六道女学院霊能科、そこでは少女たちがGSになることを夢見、自らの霊能を磨き日々切磋琢磨している。
「オーーッホッホッホッホッ、前回勝ったからって勝てるとは限りませんことよ！」
そして霊能科では、半年に一度日ごろの成果を試すためクラス別の対抗戦を行い、その優勝者が学年別の対抗戦を行うのである。
「弓、お前前回負けたこと結構根に持ってたんだな」
そう、それは乙女たちが舞い踊り競い合う祭りだ。
「アシュタロスの件で一回対抗戦なくなっちゃいましたもんね」
その祭りの行われている競技場の結界内には、高笑いする弓と、二学年の前回クラス別対抗戦の優勝者が転がっていた。
ちなみに六道女学院には霊能科の他に霊具製作科があり、そこではカオスが臨時教師として働いていたりする。
さらにちなみに、霊具製作科では。今現在チーズしめ鯖餡ゴーヤバーガーが注目されていたりする。
それでも時は進みだす
―強さの証明、前編―
Ｐｒｅｓｅｎｔｅｄ ｂｙ 氷砂糖
話を対抗戦の開会式まで戻そう。
生徒たちが集められた競技場には、六道理事の間延びした挨拶が多大な催眠効果を振りまいていた。
その一角には、様々というか十人十色というか、ともかく色々な装束に身を包んだ対抗戦出場者が並んでいた。
そしてその中には一際異彩を放つ三人組がいた。
「長げえ、何が長いって台詞の一言一言が間延びしてるのが」
「まったくですじゃあ、ワッシ段々眠くなってきて仕方ないんですケンノウ」
「タイガーも横島さんも我慢して下さい」
言わずと知れた三馬鹿トリオ、忠雄とピート、それに虎？である。
忠夫はいつもの除霊スタイル、ジーンズの上下、ピートは学生服、そしてタイガーはバイト先で使っているボディーアーマーである。
『あー時間が迫ってきてるかから開会の挨拶はこれまでや。次に移ります』
好い加減進行に影響が出るのか、鬼道は六道理事の挨拶を巻くことにしたようだ。
『え〜〜〜鬼道君のいけず〜〜〜〜』
後ろで六道理事が何か言っているが、鬼道はもちろん他の教師も相手にしない。どうやら彼らもこれ以上スケジュールが狂うのは嫌なようだ。
『なぜか時間が無いんで手短に紹介する。三人とも前に出できい』
鬼道のスピーカー越しの呼び出しに忠夫達は前に出た。
『今回特別に三年の部に参加することになった三名や、右から横島忠夫、ピエトロ・ド・ブラドー、タイガー寅吉や』
冷たい視線が向けられる。忠夫とタイガーに、
視線が、視線が冷たいんやー、わいが何したっちゅうんやー、あれか、前回来た時のことが伝わっとんのかーーーーーーー！？
「つらいんじゃー」
もちろん二人に冷たい視線が向けられるのには訳が在る。一クラスに三人、それが対抗戦に参加できる割合だ、その低い確率にも拘らず特別枠で出てきたのだ、冷たい目で見られても仕方ない。
「キューーーーーーーー」
ちなみにピートが冷たい目で見られないのは、月刊GSでピートが期待の新人GSであることが知られているからだ。決して彼の見た目だけが理由ではない。
『三人の内二人は免許持ちや、もう一人も二次試験の二回戦までは言っとる。三年の皆は胸を借りるつもりで行くとええ』
今度は冷たかった視線が和らぎ、どこか尊敬するような視線が向けられた。
タイガーだけに、
「キュルルルルルルルル」
どうやら見た目貧弱そうな忠夫より、体系のがっしりしたタイガーが免許持ちだと思われたようだ。
「横島さん大丈夫ですか？」
ピートがさすがに忠夫を心配して声をかけるが、忠夫はあたりをキョロキョロ見回している。そのしぐさは何かを探しているかのようだ。
「何か気になることでもあるんですカイノー」
忠夫の不審な様子にタイガーはぎもんを持ったようだ。
「いや、さっきから何か鳴き声が聞えんか？」
「キューーーーーーー」
「本当ですね、どこかで聞いたことがある気がします」
忠夫の言葉に耳を済ませたピートが答えた瞬間、
「キュイ！」
ドゴン！
忠夫の姿が掻き消えた。
