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「妖狐の修行(GS)」

クレイドル (2007-05-28 22:56/2007-05-30 23:15)
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 F県H村。
 過疎化が進み、人口も千人にも満たない小さな村だ。
 その村のはずれにある小さな寂れた神社の社の中に、二人の人間が向かい合うように座っていた。
 一人は二十代後半から三十代前半の、黒い髪を結い上げた妙齢の美女。もう一人は七、八歳の腰まである金髪をポニーテールにした、白いゴスロリドレスが似合う少女だ。
 だが、少女の方は頭に耳のようなものが付いており、おしりにもふさふさとした尻尾のようなものが生えている。
「姫都音、あなたももう七歳です」
 女の言葉に、姫都音と呼ばれた少女がこくりとうなずく。
「かねてより伝えてあるとおり、我々一族は代々七歳になると山を下り、町で人間達と共に生活し、人間とはどういうものかを研究します。そしてあなたが人間達がどういうものかを知ったとき、この神社の守り神となるのです」
 姫都音は女の真剣な表情と言葉に、力強くうなずく。
「ですが、あなたはまだ上手く変化の術が使えていないようですね……」
 女の視線の先には、頭からぴょこりとでた耳、おしりにあるふさふさとした尻尾に向けられている。
 姫都音は、女の言葉にしゅんとする。
「このままでは、人間達にあなたが妖狐だとばれてしまいますね……。かといって一族の掟を破るわけにも行かない」
 女がため息をつきながらそういう。
「……ごめんなさい、お母さん……」
 姫都音がうつむきながらぼそりと呟く。目には涙のようなものがたまっている。
「姫都音!!」
 女、姫都音の母親が彼女を勢い良く抱きしめる。
「大丈夫よ!お母さんは怒ってなんかいないの!!誰でも上手下手はあるわ!今ダメでも将来、驚くほど上手になる子だっているわ!!だから大丈夫よ!それにあなたを修行に行かせる東京には、私達妖狐の憧れ九尾の狐様がおられるの!!その方に弟子入りすれば、完璧ないえ、人間達を虜に出来る変化や魅了の術を覚えられるわ!!」
「……ほんと?」
 姫都音が小首をかしげながら、母親を見上げる。
「本当よ!それに、あなたのお兄ちゃんにもあえるわ!」
 お兄ちゃんということばを聞いて、姫都音がにぱっと笑う。
(ああ!なんて可愛いのかしら!!こんなに可愛い姫都音を、遠く離れた東京に行かせるのは辛いわ…。でも、これも姫都音が私のあとをついで、この神社の立派な守り神になるために必要なこと!朱音!心を鬼にするのよ!!)
 姫都音の母親―朱音―はぐっと拳を握り締めると、立ち上がる。
「姫都音、東京に向いますよ。支度なさい」
「はい」
 母の言葉に姫都音は返事をし、近くにあったディフォルメされたきつねのイラストが描かれたリュックを背負う。
「ハンカチ、ちり紙はもちましたか?」
 こくこくとうなずく姫都音。
「では、行きますよ」
 姫都音がうなずくと、二人の姿は社の中から消えた。


 春の終わりが近付き、そろそろ初夏の足音が聞こえてくる今日この頃。天気も良く、仕事もない日曜日の午後。
 美神除霊事務所の面々は、事務所で思い思いの休日を過ごしていた。
 令子は椅子に座っておキヌの入れてくれた紅茶を優雅に飲み、おキヌは焼きあがったクッキーを令子のところへ運んでくる。
 横島とシロはフルスピードマラソンから帰還し、タマモはソファーに寝そべってファッション雑誌を読んでいた。
『オーナー、入り口に妖怪の気配です。数は二体!』
「何ですって!」
 人工幽霊の言葉に、令子はすばやく外を見ると、そこには二人の見掛けは人間の姿の存在があった。
 一人は二十代から三十代の和服を着た女。もう一人は白いドレスを着た七歳くらいの少女。
 女は令子を方を見て、にやりと笑う。
(子連れで殴りこみかしら?それとも依頼?どちらにしても戦える準備は必要ね)
「横島君、文珠準備!おキヌちゃんはお札を準備!タマモとシロは幻術で隠れて、いつでも襲いかかれるように!!人工幽霊、入り口の結界を解除して中に入れて!!」
「うっす!」
「はい!」
「心得たでござる!」
「わかったわ」
『了解です、オーナー』
 それぞれが返事をして準備をする。
 横島はポケットに手を突っ込み文珠を握り締め、いつでも文字をこめて投げつけられる準備をし、おキヌも着ているブラウスにお札をしのばせる。
 シロタマコンビは幻術で事務所の風景に溶け込む。
 令子は椅子に腰掛て、机の引き出しを少しあけ、いつでも神通棍を取り出せるようにする。
 全ての準備が整ったとき、ドアをノックする音が響く。
「どうぞ、開いているわ」
 失礼しますという静かな声と共に、ドアが開き美しい女性が入ってくる。
「ずっと愛していましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やめんかい!このボケナスがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐぼらぁぁぁぁ!!!」
 女性が入ってくると同時に飛び掛る横島とそれを撃墜する令子の神通棍、それを回避する女性。そして、苦笑いと冷や汗を浮かべるおキヌ。
 少女のほうは女性に隠れるようにしている。
「はぁはぁ、驚かせて御免なさいね。妖怪さん」
 息を整えながら椅子に座る令子。
「クスクス……流石一流GSのことだけはありますわね、美神令子さん。今日はあなた方にお願いがあってまいりました。ですから、警戒なさらなくて大丈夫ですわ。そこに隠れておられるお二人も」


