一応制限をつけなくても大丈夫かと思うんですが、念のためつけました。
横島忠夫は考える。
自分の足にまとわり付いている、この妖狐の少女―姫都音ちゃん―はなんと言った?
確かお兄ちゃん……。
お兄ちゃん、兄くん、兄貴、お兄様……。呼び名は12通りくらいあるかもしれないが、共通するのは『兄』ということ。
横島忠夫は、頭の中の辞書を開く。
兄……
①同じ親から生まれた年上の男。年上の男のきょうだい。反対の意味は弟。
② 姉の夫。あるいは夫や妻の兄①。義兄。
さて、ではこの子の親は誰だろう?
目の前の妙齢の女性、朱音さんは俺の母親じゃない。俺の母親はの名前は横島百合子だから違う。
では父親は?
俺の親父は横島大樹、やたらと仕事が出来る女たらしのサラリーマン。
で、この子の父親も大樹というらしい……。
まぁ、大樹なんて名前はありふれた名前だ。うん、絶対そう。
「あのー朱音さん?その大樹さんの苗字はなんとおっしゃるんでしょうか?大樹という名前は他にもあると思うので、私の父ではないのではないかと……」
横島忠夫は勇気を出して問いかける。
「横島大樹さんです。忠夫という子供もいるといっていました」
朱音さんがお茶を一口含み、微笑みながら横島君に答えます。
あー、親父は人外にも手ぇだしたのね……。
横島君は頭を抑えます。
そして……
「親父ぃぃぃぃ!愛人に隠し子かぁぁぁぁ!!」
と大きな声で叫びました。
足にくっついていた姫都音ちゃんが、びくっとします。
「やかましい!!」
横島君は美神さんの一撃で、床にダウンしてしまいました。
朱音さんと対峙する様に座る美神さんと横島君。
彼の膝の上には、姫都音ちゃんがニコニコしながら座っています。愛らしい尻尾が嬉しそうに左右に振られています。
少しは離れた席では、シロは指を咥えて羨ましそうに姫都音ちゃんを見ています。
タマモは我関せずといった感じで、読みかけだった雑誌を読みながら、さてどうやってこの子に術を教えようかと思案しています。
おキヌちゃんが新しいお茶をいれて、皆の前におきます。
「私と大樹さんが出会ったのは、今から七年ほど前の秋口でしたでしょうか……」
朱音さんが静々と語りだします。
当時、私は神社の守り神になったばかりでした。
我らの一族では、修行以外で人の姿を取ることは許されず、街を見回ったり、山を散策する際は狐の姿をとることが決まりとなっております。
ある日、私はいつもと同じように山を散策していると、沢に男性が倒れているのを見つけました。
駆け寄ってみると、男性は足を骨折しているようで動け無いようでした。それにとても弱っており、そのままでは危ない状態でした。
その男性というのが、横島大樹さんでした。
彼が倒れていたところは、地元の者でもあまり近付かない場所だったため、このままでは命が危ないと判断した私は、決まりを破り、人の姿を取って彼を私の隠れ家へと連れて行きました。
私は大樹さんを布団に寝かせると、ヒーリングと一族に伝わる体力回復の妙薬を与え、冷たくなっていた体を暖めるために…その……人肌……素肌で添い寝をしました。(ぽっ)
ですが、私はこのとき一つミスを犯していたのです。実は薬の調合を間違えていたのです!
