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「想い託す可能性へ 〜 じゅうに 〜」

月夜 (2007-05-27 06:43/2008-03-09 02:10)
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      想い託す可能性へ 〜 じゅうに 〜


 拝殿に居る全員が寝静まって暫くした頃。おキヌちゃんの意識は、またあの空間にいつの間にかたゆたっていた。今度は全裸では無く、千早を上に羽織った巫女服の様な服装を纏っていた。

 (あれ? またこの空間? 私の意志で来ようとした訳じゃないから、また呼ばれたわけね……。ルシオラさん、居るんでしょう?)

 ― サクヤヒメとして覚醒したおキヌちゃんって、つれないなー。もっと驚いてくれても良いと思うの。
 あ、ちなみに前回も今回も、呼んだのは私じゃないわよ? 私も微睡(まどろ)んでいた所を呼ばれたんだから ―

 おキヌちゃんは、意識だけを目覚めさせられた自分の状態を確認した後、辺りの花畑を見回してから自分の下腹に呼びかけた。

 するとすぐにルシオラから返事が返ってきたが、おキヌちゃんが望む答えではなく、冗談交じりではあったが彼女も戸惑っている様子だった。今回もルシオラの姿はここには現れておらず、雰囲気だけが伝わってくるだけだったが。

 (では、誰が私たちをここに? ただの人間だった頃の私だったら、気付かれずに呼ぶ事も出来ると思いますけど、今の私に気付かれずに呼ぶなんてかなり高位の存在ですよ?)

 ルシオラの答えにおキヌちゃんは、首を傾げながら疑問形で問い返す。

 ― さぁ? まぁ、私は今の所おキヌちゃんに宿っている状態だから、貴女が呼ばれたらセットで私もここに来るみたいだけどね。
 ……宿っているで思い出したっ。おキヌちゃん! 前回ここから出る時に思わせぶりな事を言ってたわよね!? あれって…もしかして…… ―

 おキヌちゃんの問いかけにはルシオラも判らないらしく首を傾げた様だが、自らが言った言葉に前回の別れ際に彼女が言った言葉を思いだし、勢い込んで尋ねようとした。

 だけど、彼女自身のコンプレックスでもあり、まさかそんな事が…との思いもあって尻すぼみになる。

 (えっ? ……あぁ、確かに言いましたね。確証は何一つ無いので確実とは言えませんけど、可能性はあると思いますよ?
 いくら忠夫さんの文珠が子宮の代わりをしていても、その存在を維持している霊力は私のですし、その影響から逃れられるものじゃないです。私の娘である……あっと、サクヤヒメの娘ですけど、ホスセリノミコトは見事にサクヤヒメの容姿を受け継いでいましたからね。
 今もある場所で沢山の侍女達と共に、この星に寄り添っていますよ。今思い返してみれば、あの侍女頭のお二方は私の様に魂を分けられたサクヤヒメの娘にあたるのかもしれませんね)

 おキヌちゃんは、ルシオラの問いかけに最初は何か判らなかった様だが気付いて納得すると、うんうんと頷きながら答えの様なモノを言った。

 サクヤヒメと相対している時は彼女の妹として自分を認識しているようだが、この空間ではまだ自分自身とサクヤヒメの分化は出来ていないおキヌちゃんだった。

 ― え? ホスセリって誰? この星と寄り添っている? 私が知っている者なの? ―

 ルシオラは日本の神話はあまり知らないのか、戸惑いながら疑問符だらけで問い返すだけだった。

 (ホスセリというのは、私の…サクヤヒメの娘ですよ。
 神話には生まれた事しか載っていませんけれど、それはサクヤヒメとニニギ様が彼女の出生を偽ったからなんです。
 ニニギ様があの子を護る為に泣く泣く言霊を使って、あの子に関する関係者の記憶を曖昧にしたんです。あの時代は、女の子にはあまり自分の人生を選ぶ自由はありませんでしたからね。もしあのまま何もせずに成人していたらサクヤヒメやニニギ様への意趣返しも篭めて、慰み者にされるのが目に見えてましたから)

 ― 何だか複雑な事情があるみたいね。好奇心がすっごく刺激されているんだけど、今はそれよりも大事なことが気に掛かってるから後で訊くわ。結論から言ってよ。私の…私の胸はおっきくなるのよねっ? ―

 おキヌちゃんの言うホスセリノミコトがどの様な存在か物凄く気になるルシオラではあったが、その事よりももっと気になる自分のコンプレックスの事に、意を決して核心を訊く。

 (クスクス。もう少し引っ張れると思ってましたのに、やっぱりルシオラさんも以前の私と同じ悩みを持った女性ですもんね。早く答えが知りたいのも解りますよ)

 ― 焦らしは良いから、早く答えてよおキヌちゃん! 貴女の言葉の雰囲気から答えは解るけど、ちゃんと言葉で確信を得たいのよ!! お願い!!! ―

 おキヌちゃんの言葉に焦れるルシオラ。すると、そこへ……

 (何を二人して楽しそうに話しているのです? 私も混ぜてくれませんか?)

 微笑ましいものを見ている感じで、唐突におキヌちゃんの背後から優しい声色で問いかけられた。

 (えっ? サクヤお姉ちゃん?)

