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「光は体の中で 3(GS)」

一夜 (2007-06-14 17:07/2007-06-17 23:03)
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「今日はいったん休め。話の続きは明日じゃ。……食事は喉を通らんじゃろうが、せめて風呂には入って疲れを抜いておけ……それからヒャクメ」
「……はい」
「神界に行って用意してきて欲しいものがある。使いを頼む」
「はい……」
「では、ちょっと今からわしの部屋に来い」

 斉天大聖とヒャクメが部屋から出て行った後、残された者は誰も口を開けなかった。小竜姫は部屋の隅に座り込み、残りの三名は部屋を出て行き、忠夫は隣の部屋、令子とキヌはその向かいの部屋に入った。
 夕食は誰もとらず部屋に籠りきりだった。 
 夜も更け、令子に促されキヌは風呂に入っていた。湯に浸かり息を吐き全身の力を抜いた瞬間、どれだけ自分が疲労していたかを痛感した。手足が鉛のように重く、広い湯船の中でも指一つ動かす気が起きなかった。 体が思うように動かない中、頭の中では鮮明にここでの出来事が再現されていた。 

 「横島さん……美神さん……」
 そう呟くと自然と目から流れ出るものがあった。一度流れ出たそれは止めることが出来なかった。もう夕暮れのうちに流れ出て乾いてしまったと思っていたのに……今、この時でさえ拭っても溢れ出る。涙が止まらない事が悔しく、キヌは湯船に頭まで潜った。


「お風呂空きましたよ」

 部屋に戻った浴衣姿のキヌは、窓の近くに座り外を見ている令子に声をかける。その声に気付き令子はキヌの方に振り向いたが、すぐに視線を窓の外に戻す。

「……もう少し後にするわ」
「……はい」

 キヌは座ったままの令子のそばに座り、まだ湿り気の多い黒髪を拭きながら彼女の方を覗き見る。令子の瞳はまだ赤いがもう涙は流れていない。顔色もいつもとそう変わらない……表情からは感情は読み取れず、ニュートラルな状態にキヌの目には見えた。

「2週間前って言ったら、私が里帰りしてた時ですね。」

 その言葉に振り向いた令子はこちらに背をむけ髪を拭いているキヌを捕らえた。また視線を窓の外に戻し令子はゆっくりと口を開く。

「……そうよ。」
「でも、よくシロちゃんとタマモちゃんに気付かれませんでしたね。」
「あの二匹はね、お酒飲ませて潰しちゃった。」
「度数の高いお酒でも飲ませたんですか?」
「そ、とびっきりのね」
「……じゃぁ、何日も前から計画してたんですね。二人で」
「……えぇ」

 二人とも努めて明るい口調で話した。これは確認であり報告である。キヌはいつか確かめなくてはと思っていた事であり、令子はいつか話さなくてはと思っていた事であった。そのいつかが今になるとは……こんな辛い事になるとは……


「二人らしいです。……そんな気を使わなくてもいいのに」
「そんなんじゃないわよ……ばれたら恥ずかしいじゃない……それだけよ」
「苦労して結ばれたんですね」
「そうよ……苦労して、やっとね……」

 二人とも軽く笑みを浮かべながら話していたが、キヌが耐えきれなくなる。瞳からこぼれ落ち、浴衣に小さなシミをつくる。

「何で……こんなことになっちゃたんでしょう……」

 キヌは少し前から気が付いていた。二人が上司と部下ではない違うつながりで結ばれた事に。複雑なものがあったが心の中でそれを祝福していた。失恋の痛手は小さくはなかったが、自分の大切な二人が幸せに近づいて行くのは幸せだったし、早く自分にも報告して欲しいと思っていた。 

 (幸せに近づいてるはずだったのに……それなのに……どうしてこんな……)

「……多分、私のせい」
「え?」

 キヌは令子の顔を見た。キヌの目に映る令子の顔は、口元に笑みが浮いて涙も流れていないものの……悲しみに満ちていた。

「……私の霊的構造の中にもね……微量だけどアシュタロスの波動があるのよ……それが彼の霊気に影響与えたか……混ざったんでしょうね」
「そんな」
「あくまで推測よ……でも、勘がね……」

 残酷な言葉だった。キヌはそのあまりの残酷さに言葉を失う。その理不尽さ対し俯き拳を握り、歯を食いしばる。   

「そんな……なんで……どうして二人がこんな目に合わなくちゃいけないんですか?」
「……そういう星の下なのよ」

 星の下、運命、因果……自分の思い通りにならない、誰も責める事の出来ない理不尽な現実はそれらのせいにしてしまえば楽になる。諦めがつく。キヌもそれはわかっている。そうすれば自分だってこの受け入れ難い現実を、受け止めることは出来るはずだ。

