「おかん、大変や!!!!」
息子が、玄関を開けると、勢い良く駆け込んできた。
「こらっ!帰ったら、挨拶ぐらいせんかいな!」
「あっ、た、ただいま、そ、そんな事より、大変なんや!!!」
あわあわと、慌てふためいて、叫ぶ息子の様子は、可笑しい。
百合子はそんな息子の様子を、面白そうに見つめた。
本当に、何か危険な事があるのなら、その目を見れば判る。
でも、今の忠夫の瞳には、そんな危険な兆しは何も無い。
ただ、物凄く驚いており、どうして良いか判らずに、パニックになっていると言うところか。
全く、わが息子ながら、つくづく規格外れに育ってくれている。
少し、やんちゃなのは良いとしても、行動力だけはとても小学生には見えない。
体力は、旦那の血を受け継いだのか、人並み外れている。
しかしながら、その体力が使われるのが、悪戯や覗きの時だけと言うのは、母親としては悲しい限りだった。
少し、いや、かなりの怪我ですら、平気で直してしまう異様な程の回復力。
それならば、体育の授業等で、人並みはずれた活躍をするのかと思うと、そうでもない。
全く、真面目にその力を使えば、良いものを、つくづくあれの息子だと思ってしまう。
「おかん、おかん!聞いとんのか!」
「うん、タダオ、聞いとるよ。」
考え込んでたようで、意識を息子に向ける。
両手を振り、見上げるようにして、見つめる大きな瞳は、不安げに揺れていた。
「で、どうしたの?」
「あっ、うん、あのな・・・こ、こんなん出た!」
そう言って、息子は左手を目の前に翳した。
「えっ?」
何も無い筈の、息子の小さな手。
いつも泥だらけにして、汚して帰ってくる、だけどまだ男っぽさは微塵も無く、小さな手。
だけど、その掌は、今、白く輝いていた。
横島忠夫、小学五年生、夏休み前の何でも無い一日。
その日、少しはっちゃけた小学生は、一人の霊能者として覚醒していた。
―今そこにある偶然―
「ほな、二人とも、あんまりはめ外したらあかんで!」
これから、親父とお袋は、ナルニア共和国と言うアフリカ辺りの僻地へ海外赴任する。
お袋は、俺達も連れて行きたがったが、小学生の時に目覚めた、特異な能力のせいで、それも適わず、こうして空港で見送る事となった。
「令子、くれぐれも、忠夫には気をつけや。ええか、襲われそうになったら、必ず息の根は止めるんやで。」
「なんで、俺が令子姉、襲わなあかんねん!そこまで信用ないんかいな!」
ほんとに、人をなんやとおもてんのか、この親は!
そうは言っても、自分の日ごろの行いを考えると、あんまり否定は出来んか・・・
「うん?『た・だ・お』、お前今、本気で考えてる訳じゃあるまいな。」
親父!目、目が、本気や!
し、しゃれにならんぞ。
て言うか、その手にある大きなハンティングナイフはなんや!
親父は、殺気満々で、ジリジリと俺を壁際に追い詰めてくれる。
な、何で、こんな所で、親父と死合せにゃあかんねん。
チラッと救いを求めるように、お袋達に目をやるが、二人は何かぼそぼそと話しているだけだった。
ええい、こうなった以上は、仕方ない。
「お、親父!」
「うん、殺るんか?」
「アホかぁ!ええいっ、戦術的撤退!」
俺は、思いっきり逃げ出した。
「あーあ、当分息子に構えないってから、お父ちゃん、全力で相手してるわ。」
「フフッ、父さんらしい。」
令子は、柔らかい笑みをその美しい顔に浮かべ、母さんと顔を見あわせた。
(つづく)
―あとがき―
初めて投稿させて頂きました。
最近、GS美神のSSにはまり、捜しまくり、読みまくり、結局、自分でも書いて見ました。
お目汚しですが、宜しく