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「それでも時は進みだす−語られないこと−(GS)」

氷砂糖 (2007-06-04 01:32/2007-06-06 09:41)
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ペラ……ペラ……ペラ……、

オカルトGメン日本支部、そのビルの片隅の一室で紙をめくる音が響く。

ペラ……ペラ……ペラ……、

 紙をめくる音をさせているのは、六道女学院の制服を身に着けた千夜であった。

 千夜は目的の資料が無いことを確認すると、ファイルを棚に戻すと資料室を後にした。

 千夜がファイルを戻した棚は、比較的新しく作られたもので、ごく最近日本で起きた最大の心霊事件に関してのものだ。

 すなわちアシュタロス事件である。


「お探しのものは見つかりましたか?」

 千夜が資料室を出た瞬間、声をかけられた。おそらく待っていたのであろう。

「いえ、予想の通り望んだ資料は存在しませんでした、美神美智恵」

 声をかけた女性は二児の母とは思えぬ美貌を誇る、オカG日本支部所長美神美智恵だった。

「でもアシュタロス事件に関する資料は、ここにあるだけですが?」

「その筈はありません」

 美智恵は千夜の否定に内心感心するが、ソレを見せるようなことはしない。

「何故そう思うのです?」

「第一に、横島忠夫が単なる一般協力者としてのみ扱われていること。これは、文珠という神の域に迫る持つ横島忠夫が、アシュタロスという魔神に対して、そのような立場のままで居られるとは考えられません」

 千夜は凛として言い放つ、まるでそれが事実であるというように。

 事実物語りの主役は途中で交代を果す。

 美神令子から横島忠夫へと。

「第二に、アシュタロスを裏切ったという魔族の三姉妹です。彼女らがアシュタロスを裏切った理由は、死に至る制約が科せられていた為とありましたが、それのみで強大な力を持つ創造主を裏切るとは思えません」

 美智恵は千夜の観察力に舌を巻く、千夜が目にした資料は、Gメン本部、GS協会に提出したもので、両組織からの不審な点に関する突き上げは、無かったからだ。

「もっとも、私も昨夜の横島忠夫の態度が無ければ、気づきはしなかったでしょうが」

 千夜の指摘に美智恵は首を傾げる、確かに忠夫を見れば、不振に思うこともあるかもしれないが、それに気づくのはかなり親しい人物でないと無理だからだ。

 美智恵は知らない、千夜が忠夫の寝込みを襲い拒絶されたことを。

「では、私はこれから用がありますので、朝早くに感謝します」

「今日から六道女学院に通うんでしたね、お送りしましょうか?」

「いえ結構です。それよりも早朝の訪問にもかかわらずの対応感謝します」

「構いません、今日は泊りがけでしたし」

「それでも感謝を」

 千夜はそう言い頭を下げると、美知恵に背を向けオカGを後にした。

「まったく、話を聞いたときはいい刺激になるかと思ったけど……なかなか手ごわそうね。
令子しっかりしないと横島君取られちゃうわよ?」

 美知恵は背中を廊下に預けると、窓から見える空を見てここにいない長女に対して、苦笑を浮かべた。


それでも時は進みだす
―語られないこと―
Presented by 氷砂糖


 教室の扉が開き、横島が教室に入ってきた。

「よ!横島!?」

「お前とうとうお縄についたんじゃなかったのか!?」

「まさか、脱走!?」

「横島君!自首して!!今ならまだ罪は軽いわ!!!」

 教室の中は阿鼻叫喚の坩堝に陥るが、横島はまったく反応することなく、机にふらふらと向かう。

 普段彼からは想像できない様子に、騒いでいたクラスメイト達は押し黙る。

 横島は自分の机の前に立ち、椅子を引くと。

 ゴトン

 鈍い音を立て額から机に着地する。

「横島さん、だ…大丈夫ですか?」

 横島の様子に若干引きながらも、神に祈って勇気を出したピートが声をかけた。

「…………ピーコか」

「……ピートです、誰ですかピーコって。それよりどうしたんですか?今日は一段と疲れてるみたいですが」

 横島は何の予備動作も無く、首をピートのほうに向ける。死んだ魚のような目がピートを見据えた。

「な、何ですか」

 予想以上に酷い横島の様子に、クラス中はドン引きだ。

「―――――――」

「え、何ですって、朝まで誤解が解けず美神さんに折檻されてた」

 周りはあっさり納得するが、付き合いの深いピートとタイガーは首をかしげる。
横島がそれくらいの事でここまでなるだろうか?

