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「がんばれ、横島君!! 15ぺーじ目」

灯月 (2007-06-20 23:30/2007-10-24 22:58)
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「よ・こ・し・まぁ〜。ねぇ私も行きたいんだけど?」

「却下」

「おい、俺も……!」

「不許可」

「お兄ちゃん、あたしたちも駄目〜?」

「うーん、ごめんねルシオラちゃん。でも行けるようになったら必ず連れて行ってあげるからね?」

だから今日は我慢してと微笑んで。
陰念に後の事を頼んで。
行きたいと駄々をこねる雪と勘九朗を沈黙させて、家を後にしたのでした。


頑張れ、横島君!!〜横島君と幽霊屋敷〜


某月某日。
拾いました。
何をって、人を。
それは下校途中の事、いつものように真っ直ぐアシュタロスさんの家に向かう道すがら。
行き倒れ発見。
現代社会の歪みを見た。
て、そうじゃなくて!

「大丈夫ですかー!?」

慌てて抱き起こして呼びかけてみるが、硬く瞑った目はそのままで。
目を覚ます気配はなく。代わりに盛大な腹の虫。
どうしようかと思ったが、ふとある事を思い出す。
ピートが世話になっている唐巣神父の教会がこの近くだ。
実はGS試験後、ピートがうちの学校に転入してきたのだ。
ピートの将来の夢はオカルトGメンなるものに入る事なのだが、その為には高校を卒業しなければならないらしいという事だった。
だからってなんでわざわざ俺のクラスに来るかなー?
絶対狙ってやっただろ、教師め。
そしてしつこく住所を教えられたのだ、ピートに。
いつでも遊びに来てくれと熱心に言われ、生返事を返していたのがこんな事で役立つとは!
早速行き倒れを担ぐ。
長い髪に和風な顔立ち。俺よりやや身長が高いから爪先をずるずる引きずる形となるが。
意識が無いから文句も出ないだろう。
アシュタロスさんの家には連れて行かない。
何があるか分からないから。
辿り着いたぼろっち…いやいや質素な教会。
出てきた神父は事情さえろくに聞かないまま、快く行き倒れを休ませてくれた。
喜びのあまり飛びついてきたピートを俺と神父のこぶしで撃墜し、行き倒れの男が目を覚ます前に食料を買い行く事にした。
目が覚めてすぐ食事が出来るように。
ついでに神父にも何か食わさんと。
この人も腹減らしてるみたいだし。
ピートから聞く限り、お人好し過ぎて儲けなんてこの世の果てに放り出してる人みたいだからな神父は。
教会の中を見て、心から納得したし。
必要最低限しかものが無いというか、必要最低限のものさえないと言うか。
こまめに掃除して手入れされてるからいいものの、それが無くなればすぐに廃屋になりそうな感じ。
買い物に出る前、庭で家庭菜園をやっていると聞いたから覗いてみたんだが。
なんだかよくわからない生物が発生してました。
毒々しい紫や瑞々しい赤の、牙を生やし血走った目で。
笑うな、怖い。
目が合う前に退散した。
唐巣神父の弟子が現状を見かねて野菜たちが早く育つよう頑張ってくれたらしいのだが。
何をどう頑張って、どこでどう間違えればこうなるんだろ?
その問いにピートは何とも言えない表情で首を振るだけだったけれど。
近くのスーパーに一っ走り。
米と野菜を買ってきた。
出来上がったのは、胃に優しいおかゆと野菜たっぷりスープ。
ろくに喰ってないと胃が弱るから、あんまり刺激の強いのは駄目なんだよな。
神父は美味い美味いと見事な食べっぷり。
一週間ぶりにまともな食事をしたという。
この人、俺が言うのもなんだけど…よく生きてられんなぁ。
他愛ない雑談をしていると、行き倒れの男が目を覚ました。
ぼーっとした頭では状況が飲み込めないのだろう。
数度瞬きを繰り返し、首を廻らせ周囲を眺めてようやく自分が今どこにいるのか疑問を持ったようだ。
神父が穏やかな口調で、俺が男を見つけてこの教会に連れてきたと説明する。

