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「栗色の髪の少女 横島! 第九話(GS)」

秋なすび (2007-06-07 14:41)
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──本作品にはTS要素が含まれています、ご注意ください──


美神さんへ 横島さんとお買い物に出かけてきます。 お仕事の前には戻ります。
追伸
横島さんは回復しましたので、安心してください。
シロちゃんとタマモちゃんのこと、よろしくお願いします。


「二人で買い物、ね…横島クンは大丈夫かしら…?」


いつの間に寝ていたのか、テーブルで目を覚ますと、書き置きがされているのに気づいた。 もう昼になってしまっている。随分寝たような気がする。仕事は夕方だったかしら?


「それにしても、うかつだったわ…」


横島クンの幼児退行、あれは多分、転生間もないが故の精神の幼稚化。タマモも転生間もない頃は、もっと子供っぽい性格をしていた。それを考えれば、ある程度は想像できるはずだった。それに、ヒャクメ曰く、今の横島クンは、成体していないとのこと。本来かなり子供っぽい性格をしていても不思議ではない。しかし、普段の横島クンがどこまでもいつも通りすぎて全然わからなかった。つまり、


「今の横島クンは、限りなくませたガキってことなのかしら…?」


でも、あの変容ぶりは少し異常だった。ませていると言うより、むしろ二重人格と言えるような気がするけど…。 いや、それよりも、不自然に思っていた事がある。横島クンは何故、横島クンのままなのだろうか?横島クンは魂もろとも別の肉体に入れ替わってしまったというのに、精神だけはそのままだ。横島クンの転生は、“前世からの生まれ変わり”ではなく、“魂の中に眠っていた別の魂の覚醒”というもののようだ。そもそも前者であれば魂が変わったりするはずがない。ならば、精神がそのままというのは余計におかしい。


「今までもイレギュラーな奴だったけど、相変わらず変な奴だわ…」


それにしても、むかつくガキだったわ…


「二度と会いたくないわね」
『誰とですか?』
「え?そりゃ勿論ガキになった横島クン…って、ヒャクメ!?あなた何でここにいるのよ!?」


背後から突然声が聞こえたかと思うと、妙な微笑みを湛えたヒャクメがひょっこりと姿を現した。


『なんでって、そりゃ勿論横島さんの様子を見るためなのね──』


診断の方法がわかったら会いに来るとか言ってたくせに…


『くすくす、横島さんに嫌われたからって、あんまりむきになって拗ねてちゃだめですよ?』
「は!?なんのことよ!なんの!!」
『ま、まぁまぁ…だから、むきにならないでくださいね──』


むきにさせたのは誰よ!ていうか、見てたのか…


『別に見てはないわ。ただ、心に聞いてみただけなのね──』


いつもの悪戯っぽい笑顔で手をぱたぱたとさせながら答えるヒャクメ。
良い性格してるわ、この不良女神…


『ふ、不良じゃないのね──…』
「どうでもいいけど、勝手に人の心読むな!で、何の用よ?」
『だから、横島さんの様子を見に来ただけなのね──』
「昨日の今日で様子見もなにもないでしょ、“監視しにきた”の間違いじゃないの?」


今の横島クンは、上の神々には興味の対象として十分なほどのイレギュラーだろう。こう言っては何だが、役立たずでもヒャクメは一応情報官の神、そのヒャクメが“解らない存在”なのだ、監視されても不思議じゃない。


『うぅ…役立たずは余計なのね──。違いますよ、ホントに様子を見に来ただけなのよね。信じてください』
「ま、それは信じてあげるけどね…」


私のかまかけに違う意味で動じるヒャクメ。しかし、どうやら嘘ではないとは思う。もし監視するつもりならば、遮霊環なんて厄介な代物を渡すはずがない。それは、自分で自分の首を絞めるも同然の行為だ。


「でも、ホントに監視するような動きはないわけ?」
『それは、今のところ大丈夫ですね。横島さんの事は私達だけしか知りませんから』
「ふ〜ん…今のところ、ね…」


まだ、妙神山から帰って一日しか経ってないんだけどね…


『遮霊環を付けている限り、私達が漏らさなければ、そう簡単にはばれることはないと思うわ』


つまり、小竜姫達も上に横島クンの事を伝えるつもりはないってことね。まさか、小竜姫の“横島さんのため”ってのは、このことだったのかしら…?


『私達のためでもあるのよね』
「……」


だから、勝手に人の心読むなっての… 。それにしても、自分の霊能を完全に封印することが、返って自分の身の安全と自由を保障するなんて、皮肉なことよね。


「で、横島クンの様子を見に来たって言ってたけど、横島クンは今、おキヌちゃんと買い物に出かけてるわ」
『え?そうなんですか?ふ〜ん…おキヌちゃんとデートですか…』


デート…?


