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▽レス始

「がんばれ、横島君!! うらめんの4(GS)」

灯月 (2007-04-22 01:13/2007-05-20 23:05)
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ちゅんちゅん。ちちちちちち……。
高い山。それでも鳥はいる。鳴き声は響く。
陽の光。そよぐ風。流れたなびく雲。
穏やかで平和な日々。
当たり前の日常こそが尊いのだと、師も言っていた。

「ふぅ、お茶が美味しいですね。
……うっかりここを壊滅させたときはどうなる事かと思いましたが」

全て元通りになってよかった。
縁側でお茶をすすりながら、思い出したくない過去にくぅっと溢れそうな涙。
あの時は本当に大変でした。
新作ゲームの買い付けで老師がいなかったのがせめてもの救い。
そんな風に私――妙神山が管理人小竜姫が平和を満喫している、その五分後。
血相を変えた友人が飛び込んできたのでした。


がんばれ、横島君!! うらめん〜負けるな僕らの小竜姫!〜


私の発した言葉。
目の前にいる二人の人間が眉をひそめた。
一人。前髪がやや…ちょっと気の毒な事になっている唐巣神父。
彼はまさか!?と、信じがたい事実に対する驚愕に。
一人。亜麻色の髪の露出の激しい服の美神さん。
彼女はさも面倒だと言わんばかりに。
彼らは人間界でも屈指のゴーストスイーパー。
今回私が協力を要請した方たち。
友人ヒャクメからもたらされた情報。
それはどこかの魔族が人間と手を組み、自分の息のかかったゴーストスイーパーを業界に潜り込ませようとするもの。

「それが本当だとしたら、少し厄介よね」

「うむ。そんな事になれば、我々の内情は筒抜け。魔族にとって邪魔になるゴーストスイーパーは真っ先に消されるだろうね」

真剣な表情で頷く唐巣さん。
その通りです。
それに彼らゴーストスイーパーと我ら神族は古くからつながりを持っています。
神族の中には特定のゴーストスイーパーの一族と契約を結び、代々力を与えているものもいます。
妙神山のように神族とこの地上を結ぶ神聖な場所の管理を、人間に任せている場合も多々ありますし。
魔族がゴーストスイーパーと手を組むと、そういったつながりは全て絶たれるでしょう。
そうなれば…最悪地上は魔界そのものと化します!
魔界なんてきっとじったりしててやな感じで、くさい・汚い・気持ち悪いの3Kに違いありません!!
あああ、恐ろしい!!
想像して頭を抱えた私の前、ことりとお茶が置かれました。

「小竜姫様、大丈夫ですか? 顔色が悪いみたいですけど」

「あ、平気です。なんでもありません。少し考え事を…」

「そうですか、何かあったら言ってくださいね」

幽霊のおキヌちゃん。いい子です。
ずずっとお茶をすすりながら。話し合いは深夜まで続きました。

話し合いの結果。
唐巣さんは試験に潜入。それとなく怪しい受験者たちに目を光らせると。
美神さんは私とともに、魔族と手を組んだであろう人間がいた研修先を洗う。
唐巣さんが潜入役なのは、弟子のピートさんが受験するから。
弟子が試験会場にいるのなら、師匠である唐巣さんがそこにいても誰も怪しまない。
反対に、試験に興味の無い美神さんがいると注目集めてしまう。実際美神さんはこれまでの試験にも顔を見せた事が無いらしいですし。
それに、美神さん曰く――自分の戦い方を曲げた上、手加減までするなんて面倒な事向いていない、とか。
あはは。彼女の性格は過激ですからねぇ。

「……あの美神さん、あれは?」

「何も言っちゃ駄目よ、小竜姫様!!」

潜入が決定した唐巣さん。
変装のためかつらを被せたのですが。
あの、なぜ鏡の前から動かないのでしょう?
恐る恐る美神さんに問いかけても視線を合わせず、何も答えてくれませんでした。
どうして頬とか耳が赤いんですか、唐巣さん……?
触れてはいけない事だと思ったので、深くは追求しませんでした。


