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「今そこにある偶然(その1の3)(GS)」

shin (2007-07-12 22:37)
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今そこにある偶然(その1の3)


母親が帰った後、令子はあきれ返り、その少年を追い返そうとした。
しかし、少年は帰る様子は無い。

「お姉ちゃん・・・そ、そんな、俺、このまま帰ったら、おかんにどんな目に合わされるか・・・」
ブルブルと震えながら、必死に首を振る。
「あかんねん、ま、まだ、死にとうないねん!俺、姉ちゃんに笑って貰えるまで帰られへんねん!」
必死に、縋り付くように、大きな瞳に涙を溜めて、こちらを見てくる。

うっ、か、可愛いかも・・・
横島忠夫、煩悩さえ先行させなければ、結構顔立ちは整っている。
しかも、まだ小学生であり、その分子供らしい愛らしさも備えていた。

ち、違う、違う、こいつは、昨晩、令子に襲い掛かってきた不届き者よ!
頭の中で、浮かび上がった感情を必死に振り払い、キッと少年を睨みつける。

「とにかく、あんたに、何かして貰おうとは思わないから!とっとと、帰りなさい!」
バタンと、扉を閉めて、家の中に入る。


全く、朝っぱらから、調子が狂うわ・・・
そんな事思いながら、部屋に向かう。
あーあ、今日はどうしようかなあ・・・
久しぶりに学校でも行こうかなあ・・・
そんな事を思っていると、再びインターフォンが鳴る。

「ハイ」
「あっ、姉ちゃん・・・」
ガチャンと、インターフォンを置く。
全く、早く帰れば良いものを。

しかしながら、またインターフォンが鳴る。

こうなったら、無視するに限る。

音量を最低限まで絞り、ピンポンなり続けるそれを無視して、朝食の用意。

その間も、飽きることなく、インターフォンが鳴り続けるが、令子は無視したまま、朝食を食べる。


あら、鳴り止んだ。
諦めたしら・・・
突然鳴らなくなったインターフォンに、ホッとしながらも、そう思う。

しかし、暫くすると、また、インターフォンが一回鳴る。

ううん、時間差攻撃かしら、やるわね。

どうやら、鳴らし続けるのは効果が無いと気がついたようで、インターフォンはある一定の間隔で、時折鳴り続ける。

少し、気にはなるので、2階に上がり、ベランダから、こっそり玄関辺りを覗いてみる。

あれ? いない。
怪訝に思って見ていると、たたっと、道を走ってくるではないか。
「やっ!」
少年は軽くジャンプするように、フォーンを押すと、そのまま向こうに走って行く。
一体、何してる???

暫くすると、走り去った方から、また駆けて来て、フォーンを押すと、反対側に走って行く。

ピンポンダッシュ?

どうやら、ずっと押し続けているのに飽きたらしい。
そうやって、走りながら、インターバルを取っているみたいだった。

何時まで、あんな事やってるのかしら?
呆れて物も言えないけど、まあ、その内飽きるだろう。

そう思い、令子は出かけるにはまだ早い為、居間でソファに腰掛け、テレビでも見ることにした。


さて、そろそろ学校でも行こうかしら。

まだ間隔を開けて、鳴り続けるインターフォンは無視して、令子は制服に着替える。

となると、玄関を開ければ、あのくそ餓鬼と顔を合わす事になる。
ええいっ、うっとうしい・・・
そう思いながらも、ふと、あの少年が、かれこれ一時間以上も、インターフォンを鳴らし続けている事に気がついた。
えっ?
あの子、さっき見たランニングぽいのを一時間以上続けてるの?
まさかね・・・

ちょっと気になる気持ちを打ち消して、令子は鞄を持って、玄関を出た。

門を出ると、丁度少年が、左手から、走ってくるのが見えた。
どうやら、ずっと走っていたらしく、汗だくになっている。
それでも、令子が出て来たので、嬉しそうに駆け寄る姿は、まるで子犬のよう・・・
令子は頭をブンブン左右に振り、今頭に浮かんだイメージを叩き落す。


「ああっ!姉ちゃん、六道女学園中等部の生徒やねんね」
令子が無視して、歩き出すのに、何時の間にか、横に並び、そう言ってくる。
ウンウン、独りで頷いて、尚も言葉がその口から溢れてくる。

