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「光と影のカプリス 第80話(GS)」

クロト (2007-06-25 19:27)
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「あら、横島クン……?」
「え、横島さん!?」

 横島の声でその存在に気づいた令子とキヌが彼の方に振り向いた。

「美神さんにおキヌちゃん、何でここに……?」
「私はここで仕事なんだけど、あんたは?」

 令子とキヌも意外な遭遇にびっくりしている様子だったが、キヌの方にはちょっと嬉しげな様子も見て取れる。

「ここは親父が勤めてる会社なんですよ。今日は付き添いみたいなもんで」
「へえ……じゃあその人が横島クンのお父さま?」

 と令子が大樹の方に顔を向けると、大樹は「ほー……!」と感心したような表情を見せた。それとほぼ同時にタマモが横島の上着の袖を軽く引き、小さいが鋭い声で耳打ちする。

「横島、上……!」
「―――!?」

 横島がはっと顔を上げた直後にみしみしと何かがひしゃげるような音が響き、ついで天井が崩れてその穴から首から下がスライムみたいになった悪霊が襲い掛かってきた!

「出たなゴーストスイーパー! GSは誰だろうが殺すっ!」

 悪霊が現れたのは令子の真上、おそらくこの場で最も霊力が強い者を最初の標的にしたのだろう。まだ戦闘態勢に入っていなかった令子は一瞬反応が遅れたが、事前に注意を受けていた横島は迎撃が間に合った。

「鋭ッ!」

 気合とともに指を突きつけて金縛りの術をかける。悪霊の落下速度が鈍ったところで、最新技の炎のブレスを吹きつけた。
 この技はスピードは剣や破術より遅いが、攻撃範囲は非常に広い。オレンジ色に燃える烈火が悪霊の全身を包みこんで炎上させた。

「ギシャアェアーーッ!」

 人語を話すだけあって、知覚も残っていたようだ。体表すべてを焼かれる痛みに悪霊がかん高い悲鳴をあげる。

「美神さん、今……って、何やっとるんじゃ親父ぃー!!」

 と横島が怒鳴ったのは、大樹が彼を凌駕するほどの反射神経で令子を抱えて悪霊の真下から飛び退いていたからだ。いやそれだけならまだ許せるが、2人がなぜか床にうずくまった体勢のままぽかーんとして、戦おうとも逃げようともしないのはどうしたことか。
 令子と大樹は横島がやった大道芸もとい謎の霊能に驚いていたのだが、横島から見れば初対面のくせにいちゃついてると思うのは当然であった。

「あ、は、はい! 私に任せて下さい!」

 しかし彼の声に応えたのは令子でも大樹でもなくキヌだった。ポーチから素早くネクロマンサーの笛を取り出し、霊を浄化する神秘の音色を奏で出す。

 ピリリリリッ、キィィィィン……!

 それは高く遠く哀しく、でも果てのないやさしさをこめた音色で。横島の術で動きがほとんど止まっていた悪霊は、ひとたまりもなく全身が溶け散って成仏した。もともと今日の仕事は令子の前衛でキヌがこうやって除霊する予定だったので、キヌにとっては前衛の人員が変わっただけでやる事は同じだったから反応も速かったのだ。
 悪霊が消滅したのを確認した横島が、さっそく父親の悪行を咎めようと1歩を踏み出す。

「親父ーっ、何会社の中で女押し倒し……て!?」

 ……が、その真正面に両目をうるうるさせたキヌが立ちはだかったせいで不発に終わってしまった。

「横島さん、すごいじゃないですか! 今のいったい何ですか?」

 タマモや令子、大樹には大道芸にしか見えなかった横島のブレスだが、天然と乙女の両属性を持つキヌには何かすごくカッコいい必殺技に見えていたのである。そして横島も尊敬のまなざしを向けてくるキヌを邪険に扱うことはできなかった。

「あー、いや。これは俺が戦いの中で会得した新技で、名づけて小竜火(シャオロニックファイヤ)……って美神さんんんん!?」

 と彼が叫んだ時はもう遅かった。タダスケが危惧した通り、なんと令子の方から助けられた礼にと大樹を食事に誘っていたのである。
 むろん美女からの誘いを断る大樹ではない。「喜んで……!」と内心のスケベ心を完璧に隠し切ったジェントルな返事で了承した。この辺り、横島と同類の煩悩野郎ながら年季の差が如実に現れている。

(ぐむむむむっ、1番助けになったのは俺なのに何でじゃ……!)

