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「この誓いを胸に 第一話(GS)」

カジキマグロ (2007-06-10 20:29/2007-06-10 20:38)
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「いいかい忠夫。八神のおじいさんにはお世話になるのだから、くれぐれも迷惑をかけないようにしいや。」

「大丈夫やお袋。心配するなや!」

「は〜〜〜〜……。何か心配やな〜。」

 百合子がこめかみを押さえ、ため息を吐く。彼女はどうも目の前で自信満々で胸を張る一人息子である横島忠夫の態度に不安を隠せないでいた。

 今彼らがいるのは大阪駅で、百合子達は横島が東京へ旅立つ見送りに来ている。

「ええか?本当に絶対、何が何でも迷惑かけるなや。」

「…………お袋……そんなに一人息子が信用ならんか?」

「信用がお前にあると思う?」

「………無いな。」

 横島が虚空を見上げ涙を流した。百合子はそんな彼の姿を見て、またため息を吐く。

(全くこの子は………。あの幽霊と同じ事をやりよる。)

 百合子が思い出したのは一人の幽霊の姿、目の前にいるこの子とは違う未来から来た自分の息子………。
 彼との出会いが目の前の息子を変え、自分を変えた。

(本当に困ったもんや……。後三年は手元に置いて育てるはずやったんやけどな………。なあ、未来の忠夫……。あんたの責任やで?これは私がそっちに逝った時には折檻決定や。覚悟しとき。)

「如何した?お袋。」

 百合子が寂しそうに笑っていた事に気づいた横島が、怪訝な顔をして彼女に声をかけてきた。百合子は何でも無いと言わんばかりに頭を振ると、自分の後ろにずっと黙って控えていた少女に声をかけた。

「ほら、夏子ちゃん。アンタもさよならぐらいこの馬鹿息子に言ってあげて。」

「馬鹿息子って………このおばはんは……。」

「何だって?」

「ノー・ナンデモアリマセン。」

 百合子に睨まれた横島は怯え、彼女から目を逸らし、震えながらロボットのような発音で何とか先ほどの失言を誤魔化そうとしていた。

「まあ、今回はそれほど時間も無いから不問にしてあげるわ………。でも次は無いよ?」

 横島の首がカクカクっと縦に動く。百合子はそれを見て満足げに頷くと、もう一度夏子に声を向けた。

「ほら、夏子ちゃん。」

 すると夏子がスッと百合子の前に出てきた。しかし彼女は顔を下げたままであり、その表情が全く読めない。

「………横っち。これで私たち三人、皆バラバラやね………。」

「そうやな……。銀ちゃんも五年のとき引っ越して居なくなったからな………。」

「私一人が取り残されちゃった………。」

「夏子………。」

 二人の間に重い空気が流れる。駅のホームは人で満たされ、騒音が鳴り響いているはずなのに今の二人には不思議と聞こえない。


「私ね、何と無くこんな日が来るんじゃないかって思ってたんや。だって横っちは変わったから……。何が変わったのか?って聞かれると、うまく答えられんけど……。あの日、伊達さんが居なくなった日から、横っちは確かに変わったんや。」

「そうか?俺にはよく判らんけど……。」

「本人には自分の変化なんて判らんもんや。私はずっと小さいときから横っちを見ていたんやで?私には判る。あの時から横っちはドンドン変わっていることが……でもな?だからなんや……。だから私は寂しいんや………。あの日から全く変わらない自分が、置いていかれている自分が……。」

 夏子がそう言うと顔を上げる。彼女は微笑んでいた。その目に涙を、今にも零れ落ちそうなほど溜めて……。
 横島は、胸の鼓動が速くなるのを感じた。夏子と言う少女は、自分が知る限りでは天真爛漫という言葉がしっくりきて、泣くときだって喧しく声を上げてビービー泣いている様な少女であった。
 しかし今の夏子は、横島の目にはとても儚げに映っていて、普段とはまったく違う人物に見えていた。