「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……ありがと」
 おキヌが紅茶とジュースを出すと、二人は笑みを浮かべて礼をいう。
「で、私にお願いって何かしら?」
 二人の対面に座った令子は紅茶を飲みながら、二人に問いかける。
 令子の後ろには、横島とシロタマコンビが控える。
「私は朱音、この子は私の娘で姫都音と申します」
 そういって二人は頭を下げる。
「本日お願いに上がったのは、姫都音のことです。私達の一族では七歳になると、人間達の中で生活し、修行するという掟がございます。そこで、姫都音をここで修行させてはもらえないでしょうか?」
 母が話をしている隣で姫都音はジュースをくぴくぴと飲み始める。いつの間にか姫都音の頭からは耳が生え、おしりからは尻尾が生えている。
「お願いします!九尾の狐様!!」
 朱音が席から立ち上がり、タマモの手を握り締める。
「え!アタシ!?」
「そうです!かつて人間を誘惑し、意のままに操った誘惑の術!そして変化!!それをこの子に教えて欲しいのです!!」
 そういって姫都音を指差す。
 姫都音はジュースを飲みながら、クッキーをかじっていた。
「この子はまだ、完全に変化できていないのです。ですので、完全に変化でき、なおかつ幻術などを教えていただきとうございます」
「でも、アタシ、記憶まだ蘇ってないし、力も全盛期ほど無いのよ?それにアタシの一存じゃねぇ……」
 そういってタマモは美神の方を見る。
「……タマモは私の元で保護観察って形になっているのよ。それに、ここに置いておける場所もないしねぇ……。それにいくら妖狐といっても生活していくには人間界じゃお金がかかるのよ?」
 令子が面倒くさそうにいう。
「お金ならここに……」
 そういうと、朱音は着物の袖から金色に輝くものを取り出す。
「こ、これは!!」
「はい、小判です。昔、私の先祖が落ち延びる途中の武将を助け、そのお礼にと送られたものです。幻術などではなくちゃんとしたものですよ?五十両で大丈夫ですか?」
「横島君!!」
「うぃっす!!」
 令子が横島を呼ぶと、彼は素早く文珠を取り出し、『鑑』『定』とこめて小判を見る。
「これ、間違いなく本物ですねぇ。一枚結構な値段で取引できますよ」
 横島の言葉に令子はにやりと笑う。
「タマモ!引き受けなさい!!この子を立派な妖狐にしてあげなさい!!」
「……やっぱりね」
「まぁ美神殿でござるからな」
「「うんうん」」
 美神の言葉に、あきらめの表情を浮かべるタマモ。あきらめろという表情のシロ。思いっきりうなずく横島とおキヌ。
「姫都音!九尾の狐様のもとでの修行がきまったわよ!!」
「……ほんと?」
 ジュースとクッキーでお腹いっぱいになって、うとうととしているところへ朱音が抱きつく。
「姫都音、あなたと別れるのは辛いけど、これも立派な妖狐になるため!がんばるのよ!!私も遠くから見守っているわ!!」
「うん、がんばる」
 朱音の言葉に、姫都音が小さな拳を握り締め答える。
「ああ!姫都音なんて可愛いの!!」
(ああ、この人親ばかなんだ)
 朱音の様子にその場に居た令子たちの思いはその一言だった。
「ところで、先ほどそこの少年のことを横島と呼んでおりましたが、お父様の名前はなんと?」
 姫都音を抱いたままの朱音が、横島に問いかける。
「へ?親父の名前ッスか?大樹ですけど……」
 突然振られた事に対して、横島はぼけっとした表情で答える。
「やはり……。姫都音、あの人がお兄さんですよ」
「「「「「はいぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」
 全員が驚きの声を上げる。
 姫都音が朱音の膝の上から飛び降りると、とことこと立っている横島に近付き、足に抱きつき、にっこりと微笑む。
「お兄ちゃん!」
「マジかよ……」


あとがき
 こちらでは初めまして。クレイドルと申します。
 よろずの方で殺伐としたものを書いているので、何かほのぼのしたものが書きたいと思っていたらこんなものが……。
 でも、気に入ってもらえれば幸いです。多分、続くと思います。次回は……気長に待っていただければと……。m(_ _)m モウシワケナイデス
  さて、次はよろずのほうを書かないと……。

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