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「今そこにある偶然(その1の2)(GS)」

shin (2007-07-12 00:11/2007-07-12 22:43)
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今そこにある偶然(その1の2)

本当に、この五年間、父さんと母さんには、感謝してもし切れるものではなかった。
今では普通に、父さん、母さんと呼んでいるが、この二人は本当の両親ではない。
実の母親が無くなったのは、令子が中学二年生の時だった。
呆然としている令子のもとに、父親の使いと名乗る人が現れた。
父親は、特殊な能力の持ち主で、それまで令子自身殆ど会った事も無かったのである。
今なら、事情も理解出来るが、当時はとてもそんな事考える余裕なんか無かった。
使いの人から、父の意向として、そのまま今の家に住み続けるのか、それとも父の下に来るかと言われても、令子には怒りしか湧かなかった。
突然そう言われても、事情なんて理解出来るわけは無い。
何故、父は本人が来ないのか。
どうして、今まで殆ど会えなかったのか。
事情があるのは判っていた筈だが、それでも母の葬式にも顔を出さない父親を、信用できる筈も無かった。

当然、令子の答えは、このままここで暮らす事だった。
父親と名乗る他人は、お手伝いさんを雇い、全ての手続きだけはこなしてくれた。
住む家はある。
食事の支度も、掃除・洗濯もこなしてくれる。
だけど、そこには家族は無かった。
そう、中学二年生の夏の日、令子は一人ぼっちになってしまったのである。

三ヶ月も持たず、令子は荒れた。
幾ら遅くなろうとも叱る人もおらず、学校もサボりがちになった。
中学生の癖に、単車を乗り回し、如何にも不良でございと言う格好で、街をさ迷う。

あのまま行けば、遠からず、堕ちてしまったに違いない。
そう、その先は確実に、奈落の底への一本道だった。


その日も令子は、むしゃくしゃするままに、単車を乗り回していたが、そんな日に限って知り合いにも会わない。
余計に、イライラしながらも、仕方なく、何時もよりは早い時間に、家に向かった。

単車を止め、真っ暗な建物を見上げ、口をギュッと噛んでいた。
誰もいない。
そう、誰もいる訳ない。
泣きたくなるような、怒り出したくなるような言い切れない感情が心に満ちて来る。
家に入るのもイヤ、かと言って行きたい所がある訳じゃない。
ブルブルと震えが両手に走る。
イヤだ!
泣くもんか!
あふれ出しそうになる涙を必死に堪えて、立ち竦む。

「ほっ」、「ほっ」、「ほっ」
その時、道の向こうから、間延びしたような何とも珍妙な声を耳にした。
えっ、何?
思わず驚き、そちらを見た。

最初は、誰もいないかと思った。
しかし、それは間違い。
相手がまだ小さかったせいだった。
如何にも小学生と言う、小さな影が、暗闇の中から現れる。
まだ声変わりもしていないのだろう。
奇妙に思ったのは、その子の掛け声だった。

トレーニングの為に、走っているのだろうが、その走り方は奇妙だった。
まるで、走り幅跳びのように、一歩一歩ジャンプするように走っている。
そして、間延びするような掛け声は、男の子が足を踏み出す度に、口から零れていた。

その子が、横を、ポーン、ポーンと言う感じで駆け抜けて行くのを、令子は唖然として見つめた。

「ほっ」、「ほっ」、「ほっ」、「へっ?・・・」
突然、男の子の口から聞こえる声が変わった。
令子を通り過ぎ、二十メートル程離れたかと思うと、クルリとターンして、こちらに向かって来る。
先ほどまでの奇妙な掛け声は既に止まっている。
じっとこちらを見つめる顔は、子供にしては、中々凛々しい。
えっ、何考えてるのよ・・・
令子は自分が思った事に、びっくりして一瞬我を忘れた。
そして、それは命取り。
男の子の顔に、満面の笑みが浮かぶ。
口が大きく開かれるのも、令子ははっきりと見て取れた。

