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「それ時、最初の歯車、―歌いし歌は誰が為―(GS)」

氷砂糖 (2007-06-11 19:45/2007-06-11 22:37)
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「アオーーーーーーーーーーーン」

「アオーーーーーーーーーーーン」

 草木が眠り、妖魔が行動を開始する丑三つ時、

「アオーーーーーーーーーーーン!」

「アオーーーーーーーーーーーン!」

 京の都の一角で、犬のように高島と西郷が夜空に吠えていた。

「アオーーーーーーーーーーーン!!!」

「アオーーーーーーーーーーーン!!!」

 どうやら大分自棄になってきたようだ。


それ時、最初の歯車
―歌いし歌は誰が為―
提供 氷砂糖


「大体なんで俺らが検非違使の真似事なんぞせにゃならんのじゃ」

 二人が犬真夜中に吠えていたのは、断じて気が狂ったわけではない。

「腐るな仕方なかろう、最近この辺りにおいて異常が起きているのだ。そのため陰陽頭よりの依頼があったのだ、無下には出来まい」

 犬の遠吠えには魔を退ける力があり、そのため検非違使達は夜の見回りのさい犬の鳴き声の真似をしていた。

「異常といっても、この辺りにいた霊たちが居なくなったんだろ?別にいいことじゃないかよ」

「とはいっても一匹の悪霊が他の霊を取り込んだとしたらどうするんだ?」

「それはそうだが、大体先に調べるくらいの事はしてほしいぜ、まったく」

 西郷は最悪の予想を高島に告げるが、高島の不満は尽きない。

「いざという時の為、何があっても死にはしない者を使いたいのだろう」

「最近俺に対する陰陽頭の扱いが荒い気がするんだが?」

 そうなのである、あの御前試合以来陰陽頭から直々の依頼が多く入るようになった。
いくら高島とは言え陰陽頭直々の依頼はさぼれなっかた。

「上のやつらは、俺のことを何だと思ってるんだ」

「上の者にとっては、身分が低いくせに力だけはある厄介者。さらに上にとっては、使い勝手のいい手ごまといったところか」

 まあ使いやすい者は高島だけで、西郷までここにいる必要はなかったりする。

「たく、今夜は千夜が飯を作るんだったのに……」

「それが原因かい」

 西郷は高島の不貞腐れていた理由を知ると肩を落とした。


「で、何か感じるか?」

「や、何も」

 散々愚痴を言った高島は気分を切り替えたようだ。

「大体、何もないものを探すのって難しくないか?」

「当たり前だ」

 当然の事を聞く高島に、当然の事を答える西郷。どうやら二人とも何も見つからないようで機嫌が悪いようだ。

「十字路にまで居ないな」

「ああ」

 十字路はあらゆるモノの通り道、幽霊の類が溜まりやすいのだが、今は影も形も見えない。

「明らかに異常だな」

「しかしこれだけ異常だがまったく霊感が働かないな」

「そうか?俺はなんかこー後ろから撲殺されそうになるんだが、別に悪くないような感じがするぞ」

「……どんな感じだ」

 高島が感じている事は、西郷には感じないようである。

「分からんか?」

「分かるか」

「そうか」

 高島は少しさびそうだった。


「…………西郷何か聞こえないか?」

「聞こえるな、これは…………歌?」

 風に乗って二人の耳に微かな旋律が届く、悲しみを乗せ、哀れみを乗せ、優しさを乗せ、
そしてわずかばかりの共感を乗せて。

「あっちのほ……」
「女の声や!」

 高島が西郷を押しのけ駆け出した。走れ高島!駆けろ高島!陰陽寮最大のたらしが追いつくその前に!

 高島はこけた西郷を残して走り去っていった。


「ここや!」

 ズザァァァァァァァァァァァ!

