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「それでも時は進みだす−彼の戦い−(GS)」

氷砂糖 (2007-06-07 02:40/2007-07-12 12:08)
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「チャース」

 美神心霊事務所に忠夫の気の抜けた挨拶が響いた。

「先生、勉学の方ご苦労さまでござる!」

 一番に駆けつけたシロが忠夫の腕に両手を柔らかく巻きつけ胸元に寄せる。いまだ発展途上にあるヤワラカイモノが二つ触れるが、横島は表情をしかめている。

「先生?どうしたのでござるか?」

「あーいや、なんでもない……」

そういいながら忠夫は今日のことを反芻しながら、無意識にシロの頭をなでる。

「クゥ〜ン」

 シロは甘えた声を出しながら両手の力を強くするが、忠夫の脳裏には授業中にあったことを思い浮かべていた。

 朝の一件で午前の内は背中に殺気を感じない時は無かったし、弁当の一件があってからは、前後左右から教師が黒板の方をむいた時には消しゴム、鉛筆、シャーペン、定規、コンパス(針の方が向いて)、などが絶妙な連携で投げられたりもした。

 そのたびに持ち前の人外と評判の反射神経で避けたが、毎度教師に自分だけ注意された。
どうやら避けた後の投擲物は、即座に回収されていたようだ。

 おのれ眼鏡め、人心を掌握し唯一の目的を掲げることで、アイコンタクトばりのチームプレイを生み出すとは。

 もし彼が乱世の世に生まれれば将として名をはせたであろう。


 もっとも今の世にそのような才能は無用の長物なのであるが………


それでも時は進みだす
―彼の戦い―
Presented by 氷砂糖


「美神さん、こんちゃーす」

「今朝も会ったでしょうが」

「それはそうなんすけど……」

 忠夫の挨拶に令子の返答は冷たい、今朝までの事を引きずってか、はたまた未だにくっついたままのシロを見てかは分からない。

「おキヌちゃん達はまだ見たいっすね」

 令子の機嫌が悪いのに冷や汗混じりに話題をそらせる。いくら忠夫でも一日に二度あれほどの折檻はいやなようだ。ちなみに耐えれないわけではない。

「おおかた夕食の材料でも買ってるんでしょ」

 机の上で書類を見ながら、令子は気のない様子で答える。

「依頼っすか?」

 来客用のソファーに腰掛けながら忠夫が聞く。その際いい加減にうっとうしくなったのかシロを引き剥がすが、シロが上目遣いで悲しそうに見てきたので仕方なく腕を貸す。

「ええそうよ、今回の依頼は新しく建てた六十階建てのビルのすべての階に魑魅魍魎が出たんですって」

 シロはうれしそうに忠夫の腕に自分の腕を巻きなおし、令子がその様子を見てさらに青筋を浮かべるが、説明を続ける。

「……何でそんなことになってんすか?六十階すべてって半端じゃないっすか」

 二階からトコトコと目を擦りながら降りてきたタマモが、忠夫の隣で幸せそうにニコニコしているシロを見て、顔をしかめる。

「ビルの形が三角形でその角の一つが見事に鬼門の方向を向いちゃってるのよ」

 忠夫たちを見ていたタマモが表情を一転させ笑みを作ると、忠夫を挟みシロの反対側に座り、忠夫の腕にそっと自分の腕を絡ませた。

「そんなの除霊した後はどうするんすか?すべての階となると、そう簡単には改装も出来ませんし」

 忠夫はお前もかとタマモを見るが、タマモはいいでしょ?とばかりに腕を抱く力をほんの少し強め、忠夫の肩に頭をゆっくりと預ける。

