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▽レス始

「一年は730日 序幕 供複韮咫法

365日 (2007-05-23 06:32/2007-05-23 17:09)
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 一日が二度訪れる。そんな信じがたい現象の真っ只中にあるのだと主張する忠夫はそれからも、やはり、劇的な成長を遂げていた。
 別に身長が良く伸びたり、そういう意味での成長ではない。見た目は普通の子供だというのに、知識や技術、精神年齢がありえない成長を遂げていくのだ。
 初めこそ誰もが天才と呼ぶほどに評価されたものの、二歳半にもなる頃には、怖いやら、恐ろしいやらと述べる大人が近所に増えていく。所詮自分の子供と比べて能力の差が激しい事実を認められない、そんな醜い妬みを正当化するための口実なんだろうとわかっていても、忠夫は辛かった。
 実際、彼にはなんの罪もない。力があるのはそれだけの経験を積んだからであって、決して天性の才能に恵まれているわけじゃないのだ。

 そんな中、忠夫の親に当たる百合子と大樹は各自の仕事に励みながらも、空いた時間で忠夫が置かれている状況を理解するべく情報を集めていた。
 しかし、一日を二度体験するなど常識の枠から激しく離れた事柄で、実際調べていても、出てくるのは心霊現象やら、霊能やらのいわゆるオカルト関係の話ばかりで、そういった面に知識のない二人にはとても難しい問題だ。
 特に二人を困らせたのは、ある悪魔に取り付かれた男が一日の時間枠に閉じ込められるといった話である。現在進行形で生活できている忠夫とは大分異なっているものの、ある程度の関連性を感じずにはいられない。

 もしや、息子にも悪魔かなんかが取り付いているのではないか……? 二人がそんな考えに辿り着いてしまうまでに、そう時間はかからなかった。

 信じたくなどなかった。でも、だからといって他に手がかりがあるわけでもない。
 仕方なく百合子は、忠夫が全300ピースの大きなジグソーパズルにハマっていた頃に、ある一人のGSを呼ぶことを決意する。美神美知恵という名の、その時代において日本最高と呼ばれていた一流のゴーストスイーパーだ。
 どうせ調べるならば徹底的に、完全に真実を探った方がずっといい。中途半端でギクシャクさせたままなのよりも、ずっと、ずっと心が楽な気がしていた。

 それから数日後、美神美知恵は横島宅に訪れた。もちろん依頼の内容は横島家長男、横島忠夫の調査である。
 正直なところ、流石の美知恵も緊張していた。なんてったって相手はビジネス界の有名人、横島大樹と横島百合子の子供なのである。それも、一日を二度生きなければならないという経験豊富な百合子にさえ馴染みのない現象が相手と言われれば、霊能に詳しいGSといえど対処に迷わざるをえない問題だった。

 人差し指で一押し。インターホンの音が鳴り響く。
 それから十秒ほどして、なかなか大きな一軒家の玄関から、小さな足音と共に少年が出てきた。今年で三歳を迎える、ご存知横島忠夫少年である。
 おそらく美知恵が訪れるのを待っていたのだろう。忠夫の瞳はキラキラしていて、子供らしい可愛げに溢れていた。

「あ、あの、おはようございます、美神美知恵さん」

 ある意味人生経験の違いなのだろうか、忠夫は利口な少年である。未だ三歳に満たない容姿でも、既に簡単な敬語は覚えているようだ。

「ええ、そうよ。私が美神美知恵。今日はあなたを……! あ、あなたのことを教えてもらいにきたの。それで、百合子さんはいらっしゃるかしら?」

 美知恵は一瞬、言葉を失った。気付いてしまったのだ。
 いや、むしろ気付くのが遅かったと言っていい。だって彼女は元から忠夫のことを依頼の内容である程度知っており、そこから推察してみれば、自ずと出てくる答えだった。

 そう、忠夫の事が真実であるなら、今目の前にいる忠夫は、既に自分に会っているはずなのだ。それはつまり、彼自身は既に調査の結果を知っているということである。

 だけれど、忠夫は別に辛そうな表情を見せていない。ならばこの調査の結果は、そう悪いものでなく、むしろ良いものであったのではないか……?
 その考えに辿り着いた美知恵の体からは、既にいくらかの緊張が解け、安らいだようなため息がこぼれていた。