「生まれる前から、愛してましたぁぁぁぁぁ!」

美神令子14歳、これが、横島忠夫との今生での初めての出会い。
一瞬の隙を突かれ、忠夫は、見事、令子の発育途上の胸元に顔を埋めていた。


「ちょ、あんた!な、何よ!」
令子は、突然抱きついてきた、男の子を引き剥がそうとした。
「あったかいなあ・・・、気持ちいいなあ・・・」
そんな事を言いながら、スリスリと顔を埋めようとしてくる少年は、離れようとしない。
「こ、こら、止め、止めなさい。」
「ええわ〜、ごくらくやなあ〜」
「こ、こら、や、止めんかあ!!!」
最後は思いっきりグーで、ど突き倒して、漸く男の子は、令子から離れ、尻餅を付く。

恥ずかしいやら、腹ただしいやらで、顔を真っ赤にした令子はそのまま、くるっと身を交わすと、家に走り込んだ。

ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けると一目散に亡きは母の部屋へ。
部屋に飛び込んだ令子は、躊躇うことなく、母の形見でもある除霊道具の置いてある棚に手を伸ばした。

「あった」
手にしたのは一本の棍。
それは神通棍、霊気を通し、怨霊を払う除霊武具。
令子は棍を手にし、その美しい顔に、凄みのある笑みを浮かべる。

令子が、神通棍を使いこなすと言う訳ではない。
それよりも、今はあのふざけたガキをしばき倒す。
木刀でも、バッドでも何でも良かった。
しかしながら、家にはそのどちらも無かった。
棒のようなもの、それでいて叩き付けやすいもの。
思いついたのは、亡き母が使っているのを見た事のある棍だった。

手にした30センチ程の棍を持ち、再び玄関を飛び出す。

幸いな事に、ふざけた少年は、まだ尻餅をついた格好で呆けたようにこちらを見ていた。

「えっ・・・お、お姉ちゃん・・・」

「あんた、覚悟しなさい!」
キン!
と言う切れの良い音共に、神通棍が伸びる。
人の霊気を浴びれば、それにより、霊具としての態勢を整えるのだ。
ここまでは、今の令子でも出来た事。
しかし、彼女は気付いていなかった。
棍が白く輝き始めているのを。

「あなたね、そのふざけた態度、この美神令子が・・・」
手にした棍を令子は大きく振りかぶる。
「ヒッ・・・あ、あわわ・・・」
少年は慌てて、後擦り去ろうとするが、殆ど動けない。
なぜならば、美少女が手にした棍が、まぶしい程白く輝き、それと共に、ピリピリするような霊気が押し寄せてくる。

「天国に、行かせて上げるわ!」

少年の振り上げた手に、令子の振りかざした棍が叩きつけられる。
そして、辺りはまぶしい程の光に包まれるのだった。


えっ・・・
目が眩むような光のせいで、令子の意識が正気に戻る。
な、何?い、今の・・・
自分でも、訳が判らない。
ただ、このふざけた少年を、しばき倒そうと思い、棍を叩き付けただけの筈。
確かに、棍は確実に少年の振り上げた腕に当たったと思った。
しかしその一撃は、今の訳の判らない光と共に、明らかに何かにかわされ、少年の腕には当たっていない。

「あ、危なかったあ・・・」
少年が、掌で棍をしっかり握り締め、こちらを見ていた。
「おかんの言う通りや。綺麗なお姉ちゃんに、手を出したらあかんよって、ほんまやねんな・・・」
微妙に、親の言う意味とは違うような気がするのだが、少年はそんな事に頓着せず、ニコッと笑みを浮かべ、令子を見ている。

「な、何よ!あんた、今何やったの!」
神通棍を握る少年の手を無理やり解き、ピタッとそれで少年を指差す。
「えっ、な、何って・・・突然お姉さんが襲い掛かってきたから・・・」
「な、ちょ、ちょっと!私が襲い掛かったの?違うでしょ、貴方が飛び掛ってきたんじゃない!」
へっと、驚いたような顔をして、少年はその場で考え込む。
うーむ、と唸りながらも、ポンと手を打つ。
「あっ、じゃ、お相子って事で。」
「な訳、あるかあ!」
再び神通棍が振り上げられ、今度は光が溢れる事も無く、少年は令子にしばき倒されるのだった。


翌朝、令子は、朝早くから鳴り続けるインターフォンに、叩き起こされる羽目になった。
ぶつぶつ言いながら、インターフォンを取る。
「あの、美神令子さんいらっしゃいますか?私、横島百合子と申します。朝早くから申し訳ないのですが、少しお時間を頂けないでしょうか?」
「は、ハイ・・・暫くお待ち下さい」
横島?
まるで聞き覚えの無い名前だった。
一体、こんな朝早くから、何の用だろう。
そう思いながらも、不機嫌さを顔中に纏わせたまま、令子は身づくろいを済ませ、玄関を開けた。