「よ、横島さん！？」
正確にはものすごい速さで忠夫が後ろに吹っ飛んだのだ。首から、
地面に煙を立てて倒れている忠夫の頭には何か赤い物体がしがみついている。
「キューーーー♪」
赤い鱗があってせなかには翼が生えていてどこか愛らしい、忠夫に張り付いている物体、それはまさしくレインだった。
「レインが何でこんなところに！？」
「横島さんしっかりするんですジャー！」
忠夫を心配して慌てる二人をよそに六道の生徒はというと、耐性が出来ていないのだろうか呆然としていた。
そしてその六道の生徒の一部では、
「ねえ千夜………………あれ、何？」
「忠夫に懐いている火竜の子供です。魔界に連れ帰られたのですが、どうやら逃げ出してきたようです」
何とか言葉を発した水凪に千夜は自分の知ることと予想を話す後ろでは穂波が目を大きく見開き呆然としたまま固まっていた。
『あーーー、学年対抗戦の優勝者には特典が用意されているので皆頑張るように』
鬼道はこの状況をどうにかするためには、もう流すしかないと判断したようである。
「どうやら穂波の予想が当たったようですね」
二年の決勝戦が行われている競技場の一角に千夜たちの姿があった。
「私の予想は外れたか、それにしても弓さんかなり気合が入ってるなあ」
「なんていうか放浪癖の彼氏のうさを晴らす感じ？」
二年の決勝戦を見に来ていた三人はそれぞれ感嘆？の声を上げる。
色々と問題のあった開会式からは順調に進行は進んで行き、もはや二年は早めの決勝戦を迎えていた。
「それにしても他学年の試合が決勝戦しか見れないのってかなり残念だね」
そうなのである、六道女学院の霊能科は全国のあちらこちらから才能のある人材を集めている。そのため人数が多くプログラムは一年から三年の試合を別の場所で同時進行しなければなら無い為、決勝戦以外他学年の試合を見る機会が無いのである。
「そうですね、私は三年の試合が見たかった」
千夜が穂波の言葉に同意すると、水凪が猫のようににやっと笑った。
「千夜りん、それは横島さんの試合が見たいってことかな？」
「ええ、そうです」
千夜は間をおかず断言し、水凪はほほーというような表情を浮かべ、穂波はというと、
和泉さん、お願いだから千夜さんが言葉の通りにしか受け取ってないって気付いて。という千夜さんもその物事を言葉通りに受け止めるのはお願いだから止めて下さい。
穂波は涙を流しながら、心の中で千夜と水凪に突っ込みを入れている。口にださないのは千夜に否定されたら怖いからだ。
「千夜何を見てるの？」
水凪が穂波の視線の先を追うと、そこには真っ赤なドラゴンを頭に乗せた人物、忠夫がこっちに向かって来ていた。
「横島忠夫」
「おっす三人とも、おキヌちゃん達の試合を見てたんだな」
「キュー」
ああ、なんてタイミングの悪い、いやある意味ナイスタイミングというべきか、水凪は年頃の女の子としてこういう話には目が無いようで、忠夫を興味津々と言った目で見ている。
「ええ、もしかしたら当たるかもしれませんので」
それを聞くと忠夫は悪戯っぽく笑う。
「確かに絶対ってことは無いわな」
「キュイ、キュウ」
クラス対抗戦の優勝チームはまず最初に三年と二年が試合をし、その後勝った方が一年と対戦するのである。これは上級生がどれ程の実力か知ると共に、下級生の励みになればいいという学校側の配慮である。
すなわち千夜は自分たちが勝ちあがっても、忠夫が来ないかもしれないと言っているのだ。
「まっ、約束は守るから安心しろ」
忠夫はそういうと千夜の頭に手を置き、
「はい」
千夜は素直に頷いた。そんな二人に穂波は顔を赤くし、水凪は目をらんらんと輝かすが、
「キューーーーーーー」
ボン
レインが不満そうな声を上げ音をたてて人型になると忠夫の腰にしがみ付き、撫でれ、とばかりに忠夫の腰に頭をこすり付ける。
「たく」
忠夫レインの様子に苦笑すると、千夜の頭から手を離し、今後はレインの頭を少し荒っぽく撫でた。