 土煙をたてと待った高島の目に入ったものは、

 歌う一六歳位の一人の少女と、彼女の周りを駆け回る何人もの子供の霊だった。

 歌う少女の周りを子供の霊が笑いながら飛び回る。

 あっけにとられている高島に西郷が追いつた。

「これは…………」

 歌が止み少女がこちらを向き、目を見開き驚いた表情を見せている。

「………………」

「………………」

「………………」

 三人の間になんとも言えぬ奇妙な雰囲気が訪れるが、一人の子供の霊が少女の手を引いた。

「あ、ごめんねどうしたの?」

「………………」

「そう、行く気なったんだ」

「………………」

「うん、また合おうね」

「………………」

「またね」

 子供の霊の姿が薄れていき、消えた。

「成仏したのか……」

 信じられない光景だった、陰陽師や坊主でない単なる娘が霊を除霊する事など、ありえないことだった。

 それを見届けたほかの子供の霊たちは、四方八方に散っていった。

「あの……」

「すまないが話を聞かせてもらえるか?」

 話しかけられて我を取り戻した高島たちは、取りあえず話を聞くことにした。


 少女の話を要約するとこういう事だった。

 少女の名前は絹といい、この近隣に暮らしているそうだ。

 絹はこの辺りに用が在るときに帰りが遅くなり、子供の霊が泣いていたのを見つけ何とかしようと歌を歌ったところ、霊が集まってくる様になったそうだ。

 それ以来絹は夜になるとこの場所にやってきては歌を歌うようになったという。

「…………なんつうか、歌って霊が集まるようになったから歌いにくるようになったって普通じゃないよな」

「そうでしょうか?」

「普通の者は霊の姿を見れば逃げ出すものだ」

 そうなのである、この時代悪霊などは非常に恐れられており、無害な霊なども恐怖の対象になるが普通であるが、

「でも子供の幽霊さんでしたし」

「幽霊にさん付け……」

 どうやら西郷は呆れて何もいう気になれなくなってしまったようだ。

「それよりも絹さん」

「はい?何でしょう」

 高島は絹顔を真剣な表情で見つめると口を開いた。

「私と一夜の褥をとも、ゴハ!」

 まあ台詞を言い切る前に西郷に殴られて吹っ飛んで言ったのだが。

「お願いだからまともな思考を初期段階でしてくれないか?」

 西郷にとっては切実な願いだ。

「あの、大丈夫ですか?」

 絹は吹っ飛んだ高島を心配して駆け寄るり、心配する必要はございませんお嬢さんと立ち上がろうとした高島を、西郷は踏んで押しとどめた。

「まあ取りあえず今度は、このようなことはあまりせぬようにしなさい。今までは平気であったが今後何が起きるかは分からないのでな」

 西郷がそう言うと絹は困った顔をし一呼吸置いてから頷いた。

「何かあれば私のところに来るといい、霊能関係であれば大抵のことなら何とかなるだろう」

 西郷はそういうと絹に自らの屋敷の場所を告げた。

「……はい分かりました」

 そういうと絹は送るという高島と西郷の申し出を断ると家路についていった。

「高島、今回の件どうする」

「陰陽頭に報告して終わり、になるといいな」

「そうだな」

 夜の空気は冷たかった。


 今日は変な二人組みに会った、どうやら陰陽師のようだったが貴族特有の傲慢な性格ではなかった。

「変わったひとたちだったな」

 絹は今日のことを反芻する、彼女にとっては久しぶりの人との会話だった。

 一人夜の道を歩く彼女の表情には笑みが浮かぶ、彼女にとってそれは耐えて久しい感情だった。

 やがて絹の歩みは一軒の打ち捨てられた元貴族の屋敷であろう建物の前で止まった。


「では此度の件、その娘のためということであるか?」

「はっ、その通りであります」

 格子越しに陰陽頭の声が響き、西郷は平伏したまま答える。

「なるほど此度の件西郷、高島双方ご苦労であった。報酬を授けよう」

「「ははぁーーーー」」

 陰陽頭はそう言うと高島たちを残すと、回りの側近たちを下げると格子の向こうから顔を出してきた。

「よし西郷、高島、堅苦しい話はここまでだ、呑むぞ!」