 ルシオラに答えようとしたおキヌちゃんは、突然の呼び掛けにビックリして声がした後ろに振り返ってみると、そこにはサクヤヒメが柔らかく微笑みながら一面の花達に囲まれて座っていた。

 ― うわっ、凄い霊圧!? おキヌちゃんから流れ込んでくる霊力が、何倍にも増えたように感じるわ!! ―

 サクヤヒメが現れたとたんに、文珠に注がれる霊力が数倍になったのを感じてルシオラは驚きの声を上げた。

 (初めまして、ルシオラさん。そして、あの戦いで良人を助けて頂いてありがとうございます。
 私がニニギノミコトの妻にしてキヌの大元であり、今世では姉となったコノハナノサクヤヒメです。お見知りおき願いますね)

 驚くルシオラに真剣な表情で自己紹介をして、一礼をするサクヤヒメ。

 傍から見ると、おキヌちゃんの下腹に向かってお辞儀しているように見えてしまうが、いまだに文珠の中にルシオラは括られている為に仕方が無い。

 ― あっと、挨拶が遅れました。すみません。私、ルシオラと言います。こちらこそ、よろしくお願い致します ―

 丁寧に挨拶するサクヤヒメに、ルシオラは慌てて礼儀正しく挨拶を返した。視覚的には、ルシオラはこの空間に現れてはいないが、彼女の行動は雰囲気でこの場に居る全員に伝わる。

 (ここに私達を呼んだのって、もしかしてお姉ちゃん?)

 おキヌちゃんは、ルシオラとサクヤヒメの挨拶が終わるのを待って、先ほどから感じていた疑問をサクヤヒメにぶつけた。

 (ええ、そうですよ。私が貴女達を呼びました。今後の事についてやルシオラさん、貴女の事について話さなければならない事がありますから)

 (今後やルシオラさんについて話す事? それってイワナお姉ちゃんにも話せないことなの? サクヤお姉ちゃん)

 (キヌよ、妾はここにいるぞ。遅れてすまなかったな、サクヤ)

 (いいえ。封印の人形に応急処置を再び施していたのですから、かまいませんよ。それに、キヌ達の会話は聴いていて楽しかったですし)

 女華姫の謝罪の言葉に、サクヤヒメはおキヌちゃん達を見ながらニコヤカに答えた。

 どうもおキヌちゃん達を驚かそうとして、気配を極限まで消して見守っていたようだ。結構イタズラが好きなのかもしれない。

 おキヌちゃんとルシオラは、女華姫までがこの空間に来た事に驚きを隠せなかった。

 (それにしても、キヌ? ホスセリの事は軽々しく明かせるものでは無かった筈ですよ? あの子はもう、あの子を託した種族の長になっているのです。
 仕方が無かった事とはいえ、私とニニギ様が幼かったあの子を手放してしまった事は事実です。それに、あの子に会う事すら今の私にはままならぬ事ですし……)

 サクヤヒメは、おキヌちゃんがホスセリノミコトを例に挙げてルシオラに説明していた事を窘める。が、ホスセリノミコトの現状をおキヌちゃんの記憶を追体験して知っても、サクヤヒメは容易に会えぬ身の為に憂いを帯びた表情で俯く。

 (ごめんなさい、お姉ちゃん。でも、かぐ……あの子は……あの人は、忠夫さんに助けられてもいるんです。
 だから、会いに行く事も今の世なら不可能じゃない。それに今の彼女なら、お姉ちゃんの事も解ってくれると思うんですよ)

 サクヤヒメの諫言におキヌちゃんは謝る。でも、姉の憂いを除くために、彼女の娘が現在住む場所まで行ける事を告げる。

 (それは解っていますよ、貴女の半生を追体験したのですから。
 ただ、私自身がある事の為に、今は行けないのですよ。
 その事についても話す為に、この空間に貴女達を呼んだのです)

 サクヤヒメはおキヌちゃんの慰めに少しだけ微笑むと、居住まいを正してこの空間に呼び出した目的を告げた。

 ― あのー、話が見えないんだけど。私にも解るように説明してくれないかしら? ―

 おキヌちゃんとサクヤヒメのやり取りに、ルシオラは痺れを切らして二柱に問いかける。自分のコンプレックスを解消出来るかもしれない答えを焦らされている彼女にとっては、もどかしい限りのようだ。

 (すみませんね、ルシオラさん。貴女のお知りになりたい事は、貴女が生まれてこない事には確実な事は言えないのです。
 ただ、私の娘の姿をキヌの記憶から見た限りでは、希望を持っても良いと思いますよ。私が言えるのはこれだけです)

 ルシオラの求める答えを、やんわりと告げるサクヤヒメ。

 ― 貴女の娘の姿なんて、私は一度も見た事が無いから解るわけないじゃない。でも、とりあえず希望は持ってもいいみたいね?
 嘘だったら私の持つ全知力を持って、期待した分を取り返させて貰うわよ! ―

 サクヤヒメが持つ高位の神格にも怯まずに、ルシオラは啖呵を切る。

 この問題に関しては、霊格や神格など彼女にしてみれば塵芥(ちりあくた)な物なのだろう。

 (ご随意に。それは貴女が生まれた後の事でありますから。今は、ご自分の理想とする体型を思い浮かべておればよろしいのですよ。それすらも気付かずに答えを求めようとするとは、短慮としか申せませんね。
 それだから、ニニギ様に要らぬ心の傷を負わせてしまうのですよ)

 ルシオラの脅しとも言える言葉に、サクヤヒメは動じもせずに辛辣な言葉を彼女に返した。何やら思惑があって、ワザとルシオラを怒らせる言葉を選んでいるようだ。

 普段の様子を知っているおキヌちゃんは、姉のらしからぬ言葉に驚いて言葉を挿(はさ)めない。

 ― なっ! 何を知った風な口をきくのよっ。あの場に居もしなかった貴女が!!
 あんなギリギリの場面でヨコシマに魂の結晶を破壊させる以外に、どんな解決方法があったって言うのよ!! ―

 サクヤヒメの辛辣な返しの言葉に、ルシオラもあの場に居なかったクセにとヒートアップしていく。

 (ちょっ、お姉ちゃん!)

