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「言尽くしてよ 永く想わば 第五話 前編(GS+??)」

金平糖 (2007-05-14 19:54)
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言尽くしてよ 永く想わば 第五話 前編


 赤兎の朝は早い。
 飼い主である忠夫が毎朝ジョギングに出かける為、忠夫が起きる時間には起きる事になるからだ。


 A.M.4:00


「あ…あぁ……ふぁっ…あんっ!……」

 朝もまだ早い時間に部屋を駆けめぐる、女性の喘ぎ声。
 その声に即応して身体を起こす忠夫。
 文字通り、がばっという音を立てて掛け布団を跳ね上げると枕元の『目覚まし時計』のスイッチを切る。

 小鳥遊が遊びで作った目覚まし時計なのだが、365日違った女性の違った喘ぎ声が流れるという、実に「らしい」一品だ。
 おかげで忠夫の辞書に寝坊という文字はない。
 おまけに忠夫の霊力が半径1m以内に存在しない時は普通の電子音がなるという自己防衛機能付き、まさに無駄に高性能である。
 次なる段階として、立体映像が飛び出す機能をつけるため、その手の企業に融資しているのは小鳥遊の秘密その19である。

 布団の中、忠夫の横で丸くなっていた赤兎も空気が一変した事に反応して目を覚ます。
 くぁぁ…と欠伸をすると、伸びをしていた忠夫の胸にぴょんと飛びついた。

「っと。おはよう、赤兎」

 胸にすりすりと頬を寄せる赤兎の頭を撫でてやる。
 ベッドから足を降ろして胸を張るようにして背骨を鳴らし首を回し、固くなっている身体を解していく。

「暖かくなってきたなぁ。朝起きるのが楽だわ」

 なあ、と赤兎に同意を求めると、くいくいと小刻みに頭を上下させる。

 4月。
 学年も上がり、今年で忠夫と美神は中学3年になる。
 だからといって別段生活パターンが変わる訳ではない、身長が伸び始めて来ているのが嬉しい位だ。

 ジャージ姿に着替え、赤兎を頭の上に乗せたまま洗面所へ。
 忠夫が顔を洗い始めると、赤兎もじゃぶじゃぶと顔を洗い始める。
 自分の顔を適当に拭いた後、赤兎の顔も拭いてやる。

 台所へ。
 10秒チャージを宣伝文句とした手抜き食料を冷蔵庫から取り出し、赤兎用の野菜ボックスから人参を一本取り出す。

 出張の類でもない限り大樹もこの時間には起き出しては来ない為、家の中は静かなものだ。
 シャクシャクと音を立てて人参を頬張る赤兎を乗せたまま、ゴミ箱へ残骸を放り投げ、玄関へ向かう忠夫。
 ここら辺は毎日のパターンと化していて、えらく健康的な生活を送っていた。


 A.M.4:30


「おはようございまーす」

「おはよう、今日も元気ねー」

 近所の川沿い――と言っても自宅から数劼藁イ譴討い襦宗修離献腑ングコース。
 ここを走る為だけに忠夫は早起きをしていた。
 そう、この時間、この場所では陸上部に所属している女子大生が朝練を行っているのだ。
 勿論、この情報を忠夫に授けたのは小鳥遊だ。

「相変わらず赤兎ちゃんを頭の上に乗せてるのねぇ」

「いやいや、最近はもー、ますます何処にでもついてくるようになっちゃいましてねぇ」

――相変わらず羚羊のような脚ですなぁ、げへっ。

 心の声を出さないよう努力しつつ親父のような事を考える忠夫。
 赤兎が頭の上で頬を膨らませていた。ここの女子大生達には余り愛想が良くないのだ。

「じゃ、横島君も頑張ってね」

 女子大生数人から手を振ってもらって嬉しそうに相好を崩しまくる忠夫。
 ぺちぺちと額を叩く赤兎もなんのその、背中では女子大生達がグラウンドでそれぞれの競技の個別練習に入っている。