試験一日目。
私と美神さんは霊感に引っかかった怪しいと思われる研修先の調査を進め、唐巣さんは手はず通り受験者として試験に参加しました。
本日訪れた所は……残念な事に全て外れでした。
そろばんを使い除霊を行うところや、門下生全員がむやみに筋肉質なところ。
美神さんは霊能者よりもぼでーびるだーの方が向いていると言っていました。
移動時間を短縮する為に美神さんを抱えて飛んだのですが、どうにも気分が悪くなったようですし。
かなりの速度で飛びましたし、人間には少しきつかったかもしれませんね。
おキヌちゃんに背中をさすってもらって、ソファでぐったりしています。
私は手近なイスに腰掛けて、初めから受験者のチェックをやり直しです。
今日確認して、白だと思った人物は除外。
もうすぐ唐巣さんが戻ってくる頃ですから、直接受験者を見た彼の報告があればもっと絞り込めるでしょう。
そうして唐巣さんが着ました。
あの…どうしてまだ変装した姿のままなんですか?
もういいじゃないですか!?
疑問が喉元まで出掛かっていたのですが、美神さんが何も言わなかったので私も沈黙を守りました。
ええと、気を取り直して。
報告を聞いて、試験に落ちた人と唐巣さんの勘にかからなかった人も除外。
これで大分数が減りました。
あとはここから、さらに絞り込んで。

「ねぇ小竜姫様。残ってる奴はもう合格が決定してるけど、どうするの?」

「あ、それは魔族とつながっているという証拠さえ掴めれば資格を取り消しに出来ますし。GS協会のブラックリストにも載せられるので、問題はありませんよ」

「確かに。一度魔族とつながった人間を放置するわけにはいきませんね。それが霊能力者だとすればなおさら」

美神さんの疑問に答え、唐巣さんの言葉に力強く頷き返す。
そうです、魔族と手を組み力を得ようとするものを見過ごすわけには行きません!
使命感に燃える私の横。以前修行に来たエミさんの弟子の敗退が告げられ、美神さんは踊りださんばかりに喜んでいました。

「ほっーほっほっほっほっほっほっほっ! ざまぁみなさい、エミの奴ー!!」

……美神さんに協力を頼んだのは、間違いだったでしょうか?

「なーにが私には弟子をとる人望が無い、才能を伸ばすなんて無理よ!なんて。人の事言えないでしょうが。第一……」

暗い目で呪詛のような何事かを呟く美神さん。
戻ってきて下さい。
数分後。さっぱりした表情の美神さんを交えて、話し合いを再開。
書類に一通り目を通して、明日回る研修先も絞って。

「あら、この白龍会ってとこ全員合格してるのね?」

「ああ、そうだね。私の目から見てもなかなかの腕だったよ。
特にこの鎌田という選手と伊達という選手。実力が抜きん出ていたし」

「へー。凄いわね。じゃあ後の二人は」

美神さんが指したのは顔に立て二本の傷が走る見るからに柄の悪そうな男と、他の受験者に比べて平凡な印象を受ける青年。
その二人の事に関しては唐巣さん自身首を捻って、複雑そうな顔をした。
弱くは無かったし才能もあるだろうが、よくわからない。
それが返答。
どういう意味でしょうか?
まぁ、その日の体調や気分で能力が左右される事もありますし。
まだ二試合見ただけですから。
たったそれだけで容易に推し量れるほど『強さ』というものは単純ではないのだと、老師もおっしゃっていましたし。
美神さんは彼らの所属である白龍会の資料を険しい顔で見詰めていました。
どうかしたのかと問えば、くさいわねと一言。