 だからだろうか?横島は思う。


 今の夏子は綺麗だと……。


「私な……。これ以上横っちに置いていかれたくないねん。私も変わりたい。だから横っち…………ごめんな。」

「はっ………?」

 夏子が突然謝ったことに理解できず、横島が呆けてしまう。その隙に夏子は横島にそっと近づき、そして……。


 自分の唇を横島の唇に重ねた。


「なっ!!」

 横島が顔を真っ赤にして口を慌てて押さえる。夏子の方も顔を真っ赤にしているが、その表情はしてやったりと楽しそうに笑っており、横島がよく知る何時もの夏子に戻っていた。

「私のファーストキスを横っちにプレゼントや!これで私も少女から女に変化する切っ掛けを手にすることが出来た。ありがとな!横っち!」

「えっ……!?変化って……お前!?」

 横島は完全に意表を突かれ混乱している。だから彼は、自分の乗る電車のドアが閉まろうとしているのに全く気づいていなかった。

「ええい!男がうだうだ煩い!!貰える物は貰っとけ馬鹿息子!!」

 そんな横島の姿に業を煮やした百合子が彼を蹴飛ばす。

「ぐはっ!!!」

 横島はその蹴りをモロに食らい、電車のドアの中まで吹っ飛ばされてしまった。そして次の瞬間、まるでタイミングを計ったかのようにドアが閉まり、ゆっくりと電車が動き始めた。

「ててててっ……あのクソ婆……てっ!おい、夏子!!」

 横島が慌てて立ち上がり窓の外を見たときには、もう二人が居た地点よりもかなり離れており、夏子の姿を見ることが出来なかった。

「はあ〜〜〜。不覚やな……。いや、これはこれで美味しいのかな?」

 夏子は自分の事を変化してないといった。しかし横島は、それは違うと思っている。それこそ彼女の言葉を返すようになるが、自分の変化は自分では気づきにくいのだ。横島もまた夏子を幼いときからずっと見てきて、最近の彼女の変化には気づいていた。

「出るところは出て、引っ込むところは引っ込み始めたからな〜〜。それに将来絶対美人になるやろうし………あかん。こんなことなら告白しとけばよかったか?」

 彼の問いに答える者は誰も居なかった。


      この誓いを胸に  第一話 少年と老人


 東京の都心部から離れ、木々がうっそうと生い茂っている山の中を、横島は一人ボストンバックの紐を肩にかけ歩いていた。彼が今向かっているのは、これからしばらくお世話になる八神厳十朗の家だ。

「長かったな〜〜。」

 横島が空を見上げる。幽霊との別れからすでに二年の月日が経とうとしている。横島はあの後、幽霊が最後に言った言葉を百合子に伝え、自分にチャクラの解放の仕方を教えることが出来る人物が、八神と言う名である事を知った。
 横島は直ぐに八神に電話をして、彼に弟子入りの許可を取る交渉を持ちかけた。この時横島はかなり緊張していた。百合子の話によると八神という男は、余り好んで弟子を取らず。弟子入りを懇願する者は数多くいたものの、実際に師事した者は十数人だけだそうだ。              
 しかし彼に師事された者は例外なく優秀なGSとして活躍し、今でもGS協会などで重要なポストについているらしい。
 それは八神が良き指導者と言うことの裏づけでもあり、彼に師事を受ければ確実に夢への道が開けると横島は思っていた。
 故に弟子入りを断られるわけにはいかない。いざとなれば泣き脅しでも何でもするつもりで横島はいた。

 だが結果は予想外であった。

「わしの家に来て住み込みで、修行するのなら構わんぞ?」

 条件付だが、八神はすんなりと横島に弟子入りの許可を出した。余りに呆気無い展開に横島は一瞬呆けてしまったが、直ぐに正気を取り戻し、今すぐそちらに向かいます。と話を勝手に進めようとした。
 無論そこで、後ろに控えていたゴットマザー百合子の拳と言う名のストップが掛けられ、横島は敢え無く撃沈。
 電話は百合子に代わり、八神と息子の弟子入りの件で色々と打ち合わせをし始めた。そのとき決められた内容は次のような物だ。