「そやったんか。僕は鬼道政樹です。えろう手間かけさしてもうて」

申し訳ないと恐縮する鬼道に、気にするなと笑って食事を差し出す。
初めは遠慮していたが、やはり空腹には耐えられなかったのだろう。
勢いよくおかゆを腹に詰め込み始めた。
そして少々落ち着いたところで、神父が事情を尋ねる。
なんでも鬼道というのは陰陽師の家系で、結構な家柄だったはず。
そんな家の息子がなぜ行き倒れているのか?
神父はそれを不思議に思ったらしい。
……そんな凄い人には見えんけどなー。
着てるものも普通だし、そりゃー霊力は感じ取れるけど。
品のある顔立ちをしていると言えばそうも見えるが。
問われ、鬼道は俯き顔を歪めた。
そこから先は聞くも涙、語るも涙の苦痛の半生!!
鬼道の家は確かに昔はそれなりの家柄だった。だが、あくまでそれは昔の話。
没落に没落を重ね、突出した力の持ち主が産まれる事も無く。現在ではただの式神使いの家系となっている。
鬼道の父は霊能力者の道を諦め、事業を起こしたのだがこれが大失敗。
昔馴染みに金を借りに行けば、すっぱり断られ。結果借金まみれ。
しかもその相手が昔告白した女性なもんで、恨み百倍。
家の再興と復讐を自分より霊能の才があった息子に託し――いや、押し付け。
それはもー凄まじい修行を幼い頃から実の父に課せられ続けた。
常識を一線超えてるようなそれと、極貧生活に愛想をつかした母親は出て行き。
鬼道自身も父の妄執と復讐を聞かされ続けたので、ごく普通の青春などとは全く無縁に育ってしまったようだ。
父親、ろくな人間じゃねーなー。

「わかります! わかりますよ、鬼道さんの気持ち!! どーしようも無いのはあのくそ親父なのに、どうしてこっちが頑張らないといけないんでしょうか!? 時代錯誤の馬鹿親父のせいで苦労するのは、被害にあうのは子供なのに!! 一人だけのうのうと生きやがってあの野郎…! 子供は親を選べないにしても程がある!!」

なぜか涙すら流して叫びだすピート。
その台詞にはこれでもかと実感が篭っている。
父親に対して何かトラウマでもあるのか、こいつ?
救いを求めて神父を見れば、

「ピート君にも色々あるんだよ。そっとしておいてあげてくれたまえ」

笑みを深くして、そう言われた。
聞かない方がいいんだろう、きっと。
黒い表情で何かをつぶやき続けるピートは無視して、先を促す。
まぁ、そんなこんなでつい先日。
同じ式神使いということで、その女性――正確にはその娘――と正式な果し合いをしたのだが。
見事ボロ負け。惨敗完敗!!
試合の途中で親父は逃げるし、暴走した式神に襲われ入院するし。
幸い入院費用は相手方が出してくれたが、退院してから途方にくれたらしい。
親父は逃げていないし、それまで暮らしていたボロ屋は借金のかたに差し押さえられていて。
人生の大半を復讐と勝つ事だけを叩き込まれて過ごしていたせいで、何をしていいのかもわからず。
ふらふらとあちこちをさ迷って、ついには力尽きてしまったと。
話し終えて、再び深く項垂れる鬼道。
これは……どう言ったらいいのかわからん。苦労しとんなぁ。
唐巣神父でさえ、人の良さがにじみ出ている顔を酷くしかめてしまっている。
このまま放り出してもやはりどこかで野垂れ死にされそうだ。
だから、神父が申し出た。
しばらくこの教会で暮らさないかと。
幸い鬼道は式神使い。神父の除霊の手助けが出来るだろうし。
これから先どうするのか、ゆっくり考える時間も必要だろうから。
その言葉に、鬼道は躊躇いつつも頷いたのだった。
ついでにそれまで壁に向かって嫌な笑みを浮かべていたピートも賛同したが、鬱陶しかったので黙らせました。


