それでも時は進みだす
−プロローグ−
Presented by 氷砂糖
障子越しに入って来る日の光は幾分か本来のそれよりも柔らかく、十畳ばかりの和室に人影はわずか二つ。
その内の一人は畳に敷かれた布団の上に寝ている病に蝕まれている老婆と、布団の横に正座する肩までの見事な黒髪の16歳位の人影。
「―――、そばへ」
「はい」
簡潔な言葉、だが老婆は言葉を発する事すら辛いのであろうが、欠片もそれを見せない。
「……これより———家当主として命じます、清聴なさい」
「かしこまりました」
老女はあくまで厳格で少女はどこでも礼儀正しい、二人は格式高い旧家のほとんどがそうであるように当主は下の者に威厳高く、人影は当主に敬意を払う、
たとえもう本家の人間が当主とその孫しかなく、分家も散り散りになっていたとしても。
「これより当主を継ぎ、東京にいる分家の者のところへ赴きなさい、分家の者には話とおしてあります」
「謹んで拝命いたします」
言葉少なく当主の命に少女は畳に手を突き了承の意を示す、そしてしばらくの沈黙の後部屋の中には、長き生涯に幕を閉じた老婆とその老婆を見つめる少女のみとなった。
「…御安心下さい御婆様、御家は私が繋げます」
かくして小さな歯車は回りだす、
より大きな歯車を回さんと、
世界を巻き込みカラカラと、
止まった彼の歯車を巻き込んで、
クルクル繰る繰る来る来ると、
ボロアパートの一室に忠男の怒声が響き渡る。
「そんな話聞いてねえぞ糞親父!!」
部屋の中は猥雑としている、敷きっぱなしの布団とか、お絹ちゃんに縛られた18歳以上が読んじゃ駄目な本(巨乳もの、何故か巫女ものは無事)とか、自称友と書いてライヴァルと無理やり読ませる戦闘凶のマザコン(裏切り者の彼女持ち)が食い散らかしていったカップ麺とか、
「怒鳴るな、そんな大声出さんでも聞こえとるわ」
「怒鳴らずにおれるか!!」
安っぽい黒電話の受話器がビキビキ悲鳴を上げて指の形に凹んでいく、
「横島の本家の人間が上京してくるから一緒に暮らして世話をしろ!?
しかもそいつには逆らうな!?
ふざけんなーーーーー!
大体大体こんな狭い部屋に二人でなんて暮らせるか!」
黒電話に向かって殺意よ届け!とばかりに怒鳴るが、大樹は奥の手がクリティカルに彼の本能、主に煩悩とかリビドー、に直撃する。
「高島の本家の人間は綺麗だったぞ?」
「不祥、横島忠男張り切って面倒見させてもらいます!!」
他人の世話をする?それがどうした、
部屋が狭い?だからどうした、
そんな物、今の俺(大煩悩状態)には関係ない!
俺を止めたければアシュタロスの大胸筋を山盛り持って来い!!
「お〜〜い、忠夫そろそろ戻ってこーい」
脳内妄想にトリップしている実の息子を現実に戻すのは、横島大樹の数々の女を篭絡した親父ヴォイス(ばれるたびに折檻が厳しくなる、こう、素手→椅子→机→柱という具合に)
「ははははははは、やってきた、終にやって来たぞーーーーーーーーーー、俺の天下が!!」
一向にあっちの世界に行ったきり戻ってくる様子の無い忠夫に、しょうがないので更なる興奮剤を打つことにした。
「喜べ、母さん公認だぞ」
「嘘だ!!」
絶対にありえない内容に、忠夫が吼える。
「嘘じゃないからもっと静かに喋れ」
「そんなわけあるか!あの(・・)おかんだぞ!?許すどころかそんな話になったとたん折檻にきまっとるやろ、そうや、そうにきまっとる、おかしいと思ったんや、これは罠や、いい年こいて浮気してはおかんにしばかれとる似非ダンディきどっとるやつの罠や」
どうも忠夫君、大樹の台詞に軽い人間不信に陥っている模様、
だが、大樹はそんな息子の回復を待つつもりはないらしく、止めを刺す。
「まあ、そんな訳でお前の部屋じゃ狭くて二人で生活なんて出来ないだろうから、うちの部下に引越しの手伝いをさせることにした、やってくれ黒崎」
「は?」
突然まともで親切な大樹の台詞と自分以外に当てられた台詞に疑問の声を上げる、
バタン!