 忠夫が小学校を卒業しその後、東京の中学を受験させ、そして合格したらそちらでお世話になりたい。

 八神の方も別段この申し入れを断る理由も無いので、承諾。結果横島の弟子入りは中学生からと言うことになった。
この事を百合子は横島が起きたときに説明した。横島は弟子入りまで、後二年近く待たなければならないと言うことに不満そうではあったが、ポケ○ンもビックリな百合子のにらみつける攻撃で、心に瀕死のダメージを被い、彼は涙を流しながら首を縦に振った。
 それから横島は自分の人生でもっとも辛い時期を過ごすことになった。彼は百合子や大樹の血をしっかりと引いているので頭は悪くない、否、逆に良い方だ。だが生来の勉強嫌いな所為か学校の成績は余り芳しくなかった。

「東京行きを認めてやるのだから、それなりの中学に入らんとダメやで。」 

 この百合子の一言で、横島は始めて自室の机に向かい勉強をした。お陰で彼の成績は、うなぎ登りに上がっていき、東京の有名私立中学に無事合格できたのであった。

「本当に長かった………。やっと夢への第一歩を踏み出すことが出来たんや。」

 横島は山を歩きながら、この二年間を振り返り感動の涙を流していた。よくやった俺!偉いぞ俺!おっちゃん、草葉の陰から見てくれているか?あなたの弟子はこんなに立派になりました。

「………グス……。というか、まだ着かんのか?」 

 横島は鼻をすすり、段々と肩から外れてきたボストンバックの紐を掛けなおす。

「遠いな〜〜〜。」

「お前が忠夫とか言う百合子の所の小僧か?」

「のわっ!!」

 横島は突然後ろから声をかけられたのに驚き、片方の手を胸の位置に、もう片方は頭上に、そして片足で立ち、体全身で驚きを表す、俗に言う(言うかは判らないが)シェーのポーズでその場を飛びのいた。
 横島の後ろには短パン半袖の服を着た老人が一人、いつの間にか立っていた。老人の身長は170cmぐらいで、体も引き締まっており無駄な脂肪、無駄な筋肉が殆ど無いように思える。

 動くための肉体。

 老人の体つきは、一言で表せばまさに、こう言うのであろう。

「じじじっ!爺さん何時の間にそこに居たんや!?」

 横島のどもりながら言った問いに対し、老人は悪戯が成功した子供の様な表情をした。

「ふっ、つい先ほどからじゃよ。まあ、そんなことはどうでもいい。わしの質問に答えろ小僧。お前は百合子の息子で横島忠夫と言う名か?」

「あっ……ああ。そうやけど……。もしかして爺さんが八神って人か?」

「如何にも、わしが八神厳十朗じゃ。遠路はるばるよく来たな。」

「あっ、いや……はじめまして横島忠夫といいます。どうか宜しくお願いします。」

「うむ。わしの家までもう直ぐじゃ。着いて来い。」

 八神はそう言うと、横島の前にスッと出て歩き始めた。横島も八神から遅れを取らぬ様に、彼の後に確りとついて行った。


「大きな家やな〜〜〜。」

 横島が八神宅前に着いて、その広さに感嘆の声を上げた。八神宅の作りは、家全体を立派な塀で囲み、屋根は大棟を東西に通した切妻造、茅葺型銅板葺で、南面中央部に2段の突き上げ屋根を設けている。これは旧高野家住宅と同じつくりであり、初めて見た者には、遺憾無くその存在感を見せつける程どっしりとした風情があった。