 確かにこの状況なら令子はまず横島に一言あってしかるべきなのだが、大樹の口説きテクはもはや神技の域に達しているようだ。
 歯ぎしりする横島だったが、令子の方から誘ったのでは彼に阻止する方法はなかった。下手なちょっかい出したらシバかれるのは自分である。
 タマモはどうでもよさそうな顔で沈黙していた。令子と大樹が結婚でもしない限り彼女には無関係な話だし、そもそも口出しをする立場にない。

「そういえば美神さんって、美人だとはよく言われますけど、可愛いって言われたことはなかったような……」

 キヌも令子と大樹のやり取りが聞こえていたらしく、ほえーっと手をあごに当てて驚いている。「こんな可愛らしいお嬢さんだとは思ってもみなかった」などというキザったらしい台詞に令子が頬を染めたのは、付き合いの長いキヌにとっても意外だったらしい。
 そのあと大樹は予定通り報告に向かい、令子とキヌも仕事の担当者に会いに行った。

「……って美神さん、結局俺は放置かいっ! 別に分け前よこせとは言わんけど、せめて礼ぐらい言ってもいーんじゃないのか!?
 いやこれも親父のせいだな。くそっ、やっぱりヤツは俺の敵じゃー!」

 ラウンジに残された横島ががあーっと思いのたけをぶちまける。令子だって大樹が何もしなければ彼にちゃんと礼を述べ、新技についての話もあっただろう。依頼料の分け前なんぞは初めから期待してないけれど……。
 タマモはそんな横島をジト目で流し見つつ、それでもフォローは入れてやった。

「別にいーじゃない、誰もケガせずにすんだんだし。今さら美神さんとこに戻ろうとか落とそうとかいうつもりはないんでしょ?」
「ん、そりゃまあそーなんだけどな。でも身内としてあの外道を放し飼いにはしておけんのだ」

 タマモの言う通り、横島もこの期に及んで令子を狙うつもりはない。いや美神事務所で10年がんばれば結婚できるかも知れないが、それはタマモや小竜姫に対してあまりにも不誠実だ。というかフラれる。
 しかしそれとこれとは話が別なのだ。知り合いの女性が目の前で父親に取られるのはやはり面白くない。

「うーん、どうしてくれよう。ここは支部長さんにチクるのが確実か? いや俺が言ったとバレたら後でシバかれるな……」

 タマモと並んでラウンジのソファに腰掛けつつ、顔を伏せてぶつぶつと呟く横島。傍から見たらまるきりアブない人である。

「……とりあえず、タダスケさんに報告せんとな。親父が来たらトイレだとでも言っといてくれ」

 と横島は席を立ち、どこかへ歩き去って行った。


「くそ、あのバカ親父め。やっぱりやりやがったか……!」

 横島から電話で顛末を聞いたタダスケが憤怒もあらわに握り拳を震わせる。彼もこの世界の令子が自分と結婚した令子とは別人であることは分かっていたから、まともな恋愛をするのなら応援してもいいとさえ思っていた。しかし父親に「つまみ食い」されるのは耐えられない。
 実際大樹は会社のOLたちを「君たちとはもう終わったんだよ」のひと言で切り捨てていた。令子と真剣な付き合いをするとは思えない。

