「料理はできたてが一番」
「だから、できたてをいただきましょう」
時計はもう午後十一時を回り子供はもう寝ているのが好ましい時間、美神徐霊事務所ではタマモはリビングで青白い顔で茫然と座り込み、シロはキッチンで鼻歌を歌いながら料理を作っていた。大きな寸胴鍋を笑顔で鼻を押さえながらかき回しているシロは、タマモに声をかける
「もうすぐ出来るから待ってるでござるよ〜」
「絶対食べない」
タマモは即答で返す。あ、えずいた。
「こんな匂いだすもの食べれるわけないでしょ……」
そう、今シロがいるキッチンからものすごい悪臭が発生し事務所内に漂っているのだ。
朝のうちから美神もキヌもいないこの事務所で留守番をしていたシロとタマモは夜になって深刻な問題に直面していた。そう、夕食がないのだ。カップめんは昼に食べた分で買い置きはない。また守銭奴の美神はこの二匹におこずかいというものを与えてなかったため自由に使えるお金はない。もちろんこの事務所の中には大金が隠されているが、もしそのお金が1円でも足りないことがあの鬼にばれたら……餓死の方がましと思える末路をたどるのは火を見るよりも明らかだった。そのうち戻って来るだろうと空腹を抱えてまっていた二匹であったが限界がきた。
「拙者が料理するでござる!」
と、十時半を回った時点でシロ言い出したのである。
「あんた料理出来ないでしょうが」
「出来るでござるよ。」
「肉焼いて出すだけじゃ料理とは言わないわよ」
まぁそれでもいいんだけどと心の中で思いながらタマモはほぼ条件反射でシロをからかった。
「そんなのわかってるでござる。ちゃんと にもの を作るでござる!」
「まずかったら、燃やすわよ」
「……まかせるでござる! ぜったいおいしいから安心するでござる!」
と、言い切り調理を始めた結果がこれである。人工幽霊壱号もあまりの臭いに時々壁を震わし、屋根裏から妖精が一匹文句を言いに事務所に降りてくる。
「いったいなんなのよ! この臭いは!」
「……だれ?」
「鈴女よ!」
「雀?」
「鳥じゃない!ってか屋根裏で同居してるでしょうが!」
「あぁ〜そういうのもいたわねぇ」
「ひど!」
「だってあんた虎より影薄いじゃない……あっちの世界に帰ったんじゃなかったんだ」
「帰ってないわよ! って、よくおしゃべりしてるじゃないの! 何なのよ!」
「あんたよくこんな臭い中元気ねぇ」
「そうよ! それよ、何なのこれ? 何の実験よ?」
「キッチンでシロが ニモノ と言う名の化学兵器を作ってるのよ」
「これが煮物の匂い?!」
「だから化学兵器だってば」
「やめさせなさいよ!」
「もう体がしびれて動けない……」
そう言うとタマモは床に倒れこむ、倒れこんだタマモを起こそうと近づいたその時だった!
「できたでござるよ!」
と、鼻に洗濯ばさみをつけ両手に化学兵器が盛られた皿を持った笑顔のシロが入ってきた。
「あ、鈴女もいたでござるか! まだ残ってるからついでくるでござる。」
「いらないわよぉ!」
「そうでござるか……せっかくおいしいのにもったいない」
「おいしいわけないでしょ!」
全力で拒否する鈴女と匂いが近くなりますますだれていくタマモ
「わたし……いらない……」
「もったいないでござるなぁ……じゃぁ、拙者から先に食べるでござる」
「あの……シロさん……」
「どうしたでござるか、人工幽霊殿?」
「あの……それ食べられる匂いではないとおもわれるのですが……」
「匂いだけで判断しちゃだめでござるよ♪ じゃぁ拙者は冷める前に」
☆パク☆
(((食べた!!!)))
★スポン★
(((鼻栓取った!!!)))
「うーん! 絶品でござる♪」
「「「はぁぁ?」」」
旨い、旨いと言いながら笑顔で化学兵器を食べ続けるシロを 三名は信じられない珍獣を見るように観察していた。
「ほら、タマモも食べるでござるよ。料理はできたちが一番でござる!」
「いや……でも」
「ほーら!」
タマモの口が強引に開けられ、焦げた何かが放り込まれた
☆ゴクン☆
((飲んだ!))
「……おいしい」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」
「いやおいしい……うん。切り方ひどいし、焦げかけてるし、見た目ぐちゃぐちゃで臭いけど……おいしい」
「そんな! ちょ、ちょっと、一口、一口!」
「小さく切るから、待つでござる!」
シロに小さく箸で切ってもらい一口食べた鈴女もこの化学兵器 もとい煮物に舌鼓をうつ。それからはこの三名は我先にと争うように煮物を食べ、あっという間に皿は空になった。
「はぁ〜おいしかった……」
「食べ過ぎた……」
「妖精のくせにがっつきすぎでござるよ。」
「ほ、本当に美味しかったのですか?」
満足げにリラックスする3名を人工幽霊壱号は信じられなかった。
(こんな悪臭が? あんな見た目で? ……あんな材料で?)