「ほれ、呆けとらんで速く来い。」

「うい〜〜っす。」

 既に玄関の中に入って靴を脱いでいた八神に声をかけられ、横島が門をくぐり玄関の方へ歩き出す。

「しかし、忠夫よ。お前中々体力があるな……。この家まで来るのには、それなりの山道だったろうに……。」

「いや、そんなこと無いっすよ。正直もうヘトヘトでぶっ倒れそうなぐらいっすから。」

「それだけ話せれば十分じゃ。さて、靴を脱いだらわしについて来い。お前に宛がう部屋を教えるのでな。」

「了解っす。」

 靴を脱いだ横島は八神にそのままついていき、これから自分の寝床となる部屋へと移動した。


「結構広いっすね。」

 部屋に着いた横島の感想はそれであった。

「大体六畳ぐらいかの?まあ、一人で使う分には十分じゃろう。」

「ええ、有難う御座います。」

 横島が八神に頭を下げる。

「うむ、では荷物を此処に置いて、次は道場の方へ行くぞ。」

「そんな物まであるんっすか?」

「まあの……。この家を建てたとき土地と金が有ったからの〜〜。自己鍛錬の場として、ついでに作ったんじゃ。」

「………そんなに儲かるんっすか?GSって……。」

 GSとは命がけの商売であり、一歩間違えれば直ぐにでも死に直結してしまう可能性がある危険な職業だ。しかしその分、一回の儲けが半端なくでかい職業でもある。まさにハイリスクハイリターン、現代社会を代表する究極のビジネス。それがGSだ。
 横島としても、GSがどんな職業かというのを調べていたので少しは理解していたが、それでもこれだけの土地、家、そして道場まで建てるほど儲かるとは、全く思っていなかった。
 実際は、それ以上に儲かるのだが、12歳の子供には、まだまだそこら辺の金銭感覚はよく理解できていなかった。

「儲かるぞ〜〜。特にわしは、半世紀前までは日本最強のGSと言われておったからな。馬鹿みたいに儲けていたわ。お陰で此処らの土地を少し買うのではなくて、山ごと景気良く、パーーっと買えたがの。」

「山ごと………。マジかよ………。」

 横島は開いた口が塞がらなかった。まさかこの山全てが、八神の土地だとは思っても見なかったのである。GSの収入、恐るべし!

(俺は此処まで儲けんでもいいな〜〜。)

 余り金銭に興味が無い横島は、心の中でそんなことを考えていた。

「ほう……。余り羨ましく無さそうじゃの?お主も将来はGSになりたいのであろう?」

「いや、俺は別にGSを目指している訳では無いっすよ。」 

 その横島の発言に八神の目が大きく見開かれる。自分に弟子入りを懇願する者は、今まで例外無くGSに将来成りたいからと言う理由であった。
 無論八神としてもそれは暗黙の了解であり、過去の弟子たちにも将来GSとして活躍出来るように修行を課してきた。
 故に、横島の様なGSに興味が無いという者が、自分に弟子入りしたのに驚いたのである。

「ならお主は何故、わしに弟子入りをしたのじゃ?」

「あれ?お袋から何も聞いていないっすか?俺は爺さんにチャクラの開き方を教えてもらおうと思って来たんっすよ。」

 その刹那、八神が纏う気配が鋭いものに変わる。

「チャクラを開きたいのか………。小僧?」

「えっ………あっ、はい。」

 八神の唐突な変化に驚いた横島が戸惑う。八神は横島を鋭い目で一瞥した後、虚空を見上げ、顎に手を当て、何か考え事をしているようだった。

「百合子め……。だからわしに詳しい理由を教えずに息子を押し付けたな……。まったくあの娘もまた紅井の血を引くものか……。」

「あ………あの〜〜〜。」

 そんな八神の様子に横島は如何したらいいのか判らず、とりあえず声をかけてみた。すると八神が横島の方を向き、ゆっくりと口を開いた。

「小僧……。いや、忠夫よ。お主は紅井の名を継ぐ百合子の息子であり、わしも暇だったからお主の弟子入りを許可した。しかしチャクラを開くとなれば話は別じゃ………。お主を試させてもらおう。」

「………試す?」

「そうじゃ。唯GSのあり方、戦闘法を学ぶのならば霊能力に少しでも目覚めている人間ならば誰だって出来る。じゃが……チャクラの解放となれば話は別じゃ。あれは限られた才能有る者しかたどりつけず、そしてさらに長時間霊力を身体に回す集中力、体力何よりそれに耐える忍耐力が必要なのじゃ。」

 八神の言葉を聞き横島は愕然とした。まさかチャクラの解放がそんなに大変な物だとは思っていなかったのである。
 だが、横島は諦める訳にはいかなかった。それは自分の崇高な目的(覗きです)のため、そして何よりあの幽霊との約束のため、どうしても第六のチャクラまで開かなくてはならないからだ。

「諦める事が一番いいのじゃが…………どうやら、諦める気は無いらしいな?」

 横島の真剣な表情を見た八神が、感心したように言う。何があったかは知らないが、横島が強さへの憧れや、幼い子供の短絡的な考えで、自分にチャクラの解放を教えてもらおうと思っていない事が判ったのだ。

