唇に紅を引き、顔に白粉をはたき、鮮やかな着物を身につけ、長い髪に櫛をとおす。
「よ、よく似合ってるぞ」
高島が噴出しそうになりながらも懸命にほめ言葉を口にする。
「本当に似合ってますね」
彩られた人物を見てメイが感嘆の声を漏らす。
「化粧のしがいがありました」
どこか満足げに千夜が胸を張る。
「髪が長くてちょうど良かったですね」
絹が苦笑しながら答える。
「ほんとよく似合ってるぜ、西郷」
女物の着物を着た人物、西郷は額に青筋を浮かべ黙り込んでいた。
それ時、最初の歯車
―来ちゃった人―
提供 氷砂糖
「高島、私が女装をせねばならぬのか?」
一抹の希望を込めて西郷は高島に聞く。
「もちろんだ西郷!」
満面の笑みで答える高島に殺意を抱いても誰が攻めれよう、西郷は符を握りしめる。
「えっと、大丈夫です西郷様、とってもよくお似合いです」
メイが一生懸命フォローしようとするが、結果は西郷に止めをさしただけだった。
「そうだぜ西郷、こんなに美人なんだ怒ってちゃもったいない、ゼ!?」
明らかにからかっている高島には罰が降り注ぎ、降らせた人物はそ知らぬふりをし西郷に話しかけた。
「西郷殿申し訳ない、本当ならば私がやればよかったのっですが………」
「いえ、千夜様がなされるのでしたら私が変わりに………」
千夜と絹の二人は、西郷の様子を見て自分が変わりになればと言い出した。
「で、西郷この二人を見て未だなんか言うことあるか?」
「………………………何も無い」
何時の間にか復活した高島のうれしげな言葉に、西郷は反論することが出来なかった。
「まっ、恨むならその鬱陶しい長い髪と、めんどくせえ依頼を持ってきた陰陽頭を恨め」
「いや恨むなら、このような事件を起こした犯人を恨もう」
西郷は茶化したような高島の台詞に真剣な声で答える。その声には事件を起した犯人に対する憤りが含まれていた。
「………西郷よ」
「なんだ」
「その格好でかっこつけられてもな………」
「………………」
高島の視線には、哀れみが込められていた。
「西郷、高島両名最近この京を騒がせる、吸血事件のことを知っているか?」
威厳を持った陰陽頭の声が響き渡る。その様子は普段の様子からは想像することすらできない。
西郷は思う何故自分の周りには腕は確かだが、性格的に困ったやつが多いいのだろうか。
「はっ存じております。何でも夜にであるく者を襲い、襲われたものは全身から血を奪われているとか」
こういう場で発言するのは西郷の役目である。高島の性格以前に西郷の方が身分が高いためであるが、取りあえず西郷は今隣で平伏したまま寝ている馬鹿を無性に殴り倒したかった。
「うむ、その通りだ」
陰陽頭は頷くと、本題を切り出した。
「西郷、高島両名にこの事件の解決を依頼する、心してかかれ」
「は!」
西郷は声を上げ了承の意を表する。
「うむ」
その声を聞いて陰陽頭は満足そうに頷くと高島を見て一言。
「ところで西郷、もう我慢する必要はないぞ?」
直後西郷の拳が平伏したまま寝ている高島の後頭部に突き刺さった。
「はあ………」
依頼を受けたときに事を思い出して余計憂鬱な気分になったが、仕方が無いことときっぱりと忘れることにした。これが高島と付き合っていくのに必要なスキルである。
高島はそんな西郷の内心をまったく気にせず、話を進めることにした。
「たいていの犯行は日が沈み明けるまでの間、まっ、典型的だな」
「そうだ他の共通点としては殺された被害者が、体中から血を全て抜き取られているということだ」
その話を聞いて、千夜と絹、メイは顔をしかめている。
「改めて聞いてもむごい話です」
「ええ」
「そうですね」
暗くなる空気を嫌ってか、高島は話を進める。
「取りあえず西郷が劣りになって犯人をひきつけ、隠れてる俺らが奇襲これでいいな?」
「「「はい」」」
三人娘が頷くが、西郷は何かに気付いたのか何か考え込んでいる。
「なあ高島」
「なんだ?」
「囮になるだけなら女装する必要はないのではないか?それなら………」
「男、しかも陰陽師の格好をしていて油断してくれると思うか?」
西郷は黙り込んだ。
「じゃ決定な」
高島はとても楽しそうに宣言をした。
日は沈み、夜が更ければ京は魔都とかす。
夜の道を一人歩く。
「まったく、こんな事で本当に捕まえることが出来るのか?」
西郷は愚痴をこぼしていく、どうやらまだ踏ん切りがつかないようだ。
「これで今日出てこねば、今度は絶対あやつにやらせてくれる」
どうやら今回のことは彼にとってもかなりストレスがかなり溜まることのようだ、西郷の表情が高島の女装を想像してか邪悪に歪む。
「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふ」
だがそんな彼の邪悪な考えはかなうことはないようだ、なぜなら、
彼の目の前に一人の“鬼”が現れた。
「な!」
西郷は息を飲む、現れた“鬼”は彼の知る“鬼”とはかけ離れていたからだ。
その纏し装束は見たことが無く黒一色、
その目は紅く、髪は闇夜に映える金、
「っく」
紅い目に視られた。
小指の第一関節すら動かせない、
西郷の様子を見て“鬼”は嗤う、
視線を逸らせれない、
“鬼”が西郷に迫り西郷の顎に手をかけ、上を向かせ喉を露出させる。
体に力が入らない、
“鬼”がゆっくりと口を開き発達した犬歯を露出させ、喉に犬歯を食い込ませようとしたその時!
