理解できない。
なぜ?
なぜこんなことが起きるのだろうか?
あの子には確かに私の力を授けたはず。
なのになぜ・・・魔力を感じるのか!?
「は〜はっはっは!!!小竜姫!!あんたあの小僧に何をしたんだい!?」
メドーサが心の底から楽しそうに問いかける。
「・・・」
私はそれに返事をしない。正確には頭がその言葉を理解できる状態に無い。
「だんまりかい。くっくっく・・・しかしこんなところでこれを見れるとは・・・」
メドーサが笑いながら呟く。
「これ?あなたはこの状況がなんだか知っているのですか!?」
「知っていたらどうするんだい?」
メドーサは憎らしいほどの笑みを浮かべながら答える。
「答えなさい!!」
「は〜はっはっは!!その顔!!あんたのその必死な表情!!どこまでも楽しませてくれるねぇ。」
チャキ!!
「三度は言いません・・・答えなさい・・・」
私は神剣に手をかけ再びメドーサに問いかける。
「くっくっく。ほんとにあの小僧が大切なんだねぇ。いいさ。あんたのその表情に免じて教えてやるよ。」
メドーサは横島さんに視線を向け、言葉を続ける。
「このけったくそ悪い神族の霊気に混ざっていき、そしてじわじわと侵食するように広がって行く心の奥からすがすがしさを感じる魔力。くくく、懐かしい感覚がよみがえってくるねぇ。」
懐かしいものを見るかのような表情を一瞬だけ浮かべると再び私に視線を向ける。
「あれは『堕天』さ。小僧は今まさに魔族へと堕ちようとしているのさ。」
「なっ!?馬鹿な!!横島さんは人間です!神族ならまだしも人間が急に魔に落ちるなど!!」
「それは私の知ったこっちゃないねぇ。大方、あいつの祖先か前世辺りに神族か魔族と交わった奴でもいたんじゃないのかい?」
「!!」
メドーサの言葉に私は思い出したことがある。
ある!横島さんの中には神族であるヒャクメの霊気が!!
迂闊!!ヒャクメの神装術が問題なかったから失念していた。
横島さんの中にはヒャクメの霊気があるのだ。今更ヒャクメの力を借りても拒絶反応など出るはずが無い!!
そこに私の力を借りた術など使ったものだからなにかしらの拒絶反応が出てこのような状態を引き起こしたのか!!
「なにか思い当たることがあるようだねぇ。くっくっく、まぁもう堕天は始まっちまってるんだ。おとなしくそこで見ていな。」
「くっ!!」
私は思考を止め、メドーサに向き直る。そして再び手を神剣にかける。
「ここでやりあうわけにはいかないんだろう?良い子ちゃんの神族は大変だねぇ。」
「メ、メドーサァ!!」
「良い声だねぇ。私は良いんだよ。それにここでやりあっても意味はないさ。」
「・・・どういう意味ですか?」
私は怒りで逆上しそうになる理性を押さえ込み、なんとか声を絞り出す。
「さっきも言っただろう?もう堕天は始まってるって。もう誰にも止められないさ。最も、あの小僧を殺すって言うんなら止められるけどねぇ?」
「・・・」
メドーサは再び楽しそうに言う。
いいでしょう。もしこのまま横島さんが魔に堕ちるなら・・・
私は師として横島さんを・・・
「メドーサ、一つ賭けをしましょう。」
「?」
私はメドーサの返事を聞かずに言葉を続ける。
「このまま横島さんが魔に堕ちるなら横島さんを私が殺します。そしてその後ですが、私の命をあなたにささげましょう。」
私が授けた力です。責任は取りましょう。命をかけて!!
「ですがもし横島さんが魔に堕ちなかった時は・・・あなたの命を貰います。」
「はっ、は〜はっはっは!!!いいだろう!!その賭け乗ってやるよ!ただし、そう簡単に私の命を持っていけるとは思うんじゃないよ!!」
メドーサは何度目かの笑い声を上げながらそう答えた。
「その言葉、確かに。」
私は傍から見れば分の悪い賭けをしている。
だが、後悔はしていない。
私の弟子は・・・横島さんは魔になど堕ちはしない!!
私は再び横島さんに視線を向ける。
しっかりしなさい!!あなたは何のために力を得たのですか!!
あなたは再び誰かを、私達を泣かせるつもりですか!!!
会場中の視線が一点に注がれているのがわかる。
とてつもない霊力が流れ出しているのがわかる。
その光景に戦っていた者たちまでも動きを止める。
「横島さん、しっかりするのね〜!!!落ち着いて!!霊力をコントロールするのね〜!!」
私は必死に声をあげる。
「止めろ止めろ止めろ!!!聞きたく無いんだ!!もう沢山なんだ!!」
横島さんは叫び声をあげ続ける。
「ちょっと!!どんどん魔力が大きくなってくるワケ!!」
そんなことは言われなくてもわかってる!!このままでは魔力に飲み込まれて横島さんが横島さんじゃなくなっちゃう!!
どうする?どうする?どうする?
理解できない。横島さんから魔力?なぜ?どうして?