「そうや。俺は諦める訳にはいかんねん。」

「ふん、何があったかは知らんがよかろう。動きやすい格好に着替えたら道場まで来い。わしは先に行っておる。」

「道場って何処にあるんや?」

「この廊下を真っ直ぐ行ったら庭に出れる。そしたら道場も目視出来るから判るじゃろう。」

「了解っす。」

 八神は頷くと横島の部屋を後にした。

「……はあ〜〜〜。一難さってまた一難か……。折角勉強地獄から抜けれたのにな。」

 横島はため息を吐くと、持ってきたボストンバックのチャックを開け、中に入っていた黒のジャージを取り出し着替えを始めた。


 八神宅の道場は、一般的な日本の道場と同じ内装であり、正面には神座が設けられ、額縁には道場訓が書かれて飾られている。
 日本の道場の床とは稽古法によって異なっており、柔道などでは畳、剣道などでは板貼りとなっている。
八神宅の道場は板貼りであるが、別に剣道をする訳ではない。唯単に八神の趣味だ。

「これは、また立派。」

 忠夫感激と言わんばかりに横島が手を叩く。本当にGSって儲かるのだな。と、つくづく思う。

「この様な事に使わんと、金が余りに余ってどうしようもないのじゃよ。」

「なるほど。」

「まあ、そんなことはどうでもいい。準備はいいか?早速いくぞ?」

「え〜〜〜〜っと。何をするのですか?………何となく想像はつくけど……。」

「恐らくお前が想像している通りじゃ。構えろ。」

(やっぱり……。)

 横島が天を仰ぐ、彼は、痴話げんかは好きだが(相手がいないのでやったこと無い)殴り合いの喧嘩好きでは無い。痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だ。
 しかし、この戦いは避けられそうに無いのが現実。大体この試合………試験の合格基準が、横島には判らない。少年漫画のセオリーみたいに一撃を入れたら合格なのか?それとも限界まで頑張って隠された力、見たいな物を発揮したら合格なのか?横島の頭の中で、色々な合格基準の想像がなされていた。

「絶対無理じゃから、わしに一撃を入れる事など期待しておらん。同様に、お主の隠された能力の解放なんて、毛ほどの期待もしておらん。」

「泣きますよ?……てか何で俺が考えている事、判ったんすか?」

「大体皆同じ事を考えるからの〜〜。推測は容易じゃ。まあ、色々考え事をしながら戦われてもいかんからな。この際はっきり言っておくが、お主とわしとでは実力の差が、月と顔がぬれて力が出ないアンパ○マンぐらい違う。」

「何っすか?その例えは?」

「後、お主の存在能力の解放じゃが。確かにチャクラの解放には類まれない才能を必要とする。しかしそれは、あくまでも長期的な才能じゃ。霊力を体全体に回し。人体に存在する7万2千の気道に霊力を流す。これらを長い時間こなす精神力、体力、集中力それら全てを総じて、わしはチャクラを解放するための才能と呼んでおる。今此処で開花されるような才能など、お主の目的には無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 八神が台詞の最後の方では、どっかの人間を辞めた吸血鬼の真似をして、かなりテンション高めで言葉を発した。
 そのうち、ザ・ワ○ルドとか言って時を止めるかもしれない。

「何処のデ○オだよ?あんたは………。」

 横島が頭を抱えてため息を吐く。この爺さんは一体何処でこんなネタを仕入れてきたのか?まあ、有名な台詞ではあるが……。

「さて、これで無駄なことを何も考えんでよかろう?ほれ、さっさと構えろ。」

「……了解っす。」

 横島はこれ以上あれこれ考えるのが段々としんどくなって、八神に言われたとおり構えを取った。
 左足を前に足の平一個分出し、そして、肩幅分足を広げ、膝を若干曲げて、上下に体を苦になく自由に動かせるようにする。そして、脇を45度上げて、手を顎からの位置に持っていく。このときコブシは、両手とも軽く握るようにする。 


  ファイティングポーズ。


 この構えは、実に理にかなっており、攻撃の準備と、相手からの攻撃の防御、両方を考えた態勢だと言っていい。
 世間一般の人々に何でもいいから戦う姿勢をとってくれ。と頼んだら大多数の人々がこの構えをするであろう。それほどにファイティングポーズとは一般的であり、構えとしては完成されている。
 ゆえに横島がこの構えを取ったのは至極当然。八神としても予想済みであった。