「これよりプラン37からプラン45に移る、A班は荷物の梱包を、B班は梱包された荷物の運べ」
突然黒服の集団が部屋に乱入、アパート内に入り込み、家財道具から制服まで梱包、運搬していく。
「ちょ、ちょっと待てーーーーーーーー!」
「C班はゴミ処理、後に部屋の掃除を」
忠夫を無視して作業続行をうながす黒服眼鏡、ちなみに作業している男たちが持っているダンボウルには……
「ちょっと待てそこのA班!何でダンボールに警視庁とか書いてあんねん、え、サービスで家宅捜査風味?そんなオプションはイヤーーーーーーーー!!」
「D班ターゲットを護送しろ」
「え?ちょっと、はなせこらーーー!俺はどっかで捕まった宇宙人かーーーーー!!
それにマッチョはイヤーーーーーー!!!」
忠夫は、屈強な身長二メートル以上の男たちに、両側から腕を抱えられ強制的に運ばれていく。
「横島さん、小鳩は、小鳩は待ってます、横島さんがいつか、いつか綺麗な体になって帰ってくるのを」
「まあ横島、何やったかは知らんが、模範囚としてすごすんやで、そうすりゃ出所はすぐやで」
余りの騒がしさに出てきたお隣さんは、周りの状況から推測したのか、かなり素敵な勘違いをしてくれた。
「違う、違うんや小鳩ちゃん!これはそんなんやないんや、
てかお願いだから誤解ぐらい解かせてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……………」
黒服D班は忠夫が、言い訳を口にする前に引きずって行った。
後に忠夫は語る、嵐のような問答無用だったと。
「って訳で引っ越しました、まあ同居人に関しては、親父も綺麗(・・)としか言ってないし、何よりお袋が許可出した時点で女なわけないんすけどね」
」
「そ、それはまた……」
「すさまじいとしか言いようがないでござるな」
「……色々と凄いわね横島の親って、それとも人間ってそれが普通なの?」
昨日あった事を事務所の皆に伝えると、皆頬を引きつらせる、若干一命人間に対して間違った常識を身につけようとしていたが。
「タマモちゃん、それはないから」
「そうなの?」
おキヌの否定に、頬に人差し指をあて首をかしげる姿は、とても可愛らしいのだが、忠夫は思う、
人間社会の常識を学ぶためにここにいる子狐は、果たして常識を学べるのだろうか?
むしろ常識から光の速度で遠ざかってないだろうか、
まあ、一番常識から遠いのはこの男であるのだが。
「ところで、何でそんなに不機嫌そうなんすか美神さん?」
令子は唯一突っ込みどころ満載の会話に加わらず、不機嫌そうな顔をしていた。
「はあ、今朝六道のおば様から電話があったのよ」
「冥子殿の母上からでござるか?」
つい先日、共同除霊で六道家名物ぷっつんを、めでたく初体験したシロが、嫌そうに尻尾を足の間にはさんでいる。
「そうよ、なんでも明日から内の事務所で一人雇ってほしいって」
「雇うんですか美神さん?」
今美神心霊事務所では、書類上除霊下ことになっている狐っ子を保護している、ばれたら大変ではないかとお絹は問うが、返された美神の答えは意外なものだった。
「そこらへんは大丈夫そうよ、来る子は京都の古い陰陽師の家系らしいけど、
玉藻御前に関しては最近の説のほうが正しいと思ってるらしいし、
……実力がなかったら断れたんだけどなぁ」
「凄腕なの?」
「ええ、GS免許は持ってないらしいけどアシュタロスの時も、復活させられた魑魅魍魎相手に何人かの有能なGS達と京都を守りきったそうよ」
忠夫はあの時の事を思い出してか誰にも気づかれずに顔をほんの少し歪める、そして彼女のことを思い出し、幸せで寂しい苦笑(くしょう)をひとつ入れると、取り合えず自分らしく行こうと目下一番重要なことを確かめることにした。
「ところで美神さん、来る子ってことは、内にくるのは女っすね」
「そうだけど、そんなところだけ頭を働かせてるんじゃないわよ」
令子はじと目を忠夫に送るが、まったく気づかずに忠夫は叫ぶ、言葉に魂を込めて。
「よしゃーーーーー!! 京美人で着物がよく似合う積極的な、おねーーーちゃーーーん!!」
「言うと思ったわーーーーーーーー!!!」
無駄に霊力を込めた拳の一撃で忠夫を沈める、まったくこの男は成長しないまま成長していくものである、
「そうだ、今日の夕食は横島さんちでの引越しパーティーしません?」
名案だとばかりに手を打ってお絹が提案し、シロが喜んで賛成すし、タマモが注文をつける、
「よいで御座るな!先生の家が分からねば散歩にも行けぬで御座るし!!」
「お揚げが出るなら」
「…まっ、丁稚にそれぐらいしてやってやるのも所長の度量ってもんよね」
約一名、ほほを赤くし顔を背けながら言う、まったく素直じゃないと、お絹は思うが、彼女の場合素直になられてもそれはそれで問題だったりする、
まあそれは置いておいて、こうして事務所の身内による引越しパーティーが決定した、
主役の頭が床に突き刺さったまま。
場面は移り、とある高級マンションの前、
「あんた、こんなところに住むの?」
令子をはじめ事務所のメンバーは呆然と立ち尽くす、
それも当然、マンションはグレードで言うなら令子が住んでも可笑しくない位なのだから。
「先生、家賃は大丈夫なので御座るか?」
「横島、あんた一生分の運勢使い切ったんじゃない?」
「あはははははははははははは……」
おキヌは乾いた笑いを上げる今年かできなかった、
忠夫は本気で心配そうに上目づかいで心配してくる獣っ子二人を無視しつつさらに続ける、
「しかも屋上のペナントハウスなんすよ」
「ほんっとに、どおいうこと?」
「調べたところ、昨日付けでオーナーの名前が横島百合子になってました」
「……そう」
「はい」
どこか遠くを見ながら呟く忠夫に令子は大して何もいえなかった。
GM横島百合子、彼女にかかればこんなことは簡単なことなのだろうか?