「と、言うと君の勘に引っかかるものがあったのかい? 美神君」

「ええ、なんて言うか…上手く説明できないんですけど。かなり怪しいと思います」

「そうですか。では、明日は早めにそこに行く事にしましょう。いいですね、美神さん。
唐巣さんも、明日もよろしくお願いします」

「はい、わかりましたわ。小竜姫様♪」

「ええ、小竜姫様たちも気を付けて」

それでお開き。
今夜は美神さんの家に泊まる事になりました。
おキヌちゃんが腕によりをかけて作ってくれた料理の数々。とっても美味しかったです。

「う、上手い! このサトイモの煮物、絶品じゃー右の!!」

「ううむ、この魚の焼き加減なんぞまさに絶妙! 素晴らしいな、左の!!」

存在を忘れていた一緒に来ていた鬼門たちもとっても喜んでました。
そして美神さんの晩酌にお付き合い。
それほど弱くは無いのですが……流石に私も美神さんの呑みっぷりには勝てませんでした。
あそこまで呑める人が居たなんて。
基本的にお酒に強いはずの鬼族の鬼門たちまで潰れました。
美神さん本人は明日に備えて、今日はここまでにしておこうと。余力を残していました。
……本当に人間ですか、美神さん?
私も潰れかけました。
老師、人間も侮れませんね。
転がった古今東西数々の酒ビン、後片付けありがとうおキヌちゃん。
朝日が目に痛かったです。不覚。


翌日、打ち合わせ通りに私たちは研修先の調査。
高度をとって飛んでいるのはあまり低いと人に見咎められますから。
それが魔族と組んでいるものだった場合目も当てられません。
まず可能性は薄いけれども、念のためにといった程度の危険度の所を回って。
着きました。
最有力候補、白龍会!
空から見る限りあまり怪しいところはありませんが、油断は禁物。
私の腕に支えられた美神さんが広いわねと呟きました。
そうですね。それなりです。
とん、と軽く敷地内の降り立つと。
感じる空気は悪くありません。
いえ、なかなかに清められています。魔族は嫌がる程度には。
ざわざわと、感じるいくつもの視線。
道場だろう建物から顔を出した人たちが、思いっきり胡散臭そうな目を向けていました。
ここの門下生でしょうか?

「空から?!」

「何者だ、敵か!!」

「怪しい奴らが……」

「うお、美人!!」

一部あれですが、怪しまれてます!
あからさまに不審者を見る目です!!
なぜでしょう、私は神族ですよ!? は、やはりここは魔族とつながりが!!

「空から、しかも直接敷地に降りれば怪しまれるわね。門の前に下りて普通に入ればよかったのよ、小竜姫様」

ええ!? しまった。やってしまいました。そうか、そうですよね。人間は飛べませんし。
駄目ですね、山に篭ってばかりいると。
美神さんが呆れた顔をしました。そんな目で見ないで下さい。

「と、とりあえず責任者の方と…!!」

「いきなり、しかも空からやってきた怪しい連中と会ってくれるかしら?」

あうう! 胸に刺さる言葉が痛いですよ、美神さん。
門下生の方々はあい変わらず遠巻きにしてますし。
ですが、話は聞かねばなりません。
一歩踏み出すと同時に、門下生たちがざわつきました。
そして、後方を振り返り――

「会長!」

誰かの声。
ゆっくりと歩み出てきたのは、立派な僧衣をまとった老人。
確かに資料にあった写真と同じ顔。この方が会長ですね。

「これはこれは。神…龍神族がこのようなところに何用でしょう?」

私を見、静かに口を開きました。
む、龍族だと見抜くとは。力は本物のようですね。

「お伺いしたいことがあります。お時間をいただけますか?」

問いに頷き。
こちらへと、奥に案内されました。
途中、門下生の視線が気になりました。
主にその行方が…!
美神さんに対してはその、全体に行くんです。そう、満遍なく。
ですが私に向かうものはある一点が素通りというか、ええと…。
なんでしょう、顔から下腰から上が果てしなく無視されているというか。
ええ、本当にどうしてでしょうねぇ……?