「ファイティングポーズを取るのは、格闘技を見た者、学んだ者では、大多数がおこなう当然の行為………。故に忠夫よ。悪くは無い……。悪くは無いが、教えといてやろう。その構えはあくまでも対人用だ。」

「なっ!!」 

 八神が動く、横島との距離は大体五メートルはあっただろうか?しかし彼は脅威の速度でそれを一瞬でゼロにした。
 この時横島は自分の目を疑った。八神がまるで床を歩くのではなく、滑るようにして移動してきたからである。

    運歩。

 これは拳法で扱われる歩法で「左右の肩の線と上下の正中線の十字が常に平行移動する」と言う考えを基本にする。移動速度自体は、腰を入れて踵から踏み込むほうが速いのだが、それだと如何しても攻撃が単発で終わってしまい、次が続かない欠点がある。しかし運歩だと、攻撃の連撃数が上がり、更に移動しながら攻撃出来るという利点がある。
 八神の歩法はまさに運歩であり、彼は更に霊力を足の裏から移動の瞬間だけ微量放出し、自分の体を浮かせる事によって、凄まじい速度で、本当に「滑る」移動を可能にしたのであった。
 簡単に言えばエアホッケーと同じ原理である。

「がはっ!!」

 虚を突かれた横島は、鳩尾に八神の拳を食らい後方に吹っ飛ぶ。

「ほう……。どうやら無意識の内に霊力を練り防御に回したようじゃな。」

 八神が感心したように呟く。だが横島はそれどころではなかった。いくら無意識の内に霊力を鳩尾に回して防御していたからと言っても、所詮は無意識。八神の打撃を完全に防ぐまで霊力を満足に練れているはずも無く、横島の体には、まるで鈍器で腹を殴られたような衝撃が伝わっていた。

「ぐっ!!くう………。」

 胃液が逆流してきそうになったので、横島は手で口を塞ぎ、逆流してきた胃液を必死で飲み込んだ。

「苦しいか?」

「あっ……当たり前や……。喉の奥がヒリヒリするわ。」

「止めるか?」

 八神の問いかけに横島は鼻で笑う。

「まさか、こんなことで諦められんのや。」

 立ち上がり、横島はもう一度構える。横島の表情は笑ってはいるが、微妙に引きつっており、額には玉の様な汗が噴出している。

「………大した小僧よ。忠夫よ?何故お前はチャクラの解放を目指す?」

「約束やからや。」

「約束?」

「そうや。俺に自分の思いを託してくれた幽霊との約束……。俺はあの人に色々教わった。そして助けられた。だから俺はあの人にその恩を返す意味でも、何としてもチャクラを開かないかんのや!」

 その台詞と共に横島が駆け出す。フェイントなんて有りはしない。唯真っ直ぐに駆け出す。

「本当に大した小僧よ…………。」

 八神は横島の気迫、瞳の奥にある意思の力強さから、彼の志の強さを知った。そして思う。この少年はきっと大切な者を失っていると………。

「うおおおおおおおおお!!」

 横島が叫び声と共に右の拳を振りかぶる。そして、八神の顔面目掛けて思いっきり振った!


 その拳は寸分狂わず八神の頬に当たる。


「へっ………。」 

 横島が、呆然と八神の顔面を捉えている自分の拳を見ながら呟く。まさか当たるなんて思っても見なかった。真っ直ぐに突っ込んで、全力で振りかぶって殴っただけの一撃。横島は殴ったままの態勢で固まっていた。

「もしかして……。俺は今、物凄い速さで動いていたとか?」

「残念じゃが、お主にそんな主人公特権は無い。」

 八神が横島を何でも無い風に見下ろしながら口を開いた。もしかして効いていない?横島の背に冷たいものが走る。

「霊能力者にダメージを与えるのならば、霊能力で戦わなければならない。今のお主の攻撃は、唯単に筋肉だけの攻撃。まあ、多少霊力は篭っていたが……。そのようなのでは、霊力を鎧の様に纏ったわしの顔面に、毛ほどの傷もつけられんよ。」