「各階の鬼門の角に桃の木の鉢植えでも追いときゃ何とかなるわよ」

 忠夫はあきらめたとばかりにため息をつくと、タマモはうれしそうに頬を忠夫の肩に寄せた。

「そんなんでどうにかなるもんなんすか?」

 今度はそれを見たシロがならば拙者もと頬を忠夫の肩に寄せる。

「なるわよ、桃の木には古来から鬼門の邪気をはらうって言われてるから」

 シロとタマモは幸せそうにさらに忠夫の腕をきつく抱こうと……

「人が真面目に説明しとるのに、何をやっとるかーーーーー!!!」

 いい加減に切れた令子の投げた万年筆が、一人と二匹の額に命中した。


「千夜ちゃん、今夜の除霊の前に事務所で晩御飯食べるから、買い物してもいいかな?」

「ええ、かまいません」

 令子の予想道理に、二人は六女からの帰り道に買い物をするようだ。

「じゃあ商店街の方にいこっか」

 おキヌは千夜に一生懸命笑いかけるが、千夜が笑い返すことは無い。

「ええ」

 千夜は淡々と答えるだけだった。


 それなりに人の多いい道を二人は進んでいく。商店街は活気のある賑わいで満ちていた。

「どう、千夜ちゃんにぎやかでしょ、いまどき珍しいんですよこんなに活気のある商店街って」

「そうなのですか?」

「うん、最近はスーパーなんかが多くなってるんですよ」

「そうなんですか」

「私は商店街のほうが良かったりするんですよ、常連になったりしたら安くしてもらえたり、おまけしたりしてもらえるんです」

「そうですか」

 おキヌは千夜に話題をふるが千夜は一言でしか返さない。おキヌはそのことに若干さびしそうにするが……

「おキヌちゃん!今日の夕食の買い物かい!」

 馴染みの八百屋のおやじに声をかけられた。

「あ、はい」

「そうか、今日も何かかってくかい?」

「今日はどんなものがいいですか?」

「家の野菜はどれでも新鮮さ!」

「あはは、そうでしたね」

 おキヌは八百屋の答えに笑みを漏らす。実際にこの八百屋の野菜は新鮮なのである。

「おや今回は旦那さんじゃなくて、始めて見るお嬢ちゃんだね」

 八百屋は千夜に気づき千夜の方を向く。

「そんな旦那さんなんて」

「始めまして、高島千夜といいます」

「おう!はじめまして」

 おキヌはトリップしているが、二人は挨拶をする。

 千夜は簡素に、八百屋は無駄に元気よく。

「ほれ、お近づきのしるしってやつだ持ってけ!」

 八百屋はそういうと並べてあった野菜から、一番大きな大根を取り出すと千夜に手渡した。

「ありがとう御座います」

 千夜はそういうと素直に大根を受け取った。

「いいってことよ!」

 八百屋は千夜の感情が見えない礼にも破顔一笑した。

「ところでおキヌちゃん、何を買うんだい?」

「そんなまだはやいって、は、はい今日はお味噌汁の具と備え付けようにレタスときゅうりさんを下さい!」

 トリップしていたのをごまかすように大きな声で答えるが、八百屋は別段気にしない、この事でからかえばいつもこの調子だからだ。

「はいよ!」

 八百屋はそういうとおキヌに野菜を渡し代金を受け取った。


 しばらくしてほかの食材も買った二人は、事務所へと向かっていった。

「ごめんね千夜ちゃん、荷物持たせちゃって」

「かまいません」

 おキヌと千夜は一つずつ買い物袋を手に提げていた。

「千夜ちゃん、どうしたかしたの?さっきから自分の手を見てるけど?」

 千夜は帰り道の間何度か己の右手を見ていた。