鬼道を拾ってから、週に一度は唐巣神父の教会に顔を出す事にしている。
どうしてるのか気になるし、差し入れとか持っていかないと餓えるし。特に神父。
鬼道が加わってからわずかばかりの、すずめの涙程度ではあるが謝礼を貰うようにしているので少しは生活が改善されているようなのだが。
それもやっぱり少しの話。
行く時は食材買って行きます。
二日くらいはもつ様に大鍋にたっぷりカレー作ったりしてるんだよ。
アシュタロスさんにも事情は説明しているので、別に咎められたりはしない。
それほど長居するわけでもないので、子供たちの機嫌もそう悪くなったりはしないし。
ただ、俺の拾った相手がそれなりの美形だと本能で察した勘九朗と、ピートに敵愾心を燃やす雪が連れて行けとうるさいが。
当然ながら、そんな気は無い。
雪はともかく、勘九朗が教会を訪れた日には地獄だ。
何せあそこには鬼道の他、金髪美形のピートと射程内に入っている神父がいるのだ。
結果は火を見るより明らか。
男が絡む姿なんて想像したくも無い。
一度二人がこっそり後を尾けてきた時は、問答無用で殴り飛ばした。
気を失った二人をさらに後から着いて来ていた陰念が地蔵のような表情で、無言のまま襟首を掴みずるずると引きずりながら帰って行った。
逆境は人を強くする!

「生きてますかー、神父ー」

声をかけて、扉を開ける。

『ピガー!』

同時に跳び付いてきたモノ。
影から湧き出してきたそれは、鬼道の式神夜叉丸。
鬼道と同じように髪を結い上げた童子姿。
主を助けたせいか、妙に懐かれた。
式神なら冥子ちゃんで慣れているので、よしよしと軽く頭を撫でやれば。
ヴーと鳴いて、嬉しそうに笑う。
言葉そのものは話せないが、意外と感情は豊かであるらしい。

「やぁ、いらっしゃい。いつもすまないね」

いつもの人の良い笑みを浮かべた神父と鬼道が穏やかな空気で迎えてくれた。
二人とも大分血色が良くなっている。
もう一人、俺を迎えようとした半吸血鬼は床に転がっている。
何があったのか、あえて問わない。

「調子はどうですか、神父? 鬼道も仕事は慣れたかー?」

「ああ。鬼道君も筋がいいからね、覚えも早くて助かっているよ」

「唐巣神父のおかげです。僕なんてまだまだ未熟者や」

ルシオラちゃんたちが作ってくれたクッキーを差し入れて、それをつまみながらささやかなティータイム。
出てきた話題は鬼道がゴーストスイーパーになる事を決めたというもの。

「へー、やっぱゴーストスイーパー目指すんか」

「そや。唐巣神父見てたらな、こんな僕でも何か…人助けが出来るんやないかおもて。
もっと勉強して神父みたいな立派なゴーストスイーパーになりたいんや」

鬼道の言葉に照れるなぁと頬を掻く神父。
師弟仲が良好なのはいいことだ。
たとえ床に突っ伏したままのもう一人の弟子が泣き出したとしても。
神父も気付いているが全面的にスルー。
最近何気に神父のピートへの対応が酷いのだが。
やはり原因はアレか?
GS試験の対勘九朗戦。
いくら恐怖したからって声援の一つも送らず目を逸らしたのはマズイだろう。
曲がりなりにも師弟なわけだし。
……せいぜい頑張れよ、ピート。
どうせ他人事だしな!
大鍋いっぱいにポトフを作ってさぁ帰ろうかと思った矢先。
こそりと鬼道が相談があると言ってきた。
神父には内密のものらしく、庭へ回る。もちろん野菜っぽい連中のいない場所。
そうして言われたのは、どこか安いアパートは無いだろうか?
どうやら鬼道、神父に面倒をかけていることを気にしているらしい。
自分一人が増えた事で余計な光熱費や食費がかかる。その上わずかな謝礼の中から鬼道への給金も出しているようで。
ただで面倒を見てもらっているのにこれ以上は申し訳ない!と、いくら断ってもあの神父の事一歩も引かずにニコニコ笑って言う。
先立つものはいるだろう。文無しでは何も出来ないよと。
一度行き倒れてしまった身では何も言えず、結局受け取ってしまったのだが。
それではあまりにも心苦しいと。
自分一人だけならバイトでも何でもして食い扶持を稼ぐ事が出来るから、どうにかして負担を軽くしたいのだ。