体力は回復したことはしたのですが、副作用としてその……催淫作用がありまして……。
大樹さんに押し倒されてしまいました。
振り払おうとすればできたんですが、私のせいでそうなってしまいましたし、責任は取らないとと思いまして……。それに…その……大樹さんは私のタイプだったので、いいかなって……。(ぽっ)
一晩たって、気がついた大樹さんはひたすら謝っていました。時々『百合子に殺される』と呟いていましたね。
聞けば、大樹さんは自分には百合子という妻と忠夫という子供がいるとか。
私も自分が調合した薬でこうなってしまったことなので、気にしないで欲しいということを告げました。
必至に責任を取るという大樹さんに、ご家庭を大事にして欲しい、自分のことは忘れて欲しいということを継げてその場から幻術を使い消えました。
それから二、三ヶ月してお腹の中に大樹さんの子供を身ごもったことが分かりました。それが姫都音なのです。
そこまでいうと、朱音さんはお茶を一口飲みました。
「そういや七年前、親父社員旅行で行っていた登山で、足踏み外して谷だか沢だかに落っこちて、三、四日後に見つかったことがあったな。それに旅行から帰ってきてからの数日間、親父の様子がおかしかった覚えがある」
横島君は頭の後ろで手を組みながら、姫都音ちゃんに視線を向けます。
ふわ~っとあくびをしてうとうとしています。
「ということは、この子は横島さんの異母兄弟ってことですね」
おキヌちゃんが姫都音ちゃんを見て複雑な表情をします。
「横島君どうするの?あんたの記憶と一致する箇所があるけど……」
美神さんは横島君を見ます。
横島君はしばらく目を閉じ、意を決したように目を開きました。
「……電話借ります……。姫都音ちゃん、ちょっとごめんね」
「ふにゃ?」
横島君は半分眠っていた姫都音ちゃんを抱き上げ、ソファーの開いた空間に座らせると、電話へ向かい、親元へ電話を掛け始めました。
『Hello.』
受話器から聞き覚えのある声が返ってきました。
横島君のお母さんで、グレートマザーとして美神さんやおキヌちゃんを始めとして、彼を思う女性陣に恐れられる横島百合子さんです。
「母さん、俺だよ。忠夫」
『どうしたんだい?仕送りなら送らないよ』
「そんなこと期待してねぇよ。……してくれたら嬉しいけど」
『却下だね』
「だろ。てか、親父のことで話があるんだよ」
横島君がいつに無く真剣な声で話します。
『なんだい?』
そんな横島君の声に、百合子さんも真剣な声で返します。
「……親父に隠し子みたいな存在がいるんだ……」
『……本当かい?……』
殺気のようなものが電話回線を媒介にひしひしと伝わってきます。
「う、うん……。今、美神さんに用事があるついでに、そんな話が出てさ……」
『……今から日本に向えば……明日の朝には付くね……。忠夫、そいつ、引き止めとき。宿六連れていくさかい。返事は?』
「りょ、了解であります!閣下!!」
『頼んだで』
百合子さんの絶対零度よりも低い声に、横島君はただそう返事するしかありませんでした。
きっとあの声をきけば、どの国の国家元首もそう返事するしかないはずです。
横島君は、『あーもう親父とはどつきあいも、俺が二十歳越えても酒を一緒に飲むこともなくなったな』と心の中で呟き、皆の方へ歩いてきます。
「あのー朱音さん?」
「なんでしょう?」
姫都音ちゃんに膝枕をしてあげていた朱音さんに、横島君が声を掛けます。
「今ですね、母に姫都音ちゃんのことを話しましたら、一度お話したいというので、明日ここに参るそうなんですが……」
「まぁ、実は私も百合子さんと一度お話したいと思っていたところなんです」
そういって朱音さんはにっこりと微笑みます。
その微笑みは、みんな見ほれてしまいそうな笑顔なんですが、状況が状況なだけに何か怖いです。
「では今日は近くのホテルにご厄介になるとしましょう」
朱音さんはそういうとゆすってもおきない姫都音ちゃんを背負って、美神除霊事務所を後にします。
(明日は血の雨が降る)
それが美神さん、横島君、おキヌちゃんの思いでした。
表情もどこかうつろというか、恐怖を感じています。
シロタマコンビは首をひねっていますが、きっと彼女達もその意味が分かるでしょう。
翌日、空港に降り立つ二人の人物がいました。
一人は誰も(特に横島君に思いを寄せる人)が恐れるグレートマザー横島百合子。細がたのサングラスが、さらに凄みを増しているような感じがします。
もう一人はボロボロで杖のようなものを突きながら現れた横島大樹。ゲートをくぐると、力尽きたように倒れてしまいました。
「朱音はんに姫都音ちゃんなぁ……。まっとれや」
百合子さんが呟きます。
なんかもう、ダダッダッダダン!ダダッダッダダン!!というター○ネ○タ○のテーマ曲が流れてきそうです。
血の雨が降らないことを祈るのみです。
あとがき
なぜかこっちの方が進んでしまうクレイドルです。こんばんは。
ついにみなさんお待ちかねGM横島百合子が登場しました。
次回は百合子さんVS朱音さん……の予定です。現在作成中なので、仕様は予告なく変わる場合がございます。ご了承ください。 m(_ _)m
さて、レス返しを……って25通ですか!?
……ごめんなさい。時間が無いので一人一人に返すことができません。
皆様、お読みいただいてありがとうございます。次回もがんばりますのでよろしくお願いします。
次回は必ず個人個人に返しますので、ご容赦ください。