「くふふふふ、今の俺なら怒りで文珠がつくれそうだぜ……。《不》《能》じゃベタすぎるな、この際だからすっぱりと《折》とか《腐》で終わらせてやるのも悪くないか……?」
「ちょ、ちょっと待ったタダスケさん。まだ未遂なのにそれはさすがにやりすぎなんじゃ……」

 タダスケにとって大樹はある意味他人だが、横島にとってはまぎれもなく血のつながった父親である。その辺やはり温度差があるようだ。
 もっとも横島とてタマモやカリンや小竜姫を押し倒されたら、切断か焼却かどちらか嫌な方を選ばせるくらいの行動に出るだろうが……。

「そーいえばタダスケさんが美神さんと結婚したってことは、美神さんと親父は嫁と舅ってゆー関係になるんだよな。たとえば正月に実家に行ったりした時は口説かれたりしてるのか?」

 横島のこの質問に対しては、タダスケの回答ははっきりしていた。

「いや、親父はコブ付きの女には手を出さん主義みたいだ。それに令子に妙なことしたらお袋とお義母……美智恵さんが黙ってねーからな。いくら親父でもそれはできんよ」
「なるほど、そりゃそーだな」

 息子の妻に手を出すのはただの浮気とは罪の重さが違うから、百合子も美智恵も激怒するだろう。その情景を想像した横島ズが真っ青になって震え上がる。
 タダスケは急いで話題を戻した。

「ま、それはともかく。俺は表に出れんし、令子の方から言い出したんならあまりあからさまな手は使えんな」

 たとえば大樹を文珠《熱》とかで寝込ませたりしたら、令子は横島が何かしたと疑うだろう。彼が令子に迫られてタダスケのことを吐いたら何かとマズいことになる。

「まだ場所と時間はわかってないんだよな。とりあえず、おまえは情報を集めることに専念してくれ。俺はどうやってジャマするかもう少し考えてみるから。
 ……すまんな、おまえにばかり面倒かけて」
「いや、面白くないのは俺も同じだし。んじゃまた後でな」
「ああ」

 と横島とタダスケは同時に電話を切った。


 横島がタマモのところに戻ってしばらく後、令子がキヌといっしょにラウンジに降りて来た。わりと楽に仕事が終わった上に久しぶりにデートができるとあって、かなりご機嫌な様子だ。

「あら横島クン、まだお父さま待ってるの?」
「ええ、遅くなるようなら連絡くれることにはなってるんですけどね」
「そう、しかしあんたもますます芸人っぽくなったわねぇ。いっそ吉○とかに転職した方がもうかるかも知れないわよ」
「いや、ここは霊能者としての成長を喜んでくれる場面でしょ!?
 ってゆーか、マジで親父とデートするんスか? 俺がいうのも何ですけど、親父はああ見えて俺以上のケダモンですよ」

 横島は心の底からそう信じているのだが、令子は平行世界でのタダスケの時と同様、あまり本気にしなかった。おそらく嫉妬してるだけだと思っているのだろう。

「助けてもらったお礼に食事に誘っただけじゃない。別に不倫にもつれこもーとか愛人になろーなんて思ってないわよ」
「そりゃなられちゃ困りますが……で、デートはいつなんスか?」

 横島がいくら止めたところで令子を翻意させることは難しいと分かっている。ゆえに横島はタダスケの依頼通り、そこは軽く流してなるべく自然な口調でデートの日時を訊ねてみた。
 しかし横島ごときのカマかけに引っかかる令子ではない。

「細かいことはまだ決まってないわ。っていうか、あんたに教えたらジャマしに来るでしょ」
「う、鋭い」

 どうやら令子から情報を得ることは不可能のようだ。横島はいったん口をとざしたが、初めから会話に加わらず3人を観察していたタマモは、キヌがなぜか不自然にそわそわしていることに気がついた。

(……ははーん)

 さすがは元傾国の美女、タマモはそれだけでキヌの内心が読めたらしい。
 しかし特に水を向けてやるでもなく、黙って見物している。キヌもみずから行動に出ることはせず、やがて令子とともに帰って行った。
 2人の背中を見送った後、タマモが横島に声をかける。

