギャグで気ぃ逸らして刀取り上げて、ズッコケるついでに足払い……どれを取っても無駄な動きがありそうであらへん。そして、最後のアレや」
「アレって、おっかなびっくり霊波刀突きつけて『動くな』ってヤツ?」
「威圧感もなければ殺気も出てへんかったから、脅しにはなってなんだ気がしたけど?」
「そう、それや」
「「「どれ?」」」
 夏子が突きだした指の先の方角を、素子・望・信之の三人が一斉に見た。
「そこでボケんように! ま、ええわ。とにかく、威圧感は無かったけど殺気は出とった。一瞬やったから、観客のほとんどは気づいてへんけど」
 そう説明しながら、夏子は軽く身震いした。
「正確に言えば、殺気とも少しちゃう。ホンマの殺気を叩きつけられたら、逆に死に物狂いで抵抗しようとするのが普通……アレは本当に、“動くな”って伝えただけや。せやけど一瞬ゆうても“動いたら斬る”って気配をスラッと伝えられたら、そりゃ気の弱い奴はギブアップもしとうなるわ……どれだけの修羅場をくぐったらあんな気配を持てるんか、まるで想像がつかん」
 青ざめた顔をしてベンチへ引き上げてゆく太宰府学園の三番手の選手を眺めながら、夏子はそんな感想を述べた。
「ま、そんなところやな。横島は手の内をまだ全部見せてへんけど、アイツがめっちゃ強いっちゅうのは確かや」
「うわっ、そこまでは全然気付かんかったわ……」
「やる時はやる人やって事は知っとったけどね……そんなに強いんか」
 間違いなくリーダー格の夏子にそこまで言われ、チームメイト二人は不安げに顔を見合わせた。


『一回戦第7試合、福岡県・太宰府学園Bチーム 対 大阪府・市立天王寺高校Aチーム! Aコートへ集合して下さい。繰り返します、一回戦第7試合……』

「おっと、次は私らの出番やな? ほな行こか、素子、望、信之姉!」
 アナウンスを聞いた夏子は、すぐさま気持ちを切り替えてベンチから立ち上がった。
「確かに横っちは強い、けど勝てへん相手やない! これまでの特訓の成果ぶつけて、あのアホをウチらのところに連れ戻したるんや! ハッキリ告白せんかったせいで一度はなくした青春を、もう一度やり直すためにっ!」
「……せやな。あ〜だこ〜だ考えとっても、埒が明かんわ」
「よっしゃ、ほな次は私達の見せ場やね。せいぜい横島にええ処見せたらな」
 いつものように不敵かつ朗らかに笑う夏子に、二人もやる気を取り戻してスックと立ち上がる。やや遅れて、信之も席を立った。
「ほな、行こか。ああ、それと夏子ちゃん」
「ん?」
「おタダが凄いというのは分かったけど、それを全部見抜いた夏子ちゃんも充分凄いと思うよウチは? ほやから、自信持ってええ」
「……おおきに、信之姉」
 肩越しに小さくうなずき、夏子はリングに向けて歩き始めた。


「次の試合は夏子達か〜。おキヌちゃんは強いって言ってたけど、ホントのところどうなんだろ?」
「霊能学べる学校じゃかなり有名だから、レベルは高いわよ。5年前に除霊されかけた本人が言うんだから、アテにしてほしいわね」
 自慢げに胸を張る愛子だが、言っている内容はあまり自慢になっていない。
「いやもう、あの時は本当にダメかと思ったわよ? 何十人っていう霊能部員に学校どころか街中まで追いかけ回されて、とうとう貨物列車で東京まで逃げ出すハメになったんだもの。特に、あの人が一番手強かったわ」
 そう言って、愛子がこっそりと指を差した先は……市天Aチームのコーチャーズボックスである。
「……信之姉にか?」
「さっき顔を合わせた時、けっこうヒヤッとしたわ。気が付かなかったのか忘れているのか、気にしていないだけなのかは判らないけどね」
 そんな会話をしながら、横島達はAコート脇の4人を注視していた。


「さてと、ウチらは横島達みたく手の内を隠しかくし勝つなんて器用な真似はまずでけへんやろからな」
「……別に、そうと決まったものでもないと思うんやけど」
「できない、と考えとき。どうせ相手は横島達と同じ太宰の連中や、手抜きして勝てる相手でもないやろ?」
「ほやな……」
 夏子達とは法円を挟んで向こう側にいる太宰府学園Bチームは、槍を手にした羽織袴姿の男、見たところ目立った武器は持っていない人民服の男、そして日焼けした感じのトレーニングウェア姿の男。奇しくも、男3人対女3人の対決になった。
「ほな、作戦は決もたね? ケガとか霊力切れとかせんように、思いっきり戦ったり。でも奥の手とか決め技とか、見せずに勝ち上がりたいもんやけどね」
「はは、注文きついねえ信之姉。ほな、一番手は私から行くね」
 そう言って法円内に進み出たのは、一番手・水無月望。水色のシャツに同色のショートパンツ、頭には“市天”をデザイン化した校章をあしらったベレー帽。そして肩に引っかけているのは、

『ラ……ライフル、ですよね、美神さん?』
『確かに、ライフルね。それも、一見してアサルトライフル。ベースはM16だけど、細かいところはだいぶ違うみたいね』
(令子もあの程度の銃はコッソリ持っているみたいだから、持ち出したぐらいで驚きはしないけど……)
 あんな物騒なものを堂々と持って上がった事には、さすがに驚きを禁じ得ない美智恵である。

「なあ……あれ、OKなのか? 試合に使うって、ちゃんと登録されているみたいだけど」
「そ、そうみたいね……エアガンなら18歳で免許が取れるし、クレー射撃競技のショットガンも18歳でOK……のはずだけど」
 太宰側の抗議が却下されているらしい様子を見ながら、今ひとつ現実感のわかない横島と愛子が妙に冷静な会話をしていた。ちなみに現行の銃刀法では、ライフルの所持には猟銃を10年間所持していた実績が必要です。


 まあそんな一部の観客のざわめきをよそに、市天の一番手・望と太宰の一番手の浅黒い青年が法円に立ったところでゴングが鳴った。
「うおおおおおっ!!」
 試合が始めるや否や、いきなり太宰側が動いた。気合いの声とともに両手を右に持って行き、何かを溜めながらその手を前に突き出す! と同時に、LLサイズのスイカぐらいの大きさの霊波弾が飛び出し、望めがけて飛んでいった。
「わっと!?」
 肩から銃を降ろすところだった望、慌てて横っ飛びで霊波弾を回避し、そのまま地面に一回転転がる。そして跳ね起きた時には、銃は相手めがけてピタリと銃口が向いていた。

 シュパパパパ……!

「ぐぅっ!?」
 そしてすかさず、銃口からは光の塊が次々と飛び出し、対戦相手に次々と襲いかかる! 霊波弾を撃った直後の彼は全部避けきる事ができず、そのうちの過半が身体に命中した。ほんの少し狙いがずれて直撃しなかった弾は、法円が構成する結界に当たって、光の粒と化して飛び散ってゆく。

「霊子ライフル!? 霊波を圧縮・加速して撃っているのか!」
「す、凄い! あんなに高性能の霊子銃なんて、初めて見たわ!」
 職業軍人故に銃火器には詳しいジークと、オカルトアイテムには一家言あるアンの二人が、目を見開いて腰を浮かせた。確かに現行の銃刀法で規制されている銃は『“炸薬や圧縮気体”で“金属製”の弾丸を飛ばすもの』だから、例えば荷電粒子ライフルのような銃を想定しておらず、それ故に霊力を弾丸にして発射する銃なんてのは一切規制していない。
「そ〜れ、それそれそれそれそれ―――っ!!」
 フルオートで霊力を弾丸に仕立てて撃ちまくってくる望に対して、とっさに逃げる事もかなわず棒立ちで食らうに任せる相手。それでも霊力を身体の前面に集中させて、ダメージを必死で抑えている。
「ぐ……こ、この、なめなやぁ――――!!」
 このままではジリ貧のまま蜂の巣にされるだけと思ったらしい相手選手、霊波弾が身体を打つのも構わず走り出した。
「お見やァァ――――ンっっ!!」
「わあっ!?」
 霊力を乗せた右ストレートを、望は辛うじてライフルの銃床で受け止めた。それでも射撃の腕に関わらないところでのウェイトの差はさすがに大きく、彼女は1メートルばかり後ろへ吹っ飛ばされた。
「デェアァァァ〜〜〜!!」
「うわ! あ、あぶな!!」
 甲高いかけ声と共に迫ってくる追い打ちのパンチを身をひねってかわし、キックをまた銃で受け止める彼女。そしてキックの直後で動きの僅かに止まった相手の懐に逆に飛び込み、銃の台尻で顔面を殴りつけた。
「な……なめるなぁ!!」
 殴られた方も黙ってはいない。その場に踏みとどまり、至近距離から霊波砲を立て続けに3発撃ち込む! その3連発の初弾を横っ飛びで避け、切り返して逆斜め後ろに跳んで二撃目から逃れ、三発目は身を低くして地面に転がる事で下をくぐり抜ける。そして、転がりながら銃を突きつけて霊子弾を立て続けにヒットさせた。