「キュイ♪」
レインはとても嬉しそうだ。
だがそんなほのぼのした空間も長くは続かない。
「わーー！私たちの決勝戦もう少ししたら始まるって、急がないと間に合わなくなるよ！」
穂波がアナウンスを聞き慌てると、水凪は千夜の手を掴み大急ぎで走りだした。穂波を置いて、
「てっ、待って水凪さん！あああ横島さん良かったら私たちの試合も見てくださいね！待ってよーーーーー和泉さーーーん、千夜さーーーん」
霊力を使って身体能力を強化しているのだろう、穂波はものすごい勢いで走り去っていく。どうでもいいが、スカートで全力疾走はどうかと思う。
「キャアーーーー！！！スカートがーーーーーー！？」
どうやらやっぱりめくれた様だ。そして忠夫はというと、
「青と白の縞々」
「キュウ」
そんな謎の言葉を呟いた。
競技場に六名の乙女たちがそろう、それぞれ違った装束に身を包んでいてその様子はまるで仮想大会、しかし六人が身にまとう空気は楽しげな舞踏会やパレードのそれではなくまさに決闘のもの。
「よかった、何とか間に合った。途中でスカートがまくれた時はどうしようかと思った………………」
その中に一人だけ何か違うような気がする少女もいるが気にしない。
「穂波、早めに息を整えてください」
結界内にはもうすでに水凪が入り、試合の開始を今か今かと待ち構えていた。
「さて、どっちが勝つかね」
「キュルルルルル」
忠夫は未だに頭にレインを乗せたまま売っていたポップコーンを手に観戦をするつもりのようだ。
「あんた、何してんの？」
「美神さん」
そんな忠夫にいつの間にか後ろから現れた令子が声をかけた。
「ここから観戦しようと思ってるんすよ。そう言う美神さんこそどうしたんすか？今回は来賓で呼ばれてたのは西条と神父じゃないっすか、美神さんがいまさら青田買いする必要ないし」
忠夫が青田買いといったのは西条、オカルトＧメンが慢性的な人手不足を解消するため最近そのような事を行っているからだ。その対象はＧＳ試験で二次試験まで行ったが合格できなかったものや、六道などで除霊に対しての知識と技術を持っているものにまで多岐に渡る。
ちなみに来賓紹介は六道理事のながーい挨拶とレインの騒ぎで流れている。
「何言ってんのよ、私も呼ばれてるって行ったじゃない、来賓で紹介されなかったのはちゃんと分けがあるわよ。まっそれはもう暫くしてのお楽しみね」
「そうっすか、じゃあ何でここに？」
「キューーーーー」
レインは必死に忠夫の頭から手を伸ばすと、忠夫のポップコーンを可愛らしい手で掴み口に放り込んではもぐもぐ食べている。
「私も見学よ、来てみたらどこかで見たような赤いのを頭に乗っけてるのが見えたんで、言いたいことがあるから来たのよ」
言葉は不穏そのものだが、令子の様子は柔らかなものだ。
「………なんすか」
「こら、警戒するな」
まあそれ故に忠夫は警戒するのだが。
「まったく、決勝進出おめでとう」
「うっす」
「キュウ」
令子と忠夫は手摺に手を置き、結界のほうを見やる。
「そういえばピートとタイガーはどうしたの？一緒じゃないみたいだけど」
「タイガーーの裏切り者は彼女のところに行きやがりました。ピートはあそこっす」
令子は忠夫が指差したほうを見ると、そこにはピートが六道の生徒に囲まれていた。
「ピートはあんたと違って持てるわね」
「………………………」
忠夫は何処からとも無く藁人形を二つ取り出すと重ね、右胸の部分に釘を添えると金鎚を掲げ、
「天・罰・光・臨！！！」
謎の掛け声と共に、金鎚を釘に向かって勢いよく振り下ろそうとするが、
「みっともないから止めなさい」
横から伸びてきた令子の手が、忠夫の手を軽くチップする。
結果、
「ぐおおおおおお！？」
「キューーーーー♪」
金鎚は見事に親指の真芯を捉え、忠夫は地面をのた打ち回り、なぜか嬉しそうなレインが忠夫の真似をしてか同じように転がっている。
「まったく、何やってんだか」