「マジで?」

 横島は開いた口が塞がらなかった。まさかそんなA○フィールド的な効果が霊能力に有ったなんて……。そういえば一度、伊達のおっちゃんが霊力は凝縮して放ったり、また制御次第では、剣や盾といった千差万別の使い方が出来ると言っていたような気がした。

「マジじゃ。それに霊力の使い方はこれだけではないぞ?霊力………。すなわちチャクラは波動として体内を駆けぬぐっておる。故にこんな使い方も出来る。」

 そこで八神の手がそっと横島の胸に置かれる。

「フン!!」

「がっ!?」

 次の瞬間、横島は己の体に電流が流れるような感覚を味わった。

「なっ……。何を……!?」

 意識の方は、はっきりしているが、四肢の力が抜け、横島は地面に倒れた。

「な〜〜に。簡単な事じゃよ……。霊力とは波動。己の体内を次々に伝わっていく波じゃ。そしてそれは、制御することにより他の者にも伝える事が出来る。わしが今、お主にやったのはそれじゃ。己の霊力を凝縮し外からダメージを与えるのではなく。霊力をそのまま波動として相手にぶつけ、内からダメージを与える。例えるならば、グラップラー○キでスーパードクターが使う打震みたいな物じゃ。」

「いや……。そう……なのか?」

 横島は、最後の力を振り絞り言葉を発する。正直もう限界だった。朝は6時に起きて、それから母親に何度も八神の爺さんに迷惑掛けるなよと言われ、大阪駅に着いたら、まさかのキスイベント。今思い出してもこれだけはテンションが上がる。
 そして電車に揺られ、やっと東京に着いたと思ったら三十分の登山。それが終わると何故か道場に直行し、ゲロ吐きそうな打撃を腹に食らったり、訳の分からない技食らって体が痺れて動けなかったりと………。可笑しいだろ?中学生(まだ入学していないが)がやる事ではないだろ?ああ……パトラ○シュ……僕もうとっても眠いんだ……おやすみ…。

 横島の意識はそこでブラックアウトした。


「知らない天井だ……。」

 横島が目を覚まし王道ネタを言う。だって本当に知らないのだから仕方が無い。

「おお、目が覚めたか?」

「爺さん……。俺はどれくらい寝ていたんや?」

 横島が隣で座っている八神に質問をした。八神は顎に手を当て考える素振りをしながら時計を見る。

「ふむ……。大体二時間かの?明日の朝まで目覚めんかと思っておったが、大した回復力じゃ。」

「そりゃ、どうも。いたたた……。体全身が痛い。」

「まあ、そうじゃろうな。あれだけ動いたのじゃ、無理は無い。そこでだ……此処から三分ぐらい歩いたところに温泉がわいておる。疲労回復には持ってこいじゃから、行って来るとよい。」

 その話を聞くと、横島が目を輝かせながら飛び起きた。

「混浴か!?」

「………まあ、混浴と言ったら混浴じゃな……。」

「男、横島忠夫!温泉に行ってまいります!!」

 先ほどの疲れは何処へやら?ビシッと敬礼。回れ右をしてダッシュ。今の彼を止めることは誰にも出来ない。待っててね〜〜。おねいさーーん!と、横島の声が、ドップラー効果で段々と小さくなっていく。

「若いの〜〜〜。」

 八神はそんな横島の姿を見て楽しそうに笑っていた。それと同時に、あの男はアホだとも思った。

「さて、温泉から帰ってきたとき、直ぐに飯が食べられるように準備でもしてやるかの。」 

 八神が、どっこいせ。と、言う掛け声と共に立ち上がり、台所に向かおうとしたそのとき、突然電話が鳴った。

「ぬ、珍しいの?誰からじゃ?」

 そう呟くと、受話器を取り電話に出る。

「はい、八神です……おお!高柳か!?如何した?珍しいな、お前が電話を掛けてくるなど……。で、どうした?うむ…………。」

 八神は、電話に出た始めは嬉しそうにしていたが、直ぐに真剣な表情に成った。この高柳と言う男は旧友ではあるが、世間話をしたいからと言って無意味に電話を掛けてくるような男ではない。高柳が電話を掛けて来る時、それ即ち何か厄介ごとがあったときだ。