「ね、横島。おキヌちゃんが何か言いたそうにしてたのに気がついてた?」
「……へ? いや、気づかんかったな。美神さんのことだけで精一杯だったけど、何か言い出しにくい用事でもあったんかな?」

 やはり横島はそこまで繊細な注意力を持ってはいなかったようだ。タマモは小さく苦笑して、

「たぶん、横島を食事に誘いたかったんじゃないかな。美神さんが横島のお父さんを誘ったから、それと同じ発想で」
「おお! そう言えばおキヌちゃん生き返ってからはあんまりうちに来なくなってたからな」

 横島がいかにも納得いったという顔つきでぽんっと手を打つ。
 キヌは幽霊だった頃はよく料理や洗濯をしに来てくれたが、やはり生身の体を持つ女子高生が男の家に家事をしに行くというのは憚りがあるのであまり来なくなっていた。そして今はいい機会だったが、令子がいたから言い出しにくかったのだろう。
 むろん横島としてはキヌに食事に誘ってもらえたり作りに来てくれたりするのは嬉しいのだが、今回はちょっと間が悪かった。

「うーん、すると明日の朝あたりに電話が来るかも知れんな……チクショー、親父さえいなきゃとっても美味しいイベントなのに!
 やはり許しておけん、この横島が必ずや仏罰を下してくれる」
「……」

 くわっと天を睨んでそんな決意を表明する横島を、タマモが白っぽいまなざしで眺めていた。


 大樹と横島とタマモはとあるホテルのレストランで夕食をとった後、横島の家でタマモのことを詳しく話すことになった。
 食事はともかく、家にまでついてくるとは普通じゃない。タマモは見た目中学生だし、親として気になるのは当然だろう。

「……おまえ引っ越したのか? 確かもっとボロいアパートに住んでたと思ったが」

 案内されたアパートを見て、大樹が意外そうに横島の顔を顧みる。自分たちが渡している仕送りでは、ここの家賃は払えまい。
 横島は苦笑して、

「ボロってゆーなよ……それにちゃんと連絡はしただろ」
「ん? ああ、そーいえば母さんがそんなこと言ってたような気がするな。しかし家賃はちゃんと払えてるのか?」
「そー思ってるならもう少し仕送りをだな……いや、俺もGSのバイトでそこそこもらってるからな。ここの家賃くらいは何とかなるんだよ」
「GSのバイト? ああ、確かに昼間は悪霊を燃やしてたな。そうか、おまえも悪霊退治ができるのか……しばらく見んうちに強くなったな」

 父親に感慨深そうに褒められて、横島は軽く頬を緩めた。

「ああ、一応本免許も持ってる。だからバイトでもそれなりにもらえるんだよ。
 で、ここからが本題なんだが……実はこのタマモは妖怪なんだ。狐の変化(へんげ)、妖狐ってやつだ」
「は? この娘さんが……ヨウコ!?」

 さすがの大樹も面食らった様子で、目をぱちくりさせながらタマモをじっと凝視する。どう見てもただの女の子としか思えなかったが、しかし横島に頼まれたタマモが仔狐の姿に化ける所を見せつけられては信じざるを得なかった。
 横島の頭の上にちょこんと乗っかっている狐少女を見つめながら、

「うーん、あんな可愛らしい娘さんがなあ……いやちょっと待て。GSというのは悪霊や妖怪を退治する仕事なんだろう? それがなんでおまえの家にいるんだ」

 GSという職業に詳しくない者からすれば、それは当然の疑問といえるだろう。何か後ろめたいことをやってると思われても仕方のないところだ。

「ああ、悪霊退治といっても別に霊や妖怪は皆殺しなんて物騒なことやってるわけじゃないんだ。だから特に危険じゃないヤツだったら、GS資格持ってれば保護できることになってるんだよ。もちろん責任はあるけどな」
「つまり、このタマモさんはおまえがGS資格に基づいて保護している妖怪だって言うんだな?」
「ああ、タマモは決して悪い妖怪じゃないからな。まして人間として暮らせるヤツを殺すなんて間違いすぎだろ」