令子の呟きが全てを物語っていた。
キシ
水凪は錫杖を握る手に力を込めた。今彼女の目の前にはシスター姿のＢ組みの生徒が立っている。
「まさかＢが来るとは思わなかったわ。てっきりＤが来ると思ってた」
水凪の言葉を聞くと女生徒は面白そうに口を開いた。
「まあ対抗戦は団体戦ですから、実際は三対一みたいなものですわ」
それを聞くと水凪は苦笑した。彼女はＤと当たった場合真正面から挑むことしか考えてなかったからだ。もっともそれが彼女の流儀であるのだが、
「両者構え！」
審判が声を張り上げ、右手を天高く掲げる。
「話はここまでですわ」
「そうね、後は………」
審判は掲げた手を………………振り下ろす。
「始め！」
―実力を示すのみ―
結界の中で、
ギャリィィィィィィィィ
金属音が、
ギャン！
響き渡る。
錫杖が杖、キリスト教の司祭が持つそれ、と激突する。
ギャギ！
一合、振り下ろされる錫杖と振り上げられる司教杖が交差する。
ギャリン！
二合、突かれた錫杖を司教杖で受け止める。
ガィン！ガリガリガリガリガリ、ギャン！
三合、大きく打ち合った後僅かな鍔迫り合いと共に二人は距離を置いた。
「ハァ、ハァ、宗教道具をそんな風に使っていいの？」
「ハァ、ハァ、ハァ、もともと司教杖の原型はメイスという打撃用の武器です。問題は有りませんわ」
僅かな打ち合いではあるが二人の息は上がる。ほんの少しの呼吸も許さぬ緊張が二人にそれを強要したのだ。
『来賓の唐巣神父、今の打ち合いをどう思われますか？』
『そうですね二人とも使い慣れた武器を使っているので霊力の通りがとてもいいです。日頃からよく鍛錬されているのがよく分かりますね』
アナウンサーの質問に唐巣神父は律儀に答える。実際神父の感想は贔屓目を無しにしても同じだ。まあ特に言うことがあるとすれば、
『ただ確かに司教杖は彼女の言うとおりですがもう少し丁寧に扱ってほしいですね』
神父は苦笑した。
「ハァァァァァァァァァ！！」
「イヤァァァァァァァァ！！」
二人は再び激突する。
「二人とも一年にしては結構やるわね」
令子は結界内の様子をそう評すが、それに対して忠夫はというと、
「そうっすね和泉ちゃんの方は知ってましたけど、年々レベルが上がってるんすかね？」
「キュウ、むぐむぐ」
忠夫は手摺に両腕を置き、その上に顎を置いている。レインは忠夫から貰ったポップコーンのカップに頭を突っ込みポップコーンを食べる。
「何で知ってるのよ」
「………………神父の教会で切りかかられました」
「そう、………あんたそういう人種に好かれるんじゃない」
忠夫はひっそりと涙する。
「キュ〜〜〜〜〜〜」
レインはカップに頭を突っ込んだままコロコロ転がる。
「とりあえず美神さんとしては穂波ちゃんが面白いかも知れませんよ」
令子は忠夫の言葉に首を傾げる。
「何でそう思うのよ」
「それは見てのお楽しみって事で」
令子と忠夫が結界を見やった瞬間、状況が動き出す。
何合錫杖と司教杖が交差しただろうか、二人の息はすでに上がり、肩で呼吸する程乱れていた。
ギャリィ！
ギャン！
それでも二人は動くことをとめようとはしない、止まってしまえば決着が付くことを理解しているからだ、
ギシィ！
己の負けと言う結末で、
ギン！
上段から錫杖を振り下ろす、両手で持ち上げた司教杖で受け止める、受け止められた反動を利用し錫杖の反対側を振り上げる、持ち上げた司教杖を下ろし受け止める、
息をつく間もない連撃がシスター服の少女を襲う、
「はあああああああああああああああああああああああ！！！」
ギン！ギャン！ガイン！ギガ！ガギ！ギガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ！！！
水凪が咆哮する。金属音が絶え間なく響き、シスター服の少女が後ずさる、否、後ろに追いやられる。
そして金属音が止んだ瞬間、
シスター服の少女の腹部に足を掛け、
「ふ！」