 きゃあきゃあと黄色い声がどんどん遠ざかっていく。この時点でギアが一気に幻の六速まで切り替わる。
 何故か? Oの字を描くように、川沿いと二本の橋を数周するのが忠夫の日課なのだ。
 つまり、速く走ればその分早く、もう一度女子大生達の生足が見られるというわけ。

 忠夫個人としてはその場に留まってじっくりと見学モードに入りたいのだが、小鳥遊が式神を使って何処からか監視しているらしく、適当な手の抜き方をすると母親にして最強の鬼神、百合子に密告するのだ。
 70のジジイのやることかそれがっ、と言いたいのは山々だが別に小鳥遊は嘘吐く訳でもないしサボったのは事実なので文句も言えず。

 よって真面目にやる事だけはきっちりやる必要があるのだ。
 やる事さえやってれば、途中で覗きしていようが下着ドロしようが別に文句も言わないしご褒美だってくれる、それが小鳥遊のやり方だった。

 長距離走での中学生記録に迫る勢いで川沿いのランニングロードを駆け抜ける忠夫。
 霊力を体力に変換するという基本技も漸く身についてきたらしく、息一つ切らさず走り続ける。

 頭の上の赤兎は先ほどまでは頬を膨らませていたにもかかわらず、今は気持ちよさそうに風を切っている。
 赤兎が喜んでいるのが雰囲気で分かるので、ついついスピードが上がってしまう。勿論、無駄に体力を使い切らぬよう、女子大生との交流に差し障りがでない程度には抑えて、だが。
 なんだかんだ言って赤兎には――というよりは心を許した誰かには、かも知れないが――甘い忠夫であった。

 だが女子大生達と会話するたびに赤兎が不機嫌になったりいじけたりするのに辟易してるとかなんとか。
 気付よバカ、ともし赤兎に人語を喋る力があれば言ったかも知れない。


 A.M.6:40


 たっぷり2時間近く走り、帰宅するやシャワーを浴びる忠夫。
 朝シャンなんぞ趣味ではないのだが汗臭いのを嫌がる母親と兎のくせに風呂やシャワーが大好きな赤兎の為に毎朝シャワーを浴びるのも日課である。

 そしてシャワーを浴び終えて脱衣所で赤兎の濡れた身体を拭いてあげてる頃、百合子が起き出してくる。


 A.M.7:00


 「いただきます×3」

 特別な用事がない限りは毎朝揃って食事するのが横島家のルールである。
 赤兎もテーブルの上に鎮座して、特製のサラダをムシャムシャと美味しそうに頬張っていた。

『次のニュースです。
 昨夜未明、かねてから生物兵器開発の噂のあった、東都大学生物研究所で火災がありました。
 類焼はなく、火は四時間ほどで鎮火しましたが、警察と消防の調べでは放火の疑いが強いとの事です。
 では、今朝の記者会見の模様をご覧下さい』