「せやから、どこかバイト代でも賄える様な安いアパートないやろか?
横島やったら知ってるんやないかと思うて」

以前一人暮らしの為に両親が安いアパートを捜してくれた、自分でも見に行ったという話をした。
それを覚えていたんだろう。
真剣な鬼道に俺も快く頷いて返す。

「わかった、俺の知ってるところなら教えるぜ。それと俺の雇い主にもいい所が無いか聞いてみるな」

「おおきに!」

頭を下げられて、気にするなと手を振った。
鬼道はいい奴だ。住まわせてもらって、その恩をちゃんと返そうとするなんて義理堅い。
ホンット、いい奴だ! どっかの誰かさんたちとは違ってな!!

「横島〜。あたし最近お肌の調子がよくないのよね。晩御飯はカロリー控えめの野菜中心メニューにしてくれる?」

「だったら食うなよ、てめぇ」

「おい、横島! 俺の替えのパンツないか?」

「先に用意してから風呂に入れ!!」

こんの馬鹿共が!!
陰念が一人、本当に申し訳なさそうにため息をついた。
勘九朗は多少なりとも家事を手伝うが、雪は本気で何もしやがらねぇ!!
のんきにソファで寝そべってたりパピリオちゃんとゲームしてたりするのを見ると、蹴り飛ばしやりたくなる。
特に忙しい時。
ハニワ兵より使えないのは仕方が無いが、子供たちだって進んでお手伝いしてくれるというのに…。
そして頭痛をため息に変えながら、家事をこなすのだ。
和やかな夕食が終わり、表面的には勘九朗に慣れたアシュタロスさんに問いかける。
もちろん鬼道の件で。

「ふむ、安いアパートかね? 別に無い事も無いがね…」

ソファに腰掛け、優雅に足を組んだアシュタロスさん。

「ええ、アシュタロスさんは社長ですから何かいい物件知ってるんじゃないかと」

「そうだね。……安いと言うなら駅前のマンションかね? 3LDKのとある一室なんだが家賃はたったの三万円! 理由はそこに住んだ者がことごとく変死しているからだよ。霊能力者が視ても怪しいものは一切出てこなくてね。管理人もお手上げさ!」

「んな怖いとこ紹介できるわけないでしょうが!!」

「へぶしっ!? 横島君暴力は…ごめんなさい、なんでもないです。
 ええと、そうだ二丁目の一軒家なんだが先月一家心中が起こってね。悪霊と化した子供の霊が出て――次いってみよう。
戦時中遺体を安置するのに使っていた土地を……」

その後もアシュタロスさんが色々な物件を紹介してくれたが、どれもいまいち。

「はぁ〜。やっぱり俺が借りてたアパートが一番ましかな?」

「だったら私に聞く必要なかったじゃないか」

そっぽを向いたアシュタロスさんが妙にぼろぼろなのは、きっと世界の意思。

「アシュタロスさんでも何かの役に立つんじゃないかと期待した俺が馬鹿でした」

「な、ちょ!? 何かねその言い草!!」

はぁ〜!と大げさにため息をついた俺を、傍にいたルシオラちゃんがよしよしと慰めてくれる。
子供たちの父親を見る目が冷たいのはいつもの事であり。
ついでに雪たちがその光景を遠巻きに見ているのも、アシュ様ファイトですぞ〜っ!ドグラがハニワ兵に押さえつけられながら応援しているのもいつもの事。
そんな中、ぶるぶると震えだすアシュタロスさん。