 (キヌは黙っていなさいっ! あの場で共に生きようとせずに、悲劇のヒロインを無意識に気取ったこの娘に本当の解決方法があった事を教えなければならないのです!!
 己の過ちを自覚せずにこの世に戻ってこよう等と、生命を司る私にはとても看過出来ぬ事。この世に戻っても、また同じ過ちを繰り返すだけなのですから)

 サクヤヒメを諌めようとしたおキヌちゃんを逆に叱り飛ばし、サクヤヒメは初めて厳しい表情をおキヌちゃんとルシオラに見せた。

 そこには、添い遂げると決めた殿方と共に歩く事を誓い・貫く意志を宿した女の表情と、娘を力強く導く雰囲気を持った母親としての姿があった。

 ルシオラはサクヤヒメの雰囲気に呑まれて、冷水を背中に浴びせられた様な感覚を覚えていた。おかげで先ほどまでヒートアップしていた頭が冷めていく。

 ルシオラは生まれて初めて、母という存在を無意識の内に己の中に受け入れていた。

 ― わ…私の過ちって何よ? あの圧倒的な力の差があったアシュ様と正面から対峙していて、ヨコシマに結晶を破壊させる以外にどんな方法があったっていうのよ!! ―

 まぁ、無意識な分、すぐに反抗してしまうようだ。

 (ヒントとしてまず一つに、ニニギ様はかのアシュタロスを文珠によって、人間の身でありながら身体能力等を模倣出来たのでしょう? その事を貴女も間近で見ていたはずですね?)

 ― ええ、そうよっ。それがどうしたっていうのよっ? ―

 いきり立つルシオラとは対称的に、サクヤヒメは静かに言葉を紡いでいく。

 (貴女が、悲劇のヒロインとして浸っていなければ、活路は見い出せていたはずです。結晶を破壊する事ではなく、利用する事を。
 ヒントの二つ目は、あの魂の結晶という物にはどんな特性があったかという事です。貴女は知っているはずですよ。アシュタロスが漏らした言葉を、間近で聞いていたのですから。
 後は貴女が気付くかどうかです。共に歩む事を貫いていれば、自ずと答えは見つけていたでしょう。少なくとも、可能性の世界樹を通して体感したあの場で、私はすぐに見つけました。最も単純な利用方法を)

 ― 何を訳のわからない事…… ―

 (あ…私、解ったかも……)

 ― おキヌちゃん!? ―

 (そう、そうよね。あの時、魂の結晶を破壊する事なんて必要無かったんだわ。なんでこんな事気付かなかったんだろう?
 そっか…文珠でアシュタロスを模倣した忠夫さんや結晶の特性を私が知らなかったからなんだ。でも、当時人間だった私が、この事に気付けたかと言われれば、無理でしたね)

 ― そんなおキヌちゃんまで!? 一体なんだと言うのよ!! ―

 サクヤヒメが見つけたという方法がルシオラには想像もつかなくて、反論しようとした所におキヌちゃんが唐突に答えを見つけたようだった。

 その呟きを聴いたルシオラは、味方と思っていたおキヌちゃんまで理解が出来ないことを言い出した事に戸惑い、その場にいる全員に苛立ちも顕わに叫ぶ。

 (まだ、“狂った除くモノ”の呪縛を振り解く事が出来ませんか。この場所なら、私達が居るから大丈夫と思っていたのですが……)

 ルシオラの叫びにサクヤヒメは落ち着いた声音で呟いて、彼女に向かう霊力を少しずつ多くしながら慎重に事を運ぼうとしている。その影響はルシオラにすぐさま現れてきていた。

 ― なんだって言うのよ? あの時、結晶を破壊する以外に方法なんて…………待って、あの時ヨコシマは普通の文珠が使えたわよね……結晶を破壊したのは<破>の文珠だし……。
 その前にもアシュ様を欺く為に<影>の文珠を使えていたわ。私が混ざっていたから問題なく使えていたわよね。だとしたら………… ―

 サクヤヒメの意図が解らずに、ルシオラはとりあえずあの最終局面を順序立てて思い返していく。すると、今まで気付こうともしていなかった事柄が、彼女の脳裏に次々と浮かんできた。

 (あの時、忠夫さんは大極図模様の文珠以外にもう一つ文珠を持っていましたね。それで魂の結晶を破壊しましたけど……もし、もしですよ? 破壊せずに他の文字にしていたなら、どうなっていたんでしょう?)

 ルシオラの呟きに、おキヌちゃんが答えへと導くように彼女に質問する。

 ― 結晶を破壊せずに別の文字に? 確か南極でアシュ様はこう言っていた……魂の結晶はアシュ様に合う様に調整されていると……ヨコシマにはアシュ様を模倣できるだけの素地があった……もしもあの時、私が破壊を薦めずにアシュ様を模倣するよう<模>を薦めていたら…… ―

 (魂の結晶が手元にある分、有利になっていたでしょう。少なくとも貴女の霊基構造を体内で再構築させ、再び生み出す事は難しくなかったはずです。他にも色々と事を有利に運べたでしょう。可能性の一つではありますが、不可能ではないです)

 ルシオラの呟く声に、サクヤヒメは引き継ぐように答えを紡ぐ。

 ― で…でも、この答えって今冷静に考えたから出た答えでもある筈よ。なのに、今更どうしてこんな事をむしかえすのよ! ―

 (冷静に考えたから? それは違いますよ。貴女はあの時、何かに魅入られた様にニニギ様と共に生きる事を諦めていた。
 あのギリギリの戦闘の中で、皆が生き残る事を考えている中で、貴女だけが生きる事を諦めていた。それは何故ですか?)