「なんと……。それは真か?……分かった此方からも動こう。ああ、六道のほうには連絡をしたか?…………そうか、部下にさせたか……。判った。ああ、任せろ。必ず保護しよう。ではな………。」

 八神が受話器を置き、ため息を吐く。厄介だ……今回の問題は、今まででもかなり上位の方の厄介ごとだ。いざとなれば国と戦うことになるかもしれない。

「忠夫には悪いが、晩飯はレトルトじゃな。あやつが帰ってきたら早速出かけるとするか……。」

 八神が窓の外を見る。日は沈み、空には満点の星空が広がっていた。


 湯気がたち、水の音が心地いい温泉の中。日本人なら誰しも至福を感じるこの場所で横島は温泉に入り、眉間にしわを寄せていた。

「混浴か?混浴だな………。確かに混浴だ。だがしかし……。」

 横島は段々と肩を震わせる。それは決して寒いからでは無い、温泉の温度は丁度いいし、広さもあり、文句など一つもない。

「………嫌、文句はあるな……ぶっちゃけ俺にとっては、温度も広さもどうでもいい……。ただ………。」

 チラリと隣を見る。そこには……。

「ウキ?」

「何で猿との混浴なんやーーーーーー!!!!」

 横島が叫ぶ。温泉の中には横島一人に猿いっぱい、正直悲しい。何処の野生児だ?俺は?と横島は心の中で思うのであった。

「ウキキ?ウッキ?」

 すると突然隣にいた猿が横島の肩を叩いた。存外猿は横島に懐いている。

「あん?どうしたんや?」

「キキ」

 猿が後ろの茂みを指差す。するとそこの茂みが、音をたてて揺れ、中から一匹の子狐が出てきた。

「おお、狐か?始めて見たな。おいで。おいで。ルールールールー。」

「キュー。」

 子狐は、少し警戒しているようだが、ゆっくりと横島に近づいてきた。

「おや?」

 そこで横島はあることに気づく。

「狐の尻尾って……こんなに多かったけ?」

「コン。」

 横島のもとまで来て、腕に抱かれた子狐の尻尾は九本あった。


 あとがき
 まずは此処まで読んで下さった方々に感謝を……。

 さて、今回の「この誓いを胸に」は、前回の「託された思いの」続編であります。「託された思い」を読んで下さった方々からいただいた感想が、予想外に好評であり、私としても、その有難い感想に答えなければならないと思い。続編を書くことを決意しました。

 基本的に私は文を書くのが下手で、遅いです。故に投稿間隔が、どうしても開いてしまうかも知れませんが、ご了承ください。

 最後に「この誓いを胸に」の基本設定だけ、霊力とチャクラの仕組みは同じものと考える。横島は2000年に中学校入学である。の二点です。GSの原作を全て読んでみて、特に問題は無いと思い、この設定にしました。(問題ないよな?本当に……。)


 レス返し

 万々様
 読んでいただきありがとう御座います。「この誓いを胸に」も読んでいただけたら幸いです。

 柳太郎様
 清涼感を感じたなんて……そのような感想をいただき嬉しい限りです。横島らしさ……。今回は損なわれていないでしょうか。そこがこの小説を書くので一番難しいです。

 zerosenn様
 感想ありがとう御座います。やはり百合子は強いと思います。横島もどんなに強くなっても彼女には頭が上がらないでしょうw

 単三様
 「託された思い」を始めから最後まで感想を書いていただきありがとう御座いました。とても自分が小説を書く励みになりました。「この誓いを胸に」でも面白いと思っていただけるよう頑張っていきたいです。

 内海一弘様
 感想ありがとう御座います。「託された思い」では主人公は未来横島だったので、内海様の感想を呼んだ事により、それがうまく伝えることが出来たのかな?と思えました。

チョーやん様
 感動してもらえて何よりです。続編でも頑張ってボリューム、構成共に作り上げていくので、応援よろしくお願いします。

 08様
 満足していただけて嬉しい限りです。夏子と銀ちゃんとは原作通り、離れ離れになってしまいましたが、夏子にいたっては美味しいポジションなので今後活躍する機会があるかもしれませんw

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