「〜〜〜〜〜っ! いいだろう、では紹介してあげようではないか!! この私のとっておきの物件をぉぉぉ!
なんと三階建て庭付き一戸建て家賃はただ!! 素晴らしすぎて腰を抜かすなよ、横島君!!」

ふはははははははははははははははははははーっ!!
あ、切れた。
立ち上がり高笑うアシュタロスさんを、全員微妙に温かい目で見詰めるのだった。


「まぁ、そんなわけで地図を預かってきたので一度行ってみましょうか? あ、向うにはもう連絡してるとか」

にこりと告げた俺に、何故か硬直する神父と鬼道。
ホントはアシュタロスさんも行くと言い張っていたんだが、あの人がいると色んな意味で厄介なんで丁重にお断りしました。

「せやけど、家賃がただ言うのはなんで…?」

おずおずと問いかける鬼道に俺も首を傾げて答える。

「いや〜俺も詳しい事は。雇い主がそれは見てのお楽しみ♪って」

「まぁ行ってみようじゃないか。実物を見なければ何もわからないだろう」

穏やかな微笑の提案に、俺たちは揃って頷いた。
手書きの地図を頼りに、意外と近くである目的地を目指せば辿り着いたのは一軒の古びた洋館。
レンガ造りの三階建て。周囲を有刺鉄線で囲まれ、全ての窓にはご丁寧に外から板が貼り付けてある。
何だこの重苦しい空気は!?
曰くつきです!!と大声で宣伝しているようなもんだ。

「こ、ここですか? 凄い妖気を感じるんですが」

「そうだね。しかしこの建物…どこかで見覚えが」

戸惑うピートに返すように呟く神父。
俺の隣で鬼道もぽかんと建物を見上げている。
とりあえず敷地の中に入ってみたが、これ鍵が閉まってるんじゃなかろーか。
そう思った矢先、声が聞こえた。

『貴方たちですね、芦原さんの言っていた方は…?』

「誰だ!?」

「この声、ドコからや?」

男とも女ともつかぬ、人工的な声。
見回せど、俺たち以外に人影はない。
鬼道の影から飛び出た夜叉丸は正面の建物に向かって警戒態勢をとっている。

「誰だね? 姿を見せたまえ!!」

凛と。唐巣神父の声が辺りを裂いた。

『私は…先程から貴方たちの前にいます。この建物が私。私は人工幽霊一号。正確には渋鯖人工幽霊一号です』

「渋鯖!? あのオカルト研究家の? 人工霊魂を作ろうとしていたという噂はあったが。
まさか…君はその完成体か!?」

『はい、私は渋鯖男爵に作られました。
ですが、このままでは私は近いうちに消えてしまうでしょう』

人工幽霊一号の話によればあくまで人工的に作られた存在でしかない自分は、存在しているだけで僅かずつだが消耗していくという。
そのまま消耗し続ければ、当然消える。消滅だ。
だがそれは己の望むところではない。
消耗を避けるためには霊能力者の力の波動を受ける、つまり他から霊力を持ってきて補給すればいい。
だが下手な霊能力者を自分自身である屋敷に住まわせるのは、プライドが許さない。
自分の主に相応しい霊能力者をずっと捜していたのだが、なかなか見付からない。
そんななか俺の雇い主アシュタロスさんと知り合い、近いうちにいい霊能力者を紹介してやると言われたらしい。

『それで、私のオーナー候補はどなたですか?』

問われ、鬼道は俺たちの視線に促されおずおずとだが前に進み出る。

「僕や」

『……まずまずの霊力の持ち主ですね。いいでしょう。
ただし、条件があります。
最上階の部屋に権利書を用意しております。それをご自分の力で取ってこられたら…認めましょう』