「よっしゃあ!今だメイやれ!!」
「はい!」
高島の号令と共に、メイが式神を走らせる。
十二鬼全部。結果、
「ゴハ!」
「ガハ!」
“鬼”は空を飛ぶことになった、………………西郷ごと。
「よく飛びましたね」
「ええ」
まさかこういう結果になるとは思っていなかったのだろう、千夜と絹は綺麗な山なりに落ちていく西郷をうつろな表情で見ていた。
「西郷様すみませんでした!まさかあんなことになるとは、わたし、わたしかんがえてなくて………」
グシグシ泣きながら、メイは必死に西郷に必死に謝っている。
「あーー、メイ気にすることは無い、誰にでも失敗はあるものだ」
西郷はなんともいえない表情でメイの頭をなでた。
「そうだぞメイ、むしろ西郷の危ないところを助けたんだ。むしろ西郷の方が礼を言ってもいいくらいだぞ」
後ろから何かを言っている確信犯、しかし高島の言っていることを否定すれば先ほどメイに対して言った言葉が矛盾するので西郷は何もいえなかった。
「そ、そうだぞメイ危ないところを助けてもらった、私の方こそ礼を言うべきだ」
「はっはい」
取りあえず白夜の嘴を高島の後頭部に突き刺しながら、千夜は話を本題に戻そうとする。
ちなみにその後ろでは絹が血を噴出させている高島を見てあわてている、どうやら彼女はまだなれていないようだ。
「とりあえずこの方はどうなさるのです?」
そういって千夜がほっそりとした指で指差したのは、注連縄で縛られた金の髪の男だった。
「重石を抱かせて川に沈める」
間髪入れず答えたのは高島ではなく西郷だ、どうやら女装させられたことをかなり根に持っているようである。
「ここは?」
身の危険を感じてか男が目を覚ましす。
「ちょうどいい、貴様はなんだ?」
今まで出会った妖怪などとは違う、その疑問を解決しようと思ったのだろう。西郷は男に問う。
「余はこの国の言葉で言うなれば吸血鬼である」
「吸血鬼?なんだそりゃ」
高島は聞いた事の無い言葉に首を傾げる。
「うむ、とある御仁に教えてもらった言葉から余が作った言葉だ。吸血鬼つまりは血を吸う鬼である」
無駄にえらそうに縛られたまま胸を張る自称吸血鬼、絹は会話のうちに違和感を感じたのか首をかしげている。
「……この国の言葉……あなたは大陸からこられたのですか?」
吸血鬼はこの国と口にした。つまりそれは吸血鬼がこの国出身ではないということだ。
「いや、余貴様らが言う大陸のさらに西から着た」
吸血鬼の言葉に西郷と高島は目を見張る。大陸から日本に渡ることはかなりの危険を伴うからであり、さらに遠くとなるとどれ程の危険が伴うのか見当も付かないからだ。
「そんな遠くからどうやって来たんだ?」
その為高島の疑問はもっともなのである。
「ちょうど今日のような夜のことだ、余気分よく空を飛んでいてな」
「ちょっと待て、お前飛べるのか?」
「うむ飛べる、なんせ吸血鬼であるからな」
「すごいんですね吸血鬼って」
飛行能力を有した式神を持つ少女が、尊敬のまなざしで吸血鬼を見る。
「うむ、すごいであろう」
胸を張る簀巻きの吸血鬼、
「説明になってないぞ、もういいから話を進めてくれ」
「わかった、その時余ふとどこまで飛べるか試してみたくてな、高く高く飛んでみたのだ。余もそれまで知らなかったのだが、雲の上の上にはものすごい速さの風が流れていてそれに流されてしまったのだ。そして自分の住む島の近くの半島が長靴の形をしてると発見してした時の感動は忘れれん」
うむうむと頷くぐるぐる巻きの吸血鬼、
「それでここまで流されてきたんですか?」
気の毒そうな表情の絹、彼女は吸血鬼の話を信じたようだ。
「いや、一度大陸に降りたのだがどこまで行けるのか気になってもう一度風に乗ってきたのだ。それでこの国におりたったのだがその時にとある御仁にこの国の言葉を習ったのだ。習いたてにつきおかしな所があるらしいがな」
「とある御仁?」
「鼻が赤く長い御仁であった」
何処か懐かしそうな顔をする吸血鬼、
「そうそう、その時文字も少し教わってな、余自分の名前もかけるぞ」
