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「リスタート 十六話 前編 (GS)」

(´ω`) (2007-05-27 00:09)
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――唐巣教会


「美神君、横島君、紹介しよう。私がイギリスに居た時の友人で
ピート君だ。君の兄弟子にも当たるから仲良くしてくれたまえ」

「初めまして、ミス美神、横島さん。ピエトロ・ド・ブラドー
と言います。ピートと呼んで下さい。どうぞよろしくお願いします」

令子のGS試験も間近に迫ったある日、ピートは来日した。

「初めましてピート、美神令子よ。これからヨロシクね?」

和やかな雰囲気で握手する令子とピート

「……」

「初めまして横島さん、ピートといいます。イタリアでは
ルシオラさんにお世話になりました。貴方の事はルシオラさん
から聞いていて、会うのを楽しみにしていました。どうぞよろしく
お願いします」

にこやかにそう挨拶するピートだが…

横島は何処からとも無く藁人形と五寸釘を取り出し


「チクショー!チクショー!」

カーン!カーン!

いきなり目から汗を迸らせ横島は藁人形に念を込めて釘を
打ち込み始める。

「ぐがっ!」

ピートが手で押さえてる部分と横島が人形に釘を打ち付けている
部分は一致していた

「横島君(クン)!?」

「ヨコシマ?」

「ま…まさか一目で僕の正体を!?
ま、待ってください横島さん…確かに僕はバン「そんな事はどうでも
ええんじゃぁぁぁぁぁっ!」
……は?

「「「??」」」

ルシオラ達も思わず目が点になる。

「金髪で美形でイタリアから来た
バンパイア・ハーフだと!?
貴様みたいなブルジョワが俺達プロレタリアートに
分配されるべき
美少女富を収奪していくんじゃっ!
ちくしょーっ!マルクスはやはり正しかったんやぁ!
こーゆー奴がいるから富の偏在が発生するんやーっ!
貴様このSSを何と心得とるかっ!?お前のいるべき
SSはこの隣のクロス作品板で他作品の美形キャラと
競うのが仁義っちゅーもんや
ゴスっ!ぶべらっ!

「ごめんなさいねピートさん。ヨコシマったら
少し錯乱してるみたいなのよ」

額に血管を浮かばせつつもルシオラはそうピートに
謝罪する。無論横島を踏みつけつつ。


「うう…マルクス主義は死んだんやぁ…」


自らの所有する璧貨に気付かぬ者を愚昧という
                  李挽徳


――リスタート――
 第十六話 前編


「いやあ…済まなかったねピート君。横島君も
あれで中々気持の良い少年だからどうか水に
流してやってくれたまえ」

「そうかしら…?アレはかなり憎しみが篭って
たように思えるけど…」

横島がルシオラと帰った後、唐巣たち3人はティータイムで
親交を温めていた。

「いえ…気にしてませんよ。
むしろ新鮮でした。横島さんの反応は」

「「新鮮?」」

「ええ…彼は僕がバンパイア・ハーフだという事に
気付いていて、それで尚、「そんな事はどうでもいい」
と言ってくれました…つまり横島さんは僕をバンパイア
ハーフという色眼鏡で見る事無く、有りの儘の僕を見て
くれたと言う事です。ま、まぁチョット苦しかったですけど
――正直、嬉しかったです」


紅茶の湯気の向こうに見えるピートの顔が、唐巣と美神には
宝物を見つけた子供のように見えた


「…今日ピート君は良き友人を得たのだろうね」

「まぁ横島クン馬鹿だから、次会った時にはケロッとしてるわよ」

「そうだと嬉しいですね。彼とはもっと話がしてみたいです」

そういってピートは以前の様な張り詰めた笑顔ではなく、
柔らかい笑顔で微笑んだ。


「…どうやらお父さんの事は振っ切れた様だね」

「はい、僕は僕の道を往きます。その為に日本に来たのですから」

「そういえば日本では何をするの?やっぱりGSになるのかしら?」

だとしたら強力なライバルかも…と令子は埒外な事を考えてすぐに
その思考を打ち消した

「ええ、GS資格を取得してオカルトGメンに
入ろうかと思っています」

「ほう、オカルトGメンかね?」

「はい、先生のように困っている人々の為に働きたいです」

やっぱ神父の弟子って似たような人が集まるのね…
そんな事を考えていた令子だが、ふと疑問がよぎる

「へー、じゃあピートってやっぱり高校卒業してたんだ?
あ、イギリスで神父と知り合ったって事は実はハーバード大
を卒業したとか?もしかしてケンブリッジ?」


「「へ?」」


夜の高層ビルからの夜景を眺めつつピートは少し黄昏ていた

「まさか高校卒業資格が必要だったなんて…」

あの後、美神からオカルトGメンの入隊資格に要高卒資格
が必要と知らされ、師弟そろって固まったが

「じゃあ来年の高校受験受ければ良いじゃない。
横島クンと同級生っていうのも良いんじゃないの?
ハンサムなんだから人気者になれるわよ?
また横島君はブー垂れると思うけど」