うーん。消えるかもしれないってのに、ホントプライド高いなー。
ぎぎぎと、わざとらしささえ感じられるほどゆっくり扉が開いた。
早速試験開始という事か。
警戒しながらも鬼道が入り、神父とピートもそれに続く、が。
バシィ!!
弾かれた。

「大丈夫っすか、神父!?」

慌てて駆け寄るが、大したことは無いようだ。
背後で半吸血鬼が僕の心配はしてくれないんですねーなどと、のたまっているが気にしない。

『その二人は強すぎる。それではテストにならない』

「なるほど。じゃあ俺も待ってた方がいいな」

心配ではあるが、これは鬼道が受けるべきテストなのだろう。
だが、ふと人工幽霊一号が声を漏らした。

『バンダナにジーンズ姿。あまりぱっとしない顔立ち』

「ほっとけ!!」

『貴方もしや…横島さんですか? 横島忠夫。芦原さん宅でバイトをしている』

「ああ、そうだけど?」

それがどうかしたのかと、軽く答えた途端。

『どうぞお入り下さいまっせぇー!』

深っ々と。お辞儀する誰かの幻影を確かに見た!!
な、何だいきなり!?

『貴方の事は芦原さんからよぉ〜く窺っております! さぁどうぞ、遠慮なさらずに!! 
もぉうじっくり見学してって下さい!!』

カタカタと、かすかに屋敷全体が揺れてるような。
先程まで無かった怯えが混じってるのは気のせいか?
まぁいいや。気になってたし。
神父たちに告げてから、扉の中へと一歩踏み込めば待ってましたとばかりにばたんと閉じた。
そのすぐ後に横島さーん!落ち着きたまえ、ピート君!!めぢっ!!なんて音が――聞こえない聞こえない。

「なぁ、人工幽霊。お前芦原さんから俺のこと聞いたって言ったよな。なんて言ってたんだ、あの人?」

『それはもうたくさんの事を! 最終兵器シッターであることや魔族であろうと平伏す最強高校生! その拳は世界を狙えるどころか確実に世界が殺れる、と。
ハイパーでスーパーでナイスな笑顔が眩しい制裁者だと。その他諸々を!!』

テストとやらが用意されている部屋へ向かう途中、疑問を問えば帰ってきたその答え。
……………………。
なんだそれは!? アシュタロスさんめ、俺のいないところで好き放題言ってるな。
帰ったら徹底的にお仕置き話し合いです!!
あと、鬼道。物凄く複雑そうな顔して俺を見ない。
ほら夜叉丸も心配してるから。
人工幽霊一号が用意した第一のテストは、動く鎧。
部屋に入った途端、仕掛けてきた。
その剣さばきに驚きながらも俺に下がっていろと鬼道が言う。
夜叉丸とのコンビネーションで相手をかく乱し、鎧の目が壁にかけてあった額縁である事を見抜き、勝利。
二階の試練は階段を上がった直後。
突如圧迫を感じ、一瞬にして壁に押し付けられた。
視線の先。テーブルに鎮座する水晶球。光とともに強い力を放っている。

「ぐぐ、が…!!」

激流のような力に逆らい、這うように近付く鬼道は限界まで己の影を伸ばし。

「夜叉丸〜!!」

『ガァー!』

吠え、影から飛び出す夜叉丸。
強力な霊圧に圧されながらも一歩一歩床を抉る様に踏みしめ、水晶を叩き割る。

「うわぁ!?」

瞬間圧迫から解放された体が、ずるっと落ちた。
多少腰を打ったが、俺より鬼道の方が明らかにダメージでかそうだ。
床に張り付いて肩で息をしている。

「お〜い、鬼道。大丈夫か〜?」

「へ、平気やこれくらい。父さんとのあの修行の日々を考えたら!!」

くくくくくくく……。
ちょっとイった笑み。
何やってたんだろうな、修行。
かすかな疑問を抱きつつ、夜叉丸もよくやったと撫でてやる。
嬉しそうに相好を崩し、抱きついてきた。
式神って意外と人懐っこいんだよなー。