 用意した道具は全て上質なもの。高額な報酬の半分近くは持っていかれそうなものが、部屋の中に配置されている。
 何故ならば、失敗するわけには行かないからだ。何せ依頼主はビジネス界を牛耳るビッグネーム。別に失敗したとしても手痛い状況に陥る心配は、少なくとも見た感じの第一印象からは抱く必要性を感じられないものの、それでも確実じゃない。
 それにもし成功すれば、おそらくは高い可能性でそのビッグネームの後ろ盾を得られると、そう美知恵は考えている。どう響いてくるかわからない、生き延びなくてはならない現状を安全に過ごすには、心強い味方になってくれることだろう。
 そう、彼女は生き延びなくてはならない。何故なら彼女は、希少とされる力、時間跳躍能力を持つGSだ。
 時間跳躍能力は歴史を変えられる力。いつ、どこで必要になるかはわからないものの、それがあるのとないのとでは非常に大きな違いがある。
 それに彼女には娘がいる。体の中にとんでもないものを宿してしまった、命に代えても守ってやりたい大切な娘のためには、例え歴史を変えてしまうとしても、決して躊躇はしないと決めている。
 そういう意味では、美知恵は忠夫に対してもある一種の思い入れができていた。忠夫もまた彼女の娘、美神令子と同じように恐ろしいものを抱えて生まれてきたのだ。どうにかして助けてやりたいと思っている。
 だからこの依頼に関しては、あまり経費に拘らないことにしている。どうせ自分は既に多すぎるくらいのお金を持っているのだ。と、そう思えばいくらかの出費などそう怖くなかった。
 しかし……。

「……何かが忠夫君の中にあるのはわかります。ですが……」
「特定は出来ない……と?」

 そう、調査は難航していた。予想を遥かに超える障害、忠夫の魂の周りを覆っている殻のようなもののせいで、内側がまったく見えない。これではどれだけ効果な道具を用いても同じだ。何もかも見通せるほど優れた道具は、少なくとも今は存在していない。それが出来るとしたら、それは神の域に踏み入るのと同じことなのだろう。
 少なくとも人間には無理。ではどうすれあいいのか、わからない。方法がない。殻を壊せばどうなるかわからないし、かといって、このままの状態で内側を垣間見るのは難しい。
 何か強い力が居座っているのはわかるのだ。がしかし、それが何なのかを特定できない。霊力のようにも感じられるし、神気のようにも感じられる。もしかしたら魔力かもしれない。
 依頼は失敗……いや本当にそうだろうか? 何か、何か方法はないのだろうか? 考えを巡らせるものの、思考の糸は絡まってばかりで、なかなか形を成さない。
 ふと忠夫の様子を見てみると、初めて会ったときのような輝いた表情は消えていて、代わりにとても困惑しているように見て取れた。
 これは……おかしい。

 忠夫が一日を二度過ごしていることを、美知恵はもう疑っていない。何せ時間跳躍能力なんてものが存在しているくらいなのだ。一日を繰り返す力があったとしても、そうおかしくないように思える。
 それに何より、忠夫は賢い。とても二歳半とは思えない。美知恵にも今年で四歳になる娘がいるが、それとは明らかに違っている。何が違うかといえば、それは精神のあり方だ。
 忠夫の心には既に物心が芽生え、ある程度の理性があり、頭の使い方も様になっている。喋り方も小さな子供なりに洗練されている。こう言うと失礼だが、一般的な常識の枠には決して入れられない。
 彼は間違いなく、一日を二度生きている。だから、まるで未来を知っているような行動に至れるのだ。そう、一日分の『可能性の一つ』を彼は既に体験しているのだから。
 もしかしたら今が彼にとっての一日目なのかもしれないが、それはおそらくありえない。何故なら忠夫は最初から、調べやすくするためにどう配慮すればよいのか、それを理解した上で美知恵に身を任せてくれている。少々ぎこちないものの、出来るだけ呼吸を止めたり、目を閉じて体の力を抜いたりと、普通じゃない。だから今の彼は、二日目を迎えているはずなのだ。

 しかし、そんな彼が今、ひどく困った顔をしている。それは、とてつもなく奇妙なことだと美知恵は思う。初めから調査が失敗することを知っていたのなら、あのキラキラした表情の理由は証明できない。内より、今困っているのがおかしい。未来を知っているなら、今ここで困る必要すらないはずだ。
 だとしたら、考えられる理由は一つだけ。

 一日目の今日において、この調査は失敗しなかった。これだ。
 それならば初めから調べる必要などないじゃないか、と、そう思えなくもないが、小さな子供がはっきりと昨日のことを記憶しているとも思えないため、二日目も成功するのだとばかり思っていた美知恵は、より正確に現状を知るために、調査を決行したのだ。
 それが気が付けば熱が入ってしまい、いつの間にか最も簡単にヒントを得られる方法、『聞く』ことが頭のどこかに消えてしまっていた。
 笑ってしまう。やはり自分はGSだったと、改めて思わされる。