「な、何だよあの銃、メチャクチャ命中率がいいぞ? ひょっとして、霊波が相手を追いかけてるのか!?」
「ち、違うのね横島さん〜! あの弾は、ただまっすぐ前に飛んでいくだけなのね〜!」
 一方的に望が攻めている構図に目を丸くしながらライフルの性能に感心する横島の言葉を、ヒャクメが言下に否定した。
「……って事は?」
「彼女自体、射撃の名手って事になるね。もちろん、霊子ライフルは射撃時の反動が少ないのもあるけど……」
 このメンバーの中で最も銃器に詳しいジークが、ボソッと説明してくれた。
「威力も侮れないのね〜。一発一発は軽めだから霊的防御力が高い相手には通用しづらいけど、未完成の魔装術ぐらいなら貫通できそうなのね。攻撃的になって防御を考えない悪霊なんて、多分蜂の巣にされちゃうわよ」
 どうも望の対戦相手もそういう攻撃的かつ防御力低めの霊能特性だったらしく、すでに霊子弾を食らいまくってヘロヘロである。というより、

「こーなったら、銃身が焼けるまで撃ち続けたるんや〜っ!!」
「ぐおおおおっ!!??」
 今リアルタイムで蜂の巣にされていた。ついに衝撃に耐えきれず、吹っ飛ばされた……その先は、ちょうど太宰側のコーナーだった。
「あ、しもた! 交代させてまう」
 これ幸いと二番手の人民服姿の人にタッチするのを見て、“あちゃあ”な表情をする望。
「もうええよ、望ちゃん! 素子ちゃんが待っとるさかい、戻ってきてな」
「あ、やっぱし? 最初の一人で試合を決めたかったんやけどなぁ」
 信之達の方を振り向くと、すでに法円のすぐ外に右手を挙げた素子が待機している。内心で舌打ちしながら二番手に牽制の銃撃を浴びせながら、彼女はコーナーまで交代した。
「ほい、ごくろーさん! 後は任しとき」
「ドジこかんように、気ぃつけなあかんよ?」

 なんてやりとりの後、二番手・五藤素子がリングに立つ。その出で立ちはというと、立て襟シャツの上からカスリの小袖を羽織って袖をタスキがけでたくし上げ、紺の袴の下には膝までの編み上げブーツという、和洋折衷と言うか勘違いした明治時代の書生のような代物である。ちなみに、かけている眼鏡は大きめのレンズの丸眼鏡。
「向こうさんは……風水盤からするとやっぱ道術使いみたいやな。あとは札やろか?」
 人民服の対戦相手は左手に八卦を刻んだいわゆる風水盤を構え、右手はポケットの中。望の撃ち込んだ霊子弾は、あの風水盤が発生させた防御フィールドで防いだらしい。
「“疾ッ!!”」
 先手を取ったのは太宰府側。何やら唱えながら左手の風水盤を突き出し、最後に一声叫ぶ。コンマ数秒のタイムラグの後、いきなり素子の周辺で霊力が弾けた!
「おわっと!?」
 単なる飛び道具とは違う攻撃に、反射的に顔を覆ってガードしつつ飛びすさる素子。小爆発が生んだ霊波が、彼女の身を軽く焦がした。
「“破! 破! 破!!”」
「おうっ!? うひょう!? あだっ!?」
 彼が風水盤を突きつけて気合いを発すると、素子の周りで次々と何かが起こる。最初は炎が燃え上がり、続いて小さな竜巻が起こり、さらに派手に放電して火花が飛んた。
「ウチの周囲の風水を操作しとるんか! ちょいトリッキーやけど、除霊には応用が効きそうな能力!」
 直撃から逃げながら間合いを詰め、彼我の距離が3〜4メートルにまで縮まったところで素子は破魔札を取り出す。
「これでどうやっ!」
 そしてすぐさま霊力をこめつつ、破魔札を手裏剣よろしく相手に投げつけた。
「“くっ!”」
 クリーンヒットすればかなりの痛手になるであろうその札を、対する彼は左手の風水盤はそのままに右手に小ぶりの木刀のようなものを取り出し、そしてそれで破魔札を叩き落とした。
同時に、破魔札そのものも霊力が誘爆してボンと破裂する。

「桃剣かい!? さすがは道士の卵、ええもん持っとる!」

 桃の木や桃の実は仙桃だの桃源郷だの桃太郎だのといった伝承からしても、霊的な性質を帯びやすくオカルトアイテムにも加工しやすい。木材としてはあまり強度がないので敬遠する向きもあるが、製法次第では神通棍の代わりにも充分堪える事ができる。

「つっても、アレで人間相手の殴り合いは向いとらん! せやったら、接近戦で行ったる!」
 一度スクワットの要領で身を沈め、すぐさま伸び上がる。伸び上がった時には、彼女の両手にはブーツに差してあった武器がそれぞれ握られていた。握りの両端に10センチばかりの槍状の刃が取り付けられた、いわゆる独鈷杵である。
「てぇぇぇ――――い!!」
「“うっ!?”」
 風水盤を改めて突きつけるより早く、素子が自分の間合いに飛び込んだ。霊波を帯びて鈍い光を放つ独鈷杵を、相手の顔面めがけて突き出す! その一撃は咄嗟に突き出された桃剣の刀身に当たって、本来の目標を外して空を切った。霊波と霊波が激しく擦過し、火花のようなものが飛び散る。
「もう一丁!!」
 さらに逆手に持った独鈷杵を間髪入れず突き入れる。今度は風水盤でフィールドを張る事で防がれたが、こちらは攻撃を逸らしきれずに肩を浅くだが切り裂いた。
「“く、くそぉっ!”」
 このままではまずいと踏んだか、彼は両手を振り回して素子をはね除け、再び風水盤と桃剣を彼女に突きつける。
「そうはさせん! このまま一気に「素子ちゃん、バック!!」なんやて?」
 もう一度間合いを詰め直そうとした時に、素子の背中を信之の声が叩く。反射的に後ろに飛び退いたちょくご、彼女のいたところを一本の刃物が通り過ぎた。

「最後の奴かい! あんたの出番はないっちゅうに……おおっと!?」
 まだ直接対峙していなかった太宰の三人目がリングインして投げつけた小柄らしき刃物に気を取られた隙に、本来の相手の攻撃が間に合った。今度は目の前に発生した猛烈な冷気から、さらにバックして回避を余儀なくされる素子。
「って、まずい! これ、あっちの間合いやないか……」
 気が付けば、ダッシュした程度では捉えきれない距離にまで間合いが開いていた。
「“もらった! 金気は西から南西、火気は南より南西、そして土気は中より南西へ!!”」
 そして、複雑な詠唱か何かを終わらせたらしい彼が高らかに叫ぶと、素子を左・右・前の三方向から包囲するように刃のような霊波の群れ、霊波の炎、そして霊波の塊がそれぞれ発生した。そしてその三つは、素子を押しつぶそうと迫ってくる。
「囲まれた!? せやけど遅い、遅いのは除霊にとって危険やで! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在……
 その迫り来るスピードを見て取った素子、身構えて右手の独鈷杵で印を切り始めた。そして、最後に右手を横に一閃させると同時に、左手を思い切りよく突き出す。
「前!!!」
「“何っ!?”」
 そして、次の瞬間印を切った場所から霊波弾が全部で9発、太宰側めがけて飛び出した。しかも全てがただまっすぐ飛ぶのではなく、あるものはまっすぐ相手を目指し、ある弾は左右から回り込むように殺到し、そしてカクカクとジグザグに交錯しながら襲いかかるものまである。そしてその霊波弾は正面の霊波のフィールドを突き抜けて飛びかかる!
「“な、何だとぉぉぉ!!??”」
 桃剣と風水盤をかいくぐった7発が命中し、彼を今度こそまともに吹っ飛ばした。


「ひゅ〜♪ さすが横島の知り合いだよな、いい技持ってるよ」
「あ、あのさ一文字さん、それって感心するところ?」
 思わず口笛を吹いて感嘆した一文字を、突っ込み半分で後ろの峯がたしなめた。
「密教系? でもそれだけじゃないわね、結構アレンジが入っているわ」
「はう〜……夏子さん達、このまま勝てるかなあ……」
 真剣に素子の技を観察している弓の横で、何故かおキヌがハラハラしていた。