 ここからが正念場である。横島はぐっと気合いを入れ、眼と腹に力をこめた。

「法律的に言うなら、普通の人がワニとかドーベルマンとか飼うのに近いかな。一応タマモにも正当防衛は認められてるけど、人さまに迷惑かけたら俺が詫び入れにゃならんし、最悪退治しなきゃならなくなることもある。
 ……だから親父。今日はスチュワーデスさんとか美神さんとか口説いてたけど、タマモにはそーゆーことしてくれるなよ」

 これが横島が必死で考えた、大樹にナンパを自制させる論法だった。妖怪の扱いについて素人の大樹が勝手にタマモを連れ出して、下手なマネをして彼女が暴れるようなことにでもなったら大問題になる。大樹はもちろん、横島も本免許持ちのGSとして責任を問われることになるだろう。
 タマモが恋人であることは隠しているが、話した内容にうそはない。これでわかってもらえなければ、すみやかにお引取り願おうと思っていた。
 ―――しかし大樹も超辣腕のビジネスマンだから、そのくらいのことはすぐ理解できる。ここで間の抜けたことを言ったら息子が本気で自分を軽蔑するだろうことも察していた。
 ふうーっと大きなため息をついて、

「……そうか、たった2年ですっかり大人の男になったな。安心しろ、俺も息子の仕事の邪魔をするほど落ちぶれてない」
「ん? やけに素直だな……」

 横島がちょっと拍子抜けしたような顔で呟く。大樹が分かってくれたことは嬉しいが、こんなに簡単にいくとかえって不安になる。

「ああ、子どもに興味はないからな。いくら何でもさっきの姿じゃ色気がなさ過ぎる」
「そっちかよ!」

 横島はつい反射的にツッコミを入れたが、道徳的な理由で自制されるよりはこっちの方が安心できるのも事実だった。まったく困った親父である。

「ま、タマモに妙なマネせずにいてくれるんなら理由はどーでもいいんだけどさ……」
「はっはっは、俺もまだまだ衰えちゃおらんからな。
 ……しかし忠夫。今の話だと、おまえがタマモさんを保護しても何のメリットもないんじゃないか?」

 そこで改めて息子の顔を観察する。しかし横島はいたって真剣な顔をしているしタマモは狐の姿のままなので、2人がどういう関係にあるのかを正確に読み取ることはできなかった。
 一方横島はこういう質問が来ることも想定済みであったから、

「いや、そんなことはねーよ。タマモはメシつくるの上手だし、仕事も手伝ってくれてるからな。たとえば今日のアレだって、悪霊が襲ってくる直前に合図してくれてたんだよ」

 とよどみなく答えてみせる。要はタダで保護しているのではなく、それに値する仕事をしてもらっているということだ。
 ギブアンドテイクの関係なのだと言えば大樹もそう深くは怪しむまいし、タマモを保護することに強く反対もしないだろう。

「ほう? そうだったのか。いやおまえにしては手際がよすぎると思っていたが、そういうタネがあったんだな」
「ほっとけ!」

 このタヌキ親父、いつかギャフンと言わせてやる。と横島は心の奥で深く決意を固めるのであった。


 夜も更けて、横島宅の布団の中で。

(うーん、しかしこーなると美神さんの方をカバーするのは難しくなってきたな……)

 横島が声には出さないように呟く。隣に大樹が寝ているからだ。
 タマモを守り切れたのはいいが、あまりにカッコつけ過ぎたためか、大樹は自分を「大人の男になった」とまで高く評価した。おかげで彼の浮気に対して「両親の不和、ひいては家庭の崩壊につながる」といった「子どもの」都合は言い出しにくくなったのである。
 恋人だとか仕事で重要な関係があるというのならともかく、元雇い主というだけでは押しが弱い。また横島自身が恋人以外の女性といろいろやっているだけに、「浮気は悪いこと」なんて一般的なモラルを持ち出しても迫力に欠けるだろう。