 場面が切り替わり、日須持桐子(49)という、如何にも神経質で癇癪が強そうな女性が記者達の質問に答えていた。

「生物兵器ねぇ…ろくなもんじゃないな」

「だが噂は事実だぞ。
 というか、事実である事を調べて噂として流してやったんだがな」

 何でもなさそうに、忠夫の独り言に大樹が突っ込む。

「は?」

「うちの会社のろくでもない奴が政府の一部と結託してな、資金だけじゃなく色々とこのおばさんに援助してたんだよ。
 だから潰してやろうと思ってな。はっはっは」

「この火事ってまさかクロサキさんにやらせたんか?」

 クロサキの言いようのない実力を知っている――というか強引に知らされてしまった忠夫としては、彼にとってこれくらいの事は朝飯前だという事が実感出来てしまう。

「ばかねぇ。そんな一発でバレる悪事を誰がするもんですか。
 大体、昨日まで法的手段に訴える為の根回しと証拠固めしてる最中だったのよね?」

 何でもない風に凄い発言をしてから、漬け物をぽりぽりと囓る百合子。
 味噌汁を旨そうに啜りながら、余裕綽々の大樹がそれを継ぐように答える。

「まー、火事を装って証拠隠滅を図ったのかもしれんし。
 今日、会社でクロサキ君達と色々相談するさ」

「怖い世の中やのー」

 卵がけご飯をかっこむ。
 この両親と付き合ってると、世の中の動きの殆ど、両親の知らない事はないんじゃないかという錯覚すら陥る。
 特に母親は普段、家で普通に家事をしているだけな筈なのに…
 それとも男どもが出払っている隙に何かしているんだろうか?
 あまり深く突っ込むと蛇が出てくるやら鬼が出てくるやら分からない。

 よって黙って朝飯を平らげる事に専念する忠夫であった。


 A.M.7:50


 忠夫が通う中学校は自宅からそこまで遠くない。
 まあ、普通の都内の公立中学に通うのだから当然だ。
 2007年の教育事情とは異なり、この当時は学区が決まっており私立に進まない限りは学区ごとに決められた中学に進むのが決まりだった。

「だからな、ペットを学校に連れてけないのっ! 毎日毎日同じ事言わすなっ!」

 さながら仕事に行く父親と泣いてだだをこねる幼児である。
 忠夫の胸に、学ランにへばりついて離れようともしない赤兎。
 ここ数ヶ月というもの、ほぼ毎日これが繰り返されているのだった。

「赤兎ちゃん、良い子だから離れましょうね?」

 百合子の優しい声音、優しい笑顔。
 しかしその圧倒的な圧力に獣の本能が身を竦ませてしまう。
 力が緩んだ隙に百合子と赤兎から距離を取ると背中を向け、いってくるぁと声を上げて出かけていった。

「はいはい、三時頃帰ってくるから大人しくしてましょーね」

 涙すら流す赤兎を抱きかかえてあやしながら台所に戻る百合子。
 大樹? とっくに仕事に出かけましたとさ。


 A.M.10:30


 横島の布団でふて寝していた赤兎がもそもそと起き出してくる。
 これも赤兎の日課だ。
 睡眠不足にはならない赤兎である。
 ぴょんっとベッドから飛び降りると、居間へ移動する。

 この時間は百合子が洗濯物やら掃除やらと家事に勤しんでいる時間の為、邪魔をしてはならないのだ。
 よって、静かにテレビを観る時間である。
 器用にリモコンを踏みつけて電源を入れると、教育テレビを見始める。
 赤兎はノ○ポさんのファンだった。


 A.M.11:00


 で○るかなを見終わった赤兎が次に行う日課は縄張りの確認である。
 兎は警戒心が強く単独行動を好み縄張り意識が強いのが普通、なのだが赤兎は余り兎の本能が強くは出ていない。
 そもそも兎は生殖欲旺盛で、西洋では誘惑のシンボルでもある。
 基本的に多産で、だからこそ戦時中などは「食用」として基地内で飼育されていたりしたのだが。
 それは兎も角、赤兎は余り生殖欲もないらしく、つがいを求める事もなかった。

 ぴょんっと跳ねると、そこは庭先だ。
 百合子が丹誠こめて手をかけただけあって、なかなかの景観であるそこを赤兎が跳ねたり歩いたりしながら見て回る。

 たまに野良猫が入り込んでいる事もあるが、赤兎はそんじょそこらの兎とは格が違う。
 半ば妖怪化しているだけあって、一睨みでそのような不埒者は追い出してしまうのだ。
 よって横島家の庭先はいつも平和である。

 いつも通り庭を見回っている赤兎が、足を止めた。
 そこは赤兎が育てているミニキャロットの花壇だ。
 小さい子供用の如雨露に水を入れて、楽しそうに水を撒く赤兎。まだ発芽すらしていないが、百合子の指導通りに丁寧に世話をしている。

 如雨露を片付けて、見回りの続きを開始する赤兎。

 どさっ!