 ルシオラは質問の意図が判らずにサクヤヒメに強く言い返すも、サクヤヒメは冷静に問い返していく。

 けれども、冷静に見える正座した姉の太ももの上で組まれている手が微かに震えているのに、おキヌちゃんは気付いていた。

 (お姉ちゃんが苛立っている?)

 ― 違うって言われても、何故って言われても答え………… ―

 (いい加減にしなさいっ。 本当は答えは出ているでしょう! 何故それから目を逸らして、認めようとしないのですか! アシュタロスが望む『滅びの願望』に、貴女は引き摺られていたのでしょうが!
 起きた事実は覆す事は出来ませんが、貴女は今、もう一度この世界に生まれようとしています。その貴女が、アシュタロスの滅びに共感している貴女が再び同じ様な危機に直面した時、他の方法を知らない事で同じ選択を選んでしまう可能性があると、どうして気付かないのですか!!)

 ルシオラの答えを遮って、サクヤヒメは彼女を強く叱る。ルシオラが“狂った除くモノ”の呪縛を跳ね返すようにと心内で祈りながら。

 ― …………………………!! ―

 ルシオラは言葉が出なかった。おキヌちゃんを通して伝わってくるサクヤヒメの霊力が……言葉は激しくともそこに篭められた慈しみが、強く強く彼女へと流れ込んでくるのを感じるからだ。

 しかも流れ込んでくる霊力が増えていくにつれて、心に我知らずに掛かっていた霧が晴れていく様に次第に思考がクリアになっていき、目を見開く。

 (やっと気付かれたようですね。生きる事というのは経験を積む事です。輪廻転生の理は、その経験を魂が引き継いでいく事なのです。
 貴女は最初の生で、次代に引き継ぐ事をアレのせいで放棄する選択を選ばされてしまった。そのやり直しが出来る今、再び同じ過ちを選ばさせない様に貴女はキヌに宿らされたのですよ。この私の分御霊であるキヌにね)

 ― でも、今ここであの時出来た事を認めても、あの事実は覆せないわ…… ―

 そのサクヤヒメの言葉に、ルシオラは力無く呟く様に返すのみだった。

 ルシオラの様子にサクヤヒメは溜めていた息をゆっくり一つ吐くと、先ほどとはうって変わって穏やかに彼女を諭す。

 (覆す必要は無いのです。あの時に他にも出来る事があった。まずは、その事を認めなさい。
 それによって、貴女が無意識の内に囚われていたアシュタロスが望んでいた『滅びの願望』から抜け出す第一歩になるのです。
 また、“狂った除くモノ”の呪縛から逃れる事にも繋がります)

 ― アシュ様の『滅びの願望』から抜け出す事というのは解るのだけど、“狂った除くモノ”の呪縛って何?
 私、そんなのを受けた記憶は無いわよ? ―

 ルシオラはサクヤヒメが言う呪縛に心当たりが全く無くて、彼女に首を傾げながら問い返す。

 (それが厄介な所なのです。アレからの干渉は、ある一部の者達以外には自覚できないのです。
 アレは時の狭間を知覚出来ないモノにとっては、脅威のなにものでもありません。アレ以外の除くモノ達は、命や存在そのものまでを奪う事はよほどの事が無い限り滅多に無いのです。
 ですが、アレは違います。狙った獲物を、最も悲劇的な状況を作り出して捕食するのです。その時一緒に発生する、獲物を取り囲む人々の悲憤の情をも啜る為に)

 ― サクヤ様? まさかとは思いますが、私が“狂った除くモノ”によって除かれたものって……ヨコシマと共に生きる感情ですか? ―

 サクヤヒメの答えを聴いて、ハッと何かに気付いた様にルシオラは彼女に訊く。

 唐突に辿り着いたこの答えなら、サクヤヒメがあの場面で別の答えをなぜ執拗(しつよう)に自分に求めたのか納得がいくからだ。

 (その通りです。貴女はニニギ様と共に生きる事を歩んでいきたいと願って、親であるアシュタロスに叛旗を翻したはず。
 それなのに、貴女は諦めるのがあまりにも早過ぎました。
 あの時、ニニギ様は最後まで貴女と共に生きる事を願っていたというのに、貴女は魅入られた様に結晶の破壊を薦められていました。それはアレに掛けられていた呪縛によってもたらされていたのです)

 ― そんな…… ―

 サクヤヒメに肯定され、その説明を聴いたルシオラは愕然とする。知らぬうちに自分の感情を操作された事にも戦慄を覚えた。

 けれども、時間が経つにつれて沸々(ふつふつ)と、怒りの感情が湧き上がってくる。

 ― …………許せないわ。あの時の感情はもちろん私自身の感情ではあるけれど、それが誘導されたモノだったなんて。ずぇったいに許せない!! ―

 (貴女はニニギ様と共にありたいですか?)

 ― もちろんよ! ―

 サクヤヒメの質問に、ルシオラは一も二も無く即答する。躊躇すること等一つも思い浮かばないと言わんばかりに。

 サクヤヒメはルシオラのその様子に微笑みながら頷く。その心中に一抹の寂しさを隠しながら。

 (お姉ちゃん)

 敏感に感じ取ったサクヤヒメの寂しさに、おキヌちゃんは彼女の手の上に自分の手を添えて、呼び掛ける。おキヌちゃんの目には、自分だけが彼と会えている事の申し訳なさが表れていた。

 (良いのですよ、キヌ。私達の願いは遥か彼方の時空で叶えられましょう。今は、この子の可能性を救う事が先です。そうしなければ、この枝世界でのニニギ様の存在が危うくなります)

 (そうだけど。でも、お姉ちゃんもあの妖穴さえ塞ぐ事が出来たらいつでも逢いに来れるし、忠夫さんにここに来てもらう事も出来るよ)

 (キヌは……あぁ、そうでしたね)

 (??)