霊力を込め蹴り飛ばす、
「和泉さん！」
水凪は蹴った反動を利用し結界の間際に立つ穂波の方へと飛び、
「草壁！」
パッン！
手を打ち合わせる音が響き、
「しっかりね」
水凪と穂波がすれ違い、
「はい！」
選手交代が成立する。
穂波が結界に入った時にはＢ組みの方も選手を変えていた。穂波の前に立つのは狼の式神を従えた少女、
「始めまして草壁さん、今回試合でお相手できて光栄です」
式神使いの少女は優雅に一礼し、
「こちらこそ」
穂波もそれに答える、
「では」
そして、
「ええ」
試合が動き出す。
「行きなさい月狼裂牙！」
式神使いの少女の傍らに控えていた狼が穂波に向かって駆け出す。それに対して穂波は動かず静かに見詰める。
激しい熱気の中の静かな沈黙、今の穂波はまさにそれだった。
そして狼が穂波に目前まで迫ったその時、
「成る程ね、これがあんたが言っていた面白い理由ね」
「そうっす、面白いっしょ？」
「キュ〜ウ」
悪戯が成功した時の悪餓鬼のような笑みを浮かべた忠夫を前に令子は髪をかき上げる。
「まあね興味深いわ、それにしてもあんたよく分かったわね」
「穂波ちゃんの手を握った時掌の付き方が美神さんに似てたんすよ」
令子は忠夫の言葉に目が半眼になる。
「あんた私の掌の付き方まで知ってるわけ？」
「当然じゃないっすか！そりゃあもう美神さんのことなら………………すんません何でもないっす、ですからその握り締めた手を開いてはいただけないでしょうか？」
令子は溜息を付きながら拳を下ろすと、忠夫はこれ幸いと話を切り替える。
「とにかく穂波ちゃんはプチ美神さんなんすよ」
「ええ確かにそうね」
令子は忠夫に合わせて結界を見る。
「まあ胸のサイズもプチ何すけどね」
令子は結局拳を振り下ろすことにした。
ガギィ！
狼の牙は鋭い、しかしその牙は穂波に届くことは無く阻まれる。
「こんの、はなれろ！」
・・・
穂波は牙を受け止めた神通棍を振るい、狼を弾き飛ばす。
「相変わらず神通棍の扱いが上手いですわね」
キィン！
穂波は神通棍を一振るいすると右手で持ち、どのような状況にも対応できるよう体の力を抜く。
「私にはこれしか出来ないから」
苦笑を一つ、穂波が浮かべた表情はただそれだけだった。
「よく言いますわ、私たちの代で一番神通棍を使いこなせるのはあなたでしょうに」
「うん、そう言って貰えると嬉しいかも」
二人の会話はそこで途切れ、直後、
「月狼裂牙！」
「はぁぁぁぁぁ！」
同時に仕掛けた。
牙と神道棍が交差し駆け抜ける、直後切り替えしもう一度交差する。
ビュ！
ギシィ！
術者を狙うのは式神使い攻略のセオリー、それゆえに対策は尽くしているようだ。事実穂波は未だ式神を相手し続け、術者に近づくことが出来ない。
ガキィン！
穂波は狼を突き放し距離をとる、正攻法で倒せないなら搦め手を使うまでだ。
破魔札を取り出すと五枚全てを狼に投じる、使い捨てである破魔札は金額制限はあるが他の霊具との併用を認められているが、使う札は自前で用意しなければならず、金額制限ぎりぎりまで持つことは無い。
・・・・・・・・・・
狼は破魔札を軽々と避ける、術者とは別の方向へと、
たまたまではない、穂波は狼から術者の方向に三枚、狼自身に一枚、狼から術者に遠いほうに一枚投げることで狼の動きを操ったのだ。
そして穂波は狼が回避に走った瞬間、術者に向って神通棍を投げた。
「な！？」
式神使いの少女は慌てふためく、式神との距離を離され、手持ちで最後の武器である神通棍を投げたのだ、式神使いの少女はあまりの行動にほんの僅かな間思考を停止させる。
ザッ！
その隙こそ穂波が望んだものだった、地を蹴り一足飛びで術者に迫り霊力をその手に集中、
神通棍を何とか避けた式神使いの少女には穂波の拳を交わす余裕はなく、
拳が突き刺さると同時に穂波の体は横に弾き飛ばされ、式神使いの少女は後ろへと飛ばされた。