「デートじゃないわよ!買い物だって言ってるでしょ!?」
『でも普通、二人でショッピングっていうのもデートって言いません?仕事じゃないんでしょう?』
「うっ…ふん、横島クンの服が要るから一緒に行ってるだけよ。それにデートなら、二人揃って百合決定だわ!」
『まぁまぁ。でも、どんなに見た目が変わっても横島さんは横島さんですからね?』
「……」


そんなこと解ってるわよ…
何も返事をしていないのに笑顔でうなずくヒャクメ。心を読まれているようで…ていうか、完全に読まれてる。癪だわ…


「で、あなたはどうするのよ?」
『あ、もう帰らないと!小竜姫にばれるとお仕置きされる!』


見るからに焦り出すヒャクメ。ていうか、サボりか!あんた、まさか横島クンに会いたかっただけじゃないでしょうね!?


『実はそうなのね──。会えなくて残念』
「もう来るな!この不良駄目女神!!」
『ひ〜〜ん!酷いのね──!と、とにかく帰るのね──』


そう言うと、ヒャクメは一瞬にして姿をくらましてしまった。


「人工幽霊一号!あれ、入れないようにできないの!?」
『すみませんオーナー、何やら強いラインがここに張られているようです。何度か排除は試みているのですが、無理なようです』


いつの間に…ヒャクメのくせに抜け目がないわね。


「まったく…妙神山へ行ったのは失敗だったかしら…」


ま、今更か…。あの時点では何も解らなかったんだし、そもそも横島クンをあのままにしておくわけにはいかなかったわけだし。でも、結果的に、転生した横島クンの存在が、ごく一部とはいえ神の知るところとなってしまったのも事実。小竜姫とヒャクメを信用しないわけじゃないけれど、それでもあの二人が不安材料であることに違いはない。


「考えたところでどうしようもないわね…」


もし監視対象になったからといって、横島クンに何か危害が及ぶとは限らない。だいたい、今の横島クンが一体何者なのかもわからないのに、変に悪い方向に考えても仕方ない。今は小竜姫とヒャクメを信じるしかない。


「…デート…か…」


テーブルの上の書き置きの文字は、心なしか楽しそうに踊っているように見えた。


「何よ、私には関係ないじゃないの…」


書き置きを片手で掴むと、くしゃくしゃに潰してゴミ箱へ放り込んだ…


『本当にこれで良かったのね?小竜姫』
『えぇ、ご苦労様です。ヒャクメ』


妙神山修行場の一室のモニターに美神所霊事務所の様子が映し出されている。その中央には一人の女性、美神令子の姿を捉えて放そうとしない。


『正直一辺倒な小竜姫にしては珍しいわよね、人を騙すなんて』
『言わないでください…。美神さんには本当に申し訳ないと思っています。でも、上層部に黙って行動するのです、まともなことなんてできません…』
『ま、それもそうよね』


小竜姫はそう言うと、目を伏せ、口を一文字に絞った。よほど申し訳なく思っているのですね。けど、むしろ、美神さんにばれたらどういうことをされるか考えた方がよさそうな気がするのよね──。はは…上層部無視も、いろんな意味で覚悟がいるわ。


『ヒャクメ、あなたこそ良いのですか?わざわざ私の愚行に付き合わなくても良いのですよ?』
『そんなこと今更だわ、あなた一人じゃ何も出来ないじゃないの。それに、私も横島さんのことが心配だし、小竜姫が気にする事なんてないわよ』
『そうですか…。ヒャクメ、ありがとう…』


上層部にばれたらばれたで、理由付けはなんとかできないでもないわ。それよりやっぱり美神さんが…。神様をして、上司を恐れざるも、一人間を恐るる。ってところかしら?さすがですね、美神さん…


『それにしても、人界調査なのに人間と接触不可なんて久しぶりですね──。何があったのかしらね──?』
『ヒャクメも何も聞かされていないのですか?』
『えぇ…』


──人界に於いて、低級霊達に異変が起きている。速急に調査し、些細な異変も速やかに報告せよ。但し、人間との接触は避けるべし。──


それが今回の命令だった。こんな、神界とあまり関係ないような事件の調査命令なんて非常に珍しい。神族は、基本的には人界への直接の干渉を良しとしない。神界へ影響がある場合、あるいは魔族と関連のある場合は例外としているけれど、今回のことはそのどちらとも思えない。それに、大抵は人間の協力を得ることくらいは許されていたのに、今回は接触してはいけないとのこと。
本来なら横島さんのこともすぐに上層部に報告するべきことだろう。不自然な命令と横島さんの謎の転生。何か繋がりがあるとはあまり思えないけど、、タイミングがタイミングだし、それに、何かが引っ掛かる。それは、小竜姫も同じだったらしく、今に至るわけである。あまり美神さん達と連絡を取っているとすぐ見つかるだろうし、だからといって横島さんを放っておく訳にもいかない。結局、妥協策として、美神さんの周辺を監視することで、横島さんの様子を見ることにしたのである。


『あの時、横島さんを無理にでも、この修行場に止めておくべきだったのかもしれませんね…』
『それこそ今更だわ。あの時はまだ何もなかったんだもの、後悔しても意味がないわ』
『それは、そうなのですが…』
『それに、止めておいたらおいたで、老師様がいますね。あの方に見つかる方がやっかいよ。遮霊環もあるんだし、帰しておいて正解だったと思った方がいいのよね。』
『…そうですね』