果てしなく気になることはおいといて、
一行は、一階から直通のエレベーターに乗り込んだ。
「とりあえず鍋にしちゃったけど良かったですか、横島さん」
「大丈夫だよ、おキヌちゃんの作ったものなら何でも美味しく食べれるから」
背中のかゆくなる会話を至近距離でされて嬉しい訳が無いのでふてくされてる人がいたりするが、エレベーターは進んでいく。
「こんどの家は広いんすよ、それこそ全員で泊まっても部屋が余るくらい」
「だから泊まってけっての?
やよ、何されるか分からないのに」
「やだなあ、そんな鬼も恐れて裸足で逃げ出すようなことする分けないじゃないですか」
「それは、私が鬼より怖いって事?横島君」
「いや、あの、その……」
タマモは二重の意味で嘘だと思った、馬鹿でスケベだが横島はそんな事はしない、もしされたとしても、美神も、おキヌちゃんも、シロも、横島が本気なら拒むことはできないだろう、まあ、その、自分もそうだったりするのだが。
「先生、もうすぐつくで御座るよ!」
「あ、ああそうだな!」
「ちっ」
「まあまあ、美神さん」
シロの話しかけてきたのをこれ幸いと逃げを打つ、
エレベーターの扉が開くとそこには小奇麗で趣味のいい日本庭園が広がっていた、
「へえ、良い感じじゃない」
「長老の庭みたいで御座るな」
「わあ、綺麗なとこですね」
「コン」
なぜか一匹鳴いたが気にしなし、
「でしょ、初めて連れて来られた時俺もいい感じで驚きましたもん」
「二メートルのマッチョに引きずられて来た時?」
「…タマモ頼むから思い出させんでくれ」
「ごめん」
忠夫の顔色がそんなに悪かったのタマモは素直に謝った。
「まあとりあえず入りましょう」
気分を一新して扉を開けようと鍵を差し込むが、
「え?開いてる?」
鍵を回すまでもなく、錠はかかってなかった。
「盗人で御座るか?」
「それはないだろこんな高い所に」
「あ、もしかしたら本家の人じゃないですか?」
「まあ、そうだと思うけど、
もしそうだったらどうします?」
令子に伺いを立てるように聞くが、本人は首をすくめて簡単に答える、
「このまま歓迎会にしちゃったら」
「それもそうっすね」
そして扉を開けて目に入ったものは、いろいろな意味で予想外だった。
「鼻緒?」
ここにいる全員の疑問を忠夫が代弁するが衝撃はまだ続く、
「お待ちしていました」
凛とし、丁寧で、透き通った声、それら全てはいつの間にか一行の目の前にいた人物から発せられた。
「私が今回世話になる高島家当主、高島千夜です」
横島の口が開きっぱなしになる、令子たちが呆然と固まる、
「よろしく、お願いします」
「え、ほんとに女?」
その言葉は千夜以外の内心を表していた。
続くかな?
えっと始めまして、氷砂糖といいます、今まで読み専門だったのですが今回一念発起し書かせて頂きました。
無謀にもオリキャラです、
誰もこんなネタでやってないですよね?
前半と後半の落差が、落差が、となってしまいました、
もし面白かったなら何か書き込んでください、
最後に更新は不定期で長くなるかもしれませんが勘弁してください、てか続けれたら良いな……
短いあとがきですがこれにて失礼します、氷砂糖でした。
追伸 壊れ表示は必要でしょうか?
ハッテン様、ご指摘有難う御座います、とりあえず目に付いたところは修正しました、
他にも有りましたらご指摘ください、頑張って修正させていただきます。