 西郷はその台詞に顔を引きつらせ、高島は待ってましたとばかりに自分のお猪口を懐から取り出した。


 豪快、今代の陰陽頭はそんな言葉がよく似合う人物である。

「ほれ西郷もっと呑め」

「いえ、私は公務が控えてますので……」

 西郷は陰陽頭の誘いをい丁寧に断る。

「つまらんなあ西郷は、ほれ高島をみならえや」

 高島は二人の会話をまったく気にせず、お猪口で呑むのはめんどくさいとばかりに徳利から直に呑んでいる。

「そうだぞ西郷こういう言うときは後を気にせず呑むものだ!だから呑め!」

 どうやらもうすでに軽く出来上がっているようだ。そんな高島に西郷は釘を刺すことにした。

「後で千夜殿に何と言われることか」

 高島は静かに徳利を置くと、西郷に無駄に爽やかな笑みを向けた。

「勘弁してください」

「よろしい」

 西郷はお猪口から一口呑むとうなずいた。

「相変わらず妹に弱いな」

 まったくである。


「ところで今回の件、絹はどういう扱いになるんだ?」

 高島は陰陽頭に何気なく聞く。

「どうもこうもあるまい、庶民が霊を除霊しているなんぞ頭の固いやつらに知られたら面倒だ、なかったことにするのが一番だ」

「分かりました、此度の一件内密ということですね」

 西郷が陰陽頭の言質をとろうとするが、陰陽頭は酒がまずくなるといわんばかりに顔をしかめる。

「ふん、元からそのように話を持っていくつもりだったのであろう。まったく貴様らは実力があるくせに使い方を誤らん。まあだから使い勝手がいいのだが。安心しろ、事を公けにするきはない。まったくわしを何だと思ってやがる」

「なにって、人使いの荒い飲兵衛」

「………てめえ」

 陰陽頭に対しての高島の態度に西郷は頭を抱えた。


 陰陽頭と高島たちが酒盛りをしている中、その影に一人の人影があった。

「おのれ高島め、御前試合以来陰陽頭の覚えがいい事をかさにきてのさばるとは」

 人影は醜悪に歪め部屋の様子を伺っている。

「しかし面白い事を聞いた、ふむ高貴の身分でなく霊を払う娘か。下賎な身でありながら生意気な、ふむ面白いその娘どうしてくれよう」

 人影、草壁家当主の表情は喜悦に歪む。


 ぼろぼろの屋敷の中に絹が布団の上で寝入っていた。やがて目を覚ましたようで絹は体を起こし、顔を手で擦ると立ち上がった。

 絹は立ち上がると自分が寝ていた布団をたたみ始めた。浮沈はまるで何年もほうって置かれたかのようにぼろぼろだった。

 その後絹は屋敷の外に出ると、裏手にある井戸の方へとまわり、井戸に吊るされていたつるべを使って水を汲むと桶のまま中の水を口付けた。

 十秒、二十秒、三十秒、……一分………二分…………三分?

「ぷは!こほっ!こほこほ!」

 絹は水をかなり飲んでしまったようで咽ている。

「けほ、けほ、ふう、…………やっぱり水だけじゃお腹は膨れません」

 絹はいたって本気のようだ。呼吸を整えた絹は一息つくと桶を押し、井戸の中に戻した。

パシャン

 桶は水音をたてて井戸の底たどり着き、絹は思考の渦に入る。

 このままでは生きていくのは難しいのだろうか、今の時代年頃の女が一人で生きていこうとするなら。

「やっぱり私を売るしかないのかな……………」

 身寄りのない女がそのような行為をするのは珍しいことではない、むしろ盛んに行われていたといっていいだろう。

 わずかな食べ物のためにわが身を売る、絹はそのことを考えた瞬間身を震わせ、両手で自分の体を抱きしめた。

「……いや……だな」

 かすれた声で呟く、絹は思うせめて初めての相手ぐらいは、本当に自分の意思で選びたいと。


 今の自分の状況では生きることすら難しい、だけど絹は思わず口にせずには居られない。

「……怖い……な」

 絹の言葉を聞くものは、誰も居なかった。


「お呑みになさったそうですね、兄さま」

 高島は千夜の底冷えする声に恐怖した。怒っている、いやそれ以前に何故ばれたのだろうか、西郷とは今まさに別れたところである。従って西郷がばらしたと言う線は考えられない、ならば何故?