 ぴょんぴょん跳ねてとてとて歩いて、風呂場の裏側、所謂裏庭に差し掛かると見かけないモノが落ちてきた。
 鼠である。
 薄汚れた鼠が地面に横たわっていた。おそらくは塀の上から落ちてきたのだろう。

 元来が草食のウサギ目ウサギ科の赤兎だ、肉を喰う趣味はない。
 よって薄ら汚れてる鼠を見ても食欲なぞわかないし、猫のように玩具にする趣味もない。

 百合子が使っている園芸用ハサミを両手で持って、ツンツン、と先っぽでつついて反応を確かめる。直接触るのは嫌らしい、きれい好きの赤兎ならではだ。

「う…うぅ…」

 呻き声を上げる鼠。まだ生きてるらしい。
 見た感じでは擦り傷は結構あるが、致命傷になりそうな傷は見あたらない。

 さて、どうしよう? 赤兎は考える。

 自分が肉食なら食べて終わりだ。弱肉強食はこの世の真理。
 しかし自分は草食主義者であるからして食べるという選択肢はない。
 死んでいるなら埋めてあげれば良い。
 霊が迷い出るようなら忠夫に頼んで成仏させてもらえばよいし。
 しかし生きているのだ、しかも中途半端に。
 百合子に頼んで治療でもしてもらおうか?
 しかし鼠は愛らしい兎と違って基本的には害獣だという事を自分は知っている。
 人間は敵にすら手をさしのべる奇特な種だが、こんなバッチィのを助けようとするだろうか?
 助けてあげたいが自分では無理だ。

 ハサミを放り出して腕を組み、黙考していた赤兎が顔を上げた。
 先ほどのミニキャロットの花壇まで戻り、如雨露に水を入れて、鼠のところへ戻って来た。

 じょー

 鼠に水を掛け始める赤兎。
 どうやら綺麗に洗ってから百合子に見せれば助けてもらえると考えたらしい。

「う…ん……あ、雨…か?」

 赤兎が首を傾げた。
 今、聞き慣れない声で人語がどこからか聞こえて来たのだ。
 キョロキョロと辺りを見回すが、別に誰もいない。

「どうしたの? 赤兎ちゃん、こんな所で」

 がらっと窓を開けて顔を覗かせたのは、お風呂掃除に来た百合子だ。
 ちょうど如雨露の水が切れたのか、水を掛けるのを辞めて如雨露を脇に置き、若干綺麗になった鼠を両手で持ち上げて百合子に見せる。

「鼠? 鼠の死体に水をかけてたの?」

 それは余りぞっとしない考えだったのだろう、少し顔を歪めていた。
 その問いに赤兎はふるふると顔を横に振り、ぺしぺしと鼠の顔を叩く。呻き声を上げ、生きてはいる事を示す鼠。