「……最初に行った八百屋に大根を渡されたとき」

「何かあったの?」

「いえ、ただ、八百屋の手が荒れた働き者の手をしていました。……ただそれだけです」

「……そうなんだ」

「はい」

 おキヌは千夜を優しい目で見つめ、千夜は己の手を見つめていた。


 月の無い夜の摩天楼、その地上に忠夫たちは居た。

「さて、今日の除霊の説明をするわよ。といっても大まかには車の中で話したとうりだから、後は細かい所だけだけど」

 三角形を基本としたビルの前に美神心霊事務所は全員そろっていた。

「まずはチーム分けだけど……」

「はい!拙者先生と一緒がいいでござる!」

 令子の話を遮りシロが意見を言うが、

「駄目よ」
「駄目です」
「駄目」

 三人に否定された。

「何ででござるかーーーー!」

「シロにはタマモと二人でおキヌちゃんの護衛をやってもらうからよ」

 否定は三人、内理由を言ったのは一人だ。

「そ、そんなー」

「シロちゃんよろしくね」

「馬鹿犬、五月蝿いわよ」

 三人は放って置いて、千夜が令子に尋ねた。

「美神令子ほかの組み分けは?」

「悪いけど千夜は私と一緒に来てもらえる?どれだけの腕か自分の目で見たいから」

「分かりました」

 千夜は特に反論も無く素直に頷いた。

「てことは俺は一人っすか?」

「そうよ、別に平気でしょ?」

「まあそれはそうですけど……」

 令子が強気にいうと忠夫は強く出れない、相変わらず尻にしかれている。

 もっとも令子は、忠夫なら多少のことは何があろうとも大丈夫と信頼してのことであるが、それを素直にいわないのが美神令子が美神令子たるゆえんである。

「さて、つめて説明するわよ」

 令子がそういうと、皆は令子の方に向き直った。

 令子はソレを見ると一つ頷き、

「今回の除霊は最初全員で一回を掃討、その後はおキヌちゃん達は二階に、私たちは三階に、で横島君は四階に行って以降は二階飛ばしで除礼していくこと。昼間の内に扉にはお札を貼っておいてもらったから、廊下を一周するだけでいいはずよ」

「で、上手く行けば屋上で合流っすか?」

「そうよ、簡単でしょ?」

 令子はまるでなんでもないことのようにいつも通りの不適な笑みをみせた。

「じゃっ始めましょうか」

 ここに今宵の舞台開幕が告げられた。


ピュリリリリリリリリリリリリリリリリリ!

 笛の音が鳴り響く、悲しみを、哀れみを、優しさを、そしてわずかばかりの共感を込めて。

 おキヌの笛の音が意思を失っているはずの霊を涙させる。

込められた思いに、想いに、心いに、魑魅魍魎妖魔悪霊人、関係などはありはしない、

彼女の音に、根に、値に、そのような差別などは存在しないがために。

ゆえに彼女の奏でる笛は万物全てに行き渡る。

差されど彼女の笛は届けども、耳を貸さず悪しき心を忘れる事無く、一途に、ただ一途に生あるうちの欲望を果たそうとするものはいる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

されどその存在はいと哀れ。笛の音で救うことのできぬものは、赤の混じった銀の閃光を見る。床を、壁を、時には天井を、縦横無尽に駆け回り振るわれる斬撃において切り裂かれる。

縦に、横に、斜めに、時には真直ぐに、生まれ持った人狼としての能力を存分に活かし振るわれる霊波刀に、耐えれるものはここにはいない。

だが時には斬撃を越え、おキヌに迫る存在がある。だが斬激は前にのみに振るわれる。なぜなら、

ゴウン!!