「俺な、あの学園の近所の緑川小学校に通ってんねん。近くやから、直ぐに行けるわ。
良かったあ」
「六道言うたら、お嬢さん学校やね。お姉ちゃん、お嬢さんやねんな。道理て綺麗やと思たわ」
「あの学校な、綺麗なお姉ちゃん、一杯いるやん。俺な、こっち来てから、直ぐ気がついたんや。そやから、毎日見にいってんねん」
「しかし、変やな?
結構、綺麗なお姉ちゃんはチェックした筈やねんけど。お姉ちゃん、今まで一度も見かけへんかったなあ」

不思議やなあとぶつぶつ言いながら、首を傾げている。

一体、この少年は、何なんだ。
まだ小学生の癖に、綺麗なお姉さんを見に、六道まで来てるらしい。
まるっきり、ストーカーじゃないの。

「あんた、学校は」
「わっ、お姉ちゃんが口聞いてくれた。良かったあ。このまま何も言うてくれへんかったら、どないしょ思てたんや」
パアッと、笑顔を浮かべて、こっちを見てくる。
うっ、こいつ、出来る。
裏のない笑顔が、まぶしいほど、本当に嬉しそうに叫ばれ、プイッと顔を逸らす。

「あっ、学校やな。うん、行くよ。おかんが、鞄、がっこに届けといてくれるって」
「今日わな、遅刻してもエエから、お姉ちゃんの役立つ事、一つでもしてからがっこ行きって、言われんてんねん」
「そやから、親公認の遅刻や。俺、そんなん初めてや」
何と、あの母親は、そこまで言い含めて、息子を放り出したようだった。

「そうしたら、私が、何も頼まなかったら、どうするの?」
「うん、その場合は、えらいこっちゃ。がっこ休まなあかんねん」
「俺もな、学校は休みたくないんやけどな、それでもお姉ちゃんに悪い事したん、俺やろ。だから、仕方ないねん」


駄目ッ、追い込まれる。
令子は聞くんじゃ無かったと後悔するが、それももう遅い。
自分より、五歳は年下の少年に、そう言う事を言われて、無視して歩み続ける程、令子は冷酷ではなかった。

ふうっと、溜め息を吐き出し、立ち止まる。

「あなたの名前は?」
令子は、なるべくきつい顔を浮かべ、少年を睨みつけながら、そう言う。
「うん、横島忠夫!」
しかし、それが、嘘だと判っているのか、少年は顔一杯に笑顔を貼り付け、嬉しそうにそう返す。

「私は、美神令子、宜しくね」
もう、怒っている事も、無視する事も出来ない。
何だが、無理やりねじ込まれたような気もするが、まあ、どうでも良い。

「で、忠夫君、私の為に何してくれるの?」
令子は再び、歩き始める。
「えっ、俺、『げぼく』になれって、おかんに言われてるから、令子お姉ちゃんの言う事、何でも聞くよ」

「それじゃ、このまま、私の前からいなくなってくれる?
私の言う事、何でも聞くなら、これも聞いてくれるわよね」

忠夫が困ったように、固まる。
あうあうと、つぶやきながら、頭を抑えて、蹲ってしまう。

ふっ、小学生の餓鬼なんか、ちょろいわ。
そう思いながら、どうするかと興味はあるけど、とりあえず、歩き出す。


忠夫は、暫く考えていたが、ふと令子がズンズン先に進んでいるのに、気がつき、ダアッと走ってきた。

「れ、令子お姉ちゃん、それ、違う!」
「ふーん、何が違うの?忠夫君は、私の言う事、何でも聞くんでしょ」

「えっ、えっ、そ、そやけど・・・ち、違う!そ、そや、それやったら、償いにならへんねん」
「ちっ、気がついたか・・・」
「あっ、何か酷い事言われたような気がする・・・」
しょぼんと、頭を下げて、うな垂れている姿は少し可笑しく、令子はフフッと笑いを漏らす。

「仕方ないわね。それじゃ、この鞄、学校まで持ってもらおうかしら」
「やったあ!」
パッと顔を上げ、差し出された鞄を大切そうに持つと、嬉しそうに、胸に抱きかかえ、歩き出した。


