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▽レス始

「一年は730日 序幕 機複韮咫法

365日 (2007-05-20 23:40/2007-05-20 23:41)
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 彼……この話の中での横島忠夫少年は、多くの人が知っているだろう横島忠夫とは違う面を持っている。
 なら何が違うのかといえば、それは生き方だ。友達との付き合い方、細かな価値観、どこで冷静を保ち、どこで熱くなるのか、そいった点において異なっている。決定的な違いだ。
 ならどうしてそんな違いが生まれてしまったのか、そこが問題だ。生涯関わってくるだろう生き方なんて要素を変えてしまうくらいなのだから、大きな事件、小さな事柄に関係なく何か彼にとって印象的な物事が起きたのだと推測するのが正しい。
 実際、その考えにほとんど間違いはない。唯一間違っている点を上げるとするならば、それは『起きた』のではなく、『起こっている』こと。
 何故なら彼の人生を変えてしまう最大のファクターは、彼が生まれたその日から既に存在していたものなのだ。

 そう、例えば、彼にとっての一年が730日であったとしたら、人一人の運命どころがその周りの者の運命すらも捻じ曲げてしまうに違いないだろう。


 忠夫が初めて強い違和感を感じてしまったのは、彼が一歳の誕生日を迎えた日。その頃『から』彼は両親や近所の大人たちによく天才だの、神童だのと言われて人気があった。与えた玩具の使い方を直ぐに覚え、生後六ヶ月を迎えた頃にはもう、母親の百合子をママ、父親の大樹をパパと呼び分けて驚かせた。
 しかし、それは別に彼が天才だったからというわけじゃない。それだけの労力を費やしたからこそ得られた、いわゆる報償だったのだ。

 そして迎えた誕生日、忠夫は、ひどく困ったような顔をしていた。頭をかしげながらプレゼントを受け取り、妙にギクシャクした手つきでケーキを食べて、折角もらったプレゼントの玩具で遊ぶこともなく眠ってしまった。
 それは彼がこのときいい用のない違和感を感じていたからなのだが、その奇行と言えなくもない忠夫の反応に両親は悩み、いろいろと話し合った。
 何か嫌な事でもあったのか、もしかしたら買った玩具が悪かったのかもしれない、などなど、小一時間ほど真剣に意見を交わす父と母。二人ともどこか普通でない、ある種不思議ささえ纏う息子を溺愛する節があったため、辛かった。

 その後も幾度となく、奇妙な出来事が起こった。
 ある日気まぐれで一歳半の息子に文字の書き方を教えようとした大樹の前で、教えてもいない漢字の名前を書いてみせる忠夫。
 買い物に行ったとき、タマゴを買い忘れていることを百合子に指摘し、加えて今日はあれが安い、これは明日安くなるなどという広告を読まずして知ることの出来ない知識を披露する忠夫。
 驚異的な成長を遂げているという意味では、喜ぶべきことであったのかもしれない。が、しかし、それは明らかに異常だった。もはや天才だとか、神童だとかいう問題の話じゃない。
 極めつけは忠夫の、二歳の誕生日だ。
 父の大樹が、今年こそ忠夫を喜ばせようと奮起して購入した飛びっきりのプレゼントの入っている包みを忠夫に渡し、笑顔で問いかけた。
 妻にも秘密にして一人で買いに行った玩具である。包装紙で隠れている中身のことなど、もちろん、答えられるはずがない。
 しかし、忠夫は即答した。それは特にCMに出てくるわけでもないマイナー会社が作り、初めこそ評価されなかったもののいつしか影の名品と言われるようになったレアな玩具の名前。まだ一度として中身を見せても、教えてもいないはずの、プレゼントの名前。
 驚愕し、笑顔を引きつらせた大樹が床に尻餅をつく。信じられない。有り得ない。意味がわからない。
 慌てて調べてみても、包装紙のテープが取られた跡は見つからず、中身も未開封のまま。光にすかしてみてもカラフルな包装紙はまったく透けない。こればっかりは、流石の大樹も何がなんだかわからなかった。
 唯一救いがあったとすれば、それは忠夫の反応が去年の誕生日とは違って、とても楽しそうな笑顔であったこと。だがしかしそれは、忠夫が、最初からプレゼントの中身を知っていたことを意味する、父の反応を面白がるような笑顔だった。

 何かがおかしいのは明白。調べなければならない。血の繋がった親として、息子がどういう人間なのかわからないままでは悲しく、何より悔しい。

 誕生日の後、次の日から、百合子と大樹の二人は忠夫の行動や言動、興味を向けるものなどなど、あらゆる面に目を向けて記録するようになった。
 そして出てくる、数々の矛盾。知るはずのない知識を持つ息子の矛盾。まるで自分たちの先手をとって動いているようにも感じられる節の数々。一度注意を強めてみただけなのに、次から次へと不可解が増していくのは不気味で、手のつけように困って仕方がない。
 しかしそのままにもしておけないと意気込んで、百合子は問いかけてみた。小さな子供にも理解出来るような、簡単な質問だ。脳の成長が凄まじく早い忠夫ならば答えてくれるだろう。

「ねぇ、忠夫君は、どうしてそんなにいろんな事を知っているの?」

「……ママ……お母さんと、お父さんが、たくさん教えてくれたから」

 確信めいた予感が、現実に変わる。
 確かに忠夫は答えを返してきた。がしかしその答えは、一ヶ月前から書き溜められている通称『忠夫君成長ノート』の内容に不適切なもので、実際、忠夫自身もどう答えれば良いのか迷っているような、ばつの悪そうな顔をしている。
 本当のことでもあるが、真実の全てを言っているわけではない。と、そう百合子は解釈した。
 最近ではあまり呼んでくれなくなった『ママ』という呼称が一瞬出てきたのがその証拠だ。間違いない。

