―第十九話 裏で何を考えるか ―
妙神山の母屋の居間には、斉天大聖こと、猿神がヒャクメと共に熱いお茶を正座して飲んでいた。
「ふむ、来たか・・・」
「老師、横島さんをお通し致しました」
猿神がそう呟くと、襖が開かれ、小竜姫共々横島達が入ってきた。
小竜姫は正座でそう言う。横島とワルキューレは取りあえず畳の上に腰掛ける。
パピリオは小竜姫立ち上がった小竜姫共々台所へ向かった。
「お久しぶりです。斉天大聖様」
「・・・・・・お久しぶりです。斉天大聖様・・・で良いのか?」
ワルキューレが挨拶すると、横島もワルキューレの言い方を真似した。
自分で微妙と感じているのだろう。
少し不安気な表情で3人を見渡すように見る。
居間に、微妙で沈黙な時が訪れた。
「・・・・・・ぷっ、あはははははははははははははっ!
横島さん傑作なのね~!
老師の事を様付けで呼ぶなんてっ!お腹がよじれるのね~!」
沈黙は我慢の限界を超えたヒャクメの笑い声により振り払われた。
畳の上を転がりながら、腹を押さえ、涙を浮かべる程爆笑している。
ヒャクメの様子気にしない人は普通いないだろう。
横島は少し笑われるのは覚悟していたが、ここまで笑われるのは別だ。
横島右手に霊力を溜め、サイキックソーサーを生み出す。
(?なんか変、だぞ?・・・まあいい。今はヒャクメを黙らせるのが先だ)
「はははははっ ドゴッ! げふっ!?」
横島はその時体に違和感を感じたが、それよりヒャクメを 黙らせる事を優先した。
蒼い霊気で構成されている六角形の塊は、主の意思通りその角をヒャクメの腹に直撃する。
ハンマーで砂袋を殴った様な鈍い音がし、女性が出してはいけない声を出す。
居間に再び沈黙が下りた。
死んだか?と思われるヒャクメは、ピクピクと痙攣している為まだ生きてはいる様だ。
「・・・小僧、普段使うような口調でワシの事を老師と呼べ」
「・・・・・・そっちの方が自然だよな」
猿神の疲れが込められた一言に、横島は次からそう言う事にした。
横島が言った時、ワルキューレも頷いていたりする。
それ程彼等にとって、横島が敬語を使い、猿神を様付けで呼ぶ事は違和感だらけだった様だ。
「ヨコチマ~お茶を持って来たでちゅよ~」
「おっ!ありがとな」
「えへへ」
そんな時お茶を運んできた小竜姫とパピリオ。
パピリオはお茶をお盆に乗せ、笑顔で横島にお茶を出す。横島はそんパピリオ頭を優し撫でる。
頭を撫でる事が習慣みたいになりかけている様だ。
撫でられたパピリオは先程と同じように顔をほんのりと桜色に染め、笑う。
「・・・淹れたのは私ですけどね」
「分かっています。拗ねないで下さいよ小竜姫様」
「拗ねてなんかいません!」
微妙に拗ねた小竜姫はボソッと呟いいた。
小竜姫の呟きは横島の耳に入った様で、苦笑いで小竜姫にそう言う。
図星を突かれた小竜姫は強い口調でそう返す。恥ずかしさからか、顔を赤くしている。
「ところで、どうしてこんな所で寝ているんですか?ヒャクメ?」
「し、死に掛けている友達にかける言葉じゃないのね~・・・」
落ち着いた小竜姫は、仰向けで痙攣しているヒャクメにそう言った。痙攣を起こしている事には目を瞑って。
そんな理不尽は対応に意識を取り戻したヒャクメだったが、ダメージは大きい様だ。
「さて、ヒャクメも起きたようじゃし・・・小僧。
体の方はどうじゃ?ここへ来とるという事はだいぶ良くなったようじゃが?」
「一応な。だが、さっき霊力を使った時に違和感を感じたんだよ」
「ふむ・・・」
猿神の問いに答える横島。
横島の答えに猿神はお茶を啜りながら目を細め横島を見る。
「ん?魔界で文珠を使ったが・・・違和感は無かったのか?」
「無かったんだが・・・霊力や魔力をある程度まで使っていないからじゃないのか?