穂波は何が起きたのか分からず混乱するが、つい先程まで自分がいた場所を目にし原因を理解した。穂波がいた場所に狼の姿があったからだ。
狼の攻撃で体内の霊力の流れが乱された、穂波が式神と対等に戦ってこれたのはリズムを自分のものとしてきたからだ。それが乱れてしまえば穂波の戦いは苦戦を強いられることになる。
まだまだ及ばないな、
穂波の戦い方は令子を参考にしたものだ。まだ彼女が草壁家にいたころ結界を張ることの出来ない、穂波は一族の中で無能と罵られていた。そんな彼女が草壁から飛び出したのは一本のビデオを見たからだ。
そのビデオには新人時代の令子の姿が映っており、穂波はその姿に魅了された。特別な霊能を用いるではなく、特別な霊具を用いるではなく、ただ基礎と応用と頭脳を使い除霊を行う彼女の姿にあこがれたのだ。何よりも自分でも手が届くかも知れないと思えるその姿に、
まだまだ頑張らないといけないのかな、
遠すぎる目標に穂波の決意が鈍ったその時、
「穂波」
穂波という存在をありのまま受け入れた千夜が穂波に手を伸ばしていた。
『来賓の西条さん先程の戦闘をどう思われますか？』
来賓席に座る西条は一寸考えるそぶりをすると口を開いた。
『………そうですね、式神使いの娘も見事でしたが、草壁さんも広い視野を持ち臨機応変に事を運んでいました。彼女はスタープレイヤーではなく指揮官として実力を発揮するタイプでしょう、オカルトＧメンに欲しいと思える人材ですね』
前述したようにオカルトＧメンは人材の確保に力を入れており、指揮官タイプという人材は喉から手が出るほど欲しい人材なのである。
『あ、両クラス選手を交代するもようです』
アナウンスの発言に注目は再び結果以内へと注がれる。
「穂波」
千夜は手を伸ばし、穂波はよろよろとその手を握った。
「………千夜さん」
「穂波お疲れ様です、あれ程の式神を相手に限られた霊具で挑んだ貴女を尊敬しましょう」
千夜の素直な言葉に穂波は頬を赤く染める。
「そ、そんなこと無いよ、結局勝てなかったし」
「勝てる勝てないの問題ではありません。これは競技です、ならばどれだけ最善を尽くせるかです」
「あ」
その言葉はすとんと穂波の胸に落ちてきた、
千夜は穂波が立ち上がるのを見ると、結果以内へと歩を進める。
「千夜さん」
「はい」
「後はお願い」
「はい」
いくさば
千夜は後ろを振り向くことなく戦場へと進んでで行った。
「始めまして高島さん」
結界内に入った千夜のに対して金髪碧眼の少女は優雅にスカートを持ち上げ一礼した。
「私のことは千夜と」
おそらくヨーロッパの出身であろう少女の流暢な日本語も千夜は気にせず自らの呼び方を指定する。
「では改めまして千夜さん」
少女は千夜の態度を気にすることなく訂正する。
「実は私あなたと当たったらいいと思っていましたの」
「そうですか」
少女の言葉に千夜はやはり興味を示さない、
「私は陰陽師という存在に興味を持ってここに来ました」
少女は皮で出来たホルダー、カードゲームに使うような形の物を左腕に巻く。
「しかしこの国の陰陽師はその術のほとんどを失伝してしまっていました」
ホルダーから一枚のカードを取り出す。
「そんな時にあなたがここにやって来たのです、私は神の存在に感謝しました」
カードに描かれた文字が淡く光を放ち、霊力を発する。
「これで私のルーンと比べられると」
少女はカードを投げはなった。
投げられたカードは飛翔しその存在をカードから炎の刃へとその存在を変容させる。
「疾」
千夜は即座に符を引き抜くと投じ炎の刃と接触する瞬間、
「火剋水」
そう呟いた。刹那炎の刃は消え去る。
「東洋思想の中にある五行の理ですか。五行符の製作技術は失われたと聞いていましたのでまさかこんな所で見れるとは思いませんでした」
自らの術が無効化されたにも拘らず、異国の少女は穂波の術に興奮しよろこぶ。
「しかし基本はたった五つ、私のルーンの多彩さについてこれまして？」
カードを投げはなつ、今度は何に変わることなく飛び穂波に迫る。