「ハイ、美神ですが?」
「まあ、令子さんですか?本当に、こんな朝早くから申し訳ございませんね」
30代の女性が立っていた。
全く見覚えの無い人だけど、母の知り合いだったのだろうか。
「昨晩、家の愚息が、不埒な行いをしまして、本当に申し訳ございません」
そう言って、何処と無く、鋭いモノを感じさせる、女性が頭を下げる。
あっ、昨日のあの少年の親?
家の前で、思いっきりしばき倒した少年の関係者ならば、何か因縁でも付けに来たのだろうか。
そう思い、令子は自然と身構える。
「あっ、本当に申し訳なく思って、謝りに来させて頂いたのです。ほら、息子もあのように、侘びを入れております」
百合子と名乗ったおばさんは、令子の態度に気が付いたのか、慌てて付け加え、身体をずらす。

「えっ・・・あれっ?」
指し示された先には、門の外の所で土下座をする昨晩の少年の姿があった。
なんだか、襤褸雑巾のような雰囲気をかもし出すその姿は、哀れみすら感じさせるものがあった。
「あっ、でも、私も、思いっきり叩いてしまって、息子さんに怪我までさせちゃった・・・」
流石に、昨晩は怒りに任せてしばき倒したが、あそこまでボロボロになっているのを見ると、やり過ぎたと、反省してしまう。

「いえ、息子がああなっているのは、家でお仕置きを受けたせいで、決して美神さんの責任じゃないですよ。気にしないで下さい、愚息は元気に帰って来ました。」
この母親、何気に恐ろしい事を言っている気がする。
令子は顔に冷や汗が浮かぶ。

「ほら、忠夫!ちゃんと謝んなさい!」
少年は顔を上げたかと思うと、あっと言う間に側まで走ってくる。

「お姉さん!本当に、申し訳ありませんでしたあ!」
男の子は、再び土下座しながら、大きな声で謝っている。
あきらかに、そこには母親に対する恐怖があるのが見て取れた。

「このバカ息子が、昨晩嬉しそうに、綺麗なお姉さんにあったって、言うんですよ。それでね、良く聞いてみると、とんでもない事した事が判り、本当に申し訳ございません。」
母親は再び深々と頭を下げる。

令子はなんと言って良いのか判らないまま、オロオロとするだけだった。
幾ら何でも、中学生の令子には、このような時にどうすれば良いのかの知識など無い。
ましてや、昨晩の事は、腹は立つが、自分としてはその後思いっきりしばき倒した事で、一応解決していた。
それなのに、翌朝、突然母親が謝りに来られても、対応のしようが無い。

「あ、あの・・・そ、そんなに・・・」
しどろもどろに頭を下げている相手に向かって、言葉にならない声を上げるしか出来ない。

「いえ、息子のやった事は、とてもじゃないですが、女の子にやって良いことではないです。何とか、お詫びをしない事には、本当に申し訳ございません。あの・・ご両親は?」
「えっ、い、いません!」
「あら、お出かけですの?それじゃ、また日を改めて、お詫びに・・・」
「両親は、もういないんです!」
言ってしまってから、令子自身、臍を噛む思いだった。

この先の展開は、同情の混じった視線が来るだろう。
そして、根堀は堀質問され、おためごかしの言葉が続く。
それは、母親が無くなってから何度も繰返された、苦い思い出。

「あら、それじゃ、やっぱり貴方にお詫びしないといけませんね。」
えっ・・・
その母親の反応は、全く違っていた。
令子の振り絞るような言葉に動じる事も無く、ただ淡々と言葉をつむぐ。

「うーん、何が良いかしら。そうだわ、忠夫!」
母親は、少し考えるように頭を傾け、息子を呼ぶ。
「何?おかん?」
「あんた、当分、このお嬢さんの下僕になりなさい。ええか、お嬢さんにホンとに許してもらえるまで、絶対逆らったらあかんよ。」
「へっ?げ、げぼく?」

「エエッ???」
令子の顔に疑問符が山ほど浮かぶ。
一体、この親は何を言っているのか。

「令子さん。この愚息は、貴方にとても失礼な事をしたんです。それを償わせなければいけません。」
母親は、令子に説明するように話し掛けて来る。
「息子はまだ小学生ですから、償いを物で示す事は出来ませんから、本人の出来る事でさせて頂けませんか?」