「馬鹿犬!前に出すぎよ!!」

空に爆ぜる焔、焼かれる悪霊、それを生み出しのは一人の少女。金の髪を九つに束ねたフォクシーガール、彼女は騙し欺き焼き尽くす。

悪霊を焼き払った狐火は火の粉を散らし焼き尽くす。その様子はさながら夏に火の回りを飛ぶ虫を追う炎。

彼女らの前に立ちはだかるものたちにものたちは知るだろう、自分たちが何を相手にしているか。


「極楽に行かせて上げるわ!!」

 神通棍の一撃に何匹かの悪霊が纏めて祓われる。

「甘い!」

 振り向きざまに投げつけられた破魔札が、後ろから迫っていた悪霊を滅ぼす。

「そこ!」

 ムチ状にした神道棍が手首のスナップにより軌道を変え、曲がり角に隠れていた悪霊を打ち滅ぼす。

「さあ来なさい!この美神令子を倒すことができるかしら!?」

 名乗りを上げた令子に真正面から壁のような悪霊の束が迫る、だが令子は後ろに下がるどころか前に出る。

「今回は必要経費は依頼主持ちだから派手に行くわよ!精霊石よ!!」

 令子が放り投げた精霊石が悪霊の壁を木っ端微塵に打ち砕く。

「まだまだこれからよ!!!」

 今宵、美の女神が舞い踊る。

 そは陰陽師、本来接近で戦うことのない見なれど戦いようがない分けではない。

「疾!」

 符をいく枚もいく枚も投げ飛ばす。迫る悪霊を寄せ付けないほどの符の弾幕が繰り広げられる。

 それでも悪霊を盾に更なる悪霊が迫る。

「白夜、裂け」

 されど千夜の影から白夜が飛び出し、悪霊を切り裂きながら飛び続ける。

 幾重に重なろうと関係ありはしない、翼で体で嘴で、紙を裂くかのように飛び続ける。

「白夜、咆声」

「クェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 古来より鴉の鳴き声は禍つもの、されどわが身は白、ゆえに本来持つ意味は逆転を果たし破邪となる!!

 咆声を受けた悪霊が空気に溶けるように消えてゆく、後に残るのは前を見つめる千夜の冷たい視線のみ。

「やるじゃない」

「そちらこそ、さすが世界最高」

「まあね、伊達にそれを名乗ってないわよ」

 千夜の感情の乗ってない賛美にも令子は笑みで答える。

 彼女は自分自身を世界最高と認める。神父でも、母親でも、ましてや忠夫でなく最高は自分であると。丁稚に負けてしまったため、最強は自分ではないのは百も承知。されどもう一つの称号、世界最高はまだまだ誰にも譲れない!

 それでも彼女は自分でも気付かぬ心の奥の奥で思うのだ、何時かは最高を名乗れる丁稚を見てみたいと。

奥過ぎて出てくるのは百年周期なのだが。

「さて、今あの馬鹿はどこぐらいかしら?」


 あの馬鹿こと横島忠夫は屋上に一番乗りを果たしていた。

「美神さんやシロ達が派手にやったんかこっちにはあんま出てこんかったが……」

 屋上に立つ忠夫の前に、赤い鎧を着込み、長さ2メーターに届こうかという大太刀、斬馬刀を持った大鬼がいた。

「……どう考えてもこれラスボスだよな」

大鬼は待っている、目の前の男が向かってくるのを。理解しているのだろう、忠夫がどれだけふざけた態度をとろうと決して侮ってはいけないと。

「しゃあねえ、やるか」

 右手に霊力を集中し霊波刀を形成する。

 “鬼”はそれを見るや忠夫に向け、斬馬刀を正眼に構える。

 そして両者は前触れもなく同時に駆け出し、ここに舞台最大の見せ場が始まった。


キィン!

ギャン!

ギャリリリリリリ!

 地上180メートルの屋上に金属音が響く。

「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 “鬼”は斬馬刀を信じられぬ速度で振るが、忠夫はそれを大げさといえる動作で避け、常識外の速度で自分の間合いまで踏み入り霊波刀を振る。

「ふ!」

 そのたびに“鬼”は巨体に似合わぬ俊敏を見せ、僅かに動くだけで霊波刀をかわす。

 “鬼”は踏み込み、斬馬刀の上段切りを繰り出した。

 それに対し忠夫は斬馬刀の先に向け、霊波刀を走らせる。斬馬刀を弾く必要はない、僅かに軌道を逸らせればそれでいい。

 忠夫の狙い道理に軌道を逸らされた斬馬刀は、忠夫のすぐ右を通過し、“鬼”は斬馬刀を振り下ろした体制で固まる。

 だが忠夫は“鬼”のほうに踏み込まず、斬馬刀の斜め上に向け飛んだ。瞬間、

ビュオン!!

 斬馬刀が忠夫のいた場所に向け、斜めに切り上げられた。

「あっぶねぇ!」

 忠夫は飛んだ勢いを利用し、側転の要領で離れ立ち上がると。

「くぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 忠夫に向け斬馬刀を最上段に構えた”鬼”が迫っていた。

 やべえ、あれは逸らせない!なら!!