「…ふむ?」

 瞳を見れば大概の感情は読める。これはどの種であれ動物なら当たり前の技能だろう。
 まして家族として十年過ごした赤兎の感情を読めない百合子ではない。

「とりあえず、居間に連れてらっしゃい。
 簡単な治療くらいしてあげるから」

 嬉しそうに頷き玄関の方へ歩いていく赤兎を、微笑ましそうに見遣ってからお風呂掃除の道具を脇に寄せ、自分も居間へ向かう百合子だった。


 A.M.11:30


「ぎゃぁぁぁ!!? しっ! しみっ!? しみるぅっ!?」

「鼠が…喋った?」

 驚いて背中に隠れる赤兎と違い、手に脱脂綿を挟んだピンセットを持ったまま、飛び上がり叫んだ鼠を観察する百合子。

「貴方、ただの鼠じゃないのね?」

 息子が霊能力に目覚めてからというもの不思議体験が増え続けた。
 そのおかげもあって、百合子は殆ど動じていなかった。

「くぅぅぅ……いてぇぇ……は、腹減った…」

 痛みで意識が戻ってきたら、今度は意識を失う原因となった空腹を思い出したのだろう。
 テーブルの上に着地したと同時に、ぺたりと突っ伏してしまった。


 A.M.11:45


「げぷぅ。助かったぜー」

「で、貴方は何処の誰でどうしてうちの庭先にいたのかしら?」

 大樹の酒の供に買い置きしてある乾物のつまみを一皿分平らげると漸く一息吐いたと寛ぐ鼠。
 そもそも鼠は常に何かを食べていないと十数時間で餓死する上に、その食事量は体重の三分の一という、えらく燃費の悪い生物なのだ。

 そんな鼠を前に冷静にモノを尋ねる百合子の肝は、流石に据わりまくっていた。

「俺はムラマサ。
 東都大学生物研究所の実験体で、人間並の知能と五感を与えられたスーパーマウスって奴だな」

 鼠は極端に視力が弱く、髭による触覚と嗅覚で大概の物事を判断する。
 が、確かにムラマサは百合子と視線を合わせて、人間くさい行動を取りながら喋っていた。

「耳の早い人間達ならもう知ってるだろうが、今朝方の火事は俺が起こした。
 ご近所の皆様にゃあ迷惑だったろうが、こっちも必死だったんでな。なんせ解剖される寸前だったんだ」

「…言う事聞かない実験体はバラして原因究明ってトコかしら?」

 ムラマサの言葉から、東都大学生物研究所で起こった殆ど全ての事柄を予測しきる百合子。この理解力と推理力こそ、紅百合の名声の原動力だろう。
 赤兎は喋る鼠が珍しいのか怖いのか、百合子の背中に隠れるようにして顔だけ覗かせてムラマサを観察していた。

「だろうな。
 なんせ俺は俺たちが造られた理由を知っちまったし、忠誠心が元から足らなかったしな。まー、日須持の奴らだって最初に造った実験体が完璧に造れたなんて思ってなかったろうが」

「貴方が最初の?」

「ああ、頭の中弄くり回された挙げ句、ほれ、ここの頭の三角形」

 と、自分の額を指さし、

「こいつぁバイオコンピューターの一種らしい。
 ここが俺達に人間並の知能を与えてるって訳だ。
 他にも生殖欲なんかも極端に抑えてるらしいぜ。ま、兵器が無駄に子供増やしても意味ないってトコなんだろうが、俺にしてみれば都合が良いぜ。なんせタダの鼠どもは喰う、寝る、増やす、しか考えられねぇみてぇだしなぁ」

「ふむ……」

 嘘を疑う余地はない。
 現実に喋っている鼠がいる以上、他にも喋れる上にそれなりの知能を持たされた動物が何匹かいたとしても不思議ではない。

「とりあえず、電話するから大人しくしてて頂戴」

「命の恩人の言う事は聞かないとな。
 だがチクるのは困るぜ?」

「安心しなさい。あんたを造った連中はあたしの旦那の敵だから」

 そう、思わぬ所で思いもかけぬ幸運が舞い降りてきたのだ。
 この生きた証拠さえあれば、政府に楔を打ち込む事も出来よう。
 まさにしてやったり、だ。ほくそ笑みながらテーブルの上の電話を取り番号を押す。
 相手は勿論、自分が育てた最強のサラリーマン、横島大樹その人だ。

「もしもし、村枝商事? 営業部の横島をお願いします」


 P.M.0:30


「ふむ。
 日須持教授の元には、ムラマサ君が記憶している限りで、
 鴉のヨシカネ、蛇のヨシミツ、犬のコテツ、梟のクニカネ、鷹のヨシユキ、隼のマサムネ、猫のノリムネ
 がいる、と。
 これで全部かね?」