 答えは否である、普段アレだけの不死身っぷりを見せているのだ、それぐらいなら一時間もしないうちに、元に戻るだろう。

「それくらいならすぐに復活しそうですがのー?」

 タイガーの疑問に反応してか、横島はタイガーのほうに向き直ると、詳しく説明しだした。

 どうやら声に無意識に反応しているようだ。手を叩けば踊る花の形をした玩具のようだ。

「―――――――」

「え?本家の人間が子孫繁栄のために来て、なぜか事務所のみんなと住む事になった?
その夜に夜這いをかけられて、それを皆に見られてしばかれてた?」

「相変わらず波乱万丈な人生送ってますのー」

 ピートとタイガーは毎度の事ながら、横島の奇天烈な日常に同情をするが、他のクラスメート達はそうはいかなかった。

「待て横島、とすると今お前はあの美人美女美少女達と同棲してるのか?」

 横島はだいぶ良くなったのか、椅子に普通に座りながら、眼鏡の質問に答えた.

「そうか」

 その瞬間クラス中の漢達の殺気が、横島に突き刺さった。

「な!なんや!?」

 突然の殺気に死の匂いを感じ取ったのか、横島は即座に復活をはたした。


「だまれ横島!!」

「そうだ!普段から美人の多いとこでバイトをしておきながら、あまつさえハーレム状態の同姓だと!?」

「横島にそんな幸せが許されていいと思っているのか!いやいい訳がない!!」

「吊るせ!」

「「吊るせ!!」」

「「「吊るせ!!!」」」

 横島を囲み吊るせコールが湧き上がった。

「ちょ、ちょっと待て!なんでわいがこないなめにあわにゃならんのじゃ!!」

 まあ当然の横島の悲鳴も、群集心理が働いた集団には通用はしない。

「だまれ!横島の癖にハーレムだと!!許せるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「俺かて好きでなったんじゃないわ!!!」