思考が一定しない。頭の中をぐるぐる行ったり来たりするだけだ。
「横島さん!!落ち着いてください!!」
おキヌちゃんが声を掛け続けるが横島さんの霊力は暴走を続ける。
「あ、あああああああああああ〜!!!!」
横島さんの叫び声だけがこだまする。
落ち着け!!私はなんだ!?私は何のためにここにいる!?私は何ができる!?
パシッ!!
私は自分で頬を叩き自分を一括する。
「私は・・・ヒャクメなのね〜!!」
自分の力をフルに使い分析を始める。横島さんになにが起きているのか、どうすれば助けることが出来るのかを知る為に!!
現状は小竜姫の神装術が引き金になっている。
発動直後、横島さんを神族の霊気が包み、横島さんの心の声が聞くことが出来る力をコントロールできなくなる。
そして魔力の発生。
現在はまるで侵食するかのように魔力が大きくなってきている。
これらの情報から導き出される答え・・・堕天。
横島さんの中にある私の霊力が核となり、おそらく小竜姫の神装術によって暴走した心の声を聞く力をきっかけに横島さんの中にある闇が表面化したのか!?
「横島さんが、横島さんが魔に堕ちかけてるのね〜!!駄目なのね〜!!横島さん!!しっかりするのね〜!!」
私が声を張り上げた直後、横島さんの後ろに何かが現れた。
「あれは!エンゲージなワケ!?」
それは黒装束に体を包み、両手で鎌を持った小さな契約の守護者だった。
そうだったのね〜。横島さんはエミさんに力を使わないことを契約していたのね〜!!
「け、契約違反!!せ、制裁だだああっ!!」
エンゲージはすぐさま鎌を横島さんに振り下ろす。が、
「制裁、制裁だだああっ!!あっ・・・」
鎌が横島さんに触れる前にエンゲージは横島さんが無造作に払い除ける動作で姿を消した。
「げっ!?エンゲージを一撃で消滅させたワケ!?」
そう、横島さんがエンゲージを消滅させた。
横島さんが、相手を、殺した。
「横島さん!!駄目なのね〜!!」
「ヒャクメ様!?」
私はおキヌちゃんの声に耳を貸さず走り出す。
「しっかりするのね〜!!」
横島さんに近づくほどに魔力が強くなる。
その魔力が私の体を切るように痛みを与えてくる。
「横島さん!!このままじゃ横島さんがいなくなっちゃうのね〜!!お願いだから、お願いだから私の声を聞いて欲しいのね〜!!!」
私は自分の体の痛みをまるで人事のように感じながら横島さんのところにたどり着く。
「あ、あ、あ・・・」
横島さんは既に叫び声をあげる気力も無くなったようで、霊気もほぼ魔力になろうとしていた。
「嫌なのね〜!!横島さんは横島さんじゃなきゃ嫌なのね〜!!」
私は既に泣きそうになりながら横島さんに抱きつく。
「私はどうなろうとも横島さんを拒絶しないのね〜!!私でよければずっとそばにいるのね〜!!横島さんの闇を少しは照らしてあげられるのね〜!!だからだから・・・」
私の頬を一筋の涙が流れる。
「横島さんは横島さんのままでいて欲しいのね〜。」
私の頬から涙が一滴流れ落ちたとき・・・
霊力が・・・爆発した。
『化け物』
『よるな!!こっちに来るな!!』
『殺す殺す殺す!!!』
もう・・・嫌だ。
あたりが真っ暗だ。
まるでぬるま湯につかっているような感じがするが、体がひどくだるい。
頭の中に心の声があふれかえるように聞こえてくる。
それは無慈悲にも人の闇を俺に伝えてくる。
ああ、もう言葉を理解するのも嫌だ。
こんな声など無くなってしまえば良い。
そう考えると体が楽になった気がする。
煩い。
俺は声を振り払うように身をよじる。
そうすると不思議と声が薄くなったような気がした。
ああ、楽になれるのか・・・
そう、このまま目をつぶればとても楽になれる気がする・・・
「・・・」
なにか聞こえたか?
もういいんだ。このまま目をつぶれば楽になれるんだ。
もう、いいん・・・・だ。
「しっ・・・なさい!」
誰だ?誰の声が聞こえるんだ?
「しっかりしなさい!!」
小竜姫様?
「しっかりしなさい!!あなたは何のために力を得たのですか!!」
俺の・・・力?
「あなたは再び誰かを、私達を泣かせるつもりですか!!!」
泣かせる?
俺が・・・誰かを泣かせる!?
その言葉に俺は薄れかけた意識を再び取り戻す。
「・・・!!・・・!!」
この声は・・・ヒャクメ、か?
何だよ、また・・・泣いているのか?
俺はその声に閉じかけた目を開く。
そして俺の目に飛び込んできたのは
「横島さんは横島さんのままでいて欲しいのね〜。」
一筋の涙を流すヒャクメの姿だった。
「!!!」
それを確認したとき、俺の力が・・・弾けた。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
雄叫びを上げる。霊力が纏まっていくのがわかる。
「よ、横島さん!?」
ヒャクメが驚いたように声をあげる。
俺はそれにヒャクメを抱きしめながら、
「ありがとな。」
一言だけ答えた。
ああ、横島さんが・・・
横島さんが帰ってきた。帰ってきてくれた!