「いやーおいしかったわ、本当に……人工幽霊にも食べさせたかったわ」
「だからいったでござろう♪ 」
「……ここまで言われると食べてみたかったです。 食べられないですけど……」
あの、タマモがそう言うんだからそうなのだろと、奇跡が起きたのだろうと。
「ねぇ……まだあるの?」
「あるでござるよ、もちろん。」
「うーん、私はもう入らない……」
「まだ、食べていい?」
「何でござるか〜まずかったら燃やすとか、食べないとか言ってたでござろう」
「う…………」
「まぁ、いいでござるよ♪、ついでくるから待ってるでござる」
シロは上機嫌にキッチンに皿を持って行った。
「ねぇ、人工幽霊。いったいあれ何が入ってるの?」
「いや……決して煮物がおいしくなるようなものは入ってないと思うですが……」
「よね……まぁ、旨いからいいか」
「おまたせでござる☆」
さっきと同じくらいの量を持ってシロが戻ってくる。
「ありがとう」
「まだこの5倍くらいあるからいくらでもでござる」
「「「5倍!!!」」」
タマモはまぁそれだけ作ったのは配分がわからなかったのと味に自信があるのだろうと解釈した。
(残ったこれ食べてあの三人はどんな顔するかしらね……)
タマモは箸を手に取り再び煮物に取り掛かる
「じゃぁいただきます」
タマモが一口口に含む。
顔が青白くなる
あ、震えだした……
「おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「「「えぇぇぇ!!!」」」
タマモは思いっきりリバースした。顔面は蒼白になり、手足が震え背中に脂汗が流れている!!!
「シ、シロ……殺す気ね」
「そ、そんなはずないでござる!!!」
シロもあわてて一口食べる。
顔が青白くなる
あ、泡吹き出した……
「おえぇぇぇぇぇ」
シロも同じくリバースした。部屋中を走り回り、壁に頭を打ちつけもだえる!
「な、何ででござるか! うぇっ……あり うぇ ない うぇぇぇぇぇ」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ?」
「き、きたないです、どうなさったんですか、お二人とも!」
「シロ、一個前の煮物もってきなさいよ〜口直しするから……」
「同じものでござる!」
「うそつけぇ……」
「本当でござるー!」
真っ白な顔のタマモに首を絞められているシロを見ながら人工幽霊は考えた。
(そういえば、食事を作る前に屋根裏部屋に戻って行きましたね……あぁ、なるほど。 だから内臓ついたままのサバや納豆やモロヘイヤ、ドリアンにピータンの入った隠し味がナンプラーの煮物がおいしい訳ですね……)
「不味い……臭い……苦い……痛い……ベロが痛い……臭い……胃から臭い……お腹……もうだめ……」
床でそう呟きながら痙攣しているタマモ
「な、何急に口が痛い! あれ、臭い!臭いわよ! お腹もいたーい! ま、まっすぐ飛べない……きゃぁ」
飛べない妖精・鈴女
「そんな……こんなはずないでござる! ……おえぇぇぇぇぇ」
涙を流しながら、食べては戻すを繰り返すシロ。 阿鼻叫喚の地獄絵図が悪臭付きで事務所内で繰り広げられている。
「じ、人工幽霊殿」
「なんでしょうか、シロさん……」
「食べてみたいと、言ってたでござるね」
「い、いや、私は……食べることはできませんので……残念ながら」
「壁にぶちまければ、味くらいわかりそうでござるよね……」
「シ、シロさん……その手に持った皿どうするつもりですか?」
「ふふふ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
料理はできたてが一番
だから、できたてをいただきましょう。
『旨』の文珠の効果が切れる前にね♪
〜お後がよろしいようで〜
あとがきと言う名の開き直りの場
……だって、コメディ書きたかったんだもん…… シリアスって肩こるんだもん …… わーるーいーかー
すいませんm(_ _)m
この短編ってね、一応「光は体の中で」の番外に当たるんですよ。三人が妙神山に居る間に起こった事務所の悲劇です。はい。
(微妙に……本当に微妙にこれからの本編の前ふりになってるんですが、それは内緒の方向で)
○名称詐称主義様
えぇ、その通りあの方でございます。
一風変わった展開ですか?! ……がんばります!
(……子供じゃだめ? ;o; )
○アミーゴ様
昼メロ……改めて読み返して、言いえて妙だとおもいました……あはは
はい、次は第4話もお楽しみに〜
○アイク様
ひ、昼ドラがまし!? ……うーん、そっか……そうなのかぁ……
最近の昼ドラはライトになってんだなきっと(←おい)
○三上様
まぁ、どっこの神様も何らかの苦行なり戒律なりで人が人自身で成長するように促すのを主な存在理由としてるような感がありますしね……人間臭く神仏を描いてしまえばこうなる気がするんですけどねぇ。。。
>しかし、ここまで負の面でGS再現は凄いですね
自分では負の面という気は無かったんですけどね……原作の続きを考えたときにルシオラってどうなるかなと想像して書き始めただけで……まぁ、想像以上に重たい話になってびっくりです……がんばります。
○Tシロー様
あはは……今回、ちょっと鬱憤はらっちゃいました♪
にしてもホントそうです……とりあえずシリアスな横島になんの価値もありません(おい)……どーしーよー……何かあまりに空気硬くてサルにぼけさせてもだーれも突っ込みそうにないしな…… あぁサルにぼけさせて横島と美神に突っ込ませたい……元気だせぇお前ら!(自業自得)
○ZEROS様
何を考えて、どうしたいのか……あのサル万能そうに見えて役に立たないからなぁ……はてさて?
シリアスすぎて笑いが……いえ何でもありません
○紅白ハニワ様
あ……いえ、小竜姫がサルのパシリでいきまーす。サルは妙神山に待機です。
……詳しい行きかたありがとうございます! 彼女に伝えておきます。
○内海一弘様
裏技ですか……ふふふ(←無策の笑い) お楽しみにぃ(←強がり)
あぁ……納得していただけた……よかった!