「プルタブもない缶詰の開け方なんて、いつ教えてあげたかしら?」

 息子が手に持つのはデザートを作るのに重宝するだろうフルーツの入った缶詰。もちろん便利なプルタブなど付いておらず、開けるにはどうしても道具が必要になる。それも、未だ二歳児である小さな子供には荷が重い方法を用いらなければならない。

「……お母さんが開けてるところ、いつも見てたから」

 やはり今度も、返答が帰ってくるまでにどう話せばよいのか考えているような間がある。それでもしっかり答えられているのは、平均的な二歳児のそれとはまったく違っていて、明らかな差を感じてしまう。
 一体どう育てればこうまで早く成長してしまうのか、育てている張本人の百合子でさえわからない。

「でもお母さん、梃子の原理なんて難しいこと、忠夫に教えてあげた覚えがないわ。これ、初めてだとすっごく難しいのに」

 だから、どうにかしてその理由を探ろうと、百合子は二歳児になど理解できないだろうほどに、話の内容を難しく、より確信に迫る内容へと移行する。
 そう、難しいのだ。ある程度コツを掴んでしまえば簡単なのだが、初めてだと原理を理解している者でもかなり手こずらされる。
 だというのに忠夫は、少し苦労しながらも比較的スムーズに開けていた。二歳児の力では、体の体重の大部分をかけなければ穴など開くはずがないのに。

「でも! でも、こうやって力を入れたら簡単に穴が開くんでしょ? お母さん、昨日そうだって教えて……ッ!」

 そして、遂に尻尾を出してしまった忠夫。もう本当にどうすればいいのかと慌てふためき、母の顔を真っ直ぐ見られず俯く姿は、秘密がバレてしまった三歳か四歳ほどの子供が見せるものと一致する。バレてはいけないことを、しっかり理解しているからこそ困っているのだ。
 少し可哀想にも思えるけれど、だからこそ、聞かなくてはならなかった。このままにしてはおけないのだ。

「お母さんがみかんの缶詰を買ってきたのは今日よ。昨日は、あなたとずっと一緒にいたでしょう?」

「ちがっ……」

「違う? 何が違うの?」

 何かを否定しようとしたのだろうが、『昨日』の百合子は確かに家にずっといて、忠夫の面倒を見ていた。それは事実である。
 だというのに何を否定できると言うのだろうか? 百合子にはまったくわからない。
 そう、わからない。まったくわからない。でも、わからないということはイコール『息子の知らない面』に繋がっているのだろうと、この時百合子は確信した。
 だから、問いかける。次が最後の質問だ。心が少し弱くそれでいて優しい忠夫ならば、勇気を出して答えてくれるだろう。例え不可解であろうと、彼女にとって息子は信じられる存在なのだ。

「ねぇ、忠夫君は、一体何を見ているの?」

「…………」

 沈黙する忠夫。どうすればよいのか、本気で悩んでいる。瞳が潤んでいて、もう泣き出してしまいそうだ。

「…………」

 辛い沈黙。忠夫はもう、答える答えないに関わらず、泣いてしまうだろう。それがわかっているからこそ、何よりも我慢が必要だった。百合子は辛抱強く待ち続ける。

「……一日が……」
「一日が、何?」

 ようやく何かを言おうと口を開いた忠夫。先を促す百合子。もう直ぐ、やっと、答えに辿り着く。


「一日が……二回来るんよ」
「……え?」

 忠夫はそれだけ言って、とうとう泣き出してしまった。母親の胸にすがり付いて、ビービー泣いている。それはとても可哀想なのだが、しかし、今の百合子にそれを気遣ってやる余裕はなく、ただ、遂に引き出した謎の回答に頭を悩ませるばかりだった。

(一日が……二回……。繰り返す……)

 思考の渦の中でふと浮かんできた答え。その時は妄想と取れなくもないほど非現実的なものだったが、後に彼女は、それが事実であることを知ることになる。


早すぎるあとがき

 もし一日が二回あったら、たぶん地獄なのではないかと思う今日この頃。
 異様に短いプロローグを上げさせてもらいました、365日です。

 三ヶ月ほど前に新作ゲームの情報を調べているとき、ふと目に留まったPS2ソフト(名前は覚えてません)のあらすじを読んで、ふと、大分前に見た世にも奇妙な物語の話を思い出しました。一日が永遠と繰り返される、絶対に体験したくないだろう出来事を描いた話です。
 その時はまだ、あぁ大変そうだなぁとかしか思ってなかったんですけど、最近いろんな二次創作を読んでいる内に、こんなこと考えたなぁみたいな感じに思い出して、気付いたんですよ。
 一日を繰り返すっていうのは、二次創作の内でも特に数の多いとされる再構成、逆行、クロスの内の再構成と逆行、両方の意味を兼ね備えた設定なのではないかと。
 それで、そのネタを使って書いてみようかなぁと思い始めたのですが、永遠と繰り返すんじゃあ話が進みません。
 ですので、まぁこんな感じに仕上がったのです。
 新しい感覚で読める二次創作など探している方、もしよろしければ読んでやって下さい。
 多少読み疲れてしまうやもしれませんが、二次としても、一つの小説としても楽しませられるような作品を目指して頑張ります。

 では、では。

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