という助言を受けて唐巣に手配をしてもらう事になった

「でも横島さんと同級生というのも悪くないかな…
学校に通うなんて生まれて初めてだし」

あれ以来自らの出自にコンプレックスは持たなくなった。
ピートはそう考えてみて高校に通うのも神の思し召し
かも知れないと考え、元気を出した。

「綺麗な夜景だな…

――父さん、母さん。これから僕はこの国で沢山の事を
学ぶ事になると思います。故郷の中間達の期待に応える
為にもどうか見守っていて下さピクリ…魔力?」


高層ビルの夜景に奔るノイズの様な物がピートの
バンパイア・ハーフとしての勘に触れた

「…あちらからか?……よし!」

ボムッ!

その身を一匹の蝙蝠に変えたピートは夜の闇に
紛れつつ摩天楼の谷間を羽ばたいていった


高層ビル屋上のヘリポートで褐色の肌の少女が
魔法陣の中心で人形と対峙していた

「ソハ何者ナリヤ!ソハ我ガ敵ナリ!我ガ敵ハイカナルベキヤ!
我ガ敵ハ――

――眠るべし!」


呪を完成させ少女は人形の頭部に針を突き刺す


「……ふう」

「キキキィ!仕事は終わりだキィ!」

「…いいや、これからが本番なワケ」

「キキキィ!今日の24時で契約は終わりだキィ!
その時はやっとエミ!お前を食べられるキィ!」

黒い子鼠の様な低級悪魔
――ベリアルがそう笑いながら魔法陣を掃除する

「…そう簡単に喰わせてやるほど安く無いワケ」

「キィキィ!残りの時間で精々お祈りを済ませる
がいいキィ!」

小笠原エミはそう笑いながら魔法陣を消していく
ベリアルを冷笑を浮かべて眺める

「お祈りを済ませるのはアンタの方なワケ、この「こんばんわ
お嬢さん。今宵は月が綺麗ですね?」
誰!?」


いきなり真後ろから声をかけられエミは狼狽する
今の今まで気配が無かったのだから当然だが…


「キィキィ!お前俺と同じ匂いがするキィ!何者だキィ!」

エミの真後ろに立っていた人影

――ピートから自分と同じ匂いを嗅ぎ取ったベリアルが
いきり立つ。

獲物を横取りされるのを警戒して


「アンタ誰なワケ!?いつからそこにいたワケ!?」

「初めまして、僕はピエトロ・ド・ブラドーといいます。
ピートと呼んで下さい。
お名前を聞いても宜しいですか?お嬢さん」

ベリアルを無視し、
場違いなまでに朗らかな笑顔で挨拶されたエミは混乱する

「誰だか知らないけどさっさと消えるワケ!私は今から
大事な仕事があるワケ!」

「お仕事は今終わったのでは?」

「!……アンタ見てたワケ?

距離を取って警戒を露にしたエミだが、ピートは
笑顔を崩さない。

「いえ、僕が来たときはもう終わっていましたけど?」

「俺様を無視するとは良い度胸だキィ!コイツは俺の
獲物だキィ!見逃してやるからさっさと消えるキィ!」

無視されたベリアルが牙を見せて威嚇するがピートは
何処吹く風である。


「大事なお仕事というのはそこの低級悪魔の退治の
事ですか?アレは貴女の僕ではないのですか?」

「アイツは今日の24時で契約が切れるワケ!
契約が切れたアイツは本性を現すワケ!何処の
誰だか知らないk「ピートです」……は?」

「僕の事はピートと呼んで下さい。所でまだ
僕は貴女のお名前を伺っていませんが何とお呼びすれば
いいですか?」

毒気を抜かれるとは正にこの事であろう。
このピートという男はまるで今の状況に危機感を抱いていない
エミは一人でいきり立っているのが馬鹿らしくなった

「…小笠原エミ。好きに呼べばいいワケ」

「そうですか…素敵なお名前ですね。
ではエミさんと呼ぶことにします」

「っ!…すっ、好きにすればいいワケ!」

緊迫した状況のハズなのに、何故自分は今知り合った
ばかりのこの得体の知れない男と三文恋愛小説の1シーン
みたいな事をしているのか?
でも……この男

――ピートと名乗ったこの男の笑顔を見てると
どうにも調子が狂う…


「キィキィ!後僅かな命だって言うのに随分余裕が
あるキィ!」

「おだまりっ!」

いやらしく哂うベリアルを一喝してエミは自分の
今の状況を思いだす

「ピートって言ったワケ?悪いけど私は今から
このクソ悪魔と約束があるワケ!デートの
お誘いならまた今度にして欲しいワケ!」

デート?

自分で言ってエミは可笑しくなった

自分が?

馬鹿馬鹿しい!

いままで殺し屋として泥を啜りながら生きてきた自分が?

今あったばかりの得体の知れない男とデート?

自分もヤキが廻ったのだろうか?