『お見事です。さぁ、次が最後ですよ。頑張って下さい』

相変わらずの冷めた声。
階段を上り、俺たちの目の前。
一番奥まった部屋の扉。ドラマのワンシーンのように開ていく。
見た感じ、立派だと思った。
埃も酷いし、全体が痛んでもいる。
だが、家具一つ一つがなんというか重厚な空気を醸し出しこれぞ主の部屋といった趣き。
おお、暖炉まである。

『机の上に必要な書類をそろえておきました。取りに行って下さい』

なるほど。確かに部屋の奥に置かれた執務用の机、権利書らしきものが置いてある。

「…? 取りに行くだけ? 簡単すぎへんか」

『ただしこの部屋では一歩歩くごとに五年、歳をとります。
これをクリアすれば貴方をオーナーとして認めましょう』

もらした呟き、やはり平坦な返答。
その内容はかなりとんでもなかった。

「歳とるって、大丈夫か!? 鬼道!」

問いかけた俺に難しい顔をしていた鬼道は、けれど笑って頷いた。

「平気や。横島はここで見とき」

扉からやや後ろに下がり、走りやすい姿勢をとる。
影は部屋の中に伸ばし、現れた夜叉丸がこちらを向いて腰を落とす。
ふっ!
息を吐いて短い助走。部屋の一歩手前で踏み切って思いっきりジャンプ。
着地地点、待ち構えていた夜叉丸。
その手のひらで鬼道の足をがっしり受け止め、力いっぱい放り投げた。
机に向かって。

ダァンッ!

「やった!!」

見事、机に降り立つ鬼道。
その衝撃で書類が数枚床へと舞ったが、小さな事だ。

『いいでしょう。確かに貴方は全てのテストをクリアした。
さぁ、そのイスに座って下さい』

ぎしぎしと鳴るぼろいイス。
言われた通り鬼道が腰掛ける。
途端。
部屋が、いや屋敷が眩い光を放つ!

「うわっ!?」

思わず目を瞑り。
再び開いた時には、周囲の様子が一変していた。
さっきまでどこもかしこも痛んで傷だらけで、埃だって酷かったのに。
今はまるでモデルルームのように、ピカピカしている。
チリ一つなく、くもの巣だって見当たらない。
染みだらけで破れていたカーテンも新品同然。
中でこうなら、おそらく外観も同様なのだろう。

「すげぇ…!」

感心し、周囲を見渡し――気付いた。
鬼道が、真っ青な顔して死に掛けてます。

「うわー!? 鬼道、どうした!! 死ぬなぁぁぁぁぁ!!?」

『ピ!? ピガガ! ヴヴヴ〜?!』

肩で息も出来ないくらい。むしろ息も絶え絶え!!
何この死体一歩手前! 何で急にこんな事に!?

『あ。屋敷をきれいにするにあたって、早速オーナーの霊力使用させていただきました』

てへ♪

「あほか〜〜〜〜〜!!」

『ビィガァァァァァァァァァァァッ!!』

軽〜い口調で告げられたそれ。
そーゆー事は先に言えぇぇぇ!!
てゆーか、キャラ違うぞ人工幽霊一号!
夜叉丸なんて半泣きで主に縋っているし。
まぁそんなこんなで、見事家を手に入れたわけですが。
とりあえず、ベッドに寝かされた鬼道はまだ死に掛けてます。
人工幽霊は久々の霊力補給で浮かれ気味。
そして反省の色はない。
本人(本霊?)曰く、ちゃんと死なないように計算して霊力を使ったとの事。
そーゆー問題ぢゃないだろ。
起きたらすぐに食べられるように、食事を作って。
唐巣神父とピートに後を任せて帰りました。
本当は鬼道が目を覚ますまでいようと思ったんだけどな。
ピートや夜叉丸にも引き止められたし。
でも、早く帰ってアシュタロスさんと話し合いたかったので。
また来ると言い残して、その場を後にした。