「小竜姫様、剣に手をかけないで下さい」

後ろから美神さんの震えた声が聞こえました。
うふふ。いやですね、美神さんたら。これは用心です、何があるか分かりませんからね?
にこりと笑えば何故か引かれました。
通されたのは奥の一室。
来客用なのでしょう。
調度品も、質素ながらが地味でもなく目を引くものがあります。
座布団の刺しゅうも細かくて。座り心地もいいですし。
出されたお茶も、うんいけます。

「この羊羹、美味しいですね。このほのかな甘味がなんとも上品で」

「おお、わかりますか! そうでしょう、これは京都の名店から取り寄せた一品で…!」

うっかり羊羹談義に入ってしまいました。
ですが美味しい羊羹の店をたくさん知る事が出来て! 栗羊羹ならあそこ、芋羊羹はこの店がいいと。
勉強になりました!
感心していると、わき腹を突かれました。
美神さんが苦虫を噛み潰した顔で見ています。
本題を忘れるところでした。
そうです、魔族! 魔族とのつながりを!!

「ま、魔族に心当たりはありませんか!?」

ずざざざ!!
あまりに直球過ぎる言葉に、美神さんが体を張ったこけ方を!
思いっきりすってます。顔を、畳で。
そのまま動きません。大丈夫でしょうか?

「魔族ですか。魔族…そうですなぁ、あれはワシがまだ修行の身だった頃の事……」

そんな美神さんの事をすっぱり無視して遠くを見やり、なにやら語りだす会長。
動じないとは。やりますね!
会長の語りは長く。
とある森で出会った魔族との死闘から始まり、己の未熟から失った友の話になり。
気付いたら、一時間経過です。
そして我が半生第十二話目に突入。
いつまで続くんでしょうか。終わる気配が一切無いのですが?
許婚の女性と悪霊に取り憑かれた女性との三角関係、と話が展開しています。
臨場感溢れる語りで、続きが気になります!
普段妙神山に篭っているので、色恋沙汰には無縁なのですが。
深い、なんと深い。複雑ですね、男女の仲というものは。
ついつい聞き入ってしまいました!
三角関係は第十七話愛の終りにて結末を迎えるのですが。
許婚の心意気! そして悪霊憑きの女性のまさかの選択!!
大どんでん返しとは、まさにこの事!!
凄いです。この小竜姫、感涙で前が見えません!!
壮絶な半生を過ごしたのですね、この方は…。
と、横からなんだか形容しがたい視線が。
美神さんです。すっごく見てます。見られてます。
人でも殺せそうな視線。むしろ美神さんほどの霊能力者ならば視線にも力が篭りますから、普通の人にとってはまさに毒。
くいっと指したのは時計。
はぁう! だいぶ時間が経ってます!!
話の続きがとても気になるところですが、このままでは試合が終わってしまいます!
名残惜しいのですが、挨拶もそこそこに私たちは白龍会を後にしました。

肝心な事を聞き忘れたと気付いたのは、一週間も後のことでした。


試験会場。本日初めて訪れましたが、大きいですね。
それに近付くだけでたくさんの強い霊気が感じられます。
人間にしてはなかなかの力を持ったものも居るようで。
強いものほど魔族と手を組んでいる可能性が高いですからね。
美神さんですか?
彼女は会場のすぐ傍の小さな公園で休憩しています。
正座し続けて足が痺れたのと、急いでここまで来たせいで気分が悪くなったらしく。
ベンチに下ろした途端、脱力しました。
回復したらすぐこちらに向かうと言っていましたし。
それに会場内に入ってすぐ、私の神気を感じ取ってやってきたおキヌちゃんに様子を見てくるように頼みましたから。
大丈夫でしょう。
ざっと見回しても魔族と組んでいる…それらしい人間は特に見当たりませんが、上手く隠蔽しているのでしょう。
私は魔族の手先ですと、宣言するような愚か者はいないでしょうし。
唐巣さんはどうやら上手くやっているようですね。
あの変装がばれていないのが、逆に不思議ですが。
とりあえず、唐巣さんに話を聞きましょう。
そう思い移動しようとしたとき、不意に背後から声が響きました。