 忠夫は左足にサイキックソーサーを生み出し、即座に爆破。

 サイキックソーサーの爆発とはいえ元は忠夫の霊能だ、爆発の方向を自分の方に来ないようにするくらいは出来る。

ゴウン!

「がぁ!」

 サイキックソーサの爆発で体が浮きそうになるが、無理やりに右足を軸にこらえる。

 忠夫の体が右足を中心に円を描く。

ズガァン!!!

 忠夫の体が半回転したところで、“鬼”の斬馬刀がさっきまで忠夫の左半身が在ったところを通過しコンクリートに突き刺さり、忠夫は回転の遠心力をそのままバックハンド気味の霊波刀の一撃を繰り出すが、

ギャイン!
ギャリィィィィィ!!
ガキィン!!!

「な!?」

激突、刃滑り、鍔止め、

 “鬼”はコンクリートに突き刺さる刃先をそのままに、片腕で柄を持ち上げることで霊波刀を防いだのだ、そしてもう片方の腕は、

 遠心力を完全に止められ、反動で動けない忠夫に繰り出された。

カァァァァァァン!

 “鬼”の拳が忠夫に直撃する寸前、鐘を叩いたような音が鳴り響き、そのまま忠夫は吹き飛ばされていった。

 忠夫は転がる事無く着地すると、さらに後ろへ飛び“鬼”から距離をとる。

 文珠の『盾』それが今回忠夫の命を救ってくれた。

 距離をとると“鬼”はゆっくりと殴りつけた体制から普通に立ち、拳を開いては閉じたりし、先ほどの感触を確かめている。

 息が荒い、呼吸がまともに出来ない。忠夫はほんの僅かの間に息を整えるため、深く息をすう。

 忠夫は本来争いごとは好きではない。痛いのは嫌だし、死にたくはない。

 だがあれ以来、相手が強ければ強いほど聞こえてしまうのだ。耳にではなく心に直に、

 証明しろ、自分の価値を。彼女がくれた命だ、俺は証明しなければならない、俺は彼女が命を捨てるだけの価値がある男であると。

 自分の事は自分が一番信じられない、普段からそう思ってきた忠夫にとってこれはどれ程の苦痛だろうか?

「やってやるよ……どこまで出来るかわからんがやってやるよ!」

 忠夫の悲痛なまでの叫びが木霊させ、“鬼”に向け突進を開始する。

 忠夫の叫びを聞き迎え入れるように、“鬼”は肩に斬馬刀を担ぐように構える。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 忠夫が雄たけびを上げながら霊波刀を振り上げる、瞬間、

 “鬼”が肩に担いだ斬馬刀を動かした。

 霊波刀の間合いはいまだ遠く、霊波刀で弾こうにも、斬馬刀の一撃は霊波刀ごと忠夫を切るだろう。

 斬馬刀が忠夫に迫る。忠夫は無駄と分かっていても霊波刀を斬馬刀と体の間に挟もうとする。

 斬馬刀は忠夫の悪あがきの霊波刀に触れそして、


 忠夫の体をすり抜けた。


「!?」

 “鬼”の表情が驚愕に染まる。すり抜けた忠夫の体が揺らぎ『幻』と書かれた文珠と共に、空気に溶けるように消えたその後ろには…………

 『剣』と刻まれた文珠を持った忠夫がいた。

「ああああああああああああああああああああああ!!!」

 忠夫の手の中に『剣』が作られ、斬馬刀を完全に振り切った“鬼”に迫り。

 斬馬刀もろとも容易く“鬼”を切り捨てた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 屋上はあの“鬼”一体で終わりだったのだろう、もしいても相手に出来ないのでそうだと思いたい、“鬼”を倒しても悪霊が出てくることはなかった。