(まさか親父、そこまで計算して俺を褒めたのか? いや、さすがにそれは考えすぎだと思うが……)

 今日の昼2年ぶりに会ったばかりなのに、そこまで深く状況を把握できるはずがない。たぶん偶然だろう。

(てゆーか、これ以上頭使ったら知恵熱出そーだ。明日のことは明日考えよう)

 と横島は泥縄にもいきなり思考を放棄して、さっさと眠りの園に旅立ってしまったのだった。


 タマモは自分の部屋に戻っていたが、まだ狐の姿のままでいた。
 万が一の用心というよりは、今人間の姿に戻ったら彼女自身が秘密を隠し切れなくなってしまいそうだったからだ。
 何しろさっきの横島は別人のようにしっかりしていた。それに恋人としての立場を隠すために保護者としての立場を持ち出すなんて考えてもみなかった。すごい! しかもそれはすべて自分のためにやってくれたことなのだ。
 いつだったかブラドーのときは「腰が砕けて」と表現したが、今回は「腰がコナゴナ」という感じか。もう立てない、10カウントKOだ。さっさと好きにしちゃってくれ。

(はあ、横島ぁ……もうダメ、とけちゃいそう……)

 タマモは幸せそうに小さな笑みを浮かべながら、布団の上で体を丸めてゆっくりと眠りについた。


 ―――つづく。

 ラスト近くで横島君ががんばりまくってますが、これはあくまで愛のパワー(ぇ)による一時的なブーストで、いつもこの調子でいられるわけじゃありません。
 ではレス返しを。

○アミーゴさん
>なんだこれ、すっかり新婚さんな雰囲気じゃないかw
 仲良きことは美しいのですが、高校生にしては気が早いですねぇw
 下心がチラチラしてるのは、横島君ですから当然なのです。たとえロリでなかろうとも!
>そして息を吹きかけられて悶える横島くんがちょっと可愛いと思ってしまった……orz
 でもこれはちょっと賛成いたしかねますが(笑)。
>あれは女の人がするような笑いではなく、汗臭い男のするもんだぞ?
 じゃあ魚座の人みたいな感じで<マテ
>久しぶり
 まったくですorz

○Tシローさん
>ほのラヴとかいちゃラヴとか見たかったのに〜〜〜っ!!!
 いろんな意味で許しがたい親父でありますな。
 果たして天誅は下るのか!?
>ココでは横島VS大樹よりタダスケVS大樹になりそうですな
 どうやら連合軍になったようです。
 がんばれ忠夫ズ、エロ中年の野望を粉砕するのだ!

○名無しのGSさん
 はじめまして、よろしくお願いします。
>横島の警戒の仕方
 初めての恋人、しかも年下で「保護」妖怪ですからね。彼もそれなりに自覚があるようです。
 単に独占欲が強いだけ、という見方もできますがー(笑)。
>久しぶりの二人
 は、ぜひお久しぶりに相応しい活躍をさせてやりたいものですが……書けるかな自分?(ぉぃ

○KOS-MOSさん
>いちゃいちゃして、らぶらぶ
 一応恋人ですからねぇ(笑)。
>横島の今の真の状況(タマモ19Verなど)をしったら
 ロクなこと考えないのは確かでしょうな┓(´_`)┏
>美神が横島の成長しったら問答無用でしばきそうですがネー
 成長したからシバくというのはさすがに無理があります(笑)。
 1度いてこまされるべきというのは同感ですがー。

○趙孤某さん
>横島はタマモを欲望の権化、ひいてはGMから守れるのか!?w
 とりあえず大樹の毒手からは守りきったようです。しかしあくまで保護妖怪としてですから、油断は禁物といったところでしょうか。