「そうだ、天龍、天龍の気配とよく似てるんだ!!」

振り向いた先、居たのは青年。この場所では浮くくらいに普通の。
この顔はどこかで? ああ、白龍会の道着。彼は昨日見た資料に乗っていた一人。
名前は、確か……。
いえ、それよりも今はなぜ殿下の事を知っているのか聞かねばなりません。
まっずぐに目を見て問えば、彼は逸らす事も無くごくごく素直に答えてくれました。
道に迷っていた殿下と愚然出会い、でぱーとにともに行った事。楽しく遊んだ事。
そうです、言っていました。
あんなに楽しかったのは初めてだと。
買ってもらった服と、おまけのおもちゃを見せてとても楽しそうに笑っていました。
自分から帰ってきたときの殿下は角が生え変わっていて驚いたのですが、大人びて見えたのはきっとそのせいだけではないでしょう。
頷いて、遅ればせながら名を名乗っていない事に気付きました。

「申し遅れました。私は小竜姫。妙神山の管理人をしています」

「あ、俺横島です。初めまして」

彼もぺこりとお辞儀で返しました。
なかなか礼儀正しいようですね。
なにやら考えた後にここで何をしているのかと問われましたが、それに答える事は出来ません。
これはとても重要な、ともすれば三界をも巻き込んだ企みやも知れませんから!!
なので私がここに居る事は他言無用で!
そう言えば、横島さんは神妙な顔で誓ってくれました。
さすが殿下の見込んだ人間。よい人ですね。
とりあえず唐巣さんにここに来た事と美神さんの所在を告げて、情報交換。
そして会場や受験者の事を把握しようとあちこち見て回るなか、ふと観客席を見上げれば。
あれは――メドーサ!?
見間違いようもない、あの意地の悪そうな顔!!
なぜこんな所に!?
もしや……メドーサが人間と手を組んだ魔族ですか! 彼女ならやりかねません。
だとしたら放っては置けません。
メドーサ目指して一気に階段を駆け上がりました。本当は飛んでいきたかったのですが、目立つ事は避けたかったので。
呼吸を整え、出来る限り気配を殺して近付いていきます。
長い髪。蛇のごとき目。全身から漂う魔力。
周囲の人間がその存在に疑問を抱かない事から、何らかの隠蔽術を施しているのでしょう。
私の存在に気付いていないのか。それとも気付いていて無視しているのか。
つまらなそうに試合を見つつ、足を組みかえました。
その拍子に揺れる、塊二つ。
…ふふ。相変わらず無駄に大きいですね。
何が、とは言いませんが。何かが。
浮き袋ですか、それは? 蛇のくせにどうしてそう飛び出してるんでしょう。
斬っちゃいましょうか? あっても邪魔なだけですよね!?
うふふふふふふふ。
ちゃきり。自然と、手が剣を抜いていました。

「お久しぶりですね、メドーサ!」

剣とともに突きつけた私の言葉に、メドーサはそれでもつまらそうに視線を向けるだけでした。

「元気だね、あんたは。羨ましい限りだよ」

「お前に羨ましがられても嬉しくありません!
魔族のお前がこんな所で何をしているの!?」

こちらを見ようともせずに、小ばかにした態度。
剣を握る手に力が篭る。

「ここで何をしているのです! 答えなさい、メドーサ!!」

「どこで何をしていても勝手だろう? それともいちいち神族の許可がいるのかい」

肩をすくめて息を吐く。
どうしてこいつの態度はここまで癇に障るのか!?
後もう一押し、何かがあれば私はメドーサを斬る!
怒りが頂点に達しかけていたその時、背後からきつい声が。

「小竜姫さん!」

横島さん!?
振り向いた先に居たのは、先ほど会った横島さん。
なぜここに? 魔族が居るのに、早く避難させなければ!!
そう思い、こぼした言葉は途中で遮られました。
あろうことか、彼は抜き身の刃をつまんだのです。
危ないと、私が言うより早く――

「駄目じゃないですか、こんなところで刃物を振り回しちゃ!!」

「…は、えぇ??」

一瞬、何を言われたか理解できませんでした。
目を丸くした私に、彼は怒った顔のまま矢継ぎ早に続けました。

「だから、こんな人の多いところで刃物を抜いちゃ駄目だと言ってるんです! うっかり誰かに怪我をさせたらどうするつもりですか?! 小竜姫さんは神族でしょう? 神様がそんな事でどうするんですか、一般常識ですよ!」