「土行符」
穂波は地面に向け符を一枚放つ、瞬間、
ドゴォン！
カードを受け止め、砕け散る。
カードに込められたルーンの意味は『風』と『衝撃』、土の壁に触れた瞬間刻まれた結果を行使したのだ。
さらにカードをホルダーから引き抜く、両者は立ち位置を変えようとはしない。その様子は固定砲台の打ち合いのようだった。
全てを貫く水流の一撃は土くれにより流れを変えられ、高速で飛び行くつぶては草木により阻まれる。
全てのルーンが一歩も動くことなく千夜の符により無効化され、異国のルーン使いの表情には焦燥が浮かぶ。
「く！なら！」
一方的に攻撃していながらまったく届くことが無いという状況にルーン使いは残り攻撃用のカード、十枚ほどをいっぺんに引き抜き千夜に放つ、
風の刃が、炎の壁が、不可視の力が、その他にも様々な力が一斉に千夜を襲う。
いくら千夜でも全ての力を無効化することは出来ない、迫る攻撃のいくつかは打ち落とすことは出来ても残りが千夜の細い体を打ち据えるだろう。
しかしその未来図は、
「な！？」
いままで一歩も動くことの無かった千夜が、カードが投じられた瞬間に、
ザ、
千夜が右に一歩歩くことで夢に帰した、
今まで律儀にルーンと符のせめぎ合いを続けていたのはこの為だ。相手に自分は動かないと言うことを印象付け、範囲攻撃を可能にするほどの手数を点に絞らせたのだ。それゆえただ一歩動くことで攻撃をかわすことを可能とした。
「白夜」
ケェェェェェェェ！
主の呼びかけに答え、白夜が現れ即座にルーン使いに迫る。
そして全力を外させられたルーン使いには、その一撃を防ぐことも避けることも出来ず、
「それまで！勝負あり！！」
審判が試合の終了を告げた。
「私は陰陽師です、符も式神も除霊手段の一つに過ぎません」
歓声が響く中、千夜は呟いた。
「千夜さんすごい！」
試合が終了し結界が解かれた瞬間穂波が千夜の元に駆け寄っての言葉である。
「よくあんな事できたわね」
半分呆れ混じりに水凪が感心する。人は一方的に攻められると心理的に焦ってしまうものだ、たとえ完全に防げると分かっていても。
「穂波、和泉水凪」
千夜は背後からの声に振り返った。
「何はともあれこれで学年対抗の切符を手に入れたわけだ」
「そうだったね、私たちの相手は何処になるんだろう？」
穂波と水凪が興奮のさめぬ中学年対抗がどうなるか予想するが、千夜は観客席の一点を見つめる。
そこにいたのは横島忠夫その人だった。
千夜が自分を見つめている。その目は次はあなただと語っているようだった。
「さて、次はあんたの試合ね」
横にいた令子に話かけられ忠夫は競技場から目を離した。
「そうっすね、おキヌちゃんも千夜も決勝戦まで残りましたし俺も頑張るとします」
令子は普段見ない真面目な忠夫の様子に頬を緩める。
「二人が勝ったんだからあんたも勝たなきゃ減給よ？」
「それは絶対勝たなきゃいけませんね」
令子のからかい口調に忠夫も笑って答える。
「その様子じゃ大丈夫そうね、私はおキヌちゃんや千夜と一緒に観戦してるから頑張んなさいよ」
「うっす」
忠夫が答えた時には令子はもうすでに背を向け立ち去っていた。
ふと競技場に視線を戻すともうそこには三人の姿は無く、次の試合の為の用意されている所だった。
「約束は守らないとな」
忠夫はそういうと競技場に背を向け選手控え室へと向っていった。
「そういやレインはどうしよう………………」
「キュウ」
忠夫の頭の上には未だにレインがのっかていた。
どうも氷砂糖です
今回大学のレポートやらテストやらで遅くなってしまいました。どうやら7月中は遅くなりそうです。
初の前後編です、書いてるうちに長くなってしまいましたのできりのいい所できることにしました。
レインですが今現在は一応服は着ていますええ真っ白のワンピースだけを着ています。他は着ていませんはいてないです。