「はぁ、ふぅぅぅぅぅぅぅ」

 忠夫は荒れた呼吸を整えるとその場に寝転んだ。熱を帯びた体に、冷たいコンクリートが気持ちよかった。

「…………少しはまともに慣れたかな?」

 答える者のいない自問自答に忠夫は苦笑すると、上半身だけ起こした。

 ちょうど夜が開け、真っ赤な、それこそ夕焼けの様な朝焼けが視界いっぱいに広がっている。

 忠夫がその赤に心奪われそうになったその時、

「横島君!」
「横島さん!」
「センセー!」
「横島!」

 ビル内の除霊が終わったのだろう、皆が階段のほうから駆け足でやってくる。

 忠夫はそれを見て今度は楽しそうに苦笑を浮かべると、立ち上がり皆の方に向かって歩き出した。

「横島君、お疲れ」

「ほんと、疲れましたよ」

 令子の労いにうそ偽り無い本音を漏らす。

「む、先生疲れてるなら拙者がヒーリングするでござるよ!」

「あ、なら私も」

「いえ、私がヒーリングします!」

 おキヌたちは誰が忠夫にヒーリングするかでもめあっている。

 そして一人屋上の様子を見ながらやってきた千夜が忠夫の前に立った。

「横島忠夫」

「ん、どうした千夜?」

「お疲れ様でした」

 千夜は忠夫の顔から目を逸らさず、労いをかける。

 忠夫は千夜に微笑むと一言、

「ああ、千夜もお疲れな」

「はい」

 朝焼けはいつの間にか朝日に変わっていた。


「ところで横島君」

「なんすか?」

「依頼内容ではなるべく建物に傷を付けないようにってなってたんだけど?」

 忠夫は屋上を見渡す、“鬼”の斬馬刀やサイキックソーサーで所々穴ぼこが出来ていた。

「…………後で文珠で直しときます」

「お願いね」


 どうも氷砂糖です
歯車を期待していた方、申し訳ありませんこっちが先に仕上がったんで先にこっちを乗せます。

いやあ今回初めて本編で除霊シーンが書けて楽しかったです。
白夜の能力も一部公開です。

なんかレスの方で千夜の人気がすごいことに〈汗
作者は人気が出ること事態考えてませんでしたのでかなり驚いてます。
お前らそんなに千夜が好きかと問いただしたいくらいw

最後に次回は歯車になると思いますでは。


 尾村イス様
18禁展開っすか!?無理です!書ける自信が無いですから。
ラブラブ街道…………書けるかな?
応援ありがとうございます。


レンジ様
横島とのLOVEにはかなり障害がありそうですが、千夜が横島LOVEには…………


 ヘタレ様
今後物語りは千夜、事務所メンバーと横島を中心に回していこうと思ってます。
横島の傷は果たしていえるのか、それとも強さにかえるのかご期待ください。


闇色戦天使様
そうなんですよね、前だったら泣いて喜ぶのに体力精神共に削ってく状態なんですよね。
対戦の真相を知った後の対応ですか……内面描写は書いてみたいことの一つです。


 SS様
クーデレ……なんか千夜の為に新しい萌え要素名をw
クールでデレデレさせる…………なんと凶悪なw
正ヒロインかにすると書きたい話の何割かを削らないといけないのでなんともいえなかったりします。


 たむきち様
実はこういった小ネタに反応してもらえるうれしかったりします。


 アミーゴ様
自分も美智恵に関してはなんともいえないんですが、ただ単にくっつけようとするというより、はっきりしない令子を応援するというようなイメージがあります。
次回もお楽しみに。


 yukiha様
実は子供を生んだとしたらそうなっちゃうんですよね、でもルシオラの問題に関してはそれ時シリーズで書いていくので気長に待っていてください。


 内海一弘様
千夜の名前を呼び方に関しては勘弁してくださいw
いやだって千夜がいきなり忠夫とかにさん付けしたら…………ほら違和感がバリバリにw
横島に関しては大丈夫だと思います、一応ハッピーエンド目指してますので。


 文月様
………………文月様、あなたはそれ時終了時に驚くことを宣言します。
まあそれは置いといて、ピーコか、実はタイプミスで出てきたのに、思わず誰だよと突っ込んだことが元だったりしますw


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