「兄さま愛用のお猪口がいつもの場所にありませんでしたので」

 高島の考えていることが分かったのだろう、千夜はばれた理由をあっさり告げた。

「千夜これはだな…………」

 必死に言い訳をしようと高島が口を開いたが千夜の冷たい視線にさらされた。

「御免なさい」

 高島は即座に頭を下げた。見るがいい、これが今の世代において上位に位置する陰陽師の本当の姿である。情けないことこの上ない。

「まったく、呑みになられるのでしたら、先に知らせておいて下さい。遅いようでしたので心配していたのですよ」

「面目ない」

 もうすでに日は傾き、夕焼けが謝ってばかりの高島を照らしている。

「まったく今回はもういいですけど、今後はこういうことの無いようにお願いしますね?」

「分かりました!」

 一連のやり取りを終えると、二人は笑いながら屋敷の中に入っていった。

 ちなみに西郷家の方でもこのような光景が西郷とメイの間で繰り広げられている。もっともあっちの方は、幼少の娘に半泣きの上目使いで叱られているため、まったく反論できなかったりするのだが。


 夜も更けたころ、絹はいつもどおりに高島たちとであった場所へと脚を運んでいる。

 結局どうするかを決めることは出来なかった。決断を先延ばしにしたまま絹は霊の子供たちの所に向かう。

 最初は死んでもいいかなと思いあの場所に行った、死んでしまえば苦しまなくてもいいと考えたからだ。

 だけどその場所には自分よりも幼い子供の霊が泣いていたのだ。

 本来優しい彼女は、泣いている子は何とかしなければならないと思い、霊の為に歌を歌った、歌を聴いていた子供の霊は歌が終わると泣き止み成仏する子も居た。

 その時絹は思ってしまったのだ。この子達は死にたくて死んだんじゃない、なら生きている自分は最後まで諦めず生きなければならないと。

 そこまで考えた時、絹は思わず笑みがこぼれた。昨日出会った二人組みの事を思い出したからだ。

「今日も会えるかな?」

 そう絹が口にした瞬間、不意に絹は何者かに話しかけられた。

「そこな娘、絹という名か?」

 絹は突然かけられた声に驚くと声の方を見た。そこには貴族ぜんとした服装をした男と一台の牛車が止まっていた。

「そ…そうですが」

 絹は反射的に身構えるが男は気にせず笑う。それは他人に嫌悪感を抱かせる類の笑いだった。

「私ときてもらおうか女」

 誘いではなく強制、絹は思わず後ずさりした。

「い、嫌です!」

 一転男の顔がいかりに染まり口調を荒げ怒り出した。

「下賎な身でありながら高貴な身である我にたてつくとは!」

 男は両手で印を組み、絹は本能的に逃げ出すが間に合わなかった。

「オン!」

 男の呪が完成した瞬間絹は崩れ落ちた。

「くくくくくくくくふはははははははははははははは!高島め貴様が守ろうとした下賎なものは私が貶めてやろう!!はははははははははははははははははははは!!!」

 崩れ落ちた絹をそのまま、男の狂った狂笑が響き渡った。


「ここは?」

 意識が朦朧とする。絹が目を覚ますとそこは蝋燭が一つ灯されただけの何も無い部屋だった。

「男の人に声をかけられてから…………!」

 何があったのか気づいたようで、絹は大急ぎで今の状態を確認する。

 着物の乱れは無い、まだ何もされてはいないようだ。

 絹がそのことを確認し安心した瞬間、背後から声をかけられた。

「気づいたようだな」

「!?」

 絹はそくざに振り返り後ろへと後ずさった。蝋燭に照らされた男は草壁家当主だった。

「女何を怯えている?」

 草壁は理解していながら絹に問う、絹はそんな草壁に対して怯えるほか無かった。

「ふん、女喜ぶがいい」

「な、何を?」

 絹は草壁の言葉に疑問符を浮かべ、それを見た草壁はさらに笑みを深める。

「決まっているだろう、下賎な身分でありながらこの私に抱かれることを光栄に思うがいい!!」

 ビリィィィィィィィ!!