いやでも、魔族がメドーサがいるんですよ? これくらいは…。
言い切った彼に、小さく抗議するも聞いてもらえず。
駄目!と大きく言われ。あつまさえ没収するとまで。
この剣は天界で鍛えた特殊なもので、没収なんてされたら末代までの恥。
それに目の前に魔族がいるのにみすみす武器を手放すなて。
唸っていると、今まで黙って事の成り行きを流し見ていたメドーサが口を開きました。
猛獣に追い詰められた哀れな獲物を眺める顔で。

「大人しく言う通りにした方がいいよ? でないと――潰されるから

「ええ!? 殺されるとかじゃなくて潰される、ですか!?」

「メドーサさん、俺は潰したりしませんよ。人聞きの悪い事言わないで下さい。ちゃんと原形はとどめます!!」

「な、何を…何をするんですかぁ!!?」

一体何者ですか、横島さん!!
この威圧感、只者ではありません。
魂の奥深いところから逆らっちゃいけない、と幻聴が。
素直に剣を収めた私を誰が責められるでしょう。
呆れきった顔で何をしているのか問われ、気付いたら答えていましたよ。
私の話を――魔族の企みを聞き終えて、しばし横島さんは何やら難しい表情で考え込んでいたようですが、不意にすっきりした顔で言いました。

「で、誰がその悪い奴なのか分かったんですか?」

「いえ、それがまだ…。目ぼしい人物は調べてはみたんですが」

はい、全く分からないんです。一体誰なんでしょう。
思わず肩を落としました。
項垂れた私に、さらに横島さんは聞いてきました。情報を持ってきたのは誰なのか?と。
告げたのは友人の名。
彼女もあまり詳しい事は分かっていない、と。
反応したのは横島さんではなく、メドーサ。

「ヒャクメ、ヒャクメねぇ。おしゃべり好きで人のプライバシーを覗くのが趣味の神族だね、確か。
ああ、自分の能力を駆使してあんたのセミヌード写真を撮って売りさばいて小遣い稼ぎしてたっけ」

ぽつり。漏らされた言葉に、思考が停止しました。

「な、ななななですかそれ!? いい加減な事を言わないで下さい!!」

「事実だよ。魔界の方にも流れてきてたし、写真」

私の言葉を無情にも切り捨てるメドーサ。
むしろそんなことは絶対に無いと否定しきれない私が悪いのしょうか?
はう…横島さんが物凄くじとっとした目で見ています。
ヒャクメぇ、帰ったら覚えておきなさい!!
どうしていいのか分からず何も出来なくなってしまった私を、横島さんが優しくなだめながら腰掛けさせてくれました。
それは嬉しいのですが。どうしてメドーサの隣なのでしょう。
……動きたいですが、体に力が入りません。
こんな情けない姿、老師に見られたら叱られてしまいますね。ふふふ…。
どれくらいそうしていたでしょう。
長かったようにも短かったようにも思えます。
ああ、どこか遠い海の底から私を呼ぶ声が――

「……大変なんです、小竜姫様! 外で美神さんが、美神さんがぁ!!」

いや幻聴じゃないです、これはおキヌちゃんの声!

「分かりました、すぐ行きましょう!
メドーサ、今回は引きますが決着はいつか必ずつけます! 御仏の裁きを下してやりますからねー!!」

勢いよく立ち上がり、きょとんとしているおキヌちゃんの手を掴んで走り出しました。
後ろは決して振り返りません。
メドーサと横島さんを直視する勇気が無いなんて、そんな事はありませんが!!