私は両目を涙であふれさせながら横島さんの姿を見た。
横島さんは小竜姫と同じような霊衣を纏ったような姿だった。
そしてその頭には小さな角のようなものを左右対称に持ったバンダナが巻かれていた。
これが小竜姫の神装術・・・とんでもない霊力なのね〜。
「ヒャクメ、見ててくれよな!」
横島さんは照れくさそうにそういうと凄まじいスピードで勘九郎へと向かう。
「美神さん!!どいてください!!」
「あ、わ、わかったわ!!」
美神さんはあまりの出来事に動きが止まっていたが、慌ててその場を譲る。
「!?あなた!!その力は!?」
横島さんのスピードに勘九朗は何とか付いていく。
「フン!!」
「くっ!!」
横島さんが振り下ろしたコブシを勘九郎は大剣で受ける。
「ふ、ふふふ。面白いじゃない!!あなたと私はほぼ互角みたいね!!いいわ!!楽しめそうね!相手をしてあげる。」
勘九郎は楽しそうに声をあげる。
互角?あなたは一つ勘違いをしている。
「楽しむ?それは無理だと思うぞ。」
横島さんは右手に剣を作り出す。ただしそれは普段のサイキック・ソーサーとは違い勘九郎のものと同じようにほぼ実体と言って遜色ないレベルまで高められた霊剣、いや神剣だ。
「行くぞ?」
それは小竜姫の神装術だ。コブシがメインのわけが無い。
「な!?」
カカカカカカカ!!!!
辺りに凄まじい速さで打ち合う剣の音が辺りに響く。
勘九郎は完璧に防戦一方でじりじりと後退していく。
そしてその先には・・・
「弾けろ!!」
「えっ!?」
勘九郎のイヤリングを防いだときに放ったサイキック・ソーサーがあった。
横島さんはそれをタイミングよく爆発させることで勘九郎に一瞬の隙を作った。
「くらえぇぇぇ!!!」
横島さんは剣を振り下ろす。
そしてそれは寸分の狂いも無く、
パキィィィィィ・・・
勘九郎の大剣を砕いた。
「ぶ、武器を砕いたくらいでぇぇぇ!!」
勘九朗はそれでも横島さんに向かってこようとする。
「いいのか?俺だけに集中して?」
「そういうことよ!!」
完璧に勘九郎の死角からタイミングを計っていた美神さんが切りかかる。
「しまっ!!」
その一撃は容赦なく勘九郎の右手を手首から切り落とした。
「ふん!!後輩にばっかりおいしいところもってかせるわけ無いでしょう!!!」
「に、人間の分際でぇぇぇぇ!!!!」
それでも攻撃しようとするが・・・
ボゴォォ!!
「もうやめとけ。」
横島さんが剣の柄を勘九郎の鳩尾に打ち込むことでその動きを止めた。
あとがき
バトル終了です。次でGS試験編のメインは終了です。今回は自分的には結構がんばりました。ちなみに小竜姫様の神装術の説明は次の次ぐらいですると思います。お楽しみに〜。ちなみにGS試験編も天龍編同様後日談と番外を予定しています。そんなに長くは無いと思いますが・・・
追伸
February様のご指摘により誤字を訂正させていただきました。
February様、ご指摘ありがとうございました。
レス返し
始めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
内海一弘様
ユッキーVSピートは簡単にラストだけ書こうと思います。結果は・・・まだ考えてません。二、三候補はありますのでそれから選ぼうと思います。うう、ちなみ没にしたなかには横島VSユッキーで矛盾の語源を使ってのダブルノックアウトなんてのもあります。
February様
暴走の原因ははっきり言ってしまえば霊力不足です。全身全霊を使って神装術をコントロールしようとして普段使っている霊力も使ってしまい、心の声のコントロールが出来なくなったと考えてください。
俊様
ご意見かなり参考にさせていただきたいと思います。ユッキーの横島君へのライバル意識をどうするかかなり悩みましたので・・・
アイク様
暴走一歩手前でなんとか踏みとどまりました。今後は少し色々やるつもりですのでお楽しみに〜。
への様
エンゲージちょっとだけ出ました。台詞もう少しひねれたかなぁ・・・しかしあれは神族なのか精霊の一種と解釈するか悩みました。う〜ん悩みます。今後出番はないと思うんですけどねぇ。
百目守様
すみません神装術はあんまりひねりませんでした。ちなみに出現した神剣は有名な話から考えました。しかしそれはそれで面白そうですね〜。
鹿苑寺様
仮面ライダー・・・今時のは色々面白いですねぇ。思わずやりそうになりましたよ。横島君の暴走はなんとかなりました。しかしヒャクメヒロインで書いてると結構シリアスも書けるんですがギャグもかなり書きたくなるのは自然な事なんでしょうか・・・
十六夜様
横島君暴走は何とかなりました。今後もゆっくりやっていきますのでよろしくお願いいたします。