 サクヤヒメは、おキヌちゃんが言っている事と自分の感情に微妙なズレがある事を言おうとしたが、現在の彼女の生活を思い出して納得した。それは遠い遠い昔、サクヤヒメ自身が当たり前としていた感覚だったから。

 おキヌちゃんは、サクヤヒメが何に対して納得したのか分かりかねて首を傾げる。今のおキヌちゃんにとって、彼女自身が認めた女性が一緒に忠夫を想うことは自然なことで疑問に思うことすら無かった。例え日常生活において嫉妬してしまう事があってもだ。

 (キヌにサクヤよ、話が脱線しているぞ。ルシオラ殿が戸惑っておろうが)

 今まで口を噤(つぐ)んでいた女華姫が、話がズレてきたサクヤヒメとおキヌちゃんに釘をさした。

 (あっと、ごめんなさい。どこまで話していたかしら? そうそう、ルシオラさんがニニギ様と共に在るにはどうしたら良いかでしたね。
 まず、ルシオラさんがこの世に戻ってくるには、今まで分かたれていた貴女の霊基構造を一つにしなければなりません。普通であれば、すぐにもご自分の力だけで出来るのですが、今の貴女にはニニギ様の魂も幾分か混ざっています。
 その分を切り離し、かつ分けられていた霊基構造を一つにする為に文珠が使われています。この文珠の使われ方は、普通の使われ方では無い為に維持には莫大な霊力が必要となっています。
 その霊力を補う為にキヌが魂の原始回帰をしました。ここまでの理解はよろしいですか?)

 ― ええ、解るわ。今もサクヤ様からの霊力供給によって、私にくっついていた分のヨコシマの霊基が周りの壁に吸収されて、その代わりに私の霊基が戻ってきてるもの。
 それもおキヌちゃんだけの時よりも早くなっているのを感じてるわ ―

 サクヤヒメの確認に、ルシオラは自身を取り巻く淡く光る翡翠色の壁を見ながら、頷いた。

 (貴女に混ざっているニニギ様の霊基は微量ではありますが、この時空に戻ってくるニニギ様に必ずお返ししなければなりません。
 そうしなければ、キヌや貴女が知るニニギ様が永遠に失われてしまいます。その理由は、融合していた貴女が一番ご存知ですね?)

 ― そうね。元々足りなかった霊基構造だったのに、強引に自分から切り離したものだからヨコシマを構成する表層人格は、美神さんの旦那さんだったヨコシマに取り込まれて表に出られなくなってるのは解るわ。私の時と同じだもの。
 それに彼ら二人が最終的な融合を果たす為にも、私にくっついていたヨコシマの霊基が必要だってことも ―

 ルシオラはサクヤヒメの確認に頷きながら、ヨコシマの中で自身の表層人格が彼に取り込まれて出てこれなくなった事を思い出しながら答えた。

 (ニニギ様が、この枝世界に戻ってきてから二十四時間以内に彼らの真の融合を果たさないといけないのですが、キヌだけの霊力では貴女の復活に時間が掛かって間に合わないかもしれません。
 それを少しでも早める為に、この場に来ていただきました。それと、少々強引ではありましたが、貴女にアレの呪縛を振り解いて欲しかったのです。
 戦いの場でギリギリの選択を迫られた貴女への数々の失礼な物言い、誠に申し訳ありませんでした)

 サクヤヒメはそう言って、深々と頭を下げた。

 ― 私が現世に戻る為の必要なプロセスだったんでしょう? なら良いわ。
 それに、サクヤ様の言葉は私には堪えたもの。貴女が教えてくれなかったら、私はずっと勘違いをしたままだった。
 だから、お顔を上げて下さい。そんな事されたら、ますます私に立つ瀬が無いわ ―

 ルシオラは、頭を下げるサクヤヒメを留める事ができない我が身をもどかしく思いながら、なんとか彼女の頭を上げさせようと促す。

 (お姉ちゃん、顔を上げて。ルシオラさんが困ってるわ)

 おキヌちゃんがサクヤヒメの隣に座りなおして身体を起す様に促す。

 (ですが……)

 (その辺にしておけ、サクヤよ。そなたの謝意は充分伝わっている。それ以上は謝意の押し付けになるぞ)

 (…………はい)

 女華姫の言葉にやっと上半身を起すサクヤヒメ。それでも、その表情は晴れてはいなかった。

 サクヤヒメの様子に、ルシオラは心苦しさを感じて話を強引に変えることにした。

 ― 私もアシュ様の作品だったと自惚れて良いかしら? 『宇宙意思への反逆』を美神さんが反映していたのなら、私はアシュ様の『滅びの願望』を反映していたのだから。
 でも、もうヨコシマを残して逝くなんて、二度と思わない。おキヌちゃんや美神さん、それに貴女にも遠慮はしないわ! ―

 かつてアシュタロスが美神令子を自身の作品と評した事をルシオラは感慨深げに思い出す。

 その事から自分とアシュタロスの絆を確認した彼女は、そのくびきから抜け出す事を宣言するかのようにおキヌちゃんやサクヤヒメに宣戦布告する。

 (ふふふふ、そうですね。けれど、貴女と覚醒したニニギ様だけで“狂った除くモノ”を退けられると思わない事です。
 そして今度こそ、共に生きる事を諦めないで下さい。キヌもですよ? もう二度と、死津喪比女の時のような事はしないようにね)