「こっち、こっちです。小竜姫様、急いで!!」

おキヌちゃんに案内されたのは美神さんと別れた公園。
どごぉうん!とかぐがじゃあぁぁん!やばっぎぃん!!など、とても物騒かつけたたましい音が響いてくるのですが。
そしてそれに付随する獣の鳴き声。

「……っなぁ!?」

公園の中、繰り広げられる惨劇に私は思わず足を止めてしまいました。
大した広さも無い公園内を、所狭しと蹂躙するモノたち。
この気配は式神ですね。それもかなり高位な。
その中で今まで見た事も無い顔で悲鳴を上げている美神さんとエミさん。泣き叫び、なにやら喚き散らしている、おそらくは式神使い。
当たり構わず破壊の限りを尽くす式神を、主であろう女性が止める気配はありません。
これは一体どうしたことか?
隣に浮かぶ幽霊の少女からは、泣きそうな声が返ってきました。

「それが…美神さんが休んでいるところに冥子さんが来て、しばらく二人でお話してたんですけど。エミさんがやってきて、美神さんと喧嘩になって止めようとした冥子さんを突き飛ばしちゃって……それでぇ!
小竜姫様ぁ、何とかして下さぁ〜い!!」

「分かりましたから、落ち着いておキヌちゃん…!」

幽霊とは思えないほど表情豊かに迫ってくる彼女を引き剥がして。
手荒なまねはしたくありませんが、完璧な暴走状態にあるようですし。
剣の柄に手をかけ、いつでも抜刀できる体勢のまま乱戦の輪に近付く。
式神たちの奏でる破壊音と咆哮に混じり、美神さんたちの叫び声も聞こえてきました。

「ぎゃー! 冥子、私が悪かったから落ち着いて〜!!」

「ちょっと、あれはおたくの管轄でしょ! こっちを巻き込まないで欲しいワケ!!」

「あ〜〜ん、令子ちゃんもエミちゃんも酷いの〜〜〜!! 冥子のお洋服が汚れちゃった〜〜〜! せっかく、せっかく横島君が〜可愛いよって言ってくれたのに〜〜〜〜!!」

どごーん! ずべばきばーっ!! ぼずがぁあん!!
しゃぎゃー! うけけけけけ!! ぎちぎちぎち!!

正直、近寄りたくないのですが。
そうも言っていられませんね。
手に霊気をためた私の足元、トカゲに似た式神一匹。
見掛けはトカゲですが、これは龍を模していますね。
式神十二神将はそれなりに有名なんです。
何をするのかじっと見ていると、おもむろに口を開いて――
ボッ!!
火を吐きました。
ええ、大丈夫です。なんともありません。避けましたから。
それに直撃したとしても大したことではありません。が、そうですか私とやるつもりですか。
それならば、お望み通りこの武神・小竜姫お相手してあげましょう!!
剣は抜きませんよ。私はちゃんと分別というものを心得ていますからね?

「式神風情がこの小竜姫に歯向かった事、後悔なさい!!」

「噛まれた噛まれた!! 冥子、おたく式神のしつけくらいちゃんとするワケ!!」

「小竜姫様!? おち、落ち着いて…って? ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「え〜〜ん、冥子怖ぁ〜い!! みんなぁ、お願い〜〜〜〜〜っ!!」

「小竜姫様までぇ? 誰か、誰かこれを止めてぇぇぇぇぇぇっ!!」

ぴーぽーぴーぽー! ふぁんふぁんふぁん!!

「やや!? 善良なる市民の通報できてみれば、これはなんとしたことだ!! 市民の憩いの場が、破壊の限りを尽くされている!!
ええい、国家に仇なす逆賊どもか?! 正義を求めて三十余年、この白井巡査部長が成敗してくれる!
――く〜くっくっくっ。射撃の腕を磨きに磨いてン十年! ついにきたかこの時が!!
正義とは何か? 正義とは力! 力とは何か? 力とは全てを屈服させる権力! 権力とは何か? 権力とは誰をも服従させる絶対的規律! 絶対的規律とは何か! 絶対的規律とは人の集合体から発生する組織! 組織とは何か! それは国! 国家こそが規律であり力であり全て! すわなち、国家権力こそ絶対正義なりぃ!!
逆賊ども、この私の眼前にて暴虐の限りを尽くした事海より深く悔いるがいいぃぃぃ!!」

はーはーはーはーはー!! きゃーなによこのおっさん!? え〜〜〜ん、横島くぅ〜ん! 離すワケ、ひっ放電はぁ!! この、いい加減にしなさい!! 美神さぁ〜ん大丈夫ですかー!?