忠夫は、令子の鞄を持ち、歩きながらも、色々話し掛けて来る。
どちらかと言えば、聞いてもいないのに、自分の事を色々話してくれるのは、面白い。
曰く、最近大阪からこちらに引っ越してきた。
親父は、商社マンとか言うやつだけど、別に怪人を倒す正義の味方ちゃうとか。
おかんは、世界で一番強い。
今の家は、大阪の家より広いとか、聞いてもいないのに、色々教えてくれた。

どうやら、自宅は令子の家から、数キロ程離れた所にあるらしい。


「じゃあ、忠夫君、昨日、どうして、家の前走ってたの?」
「ああ、あれな。たんれんや!」

「鍛錬って?何か武道でも習ってるの?」
「ううん、俺、何もやってないよ、何で?」
忠夫が怪訝な顔で聞いてくる。

「だって、鍛錬して身体を鍛えてるのでしょ。それに、何だか不思議な走り方してたじゃない」
「あれ?判ったんや。あれな、霊力?あれを足に出して見たんや。
そうするとな、少し飛べんねん」

「れ、霊力?」
「うん、俺な、霊力だけは、無茶強いんやて。
そやから、それを足から・・・ああっ、しもたあ!
これ、誰にも言うたらあかんねや!!!」

忠夫は、鞄を抱えたまま、バタバタと転げ回っている。
令子はそれをあっけに取られて見るしか出来なかった。
どうやら、この子は霊能力者と言われる人種らしい。
でも、それは令子も一緒である。

「た、忠夫君、それを言えば、私もそうだよ」
思わず、令子もそう言って、転げまわる忠夫をフォローしてしまう。

「そや!令子姉ちゃんもれいのうりょくしゃと言うやつやないか。そやったら、エエか」
は、早!
あっと言う間に、立ち直る少年に、令子はあっけに取られる。


「でもね、それは普通の人に取ったら、脅威であるのは間違いないわ。あまり人に言うには、私も忠夫君もまだ、小さすぎるわね」
ママが生きていたら、後見人を頼むと言う手もあるが、霊能力が強い子供と言うだけでは、どんな目に会わされるか判ったものでもない。
一応、令子の場合は、六道女学園に通っている以上、霊力がある事はそれ程問題とはならない。
何せ、日本で唯一の霊能力科のある学園なのだから。

「忠夫君は、後見人とかはいるの?」
「うん、いるよ。唐巣神父」
「そう、それなら、問題ないわね」


唐巣神父?
どこかで、聞いたことがある。
うん、確かあの人の良さそうな、聖職者。
パッと、顔が浮かんだ。
だけど、何処で会ったのかしら・・・

令子は思い出すように、暫く考える。

そうだ、ママの葬儀の時だ・・・

昔、ママの師匠を一時期やった事があると言っていた。
そして、何か困った事があれば尋ねて来なさいって、住所を頂いた覚えがある。

「確か、キリスト経の牧師さん?」
「うん、そうだよ。何や、令子姉ちゃん、知ってんかいな。良かったあ!」
忠夫が、ウンウンと頷いている。

「教会は、ボロボロやけど、唐巣神父って、世界でも有数のごーすとすいーぱーらしいんやって。
おかんが言ってた」
ふーん、あの頼り無さそうな神父が、そんな凄い人だったんだ。
まあ、ママの師匠だと言ってたから、それも当然かなあ。


「あっ、令子姉ちゃん、学校に着いたよ、ほら、鞄」
「あっ、ありがとね」
考え込んでいたので、危うく、校門を通り過ぎる所だった。
令子は、忠夫に渡された、鞄を受け止める。

「ほな、令子姉ちゃん、また放課後な!バイバイ!」
「あっ、ちょっと、待って・・・」
令子が止めようとしたが、忠夫は一直線に走り去って行く。


放課後まで来られるのかと思うと、苦笑いが浮かぶ。
しかし、あの子、何時に終わるか判ってるのかしら。
きっと、忠夫君の事だから、早くから、校門の所で待っているんだろうなあ・・・
そう思いながら、校門を潜る、令子の口元には、何ヶ月ぶりかの笑みが零れていた。
結局、令子は二週間ぶりに、学園に来た事を、教室に入り、周りからあっけに取られるまで、しっかりと忘れたままだった。


(あとがき)
投稿規程にひっかかってなければ、良いのですが・・・
とりあえず、続きです。
横島の幼少期は、「俺」でしたか・・・
直します。
>レクト様、>yuju様、ご指摘ありがとうございます。

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