ソファに腰掛けた俺の目の前、何故か正座のアシュタロスさん。
子供と雪たちは遠巻きに。
また何かやらかしたのかー懲りないなー的視線を向けている。

「アシュタロスさん。一つお聞きしたいんですが?」

「はいぃ! 何でしょうか!?」

軽く声をかけただけで、大袈裟にびくつかないで欲しい。
まるで俺が苛めてるみたいじゃないか。

「今日、人工幽霊一号と会ったんですけどねー。俺のことアシュタロスさんから聞かされたといって、無茶苦茶な事言われたんですけど――心当たりは?」

「ひぃぃぃぃぃぃ!! すまない横島君!! いや、別に陰口とかそういう事ではないのだよ、ただ事実を述べていたらいつの間にかえ〜と…その〜」

「ほほぅ。つまりアシュタロスさんは俺の事を制裁者だとか世界が殺れるとか。そう思ってるわけですか。
ただのベビーシッターの俺にそんな力があると? 日々家事に勤しみに家に住み着いてる奴らにストレスたまりながらも、真面目に働く俺に? 
へぇぇぇぇぇ、そうですかー」

「はわわわわ……」

真っ青になりながら、それでも救いを求めるように子供たちに顔を向けるが。
その無言のシグナルはきれいさっぱり、否定された。
皆の眼が言っていた。
潔く諦めろ、と。
ハニワ兵の穴みたいな目でさえそれで。
ドグラなんかはあらかじめゴミ袋に突っ込まれている。

「だだだだ誰かぁ……」

…はぁ〜……

蚊の鳴くような声を掻き消すように、俺のため息。

「アシュタロスさん」

「はい、何でしょうか!?」

「勘九朗と一緒に一時間ゆっくりじっくり二人きりで風呂に入るのと、大通りに正座してバケツに入った水に映った顔を丸一日眺め続けるの。
どちらか嫌な方を選ばせてあげます!!」

「ええ!? 普通こーゆー場合は好きな方を選ぶのでは!!?」

「……この選択肢の中に好きなのがあるんですか!? うっわ! もしやとは思ってましたけどやっぱりアシュタロスさんて――。
子供たちに近付かないで下さい、変態が感染ります!!」

トラップ!?
パパのピンチを否定して娘たち!!」

情けなくも我が子に泣き縋る父親に、けれど子供たちは冷たく冷たく首を振り。

「お兄ちゃん、これからはあたしの服とパパの服、一緒に洗わないで。特に下着!」

「あ、パピリオちゃんのもでちゅー」

「あたしもお願い。……パパ、情けない」

「切なさ乱れ撃ちぃ!!?
これが思春期特有の胸の痛みというものかっ!!!」

さめざめと泣く雇い主の肩をぐわしと掴み、にっこり。

「真面目に働いている俺への評価がそんなもんだったなんて……ちょ〜っと傷付きましたよ?
どうやらお互いの認識にずれがあるみたいですね。
今日は徹底的に話し合いましょうか。さ、行きますよー」

Oh My God!! 何これ、なんなのこのパターン! 久々!?
わ、わ、わ…私が一体何をしたぁ! なんだね、この仕打ち!!??」

子供たちの事はハニワ兵に頼んで。
隅っこでガタガタ震えている雪たちに見送られ、アシュタロスさんを引きずって地下室に。

ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ!

その夜、生け贄の子羊が如き物悲しい鳴き声が響いたとか響かなかったとか。

後日、子供たちと一緒に引っ越し祝いに行きました。


続く


後書きと言う名の言い訳

と言う訳で人工幽霊一号のオーナーは鬼道となりました、が! 敬ってません。横島君には無条件降伏です。人工幽霊の性格があれなのはアシュ様と出会って(悪)影響を受けたからです。
人工幽霊一号の性別は今のところ不明ですが、どちらであっても横島君に勝てないなら同じかと!
もうそろそろ原始風水盤いきたいなーと思ってますが、どうなるやら。冥子ちゃんも再登場させたいのですが。
とりあえずお子様ーズは思春期真っ盛りです。
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます!!

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