そういうと吸血鬼は唯一自由になる足ですらすらと字を書き出した。
その文字は、
『ぶらぼう』
「へえ、ぶらぼうって名前なのか、変わってるな」
「じつはぶらぼうとは余の近くの国の言葉で素晴らしいという意味がある。まさに余にちょうどよい名だ」
ぶらぼうの様子に西郷だけが頭を抱えている、他の者たちはぶらぼうを捕まえた理由を覚えていないようだ。
「もういい、ぶらぼう何故貴様は人から血を全て奪い取る」
「待て、なんの事であるか?余確かに人から血をすうが、干からびるまで吸ったりはせんぞ。せいぜい貧血になる程度だ」
「何?」
西郷はぶらぼうの言葉に頭を回転させる。今までの様子から嘘は言ってないだろう、ならば他に犯人がいるということだ。
「高島」
「ああ、他に犯人がいるな」
二人が共通の回答にいたったその時、
「バ、化け物だーーーーーーー!!!」
人の悲鳴が聞こえた。
ぶらぼうを縛ったままほったらかしに、悲鳴の聞こえた場所へ到着すると、そこには大きさが大人三人分はあろうかという”蛭”がいた。
”蛭”は男の首に食らい付き、男の血を嚥下していた。
「よし行け西郷!骨は拾ってやる!!」
こんなときにもボケを忘れず、いや本気かも知れないが高島が西郷をけしかける。
「お前もこい!」
ちなみに女性陣は一緒についてきていたが、”蛭”の姿を見た瞬間後ろに下がっている。
「疾!」
高島は木行符を投げつける。”蛭”とは水行に位置する生き物、ゆえに相克の理により木行により剋されるはずだった。
「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」
”蛭”が甲高い声で鳴いたのだ、そして”蛭”の鳴き声の振動で符がビリビリに破れてしまった。
「げ!」
「何だと!?」
高島と西郷は驚きが隠せない、なぜなら高島は符を使うことに特化した陰陽師である。つまりこの場合高島は、
「役立たずということか!?」
「どやかましい!」
西郷の身も蓋もない台詞に高島が食って掛かる。がその隙を突いて“蛭”が高島たちに襲い掛かった。
「キシャァァァッァァァァァァァァ!!!」
高島が無駄と知りながら符を投げつけようとしたその時、
ボゥン!
「キェェェェェェェェ!?」
青色の手の形をしたものが“蛭”を吹き飛ばした。
「なんだ!?」
“蛭”を吹き飛ばした方向、そこにはいつも間にやら縄から抜け出したぶらぼうがいた。
「ふん醜い、余と同じ血を吸うというならばもっと美しくあってほしいものだな」
ぶらぼうは不適な笑みを浮かべ“蛭”を見る。ちなみに高島たち五人は呆気にとられたように動けないでいた。
「キシャァァァッァァァァァァァァ!!!」
“蛭”は吹き飛ばされた場所から起き上がると、脅威と認めてかぶらぼうを威嚇する。
「ふむ、虫の癖になかなか頑丈な。よかろうどこまで耐えれるか、余が試してやろう」
「キシャァァァッァァァァァァァァ!!!」
“蛭”はぶらぼうの台詞が終わる前に突進を開始する。
「食らうがいい」
ぶらぼうは慌てず宣言する。手と手を合わせ腰だめに構え、“蛭”がぶらぼうに喰らい付く寸前に両手を前えと突き出した。
「ヴァンパイ波動拳!!!」
“蛭”は吹き飛び土壁にぶつかり停止する。
「師に比べまだまだ弱いか、精進せねばならんな」
ぶらぼうは一言つぶやくと、改めて”蛭”を見た。
あちこちから体液を撒き散らしながらそれでも“蛭”は起き上がり、ぶらぼうに向き直る。
「まだ動けるのか、よかろう次は手加減なしでいこう」
ぶらぼうはそう言うと呼吸を始める。
深く、浅く、遅く、速く、
その呼吸法は西郷にすら覚えが無かった。
「キシャァァァッァァァァァァァァ!!!」
迫る“蛭”しかしぶらぼうは動くことなく“蛭”を見つめ、“蛭”が間合いに入る寸前。
「ゆくぞ!」
ぶらぼうが飛び出し、噛み付こうとしていた“蛭”の頭を殴りつけた。
「伝われ!余の波紋よ!!」
ぶらぼうの拳を起点に“蛭”の体が波打ち、そして、
バァン!