小竜姫は“老師様”のフレーズに少し眉をしかめた。やっぱり怖いんですね──。私は良く知らないけれど、本気で怒ると恐ろしく怖いとか小竜姫が言っていたっけ。小竜姫も本気で怒ると十分怖いのに、その小竜姫が怖いと言うのだから、その程は推し量るべくもないわね。


『私も早く調査を済ませるわ。まだ横島さんがこの件と関係しているとは限らないんだし、きっと大丈夫よ』
『えぇ、お願いします』


横島さんの転生後の正体も調べないといけないし、あんまりゆっくりはしていられないわね…


『それにしても、小竜姫が上層部を無視するなんてね──。明日は雹(ひょう)でも降るかしら?』
『明日は晴れるそうですよ?先ほど、パピリオが言っていました』
『物の喩えよ…本気にしないで欲しいのね…』


神様といっても明日の天気もわからない。いろんなものを見渡せるけれど、一寸先も予測できない。そういうことのできる神様もいないわけではないけれど…。私は美神さんの言うように本当に役立たずなのかもしれない。


『無い物ねだりは神様も人も同じ…か…』
『何がですか?』
『あ、ううん。なんでもないのよね』


小竜姫は、強大な力を持っているけれど、そういう悩みってあるのかしら?いつも、自分の正義に真っ直ぐで、あまり悩みがありそうに見えないけれど…。心が読めないっていうのは面倒なことだわ。初めて小竜姫と出会った頃は少しは読めてた頃もあったのにね──。お堅い外面とは裏腹に、結構可愛いこと考えてたわよね──…。あ…でも、もし心が読めたとして…


──横島さん、好き好きv!大好きV!!──


なんて聞こえてきたらどうするよ、私?…………いひゃ〜〜っ!!!


『何を悶えているのですか…?』
『はっ!あ、なんでもないのね──』


怪訝そうにこちらを伺う小竜姫。今、あなたのそのきりっとした顔つきの裏に、のほほんとした表情が見えたような気がしたわ。うん!読めなくて正解!そういえば、あなたは外面と頭の中のギャップが激しかったのよね──。それでよくからかってたのを思い出したわ。


『コホン。うん、なんでもないわ、なんでも』
『いえ、私は何も言ってませんが…』
『でも、その愚直で向こう見ずなところは、やっぱり小竜姫よね──』
『からかわないでください…』


でも、小竜姫はもう少し考えた方がいいわよ?もし…もし、横島さんと今回の命令に何か関係があったとしたらどうするつもり…?
ま、そこが小竜姫のいいところでもあるんだけどね。それに付き合う私も私だけどね──


『この胸騒ぎが杞憂であれば良いのですが…』


そうよね…何事もなければいいのよね…何事も…
私はそう心の中で呟くと、沸き上がる胸騒ぎを握りつぶした…


翌日…


『すごい!すごいです、ヒャクメ!いつの間に天候を操る能力を身につけたのですか!?』
『……』


妙神山に雹が降りました。
なんで、この季節に雹なんて降るのよ!“な○り雪“だって春なのよね── !?


『は…はは…なんだかわかんないけど、私ってすごいのかもね──?』
『すごい…すごいけど…あぁ…修行場がぁ…』


よく見ると、激しい破壊音とともに修行場の屋根がどんどん破壊されていっている。って、まさか、雹が結界破ってるのかしら?なんという威力!


『ヒャクメ!止めさせられないのですか!?』
『そ、そんなこと言われても──…』


なんていうか、ベタなのね──このオチ…


荒れ狂う天候に、これから来るかもしれない嵐を予感…できるわけないのよね──!どう考えてもおかしいわよ!これ!はぁ…ホントに役立たず…


あとがき

あれ?横島クン出番なかったよ…
というわけで第九話です。妙神山組が動き出しました。影でちょこちょことちょっかいを出すかもしれませんね。主にヒャクメ。
書いていてちょっと気になったのは、このヒャクメ、ちょっと余裕あるような気がするなぁ…大丈夫かなぁ…。この作品も大丈夫かなぁ…(汗


レス返し


>Februaryさん
残念ながら横島クンは出ませんでした。
次回ですね。
果たして普通の服は着れるのでしょうか?


>アミーゴさん
まぁ、三つ子の魂なんとやらというやつですね。
一生治らないでしょう(笑


>鹿苑寺さん
設定上は未通です(汗
悩んだのですが、回りくどくてストレートな表現が思いつかずにそんなことになっちゃいました。
改めて未通です(笑


>ポラリタさん。
今終わらせちゃったら消化不良もいいところです。まだ何も書けていないのに…
書き始めたからにはできれば最後まで書きたいですね。
でもまぁ、大抵はできないんでしょうね。ここに理想と現実のギャップっていうのがあるのでしょうか…。

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