「は〜い、素子ちゃんもそこまで。最後は夏子ちゃんに任せとき」
 自分に迫ってくる三つの場が消えたのを見て勝負を決めようとしたところで、また信之の待ったがかかる。抗議の視線を込めてコーチャーズボックスでノホホンとする信之をジロリと睨む素子だが、その視界の端ではヨロヨロと起き上がった相手が最後の一人とタッチしようとしている。
「……って、しょうがないか。夏子! ここで逆転負けなんやしたら、あんたタダのバカ丸出しやで!」
「ご忠告おおきに。そうならんように気ぃつけるわ」
 素子の皮肉を軽く流してから、三番手・真田夏子が法円の中に立った。対するは太宰の三番手、槍を持った和服の男である。チームメイト二人をノックダウンさせられて、彼の表情もさすがに焦りを隠しきれない。


「……そして、夏子か。さ〜て……?」
「……夏子さん……!」
 一応ライバル関係になるのだが、それでも横島・おキヌの二人はやや心配げな表情で夏子を見つめる。


「さて、ここでコケたらおキヌちゃんにも横島にも面目が立たんからなあ。手加減はせえへんで」
 畳んだままの神通扇二本を油断無く構えながら、半身になってスッと構える夏子に、槍を握りしめてジリジリとすり足で前に出る太宰の選手。緊張感の漂う空気が、数秒ほど流れた。

「うおおおおおぉぉぉぉ〜〜〜っ!!!」
 そして、しびれを切らした太宰側が槍を振り回しながら駆け出す事で流れが動いた。
「!!」
 それを見た夏子の方も、大胆にも真正面からダッシュする。

「どぉりゃああぁぁぁぁぁ!!」
 そして正面から突っ込んでくる夏子に対して、梵字を刻み込んだ槍がありったけのパワーとスピードで突き出された。


 ズガガァァァンッ!!!


 単に武器が刺さったようなものではない轟音に、周囲の面々も気の小さい者は思わず首をすくめ、目をつぶった。


「「………………」」


 こわごわと観客達が目を開けると、法円上の二人は1メートル前後の間を置いて動かなかった。そして、

「…………」
「う、ぐ…………!」


 突き出された太宰の側の槍は、夏子の身を貫くことなく彼女の脇の下あたりをかすめて横に流れ、


 そして彼の眉間と鳩尾に、夏子の突き出した神通扇が深々と食い込んでいた。


「…………はい、一丁上がりっと」
 彼が真後ろにブッ倒れるのを見届けてから、夏子は決めのポーズとばかりに左手を腰に当てて右手の扇をバッと開いた。


「い……一発?」
 少し遅れて鳴らされたゴングを背に無造作に自陣に引き上げる夏子を見ながら、横島が少しかすれた声をたてた。
「一発……ですね」
「一発、ジャノー」
「確かに一発だったわ……」
 並んで見ていたピートもタイガーも、そして愛子もそれしか言えなかった。ただ、二人が交錯するところを見ていて、気が付けば夏子のカウンターが決まっていた。最初の望、次の素子に関してはそれぞれの技の冴えを見せてもらっただけに、その分夏子の試合がやけにあっさり終わった事に拍子抜けしてしまっていた。
「なあシロにヒャクメ、お前たち目が良かったよな? 今のを見て、どう思った?」
 とっさの事でよく分からなかったので、仕方なしに後ろの列に座っていた目のいい二人に尋ねる事にする横島。つられてピート達3人も後ろを振り向くと、

「ヒャ、ヒャ、ヒャクメ殿、い、い、今のを見たでござるか?」
「み、み、み、見たのね〜、ハッキリとは言えないけど見えたのよね〜〜……」
「あの、二人とも……? 貧ちゃん、今何があったの?」
「あ〜……スマン小鳩、ワイにも全く見えんかった……」
 何かを見たらしくゾッとした様子のシロとヒャクメ、そして全くワケが分からないといった感じの小鳩たちがいた。


『え、えーと……結局最後はどうだったのでしょう? あ、今スローモーションが出ます』
『見てもあまり意味は無いわよ枚方君? ビデオのスロー映像で見ても、頭で理解はできても肌で実感はできないわ』
 ビデオを回そうとした実況席の枚方を、隣の美智恵はそう言って止めた。
『あの、すると美神さんは今の攻防を見たんですか?』
『そりゃ、もちろんよ。第一線は退いたけど、GS美神美智恵を甘く見ちゃダメよ』
 感心したように自分を見る枚方にウインクを一つくれてやりながら、美智恵は出されていたお茶のペットボトルを軽くあおった。

(それにしても、大したものだわ。トータルな霊力なら令子や横島くんの方が上だけど、あの体さばき……)
 相手のダッシュに合わせるように自分も駆け出す、しかも迫り来る槍に向かって。それだけでも並の度胸ではないというのに、その先のカウンターの入れ方といったらGSのする事ではない。まず突き込まれる槍の穂先に軽く神通扇を当てて、ほんの少しだけ槍の向きをずらす。そして、ずれた槍筋とは反対方向に身をひねってギリギリのところで槍を避け、そのまま懐に飛び込んで神通扇で相手の顔面と土手っ腹に一撃ずつ叩き込む……口で言うのは簡単だが、その実0.1秒、いや、0.05秒でもタイミングが遅れれば槍で串刺し、逆に槍を早く、大きく逸らそうとすれば気づいた相手は槍を引くなり横になぎ払おうとするなりしてカウンターが成立しなくなる。単純に見えて、実はミリ単位でギリギリの見極めと正確な動きがなければ成立しない殺陣だったのだ。
(大阪にこんな逸材がいたなんてね〜……まだ18歳だから伸ばす余地もあると思うし。正直、チームメイト二人も込みでGメンに欲しいわ)
 あの性格なら西条クンが手を出す気にもならないでしょうし、などと彼女が口の中だけでゴニョゴニョ言っていたのには、枚方はまるで気づかない。

『さて美神さん、Bコートの第8試合の方ですが……』
『あ、忘れてた』
 そこそこのレベルでそこそこの攻防が行われているもう一つの試合の事を、美智恵はすっかり失念していた。


 そして大会は着々と進行し、初日の午後の部のさなか。

「……あれ?」
 トイレへ行くついでに飲み物を二、三買って戻ってきた小笠原エミは、自分の座っていた席の隣に先ほどまではいなかった観客が座ろうとしている姿を見かけた。帽子を目深にかぶってオーバーオールを着込んだ、いささか場違いな感じの人物。
「令子? こんなところで、そんな格好で何してるワケ?」
「い゛!?」
 振り向いたその人物は、ご丁寧に“宇宙刑事メットマン”のお面までかぶっていた。その異様さに、よく見ると周囲の観客達は一様に目をそらしまくっていた。
「ななな、何の事でございましょう!? ワタシ通りすがりの観客、チャン・メイシン(張 美神)アルよろし」
「……努力は認めるけど、せめて髪ぐらい隠した方がいいわよ」
「う゛……」
 帽子の下から伸びている見事な亜麻色の髪を、その謎の観客……言うまでもなく美神令子はワタワタと隠そうとした。その有様は滑稽を通り越してどこか気の毒に思えたので、エミは笑ったりするのをやめた。
「それにしても、見事に霊波を隠してるわね。ひょっとしてその服、霊波迷彩?」
「しょ、しょーがないでしょーが! 私がここに来てるって事は、みんなには内緒なんだから」
「確かに、ご丁寧に香水まで変えてあるわね。でも霊視や匂いでバレるのを警戒しすぎて、見た目で即変装って気付かれるワケ……良かったら、変装とか隠行とか手伝ってあげようか?(殺し屋時代の技術だけど)」
「……大きなお世話よ」
 少しふてくされたような表情で、美神はお面を外して帽子のツバを上に向けた。


「それで、横島クン達の試合は?」
 姿を見られないように少し奥の席に移動してから、美神はエミにやや不機嫌そうに尋ねた。
「ピート達なら、一回戦は順当勝ちだったワケ。シロ達も快勝、おキヌちゃん達はまだよ。1チームだけシードになるから、そこに中る可能性もあるワケだけど」
「ふ〜ん……それで、横島クンやおキヌちゃん達は?」
「ほら、あそこ」
 ニヤッと笑って、エミはフィールドの周辺に設けられた選手達の席を指で示す。示された彼女が見たのは――


「どうやった、私らの試合ぶり? 横っちも大したもんやけど、私らもなかなか捨てたもんやないやろ」
「私達かて簡単な除霊やったら部活でこなしとるし、トレーニングやサバゲーで腕も磨いとるんよ」
「サバゲーって……それでか、あのやたら射撃が上手いの!?」
 横島の両脇に勝手に陣取って四方山話を始めている素子に望。

「それにしても夏子さん、凄かったですね……さっきの試合」
「ん〜……まあ、けっこう危ない橋を渡ったって自覚はあるんやけどな」
 そして、これまた横島争奪戦は休戦して話し込んでいる夏子とおキヌの姿だった。