 横島の最大の叫びに、教室が静まり返る。

「横島」

「な、なんだよ」

 打って変わって静かになった周りの意思を代表するように眼鏡が前に出た。

「横島忠夫判決を言い渡す、屋上から校庭にロープレスバンジーンの刑に処す、
連行しろ」

 男子が二名、横島の腋を抱え引きずり運び出す。

「ちょっと待てーーーーー!俺が何をした!!はなせーーーー!!!」

「黙れ横島!貴様は贅沢になってしまったんだ。大丈夫だ、きっと屋上から校庭までの間に、自分がどれだけ満たされているか、お前は理解するだろう」

「それは走馬灯というんじゃないのかーーーーーーーー!」

 横島は抵抗を試みるが、完全に持ち上げられ運ばれていく。

「俺は無実だーーーーーーー!」

「ん?お前らどうしたんだ」

 その時横島のクラスの担任が姿を現れた。

「先生!助けてください」

「気にしないで下さい、富めることに気付いていない馬鹿に、制裁を加えるだけですから」

「そうか、もうすぐHRだから早く帰ってこいよ」

 担任は毎度のことと割り切って、横島を見捨てることにした。

「てめぇ、それでもお前は担任かーーーーーーーーーーー!!!」

「横島若いうちの苦労は買ってでもするものだぞ?」

 担任のやる気の無い返答は無常だった。

「苦労など買わんでも向こうから走ってやってくるわーーーーーーーー!!!」

 横島と男子多数は屋上に向かっていった。

「嫉妬するクラスメイト、青春よね」

「愛子さん、それは違うと思うんじゃがのー」

「ほんとに波乱万丈の人生ですね」

 後には見捨てたやつらのみ残された。


「今日は転入生を紹介する、入ってくれ」

 教室は蜂の巣を突いた様な騒ぎになる。

 一年の一学期が始まってわずかの間に、転入生を迎えることは普通では有り得ない事だからだ。ましてや霊能の名門六道ならなおさらである。

 教室のドアを開け千夜が教室に入室すと、教室は水を打ったように静かになった。

 教室に入ってきた少女表情に、何も読み取ることができなかったからだ。

「じゃあ、自己紹介をしてくれ」

 生徒たちの沈黙を嫌ってか、教師は千夜に自己紹介を促す。

「高島千夜です、京都から来ました」

 千夜はそういうと、もう用はないというように口をとざした。

「あ〜〜、高島」

「千夜です」

「は?」

「千夜と呼んでください」

「いや、しかしだな……」

「六道理事からの了解は得ています」

「まあ、それなら」

 教師は戸惑うが、六道理事のお墨付きと聞きそれならばと、納得した。思考の放棄とも言うが。

「ああ、なら千夜はそこの空いている席についてくれ」

 千夜はそれを聞くとうなずきもせず、席に向かった。

 席に向かう間、他の生徒が千夜に向ける視線は、奇異なものを見たときのそれだった。

 いや一人だけ違う目を向けるものがいた。

「私草壁穂波よろしくね、千夜さん」

 それは、ボブカットに後ろの真ん中の髪だけを伸ばした草壁穂波と名乗る少女だった。

「ええ」

 千夜は簡単な受け答えしかしない千夜に、周りの視線はきつい物に変わるが、穂波は面白そうに笑っている。

「はい注目、これから来週にある、代表戦の話をするぞ」

 気に入らない転入生より、目席の代表戦のほうが重要なのか、生徒の注目は教師のほうに移っていった。


 おキヌは自分の教室、2−Aの自分の教室で席に座り、何かを思い出して怒った表情をしたり、頬に手を当てて顔を真っ赤にしたりと百面相を繰り広げている。

「どうしたんだ、おキヌちゃん?」

「さあ、今朝来たときからあの調子ですの」

 二年時も同じクラスになった弓と一文字は、おキヌの様子に首を傾げていた。

「なあおキヌちゃん、なんか合ったのか?」

「困りごとでしたら相談に乗りますわよ?」

 そんなおキヌに二人は声をかけるが……