破裂した。
「ふはははははははは!余の『波紋』も捨てたものではない」
「お前が波紋使っちゃあかんやろ!」
高島の脳裏に走った意味不明の突込みを口にしたとして誰が攻めれるであろう。
「何をいう!余が大陸に降りた時必死に練習して教わったというのに!!」
「やからってそれだけはつこたらあかん!どこぞの第二部の人物みたく自殺するきかい!」
高島の剣幕にぶらぼうは小首をかしげる。
「そんなことになりはせん。ヴァンパイア波動拳も波紋も気の力の応用であるぞ?」
「気の力?」
「うむ、ヴァンパイア波動拳は気を飛ばす遠当ての応用であるし、波紋は気を直接相手に打ち込むものである、使った時相手に対して衝撃が波紋のように広がるから波紋と名づけたのであるが?」
ぶらぼうの解説にそれならいいかと高島は納得した、というよりこれ以上突っ込みたくなくなったというのが正直な所である。
「危ない所を助けられたのは感謝する。それよりどうやって縄から抜け出したんだ?」
今回西郷はやさぐれるているようだ、どこか言葉遣いが荒い。
「余は霧にもなれる」
「そうか………」
ぶらぼうの言葉にもうすでに霊的に封じ込める、とかそもそもなんで最初から出てこなかったとかそういった突込みが西郷の中から一切消え去っていた。
「すごいんですね吸血鬼って」
「すごいのだ少女よ、何ならなってみるか?」
「ちょっと待て、なれるものなのか吸血鬼って?」
「なれる、余にちょこっと噛まれれば」
西郷はその言葉に聞き逃せないものが入っている事に気付いた。
「今まで噛んだ者はどうなるのだ、まさかすべて吸血鬼になるのではあるまいな」
静かな詰問に、ぶらぼうはあっさりと首を横に振る。
「なりはせん、余が望んだものだけである。第一そうでなければ鼠算並みに増えていって大変なのである」
「そうか」
西郷はどうやら速く帰りたいようだ、聞くことを聞けばやる気がぐんぐん抜けて行くのが手に取るように分かる。
「これからどうするんです?」
純粋な好奇心からだろうかぶらぼうにこれからどうするのを問う。
「夏という暑い季節がこれから来るそうなので北に行こうと思っているのである」
「そんな理由で決めるんかい」
「もともと宛があっての旅ではないのでな、気分気ままにふらふらしてみようと思っているのである」
「ぶらぼうさんお気をつけて」
どこまでも礼儀正しいというか、天然というか、メイはぶらぼうに挨拶をする。
「うむ、また縁があれば会うこともあろう、ではさらばだ!」
そういうとぶらぼうはマントをなびかせ空高く飛び上がっていった。
「………………なんというか、嵐のような人でしたね」
「はい」
もうすでに深く考えることを放棄したのだろう、千夜と絹が感想のみを口にする。
「西郷」
「………………………なんだ」
「頭抱えてる時に悪いが、今回のことどうやって報告するんだ」
「どうもこうもあるまい、ありのままに報告などできない以上我々が倒したことにするしかあるまい」
“蛭”を倒したぶらぼうはもうおらず、あるのは“蛭”の死骸だけである。西郷の言うとおりにするのが一番手っ取り早い。
「まあ、それは分かったからいいとして」
「なんだ、私は速く帰ってねたいのだが」
「今回女装したことまで話すんか?」
「………………………………………」
西郷は答えることは無かった。
………………………………氷砂糖です
歯車の方スランプです、ええこんなネタしか思い浮かばない………………俺の馬鹿、
とりあえず一つだけ『ぶらぼう』は本当の名前ではありません、『ぼ』を『ど』に変えたのが正体です、なんとなくこの時代でも生きてそうだなーと思って出しました。たぶんもう出しません。
ではまた次回。
RJ様
始めまして、うう楽しんでもらえてるのに今回こんなので申し訳ないです。
誤字は亡くすようにします。
ポニーで駆けるのと必死に牛に鞭打って牛車で行くのではまだポニーのほうがましだと思って馬にしたしだいです。
アミーゴ様
はいどんどんリンクが繋がってきます。今回は事務所メンバーではありませんがなんか出てきました。
レン様
誤字報告ありがとうございます。
紅白ハニワ様
なんかおキヌちゃんぽいのを出しちゃったことです。
え、えっと華のほうの方でしょうか?
内海一弘様
楽しみにしていただいてるのに今回こんなんです(泣き
自分でも書いてて高西コンビはすきです。
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