文珠を出したり使ったりするのに使う霊力は1個じゃあ無意識に垂れ流している分で十分だからな」
ワルキューレは横島が魔界で文珠を使った時の前後の事を思い出し、
少し顔を赤く染めながらもそう問う。横島は自己分析を自身無さ気にそう答える。
横島の一言を聞いた猿神は眉間に皺を寄せ、渋い顔をした。
「ヒャクメよ。霊視じゃ」
「分かったのね~」
渋い顔をする猿神に猿神とヒャクメを除く4人は不思議に感じ、首を捻る。
ヒャクメは猿神に言われた通り霊視を始めた。
「むぅ?んん?」
「・・・何か分かったのか?」
「ちょっと待つのね~」
目を擦り、妙な声と共に見直すヒャクメに微妙に不安になる横島。
ヒャクメは今は聞かず、珍しく真面目に仕事をする様だ。
「結論から言うと、横島さんの霊力・・・まあ魔力でも良いのね。
とにかく、力を出せない状況にあるみたいなのね~」
「・・・どういう事だ?」
ヒャクメの答えに横島の目は鋭くなり、声も自然と低くなる。
横島は今足止めを食うワケにはいかないのだ。
アスタロトとの決戦までやる事は、あまりにも多すぎる。時間が少ない程に。
(ほう・・・コレがあの小僧か。なかなか良い顔をしておる)
「横島さん。自分の体がボロボロなのは自覚あるのね?」
「まあな」
猿神は横島の心に修羅を飼っている事を感じ、印象を修正する。
横島はヒャクメの問いを肯定した。ヒャクメは横島が肯定すると、お茶を一口飲み、説明を続ける。
「それが原因なのね。横島さんの“ボロボロ”な状態での魔族化の進行・・・
その変化に体は崩壊寸前。自己防衛本能が働いて、ある一定以上の力を出ない様にしたのね~」
「「「っ!!?」」」
冷静に言ったヒャクメの一言に小竜姫、ワルキューレ、パピリオの3人は息を呑んだ。
ヒャクメの言った一言は正に衝撃の一言だった。
小竜姫とワルキューレは知っていたが、横島は死んでいても可笑しくない状態だったという事だったのだ。
知っていた二人でさえこの反応だ。知らなかったパピリオは驚愕と恐怖で固まってしまった。
パピリオが理解したのは、自分にとって暖かい、
自分の頭を撫でてくれる横島の手を失う所だったという事のみだった。
パピリオの頭に、
ルシオラの顔が浮かび、その顔が横島に変わるとガラスの様に割れ、消えるイメージが浮かぶ。
「・・・それなら無理に使う事は出来るな」
「「「!?何て事を言うですか(んだ)(んでちゅか)!?」」」
ヒャクメの言った事に横島自分の事なのに他人事の様にそう言う。
命を縮める事に戸惑いを感じないとの事なのだろうか。
体が勝手にかけたリミッターならば、無理矢理外す事は可能だ。
それは、緊急時の火事場の馬鹿力と呼ばれる。
命の危険に、筋肉にかけたリミッターを外し、筋肉の限界までの力を発揮する事だ。
その一言に反応した小竜姫、ワルキューレ、パピリオの3人。もの凄い剣幕で横島に詰め寄る。
「どうして!どうしてでちゅか!?ヨコチマは死にたいんでちゅか!?
嫌でちゅ!!!
ヨコチマがルシオラちゃんみたいにいなくなってしまうのは嫌でちゅ!!!
うわぁ~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」
パピリオはそう言うと泣きながら横島の胸に飛び込む。
横島は反射的に受け止め、自分の胸で大泣きするパピリオを見る。
そして気付いた。自分がパピリオの心の傷を大きく抉った事に。
横島はゆっくりと、優しく背を撫でた。
「ヒック、ヒック・・・ヨコチマ~・・・・・・」
「ごめんな?パピリオ」
「いなくなっちゃ嫌でちゅ・・・」
「安心しろ。無理はするけどいなくならない」
「約束でちゅ・・・」
苦笑い気味に落ち着かせる様に横島は言った。パピリオは横島の胸に蹲り、静かになる。
「パピリオ?」
「すぅ・・・すぅ・・・・・・」
「寝ちまったのか・・・はぁ・・・・・・」
背を撫でるのを止め、横島がパピリオの名を呼ぶと返って来たのは静かな寝息だった。
横島はそのままの状態で小さな溜め息をする。
「横島さん。もうそんな死に急ぐ様な事は言わないで下さい」
「そうだぞ横島。おまえが死んだら悲しむ奴が沢山いる。勿論私も悲しむ」
「少し周りの気持ちを考えるのね~」
「小竜姫様、ワルキューレ、ヒャクメ・・・・・・すまん・・・・・・・・・」
3人の言い分に横島は3人の名前を呼び、ただ謝った。猿神はそんな様子を暖かく見守るだけだ。
神魔の壁は彼等には存在しない。
種族の壁なぞ、彼等は気のもしない。
平和・・・その言葉意味そのものと言って良い程暖かい空間だった。
「話を戻すけど・・・
横島さんは無理に使えない様になっている力は使えないのね~」
「・・・死んじまったら、こんな俺の為に悲しんでくれるんだろ?無理はするが、そう使いはしないよ。
(もっとも、皆に危害が及ぶなら話は別だがな)」
ヒャクメはそう言い、話を続ける。横島はヒャクメの話をパピリオを抱いたまま聞く。
ヒャクメの一言に内心そんな事を思いながら、疲れた表情でそう言う。
心を読めるヒャクメは一瞬渋い顔をしたが、すぐに元の表情になる。
「恐らく魔界最高指導者のモノだと思うけど、一種のリミッターの様な封印術式をかけれているのね~
魂を包み込む様な術式だから、体が崩壊するまでの力を出せる様工夫されているのね~
ついでに、魔族化の進行を遅らせる効果や、完全に魔族化しない効果も有るから、
まあ簡単に言えば、人間の限界を少し超えた人間。超人か魔人になるのね~
横島さんの場合は魔人なのね~
ただ、その副作用で特殊な霊力の収束、つまり、文珠の精製が出来なくなっているのね~」
「まったく、呼び出した時に言えよな・・・・・・
(しかし、更に状況が悪くなった。唯でさえ力不足、時間不足・・・その上文珠が作れない。か・・・
文珠は残り20前後・・・どうする?)