○チョーやんさん
>前回はかなり失礼なレスをしてしまい、申し訳なく思っております
 いえいえ、お気になさらず。また何かお気づきの点があれば遠慮なく書き込んで下さいませ。
>う〜む、ココのタダスケさんでは成長促進剤にはなりませんかねぇ
 確かに横島よりはずっとマシなんですが、彼もギャグ要素強いですからねぇ。手本にするなら小竜姫さまか唐巣神父にすべきじゃないかと思うのですよー(^^;
>今回はおもいっきり甘甘ですねぇ〜、思わず鼻からザラメが出そうになりましたよw
 や、そう感じていただければ書いた甲斐がありますですよ。
>かなり時系列がずれてる気が…
 何しろGS試験前にタマモや魔鈴さんが出てるSSですので、その辺はご勘弁下さいませとしかorz
>おキヌの扱い
 うぐぅ(o_ _)o
 いえ、筆者ももっと出番を増やしたいとは思っているんですが、構想力が伴わないのが大変はがゆいであります。

○ばーばろさん
>全身カユくてカユくてたまりませんでした
 うちの横タマは日々あんな具合にいちゃついてばかりいます(ぉ
>横島パパ
 原作通りに令子とデートになりましたが、忠夫ズはちと劣勢になっているようです。大樹宅の電話番号は変わってるでしょうから、百合子には連絡取れないでしょうし(笑)。
 タマモンはとりあえず守りましたです。横島君を褒めてやって下さいw
>カリ城のクラリス&伯爵と絵柄が(脳内で)ダブッて見えました
 あははー、確かにイメージ近いかも知れませんねぇ。
 忠夫ズの方も(ぇー
>竜火と狐火をお互いに吐くカップル・・・ムテキ???
 やはりGSより芸人の道を歩んだ方がいいような?
>生身で手から刀を出すって、すでに人間じゃないような・・・というか、「神」?
 いあいあ、あれは原作の霊波刀と同じ形のものですから。デザイアブリンガーや青竜刀みたいな普通の剣のような形のものではありませんです。
 まあ「邪神」と呼ぶなら問題ナッシングかと思いますがー(笑)。
>何を今更・・・カプリスお色気担当大臣ですよ(w
 そちらですか(笑)。
 しかし確かにドジとお色気は相性いいですし、実に良い役職だと思いますが<マテ

○読石さん
>危ない位仲良しな兄妹に見えてしまいました・・・其れは其れでGJですが!
 何しろ実際に危ないことも……げふんげふん(ぉぃ
>接近戦とかで役に立ちそうなのにお笑いの場面しか思い浮かびませんな
 芸人として正しい姿ですねぇ。実戦で使ってもやっぱり芸扱いですからw
>横島君嫉妬しないのこと
 こういうオチがあったのでありますよー。
 まあ事前にタダスケに話を聞いてたこともありますし、仰る通り持てる者の余裕というのもありますけど。

○通りすがりのヘタレさん
>帰りし父は、立派に事務所の会計士をやっている息子に何を見るのか
 会計どころか経営自体つとまってますからねぇ。原作での舐めっぷりを見るにかなり驚きそうでありますな。
 横島君が大樹を小山事務所に連れて行くとは思えませんけど(笑)。
>タマモ
 ほんとーに久しぶりの出番でした。じっさい彼女は横島君とはけっこういいコンビになれると思うのですよー。本物の幼女という形態もありますし<マテ
>ここの横島君はどれだけ父を出し抜いてくれるのか
 今回は愛のためにがんばりましたですよー。意味があったのかどうかは不明ですが(笑)。
 しかし大樹は素直に出し抜かれた方が幸せかも知れませぬ。
>大樹のことだから出会った瞬間に横島の現状(ハーレムモドキ)とついでにタマモの正体に感づいているんだろうなと邪推しつつ
 今のところ隠せてますが、最後にどうなるかはまだ闇の中ですねww