(でも……)

 キヌの頭の中に一人の女性が浮かぶ。

(死ななければ……恋に落ちなければ……私たちの前に現れなければ……生まれてこなければ……)

「……ちがう……全部」
「おきぬちゃん」

 びくっとキヌの肩が震える。ふっと令子の顔を見るとまっすぐにこちらを見つめていた。その瞳には怒りも悲しみも無く……強さと、姉のような温もりを湛えていた。

「……ちがうわよ」

 キヌは令子の顔が見れなくなった。キヌ自身もわかっている。今この現実がすべて彼女のせいにしてはいけない事を……しかし誰かのせいにしなくては耐えられなかった。こんな今を導く運命か、決してあがいても抜け出せない宇宙意思にか、助けてくれない神様にか、人を不幸にする悪魔にか…… 

「運命も……宇宙意志も……神様も、悪魔も嫌いです……どうして、素直に幸せくれないんですか」
「……神様と悪魔は……見てたらそんな力無いしねぇ」

 (強いな……この人は)

 キヌは、吸い寄せられるように令子の胸に頭を摺り寄せ、令子はその頭をそって抱きしめる。

「……でも、本当ね。 ……ひどいわよね」
「はい……」

 抱きしめられ、キヌは冷静さを少しずつ取り戻していく。冷静になると、自然とまたあの時を思い出す。歓喜し、怒り、泣き崩れた彼の姿を。 

「横島さんも……ひどいです」
「……………」
「ひどいです……美神さんが……かわい……そうで……」
「しょうがないわよ」

 肩を震わし泣いていたキヌの震えが止まりだす。すっと、令子の腕の中から抜け出し正面に対峙したキヌは、目を大きく開き令子をじっと見る。

「どうして、そんな事言えるんですか? どうして許せるんですか?」
「……知ってるから」

 令子そっと目をキヌからはずしながら言葉を続ける。

「あいつがどういう奴で、ルシオラがどういう存在か。 ……命より大事なのよ、ルシオラがね」
「そんな」

 キヌは怒りと絶望に満ちた、彼に対する信頼と情が崩壊するほど。

「私も……おきぬちゃんも……」
「え?」
「あいつには自分の命より大事なものがいくつもある。」

 崩壊が止まる。  

「そういう奴なの……知ってるでしょ?」

 キヌは忠夫のルシオラに対する想いの強さに自分達への裏切りを感じていた。いくらこっちが信頼し、強く想っても、結局は今はこの世にいない彼女を選ぶのか……私達は切り捨てられるのかと。しかし、それは半分しか正解ではなかった。彼は彼女を選ぶ。でも、私達を切り捨てるわけではない……彼の性格、優しさから、そんなことは出来ない。

「……はい。」

 知っている。彼の性格も優しさも……でも、令子のように言い切れるほどの確信がなかった。それは恐怖と寂しさと……嫉妬のせいだった。

「でも悔しくないんですか」
「……悔しいわよ」

 令子の拳が強く握られる。

「悔しいわよ! 悲しいわよ! どうやったって独り占め出来ないって……こんなに悔しいことないわよ!」

 今日、妙神山に来て初めて令子は感情を外に爆発させた。

「お腹押さえて幸せそうな顔見てどれだけ惨めだったか。泣き崩れる姿見てどれだけ悔しかったか……」
「美神さん……」

 肩を震わせ、長い髪が俯いた令子の表情を隠しているが泣いているのはわかる。

「でもね……それでも信用できるの……忠夫をね」

 泣きながら……それでも張りのある声でそういう令子にキヌは強い敗北感を感じた。

「……すごいですね。」
「……惚れた弱みよ」
「愛されてる強みですよ。」

 (私だって好きです。でも……)

「私は……出来ない……」
「おきぬちゃん」
「……行ってあげてください。横島さんの部屋に」
「……でも……」

 キヌは自分の荷物から笛を取り出す。そっとそれを口に近づけ、柔らかでそれでいて力強い音色を響かせる。
 令子の恐れを弱め、勇気を与える音色だった。


 笛の音が聞こえてくる。その音色に、ついさっき聞こえた令子の怒声でざわついた心がすこし落ち着くの忠夫は感じた。

 (そりゃ、怒ってるよな……)