 ルシオラの宣戦布告に、先ほどまで表情を曇らせていたサクヤヒメは優しく笑い返して柳に風と受け流し、彼女に再度生きる事を諦めないように釘を刺しながら、おキヌちゃんにも一緒に忠告する。

 (はい、お姉ちゃん)

 ― もう、解ったわよ ―

 ルシオラとおキヌちゃんは、共にシュンと力無く答える。ルシオラは、ヨコシマを独り占めする事が出来ない事に、おキヌちゃんは以前にルシオラと同じ事をしようとした自分を思い出して。

 (サクヤの貫録勝ちであるな。やはりニニギの事に関しては、妻となり母となった者には敵わぬか)

 三柱のやり取りに、くくくくっと笑いながら女華姫は締め括る。

 (もう姉さま、からかわないで下さい。とりあえず、ルシオラさんに関しての話はこれでお仕舞いです。次は封印の人形についてですね)

 女華姫の揶揄に恥ずかしそうに頬を赤らめてサクヤヒメは答えると、話を変える為に女華姫に話を向ける。

 (封印の人形については、仁徳天皇陵が暴かれてしまったからな。どこに隠したものか、頭を痛めているところよ。
 まぁ、暴かれたのは結果から見るに、不幸中の幸いではあったのだがな。どこに隠したほうが良いのか、知恵を絞ってはくれぬか?)

 サクヤヒメに水を向けられた女華姫は、封印の人形の隠し場所に頭を悩ませていることを吐露して、皆に意見を求めた。

 ― 封印の人形って何? ここで起こされるまで、眠らされていたから解らないんだけど? ―

 (封印の人形というのは、ニニギ様が神話の時代にご自分の神格を封印した人形の事なのです。
 遠い未来に巨大な災厄がこの日ノ本を襲ってくるからと予知をされて、魂のみになって転生される際に邪魔になるからと封印したのです)

 サクヤヒメがルシオラの問いに答える。

 ルシオラは巨大な災厄というのをアシュ様の事だと思ったが、それにしてはヨコシマ自身が当時その事に一度も触れなかったことをいぶかしんだ。いくらなんでも、宿命とも言うべき事象で神格をその身に受けるはずなのだから。

 それが出来ていないとしたら、力の継承が失敗したことを意味する。しかし、失敗していないならばアシュ様の事では無いこととなる。その辺を確かめる事にした。

 ― 今まであえて確認はしなかったけど、ニニギってヨコシマの事なんでしょう? どうしてヨコシマはその神格を継承しなかったの?
 アシュ様の人間界への侵攻は、この日本にとって、かなり大きな災厄と思えたのだけど? ―

 (……それは、私の我侭のせい…ですね。ニニギ様から聞かされた封印場所を、私の我侭で変えていただいたのです。お隠れすると決められたニニギ様に、私は思い出の縁(よすが)を求めてしまったのです。
 本来であれば、今の東京の新宿と呼ばれる場所に封印されるはずでした。
 ですが、当時はただの湿地でしたし、何よりも天津神の神格を封印するにはあまりにも魔に支配され過ぎていた地でした。ニニギ様は、その神格を以ってかの地を浄化される心積もりであったようですけど……)

 ルシオラの質問に、サクヤヒメは暗い表情で答えた後に顔を伏せる。

 (ルシオラ殿は横島殿の身裡に居たから知っておるだろうが、ニニギであった頃もあの性格だったからな。サクヤの最期の願いに苦笑しながら長い事考えていたが、折れたのだよ。
 転生先を今で言う近畿地方にしておけば良かろうと、言ってな)

 サクヤヒメの告白を補足するように、女華姫は当時のやり取りを話す。

 事実、ニニギの転生であった高島は京都近郊に生まれていて、横島も東京で生まれていたのだが大阪に移り住んでいた。それが、再び親の転勤で東京に引越してそのままになってしまったのは、何とも皮肉である。

 しかしその事は、ニニギの予知が正しかった事の証左でもあった。

 ― なるほどね。そういう事なら解るわ。という事は、力の継承に失敗したという事なのね。ヨコシマの詰めが甘いのはもう、前世レベルなのね。
 それじゃ、ヨコシマが戻ってきたら彼に返したらどう? ―

 ルシオラは二柱の説明に嘆息しながらも納得して、それならば今継承させても問題無いのではないかと思い、その事を言ってみた。

 (そうなると横島殿は強制的に神族になってしまい、人間としては一度死んでしまう事になるぞ?
 まぁ、便宜上神族になってしまうというのが、一番正しい表現になるであろうがな。
 だが、キヌから聞いた限りでは、横島殿は今のところ神族になりたいわけではなかろう?)

 ルシオラの言葉に、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて女華姫は答える。

 ― そうね、愚問だったわ。ヨコシマのことだから神族になったとしても性格は変わらないとは思うけど、しがらみに縛られるのは嫌うでしょうね。
 それに、魔族側がアシュ様が居ない現状では許すとは思えないわ。でも、便宜上神族になるってどういうこと? ―

 (そうであろうな。 便宜上神族になってしまうというのも、すまぬがニニギの神格の謎その物に関る事でそうそう話せるモノでは無いのだ。この人形に封印されている神格が、少々特殊でもあるせいでな。
 現時点でその事を知っているのは妾とキヌとサクヤ、それに小竜姫殿であるな。ヒャクメ殿は、その能力から知る事になるかも知れぬが、神族の暗部を知るがゆえに口を噤むであろうな)

 ― これまた好奇心がくすぐられるものが出てきたわね。でも、その口振りだと、教えてはくれないんでしょう? ―

 (さよう。出来ればこのまま永遠に、地の底深くにでも埋めてしまいたいくらいだ。
 だが、それは悠久の時を考えれば出来ぬ。歯痒いものだ)

 ― それほど重要な物ならば、亜空間結界でも創ってそこに封印したら?
 少なくとも隠密裏に事を運ぶならば、自由に動けて隠密性に長け尚且つ結界術に精通した者を用意しないと無理だと思うわ ―

 女華姫の言葉に、ルシオラは呆れを滲ませながら一応解決策の様なモノを提案してみる。

 (むぅー。ルシオラ殿の言うような者は、妾に心当たりは無いな)

 (私にも心当たりは無いですね。キヌはどうですか?)