「えっ、いや、そ、それは・・・」
流石に、何と言って良いのか判らない。
いや、むしろ令子の方がパニックに陥りそうだった。

「本当に、これは母親の勝手な願いかもしれませんが、少なくとも貴方に対する償いとして、この愚息を当分こき使ってやって下さい。」

「は、はあ・・・」
展開について行けないまま、令子は曖昧な言葉を返す。

「忠夫、ほな、そう言う事やから、このお嬢さんの言う事は全て聞きなさいよ。」
母親は、令子に再び深々と頭を下げると、そのまま帰って行く。


後には、あっけに取られた、令子と、小学生の忠夫だけが残されるままだった。

ちょっとぉ・・・げ、下僕って・・・な、何なの!

訳も判らないまま、令子はその場にしゃがみ込んでいる男の子を見る。
なんだか、厄介事を押し付けられたような気もするが、気のせいだろうか。
令子はハアッと、溜め息を吐き出し、男の子を見つめた。


横島百合子、村枝の紅百合と言われた、伝説のOL。
その情報収集力、分析力は、ぴか一である。
昨晩、忠夫が浮かぬ顔で帰って来た事で、何があったか問いただしたのだった。
息子が言うには、物凄く綺麗な姉ちゃんに会って、思わず抱きついたと言う事だった。
それだけならば、このバカ息子がと言う話だが、どうも様子が違う。
そう、普通ならば、傷だらけになりながらも、ええ思いをしたと、にやつきながら、母の折檻を受けていただろう。

「あのな、その姉ちゃん。泣いとったんや。そやのに、涙も出てないんや。変やん、おかしいやろ。俺な、訳判らへんねん」
忠夫が言うには、綺麗なお姉ちゃんやと思って、通り過ぎようとしたらしい。

「だけど、お姉ちゃん、泣いとったんや。
そやのに、涙も見えへん。
あんな綺麗な姉ちゃんが悲しい顔してるのは、まちがっとる。
そう思ってな、俺な、姉ちゃんに笑ってもらおうと思って、抱きついたんや」
「あんたね、何で抱きついたら笑ってもらえるの。そこで間違っとると、気がつき」
百合子は息子の思考回路に、いつもの事ながら疑問を持たざるを得ない。

「だけどな、俺に出来る事って、そんな無いやん」
まあ、本人にすれば、どうして良いか判らず、抱きついたと言う事らしい。

「ほんで、ばあっと光ったと思ったら、後はボコボコにどつかれて、それでも姉ちゃん、すっきりしたように、家の中に入っていったから、ええねん」
どうやら、息子は息子で、納得したらしい。

「ほな、あんた、何が不満やの」
「うん、そや。だけどな、あの姉ちゃん、また明日になったら、泣いとるかと思って・・・
おかん、おいら、どうしたらええんやろ」
そう言って、縋るように母親を見つめてくる、馬鹿だが可愛い息子を、百合子は抱き締めてやるしかなかった。


忠夫が風呂に入っている間に、百合子は旦那の会社に電話した。
旦那にあらましを語ると、後は結果待ち。
二時間程して、旦那は資料を抱えて帰ってきた。
忠夫の口から、場所が特定出来たので、その後の調査は早い。
息子が会ったのは、美神令子と言う中学二年生の女の子。
彼女の母親は三ヶ月前に無くなっている。
そして、今は独り暮らし。
父親はいて、生活費は提供しているらしいが、殆ど音信不通。
これでは、息子が言っていたように、泣いていると言うのも判る。
しかも、ここ数ヶ月の間の素行は、悪化の一途を辿っているらしい。
百合子は旦那の大樹と相談し、翌朝一番に、忠夫は母親にしばき倒され、令子の前に引き連れられる羽目と相成ったのであった。


―あとがき―
ええっと、申し訳ありません。
その1がへんな形で切れてまして。
どの程度まで、一投稿で、掲載できるか良く判らないので、とりあえず、
二つに分けました。
このお話は、一応、その1は、出来てます。
ただ、投稿の仕方に慣れるまで、読んでくださる方には、迷惑をおかけしてしまいそうで、申し訳ないです。
今回も、ここまで投稿させて頂いて、後2回位で、全部投稿できると思います。

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