口では疲れた様にそう言うが、説明を聞いた横島は考える。
唯でさえ小さい方だったアスタロトを倒す為の可能性等が余計に小さくなってしまった。
残りの文珠の残量を考えて、かなり厳しい状況にある。
(アイツはあと一年で完全に魔族化するって言った。それは術式を受けていなかったらの場合か?
もしそうなら話は変わってくるな。
例えそうでなくても、サッちゃんのかけたリミッターの効果で完全には魔族化しない。
それなら、なんであのときあんな事を?
それとも・・・今俺に魔族化されたら困る事でも有るのか?)
「横島、どうしたんだ?」
横島は黙り込み、思考を働かせる。一見、サッちゃんの行動は矛盾が多い。
現在分かっている事で、簡単な予測をたてようとする横島だが、情報が少なすぎる。
結局は分からない。
ちなみにアシュタロスをアイツと心で言い換えたのは、覗き神族がいる為だったりする。
黙りこんだ横島に、ワルキューレは心配そうに声をかけた。
横島は気付いていないが、苦虫を噛んだ様な表情をしていた様だ。
「(とにかく戦闘スタイルの変更をして、力を手に入れないとまた失う。
それに、強くならないと決戦までに、奴等に消されるかもしれないからな)
ああ。何やるかを考えていたんだよ」
「それで、そんなに厳しい顔をしていたのか?」
「・・・俺はどんな顔をしていたんだ?
まあとにかく、ヒャクメを話を聞いて、文珠が作れない憶える事がかなり多いと思ってな」
横島はワルキューレの問いに、考えを纏めるとそう返す。
この時、横島が何を考えているのか、猿神と小竜姫、ワルキューレは勘付いていた。
ただ、ヒャクメはお茶を飲みながら考える。
(横島さんは“何か”を隠しているのね~)
「・・・そうゆう事で、老師。修行をお願いしたい」
ヒャクメは横島の心を読み、そう思う。
横島はしっかりと猿神を見据え、自らの用件を言った。
―後書き―
タイトルと内容のあまりのミスマッチさに、タイトルの変更を考えているアイクです。
『魔神の後継者』に変えようと思っているんですが、
他に良い案は有りますか?有ったらお手数ですがお願いします。
タイトル変更は既に決定事項で、
結果的にどうするかは考慮の後次回投稿でハッキリとタイトルを変更して表します。
別の案が無い場合は
~闇に染まる 改め『魔神の後継者』~
というタイトルになります。
因みに、話数は二十話から、弄らないでいきます。
それにしても・・・なかなか進まない。そして、久々のシリアス。
さらに、横島に猿神をどう呼ばせるかで結構迷いました。
男はやっぱり美(少)女の涙に弱いもんなんです。
~レス返し~
・アミーゴ様
うっかり屋さんな小竜姫様はいいモンです。
普段の凛々しさとのギャップが良いんだと私は思います。
小竜姫様はドSかどうか・・・それは作者の私でも分かりません。
自信を持って断言する事じゃあないんですがね。
・DOM様
香典は最低いくらからでしたっけ?
まあとにかく、鬼門の出番は・・・コレが最後になるかもしれません。
パピは・・・どうなるでしょう?(ニヤリ)
・February様
その通り!エロい人は貧にゅ・・・失礼。スレンダー体型の素晴しさが分からんのです!
鬼門はこんな理由で死んだら、死んでも死にきれません。
・趙孤某様
最初の方はダーク(?)一直線で、更にかなりのヘタクソでしたから、
そうなっても仕方が無いと思います。
趙孤某さんも、執筆を頑張って下さい。お互い頑張りましょう!
・内海一弘様
パピリオも少しは成長したという事です。大人二人は感情的になりすぎたという事にして下さい。
可愛い小竜姫様は良いですよね~
実を言うと、その可愛さを上手く表現出来たかはあまり自信が無かったんです。