 冷静さが、反省と後悔を強くする。
 何も考えないで、ただ感情のまま起した行動が彼女を深く傷つけてしまった事に一人になって忠夫は初めて気が付いた。

 (……裏切っちゃったよなぁ……どう説明しても……言い訳にしかならないよな……)


 片膝を抱え、うずくまると忠夫は動かない。

「忠夫……入るね」

 襖が開き令子が入ってきても忠夫は顔が上げられなかった。その様子に令子は彼から2〜3歩離れたところで立ち止まる

「大丈夫?」
「……はい」

 令子は忠夫に近づくとすぐそばに座る。

「死なせたりしないわよ」
「へぇ?」

 突然の令子の言葉に横島は顔を上げてしまう。目の前にいつもの様な、力強い令子の顔があった。

「惚れた男が欲しがってる物手に入れてあげる。……いい女でしょ?」
「……普通、男女逆じゃなないっすか?」
「それじゃぁただの悪女と駄目男よ」

 どちらからともなく笑いがこみ上げてくる。神族がどうしようもないのにこの人はどうやってやろうというのか

 (でも、令子さんなら……やれそうだからすごいよな)  

 忠夫は目を奪われる。

「いい女ですね。」
「当たり前でしょ」
「そうっすね……」

 (本当に……いい女だ……素敵な人だ……)

「駄目ですね、俺は……令子さんにはかなわない」

 忠夫はまた俯く。

「日頃の行いも悪いしな……綺麗なネーチャンみたら声かけるし……そのせいですかね、こう言う事になるのって……本気で愛したら  ……本当に愛してるのかって問われてるみたいで……」

 パチンッと部屋に音が響く。横島の左頬が真っ赤になっている。

「あんたがどれだけ本気か私がよく知ってる……神だろうがなんだろうが要らないお世話よ。だからそんなこと考えるな。」

 令子の言葉が緊張の糸を切る。泣き崩れた忠夫をやさしく抱きしめながら令子は忠夫に囁く。

「本気だって知ってるから……だから、つよがれるのよ」

 それだけ言うと忠夫の方に顔をうずめた。


「小竜姫です。入ってもよろしいですか?」
「いいぞ。入れ」

 小竜姫が訪れたとき、斉天大聖は手紙を書いていた。

「何か用か?」
「お聞きしたい事があります」
「何じゃ」
「横島さんのことです。」

 斉天大聖は手を止めて小竜姫のほうに向き直り、目で話の続きを促す。

「本当に……ルシオラさんは死産しかないのですか?」

 斉天大聖は髭に手を当て何も答えない。

「それならば、なぜこのような残酷なことを告げたのですか? ……知らなければ」
「……悲しむことはなかったと?」
「……いえ」

 じっとこちらを見る斉天大聖に言葉を継げない。

「今は……どうしようもないんじゃ。」
「今は?」
「小竜姫」

 座りなおして名を呼ばれた小竜姫は反射的に背筋を伸ばしてしまう。

「お主にも使いを頼む」
「使いですか? しかし」
「今書いてる手紙を届けて欲しいのだ。出来るかぎり早急に。」
「しかし」
「師匠に盾つくのか?」
「いえ……わかりました」
「うむ。もうすぐ書き終わる。待っておれ」
「あの、どちらに行くのですか」

 一呼吸おいて、斉天大聖は行き先を告げた

「福岡じゃ」


 〜続く〜


 あとがきの名を借りた自己弁護
 美神令子の心情、横島忠夫の行動など、腑に落ちなかったりするところは多いとかもしれませんが……すいません、作者の思考回路ではこう動いてしまううですよ…… はい……


 ○アミーゴ様

 えげつないですか……作者もそう思います(オイ)
 サルはオイシイとこ持って行くし、忠夫は子供だし……ねぇ


 ○Tシロー様

 忠夫は欲張りですから……大変なのも仕方ないです。
 うーん……期待をはずさないようにがんばれたらいーなー


 ○三上様

 神様に向かって暴言吐くとどうなっても知りませんよ(笑)
 ……この話ではただの役立たずでは無い……ぽいですよ?


 ○ZEROS様

 どうもあのお猿さんは何か考えあるみたいですよ?


 ○闇の皇子様

 この作者、とんでもなくへそ曲がりですから……横島君は一生人間のままです。じゃぁどうやって?  ふふふ(←無策かもしれない)


 ○内海一弘

 き、基本はシリアスとコメディを織り交ぜる話の予定なんですが……下地がとんでもなく重いので悪戦苦闘中です。 コメディ……もっと出せれるといいんですけどね。 救えない話は作者も好きじゃないんです。

 心境はこんな感じです。いかがでしたでしょうか。

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