「ねぇ、忠夫君。昨日の私は一体、どんなことを言っていたのかな?」

 美知恵は嘘のない笑顔で問いかける。本当におかしかったのだ。その時までは。

「……その……ちょっと恥ずかしいねんけど、嘘やないよ?」
「うん。わかってるから、言ってみて」

 おそらく彼にも信じられないような結果が出たのだろう。言うのを恥ずかしがりながらも、忠夫は口を開いた。

「あんな……僕の体の中にあるな、魂っていうのの中にな、神様が住んどるらしいねん」
「……へ?」

 予想外。想定外。ありえない。わけがわからない。
 しかし忠夫の口はまだ閉じず……。

「それで美知恵さんが、もっと良く調べんといけん言うてな、それで美知恵さんの家に一週間泊まりすることになったんや」
「えっと……それ、本当?」

「せや。令子ちゃんが友達になってくれて、僕、めっちゃ嬉しかったわ」

 驚愕の事実。信じられない可能性。しかしそれならば、朝会ったときの忠夫の様子にも説明がつく。調査の結果以上に彼は、お泊りするのが楽しみだったのだ。

「…………」

 しかし、言葉が出ない。どう言っていいのか分からない複雑な気持ちが、声を封じてしまっている。

「あとな、もう一つ、美知恵さん言っとったで」

 体を震わせながら忠夫と目を合わせる美知恵。今度は一体どんな言葉が飛び出すのか……予想もつかない。

「なんか、一つだけ、僕のことが絶対にわかる方法があるんやて」
「え!? それは本当なの、忠夫君?」

 頷く小さな小さな少年。間違いじゃない。
 依頼を成功させる方法がある。ならば考えていれば、いずれ出てくる答えかもしれない。考える……考える……。

「! ……そう……ね。確かにそれなら、わかるかもしれない」


 何かに気付いたらしい美知恵はその後、しらばく百合子と大樹との三人で話をし、数分後、笑顔の忠夫を連れて、少し長めの帰路についた。


 ちょっと早めの後書き

 後書き、と書いたのですが、不覚にも学校に行く時間がやってまいりましたので、すみませんがレス返しは午後に。
 では、では。行ってきます。

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 帰宅しましたので、早速後書きを。

 えっと、『あえてGSでこのネタをやる理由』に関しての意見が多かったので、ここで答えさせて頂きます。
 まず一に、新たな展開の確立を目指すこと。原作通りに進む二次創作も好きなのですが、新しいものを作ることが僕は好きなので。ですから今作のストーリーは、様々な面で原作と異なってきます。これに関しては次々回に予定している話をご覧になれば一発で理解できます。

   二に、原作の設定では実現するのが難しい部類の良さを出すべく奮闘すること。例えば『何かの比率が近い○○』とか『友達感覚で付き合う○○』とか『同級生の○○○』とか『相棒みたいな○○○』とか『我慢する○○』とか『学生の○○』とか『乙女心全開の○○○』とか……。尚、此処に挙げたのは例であって、必ずしもそうなるわけではありません。

   三に、面白そうだったから。逆行や再構成に比べて考えないといけない要素が物凄く多くなりますけど、うまく作れればそれだけ面白くできそうな気がしたので、挑戦の意味も込めて書いてます。

 そして最後に、二次創作だと面白く書くのが難しいエピソードを面白くするため。先述した通り、奥深い造りを施しやすい設定なので、頑張ればこれが可能になると思っています。とはいえこれは作者次第なんで、あまり自信はなかったり……。まぁ、やれるだけやってみるということで。


 とまぁ、こんな感じです(汗

 ちなみに令子が三歳なのは先述した目的を達成するための布石です。この設定がなければ話が成り立たなくなるので、原作設定を愛する方々には誠にお詫び申し上げます。

 それでは、レス返しを。尚この後書きを書く前に感想を下さった方にもちゃんと次回もレス返しさせて頂きますので、今回は前回レスして下さった方へのレス返しです。


 アミーゴさま

 今作品の記念すべき最初のレス、ありがとうございました。
 この話においての『一日目』は忠夫しか知らないため、『一日目にズル休みして二日目だけ出勤』なんてことも出来なくはありません。更にいえば他にも様々なお遊びが出来ます。がしかし、そのことを忠夫以外誰も覚えていないため、結局はえげつない、切ない展開が待ってます。