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 紙を破るように容易く草壁は絹の着物を破り捨てた。

「ふははははは!何をそんなに怯える!!下賎な身だこのような事は何度も経験していよう!!!」

 草壁が破られた部分を手で隠した絹に手をかけた瞬間、

ズドォォォォォォォォン!!!

 特大の爆音が響き渡った。


 ドン!ドン!ドン!ドン!

 夜遅く扉を何度も叩く音に起こされた高島は、機嫌悪く扉を開けた。

「こんな夜遅くに何のようや」

 扉を開けたその前には子供の霊がいた。

「?」

 高島は首を傾げて子供の霊を見やった。どこかで見覚えがあるからだ。

「お前どこかで……」

 子供の霊はそんな高島に関係なく高島の服を掴み引っ張っている。

「おいおい、どうしたってんだよ」

 霊の子供は表情に焦燥を浮かべるが、すぐさま口を開く。声は聞こえない、この子供の霊にそこまでの力は残っていない、ただ高島に気付いて貰うため必死にある単語をささやく。

「き………ぬ、絹に何かあったのか!?」

 高島は何を言っているのか理解した、この子供の霊は絹に何かあったことを知らせに来たことを。

 高島は即座に屋敷の中に戻ると馬小屋の方へと駆け出す。そして馬に鐙を乗せ飛び乗り馬を出そうとした瞬間、千夜が屋敷のほうから出てきた。

「兄さまどうしたのです?」

「千夜お前も来い!」

 千夜はすぐさま高島の後ろに乗ると、高島の腰に手を回した。

「説明は後ですね」

「物分りのいい妹を持って幸せだよ!」

 高島は大きな声で千夜に答えると馬を走らせた。


 子供の霊に着いて馬を走らせてしばらくした時、西郷たちと合流した。

「メイを連れて来たのか!」

「そちらこそ千夜殿を連れて来たのか!」

 馬上でそれなりの速さを出しているため、二人は声を大にして会話する。

「そちらも霊の子供が来たのだな!」

「ああそっちもだろ!」

 踵で馬のわき腹を蹴る。馬はさらに速さを上げ、子供の霊は跳ぶ様な速さで駆ける。

「私のほうはあの場で私の家の場所を口にしたが、何故お前の家の場所まで分かった!」

 高島は西郷の疑問に考えをめぐらせ、自分の前を行く子供の霊に目を向ける。

「ああ、そういうことか」

 高島は後ろにいる千夜にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

「心当たりがあるのか!」

「いや!」

 その会話を最後に二人は黙し、馬をはしらせる。

 高島には子供に心当たりがあった。子供の霊は高島が炊き出しを遣っていた時、一時期来ていた子供によく似ていた。


「まさかここか」

 西郷は着いた場所を見やり唸りを上げる。そこが草壁家の屋敷であったからだ。

「西郷様、高島様、いったい何があったんですか?」

 メイが現状の説明を求める。後ろで千夜もうなずいている。

「なあに簡単だ、ここに巣くう馬鹿が人攫いやらかしたんで取り戻そうってだけだ」

 凶暴な表情を浮かべた高島は、懐から一枚の符を取り出す。

「俺と西郷が引っ掻き回すから、千夜とメイは絹って言う娘を探して保護してくれ」

「分かりました」

「はい」

 二人は高島を疑わない。高島が真面目にやる時は、その必要がある時と知っているからだ。

「高島いいのか?」

「ここまで連れて来ちまったんだ、仕方ないだろ」

「やれやれ、ならばおとりは派手にせねばな」

 高島は目の前に掲げた符に霊力を込める。

「じゃあ、派手に行くか」

 高島は符を投じた。


 ズドォォォォォォォォン!!!