捕まりました。
なんて事でしょう、神族たる私がこんな醜態をさらすなんて!!
情けなくて泣きそうです。
私の力ならば牢を出るのも容易かったのですが、あまりの事に放心状態でしたので。
幸いすぐに出られましたが。
式神使い――冥子さんの母親が現れて、数分と経たずに鍵が開けられました。

「ほほほほほ〜。これで〜貸し一つ、ね〜〜?」

にこにこと穏やかに微笑む六道夫人のその一言で、私の脳髄にとてつもない悪寒が突き刺さったのは気のせいだと思わせて下さい。


帰ってきました、妙神山。
つ、疲れた〜。ここまで疲労を感じたのは本当に久しぶりです。
魔族の計画に関してなんの収穫も無かったという事実が、さらに疲労を倍増しています。
そもそも、本当にそのような企てがあったのでしょうか?
……ヒャクメに確認してみなければなりませんね。情報源とか、他色々
うわさをすれば何とやら。
鬼門たちがヒャクメの来訪を告げました。
私が帰ってきた事を知って、来たのでしょう。相変わらず耳の早い。

「ごめんなのねー、いきなり訪ねてきて」

「いいえ、私も聞きたいことがあったので丁度よいところでした」

のんびりと、出されたお茶に口をつける友人にそう返す。
彼女はお茶請けの菓子を一口食べてから、聞いてきた。

「それで、どうだったのねー? 魔族の計画、何か分かったのねー」

「それは、まだ何も……。
あの、ヒャクメ。少しいいですか?」

「うん、なんのなのねー?」

これを聞くのはかなり勇気がいるのですが。

「とある話を耳にしたのですが。
――ヒャクメあなたがわたしのその…セミヌード写真を売っている、と!」

………。
……………………。

「あ、用事思い出したから、帰るのねー」

「待ちなさい」

だらだらと汗を流し、ひらりと立ち上がろうとした彼女の肩をがちりと掴む。

「いたたたた! 痛いのね小竜姫〜、ごめんなさい〜!!」

「売ったんですか、売ったんですね! 売ったんですね、私の写真!!」

「ごめんなさいなのね〜! ニーズがあってえ〜っと、撮ったら意外と高値で…」

「ヒャクメぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ひ〜〜〜〜〜ん!?」

ヒャクメは真っ青な顔をしたまま謝っていますが、当然許すつもりはありません。
深呼吸を繰り返し、落ち着いてから聞きました。

「ヒャクメ。仏罰と神罰、どちらがよいですか?」

「どっちも同じなのね〜! せ、選択その三とかは無いのね〜!?」

「その三ですか…。では、竜の怒りという事で!」

「えええええぇぇぇぇぇ! 選択の余地無し!? ああ、ちょ、ちょっと待つのね小竜姫! 悪かったのね、私が悪かったのね! もうしないから、ゆーるーしーてぇー!!」

「問答無用です。御仏の裁きを受けなさい!!」

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!!!」


結局、魔族の企みについては何もわかりませんでしたが、私の心はこれ以上ないほど晴れやかでした。
そういえば、どうして横島さんとメドーサは知り合いだったのでしょうか?
横島さんは悪い人には思えませんでしたし、手下にも見えませんでした。
それに、あまり関わるな!と謎の幻聴がやはり魂の奥深くからするわけですし。
大丈夫でしょう!

天界におわす父上、母上。下界は怖いところです。


続く


後書きと言う名の言い訳

はい、今回のうらめんは小竜姫様verで。意外と書きやすかったです小竜姫。
小竜姫は真面目さんですが、方向が少しずれているので陰念とはまた別です。
美神さん、登場しましたがこんな事になってしまって…。そして警察官の事は気にしないで下さい。なんかノリで。
ヒャクメは属性的にアシュ様タイプ。やらなきゃいいのに…と思う事をついついやって墓穴を掘る。ま、自業自得型ということで。
次回は横島君たちの仕事の様子をお伝えしようと思います。
では、ここまで読んでくださった皆様。ありがとうございました!!

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