「ふ、二人ともいつからそこに!?」

 まったく二人に気付いていなかったようだ。

「いつからって、さっきからいたよな」

「本当にどうしたんですの、ちょっと様子がおかしかったですわよ」

「そ、そんなに変でしたか?」

「不審でしたわよ」

「ああ」

 二人の至極全うな台詞に、おキヌは愛想笑いを浮かべるしかなかった。

「で、何があったんだ?」

「実は…………」

 おキヌは二人なら話してもいいと、昨日のことを話すことにした。


「てことは何か、おキヌちゃんは今横島さんと同棲中ってことか」

「それは、また……」

 二人はあまりの予想外のことに、驚きを隠せないでいる。

「……冷静に考えてみたら、すごいことですね」

 おキヌはどうやら今気付いたようだ。

「ちょっと待ってください、ということはお姉さまも一緒ですの!?」

 弓が絶叫を上げる、理想のお姉さまが、あの破廉恥でプライドのプの字も存在しない男と一緒に、寝起きしているのだ。絶叫も上げたくもなるというものである。

「他にもシロちゃんも、タマモちゃんも一緒なんですけどね」

 弓の様子におキヌは苦笑を浮かべながら追記する。

「それって大丈夫なのか?ほら一応男との同棲になるんだろ、校則とかは」

「大丈夫だそうです、なぜか横島さんのお母様が、理事長の許可を一昨日の内に取り付けてたみたいで……」

「…………横島さんのおっかさんて何者だ?」

「普通そんなことを他人のが許可を得れるのでしょうか?」

「色々な意味で普通の人とは隔絶した人ですから」

 少なくとも、訪れただけで会社の株を上げたり、世界最高峰のGSと気合だけで張り合う事の出来る人間を普通とは言わない。

「しかしその高島ってやつ、今日からうちに通うんだろ。聞く限りではこれから大変そうだな、な、弓」

「そこでなんで私に振るのですの、一文字さん」

「さあ、何でだろうな」

「あははははははははははははは」

「おほほほほほほほほほほほほほ」

 乾いた笑いを浮かべる二人を見ながら、おキヌは思考の中に入る。

 高島は世間知らないというよりも、周りと壁を作ろうとしているように見える。

 自ら壁を作ることで何を守ろうとしているのだろう、何を拒もうとしているのだろう。

 いずれにしても、

「おーい、もう鐘は鳴ったぞ席に着け」

 その時鬼道が教室に現れた。

「やば、先生来ちまった」

「では氷室さん、一文字さんまた後で」

 二人は慌てて席に着いていった。

 おキヌは二人の声を聞きながら、窓から見える空を見上げる。

 きっとあの人が、どうにかしてしまうのだろう。

 青い空には雲ひとつ無かった。


「暇でござる」

「暇ね」

 こちらは事務所組み、事務仕事をしている令子はともかく、シロとタマモは仕事が無い限り暇である。

「暇でござるなあ」

「暇ね」

「暇でござるなあ」

「暇ね」

「暇で……」

 エンドレスで暇と呟く二人は、

「五月蝿いわよ!そんなに暇なら散歩にでも出てろ!!」

 令子に追い出されるのだった。

「「キャイーン!」」


 時は過ぎお昼の時間、そこらかしこでお弁当を広げたり、お弁当を大量にもらったりと、どこにでもある光景が繰り広げられている。

「ピートさん!お弁当受け取ってください!」

「私のも貰ってください!」

「あ、ありがとうございます」

 富の偏在は存在するのだが。

「栄養げーーーーーん!!」

 ここにちゃんと分配されている。

「タイガー!なんてことするんだ、先生の栄養になるのに!!」

「こっちも薄給でこれだけが唯一の栄養補給なんじゃーーーー!!!」

 愛子はいつもの様子を微笑みさえ浮かべ見ていが、何かに気付いたのか小首をかしげる。

「今日、横島君は参加しないの?」

 いつもこの騒ぎに参加しているはずの横島は、席に着いたまま薄っぺらい鞄をあさっている。