 (心当たりというか……。イワナお姉ちゃんと私とルシオラさんと忠夫さんでやるしかないように思えますけど?
 ただ、封印する場所が思いつかないんですよね)

 顎に人差し指を当てて、宙に視線を彷徨わせながらおキヌちゃんは答えた。

 ― どうして私とヨコシマとおキヌちゃんとイワナガヒメ様なの? ―

 (サクヤお姉ちゃんは、妖穴の封印を続けないといけないから本宮から動けないんですよ。
 それに、この場に居る以外の方に任せる事も出来ませんしね)

 ― なるほどね。後は人形を封印する場所を何処にするかという事だけか ―

 おキヌちゃんの答えにルシオラは納得してウンウンと頷くと、隠し場所について考えをめぐらし始めた。

 (頭が痛い問題であるな)

 (とりあえず、封印する場所が決まるまでは、この本宮に安置しておくしかないですね)

 サクヤヒメは、とりあえず答えが出るまでの処置として提案する。

 この本宮ならばニニギの神格を置いておいても不思議ではないし、何よりも元々からニニギを祀っているので隠すのはもってこいでもある。

 ― う〜ん……なんか引っ掛かってるのよねー。物凄く身近でうってつけの隠し場所がある気がしてるんだけど…… ―

 (ルシオラさんもですか? 私もさっきから何かを忘れている様な気がしてならないんですよ。ホントに物凄く身近で……)

 ルシオラとおキヌちゃんは、二人してウンウン唸る。

 ふと、ルシオラは自身を取り巻く壁に目を向けて……閃いた!

 ― そうよ、これならイケるはずよ! ―

 (どうしたのです? ルシオラさん)

 (む?)

 (ああ、そうか!)

 ルシオラの突然の大きな声に、サクヤヒメと女華姫はどうしたのかと疑問を投げる。対して、おキヌちゃんは自分の下腹に目を向けて、自分が何に引っ掛かっていたのか気がついた。

 ― おキヌちゃんも気がついた? ―

 (ええ、たぶんルシオラさんと同じ方法だと思います。文珠ですよね)

 ― そうよ。今の私の状態がヒントだったのよ。私が中に入れているんだから、封印の人形も入れられるはずよ ―

 (文珠を維持する霊力は、人形自身から供給させれば大丈夫なはずですよね?)

 ― その辺はヨコシマが居ないとなんとも言えないけど、とりあえず場所については解決と見て良いんじゃない? ―

 封印方法に光明が見えてきたおキヌちゃんとルシオラは考えつく問題点を挙げてみたが、当人が居ない状態では何とも言えない。

 ただ、封印する物が手の平大になった事で、場所を探すのが容易になったとして問題をすり替える。場所の特定なんて、今この場ですぐに出てくるとは二人には思えなかったからだ。

 (ふむ。文珠とはそこまで便利な物であったか。ならば封印の人形を新しくした後は、サクヤの提案に甘えるとしよう)

 (ええ、良いですよ姉さま。封印の人形創りに参加できない代わりに引き受けますよ)

 (忠夫さんがこの枝世界に戻って来た時って、令子さんの旦那様の記憶しか無いんですよね? その記憶もこの枝世界にとらわれると、二十四時間で完全に消えてこの枝世界が用意した記憶になってしまいますし……。令子さん、どうするのかな?)

 とりあえず結論が出た問題にホッとすると、頬に右手をそえて首を傾げながらおキヌちゃんは呟く。

 ― そういえば、美神さんはどうやって融合前の記憶を留めていたのかしらね? やっぱり文珠なのかな? だとすると、抜け目の無い美神さんの事だから、いくつか文珠を持ってるかもね ―

 (ということは、忠夫さんを迎えに行くのは必然的に令子さんになるんですね)

 ルシオラの予想に、少し残念そうにしながらおキヌちゃんは言う。

 (キヌはルシオラ殿を復活させるまでは、私から離れることはできませんよ。一刻も早く、キヌの知るニニギ様と彼女に混ざっている霊基の融合を果たしてもらわないといけませんからね)

 残念がるおキヌちゃんを、サクヤヒメは苦笑しながらも窘める。ルシオラが復活出来た時に、時間切れでしたなんて事を恐れるが為に。

 (では、妾は朝を待ってここを出るとするか。早苗も心配しているであろうし)

 (もう、行ってしまわれるのですか? 久しぶりに再会できたのですから、もう少し逗留されてはどうです?)