「な、何事だ!?」

 絹に覆い被さろうとしていた草壁は疑問の声を上げる。

「当主様!敵襲です!!」

「何だと!?」

 草壁は絹にはもう目もくれず部屋を飛び出した。そこには…………

「ははははははははは!逃げるやつは陰陽師だ!!逃げねえやつは訓練された陰陽師だ!!!」

「五行を持って火行を用いる!焼き尽くせ!!」

 やたらハイに符をばら撒く高島と、高島の打ちもらしを正確に削っていく西郷がいた。

「き、貴様らーーーーーー!!!」

 草壁は怒声を上げると高島に向かい呪を唱えようとするが、

「疾!」

 西郷の投じた符に腕を深く切られる。

「ぐわ!」

 草壁は腕を押さえると血走った目で二人を見つめる。二人は草壁の下っ端をすでに片付けたのか、草壁に視線をやっている。

「おのれ!おのれ!!下賎な身分でありながら高貴な我に、おのれ!!!」

 草壁の口からは怨嗟しか漏れない。その様子を高島と西郷は冷たい目で見ていた。

「殺してやる!貴様らのせいであの女は死ぬのだ!!後悔するがいい!!!」

 草壁はきびすを返し絹がいた部屋に戻った瞬間、

「ごは!」

 真正面からピカラの拳で物理的威力を持って吹っ飛ばされた。


「有難うございます」

 絹は高島たちに頭を下げた。

「あ〜別に気にする必要は無いぞ」

 高島は後ろ頭をかきながら絹に言う。ちなみに後ろでは千夜や西郷が笑っているのだが。

「それでも、有難うございました」

「まあ、わかった……」

 高島は黙りこみそうになってしまったので西郷が助け舟を出した。

「しかしこれから絹殿は他の陰陽師から狙われることがあるかも知れんな」

 これだけの騒ぎにしてしまったのだ、事の次第はすぐに知れ渡ることになってしまうであろう。

「あの……私はどうすればよいのでしょう?」

 今回のようなことがまたあると聞かされ、絹は不安そうに高島たちに問いかける。

「兄さま何とかならないのですか?」

「……そうだな」

 実はこのままでは高島たちも問題になってしまうのである。一派的にたかが庶民のためにそれなりに有力な陰陽師の家を襲撃してしまったのだ、これもどうにかし負ければならない。

「よし決めた、絹」

「は、はい!」

「今日から千夜の女房役な」

 ただの庶民のためでは許されることは無いだろう、そのため高島は身内にしてしまえば言いと思い、女性の世話をする女房役にしてしまえと思ったのだが………………、

「た、高島!?」
「兄さま!?」
「高島様!?」
「え、ええええええ!?」

「?」

 女房役はその職業上その屋敷の主人のお手つきになりやすいのである、そのため姉妹や妻に着ける女房役には、その屋敷の主人の愛人といった付加価値が付いたりすることもあったりしちゃったりするのである。

「えっと、えっと、不束者ですがどうかよろしくお願いします」

 顔を林檎のように真っ赤にした絹を前に、

「あ」

 高島はようやく自分が何を言ったか理解した様だ。


 どうも氷砂糖です。
久しぶりに歯車を書きました、いやあ思わず歯車最初から読み返してしまいましたw

今回の歯車に対して一つだけ、絹は書いてるうちにこうなりました。詳しく書いてないけど察してください、書いてるうちに作者があれ?って首をかしげてましたんで…………

なんか歯車書いていくとどんどん原作と帳尻合わせるのが難しくなってきている気が……

女房役が愛人であるという所ですが、これ本当の話だったりします。

次回は本編になると思いますのでそっちもよろしくお願いします。


今回126KB


 アミーゴ様
今回その勇気がこういう形で帰ってきました。
確かに横島と比べるとかわいそうに思いますが、ルシオラのため頑張ってたときの横島と比べるとそんなに違和感無いと思います。つまり高島は守るものがある横島って事で、

最後に本編のレスに関してですが、アミーゴ様あなたは何人の漢を敵に回す気ですかw


 内海一弘様
雑魚っぽいの今回も出てきてひどい目にあいましたw
そおなんですよね、メイフラグがたちそうであせったりしたんですが、なんか今回さらに増えたような……
高島と西郷は仲がいいですよ、腐れ縁っぽくて、むしろ腐たところに何日も日に当ててカラッカラに乾燥させたくらいw


 如月様
実はああいうほのぼのした所や、子ネタを書いている時が一番不意出が進んだりします。
一気に読んでいただいて有難うございます。
連載頑張ります!


 riri様
はい句読点にかんしおておっしゃるとおりです、今回は気おつけたつもりですがいかがでしょう?


 ヘタレ様
誤字指摘有難うございます。

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