「デート…ですか?」


――?

なぜコイツは頬を赤くしてるの?

見た所結構な美形だ。いままでデートの一つや二つ
したこと位あるだろう。相手を探すのに苦労する筈は
ないのだから


「ははっ…デートですか…素敵ですね…
――是非ともしてみたいです」

「…っ!……こ、この仕事が終わったら
か、考えてやってもいいワケ!」

「本当ですか?あ…でも…」

「?」

「僕、デートってした事無いんですよ…
エミさんはどうですか?」

したことが無い?この顔で?
選り取り緑だろうに

――結構固いんだ

そんな事を考えてエミは自分が微笑んでいるのに
気付いてなかった

「……私も無いワケ。いいワケ、初めて同士
精々頑張ってみるワケ

――命があったらね」

ベリアルを睨みつつピートとのデートを承諾した
エミの腕時計がまもなく24時を指そうとしていた

「だからさっさと此処から逃げるワケ!
もうベリアルの契約が切れ「キキキィ!時間切れだキィ!」
――チッ!」


ベリアルの体が子鼠の様なサイズから突如
2メートルを超えるサイズに膨れ上がる

「長かったなぁ!俺は自由だ!」

「すぐにあの世で自由を満喫させてやるワケ!」

銀の弾丸を装てんした拳銃でベリアルを打ち抜く

――が

「そんな玩具が今の俺に効くと思っているのか?
なめられたモンだな?


――エミィィィィ!!」


長く伸びた鋭い爪を立ててベリアルはエミに突進する

「なめんじゃないワケ!!」

ピートを突き飛ばしてエミは大きく反対側に飛び退きつつ
呪札をベリアルに向かってばら撒く

「グガァァァ!」

ばら撒かれた呪札は宙を舞いベリアルの身体にまとわり付く

「アンタ用に拵えた特注の呪札なワケ!!身体を腐らせながら
あの世へ逝くワケ、このクソ悪魔!」

あの呪札は一枚一枚を自分の血で紋様を描いた特別製だ
ベリアルといえども――

「舐めているのはどっちだ?」


――ボゥ!


「なっ!?」

ベリアルにまとわり付いた札が黒い炎を上げて次々と焼け落ちていく
焼け落ちた後のベリアルは

――表面を焼け爛れらせていたが健在だった


「…上等なワケ」

「次は霊体撃滅波でも打ってみるか?
尤もその時間があればなぁ?」

哂い声を上げるベリアル

「さて…そろそろ遊びの時間は終わりだ
お前といた3年間は結構楽しめたぜ。


…あばよエミ」


先程よりも更に速い速度で此方に向かって来ている筈の
ベリアルがスローモーションの用にハッキリと動きが見える
しかし自分動きは更に遅い


避わせない


そう悟ったエミの脳裏に今までの人生がリプレイされていく


ああ

これが走馬灯って奴なワケ


両親と死に別れてからの記憶は碌な物がない

呪いで見ず知らずの人間を言われるままに殺す自分

死んだ師匠の変わりにベリアルと契約した自分

ネクロマンサーと対峙して初めての友達の残骸を
滅する自分


辛い記憶ばかりが再生される間にもベリアルの爪は迫ってくる


リプレイも終わりに近づいた時、

先程のピートとのデートの約束の場面が再生された

その記憶は先程までと違い

仄かに甘く温かい


――最後の映像がついさっき出会ったばかりの男だなんてね

自分も大概安い女だとエミは自嘲する


ベリアルの爪はもう鼻の先まで迫っていた

エミは静かに眼を閉じる


デート、したかったな――


「……なんのマネだ?」

自分の爪は間違いなくエミの顔面を捉えていた
その刹那、エミの身体を霧が覆い隠し、闇に溶けた


「エミさんとはデートの約束をしてるんですよ」

霧の正体
――ピートは自らを霧に変えてエミをベリアルの爪から
救い上げ、ベリアルに対峙した


微笑を浮かべたまま


「チッ…見逃してやろうと思ったのに
どこの馬の骨だか知らねぇが馬鹿な野郎だ
2人仲良く喰ってやるからあの世で乳繰り合いやが
……れ?」


ピートは微笑んでいる

そう

静かに


「喰う?」


周りの空気がざわつく

焼け爛れたベリアルの表面を夜の冷たい空気が撫で上げる

夜の冷たい空気?


「貴様如き大悪魔の名を僭称しているだけの下郎が?」


違う

この冷たさは夜のせいじゃない


「デッドコピーのそのまた劣化品に過ぎぬ汝が我を喰らう?」


目の前の小僧の瞳が紅く染まり牙が覗く

周りの空気が真冬の様に冷たく

濃密な魔力を漂わせる


「な、何モンだてめぇ…」


俺が

この契約から解き放たれたベリアルが


目の前のソレを恐れている?


「身の程知らずが…」


ソレは紅い瞳で俺に哂いかけた


獲物を見る、獣の様な紅い狂気を宿した瞳で


続く


かゆ

  うま

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