「……何、あの娘達?」
 コメカミの辺りを微妙にヒクつかせながら、美神はゆっくりとエミの方に向き直る。
「…………横島の昔の女だってさ」
 少し考えてから、エミはやや意地の悪い返事の仕方をした。
「はあ!? な、何ですってぇ!!??」
「令子、声が高い」
「…………」
 わめきかけてから自分がお忍びだという事を思いだし、彼女は慌てて口をふさいだ。


 ちなみに美神やエミが聞き逃した、この時の横島達の会話はこんな感じである。
「小学校の時、よくこんな風に並んで給食一緒に食べたりしたよね〜。横っち、覚えとる?」
「……あったな、そんな事。俺と銀ちゃんの周りにやたら女子がたかって来てたよな〜……何故か俺と銀ちゃんは四角く並べた机の向かい側に無理矢理分けさせられて、銀ちゃんの隣を何人かで取り合いしてたっけな」
「……で、横島の隣はどうやった?」
「…………確か片方が夏子で、逆隣はお前ら2人がよく座ってたな。正面から銀ちゃんの顔を見たいからやと、あの頃の俺は思っとったけど」
 でも今になって思い返してみれば、『あ、これ好きなんや。横っち、これと取り替えてくれる?』とか言って好物同士をトレードしたり、『何顔にソースべったりつけとんねん? 見苦しいったらないわ』とか文句を言いながら顔を指で拭いてくれたりした事もあったかな〜…………なんて思い起こす横島だったりする。ちなみに指で顔についたものを取った後、夏子達がそれをペロッと嘗めていたりしていた事までは、彼はさすがに思い出せなかった。


「……で、どーゆー事なのよ」
「あの連中、横島が大阪にいた頃のGF連中みたいよ。なんか、自分たちが横島やおキヌちゃん達に勝ったら、横島とヨリを戻させろとか何とか言ってたわね」
「……はあああ!?」
 単なる見物(応援じゃないのよ、別に! ――令子談)に来ただけの会場でそんな話をいきなり吹き込まれて、美神の思考回路は混線を起こしたらしい。急にワタワタと周りを見回すなど、彼女らしからぬ行動をしだした。
「あきらめの悪い連中の高望み……とは思わない方がいいワケ。ほら、横島の後ろをよ〜く見てみたら?」
「え?」
 もう一度エミに示されるままに美神は再度横島達の方を見る。そこには、


「ほうやったんか〜。愛子ちゃん、正式に学校の生徒になれたんやね、おめでとさん」
「あ、はい、ありがとうございます……真田さんには、5年前ご迷惑をおかけしまして……」
 今や一見して机妖怪には見えなくなった愛子が、誰やら外見上は年上の女性に妙にペコペコしている情景があった。


「……誰、あれ? やっぱり横島クンの知り合いって事?」
「どうも、そうらしいワケ。でも、おたくも全く知らない顔じゃないはずだけど」
 愛子の隣にいる妙におっとりした感じのする女性を、エミは半目気味な表情でコッソリ指さした。
「…………? 誰、アレ」
「……気がつかない? アレ、真田信之よ」
「あ、そうなの? どうりで何となく見た覚えがすると思ったわ……」
 そこまで言いかけて、美神令子はピシリと固まった。

「エミ……真田信之って、やっぱり“あの”真田信之……よね?」
「日本に真田信之が何人いるかは知らないけど、あそこにいるのは間違いなく真田信之なワケ……3年前のGS試験の時、私・おたく・それに冥子と並んでベスト4入りした、ね」
 愛子の隣でノホホンと会話しているように見えるその女性を、美神はもう一度まじまじと眺める。そして、まだ納得がいかない感じで軽く首をかしげた。
「ホンっト〜にあの真田信之? なんか、雰囲気がだいぶ変わったみたいだけど」
「私も最初のうちは気付かなかったワケだけど……開業したって話を聞かないと思ってたら、どうも霊能の教師にでもなっていたみたいね」
 多少引きつった表情の美神の隣で、エミはエミで苦虫を噛みつぶしたような表情をしていた。


 ――――話をさかのぼる事、3年前。横島忠夫が美神令子と出会う、もう少し前のことであ〜る。


 ガキィィン!!

「くっ!」「ちっ!」
 GS試験・準決勝第一試合。神通棍とサバイバルナイフがぶつかり合い、その反動で二人はパッと離れた。
「さすがに強い……! 今は亡き往年の最強GS・美神美智恵の忘れ形見というのも、ダテじゃないわね」

 ウマの合わない相手とはいえ、その実力を認めるぐらいの懐は小笠原エミにもあった。が、六道冥子と並んで今期GS試験の鳴り物入り優勝候補の、しかも2世GSという美神令子に対して、方や自分は公安付きのヒットマンの、正確に言えば崩れの身。両親を失ってから殺し屋稼業に就いていた頃までのドロをすするような毎日、15歳の時に足抜けをする決意を固めてからの艱難辛苦。そういった過去の経験の蓄積を、目の前のイケイケな同年輩の女の、おそらくは生まれもっての才能の前に否定されるのは自分のプライドがそうそう許さないのだ。
(それにしても、接近戦での霊圧が強すぎるワケ! あれじゃ、髪の毛一本かすめ取る前に叩き伏せられるのがオチだわ)
 ヒットマンと言っても自分は呪殺が専らだったから、本格的な格闘技を習ったわけではない。このサバイバルナイフにしても、当時から使っていたので呪いの道具として馴染んでいるだけの事。とにかく、彼女の髪の毛なり何なりを手に入れるか、あるいは直接触れる事で呪式をその身に刻み込むかしなければならない。
(となれば……隙を突いてアレを叩き込むしかない、か……!)

 これまで呪式と霊体撃滅波の二つを駆使して(もっとも、後者はよほど間の抜けた相手にしか仕掛けさせてもらえなかったが)勝ち上がってきたエミには、まだ裏芸が一つある。霊力を全方向に放出して霊の類を一網打尽にする霊体撃滅波とは真逆に、霊力を一点に叩きつけて敵を倒す、霊体貫通波だ。いくら彼女の霊力が強くても、至近距離でアレを食らえばただでは済まないはず。こちらも一撃食らうのは覚悟の上で、肉を切らせて骨を断つ……エミは油断なく、そのチャンスをうかがっていた。


「なかなかやるわね……ぽっと出のルーキーの動きじゃないわ。多分モグリのGS稼業なり何なりやってるわ、アレは」
 一方の美神令子。いくら気が合わないからといって、相手の全てを見下すほど襟度のない彼女ではない。出会って早々からピリピリした関係のままの小笠原エミの試合ぶりはキッチリ観察していたし、今でも分析は怠っていない。そして美神の見たところ、彼女は明らかにかなりの“場数”を踏んでいる。
(だとしたら、あの何かを企んでるような顔……多分普通の呪殺の他に、隠し技の一つや二つ持っていてもおかしくないわね……)
 だとしても、それは一体何なのだろう? 霊波砲か? 審判に見えないように暗器でも出す? 何かの召還かも? あるいは、さっきの霊体ナントカ波のパワーアップ版だろうか? 頭の中でいろいろと候補を挙げてみるが、結論が出るような自問自答にはなりそうにない。
(……ま、いいか。どーせそう簡単には使えないような技なんでしょうから、技を出させる前に問答無用でしばき倒した方が早いし安全だわ)
 と、自分の能力に自信があるゆえの結論をとっとと下した美神。そして彼女も、目の前の女が仕掛けてくるのを待ち構える事にした。


 ――さて。一方その頃、隣のコートでは準決勝第二試合が行われていた。

「きゃああ〜〜〜! アンチラちゃん、サンチラちゃん、ハイラちゃん、やっつけちゃって〜〜〜!」
 対戦者の一人・六道冥子の悲鳴混じりの号令に答えて、ウサギの式神アンチラ、ヘビの式神サンチラ、ヒツジの式神ハイラが一斉に攻撃を仕掛ける。一度に3鬼がかりだが、GS試験のルールでは式神の数には一切の制約がない。複数の式神を同時に使役する式神使いなど極めて希少な存在なのでむしろ積極的に許容しているのだが、六道家のように一人につき12鬼なんてのは世界広しといえどここぐらいのものだろう。当然、これだけの数を前にまともに戦えた受験生などここまではいなかったのだが、
「はいっ! ほいっ! せ――――いっ!!」
 ベスト4まで勝ち上がってきたところで、ついにこの十二神将と正面から渡り合える者が現れたのである。現在では大阪の某大学教育学部の学生ながら、元をたどれば市立天王寺霊能部で主将を務めた事もある今回試験のダークホース・真田信之その人である。手にしている武器は一本の柄から両側に刀身が伸びる、カスタム品と思われる神通棍だけなのだが、その一本でアンチラの耳の刃をはね除け、サンチラの電撃を避雷針代わりにして地面に逃し、さらにバトンよろしく回転させる事でハイラの放った毛針を叩き落としていた。
「え〜〜〜っ!? そそそ、そんな〜〜〜!?」
「頑張りは認めるけど、式神ゆうんは大勢集めればええってものやないんやで?」
 攻撃が通じないどころか、突撃を受け流された挙げ句勢い余って式神同士が衝突までしてしまう有様である。すでに信之の後ろでは炎を跳ね返されたリュウの式神アジラが半分石化して地面に転がり、それをイヌの式神ショウトラが大慌てでヒーリングしている。