 こんな時間に早引けしてきたのか、大樹とクロサキがホワイトボードにムラマサが上げていった名前を書き込んでいく。

 赤兎は、といえば大樹の頭の上で事の推移を見守っていた。

「ああ、覚えてる限りじゃそれで全部だ。
 火をつける時にどさくさで何匹か逃げ出したかも知れねーがそこまではなぁ」

 生物兵器としてそれらの、ムラマサの仲間達が造られた事は本人――本鼠の証言で明らかになった。
 確かに鼠にカプセル一つ持たせて敵国でウィルスをばらまいたり、隼や鷹にミサイルくくりつけて飛ばせば現在の大陸間弾道ミサイルよりレーダーに掛からない分強力かも知れない。
 蛇はどんな所からでも潜り込んでその牙と毒で暗殺出来るだろう。
 鴉や猫は世界の何処にいても疑われる事のないスパイとして活躍するだろうし、犬の有用性に関しては警察犬で証明済みだ。

「部長、集めた情報によりますと、日須持教授は大学の審問会は過激派の仕業という事で誤魔化し切ったようですが、政府は援助の打ち切りを決定。
 大学側も恐らく適当な理由をつけて処分するでしょう。
 データやムラマサ君の仲間達がどうなっているかは調査中ですが、これから先、日須持教授が同様の実験を繰り返せる施設は限られています。
 今、日須持教授の自宅を捜査すれば、ムラマサ君達の仲間は確実に発見出来るかと。
 その上、外国企業を別とすれば、日須持教授のような傷物を雇う企業はまず簡単に特定する事が可能でしょう」

 そもそも日本では軍需産業は滅多に目立つ事はない。
 憲法で軍隊を持たないと言い切ってる事もあるが、アメリカなどのように国民が銃を気軽に買えるというお国柄ではないというのも一因だろう。

「政府が援助を打ち切ったとなると、政府に対して何処まで突っ込めるか…
 まあそれは良いとして。
 それだけの実験体達をどう処分するかが問題だな…」

 処分したように見せかけて手元においておき、企業か国かは別として技術の売り込みの際に使うのは目に見えている。

「ムラマサ、日須持教授は貴方の事探すかしら?」

「探すんじゃねーか? メンツもあるだろうし。
 あいつぁ執念深いからな。話を聞いた限りじゃ、俺が逃げ出したせいでロクな目に遭ってないんだろ? 何がなんでも仕返しに来ると思うぜ」

「うちの開発部のロクデナシ共はどうしてる?」

「は。表面上は何の問題もないように振る舞っていますが、内実は戦々恐々かと。
 政府が援助を打ち切った事により、開発部の一部も援助を打ち切るしかなく、それを恨みに思った日須持教授がどのような手に出るか、報復手段に訴えるんじゃないかと怯えている事は間違いないでしょう。
 調査記録からはじき出された性格も、ムラマサ君の話を裏付けています」

 蛇のヨシミツに24時間狙われるだけで大概の人間の人生はそこで終わる。
 或いは空爆されれば殆どの人間に対抗手段はないのだ。

「ふむ……百合子、お茶のお代わりをくれるか?」

「はいはい」

「部長、いかが致しましょう?」

 百合子が注いでくれたお茶を一口すする大樹。
 それを待ってから、今後の方針を要求するクロサキ。

「そーだなぁ…政府に絡むのは今回はパスだな。どうせトカゲの尻尾切りが関の山だろ。
 日須持教授からうちの開発部のボケ共が何されようと、俺の知ったこっちゃないしな。
 …それよりムラマサ君は今後どうするつもりかな?」

 そう、この鼠は少なくとも目の届く範囲においておかねばならないのだ。
 こんなモノを量産されては困るし、この技術が下手なトコに流れでもして、もしうちの開発部が関わった事がバレたらロクなモンではない。