 あの後必死の説得と、文珠の『幻』により、漢共を屋上で腹踊りさせることで脱出した横島は、一時間目を丸々寝る時間に費やすことで復活していた。

「ああ、今日はこれがあるから」

 そういって横島は鞄からある物を取り出した。

 そう、可愛らしい袋に包まれた、お弁当箱を。

「あら、それどうしたの?」

「ん、おキヌちゃんが作ってくれてな」

「あらそうなの」

「ああ」

「横島」

「何だよ」

「おキヌちゃんとは元幽霊の美少女だったな」

「そうだけど」

 横島は背後に迫る気配に気付かずに、うきうきと包みを解いている。

「横島」

「だからなんだよ」

 背後に迫る何人もの漢たち。

「貴様の幸せなぞ許してたまるかーーーーーー!」

「な、なにい!?」

 初めて後ろの状態に気付いた横島は驚愕の叫びを上げる。

「てめえら何しやがる!!」

「うるせい!その手作り弁当よこせ!!」

「うるせえ、これはおれんじゃ!!」

「君が泣くまで殴るのを止めない!」

 この馬鹿騒ぎは横島が弁当を食べながら逃走し、弁当を食べきるまで続いた。


「千夜さん、一緒にお昼食べない?」

 こちらは六道女学院、お昼時に横島の学校のような騒ぎになることも無く、静々とした雰囲気である。

「すみません、私はこれから人を訪れなくてはなりませんので」

 午前の間の千夜の態度に、クラスの中で千夜に話しかけようとする生徒は穂波を除き、いなくなっていた。

「そうなの、でも誰を訪ねるの?」

 穂波は小首をかしげ、耳の上に指を当てる。

「二回生の氷室キヌです」

 あくまで聞かれたことのみを答える千夜を前に、穂波は固まった。

「えっと、もしかしたらだけど美神心霊事務所の氷室さん?」

「そうですが?」

「………私もご一緒してもいい?」

「かまいませんが」

「ありがとう!千夜さん!!」

 穂波は千夜の両手を持って飛び跳ね、千夜は突然握られたことに目を見ひらき驚いた。

「あ、ごめんなさい」

「い、いえかまいません」

 満面の笑みで喜ぶ穂波に、千夜は平静を持ち直した。

「ではいきましょうか」

「うん!私が案内してあげる」

 二人は連れ立って教室からでていく。

 その際、穂波は千夜の手を握っていた。


「氷室さーん、なんか一年の子が面会に来てるよ」

 そろそろお昼のため、中庭にでも出ようかとしていたときに来客が訪れた。

「?」

 おキヌが声のほうを見ると、そこにはがちがちに固まったボブカットの少女と千夜がいた。

「千夜さん!?どうしたんですか」

「聞きたいことがあります」

 千夜の返答におキヌは後ろを見ると、弓と一文字はうなずいた。

「ならお昼を一緒に食べながらでもいい?」

「ええ、かまいません」

「は、はひ、いいです」

 まったく変わらない千夜と、緊張しっぱなしの穂波。

 穂波の緊張は当たり前のことなのである。おキヌ、弓、一文字、この三人は二年生でありながら、三年に匹敵する実力を持っているといわれている、ゆえに一年の間では人気が高いのだ。

「お互いの紹介もその時にしましょう」

「だな、さっさと行こうぜ、じゃないと座る場所がなくなっちまう」

「そうですね、行きましょう」

「ええ」

「は!はい」

 そういうことで五人で中庭を目指していった。


「高島千夜といいます、どうか千夜と」

「わ、私は草壁穂波といいます!」

「ええよろしく、知ってるかもしれないけど私は弓かおりよ」

「俺は一文字魔利ってんだ、よろしくな」

「私は氷室キヌって言います、よろしくね」

 それぞれの自己紹介がすむとそれぞれのお弁当を広げた。

 バランスの取れた弁当が二つ、コンビに弁当が一つ、和食中心の精進料理っぽいのが一つ、ダイエットメニューが一食。どれが誰かは言わないが、それを見て涙したのは穂波だけである。