「こ、来ないで〜〜〜! ビカラちゃん、シンダラちゃん〜〜〜!!」
「ほやから、式神におんぶに抱っこでこの先どないするっちゅーねん!」
 冥子の足元、照明に照らされた影からイノシシの式神ビカラ、トリの式神シンダラの2鬼がさらに飛び出す。しかし、信之の反応はそれよりさらに速かった。突進しようとするビカラの頭を踏んづけて大きくジャンプし、さらに飛び上がったシンダラを蹴飛ばして空中で方向転換!
「え???」
「はい、取ったりや」
 そして、冥子の背後にピッタリと着地した。すかさず、冥子の首筋にピタリと神通棍を押し当てる信之。
「ひええ〜〜〜! バ、バサ……」
「それがあかん、ちゅーとるんよ?」
 式神が出てくるより早く、信之が冥子の影を踏みつけた。出てこようとしたウシの式神バサラが、影の中でジタバタともがいている。
「あああ〜〜〜! 冥子〜〜〜、何をしているの〜〜〜! 外にいる式神をしっかり操らないと〜〜〜!」
 コートの外で彼女の母親らしき和服の女性が叫んでいるが、テンパった冥子にそんな言葉は届かない。

「さ〜て、ほなら今からあんさんを場外に放り出すさかい、ジタバタしたらあかんよ〜? もし式神使うて抵抗なんて考えよったら…………色んなところに色んなモン突っ込んで、髪の毛からつま先までまんべんなくガタガタ言わせたるでなぁ?」
 言葉の上だけではまろやかに、しかしイントネーションだけで聞くとかなりドスの効いた威圧の言葉を冥子の耳元でささやく信之。大阪方面の言葉というものは、脅しに使おうとするとかなり怖い印象を相手に与える事ができるものだ。まして、今の信之のように表面上だけは猫なで声で言われたりすれば、気の弱い人は震え上がって自ら場外に出てしまいかねない……


「ふ……ふぇぇ……」
「は?」
 …………しかし、真田信之にも致命的なミスがあった。彼女が脅している対戦相手の女性は、並大抵な精神力の弱さではなかったのである。

「うわああああああああああああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!」
「な、何やあああああぁぁぁぁ!!??」
 いきなり火のついたように泣き出すという展開は、信之の想像の斜め上を行っていた。が、それと同時に残りの式神が影から一斉に飛び出し、周りにいた式神達も一気に殺到してきたのだから、彼女はさすがに狼狽しかけてしまった。そうなると、とっさの判断で冥子の首筋をブッ叩いて気絶させる暇も得られず……

「うええええええええ〜〜〜〜〜〜ん!!!」
「きゃああああああああっ!?」
 あまりに予想外の事態の前に、真田信之――敗北。とりあえず彼女は観客席あたりまでポーンとすっ飛ばされ、たまたまその場に固まっていた市天の先輩後輩・同輩達にキャッチされる事で大事に至らずに済んだ。


「ふえええええ〜〜〜〜ん!!」
 試合には勝ったのだが、冥子のガン泣きは収まる様子を見せない。当然、式神達の暴走も沈静化する様子を見せなかった。そんな彼らが次に反応したのが、冥子の近くでこれまた戦意をスパークさせる一組の霊能力者達だった。

「あの子ったら、いつまで泣いてんのよ……」
 エミとにらみ合う美神の耳にも、彼女の泣きわめく声は当然入ってきていた。式神達をゾロゾロ連れて会場に来ている時点から子供っぽい性格だとは思っていたけど、まさかここまでとは……と内心でため息をつこうとした時、美神の霊感が急にけたたましく警報を立てた。早い話が、背筋に寒気が走った。
「ヤバいっ!!」
 こういう時の彼女の判断は速い。エミに一撃もらうのは覚悟の上で、霊圧を抑え込んでリングの隅っこまでバックステップで飛び下がった。
「チャンス!! ここで勝負を決めてあげるワケ……えっ!?」
 令子に隙ができたと見たエミ、それを逃すものかと追撃に移ろうとする。ところが、


 ドドドドドドドドドドド!!!


「な、な、な、なああああああっ!!??」
 そういう戦意に過敏に反応したらしい十二神将が、真っ先にエミを排除すべく殺到してきたのである。美神に集中しすぎていたエミは、この突発的な事態に対応する事ができなかった。


 ――数分後。まだグジグジ泣いている冥子の周りで、十二神将は会場の各所で彼らを取り抑えようとする現職のGS達と激しい攻防戦を繰り広げていた。そして試合会場の中央近くにはボロ雑巾同様になった小笠原エミが倒れたまま時折ピクピクとケイレンする姿があり、そして、
「…………た、助かった……い、一応これって、私の勝ちよね……」
 霊波を消して身を守る事に専念していたために、辛うじて破壊の大波を避ける事のできた美神令子が呆然と立っていた。


 かくして、決勝進出は美神令子と六道冥子の二人となった。そして、式神を暴走させて霊力を使い果たした冥子は、大した抵抗もできないまま美神に場外に放り出され、あっさりと美神が首席GSの座に就いた。なおこの際、エミが『そんなのアリなワケ〜〜!!??』と不平を鳴らし、『咄嗟のアクシデントに対応できないあんたが間抜けなだけよ!!』と主張する美神と火花を散らしまくっていた。


 そして、美神令子・小笠原エミ・六道冥子の腐れ縁はここから生まれ、一方で三人が真田信之のその後を知る機会は無かったのであ〜る――――


「冥子は気付いてないのかしら? 自分のすぐそばに、3年前に痛い目に遭わされた相手がいるって事に」
「3年前に比べると、真田のヤツからギラギラしたモノがすっきり抜け落ちてるみたいだから、言われない限り雰囲気で別人だと思えるんじゃない? ま、冥子のプッツンを至近距離で食らえば大概の人間は性格に影響が出ると思うワケ」
 それはそうかも知れない……と美神は考えながら横島達の方をもう一度のぞき込んで、そして額をヒクリと震わせた。


「それにしたかて、おタダってばこんなにも立派になってもて〜、あ〜〜んウチほんまに嬉しいわ〜」
「いや、頼むから昔みたいに子供扱いしないでくれって信之姉! 俺かてもう18なんやから……って、頬ずりはあかんて! ああっ、おキヌちゃんの前で煩悩を刺激しないで〜〜!」


「ふ、ふ、ふ〜ん……横島クンって、あの真田信之とそーゆー仲だったのね〜……」
「落ち着きなさいって、令子! あの二人は、おたくが横島と出会う前からの知り合いなワケなんだから!」
 何やら穏やかでない表情で立ち上がろうとする令子の手を引いて、エミは彼女を無理矢理座らせた。
「そんな事より問題は、あの横島の昔の知り合い連中が真田の教え子だって事でしょうが」
 横島・おキヌ・夏子・信之らの一団をアゴでしゃくりながら、エミは美神をなだめるように言う。
「おたくんとこの従業員にウチのとこのスタッフ、冥子の妹弟子達に、真田の教え子達……で、おたくはどうする?」
「どうするって、何をよ?」
「だからさ、横島やおキヌちゃんが勝って自分の面目が立つ方を選ぶか、真田みたいな昔の知り合い連中が割り込んできて、横島の周りが混戦模様になる方がいいかって事」
 もちろんエミとて横島とおキヌがそういう仲だという事は当然知っているし、美神が横島に対して未練を捨て切れていない事も薄々感づいている。だからこそ、敢えて底意地の悪い訊き方をしてみた。
「あの状況をチャンスと思うかは、おたく次第。もっとも、私達にできる事と言ったら試合中の連中に声援かヤジを飛ばすだけだけど」
「…………」
 帽子をもう一度目深にかぶり直しながら、美神は浮かせかけた腰をもう一度席に落とす。
「……まずは、試合をゆっくり観戦といくわ」
「それがいいわね。コーヒーでもどう?」
 まとめて買っておいた缶コーヒーのうち一本を、エミは隣の美神に手渡した。


 かくしている間に試合は着々と進み、すでに14の試合が決着した。大会に参加している31チームのうち、未だ出番がないのは3チーム。最後の1チームだけが、一回戦をシードされる。


『一回戦第15試合、石川県・金沢乾丘高校Aチーム 対 東京都・六道女学院Aチーム! Aコートへ集合して下さい』


「お、やっと出番だぜ。よ〜し、行くか!」
「全く……どうせなら、最初や最後は勘弁して欲しかったのですけど」
「おキヌちゃ〜ん、魔理ちゃんにかおりちゃんも行くわよ〜」
 最後の最後で名前を呼ばれたところで、待ちかねたような表情で一文字魔理が、少しイラついた様子で弓かおりが、続いて最近ほんの少しだけ凛としたところが出てきたような気もする六道冥子が立ち上がった。