 (うむ、妾もそのつもりではある。だが、事のあらましを伝えておかなくてはな。心配させたままではいかぬであろう?
 それに預けておいた銀鏡(しろみ)を返してもらわねばな)

 別れを惜しむサクヤヒメに、戻ってくるから心配するなとばかりにニッと笑いかける女華姫。

 (それではキヌともども、姉さまが来るのを待っていますね)

 (ああ、わかった)

 念を押す妹に寂しがり屋な所は変わらぬなと思いながら、それに応急処置をしてあるとはいえ人形の件もあるのだしと女華姫は内心で苦笑する。

 ― 私はここでしか、今のところみんなと意思の疎通が出来ないのよね。今度皆さんと話せるのは、私がおキヌちゃんから産まれる時ね。
 それまでは、サクヤ様が言っていた様に自分の理想のプロポーションを思い浮かべながら微睡んでいるとするわ ―

 (それが良いでしょう。貴女の霊基構造は今再構築中ですから、貴女の想いがそのまま反映されます。
 それに、キヌや私の霊力は神気を帯びてはいますが元々は国津神ですからね。唯一神教の定義では魔と見做され、貴女にとっては文珠による魔力への変換でもかなりの親和性があるでしょう)

 ルシオラの一時の別れの言葉に、自分と同じように寂しさを感じてくれていると察したサクヤヒメは、彼女の不安が少しでも晴れるようにと言い添えた。

 ― へー? 日本って神様の定義が本当に曖昧なのね。色々知りたい事が出来て楽しみだわ ―

 そう言ってルシオラは、おやすみなさいと最後に呟いて再び眠りについた。

 (では、私達もそろそろ戻りましょう。キヌ、姉さま。本当にご苦労様でした)

 深々と女華姫とおキヌちゃんに礼をして、サクヤヒメは二柱を心から労った。

 (気にするな。こうして再び会えたのだからな)

 (そうですよ。それに忠夫さんも帰ってきます。その為なら頑張れるし、お姉ちゃんも出来て嬉しいんだから)

 女華姫とおキヌちゃんは、サクヤヒメを左右両方から優しく起して微笑んだ。

 (ありがとう……)

 瞳に涙を滲ませてサクヤヒメは二柱を抱きしめて、感謝した。

 女華姫とおキヌちゃんは、困ったような感じで顔を見合わせてお互いに苦笑すると、そのままの状態で阿頼耶識と呼ばれるこの空間から現世へと戻っていった。


 忠夫が戻ってくるまであと六時間を切った。おキヌちゃんの昏睡から端を発した今回の事件は、一応の解決を見た。でも、これは新たなる戦いまでの休息に過ぎない。果たして、ルシオラの胸はおっきくなるのだろうか? おキヌちゃんとサクヤヒメのダブル天然に忠夫は耐えられるのか? 果たして令子は、生娘でありながら忠夫との性行為豊富というギャップにどう対処するのか?


                  続く


 こんにちは、月夜です。想い託す可能性へ 〜 じゅうに 〜 をここに投稿です。
 やっとルシオラがどうやって復活するのかを説明できました。ホスセリノミコトについては、古事記に男神と表記されてますが海彦山彦みたいな物語は無く、ただ生まれた事だけしか表記が無かったので独自解釈です。GS世界で誰になっているかは、バレバレですけど伏せておきます(笑)

 誤字・脱字、表現がおかしいと感じられる所があればご指摘願います。
 では、レス返しです。

 〜 読石さま 〜
 いつもご感想ありがとうございます。感想を頂けていると、ホッとしている私が居ます^^
>今のほうが可愛いと本気で思い始めてしまった……
 とうとう道士殿レベルまで到達されましたか! かくいう書いている私も悶えているわけですけど^^ヾ でも、同じ様な容姿の織姫はダメなんですよね(爆 やっぱり性格ですね! 

 〜 アミーゴさま 〜
 毎回のご感想ありがとうございます。また励ましのお言葉ありがとうございます。なんとか月一ペースは維持できています。
>ヒャクメ=ボケ担当……
 う〜ん、やっぱりヒャクメはいじられキャラと認識されているんですねー(笑)小竜姫さまとペアで出てくると、どうしてもボケになっちゃう彼女が好きです。
>そんな見えすいた罠に……
 いえいえそんな、これが罠なんてことはないですよ。これは序章なのです。この後に…おっとこれ以上は……(笑)
>小隆起とか小乳姫とか……
 原作の妙神山露天風呂に浸かる小竜姫さまには、胸の谷間が見えているのです! あのラインから想像すると、手の平から余るほどにはありますよ!! まぁ、小柄な分、令子さん達とは実際の大きさでは敵わないんでしょうけど(爆

 〜 冬8さま 〜
 いつもレスをくださりありがとうございます。読んで頂けているとホッとしている私が居ます^^
>人形に欲情(?)……
 今の彼女は記憶の統合途中なので情緒不安定になっています。そこに横島似の人形を担いでいるので、もう大変です^^ でも、もっと……おっと、これ以上は言えない。
>最近賓乳好きになりつつある……
 いっそ両方の属性を持ちましょう(笑)そうしたら、パピリオを愛でてベスパも弄れます! でもまぁ、ワイド版の妙神山での小竜姫さま入浴場面を見れば、彼女のひんぬー疑惑は晴れますよ^^ 
>メガさまが口達者だと……
 え〜、女華姫様が口達者だったら…「(ふしゅる〜〜)そこ行く殿御よ、妾とひと時の遊戯を楽しまぬか?(ふしゅるる〜〜)」ダメだ…私だと脳内イメージが織姫になってしまう_| ̄|○
 漢前な性格の彼女が真の姿で気恥ずかしげにすると、萌えます!

 〜 灰原水無月さま 〜
 ご感想ありがとうございます。また、リンクの間違いを教えて頂いてありがとうございます。素で気付いていませんでした。リンクの直し方が解らず、再度の新規投稿になってしまいましたが。
 私の拙作を気に入っていただいたようでありがとうございます。今回のお話がご期待に副える物であれば幸いです。また何か気付かれる事がありましたら、ご指摘願います。


 GWを利用してなんとか今月は2話を投稿できました。なるべく早く書き上げるよう努力しますが、次回は6月末に投稿になると思います。
 では、それまで失礼致します。

 あらすじキミヒコさまのご指摘により、一部を修正しました。あらすじキミヒコさま、ありがとうございました。(08/3/9)

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