 ラーメン大王さま

 先の展開を先読みさせない、予測できない話作りに力を入れております。とはいってもいくらかの布石、伏線を撒いているので、じっくり考えれば予想できるかもしれません。例えば今回の話では、美知恵が『どうやって忠夫のことを解明するのか』を考えてみるのがポイントです。ヒントはしっかり話の中に入れてありますので、興味が沸いたら謎解きしてみて下さい。


 アルマさま

 ギャンブル……いいですねぇ。一日目に結果を覚えて、二日目に荒稼ぎ。成功率百パーセントの大フィーバー。憧れます。
 でも、必ずうまくいくとは限らないのが人生。いやはや厳しい……。ていうか、競馬場行った事ないです……。


 鳳仙花さま

 誰も覚えていない一日目の存在は、考えられる限りでも半端じゃなく辛いだろうと思います。それこそ遊んで暮らせる程度じゃないと僕はやってられそうもありません。怖いですね。


 へろくれすさま

 「新しい!」の言葉は今作にとって最高の褒め言葉の一つです。心に沁みます。ストレス吹っ飛びます。


 万々さま

 成長・老化に関してはわりと直ぐに解明します。そしてその答えを導かせないように話を進めるのが今の時点で一番難しいところです。


 レジェムさま

 あぁ! それです。思い出しました。yahooでゲーム情報見てる時に偶然見つけたのですよ。でもどうしてあの設定から世にも奇妙な物語を思い出してしまったのか……似てるけど、自分の頭がカオスに思えて仕方ありません。人間の脳って不思議です。


 フュードル米区さま

 引き込まれる話を書けるかどうかは小説家にとっても、二次創作作家にとっても重大なポイントなのでお言葉嬉しかったです。僕の場合は読者を雰囲気に浸らせてから意外性のあるシナリオ展開で落とす、みたいな手法を良く使います。丁度今回の話がそんな感じに出来たので自分的には合格点。この後も維持できるかが問題なのですが……。


 SSさま

 敢えてGSでこれをやる理由は、後書きで書いたものの他にも実はけっこうたくさんあったりするんですけど、やっぱり面白い話にしたい! ていうのが一番強かったです。


 直樹さま

 一回目の一日はほとんどの要素がリセットされます。なので頭がこんがらがることはないですけど、たぶん生きてて滅茶苦茶苦しい思いを強いられます。実際頭の中で話を作っている間も、幾度となく鬱を繰り返している自分がいます。書いてて心が苦しくなる話なのです。


 紅白ハニワさま

 確かに意見多いですねぇ。まぁこの設定においては一番効率が良くて一番確実な方法ですもんね。でもいくつか罠を配置しておりますので、理想の現実化は難しいかもです。


 ASUさま

 二度繰り返すことはどこに絡んでくるのか=やれる限り何でもかんでも絡ませてみようと思ってます。といってもそんなに緻密なストーリー設計が作れるほど時間も労力もないのでどれ程になるかはわかりませんが。


 趙孤某さま

 はい、皆さんギャンブラーなご様子です。これは初めを投稿したときから予想していましたが、予想よりもいくらか上回る結果でした。こんなにレスもらえると思って無かったっていうのもありますけど。


 静駆さま

 かなりいい読みです。特に『カタストロフィが断続的に起こる』の部分は正に正解、100点です。滅茶苦茶重要なポイントです。他にポイントとなるのは一日目の体が二日目にどんな影響を及ぼすのか、ですね。これはわりと重要になってきます。


 シル=Dさま

 GSはある程度の不条理、非現実が一般で受け入れられるというなんとも親切設計な世界観なので、今作のような設定で書くにはとても向いております。他にも出来そうなのはいくらかありますけど、僕が書ける中では一番GSが合わせやすい感じです。


 神さま

 GSで書く必要のない設定であることは重々承知しております。でも面白そうだと思ったらどうしても書いてしまう心の弱い自分がいます。


 powerLさま

 竜が飛ばない日曜日……本当だ。調べてみたら確かにそんな登場人物がいるっぽいですね。知りませんでした。面白そうだし参考になりそうなので今度見つけたら買ってみます。
 新しいことを始めようとして叩かれるのは覚悟してますので、挫けないように頑張る所存です。


 たくさんレスを頂けて個人的にはかなりビックリしてます。常識はずれなネタでも、しっかり書けばちゃんと評価されるんだなぁ……。個人的には大躍進でした。

 では、では、次回をお楽しみにです。

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