「それじゃ横島さん、行ってきます!」
「あ、ああ……おキヌちゃん、ケガには気をつけて」
 そして、気負いがあるのか無いのか即断しづらい調子で、おキヌも自分の席からスックと立ち上がり、軽く横島に向かって手を振った。そして、前をゆく3人の後ろに続いて横島達の前を通り過ぎてゆく。

「……弓さん!」
 二番目をゆく弓が、一つの声に呼び止められた。彼女が声の方向を向くと、そこには何を言おうか迷っているように見える、そしてそれでも真摯な視線を送ってくる愛子の姿があった。

「…………」
 少しだけ歩調をゆるめながら、無言で、それでも力強い微笑みを浮かべながら、弓はうなずきを返して歩いていった。


「弓さんの事、やっぱり心配ですか?」
 彼女達を見送る愛子に、ピートがふと尋ねた。二ヶ月前の対抗試合で愛子と弓の間には遺恨が生じかけた事を、やはり意識せずにはいられないのだろうか。
「ん……まあね。私がやらかした事が原因だもの、あまり引きずってほしくはないわね」
「愛子さんは、弓さんの事を別に咎めなかったんでしょう? なのに、引きずってしまうんですか?」
「ああいう自分に厳しすぎるタイプってね、罰された事より許された事の方を重く背負い込んでしまうものなのよ。でもまあ、あの様子だと大丈夫そうで安心したわ」
 自分の事も顧みながら、愛子は少しだけ安堵した。

 罪がうやむやになったのなら、ホッとするだろう。だが、罪が明らかになっていて、それでも罰されずに許されたとしたら、時として人はなまじな罰を受けるよりも己の所行を悔いる事にはならないだろうか。思えば自分とて、多くの学校でたくさんの学生達を飲み込み、ニセモノの学校を演じ続けてきたのだ。だが彼らも、横島も、そして学校の先生達も自分の事を許してくれた。だからこそ自分は己の過ちを悔い、贖罪のためにせめて模範的な学生になろうとしてきたのではないか? 
 そして、弓かおりという女性もまた、許されたが故に自罰的になりはしなかっただろうか? かつて2000年前に、自分たちが救世主と呼んだ人の命を奪うきっかけとなった男を、自死を選ぶほど後悔させたのは同僚達の憎しみの目でも律法者達の蔑むような表情でも、手に入れた30枚の銀貨でもなく、自らが売った人が沈痛に告げた『あなたがやろうとしている事をするといい』という言葉が頭の中で響き続けたからではなかっただろうか?

「……考え過ぎかしら? でも、一つの過ちは一つの正しい事で償う、それくらいに割り切っておいた方がいいのよ? 弓さん」
 愛子としては、たった一つの短慮で青春や人生を損なって欲しくはない。ああいう事があったからこそ、余計に心からそう思えるのだ。


「さて、どうします?」
 試合開始の礼が済んだところで改めて弓がチームメイト二人に尋ねたのは、法円の反対側・金沢乾丘側の動きに理由がある。向こうのチームは揃いのユニフォームを着込んだ男2人女1人なのだが、あちらは3人とも法円内に入って待ち構えているからだ。
「でもね〜、3対3だと連携が上手にとれないと危ないかも知れないわよ〜」
 試合の根幹となる条件として、“リングインしている選手は敵味方同数である事、異なる場合は多い方が外へ出る”というものがある。そして、法円内に同数の選手が入ったところで試合は始まるのだ。
「3対3の総掛かりか〜、実は試合形式ではやった事無いんだよな、あたしら」
 そうグチを言いながら、一文字は一瞬だけだがチラリと視線を横に向けた――三人の中では格闘技の成績が僅かながら落ちる、巫女服の少女の方を。
「私なら大丈夫ですよ? これでもちゃんと、横島さんやシロちゃんとトレーニングしてるんですから」
「あ、そ」
 一文字は“どんな?”と訊こうかと思ったが、何となくセクハラっぽくなりそうなのでやめた。
「それじゃ、誘いに乗ってみましょうか。氷室さんを孤立させないように、ちゃんと陣形は整えてかかりますわよ」
「うん、それでいいと思うわ〜。でもねおキヌちゃん〜」
 法円に入ろうとする三人のうち、おキヌを冥子が呼び止める。
「幽体離脱とネクロマンサーの笛のうち〜、どちらかは使わないで勝つように頑張ってね〜」
「あ、はい。頑張ってやってみます!」
 そううなずいてから、おキヌは頬の辺りをポリポリと指で掻いた。
「そっか、あんまり手の内を見せない方がいいんだっけ……横島さんも夏子さんもよく知ってるから、全然気にとめてなかったけど」
 横島達は言うまでもないが、夏子も妙神山で3日間一緒に修行した仲である。少なくとも、彼ら二校のメンバーには自分の手の内は知られているという事になる……しかし、その他のチームに対してあまり何もかも見せびらかすわけにはいかないのだと、彼女は気付いた。
(こういうところがまだまだなんだなあ、私……うん! ちゃんといろんなところから取り入れないと)
 自分の今の状況にただ満足しているだけでは、そうそういつまでも横島の隣にはいられない。GS同士としても男女の仲としても、まだまだ努力が必要なのだとおキヌは改めて感じた。


「さ、最後はおキヌちゃんの試合や。どこで当たるか分からんから、ちゃんと見とかんとあかんで」
 自分たちのチームのベンチに戻った夏子達も、彼女達の試合を観察するのに専念する事にしていた。
「ほやね。横っちが見初めた子の実力、とっくりと見してもらおっか」
「カノジョとしてはなかなかええ子やと思うけど、GSとしてはどないなモンやろな? 両方で横島を独占しようなんて、なかなか大胆な事やで」
「望ちゃんも素子ちゃんも、ヤジはほどほどにせなあかんよ?」
 ヤジと言うほどの事ではないが、それでも信之が軽くたしなめた。


「パッと見て、気になるのはあの包みですね」
 金沢乾丘サイドをもう一度観察しながらおキヌが指摘したのは、法円のラインギリギリのところに置かれた、二つの風呂敷包みのようなものである。対峙する選手三人の方は、手にそれぞれ霊木を切り出したと思われる木刀がそれぞれ一本ずつ。
「アレがあっちの切り札というか、奥の手というか、秘密兵器って奴だよな? あ、それともとっておきとか?」
「どれも似たようなものでしょうが! 行きますよ!」
 言葉を交わしている間にゴングが鳴ったので、三人はそれぞれ身構えた。弓は愛用の薙刀、一文字は木刀の二刀流、そしておキヌは両手に破魔札を一枚ずつ用意している。

「「「やああぁぁ――っ!!」」」
 対する金沢乾丘の三人は、横一列に密集して突っ込んできた。と同時に、木刀を一斉に突きだして槍ぶすまならぬ刀ぶすまを作ってきた。左の弓と右の一文字には男子がそれぞれ、そして中央のおキヌには女子が!
「ハっ!」弓は薙刀を斜めに構えて木刀を受け流し、
「おっとぉ!」一文字は自らの木刀で突きを叩き落とし、
「わわっ」おキヌは半歩だけ後ずさりしながら破魔札でその一撃を受け止めた。

「今だ!」
「おう!」
「「「たああ――っ!」」」」
 だが最初の一撃が外されるところまでは、どうやら向こうも織り込み済みだったらしい。この三人のうち両脇の二人は、方向を微妙にずらしてさらに攻撃を繰り出してきた。
「えっ!?」
「まずい!」
 この三人は、態勢を整え直してから少し左右に散開した六女側の中央に踏み込んできた――中央、つまり六女の三人中唯一接近戦向きに見えない巫女服の少女めがけて。

「おキヌちゃん、前に〜!!」
「は、はい! えいっ!!」
 とは言え、コーチャーも合わせて敵味方8名のうち一件おっとりした感じの、悪く言えばトロそうなおキヌと冥子は、実はこの中で最も実戦経験が豊富な二人である。冥子のアドバイスもおキヌのそれに応じたリアクションも、正確かつ素早かった。

 がしっ! 「うっ!?」

 こういう時に下手に逃げようとすると、弓や一文字からますます孤立して窮する事になる。となれば前進あるのみとばかりに、おキヌは真っ正面の相手にショルダータックルを食らわせた。その一撃はかつて交通標識の傍らで横島を突き転ばした時のような綺麗なカウンターとなり、木刀を振り下ろそうとしていた女生徒は逆にはじき飛ばされた。
「おキヌちゃん、ナイス!」
「貴方がたのお相手は、私たち3人ですわよっ!」
 この二人が肉薄した事で、乾丘の両翼二人も木刀の振り下ろし先を迷ってしまう。その隙に、一文字と弓がその二人に追いついて反撃を加えていた。今度は陣形が一転して、おキヌ・弓・一文字の3人で相手の3人を半円形に包囲する形になった。