「暫く匿ってくれねーか?
 代わりに俺がお前達を守ってやるよ」

「ぷっ…」

 吹き出したのは百合子だ。それはそうだろう。
 いくら知能が人並みで人語を喋る事が出来るとは言え、鼠如きが天下の横島家を守る、などとのたまったのだから。
 大樹もお茶を吹き出しそうになるのを堪えていた。表情も変えないで黙っているのはクロサキだけだ。

「笑ったな!? 俺は他人にネズミ扱いされるのが一番嫌いなんだ!」

「そ、そーね。うちで良かったら一緒に住んでくれるかしら?
 うちのバカ息子のお目付役にでも、ね?」

 笑いを堪えながら、ムラマサの提案を受け入れる百合子。
 まるっきり子供が無理して大人ぶってる雰囲気に笑いが止まらないのだ。
 と、大樹の頭の上にいた赤兎が、隣に座っていた百合子の胸に飛び込む。

「あら? どうかして? 赤兎ちゃん」

 うるうると赤い瞳で百合子を見上げる。

「ああ、お礼なんていいのよ。
 赤兎ちゃんが先輩なんだから、色々教えてあげなさいね?」

 こくこく、小さく頷く。

「けっ、たかが兎に何を教えてもら――」

 うんだ、とは言い切れなかった。

 死。

 生物研究所から逃げ出した時すら考えなかった単語が、今ムラマサの脳裏を支配していた。
 三人の人間が発する殺気――いや、もはや鬼気と称した方が正しいソレに獣の本能が服従を要求し――

「生意気言ってホントすんません」

 ――気付いたら土下座をしていた、生まれて初めて誠心誠意というものを篭めて。


 P.M.0:50


 当座の行動指針を確定させてから、仕事に戻った大樹とクロサキ。
 クロサキの携帯に兎のプリクラが見えたのは、ムラマサの見間違いだったんだろう、多分。だってあの男に兎は似合わないし。

「と、いう訳でだ。これからよろしく頼むぜ。
 この家で居候する以上、お前さんともうまくやっていきてぇからな」

 と、手をさしのべるムラマサ。
 赤兎も嬉しそうにその手を握った。
 ぐにゅっと。

「いてぇぇぇぇぇっ!?」

 そう、赤兎の身体能力は兎のソレではないのだ。
 その事をムラマサが完全に思い知るのはそう遠くはない。
 そして横島家で一番の権力者が誰かという事を、誰が一番我が儘を言えるのかという事を学んだ時、初めて横島家の一員となれるのだ。


 後書き

 またもや前後編…
 なんかキリの良いトコだったのでここで切りましたが、一話に纏めようとすると倍以上の長さになる事請け合いだったので…
 それにしても…実質の執筆時間は二日…
 前回と比べるとなんだったんだという速さ……(´・ω・`)前回手を抜いた訳ではないですよ?
 赤兎の事書いてるだけでキーボードを叩く音が止まないって言うんだから…もはや愛でしょうか?(黙
 美智恵さんが書きづらかったってだけかも知れませんがっ(・∀・ゞ

 それにしてもようやくムラマサを出せた…このSS書き初めてから登場させようと考えてたので嬉しいですね(・∀・)
 横島君の式神候補です。赤兎と一緒にアシュタロス戦まで頑張ってもらいます。
 勿論、この段階では生意気な口きくタダの鼠ですが。

 ここに来るような方は皆様ご存じだとは思いますが、ムラマサや日須持は(有)椎名百貨店1巻に掲載されている読み切り漫画「ポケットナイト1〜3」の主人公です。
 これも一種のクロスなんでしょうけど、絶対可憐よりはよほど絡ませやすい感じですね、当然ですが。
 クロス嫌いな方には申し訳ありませんとしか(´・ω・`)

 では以下個別レス。
 皆様ホント感想感謝感激です。


1.たかさん

 いえいえー、感想は兎も角、読んでくださるだけでも嬉しいですから。

 中だるみは怖かったんですがしてないですか、ありがとうございます。
 僕より上手い人なんていっぱいいるでしょうけど、褒められると嬉しいものです。
 もっと頑張ります(`・ω・´)