最近クロスオーバーが書きたくなりました。候補としては９Ｓとレンタルマギカですどっちに忠夫を送り込もうか。それ時がひと段落したら書きたいです
最期に千夜ファンの人たちに朗報です、記念ｓｓが完成しましたさて気になる内容ですが、
甘！いや甘！！甘すぎる！！！え、何！？千夜なのにこんなに甘くていいの！？
というようなものです、大丈夫ですこの甘さは千夜ならではの物です。６５ちーちゃん入れば明日にでも読めますよｗ
では今度は後編で合いましょう。
千夜カウンター３５ちーちゃん
趙孤某様
ロリ、ロリ、ロリ、………………いいかも
は！？そんな事は書いたら千夜が書けないではないですか！？バイパー、歩そり
オリキャラ丁寧に掛けているようでよかったです。この調子で原作のキャラを掛けれるようになりたいです。
六道対抗戦こんな風になりました、いかがでしょうか。でもまだまだ一騒動も蓋
二騒動もあるかもしれません、お楽しみに。
マンガァ様
ちーちゃんの天然っぷりは書いてて面白いですｗ
今回はかんな感じにんまりました。
次回に ご期待ください。
文月様
いえいえ千夜は戦闘凶ではありませんですよｗただ忠夫とやりたいだけです。忠夫との戦闘は次回まで持越しです。
ええ食べてます新鮮ですよなんせ踊ってますから。
たぶんそういう反応するのではないのでしょうか、
でてますよドラゴン、萌えて燃えて下さいｗレイン今回登場しましたいかがでしょう？
氷砂糖は至る所に大小様々な伏線を置いてますので見破ってみてくださいｗ
ではまた次回！
鳳仙花様
今まで京都の山奥から出たことすらほとんどありません。ですからハンバーガーどころか中華や洋食すら食べたことが無いので牛丼も食べたことありませんｗ
マンドラゴラなんて使ってませんよ、ただどっかの弟子の増幅された霊力で育った野菜名だけです！
samael様
大丈夫です！外見年齢なんて氷砂糖の思い道理です(待て
忠夫に実年齢は関係有りません、人間以外！
レジュム様
文珠に関しては次回に持ち込みです、一応考えてますがバランスの取れたものにするつもりです。
アミーゴ様
今回も千夜の男っぷりが氷が光ります。記念ＳＳでは千夜の女の子っぷりが全開です。
期待してくださいｗ
レンジ様
氷砂糖も言われたいですｗ
今回遅れてしまったので干物になってないか心配です、大丈夫でしょうか？
そうなんですよ、忠夫との関係実は進んでいるようで進んでいないんですよね。六道対抗戦の次で進展するかもしれません。
もうここまできたらハーレムは書けません。記念ＳＳを書き終えて覚悟を決めました。
神楽朱雨様
今回萌度は控え目です、記念ＳＳは全開ですがｗ
今は保護対象ぐらいです、あくまで今はです(おい
次回もご期待を。
yukihal様
ちーちゃんが完全に落ちるにはまだまだかかります、しかし落ちたときはすごそうです。
千夜とレインの人気がすごいなぁｗ
Ｔシロー様
はいレインの契約はそういう内容です、光源氏プロジェクト………ひのめちゃんとのダブルで(おい
今回は霊能試合になりました、しかも前後編です。
執筆活動がんばります！
内海一弘様
いえいえレインはいと無き確信犯です(待て
百合………水凪は無いけど穂波ならありそうですねｗ
次回もお楽しみを。
紅白ハニワ様
熱いパトスは1ちーちゃんで満タンなのです(泣き
そうなんです！千夜がどもったのは今回が初めてなんです！！レアですよ！！！
対抗戦はこんな感じです、期待を満たせたでしょうか？
ＳＳ様
記念ＳＳはこんなものではありません！期待してください！！
葉っぱの河流れ様
たしなみっすか！？まあそんな気もしますねｗ
新鮮ですよ、なんせ取れたてですからしかもまだ生きてますｗ
水凪と麻理確かに意気投合しそうです。
三馬鹿は次回に持越しです、予想はたいてい当たったものになると思います。
次回にご期待ください。
風彌様
まだだ！まだロリコンにはならんよ！？たぶん
氷砂糖も踊るほど新鮮な野菜は勘弁です。
次回もご期待を。