「おらおらおら、うおっしゃぁ――!!」
「くっ! ぬっ! ちっ! ぐっ!?」
 一方では一文字が二刀流の利を生かした連続攻撃で反撃の暇を与えなければ、

「せいっ! ていっ! とぉ―――っ!」
「ぐぐぐぅっ!?」
 反対側でも弓の振るう薙刀の太刀筋は、リーチの長さのメリットを活用させて一方的に攻め続けさせている。

「ぐぬぬぬぬ……は、離れなさいよ……!」
「ううううう……そうは、させません……!」
 そして中央はと言えば、体当たりの後すかさず足を払われて転ばされた乾丘の女子にすかさず破魔札を叩きつけようとしたおキヌと、その手首を掴んでギリギリのところで持ちこたえた相手側の間で力比べが繰り広げられていた。


「無理するな! いったん下がれ!」
 金沢乾丘のコーチャーズボックスから、同じユニフォーム姿のコーチャーがたまりかねたように指示が飛んだ。
「く! りょ、了解……!」
「分かった! おい、大丈夫か……あだ!?」
「あ、ありがと……」
 その指示を受け、乾丘の3人のうち男子二人は防戦をあきらめ、それぞれ目の前の相手に一撃食らうのも構わずに、取っ組み合い中の女子を引っ張り上げた。そして、そのまま早足で自陣まで後退してゆく。

「来るな、ありゃ」
「な、何が出てくるんでしょうか?」
「あの包みのサイズ、それに金沢という土地柄からして……冥子さん!」
 敢えて追撃せずに相手の次の手を待ち構える事にした三人のうち、弓が冥子の方を振り返る。
「私は決め技を使わせてもらいます! よろしいですわね!?」
「は〜い、いいわよ〜」
「ありがとうございます! それでは、弓式除霊術奥義・水晶観音!!」
 冥子の了承を取り付けてから、弓は首に下げた宝珠を手に取って霊力を集中する。すると宝珠は光を放ち、コンマ数秒で彼女の身体を覆うプロテクターと化した。
「おい、一回戦からそれを使うのかよ?」
「いいのよ! 他流派に似たような術が伝わってる可能性は高いんですから……来るわ!」


「行けっ、ゴルゴ!!」「クァァァッ!!」
 男子選手の一人の号令に応えるように、包みの片方の中から鈍い金色の何かが飛び上がった。
「やれ、白雷(びゃくらい)!!」「ガアァァ――ッ!!」
 続いて、もう一人の男子の声に答えて、もう片方の包みを破って白い何かが地を這うように六女の三人に迫ってきた。

「クァァ! クァァァ!!」「くっ!?」
「ガァァァ!!」「何っ!?」
 そして金色の存在は上空から急降下して弓を、白い存在は地面すれすれから急上昇して一文字をその爪牙に掛けようと襲いかかってきた。
「な、何だこりゃ!? 使い魔……いや、式神か?」
「ち、違います! と、鳥……!? でもただの鳥じゃない!」
 直接襲われなかったおキヌが見たのは、二羽の鳥だった。金褐色の羽をした大柄な鳥、そして白い羽根の小柄な鳥である。
「わ、鷲と……ライチョウ? それも、霊鳥です!」
「鷲は鷲でもイヌワシよ! 多分、白山と立山で見つけてきたんだわ……!」
 おキヌの説明に、弓が補足説明を入れる。ちなみに、白山と立山は富士山と並んで日本三霊山に数えられる。山岳信仰の対象として霊格の高い事で名高いこれらの山では、時折霊力を生まれつき備えた霊獣や霊鳥が生まれる下地がある。霊能の訓練中にたまたま見つけたのか、それとも探す目的で調査を行ったのかは不明だが、結果として霊鳥を連れ帰って訓練を施しておいたのだろう。
 ちなみに弓は霊鳥として時たま現れる鳥としてイヌワシとライチョウを実家で教わったのでハッキリ名前を挙げたのだが、おキヌの方は子供時代に普通のイヌワシとライチョウの実物を見た事がある事による知識の賜物である。

「驚いてばっかりじゃダメよ〜! まだ来るわよ〜!」
「「「え!?」」」
 冥子の少し早口気味なアドバイスに、再び三人が乾丘サイドを見ると、ただ一人霊鳥を連れていなかった女子選手が何やら白い紙をハサミで切り抜いていた。そして、切り抜いて作った紙人形のようなものを4枚、霊力をこめて地面に投げ出す。

「よし、GO!!」「「「「キエ――――!!」」」」
 そしてその紙は淡い光と共に、本物の人間のような姿に変化した。
「し、式神ケント紙かよ!? そんなのアリか!?」
「式神だって立派な霊能だわ! 霊獣と式神を使役して戦うスタイルのチームだったのね!?」
 気がつけば、3対3のはずの試合は、おキヌ達3人が相手方の3人と4鬼、それに2羽に半包囲される布陣になってしまっていた。今にも総攻撃が始まりそうな雰囲気に、ジリジリとロープ際へと後ずさらされるバッド・ガールズ達。


「うわ、エゲツなっ!! 要するに、数でフクロにしようって戦法やん!?」
「う゛〜ん、確かに相手より数で優位に立つのは戦術の基本やねんけど……」
 一回戦最終戦に来て初めて出てきた霊獣使いチームを目の当たりにして、素子が多少毒のある物言いを、隣の望はフォローしながらも驚きを隠せないでいた……のだが、
「あれ、夏子ちゃん? あんまり驚いてへんね?」
「……ま、百聞一見や。こっからが見ものやからな」
 夏子だけは帽子で顔を扇ぎながら、何て事はないといった風情だった。


「弓さん、一文字さん! 少しの間、時間を稼いでください!」
「OK!」
「お願い氷室さん! ここは任せて!」
 おキヌが法円の結界際ギリギリのところまで後退し、弓と一文字が彼女をガードするようなポジションに着いて身構える。
「逃がすかよ! 行けっ!!」
「クァクァクァァ!!」
「ガガアァァ!!」
「「「「キィエエ!」」」」

 リング外へチームメイトを逃がす気かと考えた金沢乾丘チーム、霊鳥や式神達に攻撃の命令を下す。それに合わせるように、イヌワシのゴルゴは上空から、ライチョウの白雷が地面から飛び上がるように、そして4鬼のインスタント式神が正面から襲いかかってくる。

「ちっ! こりゃちょっとばかし、数が多すぎるぜ……ぐっ!?」
 式神2鬼の攻撃に木刀で応戦しながら、一文字が毒づく。その直後、上からの爪の一撃が彼女の額をかすめ、一文字の眉間に一筋の血が伝った。
「あまり式神のレベルが高くないのが救いだけど……つっ!」
 残り2鬼の式神の攻撃を水晶観音の鎧に当たるに任せ、白いライチョウと男子生徒の横からの木刀の攻撃に応戦する弓。しかし霊能の実習よりはレベルの高い式神なのだろう、鎧越しながらも彼女の身体を痛みが走る。
「でも、間に合ったわ……この勝負、いけるはず……!」

 せいぜい10秒足らずの攻防だったが、その間に六女側の切り札は切られていた。すでにおキヌの手には一本の横笛が握られていて、彼女は小さく息を吸い込んでから桜色の唇を笛に当てる。


「行きます! “魔女と踊る円舞曲”(ワルツ・ウィズ・ザ・ウィッチ)……!」

 ピュ――ピッピィ、ピュリリィィ――、ピュ――ピッピィ、ピュリリィィ――♪


 おキヌが笛の音を奏で始めると同時に、音色の形をした霊波が流れ始める。そして二小節ほど演奏が進んだあたりで、試合の流れが急に変わった。
「「「「キ……キエエエ……!?」」」」
「えっ!?」
 急に式神達の動きが止まったので、使役していた乾丘の女子が目を驚きで見開く。続けて、霊鳥二羽も攻撃をやめて上空をウロウロし始めた。


 ピュリリィィ――、ピュリリィィ――、ピュ――――リィリュリ、リュリリィ――♪


 ――あなた達はそれでいいの? 山から連れてこられて、戦わされて、辛くはない?――

((…………………))

 ――そう、分かったわ。なら私は、友達と戦いなさいなんて言わない。
    でも、ほんの少しだけ、何も考えないで休んでいてね――

((…………………!?))