 しばらく食事が続くと、おキヌが話を切り出し。千夜には珍しく切り出しにくそうにしていたからである。

「それで千夜さん、話って何なんです?」

 それに乗って千夜が口を開くが、まずは訂正を。

「氷室キヌ、私のほうが年下です、さん付けも敬語も必要ありません」

「そ、そうなら千夜ちゃん、話って何?」

 千夜は箸と弁当箱を置くと、話を切り出した。

「他でもない、横島忠夫のことです」

「横島忠夫って美神心霊事務所に所属してるGSのこと?」

 先ほどまで、ため息をつきながら細々と箸を進めていた穂波が、疑問を口にする。

「そうです」

 千夜の肯定の意にホヘーと、穂波は目を丸くする。

「横島さんのことですか……」

 おキヌは複雑だ、おキヌ自身は千夜とも仲良くしたいと思っているが、横島のことになると話が違ってきてしまうからだ。

 だが続けられた言葉は別の意味で複雑なことだった。

「アシュタロス事件の時、横島忠夫に何があったのですか?」

 おキヌはその言葉に一瞬身を硬くしたが、すぐさま息をつき体を和らげた。

「千夜ちゃん、何でそんなことを聞くんです?」

「私は昨夜、横島忠夫としとねを共にしようとしました」

「な!?」
「千夜、おまえ!」
「ち、千夜さん!?」

 三人は驚きの声を上げるが、おキヌは真剣な表情で千夜の話を聞いている。

「横島忠夫の人となりは以前に聞いていました。それらを考慮すると拒むはずはありませんでした。ですが……」

「横島さんは拒んだのね?」

「はい」

 二人の会話は続くが、三人はあっけにとられたままだ。

「氷室キヌ、横島忠夫にはいったい何があったのですか?」

 おキヌは千夜を見る。千夜の瞳は普段とは違い、その瞳には感情が浮かんでいた。

 おキヌにはそれがどんな感情なのか、分からなかった。

 ふう、

 おキヌは気分を切り替えるため、息を一つつくと千夜を真正面から見て言葉をつむぐ。

「千夜ちゃんごめんなさい、そのことは私が口にしていい事じゃないの。そのことを話す事ができるのは横島さんと彼女達だけなの」

 おキヌの瞳には悲しみと羨望の光が微かに浮かんだ。

「美神さんも、私も、あの事件にかかわった人は何もできなかったから」

「……そうですか」

 沈黙が舞い降りる中、穂波がそれを破るためおキヌに質問した。

「あの氷室先輩、横島さんってどんな人なんですか?」

「横島さんですか?そうですね、とってもエッチな人です」

 おキヌは頬を膨らませる。

「エッチですか……」

「そうなんです、綺麗な人やちょっと胸の大きな人を見ると、あっちにふらふらこっちにふらふらしてるんですよ」

 なぜか大きな胸のところのアクセントが強いような気がするが、気にしてはいけない。

「そ、そうなんですか」

 おキヌの様子に、穂波は『月刊GS』に書いてあった物を元にした横島像に修正を加えた。

「それでとっても強くて、とっても優しい人です」

「そうなんですか?」

 弓と一文字は首を傾げるが、穂波はもう一度修正を加える。

 おキヌはそんな様子に気付くことなく空をみる。

「ええ、悲しいほど強くて、残酷なほど優しい人なんです」

 千夜はおキヌと同じように空を見た、そこには雲ひとつ無く様々な可能性をたたえた空が大きく広がっていた。


「明日は拙者が先生のお弁当を作るでござるよ!」

「まあ今から練習するのもいいけど、お昼には油揚げも入れてよね」

「シロ、お昼にお肉だけとかしたら叩きだすからね」

「クゥ〜ン」

 事務所のほうはこんな感じであった。


 氷砂糖です。
今回は難産でした。

さて今回新キャラ一名追加です、歯車を読んでる人は分かるかもしれませんがアノ草壁です。といっても穂波は弟のほうですが。

前回騙された方が多かったようですが、すみませんアレはどうしても必要だったんです!〈力説
横島の傷を印象付けれたでしょうか?

横島に対する事務所側の態度に関して疑問を持つ方がおられましたが、実はこれ複線だったりします。
といっても一回限りの壊れのためなんですが……もう少ししたら書くと思います。

最後になんか千夜がどっちでも人気っぽいので驚いてます、皆さんこんなキャラが好きなんですねw

では次回もお楽しみに。


 追伸
それ時、実は三本柱だったりしなかったり。


 レス返し
アミーゴ様
そうですか、頭がカオスになっちゃいましたか、作者も書いてる間に何度なりかけたことかw
はい、仮面ははがれていきます。はがすメインは横島でスパイスに事務所と学校だったりしますが。
応援いつもありがとうございます。


 通りすがり様
おお、知っている人が!?いないと思っていたのでかなり嬉しかったりw
千夜は確かにそうですね、作者も言われるまで気付きませんでしたw


 yukihal様
い、いえあれは展開上必要だったんですよ?ほ、本当ですよ?
甘甘な展開ですか!難しいです、かけませんよー〈泣き
でもこの先切ない感じになったりして……


 kkhn様
横島の扱いに関しては後書の通りです、といっても今後は行き過ぎないようにしなければ。
千夜の性格は、素の性格の上に家のためということでややこしいことになってます。
次回もご期待ください。


 趙孤某様
作者も今回の話を書くまで欠片も思い浮かびませんでした。
千夜を可愛いと言って頂いた恐縮です、今回はどうでしょうか?
な、なにかあったんでしょうか?更新はw
まあ自分も人のことは言えないのですが。


 内海一弘様
ドキドキしていただけましたかw
いやあ、美神の台詞に突っ込んでいただいて嬉しかったりします、あそこが一番にやにやして書いてましたw
毎度レスありがとうございます。


 れベー様
今回いかがでしょうか?
期待していただき幸いです。


 レンジ様
作者も書いてほしいです、いやあ絵心皆無なもので、
しかし本当に千夜人気ですね作者として感無量です。


 キサカ様
事務所の態度はさすがに今回が特殊です、
居心地に関しては今回のようなことはさすがに早々ありません。


 金平糖様
ほんとになんで止めてないんでしょう?〈おい
誰とくっつくかわ未だ決めてなかったりします、
横島にはまあ不幸になりながら幸せになってもらいます。
自分も前回歌ってきました、やぁー気持ちよかったですw

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