○遊鬼さん
>しかし、二人でいるとホントにイイ雰囲気ですね
 そうですね、なのになぜ横島は他の女性まで追いかけるのか(笑)。
>ますますタマモとお似合いな感じで
 タマモの方は自分と同種だと認めたくはないようですがw
>まさか会社で美神さんと出くわすとは
 忠夫ズがどんな妨害活動に走るのか、期してお待ち下さいませー。

○whiteangelさん
>横島&タマモのバカップルは上昇中ですか
 ますます上昇中です。横島のくせに(笑)。
>大樹
 この男が美女をスルーなんて有り得ませんよー。どんな狡猾な手を使うのか予断を許しません。

○HALさん
>親父、GM
 ラスボスの前にまず中ボスと戦うのがお約束ですからねぇ。横島君が乗り越えられる相手とも思えませんが(笑)。
>令子&おキヌと遭遇
 妙なことになってきましたですよー。果たして忠夫ズはいかにして令子を守るのでありましょうか。

○北条ヤスナリさん
 はじめましてでしょうか。ぜひ横タマのラヴとほのぼのっぷりに癒されて下さいませ。
>カリンを見た大樹がどうするのか?
>手を出そうものなら近親相姦?(;゜д゜)
 近親相姦、しかもホモ!?
 さすがの大樹もそこまでアブノーマルじゃないと信じたいところですね(^^;
>たしか三大欲求は食欲、睡眠欲、排泄欲だったような気が……
 私が調べた限りでは、食欲・性欲・睡眠欲となっておりましたのでそう致しました。何より横島君ですから!

○鋼鉄の騎士さん
>2,3歩踏み抜いてないか?
 いやいや、横島君なら火を吐くくらい芸で済むかとw
>とゆうわけで諦めて人間のままでいなさい横島君、君は人間で不死身だから面白いんだからw
 ひどい(笑)。
 彼は愛のために高みをめざす健気な少年だというのに(ぇー

○内海一弘さん
>このタマモとの同棲がどう言った形で理解されるかによって、GMとの絡みが大幅に変わりますね
 今のところはビジネスライクな関係だと思われてますが、いつまで隠し通せるか見ものであります(笑)。
>タダスケはこのまま良いとこなしで美神を親父に寝取られてしまうんでしょうか(笑)
 そんな哀れな(^^;;

○Februaryさん
>ココにきて「父帰る」ですか!? 予想外です
 筆者にもかなり予想外です<マテれ
>ぐはぁ!(吐血)そんなセリフ言われてぇ
 筆者もですorz
>灯油を口に含みマジで火を吹いた女性がいましたww
 すげぇー、尊敬しちゃいますな(‘ー‘)/~~
>関西人なら芸人扱いに誇りを持て!!
 クラスメイトとかならともかく、恋人や元雇い主からというのはさすがの横島君も傷つくのでありましょう(笑)。
>姫と隊長は逆に常識云々と説教しそうな・・・
 世間一般で通用する常識ではなさそうですが(ぉ
>誤字報告
 ありがとうございますー。
「味合わせる」という表記もありますけど、元の言葉からすると「味わわせ」の方が正しいのかな? 日本語って難しいです。
 修正しました。

○UEPONさん
>相手の好みに合わせて外見を自由自在に変えられるのが究極の美女だと言うL様のお言葉がありましたねそういえば
 むう、まさにタマモンそのまんまですな。織姫もですがー(爆)。
>栄光の手を正式名称に採用ですか?
 は、ここは原作に準じてハンズオブグローリーにいたしました。
 せっかくのご意見ですが、そういうことでご了承下さいませ。
>大樹さんに調べて貰うのはどうでしょう?
 ほほう、それも一案ですな。
 今の状況だと横島の口からは頼みにくいですが、何らかの形でそういう展開になるかも知れませぬ。
>タマモが自宅で一人きりの無防備状態になってたのは事件の伏線かな? と思ったもので
 なるほど、確かにそういう線は大いに考えられましたねぇ。
 私には書けませんけれどorz

   ではまた。

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