 ピュ――リィピュリリィ――、ピュ――リィピュリリィ――♪


 曲が一巡する頃には、使役していた全ての存在が逆にネクロマンサーの笛の影響下に入ってしまっていた。
「「「「キエ――!!」」」」
「「……」」

「な、何だってぇ!!??」
「そ、そんな!?」

 まず、ケント紙の式神が急に方向を変え、術者のはずの乾丘チームに対して向き直る。続いて主戦力の霊鳥二羽が、力無く地面にドサリと着陸して動きを止めてしまった。
「よっしゃ、チャンス到来!!」
「このチャンス、逃すものですか!!」
 すかさず、弓と一文字が前に出る。と同時に、式神達も本来の主達に殺到した。

「だぁぁらぁぁぁ!!」「ぐわっ!?」

「たああああっ!!」「きゃああっ!?」

「「「「キエェ――――!!」」」」「だああああっ!?」


 恐らく金沢乾丘チームの3人は、接近戦は二次的な技能に近かったらしい。6対3という数の差の前に、反撃もままならずに一方的に攻撃を食らってしまっている。
「く、くそおぉぉっ!!」
 その中の男子一人が、辛うじてその袋叩きの現場を脱出した。そして、木刀を取り落としたのにも構わず六女側のリングサイドめがけて脇目もふらずに走り出す。
「しまった! おキヌちゃん!?」
「あの笛さえ止めれば……!!」
 狙いはただ一つ、後ろで式神と霊鳥のコントロールを奪ってしまったおキヌの笛を止める事。後の二人が完全に沈黙する前に彼女を無力化すれば、もう一度形勢はひっくり返せる。
「うお〜〜〜っ!!」
「…………!」
 笛を吹きながらも、驚きで目を見張るおキヌ。その眼前で、相手の男は彼女を組み伏せるべく飛びかかり……


 パァ―ン!!

 次の瞬間まるで高らかにビンタした時のような音が響き、なぜか横島は軽く首をすくめた。


「…………」
 そこには燃え尽きた破魔札を持ったまま右手を振り抜いた格好のおキヌと、まるでビンタを食らった後のように顔をゆがませて横を向いた相手選手……いや、実際におキヌが破魔札を咄嗟に手にして彼の頬を思いっきり張ったらしい。
「……っ!?」
 そしておキヌの目の前で、彼はそのままバッタリと倒れ伏した。ちょうどその頃には、乾丘の残り二人も弓と一文字・そしてすでに役目を終えて紙に戻った式神達に叩き伏せられて伸びている。

 カンカンカンカンカン!!

 そして、ビンタの余韻が消えたところで、それを待ちかねたかのように試合終了のゴングが鳴ったのだった。


「ホラな? 生半可な式神術や精神力の十分でない霊獣を連れてきても、ああなるっちゅう事や」
「ネクロマンサーなんやね、おキヌちゃんって。ウチもこの目で見るのは初めてやよ」
 開業こそしていないもののGSとしての知識や人脈はなかなかなものの信之も、目を丸くしていた。

「それにしても、優しいといえば優しいし、甘いといえば甘いんとちゃうかな」
「甘い?」
「多分、おキヌちゃんならあの霊鳥たちもコントロールできたと思うんやけどな。主人なり友達なりとド突き合いさせたないとか思うて、眠らせただけ……ってとこやな」
「……確かに甘いって言えば甘いかな。完全に制御してもた方が、安全に勝てるやろうに」
「ま、そういう甘さと優しさがおキヌちゃんらしいって言えばらしいし、その辺が横っちをホレ込ました所以、かもな」
 チームメイト二人にそう言ってから、夏子は引き上げてゆく敗者達をチラッと見る。彼らの中である種最も悄然としているように見える白と金色の霊鳥を、選手達が労りながらベンチに戻ってゆく様がそこにはあった。


「あ〜〜、ハラハラした……人の試合を横で見てるだけって、やっぱり緊張するなー……」
 ゴングが鳴ったところで、緊張気味にコートを見ていた横島は力が抜けたかのように椅子の上でグニャリと背筋を崩した。
「そうねえ……って、横島くん! こんなところでタレてないで立って!」
 隣でメモを取っていた愛子が何かに気付いたように、横島の丸まった背中をバシンと引っぱたいた。
「あだ! な、何だよ!?」
「ホラ、こういう時はちゃんと出迎えるのが男の子の筋ってもんでしょ? さっさと立ち上がる」
 思わず背筋を伸ばしてしまった横島の脇の下に手を突っ込んで、無理矢理に立たせようとする愛子。このあたり、戸籍の上だけとはいえお姉さん風を吹かせているように見えなくもない。

「ったく……あ、え〜と」
 それでも立ち上がった横島の目の前には、試合を終えて引き上げてくる六女チーム4人の姿があった。その先頭のおキヌと、必然的に目が合う。
「え〜と……お、お疲れ様、おキヌちゃん……ケガとか、大丈夫?」
「はい! おかげさまで、この通りピンピンしてます」
 ニコッと笑いながら、両手を頭のところまで上げて手のひらを横島の方に向けるおキヌ。少し考えてから、横島も同じように両手を上げてハイタッチのように手のひら同士を合わせた。
「明日もこの調子で頑張りましょうね、横島さん」
「あ、うん……そうだね」
 少し離れたところから飛んでくる何本かのジトッとした視線を感じつつ、横島はややぎこちなく笑った。


「まあとにかく、今日のところは全員勝ち上がったワケね。あの連中がどこまで勝ち進むか、二人の上司としてもけっこう気になるところだけど」
 初日の全試合が終了して、引き上げにかかっている観客達。その後ろの方で、エミもそれに倣うように立ち上がった。こっそりピートまで従業員扱いしているのは、まあご愛敬だろう。
「ほら令子、横島達や隊長さん達に気付かれないうちに出て行くわよ? そこで睨んでいたって大人気ないだけなワケ」
「……そ、そうね」
 何やらストロベってる横島とおキヌの様子をジト目で見ていた美神も、その言葉を受けて渋々立ち上がった。
「ったく、あんたこそ直接関係ないのをいい事に大人の女ぶっちゃってさ。ピートにアンちゃんがベタベタしてて、そっちこそ面白くないんじゃないの?」
「そこはそれ、私もアプローチはちゃんと欠かさないから大丈夫。とりあえず、私のホテルにでも来る? 宿の手配とか、出かける前にしてないんでしょ」
「あんたと同じ部屋ってのは勘弁よ、当たり前の事だけど」
 そう文句を言い、控え室に引き上げてゆく横島達に最後の一瞥を加えてから、美神もエミと一緒に競技場の外へ出て行く事にした。


「フフフ……間違いない、アレは横島だ……」
 横島に向けられたいくつかの視線の中に、ひときわ険しい眼光のものがある事を誰も気付かなかった。
「今はそうやって、女達にチヤホヤされて有頂天になってろ。てめえが俺と当たった時こそ、思い知らせてやるぜ……」
 その低い低い呟きは、誰にも聞こえる事はなかったのである。


  〜〜To Be Continued〜〜


 ―――次回予告―――


「何となく気になって様子を見てみたら、横島クンを巡って何か起こってるじゃない!? しかもレベルは高いし私の知ってる顔まで出てくるし、一体どーゆー大会なのよこれって!?
 それに何やら横島クンをつけ狙う影まで出てくるみたいだし、予断を許さない展開! あ〜〜もうっ、私は一体誰の味方をしておけばいいのよっ!?


 次回、“『霊能の炎は燃えているか!?』2回戦 因縁の対決!!”!!

 ちゃんと続きを書かないと、極楽に行かせてやるわよっ!!」
(By美神)


 改めてあとがき


 というわけで、こちらが第2話の後半部分です。横島、夏子、それにおキヌちゃんの緒戦は、こんな感じでした。

 なお今のうちに説明しておきますが、一回戦の各チームの対戦相手については意図的に名前を省略させていただいております。一回戦の時点で対戦相手を4チームも考えなければならなかったので、名前まで頭が回らなかったと言いますか、留学生系の選手の名前に今ひとつ自信が持てなかったとも言いますか(汗)次の二回戦からはボツボツ名前をつけていきたいとは思っています。
 ちなみに夏子のチームメイト達は、夏子の名字ともども大阪がらみの歴史上または講談中の人物から名前をもじったりアナグラムしたりしています。

 第3話の脱稿までにどれだけかかるかは不透明ですが、いりあす個人として目の黒いうちは続きを書き続けたいと思っていますので、一つどうかよろしくお願いします。


 最後に、前半部分のレス返しをば。


>HEY2様

>いやいやどう見ても絶対気付かないからコレ

 その辺の意識のズレが、今回の悲喜劇どちらともつかない対決の原点になってしまっているとお考え下さいw

>特に2が難解でした、『君は』からなんですね

 正解です(笑)


>月夜様

 告白云々については、夏子達の側でハッキリ伝えなかった事に対する後悔と、横島の方で全然気付く素振りすらなかった事に対する苛立ちの両方がない交ぜになっていると考えた方がいいかも知れませんね。残念ながら子供時代の横島くんは、ファンは多くても隠れファンばっかりだったのですww

 なお戦闘描写については、クドすぎるんじゃないかとビクビクしている今日この頃です(汗)

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