 美形が相手なら光速を越えた速さで額を打ち抜く事でしょう。
 ワイアット・アープが美形かどうかは知りませんが(´ー`)┌ 某ロン毛の射撃には負けない筈w

 今回も楽しんで頂けていたら幸いです(・∀・)


2.DOMさん

 相変わらずの横島です。
 こう、煩悩がない横島はもう別人ですからね。
 これからもきっと横島ですヽ(´ー`)ノ
 美神さんと結ばれる日が来てもきっと横島ですヽ(´ー`)ノ

3.万々。さん

 丁寧に書く位しか能がないですから(´Д⊂
 勢いのあるギャグは難しいですね…僕のギャグで笑ってくれる人がいるだけでも嬉しい事ですけど。

 某ロン毛とは…どうでしょうね? 美神さんとの仲はもはや割って入れない程深まるのは間違いないでしょうけど、前世での高島vs西郷の記憶がありますからねぇ。
 そこら辺もきっちり書きますので楽しみにしててくださいw

 強さのバランスは大事です。
 最強モノじゃないんですからね。あくまでも原作準拠です、はい。
 性格とかはコンセプト上、多少違ってきますけどね〜

 今回も楽しんで頂けてたら嬉しいです(・∀・)

4.枯鉄さん

 お待たせしました(´Д⊂申し訳ない。

 僕が考える横島の師匠の理想像、それが小鳥遊薫ですヽ(´ー`)ノ

 女性GS名鑑…そう、それは小鳥遊が作った神秘…
 という程でもありませんが( ´ー`)y-~~
 きっと色んなタイプの女性が載ってるに違い有りません。
 僕も欲しいです(黙

 美神さんは意地っ張りな部分を刺激してみましたがどうでしたかね。
 14歳って難しいです(´・ω・`)
 キャラ相関は結構変わります。横島×美神は基本ですけどね。
 楽しみにしていてください。

5.内海一弘さん

 誰もがうらやむ秘宝、それがGS女性名鑑ですヽ(´ー`)ノ
 きっとGS試験に合格したら横島の手に渡るのです(今考えました

 神父は登場しませんでした(´ー`)┌ 次は出るかも知れません。
 予定は未定です、有る程度のプロットは書いてありますけど、基本的には書いてる時の勢いが大事ですから。

 そして、師匠なんだから弟子を誘導するのは有る意味で当然ですから。
 決して悪いようにはしません。そこは保証します。
 理不尽な目に遭うSSは僕も読みたくありませんから。

6.冬8さん

 大人気ですね、女性GS名鑑w
 そう、有る意味でコスプレ名鑑である事は間違いないのですw
 横島君はこのためにも頑張らねばw

 そして美智恵さんはS級なんですから…ランク外(また無免)の横島君とは比べものになりません、はい。
 年上属性が基本の横島君にとってみればかなり理想の女性像なのではないでしょうか。
 五寸釘は色々応用が効きそうですからねぇ。まあ五寸釘以外にも、色々と(・∀・)b

 今回は赤兎たっぷりでしたがいかがでしたか?w

 神父は次回です、もしくは次々回ですw

7.yujuさん

 お待たせしました(´Д⊂申し訳ないです。

 横島君にとっては勉強になったんですけどね〜
 依頼主に騙す気がなくても、結果依頼書と現場が相違する事もある、という。
 美神さんはこれからですね、神父に頑張ってもらいましょう。

 原作の美神さんの金銭欲は、唐巣神父の無欲が度を過ぎていたからだと思うんですよね。
 頼るモノが何もないトコでお金もないって言う現実が、過度の金銭欲と顕示欲の助長となったのではないかと。

 GS女性名鑑、ホント大人気ですね、いえ、僕も欲しいですけどw

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